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八話








一週間ほどたったある日


アスカの復帰は三日前の話になる

いつもの様にシンジは病室にいた、いつもと同じ光景だった

アスカがシンジの手を握っている事以外

それはアスカの前ではじめて少年が涙を見せた日

蒼い瞳から濁りの消えた日

あの日からのはじめての言葉は、痩けた頬に笑みを浮かべて言った言葉は

その少年に向けられた



「・・・・なかないの・・・・」



アスカの発した言葉、それは優しさいっぱいに出た言葉

そしてその言葉とは裏腹に、蒼い瞳からは暖かい涙が流れていた

少年はその暖かさを求めるように流れるものを触れる

優しい時の中に。二人はその時を過ごした



今のアスカは、体の方が完全じゃないため入院している

シンジは何もかわらない、いつもようにここに来ていた・・・・・


「バカシンジ」


アスカがシンジの落としたリンゴを拾いながらの言葉

その言葉をはいたアスカの表情は寂しげなものになっていた

しかしアスカはその表情をシンジに見せる事はない



今日はまだレイは来ていない。今日から学校が始まったのだ

レイがシンジを置いて学校などに行っているのはミサト達に「レイが学校に行かな

いのならシンちゃんを病院に入れる」と言われ

レイはしょうがなく学校に行くことになったのだった






トウジは先日退院した、足は義足だが・・・・

よかった事はトウジの妹のケガが直った事だった

自分の事は何も無いように妹の事をよろこんでいた

妹もトウジの退院を待って一緒に退院していった






「まったく、しょうがないわね、このアタシがせっかく剥いてあげたものを

落とすなんて百年早いわ!」

「・・・・」

アスカは手振りまで入れておおばあに言うが、シンジはただぼーとアスカの方

を見ている

「たく、待ってなさい!今新しいのを剥くから」・・・・カチャ

アスカが、不器用にリンゴを剥いているとミサトが部屋に入ってくる。

「まーた、シンちゃんいじめてるのー」

ミサトの表情は明るい。アスカの復帰を一番喜んだ人だ

「いじめてなんてないわよ、それよりノックぐらいしなさいよ!」

「あれ〜、いきなりはいっちゃ、いけないような事でもしてたのかな〜」

「な、なに、言ってんのよ!!」

アスカは真っ赤顔で抗議するが、ミサトはにこにこしている。

「アスカ〜顔真っ赤よー、でっなにやってんの?」

などと言いながらミサトはアスカに寄っていく

「べ、別に何でも無いわよ、ちょっとリンゴを・・・・」

アスカの声は次第に小さくなっていく

「あらアスカ、リンゴ剥いてたのー、へーあのアスカがね〜」

ミサトはアスカを覗き込みながら茶化しにはいる

ミサトの表情はこの上なく楽しそうだ

「うるさいわね!あっち行ってなさいよ!!」

「へえへえわかりましたよ、シンちゃーんちょっと散歩でも行きしましょ   

うか、ここにはこわーいおねいさんがいるから」

横目でアスカを見ながらミサトはそう言いシンジの腕をとる

「なに言ってんのよ!!」

「ちょっとアスカあぶないわよ、わかったから」

アスカはナイフ片手に、シンジの手を取る


アスカはシンジを座らせリンゴを剥いている。ミサトも今回はちょっかい出さず

シンジの横に座っている

「はいシンジ、今度は落とすんじゃないわよ」

「・・・・」

アスカはシンジにリンゴを差し出すが、シンジはそれすら見ていない

「アスカ、それじゃ駄目ね」

ミサトはにやにやしながらそう言う

「なにが、だめなのよ!」

確かにリンゴはきれいには剥けていない

「食べさせてあげなくっちゃ」

「な、な、なに言ってんのよ!!」

これを聞いて、ミサトはニヤリとして言う

「あら別にいいのよ〜レイは毎日そうしてるて言ってたけどね〜ま、アスカが

しないなら、私が食べさてあげるわー」

ミサトはアスカに手を伸ばすが、アスカはリンゴをつぶさんばかりに握り違う

世界に行っているようだ

「ちょっとアスカ!アスカてば、おーーーーーーーい」

ミサトはアスカの肩を激しく揺らす

「・・・・・なによ!」

「おかえりなさい」

「ただいまーー・・・・て、ちがうでしょ!!」

「はいはい」

ミサトは楽しくてしょうがないて感じの顔をしている

そのな中、シンジはただ静かに前を見ているだけだった






「はい、シンジ」

恥ずかしさの現れだろうアスカは顔を赤くしながら、ぶっきらぼうにシンジ

にリンゴを差し出す

シンジはまるでそこに来たら口を開く事になっている機械の様に口を開く

アスカはそれを呆然と見ていた


「アスカ!」

「・・・え、なに」

ミサトの呼びかけに、アスカは正気に戻る

「シンジくん・・・」

「あ・・・・」

アスカは、シンジを見ると絶句した。シンジは口を開いたまま止まっている事に

「はい・・・・」

アスカはそう言って、シンジの口にリンゴを入れる。シンジはそれをただ食べる

そんな様子を見ていられずアスカはシンジに背を向ける、瞳には涙でいっぱいに  

なっていた

それを見ていた、ミサトはアスカに歩み寄り話す

「アスカ、あなたが見てあげないでどうするの」

「・・・・・」

「・・・つらいでしょうけど、シンジくんだって・・・・」

「・・・・わかってる、わかってるわ」

アスカは自分に言うように言葉を口にし振り返りシンジを見る

しかし流れ出るものを止める事は出来ない

『・・・・・・』

するとシンジは座っている視線から、目線を上げアスカの顔で止まる

そしてアスカのほほの流れるものに手を伸ばす

シンジのその手は、アスカの涙を拭くがそれはあまりにもぎこちなく

アスカにはそれがよけいに耐えられずシンジを抱きしめる

『・・・シンジ・・・』

アスカの心からの呼びかけ

しかしシンジの腕が回される事はない・・・・・

そんな光景を目の前にして、ミサトの心は哀しさで埋め尽くされていた

















病院の一室

ベッドの上には女性の姿がある

彼女は上半身をおこしベッドに座っている

彼女の腕に抱かれている少女と言うにも満たない幼い子供の姿がある

その幼い少女は満点の笑みを浮かべ彼女を見ている

「ママ、お姉ちゃんどうしちゃったの?」

「そうね、どうしちゃったのかしらね」

その部屋の隅には差し込めて来る日差しを避けるように一人の少女が座っている

「お姉ちゃん、どこか痛いの?」

「・・・・」

幼い少女はふせている少女を覗き込み聞くが、少女は深く自分の膝に顔をうずめた

まま何も反応はない

「一人がこわいの」

「!!・・・・わた、し・・・・」

少女が見たそれはまぎれもなく自分の姿、幼き日の自分の姿がそこにあった

「そう、わたしはあなた、あなたはなぜここに来たの?」

今までの口調とはまるで違い冷たく言葉をはく

「・・・・わたしはいらないの・・・もう誰もわたしの事なんて見てくれない・・・

エヴァに乗れないわたしなんて・・・・いらない・・・・」

「じゃあわたしと一緒にママの所にいきましょ」

「アスカちゃん、一緒にいきましょ」

そう言う彼女の姿はベッドにはない

「・・・・イヤ・・・・」

一本の縄に吊され手足の力は抜けたれ下がっている

その口もとには血が吐き出されている

だがその表情に苦しさのかけらも見られない

綺麗な微笑みを少女に向けている

「なぜ?一緒に来れば何も苦しまずに済むのよ?あの少年のように」

少女はガラスの張られた病室の外に立っている少年を指さす

『・・・・シンジ・・・・』

アスカは振り向き少年を見るが、シンジの瞳は濁り何もうつってはいない

「無駄よ、それは壊れた入れ物にすぎない、さあいきましょうよ」

「そうよ、良い子だから一緒にいきましょ」

『アスカ』

『だれ?』

アスカは静かに立ち上がると、直接頭の中に入って来る声を感じガラスを見

ると、今までアスカが出会って来た人々の姿がそこにあった

アスカはガラスに駆け寄るとそこにはさまざま人達が自分を見ていた

「・・・・なんで・・・・」

その人々は一様にやさしい微笑みを浮かべアスカを見詰めている

そんな中、一人の少年は涙を見せていた

「ママごめんなさい、わたしママと一緒に行けそうにないわ・・・・・このバカの

面倒もみなきゃいけないしね」

そう言うアスカの表情は、今までのものが嘘のようにいきいきとした笑顔を見せて

いた

「よかったわね」

彼女はそう言いアスカに笑みかける

アスカの求めた母の暖かさ

幼い頃に感じた、記憶にさえ残っていなかったそのぬくもりを

そして自分を見守ってくれている人々の心で

アスカ一人で作った壁はもろく崩れ去っていった




「・・・ありがと・・・」





アスカが目を開くとそこにはあの少年が涙を流しているのが目に入った


「・・・なかないの・・・」


アスカはその言葉を口にする











九話へ
ver.-1.00 1997- 5/25公開
ご意見・感想・誤字情報などは nisioka@mx4.meshnet.or.jpまで。

 にしおかさんの連載小説『涙』第一章 八話、公開です(^^)

 アスカが戻ってきていました・・・・ちょっと、いやかなりビックリしました。
 七話の最後の”声”は彼女の物だったんですね。

 そのアスカの心に包まれているシンジ、彼も帰ってくることが出来るのでしょうか。
 アスカとレイ。二人の少女の慈しむ愛は彼を救えるのでしょうか?

 ・・・シンジの今の状態は人為的な物であるそうですが・・・・・

 訪問者の皆さん。
 貴方の心に浮かんだ思いを、ぜひ、にしおかさんに伝えて下さい。


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