澄み切った青空の下、心地よい風が吹き抜けていく屋上。
本当なら、心地良く感じられるこの場所にこの時間は誰もいないはずなのだが、二人の女の子の姿があった。
そう、やっと失し物を玄関で見つけたアスカとレイは、人目のつかないここへとやってきていた。
「ねぇ、別にもうつき合わなくてもいいのよ。教室にもどったら。」
「で、でも・・・・」
「これはアンタのせいじゃないのはさっきわかったんだから、一緒にいる必要もないでしょ。」
「けど・・・」
さっきからこの調子である。
アスカは少々焦りがあるようだ。ここに来るまでに一つ疑問に思っていたことをレイに聞いてからだった。
ーーーどうしてシンジが保健室に行ったのを知っていたのか?
答えは返ってこなかった。いや、返ってきたのかも知れない。レイの頬はちょっと上気していたように見えたのだから。
(兄弟揃って危険ね。また注意人物が増えたわ。でも、どーしてこんなのに人気があるのか、わかんないわね。)
レイはというと、こちらはアスカに答えながらも、視線はアスカの胸元に集中しているようだ。
ーーー何故にか?
別にアスカの胸を見ていたわけじゃないようである。彼女の見ていたもの、それはまだ気絶したままのシンジであった。小さくなったシンジをまた失ったらまずい。かといって、手に持ってるのも危険。結局、アスカの制服の胸ポケットに腕を引っかけた状態で収められていた。
端からみると、人形が顔を出しているようだが、実情を知ったら容赦なくシンジを踏み潰そうとするもの続出かもしれないほど、うらやましー状態のように思える。
(いいなぁ、私もやってみたい・・・)
しばらくの問答の後、しょうがなくあきらめたアスカは、今度は真剣に対処法について考え始める。といっても、こんな超然的な状態に対して思いつく方法は三つしかなかった。
1. 帳本人、赤木リツコに元に戻させる。
2. シンジの両親にまかせる。
3. このまま。
(1の場合は、今見つからないし、成功を知ったリツコがどんな手段に出るかわからないけど、素直に戻す確率低いし悪くなる確率のほうが大きいから保留ね。
2の場合、一応自分たちの子どもだから、元には戻すだろうけど、そこにいくまでの過程で何が起こるかわかんなくてちょっと不安。
3。これに関しては・・・)
ここで、視線がシンジのほうヘ向く。胸ポケットに収まっているシンジを見ているとなんか可愛く思えてくるアスカであった。
(このままでも、いいかな。ずっと、一緒にいられるし。でも・・・)
ここで、今までシンジと過ごしてきた過去が思い浮かぶ。
(このままじゃ、手つないで散歩したり、遊んだりできないんだ・・・やっぱり、おじさまとおばさまに頼もう!)
ちょっともったいない気分ながらも、携帯電話を取り出すアスカであった。
一方、レイは
(・・・碇君をポケットにいれて、一緒にお出かけ・・・)
どっかにいってますね。
ここは、職員室。
マヤは結局リツコに合うことができずに、3限の自分が受け持つ授業のために戻ってきた所だった。
「あら、マヤちゃん。どーしたの?うかない顔しちゃって。」
「あ、葛城先生」
ドアを開けた所に立っていたのは、紫紺の髪を背中まで伸ばした第三中学の先生部門三大美人のうちの一人、歴史担当の葛城ミサトであった。
ちなみに残りの二人は、黒髪のショートカットでちょっと童顔の理科担当、伊吹マヤ。黒髪のロングで大和なでしこ風の国語担当、山岸マユミ。
候補には上がっているが、やはりその内面から恐れられている赤木リツコはこの中に入ることはなかったようである。むろん、このことは禁句となっている。
「先輩に呼ばれていたんですけど、結局来なくって・・・。どうしたんだろう、なにかあったのかしら。」
「ここんとこ、徹夜で何かやってたみたいだったからね。寝てるんじゃないの?電話でもしてみたら?気になるんだったら。」
「そういえば、葛城先生も今電話してたみたいですけど、何かあったんですか?」
入ってきた時、受話器を置いた所を見ていたので聞いてみるマヤ。
「えぇっとね。うちのクラスのシンちゃんとアスカが来てなくって、何の連絡もないから、どーしたのかなっと思ってね。あの子たちのところは休むなら連絡あるはずなんだけど。」
「惣流さんなら、朝見ましたけど?保健室に飛び来んできて、そういえば何か様子が変だったような・・・」
「ちょっと!来てるの、あの子たち。授業にも出ないで何してるのかしら。でも、様子が変ってどういうこと?」
「あの、シンジ君はいませんでしたし、なんか怒鳴り来んできたって感じだったんです。」
ミサトはそれを聞くと、ちょっと考え込んだが、すぐに結論に達したようだった。
「また、やったわね・・・」
「えっ」
けげんな顔のマヤにミサトは確信を持ちつつ尋ねた。
「リツコ、なんか計画立ててなかった?」
「はい。それでしたら、これ。」
マヤは手に持っていた冊子を渡す。ここまで持ってきてたのか?いいのか?勝手に持ちだして。
ミサトは渡された冊子にざっと目を通した後、それを返し、職員室を飛び出していった。そしてその顔は、好奇心で輝いていた。
(ペットを小さくする?ってことは、アスカの様子といい、実験台にされたのはシンちゃんね、きっと。これはおもしろくなってきたわ。)
どうやら、まずい人に知られたようである。それにしても、あの状況で正解までたどりつくとは、さすがはリツコの親友。リツコの考え方に慣れている。
(あったり前よ。大学時代、何回実験台にされたことか!)
それはそれは、ご苦労さまです。
『ピロロロロロ ピロロロロロ』
「おっかしいわね。誰も出ないじゃない。」
何度コールしても出てこないアスカの電話のお相手。
『カチャ。・・・もしもし?』
「あ、アスカです。」
やっと通じたそのお相手は・・・
こちらは第三新東京市市庁舎の第一会議室。
入口には《第18回ゲヒルン予算会議》の紙がはっつけてある。
そして、中には4つの人影が正方形のテーブルを囲んでいた。なかなか
緊迫した雰囲気がただよっている。
もちろんこのうちの二人はいわずと知れた碇夫婦
ゲヒルン研究所所長、碇ゲンドウ
ゲヒルン研究所遺伝子研究室主任、碇ユイ
である。
そして、相対しているのは、惣流夫婦
第三新東京市市長、惣流マクシミリアン
市長秘書、惣流キョウコ
アスカの両親である。
プルルルルル プルルルルル
「ユイ、切れそうもない。出ろ。」
タン!
「はいはい。今出ますっと。・・・もしもし?」
ーーー「そうねぇ。これ切って、リーチ。」
タン!
ーーー「いいぞ!キョウコ。フフン、もらったな、ゲンドウ。」
ーーー「・・・問題ない。(汗)」
「あら、アスカちゃん。どうしたの、一体?」
ーーー「そうか、問題ないか。なら、これ切って、私もリーチだ。」
ダン!
ーーー「くっ。」
「あ、それ、ロン!・・・えっ、何でもないわ。それで、シンジがどうしたって?」
ーーー「なっ。ユイさん。そんなぁ〜」
ーーー「フッ。よくやったな。ユイ。」
ーーー「あなた。また、振り込んだわね。今度やったら、晩ご飯抜きよ。」
ーーー「なっ!キョウコ、それは・・・。わかりました(涙)。」
ーーー「クックック。」
「そう。わかったわ。そっちの方は任せて頂戴。うん。うん。じゃ、シンジのこと、よろしくね。あ、晩ご飯、家で食べなさい。キョウコたち今日は帰れそうにないから。うん。それじゃ。ピッ」
「ちょっと!そのアタシたちが家に帰れないって、どういうことよ!ユイ」
「もちろん、予算の申請とかいろいろあるでしょ。」
ニコニコしているユイの顔も、今の惣流夫婦には悪魔のように見えたらしい。
こういう時のユイはまじめに真実を言っているのが、永年のつき合いからよくわかっていたのである。
「ところで、何の電話だったんだ?ユイ」
こちらは、ニヤニヤしているゲンドウ。
「なんか、シンジが小さくされたとか言ってたわ。」
キラリン!
ゲンドウのサングラスがその言葉に輝く。顔を見合わせた二人はニヤリと笑っていた。
「さ、続きを始めましょう。」
それにしても、これって予算会議じゃなかったのか?市の運営の意外な裏側であった。ちなみに、この会議を覗いたものは謎の失踪をとげているという噂がこの市庁舎にながれているという。
「ふぅ、これで良しっと。さて、これからどーしよーかしら。」
電話をし終って、とりあえず先への目度が立ったところで、今度はこれからどうするかである。
(うーん。これからどうしよう。まずはシンジを起こすとして、その後よね。授業にでてもいいけど、シンジを見られるとまずいし・・・。やっぱり、家に帰ろうかな。)
決断したら後は行動あるのみ。まずは、ボーとしているレイに声をかける。
「ほら、何ボーっとしてるのよ。とっとと自分の教室に戻りなさいよ。」
「・・・・」
反応がない。
(・・・碇君とレストランで食事して、それから・・・)
どーやら、まだ夢の世界にいるようだ。それにしても、いつの間にかシンジが元のサイズに戻ってないか?レイ。
「ちょっと、レイ!こら!レイィィィ!!」
「はっ、はい!・・・惣流さん?」
アスカの怒鳴り声でやっと気がついたらしい。
「惣流さん?じゃないわよ、全く。ほら、自分の教室に戻りなさい。」
「でも、惣流さんはどーするんですか?」
「アタシはもちろん、きょ」
「教室はだめです!」
「へ、」
突然慌てておっきな声をだしたレイに思わずあとずさるアスカ。
「な、何よ、いったい。」
「教室はだめです。兄さんに見つかったら、碇君が危ないです。」
真剣な表情のレイ。さすがに自分の兄弟のことはよくわかっているらしい。
「渚のこと?そんなのわかってるわよ。それにしても、あんたがそんなこと言うなんて、一体家でどんな話しをしてるのよ。」
「え、それは・・・、例えば、その日は誰と話してて、うらやましかったとか、弁当おかずはどんなだとか、この写真は最高だとか・・・」
「しゃ、写真!?そんなの、撮ってるの?」
「いえ、誰かから、買ったとか言ってましたけど。」
「そう。
(相田ね。あいつしかいないわ。後でとっちめなきゃ。)
と、とにかく、今日は、帰るって言おうとしたのよ。アタシだって、あいつらが危ないのは良く知っているもの。」
「そうですか、なら、いいです。」
ホッとしつつも、ちょっと残念そうな顔のレイをほっといて、今度はシンジを起こしにかかる。ポケットから取り出して軽くゆすりながら、
「ほら、いつまで寝てんのよ、起きなさい。」
シャツの首筋をつままれてプランプランされて、目を覚ますシンジ。
「んー、あー、アスカァ。」
「アスカァ、じゃないわよ。もう。」
シンジももう慣れてしまったらしい。こんな状況でも平然としていたりする。
と、突然アスカにぶらさげられて、向かいあっていたシンジが、硬直する。
「帰るわよ、シンジ。」
シンジの様子に気付かないアスカの発言に、後ろから答が返ってきた。
「ほー、帰るの?アスカ」
「えっ。」
慌てて振り向くと、そこには1番知られたくなかった人物、シンジとアスカの担任、歩く拡声スピーカーこと、葛城ミサトが立っていた。
「へー、やっぱり小さくなってるわね。シンジ君。」
「な、ミサト、どうしてそれを・・・」
「いや、マヤから聞いて、計画書みたから、もしかしたらなぁなんて。」
「くっ。」
にこやかな微笑みも今は邪悪に見えるミサトから、アスカは逃げることをこころみた。が、ミサトが先に逃げ道をふさぐ。
「ね、シンジ君を見せてくれないかな?アスカ。」
「いやよ!」
「いいじゃない。別に取って食おうってんじゃないんだから。」
「いやったら、いや。」
お互いシンジと取ろう取られまいとしてもみあいを始める。
そして・・・
「「あっ!!」」
ミサトがアスカのシンジを持つ手をつかんだ時、
アスカの手から
シンジが
空へと
飛ばされた。
ごぶさたしてます。jr-sariです。
いやー、かなり間が空いてしまって、読んで下さっている方がいたら遅くなって、すみませんでした。自分の課題の方で忙しかったものですから。
次は、なんとかがんばってみます。
「読んだ」とかだけでもいいですから、メール下さい。
それでは。
jr-sariさんの『Child Child』第2話、公開です!
アスカちゃんの胸ポケット・・・・
は、離してくれ! 止めないでくれ! 俺がシンジを踏み潰してやる!! (;;)
なんてね。
一緒にいられるからこのままでも良い、
手をつないで歩けないから元に戻って欲しい・・・
アスカちゃん、可愛いですね(^^)
ミサトや碇夫妻に知られたミニシンジの存在。
次回以降どんなドタバタが展開されるんでしょう。
・・・その前に空に飛ばされて無事で済むんでしょうか(^^;
訪問者の皆さんもシンジ君の無事を祈って下さいね。
jr-sariさんへのメールも忘れずに!