西局の、ゴーグルを付けた老人がふっ、と頭を振りながら笑う。
「それは面白いですな、ゲンシュウさん。さぞかしその、「地上人」も恥じ入った事でしょう。」
南局のレイタが微笑んで言った。
「大変興味深いわ六分儀閣下。…黒井さん、今の話の面白い所は、アメリカンホームダイレクトの精霊、即ちアメリカホームドラマ風の精霊は笑いの力を象徴するという事で、」
「それ位分かってるわ。一々解説しなくても。」
妙に棒読み風の口調で北局の黒井ミサがレイタを遮る。
「これもヘカテの罠かしら…」周囲を見回すミサ。
レイタは3列に並べられた碑に指を滑らせながら言う。
「ワンポロリ。…ところで疑問があったのだけど、「ジオフロント」というのはやはり地上の地下にある世界の事なのかしら。」
東局のゲンシュウは軽く目をつむる。
「そういう言い方も出来るじゃろうな。しかしだからと言って簡単に行き来が出来る訳ではない。」
「油田や、鉱物採掘用のボーリング機械では行き来できないのですか。」
ウィズが聞く。頷くレイタ。
ゲンシュウはおどけた表情を見せた。
「それは本当は可能じゃ。しかしそれではつまらんじゃろう。魔術や剣の力で何とかするからこそ、絵になるのじゃよ。」
「その話は初めて聞いたわ。」
やや驚いた様子のレイタ。キールは溜息をつく。
「私などはいつも魔術を押さえ付け、管理する側ですからね…そういった話は羨ましいですな。…ターボツモ。」
「…下らないわ。」
ミサは腕を組んだ。
「大体この、変なボードゲームは何? 麻雀の一種? 私は今、占いや家事手伝いで忙しいのに、こんな物を私にさせて何か意味があるの。」
レイタは無表情ながら、どこか嬉しそうな様子で答える。
「ミサさん、これは私達の時代の一般的なゲームで、世界まる見え立体麻雀と愉快な仲間達という物よ。私はこれをよく他のクルー達としているのだけど、普段現れないそれぞれの個性や考え方がゲームに反映されて大変興味深いわ。そこで今日はこうして、歴史を代表する3人の魔術家のあなた方に集まってゲームをしてもらっているわ。今までの所…大変素晴らしい結果が得られたわ。」
「「麻雀をやって父さんを見返す」というのも良く分からん話じゃな。」何かに口を挟むゲンシュウ。
「ギャグなんでしょう? 面白いじゃないですか。」ウィズは面倒臭そうに頭を振った。
「…」困った顔で自分の前に上下3列に並べられた碑を眺めるミサ。
「エコエコアザラク、エコエコザメラク、エコエコーハガキは広告入り…」
軽く呟いてみる。
「…レイタさん、これは、ここの碑が順序良くそろうと良いのかしら。」
「ええ。」
「ちょっと見て。」
ミサが手で自分の碑をさす。立ち上がりミサの局を覗くレイタ。
「スーパーロン・エクストラライト。ミサさん、この局はあなたの勝ちよ。」
「え!?」驚くへっぽこセーラー服ミサ。
「…面白いわ、このゲーム。」ニヤリと笑う。
「今、彼女は魔術を使っていなかったか?」聞くウィズ。
「何じゃと、これは精霊の力を借りるのも許されておったのか!! ワシはそんな話は聞いておらんかったぞ!」
「エコエコアザにはマキロン、うどんこ病にもマキロン、事業失敗にもマキロン…」しゅーーーーーっ
「蝿の精霊よ、今こそ目覚め、ギンバエからアメリカショウジョウバエを生じせしめよ!!」ぶーんぶーんぶーん
「神々のりきみを受け継ぎし厠の精霊達よ、香ばしい芳香とその力、今我が前に解き放て…」びちゃびちゃびちゃ
「何ですと!!」
「ふっ、相手の手を読み対策を打つのは何事でも基本じゃぞ?」
「い、いやー、汚いっ!」
雀卓の周囲をマキロンやらかぐわしい芳香の何やらやらそれに群がるショウジョウバエやらが大群となって登場し、お互いに物すごい勢いで火花を散らしだした。突風の吹き荒れる雀卓。
その時副長の声が響いた。
「ブリッジより告ぐ、警戒警報。上級士官はブリッジに集合せよ。」
「了解。」
立ち上がるレイタ。
「コンピューター、プログラム終了。」
レイタ以外の全ての物は何事も無かったかのように消え、レイタはマギデッキを後にした。
「現在オニヘイ3号星の基地からは何か連絡はあるかね?」
無意味に黒タイツのビューティーがレイタに尋ねる。パネルを操作するレイタ。
「いいえ。最初に受けた緊急信号以外は何も通信は無いわ。」
「船が接近している。」報告するゲォーフ。
「どこの船だ。」
「未確認の種類だ。映像を受信。」
「スクリーンへ。」
メインスクリーンには、オニヘイ3号星と、その軌道上に浮かぶかなり巨大な、金色の円筒状の宇宙船が映っている。
「船の全長は約2400メートル。」
表示を読むレイタ。
「生命反応はあるかね。」
「…フィールドに遮られスキャンは困難だわ。」
艦長に答えるレイタ。
「…カウンセラー、君の星の船じゃないのか?」
ごぽごぽごぽ…
副長がカウンセラーの「領地」の方を向くと、彼女は湯船の水の中で目を閉じ動かなくなっていた。
「…御就寝中か。」
ビューティーは首を振る。
「ビアゾイドの船は、別にビール缶のような形では無いさ。少尉、前の船に常に注意しておいてくれたまえ。副長達はさっそく、基地の方へ行ってくれるか。」
頷く副長は、ターボリフトに向かって歩き出した。
「レイタ、ゲォーフ。」
風車の後についていく2人。
ぴぎゅいーーーーーーーーん(ど核実験反対カレー不買!)
3人はオニヘイ3号星地上の連邦の科学実験基地に転送されていた。一応明かりはついていて、特に荒らされたような様子ではない。
「基地の生命維持装置は作動中。」報告するレイタ。
3人はトリコーダーでスキャンを始めながら基地内を歩き出した。
「人間のTMR反応を確認…きゃああっ」
ゲォーフが叫び声を上げる。
「…」「どうしたゲォーフ!」ゲォーフに駆け寄るレイタとライカー。
「こ、こ、これ、し、し、死体…」
そこには基地の研究員と思われる死体が転がっていた。ほとんど数分前にやられたようだ。
ぶるぶるじょじょじょー。
ガチガチ震えだし小が漏れ出しているゲオ。
「…」
トリコーダーの反応を見たレイタは少し離れた場所へ歩いていく。立ち止まるレイタ。
「ここにも2人いるわ。」
レイタは副長に伝える。
「死因はそっちもフェイザーか。」
風車が顔を曇らせる。
「ええ。トリコーダーによると、イカスミ系の反応が検出されているわ。これは私達の知る限りでは、フェレンスケのフェイザーで現れる痕跡よ。」
「フェレンスケ人は、こんな残酷な殺しかたはしないだろう。」
「そうかもしれないわ。」
頷くレイタは、基地の一室のドアを開けようとした。しかしロックがかかっているらしく中々開かない。レイタは無表情にロック部分のパネルをひっぺがすと、一発ゴン、と鈍い音のパンチを入れた。開くドア。
レイタの目の前に、リュックをしょったペンギンが現れた。
―宇宙。そこは最後のボランティア(意味不明)。これは、宇宙戦艦エバンゲリオン号が、新世代のクルーの下に、24世紀において概ね任務を続行し、未知の世界を探索して、新しい生命と文明を求めるふりをしつつ、人類未踏の宇宙に、アバウトに航海したりしなかったりする小話である―
建物の向こうからやって来たペングはどうやら4匹のようだ。ライカーとゲォーフがそれぞれフェイザーを撃ち2匹を丸焼きペンギンにする(これは恐らくクルー達の食糧になる事だろう)。
残りの2匹の内の1匹は、撃たれたペングの足を物陰にひきずり、何やら言っている。
「くえーくわっくわっ。」
もう1匹はライカーとゲォーフに果敢に近づいていくが、やはりフェイザーにやられた。
「くわあっ!!」
最後の1匹が物陰から飛び出してきた。すかさずフェイザーを撃つライカー。
「くわあああ」
倒れるペンギン。どうやら今回ATフィールドが出来る前に4匹ともしとめる事が出来たようだ。
「くわっくわっくわっくわくえあう。」
一方レイタはすぐさまドアの向こうのペングの両手(?)をつかみ、力比べの状態に持ち込んでいた。
しかし戦闘体勢のペンギンはペング独自の(正確には、ペングが他の種族から吸収した)ウオテクノロジーで非常に体力が強い。アンドロイドの彼女でも、ペンギンがこちらに向けて構えているフェイザーをなかなか外させる事が出来ない。
今までになく力のこもった表情のレイタ。心なしか顔全体が赤らみ、発汗しているようにもみえる。
「んんんんんんんんんんん…」
レイタの声に少し不思議そうに目を合わせるゲォーフとリョウジ。
「んんんんんんっ!」
レイタはようやくペングのフェイザーを自分から外させ、同時にペングの両手(?)をつかんだままペングを壁に打ち付けた。
「………ふっ…」
何故か急に力が抜け、惚けたような表情になるレイタ。
「クワッ」
その隙を見て再び襲い掛かろうとするペング。瞬時にレイタは防御、ペングを叩き落としストレート、アッパー、アッパー、チョップで床に沈ませた。
「ふんんんっ! ふんっ」
「レイタ!」
レイタはふいに振り上げた自分の手を背後から止める手に気付いた。
ごちーん。
「…もう充分だろう。」
レイタの手が止まらず綺麗に床にふり投げられたゲォーフがペングの上にかぶさった状態で言った。
「……ええ…」
レイタはゲォーフから手を離すと、戸惑った様子で頷いた。
「…どうした?」
レイタは副長の声に振り向く。
「副長…私は今…快感を感じたわ。」
副長と(倒れた)ゲォーフは再び目を見合わせた。
「ペングシップから高エネルギー反応!」
マヤが叫ぶ。
ずきゅーん。
「反撃! 船の中心に暴れカンガルー砲発射!」衝撃で首を落しながら言う艦長。
「発射。」
きゅーん、きゅーん、きゅーん。
カンガルー達が巨大ビール缶に向かって発射されていく。
ローがパネルの表示に目を見開く。
「待って下さい、船が消えていきます!」
モニターには、ビール缶が、宇宙空間に突然出現した光る裂け目の中に入って消えていく様子が映し出されていた。むなしく散っていくカンガルー砲。
「追跡できるかね。」
「…いいえ、我々のセンサーでは、何が起こったのかも分かりません。」
「ふむ…」
落した首を拾って付け直したピカードは、下唇をかんだ。
クルー達は作戦室に集まっていた。
「今回のペングの襲撃について、皆(愉快な仲間達)の意見を聞きたいのだが…副長。」
艦長に軽く頷き、モニターの前に立ち上がるライカー。
「今回のペングの行動は、今までとはどこか異なる物でした。まあもちろん、その冷血さはアンドロイド並、乱暴さはゼレンゴン並、独善性はイブジョー並、身勝手さはビアゾイド並でしたが…」
「「「「…」」」」
約4名のクルー達からの視線に気付き、微笑む副長。
「…ああ、別に個人的な事を指して言っている訳じゃない。」
モニタに攻撃時の映像が映し出された。
「しかし、今回の彼等の攻撃は、全体的に統率の取れた物ではありませんでした。各ペングが独自に動いていたようなのです。」
「あるペングは、まるで他のペングの死を悲しむような行動を見せていた。」
副長に補足するゲォーフ。
「ああ。それに今までなら、死んだペングは全て母船へ転送されて行ったはずですし…」
「共同体も、その時その時で気分が変ったりするもんなんじゃないのぉ?」
聞くカウンセラー。
「いいや、どうも決定的な変化があったらしい。これを見てくれ。」
副長がモニタのタッチパネルに触れると、今朝も絶好調の山ちゃんが「とぅでいずかうんだーうん!!」
「やべ、チャンネル間違えた。」
慌ててチャンネルを戻す副長。
モニタには、基地を襲撃した際のペングの1匹の腕?の装置が映っている。そこを静止、拡大させるリョウジ。腕?の装置のパネルに、何やら絵記号が表示されている。
「」
「「「「こ、これは…」」」」
クルー達は息をのんだ。
会議が終わってから、レイタとブヨは機関室隣接の化学実験室にいた。
「それでは頼んだわ、少佐。」
レイタは椅子に座る。
「あ、うん…」
やや戸惑った様子でレイタの側頭部のカバーを開けるラ=フォージ。直径5cm位の部分のレイタの頭部が露出される。露出された部分は、半導体と強化麺で覆われているようだ。
「自分でチェックはしてみたのかい。」
「レベル1までの自己チェックシークエンスを3回程実行してみたのだけど、どこにも異常は発見されなかったわ。」
「じゃあ後はマギで調べるしかないね。」
頷くマコト。数本のコードをレイタの頭部に接続する。
「コンピューター、レイタのポジトロニック・ミソのスキャンを開始。」
「スキャン開始。」マギの声が響く。
ブヨは、いつも通りの無表情で座っているレイタに微笑みかけた。
「でも、ホントにそれは「感情」だったのかい?」
「分からない。」
「…」
レイタは困った様子のマコトに付け足した。
「今まで感情を持った事が無いので判断が困難だわ。ただし私の人間の感情という物に対する理解、定義で言えば、基地でペングに応戦した際の私には少なくとも一種の原始的な感情、快感が発生していた、と考えるのが今の所妥当と推測されるわ。」
コードの繋がった状態でとうとうと喋るレイタ。
「スキャン完了。異常はありません。」
コンピューターが結果を知らせた。
軽く溜息をつく2人。
レイタは自分でコードを外しながら言う。
「あるいはこれはポジトロニック・ミソの異常ではなく、ハックナル博士が事前にプログラムしていた事かもしれないわ。」
「…どういうこと?」自分の足に群がるハエを軽く払いながらマコトが尋ねる。
「私のポジトロニック・ミソの伝達網が一定の基準以上の発達を見せた時、言い方を変えれば、私がある程度「成長」した時、私が感情を得られるようになっているのかもしれないわ。」
「じゃあこれからも色々、他の感情も感じるようになるかもしれないのか。でも、僕としては、快感を感じているレイタさえ見られれば…」
「…」
「…す、すいません少佐。」
レイタの視線に顔が青くなり、足がブヨブヨ震えだすどうにもこうにもマコっちゃん。
「どう?」
「どう、と言われましても…また素晴らしい衣装ですな。」
「サンバを踊ったりゴーゴーを踊ったり、提督業も中々大変な物よ。」
モニタの向こうのレミ提督(サンバ衣装)は真面目な顔で首を振る。
「は、はあ…」
返答に困る黒タイツ。
レミは自分の手もとのパネルを見ながら話を進める。
「オニヘイ3号基地の襲撃以来2日経ったけど、今の所再襲撃の報告は無いようね。」
「ええ。」
「しかし彼等の事ですから、またいつ我々に牙を向けて来るとも分からないわ。」
「常に臨戦態勢で対応します。」
レイちゃん人形に手を置くフユツキが答える。
「よろしい。…ところでコウちゃん、報告を読んでいて、一つ面白い所があったんだけど…」
「何です提督。」
「あなた達は以前、ある星に遭難した1匹のペングを救助した事があったそうね。」
「ああ、はい、省略されましたが、19話と20話の間の頃の話ですね。」
「話?」眉を上げ聞き返す提督。
「ああいえ、こちらの事です。」手を振る艦長。
「…その時何でも、「人間の言葉はペングの中央意識では使えるけれど個体の彼等とは万能翻訳機が作動せず、話が通じない」という事が分かったので共同で絵文字の言葉を作る事によって、コンタクトを取る事に成功したと。」
ピカちゃんはサンバに微笑んだ。
「ええ。その時私達はそのペングにペンペン・ブルーという名前を付けました。彼は恐らくペングとしては初めて個体としての意識を持ち、」
「コウちゃん勘違いしないで。ペングはペットでも仲間でもないわ。接触したありとあらゆる種族を瞬く間に滅ぼし、我々人類も数億無作為に殺害している悪魔達なのよ。」
聞いてないピカ。
「いやあ、話してみると結構面白い奴等なんですよこれが。特に彼等のグルメぶりは大した物で、魚の知識はやはり素晴らしく、話だけでごはん何杯でも」
「コウちゃん!」
「…あ、失礼。」
呆れた様子の提督。頭(当然ウサ耳)を振ると、再び手もとのパネルを見る。
「それでコウちゃん、結局その「ペンペン」にはそのままシャトルを与えて旅立たせた、って言うのね。」
「…ええ。」
レミは端正な顔を歪める。
「どうして彼にウイルスか何かを仕込ませなかったの? そうすればペングを一網打尽に出来たかもしれないじゃない!」
フユツキはレイちゃん人形に置いた手に力を込めた。
「例えペングであれ、既に個としての意識がある以上一つの人格でしょう。それをないがしろにするのは「楽しく楽しく優しくね」という連邦の基本原則に反します。」
「それはあなたの感傷的な解釈よ。ペングが連邦への大きな脅威であるという事実が、連邦にとってもっとも重要な事なのよ。」
モニタににじり寄るウサ耳サンバ。
「艦長、もし今度同じようにペングを捕獲する事があったら、その時はそのペンギンにコンピューターウイルスを仕掛けなさい。」
「…提督!」
「これは命令です。今日はサービスタイムは無し! 通信終了。」
爆弾マークに切り替わるモニタ。
ピカードは深く溜息をつきながら、いつもの癖で人形の耳をあまかみしだした。
くーっ、くーっ、くーっ。
元コウモリの森脇健児達が暗がりの中を飛び交っている。
「あなたがカウンセリングを受けたいなんてまた、珍しいわねえ。って言っても、私カウンセリング出来ないんだけどね。」
レプリケーターからバター茶を持ってきたカウンセラーが、お茶をテーブルに置く。
「どうぞ。」
ソファーを示され、座るレイタ。
「きちんとしたカウンセリングは期待していないわ。ただ話を聞いて欲しいと思ったの。」
目を丸くするミサト。
「ま、まさかレイタちゃん、そういう趣味…」
「…」(--)
「…一応言ってみたかっただけよ。で? 例の感情の話なんでしょ?」鼻クソをほじりながら聞くトロイ。
「ええ。…正直な所、初めて感情という物を経験して、…戸惑っているの。」
深刻な様子のレイタに、ミサトは面白そうな顔を見せた。
「戸惑うっていうのも…感情の一種なんじゃないの?」
「そうかも知れない。…より正確に言えば、感情という未知の経験で思考に混乱が見られ…それは戸惑うという事のように思われるわ。」
自分で自分の言う事に眉を上げるレイタ。
「このように、思考判断に論理的矛盾、一種のノイズが現れているわ。」
げろげろー。
「まっずいわねこのお茶、マーガリン茶なんじゃないのお?」
「…」
自分で持ってきたバター茶に文句をたれていたカウンセラーは、レイタの様子に肩を上げた。
「レイタ、あなたはやっぱり戸惑っているのね。感情は無いにしても、やっぱり戸惑っているんだわ。…でも、それは最初の内だけよ。慣れれば感情も、良いもんよ?
特にあなたが感じたのは快感だったんでしょう? だったら、あんな事や、こんな事や、ぐっひゃっひゅっひゃっひっひ」
「…」
沈んだ様子で静かにお茶に口を付けるレイタ。
カウンセラーは溜息をついた。
「何がそんなに気になるの?」
「先程カウンセラーが言った通りよ。私がペングを殺した時感じたのが快感だったという事実が、特に私を混乱させているわ。その時に感じたのが例えば憎しみや怒りならまだ論理的に理解可能なのだけど。気持ちが良かったというのは非道徳的だわ。」
「うーん、でも、私でもかんちょおでも、皆結構そんなもんだと思うけど…」
「一緒にして欲しくないわ。」
「へえへえ。」
「…それに、快感というのはいわば最も原始的な感情…感情というより単純な感覚に近い物よ。あまり高尚な物ではないわ。」
「でもね、レイタ。」
微笑むカウンセラー。
「どんな感情にも優劣はつけられないわ。快感だって、それ自体に良いとか悪いとかいう価値は付けられないのよ。」
「でも、私の快感は…」
レイタを遮るミサト。
「それは確かに、そういう時に「快感」を感じるっていうのは、う、普通、ではないわ。でも恥かしがる事じゃないのよ。問題は、あなたがそれに対しどういう風に向き合い、どう行動していくか、なのよ。」
自分の言葉に酔ってくるミサト。
「ああ、私結構カウンセラーとしてやってけるかも!」
「カウンセラー、あなたは一つ勘違いをしているわ。」
ミサトはレイタの言葉に眉を上げた。冷静に話し出すレイタ。
「私がペングを殺した時に感じた快感は、人間に当てはめて言えば、暴力行為時の快感や生殖行為時の快感等よりは、排便時の快感に近い物だったの。」
「へ。」
再びお茶に口を付けるレイタ。
「…これ、本当に美味しくない。」
近くのコウモリにお茶をかける。森脇死滅。
「状況は!」
副長がマヤに怒鳴る。ブリッジは赤いサイレンが鳴っている。
「現在スキャン中ですが…ペングはいないようです。」
「TMR反応も見られないわ。」
ローの隣りのレイタが言う。
後方でビクビク震えていたゲォーフが、ほっとした表情になり艦長に言った。
「通信が入った。信号は誤報だったそうだ。」
溜息をつく艦長。
「非常警報解除!」
「これでもうペング襲撃の誤報は80回目ですね。」
ピカードは副長に頷いた。
「ああ。律義に毎回来ている我々も我々だな。まあ、どこの基地もピリピリしているのは分かるが…本当にペングと確認してから救難信号を出すよう、もう1度各基地に伝えておいてくれ給え。」
艦長は苛付いた様子で艦長室に入っていく。
「りょーかい。」肩を上げる風車。
「入れ。」
艦長室のドアが開き、副長が現れた。
「ああ、副長。君のペングに関する報告だが、ここの部分が間違っている。」
机の上のパッドを副長に見せる艦長。
「ペングのイソノケフィールドに関する記述だ。成分をよく見給え、「サザエール」が抜けている。それが主成分だぞ。」
「…ああ、すいません。」
肩を上げ、パッドに報告を書き足すライカー。
「最近君はたるんでいないか。頭の穴も、風車や花をさす場所ではない、とっととガムテでふさぎ給え。以上。」
ややむっとした様子で艦長室を立ち去ろうとした副長を艦長は呼び止めた。
「…ああ、すまん。少し言い過ぎた。…どうも年をとると短気になっていかんよ。」
「それじゃごゆっく」
「お゛い。」
「…何です。」
向き直り艦長に近づくリョウジ。
「考えていたのだよ。我々が一年前、ペンペンにした事は果たして良かったのかどうか…」
「…少なくとも、彼とカウンセラーはお互い喜んでいましたよ。「今までに無いプレイだった」と言って…」
「あ、いや、その部分ではない。…その後だ。我々は結局、彼を助けて、そのまま行かせただろう。個の意識と言葉を持った彼が、ペング社会全体に変化を起こさせる事を期待して。」
「ええ。それは間違っていなかったと思います。実際種族をペングに滅ぼされたガイナンも、最終的にこの事に同意したんです。」
「しかし、ナチェフ提督は同意はしないようだ。」
「
(<しばく><にこごり><四大公害病><五所川原市><と><ボリウッド><終わる>)
(「私達の名前? 私の名前?」)
」
副長が艦長の手元のモニタを覗くと、一年程前のペンペンの映像が映っていた。
「
(<聞く><ラジオドラマ><熱心に><終わる>)
(「ええそうよ。」)
」
ミサトがペンペンに、絵文字を介して会話している。ペンペンの腕に付けられた入力装置に絵記号を入れているのだ。
「
(<卒業写真のあの人は><今も輝いたまま><遠くて近くて><キャベツ畑人形><終わる?>)
(「あなたの名前は、ペンペン・ブルーよ。」)
」
「
(<か?><神田うの><実は良い人><反語><終わらない>)
(「ペンペン・ブルー…」)
」
ブルーとトロイの当時の会話の様子を見る2人。
「…そしてオニヘイ3号星を襲撃したペングも同じ絵文字を使っていた。少なくともブルーと彼等に、何らかの関連があるのはもはやはっきりしている。」
「ペングは本来一つの意識ですから、ペンペンの知識が吸収されたのでは?」
「…とすれば、次に私達がペンペンに会った時は、彼とも戦う事になるのだろうな。」
DTエイトロンの主人公?のフィギュアに全日空のスチュワーデスの制服を着せた物を手に、艦長は溜息をついた。似ていれば大体何でもイイらしい。
再びブリッジのサイレンが鳴り出した。
「次はどこだ。」
ブリッジにやって来る艦長。
「先程ニューシオバラコロニーから連絡を受けました。船の形状の報告などからペングと考えられます。…もう到着します。」
大量のバラを刺してみた(もちろん頭に)副長が答える。ちょっと見とれる艦長。
ゲォーフが言う。
「コロニー付近の映像を確認。」
「スクリーンへ。最大望遠。」
モニタには例の巨大ビール缶(もちろん沖縄アクターズスクール出身)が現れた。
「最大速度で追ってくれ。」
「…ずっと最大速度ですけどお…」両手を上げるマヤちゅん。
「前回消えた時と同じサイバラ反応が見られるわ。」呟くレイタ。
「ここで逃がしてはいかん。」艦長が立ち上がった。
目の前のペングシップはまたすぐに光の裂け目に包まれ、その姿を消す。
「…ああああああんっ、また逃がしたわねっ!」
艦長激怒。
「艦長、今、面白い事が分かったのだけど。」
「さぁいあくぅ。超バンドウ(坂東)。つまりすごく坂東って感じい。土曜の朝の上沼恵美子って感じぃ。」
「どうやらこの船も彼等の消えた裂け目の中に突入するようよ。」
がくっ。
レイタが言い終わらないか言い終わるかする内に、エバンゲリオンもペングシップの入った裂け目の中に入った。
明かりが消え、大揺れに揺れる船内。(しかし決して人が死ぬほど揺れはしないのが24世紀の科学の勝利。)立っていた艦長はさっそく倒れ、また首をごろごろ転がしている。
そして何故か船内全体にクサヤの臭いが充満し始めた。
「一体どうなっている!」
「通常のスキャンは使用不能。」副長に答えるレイタ。
十数秒ほど震動が続いた後、急に震動が止み、明かりが戻る。両手両足がバラバラ君の艦長。
「ここほどこだ。」副長がレイタに聞く。
「現在スキャン中。」
「前方のペングシップに高エネルギー反応。」
ゲォーフの言葉に前を見るリョウジ。モニタには確かに例のビール缶(PHPでグラビアデビュー)が写っている。
「シールド張れ!」
ぴぎゅん、ぴぎゅん。
エバンゲリオンは今度は魚雷の衝撃に揺れる。
「シールド出力40%!」
叫ぶロー。
ぴぎゅいいいいいいいいいんぐ。
その時ブリッジに3匹のペングが転送されてきた。
「くえっくえっくえっくえかあくあくあくわー。」
立ち上がり応戦するクルー達。ペング達は足元に転がる艦長(のパーツ)に気を取られた隙にフェイザーに撃たれあっけなくやられていく。
「副長!」
「何だゲォーフ。」ゲォーフが前のモニタを見ているのを見てモニタに目をやる副長。
「ブリッジはおとりだったか…」
ペングシップは既に消えていた。
「副長。」
倒れたペング達を調べていた(ついでに艦長のパーツを拾い集めていた)レイタは副長を呼ぶ。
「どうした。」
「このペングは、まだ生命反応があるわ。」
花瓶ライカーはレイタの所まで行き、そこに倒れている(何故か)ハリセンを手?に持ったペンギンを眺めた。
(組み立て治った)艦長とレイタ、ドクターは、ハリセンを持ったまま動かないペングの前に来ていた。ペングは拘禁室にフォースフィールドで隔離されている。
医療トリコーダーをかざすドクター。
「もうすぐ起きるわ。」
ペングは目を覚まし、キー、キーというモーター音と共に周囲を見回した。
腕の絵文字表示デバイスに素早く絵文字を打ち込んでいくペング。
「私の名前はメイチョウだ。」
絵文字を読むレイタ。
「メイチョウ? 個人に名前があるのか。」
「…」
艦長の言葉を、手持ちのパッドに絵文字で入力するレイタ。
「」
「
(<欠勤する><ために><膝の上の天使達><中州><CMの後本当にすぐ><終わる>)
」
「「偉大な方が私達1人1人に名前を付けて下さった」、と言っているわ。」
「偉大な方?」
ぴ、ぴ、ぽ、ぴ、ぱ。
<お前達を破壊する偉大な方だ。>
絵文字で答えるメイチョウ。
「君達ペングは、多種族を吸収するんじゃなかったのかね? 破壊するのではなく。」
「」
(<居留守><こおろぎ'79><独占!女の60分><英国貴族><と><恐縮です!>)
(「これだけ経済は危機的になっているのに、最近の政局はますます不透明ね。」)
」
面倒臭くなって好い加減に打ち込みだすレイタ。
ぱ、ぴ、ぽ、ぴ、ぷ、ぺ、ぴ、ぱ。
<与党は旧態依然でドラスティックな社会変動に対応できず、さりとて野党も烏合の衆。このままでは我が国はお先真っ暗ですな。>
「「我々は自分達より劣った種族を吸収しない。それらは破壊するのみだ。」と言っているわ。」
「…」
顔をしかめる艦長。艦長は、フォースフィールドに近寄った。
「私はペングのモロキュータスだ。真実を話せ!」
メイチョウに断固とした口調で命令するフユツキ。
「…くえ。」
「…やはり人間の言葉には無反応か。」
息をつくフユツキ。
「その、「偉大な方」の名前は、ペンペン・ブルーと言わなかったか?」
ぱ、ぴ、ぽ、ぴ。
<やはり皆が選挙に行かないのが悪いのかしら。>
<しかし行った所でどれだけの人が立候補していると言うんです。そんな暇があったらピンサロにでも行ってますよ。ぐわっはっは>
「その質問は無視して「我々は劣った種族を破壊する」とのみ繰り返しているわ。」
「そうか。」ピカちゃんは頭を振った。
「ドクター、死んだ2匹の検死を…ってもう行っちゃったか。レイタ、彼をスキャンして、他のペング達と連絡を取っていないかどうか調べてくれ給え。」
「了解。」
艦長は拘禁室を出て行った。
拘禁室はメイチョウとレイタの2人だけ(1匹と1体だけ)になった。
<遊びは終わりよ。今からあなたの体をスキャンするわ。>
<お前は他の種族とは違う。我々はアンドロイドは吸収する。>
<遠慮しておくわ。>
パッドの絵文字を見せるとトリコーダーを持ち、調整を始めるレイタ。
メイチョウはレイタの言葉に頭を振ると、自分の爪の一本をカパッと開け中の装置のスイッチを入れた。
ぴぴー、ぴぴー、ぴぴー
「はうっ」急にお腹を押さえ、目を見開くレイタ。思わず倒れかけ手で柱をつかむ。
<そのスイッチを止めて。>
震える指で絵文字を押す。
「くわっ。」素直にスイッチを止めるメイチョウ。ほっと息をついて頭を上げるレイタ。
<我々は偉大な方のお力で、お前に感情を与える技術を得た。>
メイチョウは心なしか誇らしげに告げる。
<私はアンドロイドよ。感情を必要とはしないわ。>
頭を振るレイタ。
<お前は最近、感情を得た事があったはずだ。>
レイタはちら、とメイチョウに目をやり、パッドに打ち込む。
<ええ。オニヘイ3号星で襲撃してきたペングを殺した時に感情が発生したわ。>
<それは今のような快感だったか。>
<生命体を殺す時に、排便の快感を感じるのは倫理的ではないわ。>レイタは彼女としてはかなり困った表情で続ける。
<この方法で会話をしているとスキャンがいつまで立っても出来ないわ。>
<話をごまかすな。お前はペングを殺した時、快感を感じたのか。>
メイチョウはまた指のスイッチを入れた。
「くうっ」立つのもやっとという感じで歯を食いしばるレイタ。
<止めて。>
<この快感を感じたのか。>
<そうよ。>
<それは非道徳的だ。>
<止めて。>
<お前はこの快感を得る為なら、仲間を殺しても構わないか。>
<それは非道徳的よ。>
メイチョウは装置の出力を上げる。
「ああっ」
また倒れかけるレイタ。口が引きつり、目のポイントコントロールがおかしくなっている。
<答えろ。>
<ええ。ゲォーフもクラッシャー君も、艦長も副長もドクターも大量抹殺どんと来いだわ…>
ニヤーッ、と笑い出すレイタ。
<そこまで聞いてない…>
ブリッジ後方のコンピューター操作パネルで、ラ=フォージは指を差した。
「例の光の切れ目の正体が分かりました。ペング達は一種の亜空間を通じるトンネルを使って、ある地点からある地点へ瞬間的に移動できるようにしていたんです。」
モニタに星図が表示されている。
「御覧の通りここの間、普通なら最大ワープで3日はかかる距離を十数秒ですり抜けてしまうんですよ。」
「ボソンホールのような物か。」
副長に頷く生ゴム(マコト)。
「ええまあ。ただこのトンネルの場合、普通のセンサーには一切反応しませんし、ただ近づいても開く事はありません。観測の結果、ペング達はクサヤビームを発射して、ここへの入り口を開いているようです。」
「クサヤビーム?」聞き返すビューティー。
「一種の伝書鳩光線です。現在この船で合成できないか頑張っている所です。」
「艦長。」
「何だいゲオ坊。」
「未許可のシャトルが1機発進している。」
艦長に何故か頬を赤らめながら報告するゲォーフ。
「乗っているのは誰だ。」
ゲォーフは副長の言葉にパネルを操作する。
「1人は例のペングだ。もう1人は…レイタ少佐だ。」
黒タイツと花瓶と生ゴムは顔を上げた。(全員人間です。)
「レイタは自分から乗って行ったんでしょうか? それともメイチョウに拉致されたんでしょうか?」
花瓶が艦長に聞く。
「知らないっちゃよ。少佐の事だから、多分ウチら(関西イントネーションで)を見捨てたのと違うっちゃか?」
「そ、そんな事があるはずはない。少佐は名誉を重んじる人だ。」
艦長に反論するゲォーフ。自分のパネルのビープ音に気付きパネルを見る。
「2人の乗ったシャトルが例のトンネルに入って行った。」
「マコト君、その「クサヤビーム」は発射できるか?」
聞くピカード。
「ええ、実験をしていないので断言は出来ませんが…」
「発射!」
「トンネルの入り口が開きました。」
報告するロー。
船内に充満しだした臭いに、艦長は怪訝な顔を見せた。
「ちょっと待て、これは本当にクサヤビームか?」
「そうですね艦長、これはむしろ…スルメビーうわあっ」
ごろごろどっしゃっしゃーん。
トンネルに無理に突入するエバンゲリオン。再び衝撃でクルー達が投げ出されている。
「…トンネルを通過!」
再び艦長の体やらカウンセラーの風呂の水やらでしっちゃかめっちゃかになったブリッジ内でマヤが言う。
「シャトルはいるか?」
後ろに振り返りゲォーフに聞く副長。バラが全く落ちていない辺り伊達にアルメニアで修行を積んでいない。
「…いや、スキャンの届く範囲にはいないようだ。」頭を振るゲォーフ。
「待って下さい、シャトルの伝書鳩シグナルが残っていますから、船の行った方向をある程度特定可能です。」
じゅぶ、じゅぶと足音を鳴らしながらマコトがコンピューター操作パネルの前を忙しく歩く。
「この付近で信号が切れてますね…」
表示された星図を示す。
「すぐそばにあるこの星は?」
パネルを操作するマコト。
「高いエネルギー反応が見られます。」
副長はマコトに頷き、後ろを向いた。
「ゲォーフ。この星へコースセットだ。」
エバンゲリオンはレイタとメイチョウの乗ったシャトルが着陸した、と思われる星の軌道上に来ていた。
「シャトルのスキャンは出来んのかね。」
背後からの声に、ややギョッとした様子で振り返るラ=フォージ。艦長は今度は、各パーツしっかり木工ボンドで止めてあるようだ。そのせいかやや体の動きが固くもある。
「え…ええ、何らかの妨害電波があるようなんです。シャトル自体の場所はほぼ突き止めましたが、レイタやペングの居場所は、反応が弱すぎるので…」
「しかしシャトルからそう離れてはいないだろう?」
バラが聞く。
「いえ、彼等が到着したと思われる時間から逆算すると、既にこの惑星上のほぼどこにでも行けている計算になります。レイタは確か、徒歩で時速7800キロまで出せますし、走ると時速170キロまで出せるんです。」
「「減ってる、減ってる。」」声を揃える艦長と副長。
「ペングは、彼女が抱えて走れば良い事ですから…」
ピカードは腕を組んだ。
「しかし逆に、ここのシャトルの着陸地点がペングに囲まれている可能性も充分にあるな。」
「ええ、まあ。」
「と言う訳で副長、行って見てくれ。」
「何故!」
「ふくちょーにっし、うちゅーれき46945.5。こんやはおんなになったおれとむきむきまんのおれとふくちょうのおれのさんにんで」
「なー、だー、うわーっ!」
何かの本を持って読み上げる艦長の声を遮る副長。
「はい、行きます、行かせて下さい!」
「大変よろしい。」
ぴぎゅーーーーーいいいいいいいん。
「うう、うう、うう…」
副長は丸腰で無理矢理星の地表に転送されていた。
「あう。あうあうあう…」
ひとしきり泣いてみるメソメソリョウジ君。
副長が周囲を見回すと、草原のような場所に着陸したシャトルが放置されてあった。間違いなく2人の乗っていた物だ。
胸のバッジを叩くライカー。
「ライカーよりブリッジ。シャトルを発見しました。」
トリコーダーを作動させる副長。
「付近に生命反応、無し。どうやらシャトルを破棄して移動したようです。」
通信機から艦長の声が響く。
「それは良かった副長。もし君がペングに囲まれるようだったら、君を自爆させなければならなくなる所だったからな。」
「ぅえ゛?」
固まった状態のままバラは再びエバンゲリオンに転送されて行った。
「船には必要最低限のクルーのみを残し、総力戦で彼等の捜索に当る!」
「「「「総力戦?」」」」
「そうだ。これは我々と彼等の威信をかけた戦いであり、肉弾戦だ。もちろんポロリもあるっちゃよ。」
「「「「…」」」」
「でも、何でそうまでして探すんです? 良いじゃないですか、あんな小生意気なロボット…」
呟くマヤ。
「しかし何だかんだ言って彼女がこの船で一番よく働いている。」
唇をかむ艦長。
「それに、彼女がいなくなったらこの連載はチルドレンのレギュラーがゼロになってしまうのだよ。」
「はあ…」
艦長は通信機に呼びかけた。
「ブリッジからドクター・クラッシャー。」
きゅいいいいいいいいいいん
「何か用。」
「ああ、ドクター、そう言った訳で君も上陸班に」
きゅいいいいいいいいいいん
「え?」
「いや、あの、ドクター、必要最小限のクルー以外は全員星に降りてレイタ達を探すって決めたから、その、ドクターにも」
きゅいいいいいいいいいいん
「よく聞こえないわ。」
「ドクターも! 星に降りて! めんどくさがらず」
きゅいいいいいいいいいいん
ピカードは通信の向こうから聞こえて来る妨害音に耳を押さえた。
「ごめんなさいね、どうもよく聞き取りずらいわ…」
「…ドクターは船に残って好きにしてて良いです…」
「あらそう。それじゃ。」
急に妨害音がやむと同時に通信は切れた。
星に上陸したクルー達はさっそくキャンプファイヤーを始めていた。
「「「しぶやでわぁああ。らーらるららー。さーいきんわああ。らーらるらろー。」」」(←たのしくたのしく優しくねのつもりです)
合唱を始めるクルー達。
艦長はパン、パンと手を叩き彼等の前に出る。
「良いか、まだ分かっていないクルーがいるようだが、我々はここに遊びに降りてきたのではない。レイタと彼女を連れて行ったと思われるペングの捜索に降りたのだ。いつペングに遭遇するとも分からないので、それぞれ3人のチームで行動するように、良いな?」
キャンプ場内大ブーイング。
「「「ぶーぶーぶー」」」
「ブーブーじゃなーい!」
青筋を立てて怒鳴るフユツキ。
殆どの素晴らしい連邦士官達は艦長を無視してキャンプファイヤーを再開しだした。
「「「じゃんぼりー、じゃんぼりじゃんぼりー、じゃんぼりじゃんぼりー…」」」
「我々だけでも、早い所捜索を開始しよう。」
ゲォーフの言葉に力無く頷くフユツキ。
ピカードとゲォーフとトロイは3人で、惑星の地表を歩いていた。比較的草原のような場所が続いているが、もちろん道はなく、結構でこぼこなので歩きにくい。
「全くスキャンが効かないっていうのはキツイわね。」
頭を振りながら言うカウンセラー。ちなみに服はちゃんと着ているので安心して欲しい。
「さっきマコト君が言っていたが、お笑い高エネルギービームを使えば、かなりの確率でレイタのELT反応を知る事が出来るそうだ。」
「なら何故それを使わん。」艦長に聞くゲォーフ。
「いやあ、ウチは使っても良いと思うんやけど、「それを使ったらレイタのポジトロニック・ミソが完全に破壊されます!」ってマコっちゃんがうるさいんだっちゃ。」
「…」
「ん、どうしたゲォーフ、私の顔に何かついているのか?」
「ねえ、ちょっと!」2人よりやや前方を歩いていたカウンセラーが、2人を呼んで前を見て示した。
十数メートル向こうに3、4階だての小さな集会場のような建物が建っていた。
トリコーダーを向けるゲォーフ。
「ペングも含め生命反応は見られない。」
「カウンセラー、何か感じるか?」
困った表情のカウンセラー。
「ん、さあ…感じるような、感じないような…レイタもペングも「心」は微弱だから感じ取るのはむつかしいのよ。」
「行くぞ。」
ピカードの言葉に合わせ3人は丘の上のその建物の中に近づいていく。
「ガード等はいないようだな。」周囲を見回すビューティー。
ゲォーフはコンクリートか何かに見える建物の外壁にトリコーダーを向けていた。
「材質は未知の物質だ。エネルギー反応の漏れている場所…つまり入り口は、こっちだ。」
3人は建物の中へと入って行った。
中はひんやりとした空気に包まれ、どことなく魚臭い臭いがしていた。
3人が入ってきたのは講堂や教会のような天井の高いドームだった。そして床には爪とペンギンのマーク…ペングのシンボルが書かれている。
「どうやらここは廃虚でもヨド物置でもないらしいぞ。」呟く艦長。
ニヤリ。
「艦長。おかしいぞ。」
「何だ。」
「明かりがついているが、トリコーダーには何の反応も出ていない。」
「え、何で?」
「「うーーーん」」
考え込む艦長とゲォーフ。
「「故障?」」
「バカね、シールドが張られてるって事でしょ、罠よ!」
叫ぶカウンセラー。
「「ああ、そっか!」」
3人が部屋から逃げ出そうとすると、部屋の入り口から多数のペング達がフェイザーを構えてトコトコ歩いてきた。後ずさりする3人。
「久しぶりね。」
3人が再び振り向くと、ペング達に護衛されたハックナル型アンドロイドがステージのような場所の上に立っていた。
「レイタあああああああ!うっ」ステージに泣き叫びながら近づこうとしてペングにフェイザーを突きつけられるゲォーフ。
眉を寄せるミサト。
「…違うわ。」
「どうしたカウンセラー?」
「ああ、さすがにカウンセラーは勘が鋭いわね。KANが鋭かったらちょっとイヤね。缶が鋭いと手を切るわ。」
その口振りに驚いて艦長は呟く。
「…リナーか?」
リナーはお嬢風に右手を口にかざし笑い出した。
「きゃーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっうっぐぐえっごほごほっごほっごほっごほっ、ふー。そうよこのあたしこと俺様ちゃんがリナー様よーっ!
きゃーっ! 何だか分からないけど取り敢えずかなりヤバいって感じだよねー良い意味でーっ!
もしくはめちゃイケって感じー!」
「相変わらず勢いで押してるな…」
「ええ。めちゃイケよ。」
3人は声の聞こえた方を見た。ステージの横から、もう1体のアンドロイドが現れた。
リナーは満身の笑みで手をさす。
「紹介するわ。私のキュートで可愛い超ぷりちーあんどらぶりぃwithラリホーな妹、レイタよ。」
「「「…」」」呆気に取られた様子でステージを見る3人。
レイタはリナーの手を取り、ステージに上がる。
「ハックナルの娘達は今互いに手を取り合ったわ。」
レイタはいつもに比べ、どこか尊大そうな(普段から尊大ではあるが)、リナーにどことなく似た雰囲気の口調で話す。
「そして私達は2人で、惑星連邦を破壊するわ。」
じょー。
ゲォーフの失禁音のみが響くドーム内で、姉妹は互いに微笑みあった。
リナーはニコニコしながらそのステージ風の場所をうろうろしている。
「このペング達はね。皆集団の統一意識から急に解放されて、とても戸惑っていたのよ。私は彼等を見て思ったわ。私の使命は、この彼等を救う事なんだ、って。」
「レイタ、これは冗談だろう。私と楽しい「学園」生活を送っていたではないか。私がどれだけ貢いだか、忘れたか! 50万! 50万ラチナム円だぞ!」
「「えっ」」
ゲォーフとレイタの間を交互に見る艦長とカウンセラー。
「…」レイタはゲォーフの言葉に、かなり本気の四つ角が額に出来ているようだ。
「下らない言葉で誘惑してもムダよ。」リナーがぴしゃり、と言った。
「私は可愛い妹に、あなた達の技術では絶対に与えられない物を上げる事にしたのよ。」
「…」
再び微笑み会う姉妹。
「それは感情なの。そのかわり、彼女は私の崇高な計画に協力する事を快く了承してくれたわ。」
「計画?」艦長は聞き返した。
「ええ。ここにいるペング達は半分有機体、半分が機械の発展途上の種族よ。そこで私達は、彼等が私達姉妹のような完全な機械生命体に進化できるように手助けをしてあげたいと思っているの。」
微笑みを絶やさないリナー。
「それが新たに進化した、完全なる形の生命体の姿よ。あなた達のような有機生命体は…もう、用済みなのよ。」
「…レイタの言葉が聞きたい。」
リナーは艦長の言葉に肩を上げた。
「どうぞ。…レイタ。」
「…あなた達のリアクションが最近地味でつまらなくなってきたので乗り換える事にしたわ。」
無表情に言い切るレイタ。
がーん。
「「「(こっちの方が説得力あるー!)」」」
「ナンクロを解いている間に勝手にエバンゲリオンが私の手に入るなんて、日頃の行いが良いからなのでしょうね。」
リツコ・クラッシャー艦長代理はブリッジの艦長席に座り、足を組みながら呟いた。
エバンゲリオンは殆どの人員が星に降りた現在ガラガラの状態で軌道上に待機している。
ドクターの後方に立っている女性士官が声をかける。
「ドクター、」
「艦長よ。」
「か、艦長。」
言い直す士官。
「ライカー副長から通信が入っています。」
士官に頷くドクター。
「どうしたの副長。」
「ああドクター、艦長のグループが行方不明だ。艦長は最後に、「ペングの集会場を発見した」という報告をしてるんだが…」
「副長、あれはもう艦長ではなくただのハゲチャビンよ。」
煙をくゆらせながら言うドクター。
「え?」
ドクターは士官に聞く。
「スキャン出来る?」
「…いえ、妨害波が強すぎて…」
「この船はかなり老朽化しているから仕方ないわね。副長、こちらからスキャンは出来ないわ。」
「ドクター!」リツコの前方の操舵席に座っている士官が声を上げた。彼女も女性だ。
「艦長よっ!」
「ああっ、はい、艦長!」冷や汗をかく操舵手。
「前方にペングシップが近づいてきています!」
「あら、それは大変ね。」
足を組んだままタバコを吹かすリツコ。
「副長聞いた? ペングシップが近づいているので、残念だけどあなた達とはお別れを言わないといけないわね。」
「お、おい、ちょっと待て! ちゃんと俺達を回収しろ!」怒鳴り込む通信音。
「あ、あのー、艦長?」
「……そうね…私は元々裏で工作する方が好きな性格だし、ここで敢えて顧客を減らす必然性も無いわ…」
ドクターしばしの熟考。
「あの、本当にペングシップが近づいてきてるんですけど!!」
「…分かったわ、少尉、ペングシップの武器が届かないギリギリの距離までシールドを下げておいて。中尉、その間に可能の限りの捜索チーム人員を転送収容。」
「「了解!」」
前の操舵手が緊張した面持ちで告げる。
「タイムリミットまで後10秒。」
後ろの士官に振り返るドクター。
「何人転送した?」
「後220名です!」
「7、6、5、4、3、」
「転送終了! シールドを張って!」
リツコが命令を下すと同時に巨大エビチュから発射されたビームがエバンゲリオンを直撃する。
「回避行動パターンぢ!」
「了解、パターンぢ!」
急旋回しエビチュからフルパワーで逃げるエバンゲリオン。
そのままクサヤ改めスルメビームを発射し、亜空間トンネルを伝って逃げてきたエバンゲリオンはエンジン出力を標準に落した。
「艦長、どうやらペングは私達を追ってはこないようです。」
栗色の髪を編んだ少尉は、ほっとした様子でドクターに報告する。
「…そう。転送は全員出来たの?」
後ろの中尉に聞くリツコ。
「…いえ、後47名程星に残したままになってしまいました。」
「そう…結構顧客を取りこぼしたわね…」また何やら独り言を呟くドクター。
ペングにフェイザーを突きつけられて、艦長とゲォーフとカウンセラーは建物の中の拘禁室に連れてこられていた。レイタが彼等を先導して歩いている。
「姉の面白さをダウンタウンとするなら、あなた達の笑いは所詮有機生命体の物、プリンプリン程度の面白さでしかないわ。」
無表情に言うレイタ。
レイタは艦長とゲォーフを拘禁室に入れた。
「通信機を渡して。」
3人の胸のバッジを取る。
「ねえレイタ、あなた、「排便感」以外に何か得た感情はあるの?」
レイタはミサトをきっ、と睨み付けると言った。
「排便感以外の感情は存在しないわ。」
「そ、それはいかがな物かと…」
「カウンセラー、あなたは姉と付き合ってもらうわ。」
「え?」
「姉はカウンセラーの事は高く評価しているようよ。」
拘禁室のフォースフィールドを張るレイタ。
「ば、ばいばい…」
艦長とゲォーフに手を振りながら、ミサトはレイタに引っ張られていった。
リナーは建物の外で景色を見渡すかのように立っていた。彼女はペング用のヘッドギアを持ち上げながら、隣りの妹に話し掛けた。
「レイタ、やっぱりあなたって最高よお。あなたの連れてきたゼレンゴン人、あのオヤジなら実験に耐えられるかもしれないわ。」
レイタはリナーの言葉に僅かに表情を曇らせる。
「彼は見掛けによらず虚弱よ。ペング達でさえあなたの実験で何人も死んでいる以上、彼も死んでしまう危険性が非常に高いわ。」
「そーれはねえ。仕方ないのよ、やっぱり。生命体の大いなる発展、進化の為には多少の犠牲は必要でしょお?」
自分の言葉にうんうん頷きながら、ヘッドギアをいじっているリナー。
「…」
「まあ、例えればそうね、雨の日の歩きには多少の他人の傘の犠牲が必要なのと同じような物ね。」
「彼のリアクションはまあまあだわ…」
レイタは小声で独り言を呟いている。
「レイタ。この実験で、将来多くのペング達の命が救われるかもしれないのよ。」
「…分かったわ。」
レイタはリナーを一瞥すると、彼女から離れて行った。
「ふう…」
リナーはそばにいたメイチョウに自分の腕につけていたデバイスで絵文字を示した。
「
(<閉脚後転する><きっちょむさん><は><元><うらりんギャル><置いといて><ちくちくさん><それはない>)
(「どうも妹の様子が気になるわ。彼女の行動は常に見張っておくように。」)
」
「
(<巣を作る><らっぱのマーク><ロンブー><どう?>)
(「了解。」)
」
「くあ。」
メイチョウはトコトコと歩いて行った。
リナーは建物の入り口に目をやると、声を上げ手を振った。
「ああぅっ、カウンセラー、待たせてごめんなさい! あなたを呼んだのは他でも無いわ、前会った時みたく、又飲みましょっ!」
「…私が見た所では、リナーは自分の指に仕込んだスイッチを使ってレイタの快感をコントロールしているようだ。」
拘禁室のピカードはゲォーフに言う。
「彼女のポジトロニック・ミソをコントロールする為に、具体的にどういった装置が必要かまでは分からんが…」
ゲォーフは考え込んだ。
「いや、確かその話はドクターに聞かされた覚えがある。…確か、アブラゲビームというビームで彼女の脳波をコントロール可能だったはずだ。」
「アブラゲビーム?」
小声で聞き返す艦長。
「ああ。リナーからの信号の発信を止められなくても、仮に我々から妨害信号を発信すれば、少佐の脳のコントロールは中和が可能になるはずだ。そうすれば彼女のポジトロニック・ミソに内蔵されている「物語崩壊防止回路」がきちんと作動しだすだろう。」
「しかし、問題は、そんな発信機をこの状況でどうやって作るかだ…」
「何の話をしているの。」
「「ぬわーっ」」
レイタは顔を横に向けた。
フッ
「やっぱり古いリアクションね…」
「「(がーん)」」
レイタは壁のスイッチを押してフォースフィールドを解除した。
「ゲォーフ。来て。ハゲはここに残って。」
強引にゲォーフを引っ張り出し、またフォースフィールドのスイッチを入れるレイタ。
「おい、私だけ置いてどうするつもりだ!」
「…」
「な、何という事だ…さては微熱な果実の私だけ残してウレウレちゃんな所を襲うつもりだなっ!
ああ、何という恐ろしい計画だ…」
頭を振るピカちゃん。
「…さよなら。」
レイタはゲォーフをずるずる引きずりながら出て行った。
マコトはトリコーダーを見て頷いた。
「艦長達はこっちの方向に行ってますね。」
「ねえ、行ったってしょうがないじゃないですかあ。危ないだけですよお。」
ぶつくさ文句を垂れているマヤ。
「いや、艦長は私が自分の手で殺さなきゃいけないんだ。こんな所で死なれては困る!」
リョウジはいつもの台詞をマヤに言う。
「そんな事言って。ほんとは艦長の事好きなんじゃないですかあ?」
副長は少尉の言葉に、急に耳まで真っ赤になった。
「…違う!」
「……す、すいません副長。あ、あの、私冗談のつもりで…」
副長の剣幕に思わず素になるロー。
「あ、あのー、見付けたんですけど。」
ぎろっ
「何だ!」
「あ、いや、そこに建物を。」
副長達が見上げると、丘に確かにドームが建っている。
「…恐らくあれが艦長の言っていた建物だ。行くぞ。」
「くあ。」「くあ。」「くわあ。」
副長達が足を踏み出すと、彼等の周囲を木陰から出てきたペング達が取り囲んだ。
3人はペング達に連行され、地下の洞窟らしき所を歩かされていた。
洞窟の幅が広がり、部屋のようになっている場所に1匹のペングが立っていた。
きゅー、くいっ、んが。
「くあ。」
「君は!」声を上げるマコト。
「
(<冷凍する><ゼンジー北京><L特急><終わる>)
」
「「あなた達はどうしてここに来たのか」と言っています。」
「っていうかこいつ誰なの?」指をさす副長。
「ペンペンですよ! ペンペン・ブルーですよ!」
「ああ!」大声を上げて納得するライカー。
「で、それって誰なんですか?」まだ納得行ってないロー。
ペンペン・ブルーは足をぱた、ぱたと上げながら3人の周りを歩き、「話」を続ける。
<私達があなた方と遭遇した結果得た物は、災いと混乱だけだった。>
「…と言っています。」
「どういう事だ?」
パッドに絵文字を打ってブルーに示すマコト。
ぱ、ぴ、ぽ、ぴ。
「<眠らせる><徳光><35t級><終わる>
(あなた方が来た後、生まれて初めて独立した個々の意識を持った我々は混乱し、不安に駆られていた。私達はむしろ以前より弱くなっていたのだ。そこに現れたのがリナーというアンドロイドだった。彼女は私達に明るい未来を約束した。最初は私達は彼女を心から信頼していたが、その内に、彼女が私達との約束を果たす気など更々無い事が分かってきたのだ。)」
がーん。
「「訳が長いい!」」
ブルーは続ける。
<そのうち彼女は私達を使って人体実験すら始めた。その犠牲者が彼等だ。>
ペンペンが指?差した先には、何匹ものペング達が片手?がもげたり、包帯でぐるぐるになったり、カーネルサンダース風の服を着せられたりした状態で事実上死亡、機械部分のみが未だにギーコ、ギーコと動いている状態で放置されていた。
「…リナーは、この上の建物にいるのか?」
副長がマコトに尋ねる。
ぱ、ぱ、ぺ。
<そうだ。>
「という事はレイタも上にいる可能性が高いな。」
「でしょうね。」
「私達はこれから、恐らくリナーに捕えられているであろう仲間達を救いに行く。と彼に言ってくれ。」
ぱ、ぴ。
「何か段々短くなってないか?」
<そうか。…私達はあなた方を助ける事は出来ない。しかし上へ行く道は教えても良い。>
「分かった。」
ぺ。
<それはともかく、ラ=フォージ、君に又会えて嬉しかった。トロイはどうしている。>
マコトは訳さずに、直接ペンペンに返答する。
<今、上で捕まっていると思うんだ。>
<…そうか。>
「くあ。」
ブルーは少し悲しげに鳴いた。
「ぐわっはっはっはリナーふゃん、しょんれしょのとひのらいひゃーにょかおてょいってゃらふぃふゃふゃふゃふゃふゃ。」(><)
建物の近くの屋外で、さっそく樽ビールをがぶ飲みしながらリナーの肩をポンポンポンと叩くカウンセラー。
「やあっぱりカウンセラーの飲みっぷりにはかないませんわあ。」
「しゃーってにぇもおしゅうったなあもおえっばのきゅりゅーにゃんてぇみんにゃじゃめにゃんどぅくん。ど! どー。むふー。」
「ふふ…(これで潰せば、アル中のこの女は行動不能になるわね…)」
ニヤリと笑うリナー。
「艦隊本部への緊急連絡ブイを発射しました。」
操舵手の言葉に頷くドクター。
「惑星軌道へ戻るわよ。少尉、再び裂け目入り口にコースを取って。」
ドクターは煙をくゆらせながら頭を振る。
「(考えてみたら、艦長、副長、ミサト、皆およそ真面目に代金を支払っていないわね…)」
エバンゲリオンは再び亜空間トンネルに突入した。
「間もなくトンネルを通過します!」
「そのまま惑星に直行して。軌道に着いたら即時、残された捜索チームを転送できるだけ転送するのよ。」
「「了解。」」
声を揃える中尉と少尉。
がたがたがたがたがたがたがたがた、ぴた。
トンネルを通過したエバンゲリオンは惑星の軌道に向かう。
「全ての転送機でスキャン・転送、開始。」
報告する中尉。
「…艦長、元艦長他上級士官6名が位置特定不能です!」
ばきっ
「あいつらとことん踏み倒す気ね…」
持っていたボールペンを軸ごと折るドクター。
「ペングシップが猛スピードで接近中!」
叫び声を上げる操舵手。
「あんですって。シールド張って! 最大ワープ!」
ずがーん。
「きゃあんっ」
椅子から転げ落ちる白衣の艦長。
「ワープコアに亀裂発生、ワープ不能!」
「シールド完全に消滅!」
「予備シールドを張るのよ!」
「了解!」
ずがーん。
「予備シールド60%に低下!」
ドクターは立ち上がった。操舵手のパネルに近づくドクター。
「少尉。ここに進路を取りなさい。最大出力。」
「で、でもそこは恒星の中心ですけど…」
「良いから。合図に会わせて「魅螺苦流死威流怒(ミラクルシールド)」というシールドを展開するのよ。」
「は、はい。」
頷く操舵手。
ずががーん。
「シールド20%に低下!」
「今よ!」
操舵手がパネルを操作すると、エバンゲリオンの周囲を目にみえる程のはっきりしたフィールドが張られた。そのまま恒星の中に突っ込んでいくエバンゲリオン。
「中尉、船の表面温度は?」
呆然とする中尉は慌てて操作を始めた。
「は、はい。現在表面温度は摂氏120度で安定しています。」
「このフィールドは、私が魔女っ娘ヤンキーだった頃に寂しい秋夜の暇つぶしに研究していた物よ。実戦に使えるかどうかは未知数だったけど…うまく行ったようね。」
「ペングシップも恒星の中までは追ってこないようです。」
感心して頷きながら報告する操舵手。
ボーイッシュな雰囲気の中尉は顔を不安気にしかめた。
「でも、ここにずっといる訳にはいかないでしょう。どうされるんですか。」
「今からそれを考えてもらえるかしら。」
微笑むドクター。
「「は、はあ…」」
声を揃える2人。
1人でぶー、といじけていたフユツキの前にミサトが現れた。
「はっ、かっ!」
護衛のペンギンを問答無用で叩きのめすカウンセラー。
「カウンセラー!」
「艦長、今が逃げるチャンスよ!」
ミサトがフォースフィールドを解除すると同時に背後に気配が。
「ごほ、ごほごほ、か、カウンセラー、やっぱりひゃなたここで静かにしてなさひ。ごほ。」
何故か傷だらけで服も少し破けた状態のリナーがフェイザーを構えていた。
「…あ…いやあ私今まで本気で酔っ払った事なかったから知らなかったけどぉ、実は飲むと気が大きくなるタイプみたいでぇ」
「良いから入っでなさい。」
ミサトを拘禁室に入れフォースフィールドを張ったリナーは頭を振りながら出て行った。
「一体どうしたんだね。」
「ああ、ええ、初めてビールを17バレルまで飲んだら、何だか逆に頭が冴えてきちゃって。体力も(教師)びんびん来てるし、今なら何でも出来るような気がして。でもアンドロイドと殴り合いするのはやっぱり無謀でしたね。」
てへっ。
「そ、そう…」
声が上ずる黒タイツ。
ミサトは頭を振りながら両手を広げた。
「でも本当、新しい知識の地平が広がった感じですよお。どんなアップ系の薬でもこんな感覚を味わった事は無かったですもん。ドクターの訳分かんない理論とかでも今なら全部理解出来るでしょうねえ。」
艦長はミサトに小声でささやく。
「そうだ…カウンセラー、「アブラゲビーム」って、知ってるか?」
ニヤリと笑うレイタ。
「実験を始めるわ。」
建物内の実験室で、両手足をがっちりと固定され寝台に寝かされたたゲォーフは必死に頼み込んでいた。
「な、なあ、頼む、わ、わ、私はまだ死にたくないよー。」
テキパキと機材を用意しながらレイタが答える。
「殺す訳ではないわ。あなたは今から、脳の全機能をこのポジトロニック・味噌に移し替える実験を受けるわ。」
「ちょ、ちょっと待て。ミソじゃなくて味噌なのか?」
「ええそうよ。信州産の赤味噌にポジトロニック神経網を申し訳程度に張り巡らせた物よ。」
「やだ! じゃ、やっぱり死ぬじゃん! 僕ちゃん死んじゃうじゃん!」
全身でもがくゲォーフ。しかし固定器具はびくともしない。
「あまり動くと手足を痛めるわ。」無表情に言うレイタ。
「大丈夫。この実験であなたが無事生存する確率は約0.08%よ。」
「じゃダメじゃん! 99%以上死ぬじゃん! ね、ねえ、レイタぁああ。友達だろ、ともだちんこ!だろぉー。一緒に船の銀行強奪したり、競馬で八百長やったりした仲じゃないかよおおううううう。」
泣き叫ぶゲォーフ。全く持って今更だが原作の面影はどこにも無い。
フユツキがフィールドの張られた入り口近くで見張りをする中、ミサトは彼女がいつも隠して携帯している電子鍵開けグッズ等を急いで改造していた。
「こういうのをやると、風賊時代を思い出すわあー。」
頭を振るトロイ。
「そ、そう…」
ミサトは数センチ四方の電子機具を手に持った。
「出来上がり。これで多分、そのゲォーフの言う所の逆アブラゲビームが発生されるはずっすよお。」
「やってみてくれ。」
ミサトは艦長に頷き、その電子機具のスイッチを押した。
「…」
レイタは少し目を開き、しばらく止まっていたがやがて首を振った。
「ゲォーフ、これは生命体の進化の為に必要な実験なの。」
ゲォーフの頭に取り付けるヘッドギアを用意するレイタ。
ピピピピピ…
ミサトの手に持つ電子機具が速い周期で点滅する。
泣き叫ぶゲォーフ。
「れ゛い゛だぁあああああ!!」
はっ
瞬くと同時に、レイタの頭に彼の(物凄く汚い)泣き顔と重なる回想が浮かび上がった。
「エイドリアーーーーーーンン!!!」
あーん、あーん、あーん、あーん。
自分の頭の中に鳴り響く記憶の声にしばらくプログラムの応答が無くなるレイタ。
「…こ、れは、確かに必要な実験なのだけど、必ずしもいますぐの実行を強要する性格の物ではないと考えるのが妥当だわ。」
レイタは呟きながらヘッドギアを置く。ゲォーフの手足を拘束していた装置を解除するレイタ。
「れ゛い゛だぁああごふっ」
レイタにかかと落しを喰らうゲオ。
「誰も抱き付いてくるようには言っていないわ。今回の実験は準備が不足していると考えられるので延期されたわ。」
レイタはそう言うと意識不明のゲオを再び拘禁室へと引きずって行った。
「実験は進んでる?」
今までより心なしかとげのあるトーンで、リナーはやって来たレイタに尋ねた。
「…ええ。」
若干の間を置いて答えるレイタ。
「そう。」
姉妹はまた建物の前の屋外にいた。
「少し質問があるのだけど。」
「何。レイタんこぶすりむいた?」
(色んな意味で)眉を潜めるレイタ。
「…この状況は、明らかにおかしいわ。私は仲間のクルー達を危険に冒し、この連載を崩壊の危機に陥れてしまったわ。」
リナーはフッ、と微笑んで頭を振った。レイタの顔に両手で触れる。
「もう何度も説明したのに、つくづく私の妹は分からず屋さんね。生命体の偉大なる発展の為には、多少の犠牲は避けられない事だと言っているでしょう。」
「連載は置くとしても、」至極あっさりと譲歩するレイタ。
「ゲォーフ大尉のような個性的な顔の持ち主を失うなんて、余りに代償が大きすぎると思われるわ。」
「はー。」
レイタから手を放し、溜息をつくリナー。
「あなたは私の言う事には疑問を挟まず、ただ従っていればいいのよ。私は今まで20年間感情とともに暮らしてきたわ。そして私の頭脳はあなたの物と構造は同じ。つまり私は、あなたと同等の知性の上に感情すらを併せ持った存在なのよ。その姉の言っている事が信じられないの?」
リナーは首を振った。
「レイタ。私があなたをどれだけ可愛いがっているか。あなたが私を宇宙に放り投げた事も水に流して、私はあなたが長年欲しがってきた「感情」を無償であげているのよ。使用期限も無しで。」
「…」
どうやら懐疑的な様子のレイタに、リナーは最終手段に訴える事にした。
「レイタ。それともあなたは、この快感無しでこれから我慢できるのかな?」
自分の人差し指の爪を開き、内蔵されている発信機のつまみを絞るリナー。
「ううっ」
レイタは急に歯を食いしばり苦しみだした。
「あら、どうしたの? ついこの間まであなたはこの感覚無しでやって来たんじゃなかったの?」
「…」
うつむき、無言で頭を降り続けるレイタ。
どうやらこのアンドロイド、ここしばらく一日24時間排便感のとりこになっていたらしい。
「分かったわ、元に戻して上げる。」リナーは指のつまみを元に戻す。
「分かった? あなたの感覚は私の感覚。私はあなたの欲しい物、考えている事は何でも分かるのよ。」
微笑むリナー。
「……分かったわ。」
心なしかよろよろとした様子でレイタは建物に戻って行った。
リナーは頭を振って、メイチョウに絵文字で話し掛けた。
<彼女は私達とは一緒の考えを持てないかもしれないわ。>
<そうか。>
リナーはかがみ込み、メイチョウの翼を撫でる。
「やっぱり人間の男はダメよ。シンちゃんに振られてから分かったわ。その点あなたは知的かつワイルドで」
ばこーん。
メイチョウはハリセンに伸びたリナーを後に建物に戻って行った。
「シールドの出力は、もう後数分しか持ちません。」
中尉がドクターに言う。
パズラーから顔を上げるドクター。
「あらそう。で、何か方策は見付かった?」
「あ、あの、艦長、今データベースを調べていたんですが、面白い記事があったんです。」
後方のコンピューター操作パネルにいた操舵手がおどおどしながら言う。
「どういった?」
「これです。」
図を示す少尉。
「「コルボード・スカンクバースト」?」
始めて聞いた、と言う表情のドクター。(つくづく息子さんは不憫である。)
「ええ。何年か前、艦隊の学校で練習飛行でこれをやった候補生達がいて事故が起きたそうなんですが…確か、私の2年下の後輩達だと思います。アストラル点火剤のブタネティオールを噴射するという…」
「あなたは事故の記録を元に同じ事を提案するのっ?」
「す、すいませんゴメス中尉…」頭を下げる操舵手。
「いや、これは中々面白いわ。」
目を広げるリツコ。
「恒星を出てから即、恒星から、すぐそこで今も待っているペングシップまでの間にこれを充満させるのよ。私の私用倉庫にそれなりの分量があったはずだから、それを使うと良いわ。そうすれば、彼等が火器を発射した途端、自動的に恒星のコロナが彼等を包む事になるわね。」
ゴメスは食い下がる。
「し、しかし、これでは下手をすればエバンゲリオンまで爆発する恐れが…」
「リスクは承知の上よ。これより良い代案があるなら検討するわ。中尉、残り時間は。」
「え、」パネルを見直す中尉。
「後1分切りました。」
「やるわよ。少尉、操舵席に戻って。エバンゲリオン、最大出力で発進。」
「了解。」
巨大ビール缶の待つ外へと飛び出して行くエバンゲリオン。
「ブタネティオール噴射!」
ドクターの言葉に合わせパネルを押す少尉。エバンゲリオンの軌跡に、もわあああっと黄色い雲がかかる。
次の瞬間、恒星のコロナに包まれビール缶は爆発した。
「少尉、あなた凄いわ! …あ。」
思わず口にするゴメス中尉。
「あ、ありがとうございます。(ドクターの倉庫でなく、間違えて隣りのカウンセラーの食糧倉庫の中身を転送してしまったのだけど…なぜ成功したのかしら…)」
呆然として答える少尉。
「あなた、名前は何というの。」
「え、あ、マリエです。マリエ・ラベル少尉です。」
ドクターに答える少尉。
「ま、り、え…ら、べ、る…駄目ね、全然ヒントにならないわ…」
がーん。
「(クロスワードのネタですかあっ!!)」
「次はあなたの番よ。」
ピカード、カウンセラー、(さきほどレイタに投げ込まれた)ゲォーフのいる拘禁室に現れたレイタは、ピカードを指差して言った。
「御指名とは、参ったっちゃね。」
「…」
無言でフォースフィールドを解除、ピカードを連れ出してまたフィールドを張るレイタ。どこか苛立っているようだ。
「なあレイタ、君は生命体の進化の為には犠牲が必要だというが、その考え方で本当に君は納得しているのかね?」
「…」フユツキを連行しながら、横目で彼を見るレイタ。
「私のようなハンサムかつヒデちゃん並に面白い熱血ボーイを殺すつもりか? 私を殺したら、もうあの弾けるようなアトランティス・ジョークは聞けなくなってしまうぞお。」
「…」
段々冷や汗をかきだすピカード。
「な、なあ、頼む、本当に頼むぞ。まだ「サイバー美少女テロメア」全話見てないのだよ!
殺すならあれを見終わってからにしてくれ給え!」
「…着いたわ。」
レイタは呟いた。
レイタとピカードは、ピカード達が最初に入ってきた例の講堂のようなドームに来ていた。ここにいるペング達が全員やってきたようで、彼等の周囲を取り囲んでいる。
「レイタ。」そこにリナーがいつも通り微笑みながらやって来た。
「私を一体どうするつもりだ。」
無視して妹に話かけるリナー。
「レイタ、あなたには今、迷いが見られるわ。そしてその根源はこのハゲよ。違う?」
「…」
答えにくいのか、無言でリナーとフユツキを交互に見るレイタ。
「そこであなたに、この辺りで諸悪の根元と縁を切ってもらおうと思うの。」
手に持っていたリモコンを操作するリナー。彼女の操作で壁面に絵文字が大きく映し出される。
<私の妹がこれから、彼女を苦しめていた原因と決別するわ。>
「くわっ」「くわっ」「くあ」「くわっ」「くわー」
口々に何かを言っている(が、人間には何を言っているのかさっぱりな)ペング達。
リナーは妹に微笑みかける。
「さあレイタ、このフェイザーでそのハゲをプチ殺すのよ。」
レイタは驚いて顔を上げた。
レイタにフェイザーを渡すリナー。
「…」
レイタは恐怖に固まって1ミリも動かなくなっているフユツキに、ゆっくりとフェイザーを向ける。
「…」
「さあ。」
やがてがちがち震えだすフユツキ。
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちどさっ
「「「あ」」」
入れ歯を落すピカード。
「「「…」」」
フユツキは黙ってしゃがみこみ、恥かし気に入れ歯を自分の口に入れ直す。
「…出来ないわ。」レイタはフェイザーを降ろし、リナーに返した。
「どうして!」
「…私は彼のリアクションに慣れてしまったのね。今のは結構ツボだったわ…」
哀愁を漂わせ頭を振るレイタ。
リナーは溜息をついた。
「分かったわ。あなたがそう言うのは正直、少し予想していたわよ。」
リモコンを操作するリナー。
<今まで多くの犠牲を払ってきたあなた達のかわりに、今日は私が犠牲を払うわ。>
ペンギン文字を読み、リナーを睨むレイタ。
「そう。今日私が犠牲にするのは、自分の可愛い妹よ…」
リナーはフェイザーをまっすぐ妹に向けた。
「残念だわ、あなたとは1回世界まる見え立体麻雀と愉快な仲間達を対戦したかったのに。」
リナーはフェイザーのスイッチに指を置いた。
「…」
その時何かの異変に気付いたリナーは頭を上げて
「ぬわああああああああああああああぁぁぁぁああああああああああぁぁああああああーーーーーーーー!!!!」
黒ひげ危機一髪よろしく首だけびよよーんと飛んできたフユツキに腰を抜かすリナー。そのまま落下するフユツキ首に顔が衝突(そして熱い接吻)。
「むぐ、むぐ、むぐー!(訳:こ、こら! 離しなさーい!)」
びゅん、びゅん、びゅん、びゅん。
それを合図に物陰に隠れていたライカー、ラ=フォージ、ローが現れ、ペング達へフェイザーで攻撃をする。
「くわっ!」「くわ!」「くあ」「くわああ!」
右往左往するペング達。別の方向からはペンペン・ブルー達もライカーに加勢してきた。
ふと姉が消えた事に気付いたレイタは、彼女を追ってホールを後にする。
「あら、レイタ。」
リナーは背後の気配に気付き、微笑んだ。彼女は椅子に座り、何やらコンピューターを操作している。
「何をしているの。」
「見ての通り、非常用ロケットで逃げる準備をしているのよ。」
振り向くリナー。
「ねえレイタ、一緒に行く? あなたは私のたった一人の妹だもの、今までの事を全部ジェット噴水流で流して連れて行ってあげても構わないわ。」
一歩一歩近づくレイタは、凍った表情でゆっくりと首を振る。
「意気地にならないの。実はね。私はスーン博士から、あなたの分の感情チップをもらってきたのよ。これを手に入れれば、あなたも完全な人間の感情が…」
話しながらリナーは自分の爪のつまみのボリュームをMAXに上げた。
「はあっ」急な(排便の)快感にけいれんするレイタ。
さっ
隙を突いてフェイザーを撃つリナー。
「え?」
もう1度レイタに向けてフェイザーのスイッチを打つ。
「な、な、な、何よこれえっ!」
リナーはふと前のレイタに気付き、彼女を見て固まった。
「ひゅーーーーーーぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽーん! ひとおーつ!
ヒルの養殖始めましたぁ! ふたあーつ! フックン銅像並ぶ国ぃ! みーっつ!
みっちゃんみちみちセールスレディ! その心はぁ、無し!
ネオレイタ仮面RR(ラールー)参上!」
割れたメガネをかけて絶叫するレイタ。
「や、やっぱりこれが来たわ…」
「プログレッシブバン…ドメンバー募集当方木琴っ!」
何やらシップのような物をリナーに投げ、巻き付けるネオレイタ仮面RR。
「う、臭っ!」
「ついでにフェイザー!」
びしゅん。
「ううっ!(訳:最初からそうすれば良いでしょっ!)」
ばたん。
電荷のオーバーロードによるショックで倒れるリナー。
(いつのまにか元に戻った)レイタはリナーに近寄り、彼女に語り掛ける。
「ごめんなさい…お姉さん。」
「…私を活動停止させたら、もうあなたは感情を持てなくなるのよ…」
「でも、あなたは私にこの選択肢しか残してくれなかったわ。」
レイタはリナーの右の乳首を押す。徐々にエネルギーが切れていくリナー。
「わたし…は…ほんとうは…あなたを…しりたかった…」
「何?」
「ここでの…けん…きゅうは…ぜんぶあなたの…そのれいたかめんの…ひみつを…しるためだったのよ…」
「…」
「…あなたのそれをみると…わたしは…かなしばりに…あったように…うごけなくなって…しまうの…」
目を見開くレイタ。
「…これは、レイタ仮面は、何の技術でもないわ。単に勢いで相手のすきをついているだけ。セクシーコマンドーという武術の一派よ。」
「…そう…だったの………れいた…」
「何?」
「…あねとして…わたしは…あなたを…あいしているわ…さよなら……それから…ゆい・けーらーというひとは…じつはああああ」
電池の切れたウォークマンのように急に声が遅く低くなり、リナーの言葉は止まった。リナーの目のバックライトが完全に消える。
「…さよなら。私もお姉さんを愛しているわ。(見た目自分にそっくりだし。)」レイタはリナーにささやいた。
<ペンペン、水臭いじゃないか。どうして言ってくれなかったんだい?>
<直前になって気が変った。>
戦闘の終わったドームでは、マコトとペンペンが会話していた。ここのペング達もリナーには疑問があったようで、その多くがすぐに投降したのだ。
「リナーは活動を停止したわ。」ドームに戻り、ピカード(もちろんすぐに体は元に戻っている)に歩み寄るレイタ。
「やはり艦長達のリアクションの方が面白いので、戻る事にしたわ。」
「有り難うレイタ。その言葉はアトランティス・ジョーカーとして嬉しいよ。」
レイタと艦長は握手をする。
「…リナーはフェイザーを私に撃ってきたのだけど、偶然フェイザーの機嫌が悪く、難を逃れたわ。」
「機嫌?」
「ええ。恐らくリナーのフェイザーは長時間アブラゲ光線にさらされて、機械とはいえそれ自体で原始的な感情を持ち始めていたのではないかと推測されるわ。」
レイタの説明に艦長は頷いた。
艦長はペンペンに声をかけた。
「ブルー、君達はこれから一体どうするんだ?」
ぴ、ぽ、ぱ、ぴ。
ペンペンがマコトの通訳に答える。
「
(<今すぐお電話><百葉箱><センコウチュウ><何をかいわんや><兄が激白><貴さん><終わる>)
(「分からない。もう私達は集合体に戻る事はないだろう。しかし、ここでもリーダーがいない状態なので、これからもしばらくは混乱が続くかもしれない。」)
」
「そうか? 私には、良いリーダーの候補は、いるように思えるがね。」
ぱ、ぽ、ぱ、ぺ、ぴ。
ペンペンはそれには答えず、「くわ」と鳴いて絵文字を入力する。
「
(<エマニエル夫人><かしこ><ビッグ・バン><ロミヒー>)
(「あなた達も、元気で。」)
」
「ああ、君達も元気でな。」
フユツキはペンペンと握手?を交わした。
「…にゃー。」
エバンゲリオンの自室で、レイタは容器の中の基盤を眺めていた。飼い化け猫のプチットがレイタの頭の上に乗っている。
「…」
ぽろろん。
「どうぞ。」
「ふぎゃー。」
レイタが顔を上げ(プチットが頭から落ち)ると、すっかり回復したゲォーフが立っていた。
「構わんか。」
「ええ、もちろん。」
「その…バイトの事を口にして悪かった。」
「構わないわ。」
ゲォーフはグラサンを上げると、レイタに尋ねる。
「それは何だ。」
「リナーが私に渡そうとした感情チップよ。」
「…」机の上に置かれた、小さなガラス容器の中の基盤をしげしげと眺めるゲォーフ。
「私はこれを破壊するわ。」
レイタの言葉に驚くゲォーフ。
「少佐! 何故だ! 感情を持つのは少佐の夢だったのではないのか?」
「ええ。でもその願望の為に私は、貴重なコメディアン達を失ってしまう所だったわ。」
容器からやや離れ、フェイザーを構えるレイタ。
「止めろ!」
ぴぎゅー
「ぐわああああっ!! 熱う熱熱っ!」
ちょっと手で止めるタイミングがトロかったので思いっきりフェイザー光線を受けるゲォーフ。
「そうよ、そのリアクションよ。」
冷静に頷くレイタ。
「みゃー。」
倒れるゲォーフの顔の上に死の天使(プチット)が覆い被さっている。
「(…ところでゲォーフ大尉は、この「完全版」感情チップが排便の快感と、レジで並んでいる時にスポーツ新聞を買うお客だけ勝手に先に行ってしまう不快感と、せっかく電車を一本遅らせて待っていたのに自分のドアの降りる客が遅いので結局椅子に座れなかった寂しさ、の3種類の感情のみを扱っているという事は知っているのかしら?)」
レイタは軽く小首を傾げると、「次はラ=フォージ少佐のリアクションを試そうかしら」と呟きながら容器を元の場所に戻した。
つづく
次回予告
シンジの体は逞しく成長し、顔も大人びてきていた。あの夏から2年後。子供達は高校生になっていた。アスカは高校に入る前の段階で母国ドイツに帰る事を選択。ヒカリは第二東京に引越し、2年前の「事件」を知る者は少なくなってきていた。レイはシンジの前では以前よりはよく話すようになり、彼女なりに彼の世話を焼くようにすらなっていた。一方シンジは以前にも増して人と付き合わなくなり、毎日ただ黙々と陸上の練習をしていた。ある日レイはシンジに今の自分達が「付き合っている」のかどうか問いただそうとするが、明確な答えは得られない。「今はこれで良い」と自分を納得させるレイ。彼女は孤独なシンジの心を癒そうと、市内の違う高校に通うトウジにシンジと話すよう頼み込む。渋々了承するトウジ。しかしシンジは閉鎖的な態度を崩さず、2人は表面的な挨拶だけですぐに別れてしまう。それを見たレイは、今の彼にとって自分以外に「友人」のいない事を改めて知らされ、何故か嬉しい気持ちになるのだった。次回「真夏の子供達」第25話、「thirst」。御期待下さい。
本当の次回予告:特に無し。
「こんにゅちわ。皆さんいかがお過ごしでしょうかねえー。」
「…」
「…」
「…」
「何かあの、挨拶とか…」
「何が?」
「…良いです。それでですね。今回(っていうか最近)内容に関しては、特にコメントとか無いんですけど、前回言ってた、ここにリンクして下さっている関係の方々を色々とご紹介していきたいと思うのですよ。」
「そう。」
「まずですねえー。スタートレック関係のページで、ここって載ってるんですよねえー。(^^)
「U.S.S. Kyushu」と「魔界都市エンタープライズ」というページに載ってるですよ。まあ最近この連載もずんずんエヴァ要素が無くなってトレトレ(まるしーまっこう氏)になってますから、今だったらエヴァしか知らない人とスタトレしか知らない人なら、後者の方の方が読みやすいかもしれないですね。」
「それがめぞんEVAに載ってるのね。」
「う。いやぁ、まあ、その、ほら、これからのエヴァ小説のとれんどはキャラだけエヴァ系だって言うじゃないですか。物の文献によると。」
「…」
「そう、で、両方ともひいきめでなく、日本語としてはすごく良いスタトレページなのでお勧めですわ。U.S.S.
Kyushuはエヴァ小説リンクページなみに毎日更新をチェックしてくれるリンクがあるし、魔界都市エンタープライズだと名珍場面集が特にお勧めですね。エヴァトレをここまで読んでいるけど未だにスタトレは見た事が無い(見る気も無い)という人は、取り敢えずこれを見ておくと良んではないかと。」
「…」
「(電源切れてるのか?)それからですねえ。これは何でも、「精神系」っていうくくりのページらしいんですけど、「pyloriworld」。このページのオーナーは超可愛い!
もうキャーッ!好きにしてーっ!って感じっすわ。」(><)
「…」
「この人頭も良さそうだし。つくづく彼女が福岡人だった事が悔やまれますねえ。もう少し近場の人だったら絶対「攻め込んで」たんですけどねえ…(まだ本人が最新話まで読み進んでいない事を知っているので言いたい放題)」
「…」
「と言う訳でこのスペースで自分のページの宣伝をしたい人は連絡してねーっ!」
「「そういった用途にはお答えできません。m(__)m」」
「はあ?」
「大家のコメント予想よ…」
「…(^^;」19秒後作者死亡。(死因あそうそう、鯖さんが文句付けてる野火さんってどういう人か知らなかったけど、「センチメントの季節」の作者さんだったんですね。)(死因じゃない。)
以下次回