二話
シンジはその場所に、座っていた・・・いつものことのように・・・それがあた
りまえのように・・・、シンジの瞳は開いている、そうただ開いている。
なにかを見るわけでもなく、ただ・・・・・
レイもそこにいた、レイの瞳に写るのは、よわよわしい少年の背中・・・。
あれからレイは、シンジを探していた、と言うよりも、むしろ感じていたのかも知
れない。なぜならレイの足は、迷うことなく始めから、ここに来るか如くしっか
りした、足取りでここに姿を、現していた。
レイが家を、出たときは真っかな夕日がさしていた、そして今は闇の中薄く月が
照らしている。
レイは躊躇することなく、シンジに歩み寄り、そしてシンジに手を差し伸べる。
しかしシンジは、レイの存在すら否定するがごとく、ただ前を向いていた。
「いきましょ」
レイは言葉をかけ、シンジの手を取る。その少年の手は少女が知っている物ではな
く、酷く冷たく感じられていた。シンジはその手を振り払うわけでもなく、それ
で握り返すわけでもなく、ただ二人の結ばれている、その一点に目を向け
ているようだった。
「・・・碇君・・・」
レイのつぶやき、語りかけたとは、言い難い弱々しい言葉、それはレイの表情
にも、表れている。それでもレイはそれを打ち消すが如く、シンジを起き上がら
らした。シンジはそれに抵抗することなく、ただ立っていた。レイはシンジに肩を
貸す格好で二人の姿はその場から消えていった。
シンジを自分の部屋の連れて帰ると、シンジをベットに寝かせた。シンジ
はベットの上で天井に目を見開いている、その唇は微かに震えているように見え
る。レイはその状態をしばらく見ていたが、レイはシンジに歩み寄りシンジの瞼
を閉じさせるそして静かにシンジの頭を撫でる。
・・・・碇君・・・・
しばらくすると、シンジは眠ったのか部屋の中に、静かな呼吸だけが響く。そし
てそれを見る、レイの瞳は濡れていた。レイはそれに気づくと、涙を拭いシンジ
に毛布をしっかり掛け風呂場に身を、移した。
ベットに腰を掛けシンジを、見詰めていた。そしてレイの姿は、何もま
とっていない。しばらくレイはその状態で、シンジを見ていた、シンジは
死んだように、眠っている。レイはその様子を見て自分も、ベットに入ると、
壊れてしまわないように、優しくシンジの顔を撫でる
「・・・碇君・・・」
シンジの心に話掛けているような、染み渡るような声、そしてシンジの手を
両手に、抱き静かに瞼を閉じる。
・・・・碇君・・・・起きて・・・・
「まったく、あいつ何してんだか!?」
「シンジ君?そう言えば、いつもならもうとっくに、来てる時間ね」
「そうよ!!」
「シンジ君、来ない気かしら?」
「・・・・・」
リツコの頭の中に一つの疑問が、投げ掛けられる・・なぜ彼は・・もしかして・・
「もう、限界か・・・・」そう言う、ミサトの顔は歪む
「ミサト!!」
モニターを見ていたリツコが、ミサトに叫ぶ、ミサトは振り返りモニターを
見る。そこには期待していたシンジの姿ではなく、狂ったように暴れるアスカ
の姿がミサトの視線に飛び込んで来る。ミサトの体は硬直した。
「なにしてるの!!いくわよ!!」
「わ、わかってるわよ!!」
リツコとミサトは、アスカのもとへ走る。
アスカは、鎮静剤が効き、アスカは少し落ち着きを見せていた。二人はま
だ息の荒いアスカを見ていた。リツコはしばらくして、戻っていった。
「アスカどうしたの?」
「・・・・・」
ミサトは優しい声で、アスカに語り掛ける、アスカは横を向いた。そこには誰
もいない。ミサトはアスカの向いてる方へ、回りそこの椅子に、腰かける。
「アスカ?」
「・・・・・」
ミサトの問いかけに、返事はないミサトはそれよりも今度は、アスカの視線
がこちらに向いている事に、うれしさとともに、疑問を覚えた。それはアスカの
視線は確かにミサトに向いてはいるが、自分を見ていない事は、十分に
分かったからだ。
「うれいしわ、今日は私の話聞いてくれるの」
ミサトは不自然なくらい、明るく話す。
「・・・・・」
「アスカ、今日は随分ご機嫌斜めだったじゃない」
「・・・・・」・・何を言ってもだめ、か・・
ミサトは冗談めかして言うが、アスカの反応はない。
「シンジくんも心配してるわよ」
「・・・・・」
「・・本当の、こと言うけど・・シンジくん・・・・私なにも力に・・」
ミサトはつぶやくようの言った。
「あ、ごめん愚痴ったりしてアスカは、自分が良くならなくっちゃね」
・・・私も余裕ないのね・・・
その時アスカの唇は、なにかを言いたげに動いた。
「なに?アスカ?」
「・・・・・」アスカの唇は確かに、動いてはいるが声になっていない。
ミサトはアスカに耳を近づける。
「・・・し・・・・・・じ・・・」
「シンジくん!?」
ミサトは驚きの声を、上げアスカを見ると、アスカの痩せこけた頬を流れる
物をミサトは見た。そしてアスカが何故ここに視線を、向けたのかも。今自分
がいる場所に、いるべきして、いないその少年に向けられていた事。少女にとっ
て、少年は居ただけでは、なかった事を。
「安心してアスカ、すぐに連れてくるわ」
ミサトはアスカにそう言って、微笑みを返し部屋を出た。ミサトは廊下を歩き
ながら吐き捨てるように言う。
「たく!あのばか!!」
[にしおか]さんの連載、『涙』第一章 二話、公開です。
シンジを見守り、包み込むレイ。
ただ座っていたシンジを求めるアスカ。
暖かいようで冷たく、
優しいようで厳しい。
辛い時間が流れています・・・・
彼らにぬくもりと安らぎをと思うのは私だけではないでしょう・・・・
訪問者の皆さんの心にはどんな感慨が浮かんできましたか?
それをぜひ、にしおかさんに伝えて下さい。