TOP 】 / 【 めぞん 】 / [フラン研]夏休み自由研究:僕達の班は、今年年頭にテレビ通販で好評だった虎のぬいぐるみの現況を調査したいと思います。それから、マーシー・ロミヒー・マチャミ系統のタレントの土曜のお昼感についても調べてみたいです。/ NEXT
バナー(おはスタ)

 
「あんだかねえ。」
アオミドロ天をかきあげながら、パッドを眺めつつカウンセラー・ミサト・トロイは首を振った。

「そんなタレた台詞から始まる話もここ位だろうな(笑)。」

「話って何の話よ。ところでさ、前から聞きたかった事あんだけど、良い。」

「水くさいな(カルキ臭で)。何だ(肩)。」

「…その…アンテナ、一体何なの。」

「アンテナ? 何の話だ(問)。」

「そのアンテナよ。あんたの頭にプッ刺さってるパラボラアンテナ。」

ぴこぴこぴこ…
「サ、サア、ナンノハナシヲイッテイルノカサッパリワカラナイナア(ガム)。」

「ガムって何よガムって。」

ミサト同様パッドを手にしているリョウジは、疲れた様子で頭を振った。
「それにしても。何で俺達がこんな仕事しなきゃいけないんだ?(涙)」

「何でって。それが仕事だからでしょう。下士官達の正しい評価を定めるのは、上官にとっての重要な仕事だっちゅーの(サンガリア)。特に、船の副長やカウンセラーにとってはね。」

「しかしなあ。こないだやったばかりだろ? 確か…あー、3日前位にやってなかったかこんなの?(夢)」

ミサトは少し素の表情に戻って顔を上げた。
「あんたボケたんじゃないの? この前の人事評価は、もう3ヶ月も前よ?」

「あー、そうじゃっただかのう(震)。」

「仕事は進んでますか。」
2人の座るテーブルに、マユミ・ガイナンがボウフラウォーターのグラスののったトレイを持ってやって来た。

「どうもねえ。こっちの副長さんは、どうもこの手の仕事は苦手みたいね。」

「だってなあ。これで俺が低く評価した士官が、自分の頼んだ整理屋だったりしてみろ。何されるか分かったもんじゃないぞ(吐)。」

「はいはい。今度良い一本化の整理屋も紹介してあげるから。とにかく嫌な仕事はさっさとやっつけましょ。はい、次は夜勤のブリッジの士官を決めるわよ。」
 

「一体2人は何を話しているんでしょうね。」
バー、テン・フォワードの違う一角では、4人の女性士官達がテーブルを囲んでいた。どうやら全員少尉のようだ。

「恐らく3ヶ月に一度の人事考査ね。」
栗色の髪の地球人の質問に、黒髪のヴァルカスカ人が答えた。
「副長の頭のパラボラアンテナは通常54回転/分のスピードで周っているんだけど、自分の嫌な仕事の時だけは72回転/分にスピードアップするから。」

「すごおいユイカさん、そんな事まで分かっちゃうんですかぁ!」

ふっ
「ヴァルカスカ人にとっては、ごく簡単な観察ね。」

「そうかあ。やっぱり人事考査かあ。ああ、今度こそ昇進したいわあ!」

地球人の様子に、隣の濃い茶色の髪でメガネのイブジョー人が笑って頭を振った。
「マリエってホント、昇進とかそういうのにこだわるタイプよね。」

「ぶー。だって、艦隊の士官である以上は、やっぱり昇進したいじゃないですか。」
反論するマリエ。

「それはそうだけど、マリエは極端よ。大体そういう事は普段の仕事ぶりで決まるものでしょ。」

「むー。」

科学士官らしいもう1人の地球人(東洋系のようだ)が頷いた。
「カスミの言う通りよマリエ。問題は昇進できるかどうかじゃなくて、自分が納得できる業績を残せるかどうかよ。」
はしっ
「私はドクターと一緒に傷付いた人々を助ける天使の女神なの! はあっ、時々つくづく自分で自分を誉めてあげたくなるわ。毎日よく頑張ってるわね、ア・リ・サ。」

「…(天使の女神?)」カスミは飲み物を飲む手を止めて思わずナースを眺めている。

「仕事熱心ね。」簡潔に感想を言うユイカ。

「それはアリサさんは看護婦だし、自分の仕事が目に見えるから、そういう事が言えるんですよお。でも私みたいな指揮系統の士官にとっては、昇進が唯一の判断基準なんですよおっ!」

「へえー。じゃ、私達オペレーション系統の人間には、マリエの感覚が分からなくても仕方無いのかもね。」
カスミはユイカに言った。肩を上げるユイカ。
 

アンテナを無意味に回しながら、ややうつろな目のリョウジはパッドを指差した。
「それじゃ夜勤に関しては、この2人が有力な候補って事だな。えぁー、シトー・カスミ少尉と、マリエ・ラベル少尉。」

まだアオ天をぱりぽり食べながら頷くカウンセラー。
「ん。どっちもここでの働きは優秀よ。この子達なら、私のお風呂も安心して任せられるってもんよ。あのお風呂のお手入れも新人にとっては最初は結構大変な仕事だからね。浴槽の掃除から水質保全、温度調整に浮かぶアヒールちゃーん。のメンテまでソツなくこなせるようになるには、やっぱりそれなりの素質の子じゃないと中々難しいし、」

「今更言う事じゃないが、お前ってつっくづく最低の上官だな。」

「それはお互い様でしょ。あ、マユミちゃん、ボウフラお代わりぃ。」
 

「でもそれこそマリエ、昇進したいんだったら仕事を一生懸命頑張る事よ。それ以外無いでしょ。」

「…うん、やっぱりそうですよね。カスミさん、良いアドバイス有り難うございます! やっぱりカスミさんは私の無二の親友だわっ!」

「いやあ、アドバイスも何もさ、」

「群青(ぐんじょう)汁一丁。」
ユイカの背後からマユミが現れた。

「ありがと。」

「ねえ、ユイカ、アドバイスも何も無いわよね。」

ゴプ、ゴプ、ゴプ。
「…やっぱりマズイわね。」

「ユイカ、あなたの味覚も良く分からないわ。いや味覚っていうか何て言うの?」

「でも健康には良いのよ。それで何の話?」

ラベルはがば、と頭を上げ、ガイナンに尋ねた。
「あ、ねえ、マユミさん、さっき副長達のそば通りましたよねえ。」

「ええ。」

「一体何の話してたか分かりますう?」

「ちょっとマリエ。」声を上げるハルナ。

マユミはその不機嫌気な顔の眉を寄せた。
「ああ、確か、今度の夜勤シフトのブリッジ勤務か何かを決めてたみたいですけど…」

「うんうん。」頷くマリエ。

「…候補はマリエさんとカスミさんみたいですよ、どうやら。」

「え…」カスミはマリエを見た。
 

ざわざわざわっ
「がるるるる…」
急に全身の毛を逆立てて、カスミを威嚇するマリエ。

「「(こ、この女ぁっ!)」」「ごぷごぷごぷ…」
縦線の入るカスミ、アリサと、無関係に悠々と群青汁を飲むユイカ。


―宇宙。そこは最後のボランティア(意味不明)。これは、宇宙戦艦エバンゲリオン号が、新世代のクルーの下に、24世紀において概ね任務を続行し、未知の世界を探索して、新しい生命と文明を求めるふりをしつつ、人類未踏の宇宙に、アバウトに航海したりしなかったりする小話である―

Evan Trek -The Legend of Galactic Fools
Evan Trek The Next Generation
新エヴァントレック
 
Lower Dicks
第二十八話「若き患者達」 

マリエが緊迫した声で報告する。
「右舷より敵艦接近中。座標394-533。」

「座標確認。」
マリエの隣の席で、冷静に頷くレイタ。

「スクリーンへ。」
副長席に座るライカーが言う。
マリエがパネルを操作すると、前面のモニタにこちらに接近する物体が映し出された。

リョウジは声を上げた。
「今だ、フェイザー発射!」

「あ、えと、」
副長の座る椅子の後方、普段ゲォーフの立っている防御システム操作板の前に立っていたカスミは、焦った様子で呟いた。

ぴぎゅ、ぴぎゅん。
副長が後ろを振り向きかけた頃、ようやくカスミの手によってフェイザーは発射された。爆発する目標物。

「目標物撃破確認。」
報告するレイタ。
 

ライカーは足を組み直した。
「ようし。んじゃ第5班のテスト終了だ。結果は各自、追って報告する。それでは…」

艦長室からハゲがやってきた。
「副長、任務の方は進んでいるかね。」

「ええまあ。見ての通り、普通のジミジミ業務ですがね。」

「うむ。今からアオバシアの国境地帯へ行くにあたって説明を行いたい。上級士官を集めて作戦室に来てくれ給え。」

「りょーかい。」副長は持っていた編み物を横に置いた。
「じゃ、レイタ。」
自分の席を立ち、会議室へ向かうレイタ。
 

副長は自分も会議室へ歩き出したが、ふとシトーの横で足を止めた。
「君はさっき、フェイザーを撃つのに数秒時間がかかっていたな。」

「あ、は、はい。…あの、アメリカシロヒトリの出力を上げるのに時間がかかったので。」

ライカーは頷く。
「だろうと思ったよ。だからこういう時はな。撃ちそうだな、っていう時に事前にポリオガクズを注入しておくんだ。分かるか。」

「え、で、でも、そうしたらエンジンに負担がかかりませんか。」

「見つかんなきゃちょっと位大丈夫さ。それにどうせエンジンが壊れたって、機関部の連中に直させりゃ良いんだし。どうだ、艦隊じゃ教えない裏技だろ?」

「は、はい。有り難う御座います。(っていうかそれ違法!)」

副長は微笑むと、ブリッジを後にした。
 

上級士官のいなくなったブリッジは、当然各所を代理の士官が担当する事になる。カスミはマリエの隣、先程までレイタの座っていた前方のコンソールに移動し、仕事を始めた。

「「…」」

数十秒の沈黙を先に破ったのはラベルだった。
「全然うまく行かなかったですよお。」

「テスト?」
頷くマリエ。

「大丈夫よ。問題だったのは私の方。ちょっとミスっちゃったし。」

「はあ。昇進が遠のいて行くなあ…」

「何言ってんの。」
 

「「…」」
前方のコンソールに座る2人は、お互いの作業を続ける。

「…気になるわねえ。」

「昇進がですか?」

「何話してるかよ。」

「何話してるか? …艦長さん達が?」

「うん。少年に注入したバリウムの気分よね。」

「へ?」

カスミはふとパネルを操作する手を止めた。
「…あ、ごめん。これはイブジョー語独特の表現だったかしら。うーんつまり、今すぐにも飛び出して、見に行きたい気分っていうのかしら?」

「あ、ああ、なるほど。」
マリエはやや口元を引きつらせて頷いた。


パッドを手に持ち、考え込むように眺めていたユイカは独特の粘着質の足音に頭を上げた。
「ラ=フォージ少佐。」

「ああ、ユイカ、仕事ははかどってるかい。」

「ええいつも通り。少し業務に関して、提案があるのだけど良いかしら。」

機関室にやって来たマコトは、熱心そうなユイカの様子に少し気圧されつつ頷いた。
「あ、ああ、もちろんさ。何だい。」

ユイカはパッドをマコトに手渡した。
「この船のエンジンに、イナゴ大繁殖チャージャーを付けたら、今までよりも遥かに良い効率で出力を得られると思うんだけど。」

マコトは立ち止まり、パッドの図を見入った。
「…なるほど。確かにこれはアイディアだな。」

「私のアカデミー時代の教授が研究中のテーマだったんだけど、用途、サイズから言ってこの船に装着しない手はないと思うわ。」
無表情に言うユイカ。

「うーん。まあ確かにアイディアは良いけどな。でもユイカ、これはまだ研究段階だってことだろう? 安全性の保証されているものじゃないと、この船で使う訳にはいかないよ。」

「…そうね。」
ユイカは口をへの字にしつつ頷いた。

マコトはじゅくじゅく言いながら微笑んだ。
「まあ、でも、いつも君が仕事熱心なのは感心してるんだ。また何か新しい提案があったらいつでも教えてくれよ。」

ユイカは顔を上げた。
「それは良かったわ。実はもう一つ二つ提案があるの。蟻重力コイルの件について…」

「あ、ゆ、ユイカ。今ちょっと忙しいんだ。ミサトさんに呼ばれちゃって。だからまた、今度な。」
逃げるように実験室を立ち去ろうとするマコト。

「じゃあ、少佐の出番を増やす方法について、」

「それも今度。じゃあ、仕事の方頼んだよ。じゃ!」
 

「うーん。」ユイカは首を傾げた。


シトーはグラスをテーブルに置き、頭を振った。
「正直自信がありません。」

「何故だ。」
テン・フォワードの、シトーの向かいの椅子に座るゲォーフが、ゼレンゴンのイエキコーヒーを飲みながら聞く。

「だって…テストでミスっちゃったし、私はそもそも保安部の人間ですから…」

「まだ君の段階で、どこの部門に所属しているかはさして問題ではなかろう。それに君は才能ある人間だ。自信を持つのだ。」

「は、はあ…」梅をかじるカスミ。
「そう言って頂けるのは嬉しいんですけど…」

「それに君はイブジョー人だ。ここだけの話、女性のイブジョー人は比較的この船において優位な立場にあると私は思う。」

「それは、何故ですか?」

「うむ。つまりイブジョー人なら、艦長や副長のセクハラにも比較的強いという事だな。」

「せくはら?」

ゲォーフはおもむろに顔を上げた。
「剛力君ZZ改についてどう思うかね。」

カスミは微笑み、頭を振る。
「…私はああいうのは嫌いです。ああいう、大きさとか震動の速さとかだけで勝負するようなタイプのは…やっぱり今だったら、本当に分かっている人は4点同時震動式かつ声、体温に反応するAI搭載で、f/1揺らぎを導入したモデルでないと…女性は、基本的に緩急ある間を楽しみますからね。勢いだけで押し切るようなタイプは、ちょっと違うかな、という感が…」
はっ
「って、それが一体何か?」

「問題無い。君は確かにイブジョー人だ。」ゲォーフは満足気に頷き、再び黄色のコーヒーに口を付けた。

「はあ…」怪訝そうな様子のシトー少尉。

「…実は、君を今回のポストに推薦したのは私だ。」

「え、そうだったんですか。」

「ああ。君の真面目さならどの部署でもやっていけるだろう。」

「あ、あ、有り難う御座います、大尉!」

「問題無い。」
 

「一体、あの2人、何を話してるんでしょうねえ。」
テンフォワードのカウンターの方では、細い目をしたマリエが潜望鏡を覗きながら紙コップで聞き耳を立てていた。

「そんなに気になるなら直接聞きに行ったらどうですか。」
どうでもよさ気に首を振るマユミ。

「そんな。それが出来たら話は速いですよ。」

ぴこーんぴこーんぴこーん…
バー入り口からリョウジがやってきた。
「あー、ガイナン。今日も機嫌悪そうだな。」

「…アゴヒゲ、私を愛の貧乏脱出作戦に出てくるダメオヤジ扱いしないで下さい。」

「はは。そりゃ悪かった。」
リョウジは長いカウンターの向こう側、入り口よりの方に腰掛けた。
 

「な、マユミさん、何て事言うんですか!」

お気に入りらしい本を読もうとしてまた中断されたマユミは顔を上げた。
「はあ?」

「今、副長さんの事を、アゴヒゲって。」

「ああ。別に私が呼びたい訳じゃなくて、彼がそう呼んでくれって。何でも刑事ドラマか何かの影響みたいですけど?」

「だって、副長ですよ。中佐さんなんですよ!」

「そんな、私に言われたって。」
マユミはマリエの真剣な様子に軽く息をついた。
「ラベルさんは肩書きにこだわり過ぎですよ。副長だって、ここではただのカモ、いや、お客、でしかありませんから。」

「…私にはとてもじゃないけど、アゴヒゲだなんて呼べないわ…スカトロとも、浦安鉄筋家族とも…」

「…そんなに副長が気になるなら、話し掛けたらどうですか。」

「だから、マユミさん、」

「声を掛け辛いのは最初だけですよ。副長はアホですけど、それなりに良い人ですから。特に女性には親切にするんじゃないですか。」
膝の上の本(ちなみにタウンページ滋賀版)を熱心に見ながら、ガイナンが答える。

「うーん…でもお、何を話せば良いか分からないしい、」

「まあ普通は、何か相手と共通の話題でも見付けて、それを取っ掛かりに? 例えば副長だったら、確か、昔から菓子に目が無いらしいですから、そういった話題を持ち出すとか、」

「お菓子ですか?」

「え? ええ。」

「お菓子。お菓子ね…分かったわマユミさん。行ってみます。助言有り難う!」

「…頑張って。」タウンページから目を離さず好い加減に手を振るマユミ。
 

「あ、あの、ここ、よろしいですか。」

ライカーはグラスを持つ手を止め、横を向いた。
「ああ、君か。…もちろん。」

横を空けるライカー。

「失礼ですけど、何を飲まれてるんですか?」

「ああ、これか。これはアカサビミュールだ。」

「アカサビミュール。私も飲んでみようかしら…」

ライカーはカウンター越しにバーテンダーの一人に声を掛けた。
「おい、この子にアカサビミュールを頼むよ。フケのどばあっと入った奴。」

「え。」

「それがうまいんだよ。」

「そ、そうですか。」

ライカーはあどけない少女に、さっそくニヒルな微笑を浮かべだした。
「君のような美しい花には、美味なる蜜をプレゼントしよう。」

「え、そ、そんな、」

「良んだよ受け取ってくれ。」

副長の差し出した物を、おそるおそる手に取ってみるマリエ。
「な、何でしょう。これ。」

「タモリ倶楽部特製手ぬぐいだ。空耳アワーに採用されないと貰えないぞ。」

「…」
数秒固まったラベルは気を取り直し、ライカーに笑みを作った。

「あ、あはは、有り難う御座いますう。あの、話に聞いたんですけど、副長さんってお菓子がお好きとか…」

「お菓子か? ああ、まあ、嫌いじゃない方だろうけどな。」
頷くライカー。
「士官たるもの、いざという時の「おかし」だけは忘れちゃいけないからな。おかしの「お」。小野ヤスシが。「か」。仮にも立候補してしまった以上は。「し。」新宿鮫。これがいざという時の「おかし」だ。」

「は、はあ…」

「冗談だ。」

「あ、有り難う。」バーテンダーから赤い液体を受け取るマリエ。
「…」グラスを見ている内に思わず寄り目になっていく。
「ふー。」
ごく…
マリエは恐る恐る口を付け、思わず口を押さえた。
「何かすっぱしょっぱあい。」

「ああ、初心者はオタフクソースを混ぜた方が良いだろうな。」

「え。」

受信中なのか、人の話を聞かないライカーは話題を進める。
「まあ俺も一時期はかなりお菓子にはまってた時期はあったよ。休日となるとお菓子作りに精を出して。」

マリエはリョウジの言葉に意外そうに微笑んだ。
「え、副長そんな趣味があったんですか。つまり、休日になるとパウンドケーキか何かを御自分で作られて?」

「コンビニで20枚位酢だこさん太郎を買うんだな。これをプレス製法で一枚に繋げる訳だ。」

「ナッツとかレーズンを混ぜたりするんですか? えーっ、もしかして、ハート型や星型のちっちゃなのも作っちゃったりとかあ?」

「まあ最初の数枚は味わって食べられる。しかし10枚連続で行くと、もう既にトリップ状態に入るぞ。いやあれは実際効くな。」

「あれってやっぱり、表面の茶色くなってるところが凄くサクサクしてて美味しいんですよねえ。」

「酢だこさん太郎にギプアップ寸前の所で蒲焼きさん太郎にチェンジすると、これがまた。まあ初心者にはちょっと危険な技だとは思うけどなあ。」

「後はもう、香りの良い紅茶と眺めの良い芝生さえあれば…(うっとり)」
 

「意外に2人、盛り上がってますね…」
ふとカウンターの向こうを眺め、マユミは呟いた。


「指定のタカスクリニック星系に到着したわ。」
レイタがパネルを見て報告した。

「少尉、この付近に何か変わった物は無いかね?」

「特にはありませんが…何か…と言いいますと?」
レイタの隣のコンソールのマリエが、艦長に尋ねる。

「例えばシャトルのような飛行物体等は無いだろうか。」
耳毛を抜いては食い抜いては食いしている食いしん坊艦長が尋ねる。

「フルスキャンで調べます。…あ、待って下さい、どうやら何かの人工物が一つあります。大きさから言って、観測プローブか何かでしょうか…座標493、572。」

「座標を確認。」
追認するレイタ。

「微弱ですが生命反応があるようです。恐らく脱出ポッドのようですね。」

「思ったよりアオバシア寄りですね。」

「そうだな副長。ブリッジより機関室。」

ぴろりろりん。
「はい。」
何となく嫌な感じの電子音に続いてラ=フォージの声が響いた。

「この物体を何とかして回収したいのだが、やれるかね?」

「アオバシアとの国境から5万キロも向こうに入った場所ですからね…トラクタービームでは難しいかもしれません。転送機の出力を上げて、何とかしてみましょう。」

「頼んだぞ。」

「了解。」


「じゃあユイカ、リアクターからの推進用バッタを一部転送システムの方に接続し直すぞ。」
機関室のクルー達は忙しく動き始めた。

「その前に少佐、思うのだけど、まずスキャナーをもう少し強力に調整すれば生命反応の詳しい内容が分かると思うわ。」

頭を振るマコト。
「別にそんな事はしなくて良いんだ。いいかユイカ、今やる仕事はリアクターをだな、」

「でもその前に、まずポッド内の生命体がどういった種族か、一人なのか、複数なのか、そういった事を知っていた方が安全確実に転送が可能になるんじゃない?」

「良いかトーリク少尉。君は僕の命令した事に疑問を挟まずに、着実に実行してくれれば良いんだ。分かるか?」

「でも先にスキャンを考える方が論理的だわ。」

「良いから! 僕の言う事を聞いてくれ! なあ、頼むよ! もう僕を困らせないでくれよ!」

「バカの相手は疲れるわね…」

「あ゛ぇええ?」

「何でもないわ少佐。了解。」
半泣きのマコトを前にユイカは溜息をついた。


きゅいきゅいきゅいーん。
「これで準備整ったわね。」

「はい。いつでも手術可能です。」
ナースはドクターに頷いた。

「ありがとアリサ。それじゃあ後は私がやるわ。済まないけど、しばらく外してくれるかしら。」

「え? あ、はい…」
不思議そうな様子で頷いたハルナは、血臭肉臭が漂いハゲタカの舞う医療室の脱出口出口に向かった。
 

ぷしゅー。
ドアが開き、アリサは医療室から廊下に出た。閉まるドア。
「…あれカスミ、そこで何ボーっと突っ立ってるの。」

ドア脇に立っていたカスミは、アリサを見て微笑んだ。
「見れば分かるでしょう、医療室の警備よ。」

「警備って何を?」

「さあ? アリサこそ知ってるんじゃない?」

「うーん。一体何なのかしら。いや実は私も今、医療室から追い出された所で。」

「へえ。そうなの。それも珍しいわね。」

「うーん…ん、ま良いわ、又後でね。」

「うん。」
 

「…」
アリサが医療室の前を立ち去ってしばらく、カスミは無言で立ち続け
「ぎゃああああああっ」
ふと自分の鼻の両穴に指が刺さっている事に気付きのけぞった。

「ふ。25秒も気付かずにいるとは、たるんでいるぞ。」

「あ、す、すいません。」

ぷしゅー。
「ふん。」
犯人ことピカードは医療室に入って行った。

「って、今の、私が悪いの?」呟くシトー。


ぷしゅー。
「それでは頼んだナリよ、ドクター。」

「仕事はこなすわ、安心なさい。」
ぷしゅー。
 

艦長は医療室から再び廊下に出て来た。
「…」

「ふんっ」
ぐぎぐぎぐぎぐぎ。

「…そうだ。その調子だ。」
またどこかを触ろうとして、シトーに両腕をゴム人形の如く嫌な方向にねじ曲げられたピカードは頷いた。

「あ、ありがとうございます。」

「君は確か、シトー少尉だったな。」

「あ、はい。」

「一緒に来給え。」

「は、はい!」

「「はい」は一度で良い!」

「いや今一度しか言ってませんが…」

むっ
「屁理屈は良い! 家に帰るまでが遠足だ!」

「は、はい、艦長!」

ピカードの後をシトーは付いて行った。
ターボリフトから、数人の他の士官とともにマリエが下りてきた。艦長とカスミが一緒にいる事に驚いた表情のマリエ。
ピカードと共にターボリフトに乗り込んだシトーは、艦長に見えない角度でラベルにウインクして見せた。
 

ういーん…
「ところで君は、小型(宇宙)免許は持っていたかね?」

「はい。」

「そうか。」

「…?」
 

そのまま艦長室に辿り着いたピカードは、レイちゃん人間椅子(絵が描いてるだけ)にどかっと腰を降ろすと、シトーに目を向けた。
「少尉。君はこの船に乗船してどれ位になる。」

「約、3ヶ月です。」立ったままのカスミが答える。

「そうか。君は確か、今度の人事で夜勤シフトのブリッジに異動したいそうだな。」

「あ、はい。是非ともお願いします。」

かつかつかつ。
艦長は難しい表情でレイちゃんぶんちんの上を指で叩いた。
「私は、君がブリッジに入る事には疑問があるのだよ。」

カスミの表情は一変した。
「は…そ、それは、よろしければ、理由を教えて頂けますか。」

「君はアカデミー時代に、仲間達とともに「コルボード・スカンクバースト」という非常に危険な飛行法を行い、その事で貴重な一候補生の命を奪っている。」

「その事は…とても反省しています。もう二度とあのような事を繰り返しはしません。」

「それは当然だ。」フユツキはレイちゃんラムネの容器を手でモミモミしながら、真面目な表情で頷いた。
「しかし問題はその後だ。事件の後君は反省する事も無く、ただ真相をひた隠しにしようとしたのではなかったかね。」

「…」

「おひたしの一種では無いぞ。」

「分かってます。」即座に答えるカスミ。

「うむ…もし君が艦長なら、そのような経歴の人間に、安心してブリッジを任せられるかね? 私にはとてもではないが出来ん相談だな。」

「…か、艦長、聞いて下さい。確かに私は事故を起こしました。その後の態度に問題があったのも事実です。でも今は反省して、一生懸命やっているんです。今の仕事を艦長は認めて下さらないのですか?」

「そもそも君のような人間がどうしてこの船に来られたのか不思議だな。」

「そ、そんな…」

「話は以上だ。行って良いぞ。」

「…し、失礼します。」
カスミはメガネを震わせながら艦長室を後にした。


ぴぎゅん、ぴぎゅん。
「よし、じゃあ次は、うーん、その辺からここに向けて撃ってみてくれ。」

シャトル格納庫の一角では、ラ=フォージとトーリクが一機のシャトルをかこんで何やら仕事中だ。
普通のデッキの感覚で言う二階相当の空中部分にある、壁沿いの通路に立っているユイカが、下でシャトルの一部分を指差しているマコトに大き目の声で呼びかける。
「提案していいかしら、少佐。ここより7メートル50センチ程こっちへ行って撃った方が良いと思うわ。」

「…ん?」

大型のフェイザーライフルを抱えているユイカは肩を上げた。
「これ、偽装してるんでしょ? シャトルが大型船から攻撃を受けたかのように。」

「何を言ってるんだいユイカ、これはあくまでシャトルの強度実験だよ。」

「そう? でも、さっきから私の撃っている角度、出力を総合するとまるで、シャトルが大型船の攻撃を何度か受けた時そっくりの状態にしているように見えるんだけど。」

マコトはわざとらしく、ひょっとこのような表情になった。
「へえ、それは奇遇だなあ。」

「(奇遇?)…それにシャトルのそっちの壁面に思いっきり「連邦参上 喧嘩上等 鈴木沙理奈命」って書いてあるし。」

「あ、あはは、これはちょっと、暇だったから僕が落書きしたんだよ。」

「…そう。なら良いけど。」
頭を振りながらフェイザーを撃つユイカ。
「あ」
ぴぎゅん。

じゅううう…
「手滑ったわね…」
シャトルの横で黒焦げの燃えかすになった元少佐を前に、冷静に呟くユイカ嬢。


ぷしゅー。
アリサは再び医療室に足を踏み入れた。
「お呼びでしょうかドクター。」

頷くリツコ。
「緊急の患者よ。ああ、その前に、」
リツコは寝台の方に進もうとするアリサの肩を止めた。
「アリサ、ここで見た事は一切他言無用よ。もし秘密を漏らしたら…」
きゅいーんきゅいきゅいきゅうぃーーん。

「まあ最近材料が減ってるから、それはそれで良いんだけど…」
何故か金髪をかきあげるりっちゃん。香水の刺激臭が恐怖感を増幅させる。

「は、は、はい、絶対漏らしましぇん。」
少量尿を漏らしながら頷くナース。

「じゃアリサ、クランケの血を至急600ミリリットル合成して。」

「あ、はい、分かりま…し、た…」
寝台の横に来たナースが見たのは、負傷して横たわる1人のアオバシア人兵士だった。


「御嬢様学園ロン。」
マユミが穏やかに宣言した。

「またマユミさんの勝ちい?」ハルナが紫の髪を揺らしながら溜息をついた。

「えーっ! もしかしてマユミさん、こういうのに興味無さそうに見えて実は滅茶苦茶強くありません?」
マリエが抗議とも賛嘆ともとれる口調で言う。

「私にとってこれも、重要な収入源の一つですから。」
無表情に言うマユミ。

少尉用と思われるせせこましい2人用相部屋のテーブルで、マリエ、カスミ、アリサ、ユイカ、マユミの5人は世界まる見え立体麻雀と愉快な仲間達をやっていた。
 

ラベルはテーブルを見渡した。
「ところでえ。あの、謎の脱出ポッド。一体何なんだと思います?」

顔を曇らせるアリサ。
「マリエ。今仕事の話しなくたって良いでしょ?」

「だって、気になるじゃないですかあ。一体中に誰が入ってたんでしょうねえ。」

「バーの噂では、」マユミが中段の牌を吟味しながら言う。
「ミスター・スネックが中にいたとか。」

「まさか。有り得ないわ。」鼻で笑うトーリク。

「あくまで噂ですから。」

「へえー、あのミスター・スネックがあ。」

「「「「…」」」」

「へ、どうかしました?」

「それより私はあなたの髪飾りが気になるわ。」

マリエはユイカの言葉に、嬉しそうに頷いた。
「ああ、これですかあ? これはこないだ売店で買ったんですけど、何でも古代の地球で「カ」という魔物を寄せ付けない為の魔除けとして使われていたものらしいですよお?」
頭についた緑のグルグルに手をやるマリエ。
 
「それではやはり呪術的な意味があるという事ね。」

「っていうかそれ、何か変な臭いしない?」アリサは顔をしかめる。

「あら、私は中々上品で、地球っぽい良い匂いだと思ったけど。」カスミが微笑んだ。

「…え、えへ。」マリエはグルグルを揺らす。

軽く首を振るユイカは、ふと目の前の牌の並びに手を止めた。
「DOKIDOKIプリティーリーチ。」
上中下三段の牌を倒すユイカ。

「どうしてこう、面白くなさそうにやる人達ばっかり上がるのかしら。」
アリサは再び溜息をついた。

「私はとても面白くプレイしてるわよ。」やや不思議そうに尋ねるヴァルカスカ人。

「ああ、冗談よ、ユイカ。」
 

「ところでえ。」
マリエが雀卓の操作パネルをいじりながら話す。
「アリサさん、まだドクターにラブラブなんですかあ?」

「な。」どことなくレイタに似た顔のナースは驚いた表情を見せた。
「そんなのどうだって良いでしょ?」

「でも女ですよ。」

「別に、良いじゃない。向こうだってノンケじゃないんだし、こっちは勝手に憧れてるだけなんだから。」

「しかも殺人鬼だし。」

「それもクールで良いでしょ。」

「そこは否定しなさいよ。」アリサに突っ込むユイカ。
 

「世界ウルルンロン。」
ドクターは気分良さ気に首を振った。
「今日も良い感じね。」

上級士官用の広々とした個室の一角、テーブルの周りをリョウジ、レイタ、リツコ、ミサト、ゲォーフ、マコトが囲んでいる。

「そういえばさあ。あんた最近、ナースと出来てるって噂よ?」
カウンセラーが細い目でドクターの反応をうかがう。

「出来てる? 何かを製作しているの?」

「いや、気にしない方が良いよレイタ。」マコトがフォローする。

自分のメモリーバンクを検索中らしいレイタはふいに声を出した、
「…ああ。性交を示す口語表現ね。」

「仮に出来てたとして?」

「…別に?」
澄まし顔のリツコとミサト。

副長は面白そうに下を向いた。
「2人とも、素直じゃないねえ。」

「あんたにゃ関係無いでしょ。」

「へえ、関係無い、のね。そうなの。ふうん。」

「何リツコ、何か言いたい事がある訳?」

「…別に。」

「…」既にやや顎の震えているゲォーフ。
 

ぴこぴこ、ぴこぴこ…
リョウジはふと思い出したようにゲォーフに告げた。
「そういえば夜勤の候補者の件だが、俺はシトー少尉はまだ早いような気がするんだ。ゲォーフどう思う。」

「彼女は素晴らしい士官だ。私が保証する。」

「ゲォーフの保証も当てになんないしねえ。」

「…」

はっ
「あ、じょ、冗談よ、レイタ。あは、あははは。」油脂性(コプラ)の汗をかくカウンセラー。
 

「それにしても酷すぎますよね! あのハゲオヤジ前からムカつくとは思ってたけどっ! そんな嫌味な奴だったなんて、信じらんないっ!」

「ううんマリエ、もう良いのよ。」
カスミは首を振った。

「良くないですよ! だいたいその飛行法は私だって、」

「マリエ。」シトーはラベルを遮った。
「状況や結果が違えば、自ずと評価は異なってくるものなのよ。仮に同じ飛行法でも、私は失敗した。マリエは成功した。つまりそれは全く違う事なの。そういうものなのよ。」

「そんな無茶苦茶な、」

「艦長の言う事にも確かに一理あるわ。」

「「ユイカ(さん)!」」声を上げるアリサとマリエ。

「ただそれにしても、この艦でのシトーさんの働きは皆も認める所でしょう。現在の努力を認めないようでは、あまり理性的な指揮官とは言い難いわね。」

「まあでもユイカの言うとおり、確かに艦長の言ってる事も事実だしね。とにかく当時の私のした事については、弁解のしようもないし、それで人格が信用できないって言われても、確かに否定出来ないし。」

「カスミ、今更そんな昔の事で自分を責めた所で、」眉を上げるアリサ。
「あちょっと待って、ターボツモ。」

「私が意味しているのはあなたは充分昇進する資格のある士官だという事だったんだけど。」

「そうよカスミ、艦長は決して悪い人ではないけど、少なくともこの場合の判断は間違っていると思うわ。だってそれじゃ、あんまりじゃない。カスミ、私達はちゃんとあなたの事を分かってるわ。」

「そうですよお。カスミさんは全然良いじゃないですかあ。うー、それどころか、今瀬戸際なのは私なんですよお…」

ハルナはラベルの様子に意外そうに顔を上げた。
「え? マリエ、副長と盛り上がったんじゃなかったの?」
 

「どうだかねえ。」

「なーに、又シラ切るつもり? バーで若い子とデレデレしてたのがそんなに恥かしいんだ?」
目がミカヅキモのトロイは牌を並び替える。

「カウンセラーは副長がとっても気になるご様子ね。」

「何よリツコその言い方。」

「自分の胸に聞いてみたら。」

「…まあシトー少尉も、検討すべきだろうな。正直ラベル少尉は今一つ、問題があるような気がする。」
ゲォーフに告げるライカー。

「なあに、頂くとこだけ頂いて、後ははいさよなら、っていうつもり? あんたってホントサイテーね。」

「前から思ってたんだけど、ミサトの喋りかたってつくづくおばさんっぽいわよね。」
ボソっと呟くリツコ。

「あ゛え゛ぇ?」「そこが良いんじゃないですか!」

「へえ、そうなのマコト君。」

「あ゛え゛え゛え゛?」

「あ、いや、あの、その…」

ライカーはやや真面目な顔になってカウンセラーの方を向いた。
「トロイ、別にそういうつもりは無いんだ。ただ彼女は天然ボケ系だろ。ブリッジの天然ボケは、艦長だけで充分だと思うんだ。これ以上いたら危険じゃないか?」

「ふーん? 自覚が無いとこういう言い方になる訳ね。」

「はあ? 何の話だ。」

「あんたとラベル少尉は、結構似てるタイプだと思うけど?」

「俺と、彼女とがか?」
きゅぴーんきゅぴーんきゅぴーん。
パラボラを回転させながら聞く副長。
 

ぐるぐるぐるぐるぐる…
「全然似てないですよお。」

「そう?」肩を上げるシトー。

「あ、後1個で!」急にマリエは目を輝かせた。

「おお!」面白そうに声を上げるカスミ。

「別にさ。好かれようだなんて努力する必要ないんじゃない。仕事ちゃんとやってれば、向こうも認めるって。」
牌を眺めながらハルナが言う。
「あーダメ、全然子豚さんだ。」

「ここで5ピースを出すとああで、だから、3、で、…743分の1、で…」
考え込んでいるトーリク。
「勝てる確率は13から17パーね。トメ。」

「トメーッ!?」マリエが抗議する。

「じゃマユミさんは?」

「え? 続けますよ、もちろん。」
 

「どうする?」

「続けるわ。」リツコはリョウジに答えた。

「ホントに大丈夫なのリツコ、結構、ロンエキストラライトメンソール位は行ってるんじゃないの。」

「まあ見てなさい。」

「強気ね…あーとにかくライカー、だからそんなキャラづけなんか気にする事ないって。ちゃんと仕事で評価してあげなさい。」

「分かった。もう1回考えてみるよ。」そう言いながらパネルを押す副長はニヤリと笑った。
「ロンエキストラライトメンソール、ボックス!」

「「「「おおー。」」」」

「…」
ふんっ

「あ、あ、あ゛ーっ、牌が勝手に動いてるじゃないか! お、おい、りっちゃん汚いぞ。」

「何の話だかさっぱり分からないわね…」
ふぁあっさー。

「へえーついにコンピューター画面も思念でいじれるようになったの。」

「お、おい、何皆で感心してんだ、思いっきりいかさまじゃないか!」

「嫌ね副長。私はどこにも手を付けてないわよ。」

「な、き、きったねえー。」

「(ゲームの意味が無いな…)」冷めた様子のゲォーフ。
 

「ウレウレ放課後リーチ!」鼻息荒く宣言するマリエ。

マユミが少し楽しそうにパネルを押した。
「魔法学園リーチスーパーライト。」

がーん。
「燃えた…燃え尽きた…」

「ま、まあ、そんな時もあるわよ、マリエ。」
カスミが白くなったマリエに声を掛ける。

「うううう。」

「マリエも相手が悪かったわね。あ。私、そろそろ今日は終わりにするわ。もう遅いし。」

「あ、私も。」ハルナに続いてシトーも立ち上がる。

「ええ、もーおー?」

「うん。じゃあね。おやすみ。」

「じゃ。」

「おやすみー。」「また明日。」「おやすみなさい。」

アリサとカスミは部屋から出て行った。
 

「あー僕、そろそろ抜けます。」

「私も帰る事にする。」
マコト・ラ=フォージとゲォーフが立ち上がった。

「あら、もう止めるの。」

「ええまあ、明日も早いですし。」
ドクターに答えるマコト。

「ふーん、じゃーねー。また明日あ。」

「お休みなさい、ミサトさん。」
 

「私はどうも、ラ=フォージ少佐を怒らせてしまったようだわ。」

「ユイカさん今更何言ってるんですか。」呆れた様子でマリエが呟いた。

「いやあ、彼は肉体的苦痛は喜ぶ性格だから、フェイザーライフルで狙撃する位は別にどうって事ないの。」
パネルの前で指を迷わせるトーリク。
「それは置くとして、問題は午前。私は良かれと思って、前から色々機関部の改善を提案しているんだけど…どうも、少佐は私の言動に不満があるみたいで。」

「え、改善しちゃいけないって言うんですか?」

「恐らく彼のプライドを傷付けるような言い方でもしたんでしょう。」

「あー。」ラベルはガイナンの言葉に頷いた。
「確かにね。地球人はヴァルカスカ人と違って、プライドとか体面とか色々ありますからねえ。」

「彼に謝るべきかしら?」

「さあー、状況にもよると思いますけど?」
 

ぽろろん。
ドアのチャイムにマリエはユイカと目を合わせた。
「どうぞ?」
 
マリエは口を開けた。
「あ…」

ドアの向こうに立っていたのはマコトだった。
「ユイカ、今朝君が言っていたイナゴ大繁殖チャージャーだが、調整を繰り返せばこの船でも使えるかもしれない。今から、実験をしようと思っているんだが…付き合ってもらえるかな?」

「…ええ。もちろん。」

「それじゃ、行こうか! …僕には仕事が必要なんだ。そしてもっと活躍して、いつかミサトさんに僕うぉおおおおおお」

ぴぎゅん。
「行くわよ少佐。」
じゅーっ。

ユイカは元少佐だった炭素をひきずって部屋を出た。
「それじゃラベルさん、ガイナンさん、また明日。」

「また明日ねー。」「ご機嫌よう。」
 

2人きりになって部屋で、マユミは軽く自分の肩を叩き、腕を揉んだ。
「どうします。もう一戦位やりますか。」

苦笑して手を合わせるマリエ。
「あ、ごめ、マユミさん。もう私もねむたいですう。」

「そうですか。」マユミは立ち上がった。
「じゃあ私、そろそろ別の場所で稼いできます。」

「結構夜、強いんですね、マユミさんって。あんまりそういう雰囲気じゃないけど。」

「収入源ですから。」

「は、はあ。」

「それじゃあお休みなさい。」

「あー、おやすみなさいー。」
マユミはマリエに頷くと、鼻息荒く、巻き上げたクレジット片手に部屋を出て行った。
 


よくあさ

「マリモの気持ちになるのだ。」
道場で、柔道着らしき物を身にまとったゲォーフと生徒達は、膝を丸め体育座りをしていた。
「そのまま中3不登校児の気持ち。そしてムチッ子の気持ちぃ!」

急に立ち上がり、ポーズを取りだすゲォーフ(とバカども)。
「ちっちゃな頃から悪ガキで!」

「「「「15でお菓子の城造り!」」」」

「ナイフみたいに尖っては!」

「「「「純金オブジェで村起こし!」」」」

「んぱー!」

「「「「んぱー!」」」」

「んぱー!」

「「「「んぱー!」」」」

「すかぱー!」

「「「「ユウスケサンタマリア!!(売れてる理由が分からない!)」」」」

「今日はここまで。」

「「「「有り難う御座いました!」」」」
一斉にゲォーフに礼をする生徒達。
 

ゲォーフは生徒の一人を呼び止めた。
「シトー少尉。」

「あ、はい。」立ち止まるカスミ。

「君はこの武道クラスでも、特に才能があるようだ。」

「あ、ありがとうございます、大尉。」驚いた様子で頷くカスミ。

「そこでこれから君に特別に、「ア・ルテミッ・シュナ・イ・ト」という試験を行う。」

「試験、ですか。」

フッ。
「ああそうだ。ルールは簡単だ。今からここで私と君で組み合う。投げられた方が負けだ。良いな。」

「は、はい。」道着姿のカスミは頷いた。

「用意。」ゲォーフの声に合わせ構えの姿勢になるカスミ。

がばっ
「始め!」「え゛。」
 

「きゃあ、きゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃああああああ」
どすっ。

「勝負あったな。」

「へ」

「戦士は如何なる時も平常心を失ってはいけない。常識以前の問題だ。」

簡単に一本投げされたカスミはゲォーフに起こされると、彼に食って掛かった。
「も、もう一度お願いします!」

フ。
「よかろう。何度でもかかってこい。…始め!」

「う゛。う゛う゛う゛う゛うわあああああああ」
どさっ。

「もう一度お願いしますっ!」

「…始め!」

「う、あ、あ、あ、うわああああああああやっぱり嫌あああああああ」
ぼすっ。
 

鈍い音と共に又マットに投げつけられたカスミは、立ち上がると頭を振った。

「大尉。お言葉ですが。申し訳ありませんが、このテストは降ります。私にはその、「アル・テミッ・シュナ・イト」とか言うのはムリです。」
道着を脱ぎだすシトー。

「「ア・ルテミッ・シュナ・イ・ト」だ。」

「別にそんなのどうでも良いですよ。キャプテン・ジョージが今どこで何をしているか位どうでも良い事です。」

「それでは負けを認めるという事だな。」

「認めるも何も、」
相当憤慨しているらしいカスミは、普段の彼女からは想像も付かない様子でゲォーフに詰め寄った。
「こんなの不公平じゃないですか!!」

「私のどこが不公平だと言うのだ。」
両手を広げるゲォーフ。

「そ、そ、それに決まってるじゃないですかっ! いくらイブジョー人だって言ったって、試合開始と同時に全裸になられたら誰だってひるみます!」

「さっきも言ったが、戦士は如何なる時も平常心を失ってはいけないのだ。」

「限度があります! それに何で丁寧にバドガールのボディペイントまでしてあるんですかっ!」

「その方が面白いからだ。」
妙にムダ毛の少ない体でポーズを作って見せるゲオ。

「あのねえ!!…」
カスミは自分を静めるようにおでこを押さえた。
「ふう。とにかく、この試合は不公平です、これじゃテストになってません!」
 

ゲォーフはふと向き直り、シトーに近づいた。
「…大尉?」

「合格だ。」

「へ?」

「この試験は、不公平な条件に、不服を申し立てる勇気があるかどうかを見るものなのだ。シトー少尉、君は、合格だ。」

「あ、は、は、はい…」

「この試験だけではない。戦士というものは、自分への不当な扱いや、侮辱には常に立ち向かわねばならないのだ。分かるか。」

「た、大尉…」

「…何だ。」

「…それを教えて下さる為に、わざわざそんな格好に?」

「これはただの趣味だ。」
ゲォーフはいかつい顔で厳粛に答えた。


「入り給え。」
レイちゃんボディーピローにうっとり頬ずり中のフユツキが答えた。

「君か。まだ何か言う事があるのかね。」

艦長室に踏み込んだシトー・カスミは、両手を強く握ると顔を上げた。
「艦長。昨日の艦長のお話についてですが、やはり納得できません。」

「説明し給え。」

「確かに私はアカデミー時代過ちを起こしました。そしてその後も自分の身可愛さに事実を隠そうともしました。それは否定しません。でもその時の私と今の私は違うんです。あの事件の後、私はアカデミーには正直いづらかったです。でも私がアルに出来る贖罪は、私が心を入れ替えて、ちゃんとした士官になる事だと思ったから、だから、私はその後も、勉強を続けました。私は変わりました。艦長、私の事は、ここでの私の記録から判断して下さい。それがお嫌でしたら、どうか他の船に私を異動させて下さい!」
頭を下げるカスミ。

ピカードは立ち上がり、レイちゃんポップに目をやった。
「ダメざます。」
 

「あぇ。」

「少尉、私は君をこの船から異動させるつもりは、今の所無い。」

「は、はい。」

フユツキは表情を緩めると、椅子に座り直した。
「実は、昨日の私の言葉は、君の反応を知りたくて言った事なのだ。上官の間違った判断に対する君の対応が知りたかった。…私に反論するのはとても勇気がいっただろう。」

「あ…え、ええ…(特に艦長は、色んな意味で…)」

「…実は、ある任務がある。かなり危険な任務だ。よほどの勇気が無ければ務まらん任務なのだ。」

「…」

「もし君が興味があるようなら、9時に会議室に来てくれ給え。」

シトーの頬は喜びに上がった。
「あ、はい! 伺わさせて頂きます!」

「以上だ。」

お辞儀をして、艦長室を出て行こうとするシトーを艦長は呼び止めた。
「ああそれから。」
振り向くカスミ。
「君がこの船に来るよう配属願いを出したのは私だ。君はこの船にぴったりの個性的な人材だと思ったからな。」

「…有り難う御座います!(個性的が余計だけど!)」

「以上ざます。」
巨大な壁画を背中に、艦長は頷いた。


「失礼します。…!」
会議室に入ったカスミは、中にいた人物に目を見開き、立ち止まった。

「ああ、少尉か。ここにかけ給え。」

会議室には上級士官達、カスミと、若いアオバシア人兵士がいた。

「それでは話を始めるとしよう。この彼…ライ・ダル中尉はアオバシア軍の精鋭であると同時に、こちらに現在のアオバシアの状況を伝えてくれる貴重な協力者でもある。」

妙な麦わらのような帽子を被ったライはカスミに軽く会釈した。
「私達は今回の彼との接触で、数十の星を危機から救える重要な情報を得た。しかし彼はもう、アオバシアに戻らねばならんのだ。」

ダルは変な麦わらを親指で持ち上げた。
「俺に言わせると、帰るに当たっての問題はアオバシア国境の警備の厳しさだ。」
壁面のモニタの地図を指差すライ。
「国境地帯には、俺の軍の警備艇の連中がうろうろいる。こいつらをうまい事言い包めない事には、俺がスパイだって事がバレちまう。」

カスミはぽけーっとした様子で頷いた。

「そこで我々は彼にここのシャトルを1隻与える事にした。彼が無理矢理盗んで来たように見せる為の傷も付けている。」
言葉を継ぐピカード。

「でも、それでもうちの執念深い連中が納得するとは限らねえ。結局国境警備の奴等を納得させる一番の方法は…分かるだろ、イブジョー人のテロリストを一緒に連れてくる事さ。ショタキ辺りの過激派を追っているうちに連邦の領域まで入ってしまったが、何とか捕まえて帰ってきた…これなら奴等も納得するってもんだ。」

シトーはメガネを上げた。
「つまり…私にその、テロリストになれ、と。」

「そうだ。」艦長は頷いた。
「君は才能ある勇敢なパイロットである上に、都合の良い事にイブジョー人だ。君には彼とシャトルで同行してもらう。無事にアオバシア国境を越える事が出来たら、シャトルの脱出ポッドでこちらへ戻ってきた所を我々が回収する。」
ぶびー。
「…とはいえ、当然これは非常に危険な任務だ。よって君がこの作戦に参加するかどうかは自由とする。嫌ならここでの話は無かった事にしてもらって構わん。」

「艦長。」

「何だね。」

「途中で屁をこかないで下さい。」

「すまん、みも出てしまったようだ。」

「…」

少尉は鼻をつまみつつ顔を上げた。
「やります。やらせて下さい。」

ゲォーフが眉を上げた。
「いかん少尉、君はこの作戦がどれだけ危険か分かっているのか。脱出ポッドが向こうの国境警備隊に見つかったら、」

「攻撃されても、文句は言えない。エバンゲリオンが助ける事も出来ない。それ位分かってます。でも私は故郷の星を踏みにじった彼等がまた、他の星々を攻めるのを黙ってみていたくはありません。艦長お願いします、やらせて下さい。」

「…分かった。その答えが聞けて大変嬉しい。解散。」


シャトル格納庫にやって来たゲォーフは周囲を見回していた。
「少尉。シトー少尉。」

「ここです大尉。」

ゲォーフはやって来たカスミの様子にぎょ。となった。
「さっきドクター・クラッシャーの医療室でメイクしてもらったんです。いかにもでしょう。」
イブジョーの民間人の服に、メガネは割れ、顔は見るも無残にはれたり切られたり出血したり鬱血したりした様子のカスミ。が微笑んだ。

「ドクターの医療室に行ったか。それはそれで勇気がある…」

「何言ってるんですか。」

「少尉。これはゼレンゴンの、一種のお守りだ。地球の言葉に訳すなら、猫の神、ネコガミとでも言えるだろう。」

何やら服を来てハチマキをしめた猫の写真の写っている、免許証のようなカードをカスミに渡すゲォーフ。
「あ、有り難う御座います大尉。」

「問題無い。」
 

シャトルの方からライが顔を出した。
「シャトルの準備が出来たぜ。」

少尉はゲォーフに頷いて見せた。
「それじゃ。すぐに戻ってきます。」

「良い闘いを。ヘドラ。」

「ヘドラ。」
ゼレンゴン語の別れの挨拶をしてカスミは微笑むと、後ろのハッチからシャトルに乗り込んだ。


エバンゲリオンから離脱したシャトルは、静かに国境地帯へと向かっていた。

助手席にいたカスミは、横目でライを眺め、口を開いた。
「聞いても良いですか。どうして軍のあなたが、連邦に協力しようと思ったの?」

どこか飄々とした様子のライが答える。
「あんただって知ってんだろ? 今のアオバシアは狂ってる。ま確かに規律を持って、男気を最重要視する思想が全て悪いとは言わない。にしたって、女と公共の場所でヤる位で不純異性間性交渉呼ばわりされたら、たまったもんじゃないだろ?」

「特にイブジョー人にとっては、アオバシア人の思想は自分達とことごとく正反対の物だったわ。」
しみじみと呟くカスミ。

「俺はアオバシア帝国を愛している。だからこそ、今の軍部の、市民の自由を制限するやり方には耐えられない。それだけさ。」
 

カスミはふいに微笑んだ。
「…正直言って、私、自分がアオバシアの軍人と共同作戦をとる日が来るなんて思ってもいなかったわ。」

「俺も、自分と一緒に仕事をするイブジョー人が現れるなんて思ってなかったよ。…そろそろ国境に近づいた。準備するぞ。」

カスミはライに頷くと、助手席を離れ、後ろの壁際に繋がれた手錠に自分で腕をはめだした。

「…しばらくうるさいが我慢してくれ。」
ダルがコンソールのスイッチを入れると、スピーカーから大音量のアオバシアンロックが流れ出す。間もなくシャトルに、警備艇からの通信が入って来た。


「まさか、シャトルに乗っていったのがカスミさんだなんて事は、無いですよねえ。」
テン・フォワードの席でマリエは不安気に眉を寄せた。

「「…」」
それぞれ自分のグラスを眺めているユイカとアリサ。

「でも確かにカスミさんはいまこの船にいないし、シャトルは1隻減ってるんですよ。こんな国境地帯の危険な所で、カスミさん、一体何やってるのかしら…」
ラベルは口を尖らせると、持っていたグラスをテーブルに置く。
「ユイカさん、何か知りません?」

「…」

「知ってるんですか?」

「マリエ。」

「むー。どうしてそうアリサさんはそうやって一々止めるんですかあ?」

「どうして、って…」

「もしかして、アリサさんが何か知ってるんですか?」

「い、いや、」

「え、じゃあやっぱり、カスミさんがシャトルに?」

ナースは頭を振った。
「それは知らないわ、でも…」…きゅいーん…
「(ぞくうっ)…だだダメ。言えないの。」

「ラベルさん。私達には、知っていても言えない事があるのよ。残念だけど。」
群青汁で口を真っ青にしたユイカが冷静に言った。


航星日誌、補足。我々は少尉の乗ったであろう脱出ポッドとのランデブー地点に向かったが、予定の時間になってもポッドが見当たらない。既に捜索開始から2時間が経過している。

「どうだ、長距離スキャンの結果は?」

「駄目です、何も見つかりません。」
マリエは副長に答えた。

「うむ…」

「どうします艦長。」

「レイタ、アオバシア領域方向に観測プローブを発射してくれ給え。」

レイタは艦長席の方を振り向いた。
「それでは、アオバシアとの協定違反よ。」

「承知の上だ。やり給え。」

「了解。」パネルを操作するレイタ。

めーーー。
エバンゲリオンから一見宇宙ガメ風の観測プローブが、虚空に向かって放たれていく。
 

レイタのパネルに表示が現れた。
「プローブからの信号を受信。現在船からの距離2万キロメートル。スキャン開始。…複数の人工物の存在を確認。生命反応無し。材質、特殊ダンボール。サイズ、形状から、爆破された連邦製のシャトルの残骸と考えられるわ。」

レイタの言葉に艦長とボラ(パラ)は目を合わせた。
 

グル(グル)が顔を上げた。
「プローブが、何らかの通信を傍受しました。どうやらアオバシア軍内部の物のようですう。」

「解読できるか。」

「暗号パターン検索中…解読に成功しました。秘密通信ではなく、公共放送のようですね。」

「流してくれ。」

ブリッジに、アオバシアンロックにのったDJのトークが聞こえてきた。

…んニュース! 昨晩逃亡したテロリストですが、我が軍の精鋭、デフレパック少尉が脱出ポッドを撃破。テロリストの国外逃亡を無事阻止したとの事です。つづい…

ずざざーざーざー。
エバンゲリオンのブリッジは静まり返った。


「レイタ、全艦のチャンネルを開いてくれ。」

「了解。」

艦長は席を立ち上がった。
「全クルーに伝える。こちらは、艦長のフユツキ・コウゾウ・ピカードだ。今日は、非常に悲しい事を皆に知らせなければならない。イタ物に耐性の無いクルーは、今から耳を塞ぐように。……本艦に勤務していたシトー・カスミ少尉が、作戦行動の途中に殉職した。」

「うっ…」ブリッジでパネルにつっぷす(そして何かマズいスイッチを頭突きする)マリエ。

「嘘っ!」医療室で口を押さえる(そしてビーム照射機をクランケの口に落す)アリサ。

「…」機関室で(マコトの屍の上で)顔を上げるユイカ。
 

「…彼女の生前の行動は常に勇敢であり、士官として実に素晴らしいものだった。艦隊は彼女の死に深く哀悼の意を表するとともに、君達にしばしの黙祷をお願いしたい。彼女の魂に、幸多からん事を。以上だ。」


「…良かったわね、昇進おめでとう。」

バーのマリエはきっとなってユイカに顔を上げた。
「何が良かったんですか、カスミさんは死んだんですよ! そんな状況で何でそんな事が言えるんですか。」

「私もシトーさんを失った事はもちろん残念に思うわ。」
ユイカは冷静な表情でマリエを見た。
「でもそれとあなたの昇進とは、直接は関係無いわよ。」

ラベルは首を振り、さっきから手で遊んでいる階級バッジを眺めた。
「関係ありますよ。もし彼女が生きていたら、このバッジだって、彼女が…」

「そんな言い方をしないの、マリエ。確かに、今回の考査で私達3人に特別慰労金とか特別褒賞とかが授与されたのは、あまり良い気はしないけど…」

トーリクが言葉を継ぐ。
「でもそんな事は私達とは関係無いのよ、ラベルさん。生前のシトーさんなら、どんな状況でも変わらず、自分の仕事を貫き通す事に全力を注いだはずよ。」

「…そうですね。分かりました。」

「中尉昇進と、ブリッジ勤務の決定おめでとう、マリエ。」

「有り難う。アリサさん、ユイカさん。」

「うん。」
アリサは少し悲しげに微笑むと、マリエのスーツの襟に中尉の階級証をはめた。
 

「あ゛ー疲れた。こういう時はやっぱりギャニのゴルピスよねえ。」

「「「え。」」」

「あれ、どうしたの皆?」
タオルで汗を拭うカスミは3人を見回した。

「か、か、カスミさんこそ、脱出ポッドで…」

「そうよ大変だったのよ全くもう。ポッドのダンボールが段々破れだしちゃったのよね。だからしょうがないから宇宙服着て、ポッドを破棄してさ。まだこの船がワープしなかったから宇宙服の推進装置で追いついたけど、誰もいない中宇宙服一つで漂っている時は、ほんと死ぬかと思ったわよ。」

「「「…」」」

「ん?」

3人は無言で互いに頷き合うと立ち上がり、一斉に手持ちのフェイザーを殺傷にセッティングしてカスミに向けた。
「え?」

つづく
 


次回に続くよどこまでも
 
ver.-1.00 1998+9/12公開
 
感想・質問・誤字情報・Windows98・ケチャック98・元気が出るハウス98・岡本夏生98等はこちらまで! 

次回予告

ドアが開き、アスカの研究室から冬月教授が現れた。室内に入ったシンジはそこで服の乱れたアスカを見る。別に興味は無いと強がるシンジだが、その声は何故か震えるのだった。それから数日、機嫌の悪いシンジはヒカリを拒絶する。
「私はいつでも碇君を待ってる。もし碇君が本当は他の人を見ているんだとしても、時々私に振り向いてくれれば、私にはそれで充分だから。」
「それが鬱陶しいんじゃないか!」
ある晩トウジと飲むシンジは彼に諭され、ヒカリと別れる事を決意する。しかしそこにやって来たヒカリは自分はシンジの側にいられるだけで良いのに、どうしてあなたに自分の幸せを壊す権利があるのかとトウジに詰め寄るのだった。
翌日流されてヒカリと買い物に行くシンジ。彼はそこで冬月、アスカと鉢合わせする。アスカは急にシンジに歩み寄り、彼の頬をはたく。
「あなたのその好い加減な態度がどれだけの人を傷付けてきたか、分かってるの?」
アスカは昨晩トウジから、シンジとヒカリの不仲についてのみ話を聞いていたのだ。構わないで欲しいというヒカリの言葉を遮り、アスカは、もしヒカリに愛情が無いのなら、彼女がどう言おうとすっぱり別れた方が親切ではないかとシンジに告げるのだった。
「僕が何でヒカリを好きになれないか、分かってて言ってるのか?」
「…どういう事?」
「…いや…」
翌日ヒカリはシンジの部屋を出た。彼女が残した手紙には、自分がいる事でシンジを苦しめた事への謝罪と、最後の愛の言葉が綴られていた。シンジはその手紙を握り締め、又アスカの研究室に向かった。
しかしアスカはあっさり彼の告白を蹴る。アスカは自分は頭の悪い学生には興味が無いと言うのだった。
その晩飲み歩き、荒れるシンジ。気付くといつかのように喧嘩に絡まれ、意識を失う。翌日目を覚ますと、彼はアスカの部屋にいた。大学への通報を見たアスカが彼を助けたのだ。「今度は間に合って良かった」と微笑むアスカ。シンジは起き上がった。
「アスカ、この前君は言ったよね、好い加減な態度で人を傷付けるのは良くないって。その通りだよ。今の君の親切は、僕にとってはただの迷惑なんだ。」
「違うの!」
アスカはシンジの背中を抱き止めた。
「違うの。本当は、今でも…」
シンジが振り向く。気が付くと、シンジとアスカは、お互いの唇を重ね合わせていた。次回「真夏の子供達」第29話、「初印象」。御期待下さい。

本当の次回予告:最終回イブ(←だからその言い方変)。マヤ話。
 



 
後書きコーナー

「もう8月(書いてる時点で)です。」
「…もう映画から一年経ったんですね。私はそもそも関係ありませんでしたけど。」
「そうだね。君関係無いね。基本的に民間人だもんね。」
「私はでも思うんですよ。」
「何。」
「世間的には今や口にするのが恥かしい死語期すら逆に脱した感のあるEVAですけど、インターネットではまだまだこれからだと。」
「マユミさん言い方もうちょっとオブラートにくるんで下さいね。じゃないと怒られた時言い逃れできなくなりますよ?」
「私専門のホームページもいくつか出来てきましたし、ようやく誰が本物のL○S(エルマルエス)当選者かを皆も分かってきたという事だと思うんです。」
「…自分のページが出来ると途端に強気だよ。」
「まあ、碇君の穏やかな性格を分かってあげられるのは、どこぞのジンガイ(=外人)暴力女やジンガイ(=本物)冷血女には、可哀相ですけど難しい話ですからねえ。うふふふ。」
「ちょおおおおっと待ったあああっ!」
「…今時、もう3年で21世紀になる時代に「ちょっと待った」かよ。」
「喋らせておけば好きな事うぉををを! ヘルメットヘアーのコケシ女ああああっ! ちょおっと物好きな奴が出てきたからって好い気になってんじゃないわあっ!」
そ、その声は!!
「シンちゃんへの愛に生きる孤高の戦士、電撃戦隊キリシマンよっ!!」
「だあっさー。」
「ダサイって言うなっ! ふーっふっふっふコケシガール、文字カラーも一新した私の攻撃を受けてみるがよい! 必殺! セルフディフェンスフォースビームっ!!」
「おいおい。」
「ふっ。」
ざくうっ
「な、何じゃこりゃああっ」
「これ通販で買った包丁なんですけど、結構よく切れますね。」
「あ、あの、シャレになってない気がするんですけど…」
「お父さんの身のこなしを良く見てて良かったです。」
「ちょ、ちょっと待って、こんな、暴力に訴えるだなんてヒドイわ。」
おい。
「こんなんじゃ納得行かないわよ、大体破壊力で行ったらあなたよりアレ(=外人)、更にはアレ(=本物)の方が上なんじゃなくって?」
「む。」
「力の喧嘩じゃなく、ちゃんと人気で競い合いましょうよ!」
「…分かりました。受けてたちましょう。エヴァトレ女性人気投票ですね。」
「そんな企画無いです。…う゛」
「やりましょう。」「やるのよ!」
「…次回に続く…」
「ところで、霧島さん出血押さえた方が良いですよ。」
「あれ、急に視界があああ」どさっ。
5秒後作者死亡。(死因moveの歌が全部同じに聞こえる病。

以下次回





 フラン研さんの『新エヴァントレック』第二十八話、公開です。





 カスミさん、生きていたのね。

 よかったよかった(^^)


 原作ではそのまま死んでいたので、
 もうダメだと思っていたんだよね・・・よかったぁ


   原作でも生きていた?
   
   うーーん・・・かなり前に見たので記憶が曖昧だぁ(^^;
     深夜放送だったしね・・・  言い訳たらたら




 次回は宵最終回!

 『真夏の子供達』も宵最終回。


 こっちの話も楽しみだよん♪





 さあ、訪問者の皆さん、
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