「最近の天下は奇ッ怪な事象が毎日の様に起こって居るな。」
聡明そうな顔つきの侍が頭を振った。
「奇ッ怪な事象? 其れはどう言った話で? 確かに最近、物騒な話は良く耳にしますが?」
もう一人の侍…彼はより若く、どこか飄々とした雰囲気だ…が尋ねる。
蝋燭の光がゆらゆらと揺れ、二人の顔に濃い陰影を映し出す。
両手を禅者の如く組んだまま、男は考えに耽る。
「其う、物騒な話だ。最近の世間は騒がしい。やれ攘夷だ、佐幕だ、尊皇だと夫々が己が論を繰り返し、相手への聞く耳など持たぬ。其の結果が至る所で巻き起こる権謀術数、腹の探り合いに騙し合いだ。今こそ団結が必要な時だと言うのに、嘆かわしいとは正にこの事。」
「然し、勝先生の論は他の者より理を得ていると思うのですが?」
「幕府の御老中方に其う言っては呉れぬか。然し大久保殿、今私が話しているのは実は其の事じゃ無いんだ。実はな…最近この界隈、「出る」らしいのさ。」
「「出る」?」
勝は面白そうにふん、と鼻を鳴らした。
「何でも、原宿の森の洞窟から毎夜現れ、人の生き血を吸うとか言う話を耳にした。今月でもう十四人だか、やられちまったそうさ。専らの噂だよ。」
「…先生、まさか其んな流言を本意で信じてはいませんでしょう?」
「流行り病いのせいだと言う話もあるが、どうもおかしい。私の察する所…これは幽霊の姿を借りた殺しだな。」
「何と!…」
「私が物騒と言うた意が分かるだろう? 然も参った事はだ、誰が何の目的で殺っているのかが分からねえ。」
「只の物盗りじゃ無いんですか?」
大久保の質問に勝は難しそうな表情になった。
「…十四人が十四人、見た様は病死だ。物盗りは其んな手の込んだ事はしない。」
「偶然、病気の死人が多かったという事は?」
「…其うかもな。私が神経を尖らせているだけかもしれん。」
勝は少し疲れたように息をついた。
今宵の江戸は満月だった。
―宇宙。そこは最後のボランティア(意味不明)。これは、宇宙戦艦エバンゲリオン号が、新世代のクルーの下に、24世紀において概ね任務を続行し、未知の世界を探索して、新しい生命と文明を求めるふりをしつつ、人類未踏の宇宙に、アバウトに航海したりしなかったりする小話である―
「この洞窟の奥で、たまたまセパタクローをやっていた民間人が、奇妙な物が落ちていると連絡してきたわ。」
ピカード、ライカー、レイタ、ゲォーフ、ドクター、ラ=フォージ達は、薄暗い洞窟の中を歩いていた。皆それぞれトリコーダーをかざしている。
「奇妙な物?」寝不足らしいドクターがあくびを噛み殺しながら聞いた。
「ええ。化け物のような妙な物体だと発見者は言っていたそうよ。それ以上の具体的な情報は無いわ。」
「しかし、エイリアンが来たのが何で現代じゃなく500年前だと分かるんです?」
どこで何をしたのか分からないが既に頭部から流血しながら、平然と聞くマコト。
考古学に素養のあるらしいビューティーが、葉巻をくわえながら器用に答えた。
「その物体のすぐそばに19世紀の日本の短刀があったそうだ。そもそもこの洞窟は入り口が何かの影響で、まあ多分地震だと思うが、塞がってしまってな。それ以来数世紀に渡って存在が忘れ去られて来たのだよ。ごく最近に油田掘りマニアが偶然発見をするまではな。」
「なるほど。」頭を(無意味に)真っ赤に染めながらマコトが頷く。
トリコーダーの反応にゲォーフがニヤリと笑った。
「この方向に地球人の物とは異なるTMR反応が見られる。」
ゲォーフと同じ方向にトリコーダーを向けるレイタ。
「生命反応は見られないわ。待って…TMRとは別に、微弱なELT反応が見られるわ。」
一行は洞窟の奥の方向に進んで行く。
「あっ」
レイタが小さく声を上げた。何かにつまづいたのだ。彼女は地面を見た。
そこには錆び付いたレイタの首が転がっていた。
マコトは心なしか沈んだ顔で報告した。
「結論から言うと、この首はレイタ少佐の物です。」
エバンゲリオンの機関室で、レイタとマコト、ビューティーはレイタの生首を囲んでいた。
「リナーや、他のアンドロイドの物である可能性はないんだピー?」
千秋(艦長)が尋ねた。
「いいえ。彼女達ハックナル型アンドロイドは、それぞれ固有のIDパターンが記録されています。作るラーメンの味が違うんです。」
「…私はチョコレートラーメンチョコレート抜きのニンニク風味のみを作るわ。」
レイタがマコトの説明に頷く。
「…そしてその首のメモリーにも同じラーメンの制作プログラムがあるピーか。」
「その通りです。これは間違いなくレイタ少佐の頭部です。」
「論理的に矛盾しているピー。」
「それでも事実よ。」
レイタが他人事のように言う。
「恐らくですから、これから先いつか、レイタが過去へタイムスリップする事があって、その時に、レイタは…」
マコトを言葉を濁した。
レイタは自分の生首を手に取り、口を閉じたままじっと見つめる。
「レイタ、気持ちは分かるピー。」
沈痛な表情で声をかける千秋(のりピー)。
レイタはふいにニヤリ、と笑った。
「改めてこうやって見ると、私の絶対的な美が再確認されるわ。うふふ、何て綺麗な顔立ちなのかしら、うふ、うふふーふーふーふーふーふーふーふーふーふー」
ぽっ。
「「(自分の顔見て顔赤らめてるよ…)」」
「可変種か。」
メッコールを飲みながら副長が聞く。
「ええ。本物のカウンセラーと同じね。」
「彼等のTMR反応は、ペリディア2号星の環境下で見られる物とほぼ同一です。」
「ペリディア2号星? あそこで、生命体は発見されていないはずだが?」
メダルをぶらさげたピカードがマコトに尋ねる。
「ええ。ただもし何か可変種的な生命が存在するなら、調査で発見されなかったという可能性もあります。」
ピカードは頷いた。
「なるほどな。それではペリディア2号星に到着次第調査を開始してくれ。上陸班は、ライカー、ドクター、ゲォーフ、ラ=フォージ、カウンセラーだ。」
レイタは眉を上げた。
「待って。私は。」
「レイタ、君はブリッジでデータの解析をしてくれ給え。」
レイタは少し考える様子を見せてから答えた。
「…この状況下では私も上陸班に加わるのが一般的だわ。もしあの首の事が気になっているのなら、心配する事は無いわ。私が死んでも代わりは」
「いないだろ。」
ムカ。
レイタは少し低い声で言った。
「私は自分のコピーがいるなんて耐えられないもの。相手がドクターでもこれだけは譲れないわ。」
「それを譲らないでドクターと対抗して生きていけるクルーは君だけだからな。」
ムカムカムカ。
ぼきゅっ。
「…とにかく私も上陸班に加わるわ。行きましょう。」
クルー達はビューティーの屍を残し解散した。
ぴぎゅうううういいいいん。(転送の新SE)
ペリディア2号星の洞窟に彼等は転送された。
上陸班は地球の時と同じように各自トリコーダーで調査をしている。
「TMR反応増大中…でも、生命反応は無いのね…おかしいわ…」
うぃーっぷ。
「何かの生命体の意識を感じるわよお。」
クルー達はカウンセラーの言葉に顔を合わせた。
例によってバスローブ姿+湯気(科学的原理は不明)のミサトは、揃って自分の方を向くクルー達にややギョッとしながらも指をさす。
「向こうの方からよ。」
「TMR反応も同じ方向からのようだ。」ゲォーフが頷く。
一行がトロイのさした方向にしばらく歩いて行くと、やがて広場のような大きめの地下空間に出た。
「ここに何か生命体がいるわあ。」
「でも、センサーに反応は特に無いですね。」眉間に皺を寄せるマコト。
「バイザーには?」
レイタの質問にマコトは頭を振った。(そして血しぶきを上げた。)
「いえ、何も見えません。ごく普通のスチロール岩です。」
「そう。」
カウンセラーは口をとんがらかした。
「でもいるわあ。そうね、4、5人かな? 何だかリラックスした感情を感じるわあ。」
「…つまり、一体どういう事なんだ。」
マコトはリョウジの質問には肩を上げるのみで苦笑した。レイタはふと、両耳をピカッと光らせた。(ひらめいた時のリアクションである。)
「エバンゲリオンのセンサーによると、この星は常にELT反応に一定の乱れが見られる事が確認されているわ。つまり、この星に存在する物は私達とはフェイズパターンが異なる可能性が非常に高いわ。」
「な、何だ? 結局それでどういう事なんだ?」
マコトはレイタの説明で「ああ」と頷いた。
「つまり、この星の生命体は、数秒か、コンマ数秒、僕達の世界と「ずれた」世界に住んでいるんですよ。」
「それでお互いに相手が見えないという事?」
「その通りですドクター。でも、イソノケフィールドを張って、転送のパターンバッファーを応用すれば向こうの世界に行く事は可能なはずです。あ、でも…」
「何だ?」
マコトは腕組みしながら答えた。
「マギではそこまで高精度な作業は、簡単には出来ませんね。」
「私がいるわ。」
一同はレイタを見た。
「私のポジトロニック・ミソなら充分そのような処理も可能と思われるわ。」
「…」リョウジはしばらく黙っていたが、やがて頷いた。
「分かった、やって見てくれ。」
「はい。」
すうふんご
マコトはレイタの頭部表皮の「フタ」を開け、船から転送させてきた器材とコードで何やら繋げている。
「…これでレイタへの接続は完了しました。僕は今からレイタのミソへの負荷をチェックします。ミサトさんは生命体の状態に変化が無いか気を付けてみて下さい。」
「…マコト君、少しは血ぃ押さえたら?」頷きつつ呟くカウンセラー。
「通信機を改造したのである程度の時元を越えて通信は可能よ。ただしこちらからの発信のみで受信は出来ないわ。」
でんろく豆の袋を持ちながら頷く副長。
「分かった。」
レイタが呟いた。
「調査開始。」
レイタの周りに何本か立てられた棒状の器材で、レイタの周囲にイソノケフィールドが形成される。それと同時にレイタの姿が、まるでゆっくりと転送をするかのようにゆらぎ、段々薄らいでいく。
「現在フェイズ位相差0.01秒。何も確認出来ないわ。位相差0.02秒に移行。…駄目、何もいない。」
レイタの姿が徐々に半透明になり、やがてクルー達から見えなくなった。
「0.04秒…0.08秒…0.2秒…0.4…0.6…」
段々と通信にもノイズがまじるようになってきた。
ライカーはラ=フォージに聞いた。
「器材はどの位の差までもって行けるんだ。」
「さあ…レイタのミソの処理能力次第ですね。」
「0.8…1.0…1.4…2.0…」
通信にはかなりノイズがまじり、聞きにくい状況になっている。
「生命体を確認。」
姿の見えないレイタの声が響く。
「この空間の奥、私達の入ってきた入り口から向かって右手の方向よ。人間ほどの大きさで、見える範囲で、4体いるわ。動く気配は無いわ。こちらには気付いていないように思われるわ。」
「感じられる感情は穏やかで、変化は無いわあ。」
ミサトがリョウジに付け足す。
「彼等は何かの機械の周囲に座ってじっとしているわ。おそらくその機械から栄養を摂取しているものと推測されるわ。」
その時通信のノイズが一段と激しくなった。
「大丈夫か、レイタ!」向こうに聞こえないのを忘れて声を上げる副長。
「…円…左…い…だ……が確認…るわ…恐ら…磁気…えいき……」
ずざーーーーーー。
通信音が途絶えかと思うと、急にイソノケフィールドが崩壊し、レイタの周りに立てていた棒状の器材が倒れた。
レイタが立っていたであろう地点には、レイタの通信機のみが現れた。
レイタの自動再起動スイッチが作動し、彼女は目を開いた。
「…」数秒無言で自分の動作チェックを実行するレイタ。特に問題は無いようだ。
寝転がっていた彼女は起き上がり、周囲を見回した。
そこは19世紀の日本の往来であった。
「マギデッキ、プログラム終了。」一応呟いてみるレイタ。しかしプログラムではないようだ。
レイタは軽く溜息をつくと、往来をそのまま歩き出した。
「(大都会ね。江戸かしら…)」
連邦艦隊ユニフォームのレイタは周囲の視線を集めながらぬぼーっと歩き続ける。
「号外だ! 号外だ!」
新聞の売り子の周りに人が集まっている。
「不敬なえげれす人がまた斬られたぞ! 詳しくはこれを読みやがれ!」
レイタは近くに落ちていた新聞を手に取った。
「坂本屋天下事象瓦版…文久二年八月二十七日…1862年ね…」
レイタは新聞を折って持つと、近くに「旅篭」の看板を見付けて歩いて行った。
「泊めてくれる。」
レイタがのれんをくぐると、旅篭のおかみは見てはいけない物を見てしまったかのような顔で硬直した。
レイタはおかみの様子に一瞬考えると、無表情のまま続けた。
「怪しい者ではないわ。越後から来たの。兄上がここで剣の修行をしているのだけど、急用が有って会わなくてはならないの。」
「…そ…そうかい…め、目が真っ赤だけど、大丈夫なのかい?」
レイタが普通の日本語を喋る事に少し安心したらしいおかみが聞く。
「…ええ。私の村では、これが普通よ。問題無いわ。」
レイタはおかみに微笑んでみせた。
「なら良いさ。いや、最初は異人かと思ったよ。そんなのは怖くて泊められないからねえ。」
「異人ではないわ。」
「そうかい。じゃ、前払いで五両。」
「…(この時代は通貨が必要だったわ…)」
手を出すおかみ。
「無いのかい? じゃ、駄目だね。さあ、帰った帰った。」
レイタは座敷の一角で何やら声を上げている男達を見やった。
「彼等は何をしているの。」
「ああ、あいつらかい? 花札だよ。昼間っから仕事もしないで下らない事ばっかりしてるんだ、これだから男ってのは…おい、ちょっと!」
レイタは靴を脱ぐと彼等の前に立った。
「入っていい。」
男達はお互いの顔を見合わせた。
「お前さん、どっから来たんでい。」
レイタの後ろからおかみが答える。
「越後だって言うんだよ、でも、金を持ってないらしいのさ。」
男の1人が言う。
「そりゃおかみ、可愛い娘さんが越後の山を越えてきたんだ、一晩くれえ泊めてやったって良いじゃあねえか。」
「そういう訳にもいかないんだよ、こっちだってあんたら貧乏人に居座り続けられてるから、台所が苦しいのさ。」
「心配する事はないわ。…あなた達、賭博をしていたのでしょう。」
「当たりめえだ、金を賭けねえ花札があるかい。」
「私が勝って宿泊費を得れば問題は無いわ。私はプロ…うまい、わ。」
「ほーう。」
男達はスペースを空けた。1人が首を動かして「座れ」と示す。
「ありがとう。」
「おめえ、ことばが越後とも違うなあ…」
「…ええ、とても山奥の村で、他の村とは言葉がかなり異なるわ。」
「へえ、そうかい…しかし妙ちきりんな服だな…」
「そう? そうかもしれない。」
彼等は花札を再開した。
個人日誌、レイタ記録。宇宙暦…内部時計によれば45972.3。1862年の江戸に来て74時間32分6秒が経過。クルー達が私を探してここに来る可能性が高いと推測されるが、通信機を欠いているので連絡不能。この時代の道具で代用品を作るのは困難だが、挑戦するより他ないと思われる。
「何、ぶつぶつ言ってんだ?」
旅篭の一室で、青年が白い着物(趣味らしい)でお茶を飲んでいるレイタに声をかけた。
「何でもないわ。…あなたは何故、ここにいるの?」
「何故って。ここで掃除とか、洗濯とかして、小遣い稼いでんのさ。後は旅篭のお客の、色んな頼みごとを聞いたりとかだな、」
ずずーっ。
「私は特に頼みは無いわ。」
「おれいたちゃん、つれないねえ…分かったよ、じゃあ、邪魔なようだから、おいらは厨房にでも…」
「待って。」レイタは部屋を出て行こうとする青年を止めた。
「少し待って。」
レイタは急いで、筆でさらさらと何やら書いていく。
「金物屋や石屋に行って、これらの物を揃えてくれる。」
青年はレイタの書いた巻き物を見て眉をひそめた。
「な、何だいこりゃ、高い物ばかりじゃないか! 銀2斤、錫6斤、金、銅、ロウソク、竹、かんな、」
読み上げていく青年。
「…ビードロだって!? 一体こんな物、何に…」
レイタは青年の耳に近づき、小声で話し始めた。
「実は私は最近まで、めりけん国で学んでいたの。これらの物で…医療器具を発明しようと思っているわ。」
「エレキテルか?」
レイタは頷いた。
「ええ、そうよ。でも、昔のエレキテルには実際の効用があまり無かったわ。でも私の考えている物は、最新の学術による物だから、」
青年は熱心そうに言葉を継ぐ。
「効用も期待できる。」
「ええ。お金は…これ位で、良いかしら?」レイタが机の上の風呂敷き包みをほどくと、金貨が30枚ほど積まれていた。
「お、おうよ! 充分さ!」
「頼んだわ。」
「まかせとけ。」
青年は風呂敷き包みをニコニコしながら手にし、部屋を出ようとして、立ち止まって振り向いた。
「何。」
「…いやあ、まだ若い娘さんなのにめりけん帰りとはね。最近の娘はてえしたもんだ。」
レイタは人差し指を自分の口の前に立てた。
「…それは秘密よ。私は越後から来たの。」
「ああ、分かったよ。それは、秘密で。ああそれからおれいたちゃん、俺の名前は竜馬、坂本竜馬っていうんだ。よろしくな。」
「よろしく、竜馬さん。」
ニコ。
「あ、ああ。よろしくな。」
竜馬は鴨居に頭をぶつけながら部屋を出て行った。
機関室に赤い血しぶきを撒き散らしながら、マコトがリョウジに説明する。
せんべい片手のライカーはしばらくラ=フォージの様子を呆れたように眺めてから頷いた。
「…そうか。まあ、それなら良いんだが。あのレイタが消えた事を考えると、フィールドの安定性はかなり重要だな。」
「ええ、確かに。」
ライカーは(つぶ塩と血で)ベトベト状態の手で胸のバッジを叩く。
「ライカーよりビューティー。上陸の準備が整いました。」
「分かった、ブリッジに来てくれ給え。」
「入り給え。」
ジャスミンとバターと都こんぶの臭いが充満する艦長室で艦長は目を上げた。
「ああ、マユミ君。一体何か?」
「こんにちは。」
ブリッジから艦長室に入ってきたのはキョダツムリに乗り込んだマユミ・ガイナンだった。
ネコバスの如くキョダツムリ内部から降りてきたマユミは、さっそく部屋の向こうに三才ムック手榴弾(略してム弾)を投げつけた。
ぼごーん。
「だ、段々出方が派手になってるな。」
「それは勿論。インフレはとどまる所を知りませんから。」
マユミはうふふ、と微笑んだ。
「今日お邪魔したのは他でもありません、これからの艦長の御予定について、お話があるんです。」
「何かね。」
「実は、ペリディアへの上陸ミッションに、艦長、あなたも参加して頂きたいんです。」
「マユミ君、私はびゅ」
ぼごーん。
「つべこべ言わずに上陸して貰えると嬉しいです。」
「ひゃ、ひゃい。」
聞いてもいないのに朗々と喋りだすマユミ嬢。
「え、何故かって? それにはふかあああい訳があるんです。簡単に言うと、もし艦長が上陸ミッションに加わらないと、私と艦長、ひいては私とシンジ君は出会わなかった事になるんです。御存知の通り現在私とシンジ君は交換日記を欠かさないLAS(ラブ・アンド・下板橋)な関係にありますが、これは艦長が…寝ないで下さい。」
ぼごーん。
「わ、分かった。とにかく、私も洞窟に降りればいいんだな。」
「さすが我らが艦長! 今度通販で大好評の虎のぬいぐるみを贈りますね。」
ビューティーはよろよろになりながら立ち上がった。
「いらん。」
「照れないで下さい。それじゃ、私はこれで。」
ふっ。
ビューティーが周囲を見回すと、既にズズとマユミは消え、ム弾の残骸のみが残っていた。
竜馬は戸を開けた途端に顔をしかめた。
「な…こりゃ、何だい。」
レイタの泊まっている部屋は、ちょっとした工房の様相を呈していた。そこかしこに工具や木材が散らばり、レイタの座る座布団以外のスペースは全て各種ガラクタで埋まっている。
レイタは顔を上げた。
「竜馬さん。あなたのお陰で、発明は順調に進んでいるわ。ありがとう。」
「い、いやあ、気にする事ねえって。」
竜馬はおそるおそる足を置けるスペースを探しながら、一歩一歩机に近づく。
「それで、その新式エレキテルは、うまく行きそうかい?」
レイタが竜馬の言葉に頷き、自分の目の前にある怪しげな装置のつまみを絞ると、バチバチという音と共にレンズの先で火花が光った。
「おお…こいつぁすげえ…」
竜馬はふと自分の脇に挟んでいた新聞をレイタの前に差し出した。
「なあ、今度何でも、烏森の山岸さんとこで夕食会があるそうだよ。そこにこれを持ってったらどうだい。」
「…」レイタはやや眉を上げた。
「これは秘密の研究よ。まさか誰かに秘密を漏らしては…」
「ああ、いや、漏らしちゃいねえって。ただ、ここのお嬢さんがやっぱり、洋学に詳しい切れ者でさ。彼女自身は開国論者らしいんだが、国学者も含め、時々学者達を集めて「夕食会」ってーのを催すのさ。まあ、何だ、飲み食いしながらお互いの研究を話し合ったりするんだろうな。だから、おれいたちゃんと気が合うんじゃないかな、と…」
「…」
レイタは竜馬の持っている新聞に目をやった。
「…山岸真弓嬢、廿(にじゅう)代の若き洋学者。隔月で三日月の夕に烏森の山岸邸では、学を肴に宴が催されるとの事。」
一種の広告と思われる記事の上に眼鏡をかけたおかっぱの女性の似顔絵が描かれている。
レイタは竜馬を見て頷いた。
「…ええ、彼女とは話が合うかもしれないわ。竜馬さん、ありがとう。」
「れ、礼には及ばねえよ。ぬぐわぁっ」竜馬は部屋を出ようとしたが、何かまずい物を踏んだらしい。
「どぅわっぐっずあああっがっぐはあっ」
「(…手間が省ければ良いのだけど…)」
レイタは記事を見ながら顎に手をやった。
そのひのよる。
まるで少年剣士のような袴姿のマユミ・ガイナンは、夜食会に集まった学者や志士達に微笑みを絶やさず、御辞儀をしてまわっていた。
「真弓殿、本日は又、一段と凛々しいですな。」
マユミは声の方を向いた。
「ああ、勝さん。こちらのお団子をどうぞ。おいしいですよ。」
「忝け無い。…処で真弓殿、最近の情勢に就いてはどう思われますか。どうも拙者には、悪しき方、悪しき方、に天下は向いて居る様に思われて仕方が無いのですが…」
「と、言われますと?」
2人は竹製の長椅子に座った。
「西洋の各国は今や手ぐすねをひいて東洋諸邦を狙わんとして居るに、幕府の頭の固い連中は未だに国を閉じれば其れで済むと思って居る。事態は斯様に緊迫して居ると言うに…」
「勝さんも幕府の方だったのでは?」
「其れはまあ、何事を変えるにも、先ず自分が力を付けんといけませんからな。其う言えば、最近妙な話を聞いたのですが御存知ですか。何でもこの界隈、幽霊が出るらしいですよ。」
マユミは勝の様子に微笑んだ。
「まあ。信じてらっしゃるんですか。」
「まさか。ただ其れで思ったんですが、幽霊は兎も角、今の江戸は或いは、そこかしこに魑魅魍魎達が潜んで居るのでは無いかと。既に異人達がここには何人も居ますが、其れに留まらず、異星の人ももう潜んでいるかも知れない。」
「異星?」
「詰まり、日本が実は世界の諸邦の一つに過ぎなかったと同じが如く、この天下も空の中で数有る星の一つに過ぎないかも知れん。異なる星から空を越えて、もうここに人が来ているかも知れない。」
マユミは肩を上げた。
「なるほど。それは面白い話ですね。確かに、洋学によると、私達の住む大地も実は球状の「星」だそうですから…」
勝は指をさした。
「其う、其う言う事です。」
向こうの方が何やら騒がしい、マユミは眉を潜めた。
「どうしたのかしら。」
彼女が立ち上がると、1人男がマユミの方にやって来た。
「真弓殿、実は、あなたに会いたいという街娘がいるんですが…どうも怪しい姿で、その、まるで雪女のような…」
「お名前は?」
「おれいたと、言うそうです。」
「珍しい名前ですね…」マユミは勝と顔を見合わせ、歩き出した。
「分かりました。話してみましょう。」
マユミが人だかりに近づくと、男達に囲まれて(倒すべきかどうか)困っている様子のレイタが振り向いた。
「マユミさん。」
マユミは男達を下がらせて微笑んだ。
「…初めてお会いしますね。何かお話があるのかしら。」
「ええ、そうね。でも私はあなたの事を知っているわ。あなたに、色々助けて貰えると嬉しいのだけど。」
「色々?」
レイタは少しほっとした様子で頷いた。
「ええ。例えば、通信機を貸してもらうとか、」
「ちょっと待って。」
マユミは焦った様子でレイタの言葉を押さえると、わざとらしく笑った。
「あら、あのおれいたさんね! 何て久しぶりなのかしら、さあさあ、こっちに来て。」
マユミはレイタを物陰に引っ張り込むと、ひそひそ声で話を始めた。
「お父さんの仕業ですね、全く。言っておきますけど、私はまだ星に帰るつもりはありませんから。」
「違うわ。あなたの星から来た訳ではないの。私はUSSエバンゲリオンのレイタ少佐よ。」
「USS?」
「…つまり、地球が中心となって出来る惑星連邦の宇宙船から来たの。」
マユミはレイタの言葉に口を開けた。
「ち、地球って、この地球が? …つまり、あなたは、未来から来たんですか?」
「そう、その通りよ。話が速くて助かるわ。エバンゲリオンでは、あなたも働いているから、私達は知り合いなの。…あまり過去の人間に未来の事を知らせてはいけないのだけど…ここではあなた位しか頼れそうな人がいないから…」
「でも、何で、この時代に?」
「それが…」
「話は全て聞かせて貰ったぞ。」
「「え。」」
木の陰から現れたのは、腰の刀に手をかけた勝海舟だった。
「しかし、ビューティーが上陸班に加わるなんて。一体何があったんですか。」
ビューティーは不愉快極まりないといった表情で、足でタバコをもみ消した。
「…まあ、色々な。マコト君、準備は出来たか。」
ペリディア星の洞窟の中でビューティー、ライカー、ドクター、カウンセラー、ラ=フォージはフェイザーを構えながら棒状の機械の囲む領域の中に入った。
「ええ。」
「それでは始めてくれ給え。」
マコトは頷くと手持ちの機械でスイッチを入れる。彼等一行の周囲に一瞬、青白い光がきらめき、イソノケフィールドが張られた事が確認された。
「フェイズ位相開始されました。」
やがて洞窟の奥に、不思議な形の宇宙人が見えて来た。
レイタの報告通り、彼等は4人いて、大きさは人間ほどだ。はっきりは見えないが色は青系統。顔らしい物はないようだが、人間で言う顔、つまり頭の部分に穴があり、じっと動かず、中央の機械(容器と呼ぶべきか)から何か光る物体を取り入れている。
「…面白そうね。」
リツコが呟いた。
「…何か彼等とは異なる物の存在を感じるわ。恐怖の感情よ。おそらく、あの容器の中から…」
リョウジはミサトの方を向く。
「中から? あの、食べられている物からか?」
「多分ね。でも、何て言うんだろ、あれは、多分もう死んでるの。だから、殺される前の感情が残ってるって事だと思うんだけど…」
その時ふいに、宇宙人達と反対の方向に青い光の渦が現れ、やがて口のように空間が開いた。
そして中から2人の侍の格好をした人間が現れた。空間は口を閉じた。
彼等はクルー達に気付かないのか、彼等の前を横切り、抱えていた風呂敷きを開くと容器の上にかざす。
透明な容器の中に、光る物体が落ちて行くのが確認された。
2人は頷きあうと、もう1人の方が、持っている刀をかざす。すると、一旦消えてなくなっていた空間の裂け目が再び青白い光とともに現れた。
2人は空間の向こうに消えていく。
「私達も行くぞ。」
「え?」ビューティーの呟きに副長は思わず声を上げた。
「当たり前だ、向こうは恐らく19世紀の江戸だ、コスプレ天国だぞ。ビューティーとしてこれに行かない訳にはいかん。」
「レイタ少佐を助ける為、じゃないんですか?…」
「良いから急げ! 口は数秒で閉じるのだ。急げえええええ!!」
「「「「うわああああ」」」」急にプッチンプリン化したビューティーに次々投げ込まれるクルー達。
「とうっ。」最後にビューティーも裂け目に飛び込むと、裂け目は何も無かったかのように消滅した。
「今日は一段と切れがよろしいですな。」
「…大久保殿。」
勝は振り向き、木刀を地に付けた。
「真に恐ろしい事が起きて居るぞ。状況は我々が考うるより遥かに危うい。」
「何の話です?」
勝は再び木刀を振り上げると、「ふんっ」と振り下ろす。
「我々が井の中の蛙であると言う事を思い知らされたんだ。然し、我等も攻められて黙っては居ないぞ。必ずや其の首を…」
勝がふと生け垣の向こうに目をやると、レイタが早足で道を歩いていた。
「やや! ここで見るとは案外で有った! …大久保殿、急用が出来た、失礼。」
「…はあ?」
勝は服の乱れを軽く直すと裏口から出て行った。
勝がレイタの後を付けている同じ往来で、ペリディアの洞窟に現れた2人の侍が歩いていた。
彼等は道沿いに流れる小さな川の川岸に降り、そこにいる宿無しの老人に向かい、刀の鞘を向けた。
「…何だ。」
老人が面倒臭げに呟くと、その侍は鞘のスイッチを押し、老人にビームを発射した。
「あ、ああ、うあああ」
老人は何かエネルギーを吸い取られているらしく、しばらく声をあげていたが、間もなく死んだ。
侍達は頷きあい、1人が鞘に吸収したエネルギーをもう1人の持つ風呂敷きに発射、移動させる。
そして彼等は何事も無かったかのように川岸を後にした。
「何故私が黒髪に染めなくてはならないのかしら。」
着物姿のまるで似合わないドクターはいらいらしながら腕を組んだ。
「この時代の日本は髪が金色の人間は珍しかったのだ、仕方有るまい。」
フユツキの言葉に肩を上げるリョウジ。
「街娘の格好をすると言ってしばらく聞かなかっら62才のジジイも珍しいですけどね…」
「報告。」
袴の副長を無視して袈裟の艦長が言った。
「マギのデータも加味して推測すると…ペリディアの生命体は地球人の脳肝を好んで食べるようね。」
リツコに比べればマシな着物姿のミサトがリツコに聞く。
「変な物食べるわねー。今までどうやって生きて来たの?」
「…まあ、順番から考えると、ペリディアかその近くで似た物を捕っていたけど、少なくなったか無くなってしまったという事でしょうね。彼等がわざわざこの時代に来るのは、まあ、この時代なら科学的な検死がされないという事もあるけど、伝染病があるからそれにまぎれて殺しやすいという事でしょうね。」
「しかしそれだけで説明がつくのか? それを言えば伝染病のはやった地域や時代はいくつでもある訳だし、日本は、この時代他の地域に比べれば衛生的だったはずだ。それほど酷い伝染病があったという話は聞いていないぞ?」
ドクターはライカーの言葉に少し微笑んだ。
「それは。やっぱり日本人のがあっさりめでおいしかったからじゃないかしら。」
「…そうなのか?」
「ええ、それはもう、醤油とわさびをつければ…」
はっ
「ああ、冗談よ、もちろん。」
何故か汗をかきながら引きつった笑顔を浮かべるドクター。
「そ、そ、そうか。」
1人全然平気そうな顔のマコトがフユツキに顔を向けた。
「それから、先のコンタクトからデータをとりましたから、ペリディア人が接近したらトリコーダーで探知できるはずです。」
坊さん(艦長)は長屋のクルー達を見回した。
「分かった。彼等は病弱な人間を狙うという事らしい。我々は病院で彼等を待つ事にしよう。」
「少し御邪魔をするだけだ、別段断る程の事でも無かろう。…君は、私の言う事に従っておれば良いんだ。」
竜馬は勝の態度にむっとしながらも、今さっき貰った小判の事を思い「ええ、まあ…」と呟いた。
勝は竜馬の様子に振り返った。
「君は彼女が研究をして居ると言ったな。」
「ええ、新式のエレキテルとかで…」
「ああ、ペテンも甚だしい。私はめりけんに行った事が有るから分かるが、彼の地では其んな研究はしておらん。これは恐らく…新式の武具と見て違い無かろう。」
「そ、そんな!」
「ああ、其うとも。恐らくこの火花に依る、一種の銃に違い無え。…おい、君におかみを言い包める以上の用は無いぞ。ほら、家捜しの邪魔だ、どいたどいた。」
勝はいぶかる竜馬を手で追っ払うと、レイタの部屋の「エレキテル」を観察しだした。
「然しこれは一体、実の所は…何だと言うのだろう…」
彼がつまみを調整すると、レンズに集約された光線が火花を散らす。
その時、女物の下駄の音が玄関の方から聞こえて来た。勝は慌てて周囲を見回すと、押し入れの中に入って戸を閉めた。
「まあ、何ですか、これ…」
部屋に入って来たのはマユミとレイタだった。
「クルー達と連絡を取りたくて、通信機を作ろうとしていたの。この時代の機材だけで制作するのは困難を極めたわ。」
「はあ…」
レイタは説明を続ける。
「その、例の私の頭部が発見された洞窟に行ってみたいのだけど、この付近にそういった場所はあるかしら。」
マユミは腕を組んだ。
「洞窟ですか。私の聞く限りでは、特に…上陸前にそこまで詳しいスキャンはしませんでしたし…」
「そう…」
レイタは頷きながら、ふと通信機のつまみを見た。
「セッティングが変更されているわ。…それに部品も足りない。誰かが手を触れたのかしら。」
「…多分、勝さんじゃないかしら。」
「…其の通りだ。」
ガン。
「「…」」
マユミとレイタは、押し入れから出ようとして頭をぶつけ、黙ったまま頭を押さえる勝を見た。
「くっ…真弓殿、おれいた殿、御主等の計略は既に分かって居る。しかし我々は断固として戦うぞ。馬鹿な気は起こさずに、今直ぐ自分達の星、自分達の時代に帰るんだな。」
レイタとマユミは互いの顔を見合わせた。
「私達はあなた方に迷惑をかけるために来たのではないわ。」
「そうです、そりゃ、ちょっとは物を盗ったり、記憶を消したり、子供をさらったりはしてますけど、目立つ程はやってません!」
両手に力を入れるガイナン。
「え?…」「お前もか」の表情で振り向くレイタ。
「御主等の言い訳等聞く耳は持たぬ。其の武具で我等を殺す積りだな。」
レイタは首を振った。
「そうではないわ。私は、この時代に遭難して来たの。これは、仲間と連絡を取るための通信機よ。」
「仲間だと!?」
勝は2人に近寄った。
「良いか、仮に御主の言う事が正しかったとしてもだ、御主等の学や技は未来の物だ。我等の時代で使っては、この時代を壊す事に為るでは無いか!」
レイタは彼の頭の回転の良さに少し驚いたようだった。
「私は騙されんぞ。御主等の計略等必ず打ち破ってみせるわ。」
「これでもかしら?」
勝がふと振り向くと、そこには身長4m程に巨大化したガイナンが
「ぬぐわああぉおあおぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああきゅーーーーーー」
元に戻ったガイナンは泡を吹いて気絶した勝を抱きながら、レイタに言った。
「彼は私が何とかします。さっそくその洞窟を捜した方が良いですね…あなた、馬に乗るプログラムは機能にありますか?」
「なんまんだーなんまんだー…」
手を擦り動かし念仏を唱える坊さんピカードの隣で、和服とバイザーが途方も無く似合わないラ=フォージが周囲を見回した。
「この時代にこんな病院なんてあったんですね。」
頷く副長。
「この時代の日本では、医師は往診専門でめったに入院患者は引き受けなかった。1件でっちあげるのに苦労したよ。」
「…でっちあげる?」
ドクターがメンソールタバコを吸いながら答える。
「さっき、私と副長でその辺の男達を病気に感染させてここに寝かせたの。本物のここの医者も眠らせておいたわ。」
「え、えええ?」
「舞台はばっちり整ったって訳ね!」
「そういう事ね。」にっこり聞くカウンセラーにドクターが頷いた。
ドクターは自分のトリコーダーを見て、軽く眉を潜めた。
「ペリディア人のTMR反応よ。」
ドクターの声にアイコンタクトを取るビューティーと副長。
「…あーなんまんだーなんまんだー…」
「兄上、兄上しっかりしてえ!」
どうやら患者の妹の役をしているつもりらしいカウンセラー・トロイ。
彼等の病院に、例の2人の侍が現れた。
「うう、く、苦しい…」
布団に寝ているマコト(ハマリ役)に、2人が近づき、彼等は頷き合った。1人が鞘をマコトに向ける。
「今だ!」
ビューティーの声とともにクルー達が隠し持っていたフェイザーを2人に発射した。瞬時に2人は転送されたかのように姿を消した。
「…自分達の時空間に戻ったんでしょう。」ライカーがビューティーに言う。
「…何で、僕も、撃つんですか…」いくつか穴が開いているラ=フォージ。どうやって喋っているのか不思議だ。
「待って、刀は、落したわね。」
ミサトが、ペリディア人の持っていた刀を拾い上げた。
「そのようだな、そ…」
ビューティーが喋り終える前に、声と足音が往来から響いて来た。
「御用だ御用だ!」玄関から岡引達が十手を持って現れた。
「な、何とも騒がしいですな。一体何の御用件で。」
岡引の前に立つビューティー。
「…おかしいな、確かにここに来たはずなんだが…あんた達、二人の侍を知らねえか? 目つきが悪くて、背格好は中くらい、燕色の羽織で…」
「ああ、その方々なら向こうの勝手口へ行かれましたが?」
「そうか。」岡引達は頷いて行こうとしたが、ふとピカードの顔を見直した。
「…お前さん見慣れねえ顔だな。どこの寺の坊さんだ。」
もう一人の男が彼に囁く。
「あの男の眼帯は一体何です?」
「解せねえ。お前ら一体…」
「…話している暇はないな。副長。」
2人は頷くと、麻痺のフェイザーを彼等に発射した。
きゅん、きゅん、きゅん。
「「「「うああああっ」」」」
「とっとと逃げるとしよう。」
その時往来から馬の足音が聞こえて来た。
クルー達が外に出ると、レイタが馬に乗ってやって来ていた。
「レイタ!」
「警官達の動きが妙なので想像がついたわ。ところで、艦長達は今すぐこれに乗る事を推奨するわ。」
「…この馬の引いている大八車にか?」
「残念ながらこの時代の日本は馬車が普及してないわ。速く乗って。」
「…分かった。」
クルー達はレイタの馬の引く大八車に飛び乗った。
「御用だ! 御用だー!!」
またどこからか沸いて来た岡引達を尻目に、彼等は江戸の悪路を逃走する。
「うう。痔が…」ビューティーは揺れる大八車の上で突っ伏した。
長屋に戻った彼等は、刀の鞘の形の棒を囲んでいた。
「これが結局、24世紀のペリディアと19世紀の地球を繋ぐ物だと推測されるわ。」
「どうやったら、これを動かせるんだろう。」
どっからかっ(ぱらっ)たのか、さっそく本場の草加せんべいを手にしている副長が聞いた。
「さあ…フェイザーでエネルギーを送ってみるわ。」
「やってくれ。」頷く艦長。
レイタは鞘を土間に寝かせ、3メートル程離れてフェイザーを発射した。
びしゅーーん。
鞘はうねうねと変形し青白い光を放ったが、5秒程立つと光を失い、元の鞘に戻ってしまった。
「かなり大規模な出力が必要とされるようね。」首を傾げるレイタ。
「…そのようだな。私とレイタはガイナンに会いに行こう。何か手助けになるかもしれん。他のクルーは洞窟を探してくれ。」
レイタと(ケツを押さえた)ピカードは馬に乗り、烏森のマユミの家にやって来ていた。
「マユミさん。」
レイタが庭の通用口からやって来ると、マユミが家から現れた。
「レイタさん、勝さんは、取り敢えず道に寝かせて…あ、そちらの方は?」
「…USSエバンゲリオン艦長兼宇宙撫子のフユツキ・コウゾウ・ピカードです。」
「ああ、艦長さんですか。はじめまして。」
「…はじめまして。いや、正直に言うと、私とあなたは未来では知り合いなので。何だか妙ですピー。」
マユミは目を合わさず、頬付近の筋肉を痙攣させながら呟いた。
「…そうですか…(こんなジジイと、知り合い?…)」
「…勝殿、勝殿!」
勝は道端で体を揺すられ、目を覚ました。
「…ああ、大久保殿。一体どうした。」
「どうしたもこうしたも、道端で寝ていりゃあ誰だって起こすでしょう。其れより勝殿、事態が急を告げておりますぞ。例の幽霊の件ですが、確かに何かの計略が有るそうです。私の知己が言っていましたが、目明かし衆の動きが慌ただしいですな。何でも伝馬町の医者で殺しが有ったそうで。」
勝は起き上がり、着物の砂を払った。
「ほう。そいつぁあ聞き捨てなら無えな。」
「何でも、おれいたとか言う異人が犯人一味の一人らしいんですが…」
「何だと! こうしてはおれん、何とかせねば…其うだ、洞窟だ!」
「…何か御存知なんですか?」
「ああ其うとも、これは我々の天下の、恐るべき危機だ! 大久保殿、馬を!」
原宿の社の下の洞窟で、マコトはトリコーダーをかざしていた。
同じくトリコーダーで調査中のドクターが副長に言う。
「ペリディア人のTMR反応が大きいわね。ここが例の洞窟よ。」
「ここから、その、脳肝を食べるエイリアンがやって来るんですか?」
「そのようね。」ドクターはマユミに答えた。
マコトはビューティーに振り返った。
「どうやら、この洞窟の壁面がこの鞘型の機械へのエネルギーを増幅させる効果を持っているようです。つまり一種の、蟻重力レンズの要領でエネルギーを集約するんです。」
「つまりここが、特に彼等がやってきやすい場所だという事か。」
「ペリディアの洞窟と形状が全く一致しています。この形状の壁面の洞窟でのみ、彼等はこれが使えるんでしょう。」
「では、この洞窟を破壊すれば彼等は19世紀には来れないのね。」
「その通りです。」マコトはレイタに頷いた。
「そうか、それではさっそく破壊を…」
「そこまでだ。」
クルー達とガイナンが振り向くと、そこに銃を手にした勝が現れた。
「其うか、御主等が例の人攫いの幽霊だったとな。」
ピカードはレイタに小声で言った。
「この時代の日本に銃があったのかね。」
「彼はアメリカに行った事があるようよ。その時に持ち帰ったのね。」
「どうだ? 未来にんもこれが何かは分かろうぞ? さあ、私の言う事をおとなしく聞いて、自分達の時代に速く戻るんだ。」
ピカードが勝に口を開こうとしたその時、急に彼等の前にペリディア人達が(転送されたかのようにして)姿を現した。
レイタが鞘を持っているのを見付けるとさっそく彼等はレイタに近づく。ふいを突いてリョウジがフェイザーを打つと、1人は死亡した。
もう1人はレイタとしばらく格闘していたが、その時鞘が光を放ち、変形を始めた。
ぴぎゅーーん。
光線を放つ鞘。レイタと鞘を奪い合っていたペリディア人は光線に当たって倒れる。
「あっ」
そして光線はレイタにも命中した。
電流のような光が全身を駆け巡るレイタ。
「…最後のシ者モード始動、最後のシ者モード始動。」
レイタのミソから妙なアナウンスが流れる。
「あ…」
ドクターが漏らした呟きに、マユミ、勝以外の全員が「お前かーっ!」の表情を見せる。
ころん。
レイタの首はぽろりと取れ、地面に転がった。
青白い光に包まれた出入り口がその時開き、竜巻のように動いてレイタの体と倒れるペリディア人を飲み込んだ。
「きゃああっ」
マユミは急に叫んで倒れ込んだ。
ごすっ。
頭を岩にぶつけたのか、意識を無くすマユミ。
「ガイナン!」
「それじゃ艦長さいならー!」光の中に飛び込む副長。
「あ、こら、置いてくな!」
「それじゃあお元気で!」
「マコト君!」
「じゃーねー。」
「カウンセラー!」
「…ふっ。」
「ドクター!」
続々と光の中に飛び込んで消えていくクルー達に取り残され、フユツキは半ベソで呟いた。
「マユミ君、何故君は、がっちり私の手をつかんだ状態で意識を失うのかね…」
「これが未来への通用口か…はああっ」
フユツキと意識の無いマユミを洞窟に残し、勝も光の中に飛び込んで行った。
倒れていた副長はマコトに引き起こされた。
「ああ。大丈夫だマコト君。ここは…」
「24世紀のペリディアの洞窟です。ミサトさんとドクターも無事ですよ。レイタの体も首が無い以外はほぼ無傷でそこにあります。それから…」
マコトは向こうに目をやった。
「おお、痛、ここは…ここは未来なのか?」
「何故あなたまでここに来たんです!」
怒って迫るライカーに勝はすまして答えた。
「私はこう見えても煎餅には五月蝿い。君の持って居る其れは、本場の物だな。この時代にも其れが有るとは知らんかった。」
「これの為に未来に来たんですか?」
「其うともさ。」
「…これ、江戸で買った物なんだけど。」
「え゛。」
副長日誌、宇宙暦、46001.3。我々は何とか24世紀の世界に戻ったが、このままペリディア人の19世紀における地球人虐殺を放っておく訳にはいかない。アホ艦長を失った今、頼りになるのはレイタの再起動である。
マコトは通信機に向かって言った。
「ラ=フォージよりブリッジ。それでは今から接続を開始します。」
「何時間くらいで出来そうだ?」
「さあ、何とも…前例がありませんし、500年の間に腐食している部分もあるでしょうから…とにかく全力を尽くします。」
「分かった。やってみてくれ。」
「了解。」
マコトはリョウジとの通信を終えると、今ペリディアから持って来たレイタの胴体と、数日前地球で発見していたレイタの首を接続する作業に取り掛かりだした。
「然しこれが空を飛ぶ船か。名前は何と言うのだ?」
ばりぼりぼり。
自分の煎餅を食べる勝にやや憮然としながら副長が答える。
「…USSエバンゲリオンという名前だが…」
「ほう。英語だな?」
「いや、間接的には英語由来だが、日本語だ。というか、正確には、惑星連邦公用語と言って…」
勝はゲォーフの顔を物珍しそうに眺めている。
「それは大層な事だ。この船で我等の時代を攻撃するのだな。」
「だからそういうつもりは無い。大体必要性が無いじゃないか。私達連邦は平和を愛する社会だ。」
勝は何故か恥かしそうにしているゲォーフから、目を細めているローに目を移した。
「ほう?…何だ、この鼻の妙な突っ張りは? こいつも異星にんか?」
ごすっ。
とっさに裏拳を繰り出すマヤ。顔面に食らった勝は死亡倒れた。
「…勝さんに、船を御案内しても良いですかあ?」
ニコニコ。
「…ああ、そ、そうしてくれ。」
リョウジは勝を肩に乗せて聞くマヤに頷いた。
「あ…」
マユミが目を開けると、目を真っ赤にしたフユツキが彼女を見て微笑んだ。
「具合はどうかね。」
「(うげー…)…ええ、大丈夫だと思います。」
意識を戻したマユミが手を放し、ビューティーはようやく立ち上がった。
「…私を気遣って、ここに残ったんですか?」
「(…)ああ、まあ、そんな所かな。」
ガイナンはビューティーが歩く方向に目を向けて、思わず手を口に当てた。
「…それ、レイタさんの首!」
起き上がろうとして立ち眩みを起こしたか、マユミは再び倒れた。
「大丈夫か?」
「…ええ。でも、それ、どうしたんですか、まさか、あの嵐で…」
ビューティーは頷く。
「そうだ。」
ニヤる。(ニヤラー、ニヤリス糖。)
「今なら体が無いから、何でもし放題だな…」
「え…」
その時、先程倒れて姿を消したペリディア人がまた現れた。
「ピカード。私達の邪魔をするな。」
「あ、あんた言葉喋れたんか!」
ペリディア人はピカードに近づく。
「放送大学で勉強した。」
「そ、そうか…」
やや驚きながらも、艦長は言い返した。
「君達の罪の無い民間人への殺戮を許す訳にはいかん。ましてや過去に戻ってそのような事をするのは歴史への干渉を引き起こす。」
侍は眉を上げた。
「脳肝を取っているのは貧しい民間人だけだ。歴史に影響が出る程の事はしていない。…私達ペリディア人は、脳肝が無ければ生きていけないのだ!」
「だからと言って生を取らなくても、レプリケーターで複製するなり方法はあるだろう。」
「艦長あなたは分かっていない。私達も、何も好き好んで人を殺している訳ではない。贅沢を言うつもりもない。ただ、いきの良い脳肝を軽く「のうしゃぶ」でじゅっといってスプリッツァーを飲みながらアストンマーチンを乗り回すのが趣味なだけなのだ。」
がーん。
「(充分わがままーっ!!)」
「隙ありっ!」ぴぎゅん。
ビューティーは彼にフェイザーを撃った。
「どんな理由であれ、連邦の…将来の連邦の、市民を傷つけるのは許さん。未来に帰った私のクルーが、ペリディアの洞窟を破壊して、お前達はここには来れなくなるだろう。」
「うっ、ぐう…」
ペリディア人は倒れながら、ビューティーを睨み付けた。
「…エバンゲリオンの武器で洞窟を破壊すれば…時空に影響を与えて…この時代の地球が破壊されてしまうぞ。」
「何だと!?」
ペリディア人は顔を落し、姿を消した。
ふらー、ふらー。
「ねえ、未来も中々悪いものじゃないですよね、勝さん。」
きゃはっ。(中国語で書くと哇哈。)
「うーん。そうかもしれんなー。」
何故か死んだ目でにたあっと微笑みながら、勝はマヤと船内の通路を歩いていた。
機関室(の隣のサイエンス・ラボ)では、副長がラ=フォージに進行具合を聞いていた。
「状況は?」
「うーん…どうもひっかかりますね。接続はこれで良いはずなんですけど、何でか起動できないんですよ。もう1回接続個所のチェックをしてみましょう。」
「そうしてくれ。」
「ゲォーフより副長。」
「どうした。」通信機に答える副長。
「胞子魚雷の軌道計算が終了した。いつでも発射可能だ。」
「分かった、今行く。」
「何を…やっているんですか…」
寝ながら、マユミがレイタの首を持っているビューティーに聞く。
「この彼女の頭部は、未来のここで私達が回収している。つまり、船に戻ったクルー達はこの首と、向こうに行った胴体を繋げようとするはずだ。」
「ええ。」
ビューティーは手持ちのフェイザーを最微力設定にして、レイタの頭の蓋を開けて中のポジトロニック・ミソに何やら照射している。
「で、あれば彼女が起動した時に、メッセージを向こうに送れるはずだ。彼等は恐らく、胞子魚雷でペリディアの洞窟を攻撃するだろうが、それではこの時代の地球が破壊されてしまう。」
ガイナンは真面目に語るピカードの様子を見て、少し不思議そうな表情になった。
「…失礼ですけど、意外と、ちゃんとしてるんですね…」
「…そうだな。向こうの人間は皆力がある。マッドサイエンティストだったり、魔術使いだったり、魔法使いTai!だったりな(Tai!がポイント)。真面目にやるべき所はやっておかないと何をされるか分からん。」
「…」
「君は一体、どうして急に倒れたりしたんだ。」
マユミは眼鏡を(どうやってか)曇らせた。
「…私、地球の生き物で、カタツムリだけは苦手なんです。…さっき、足元にそれがいるのを見て…」
「…」
ふいに動きを止めるビューティーに、マユミは苦笑した。
「…おかしいですよね、もっとグロテスクな生き物だってたくさんいるのに、いくらエル・サターンにいないからってあんな小さな動物だけが気絶するほど苦手だなんて…」
「うぷ、ぷぷぷぷ…(ぷぷっぴdo)」
ピカードは未だに動けないガイナンを、指差して笑い出した。
「そ、そんなに笑わなくても良いじゃないですか!」
「カタツムリが嫌いなの? 気絶するほど? 自分の顔だって充分ヤワラー(タムラー、タベラー)なのに、何繊細ぶってんの。くっくっくっく…」
ごおおおお。
ビューティーは炎焔のオーラをしょったマユミを見て、ビクッと震えた。
「分かりました。あなたがそんなに言うなら、絶対私、カタツムリを飼って、自分の星で魔術を勉強して、カタツムリを自分の召し使いにさせます!
そしてあなたの船とやらに乗ってあなたを毎晩呪ってあげますからね!!」
がーん。
「あ…」
リョウジは得意の手を顎に付けるポーズで悩んでいた。
「どうもしっくり来ないな…これでは直接艦長を殺るとはいえんだろう…やはりちょうちょさんナイフ辺りでサクっと…」
「副長。胞子魚雷は発射しないのか。」
副長は後ろで立っているゲォーフに振り返った。
「待ってくれゲォーフ、少し考えさせてくれ。」
「ラブリーな艦長を見殺しにするのは確かに忍びない。しかし、このままではペリディア人が…」
副長はゆっくりと頷いた。
「…ああ、その通りだな。分かったゲォーフ、胞子魚雷、発射準備。」
「了解、胞子魚雷発射準備。…エネルギー充填中、発射まで後30秒。」
「今度こそ、これで良いはずなんだけどな…」
チェックを終えたマコトは、レイタの乳首(起動スイッチ)を押した。
電流が走ったかのようにレイタがふいに体を震わせ、目を開けた。
「…」
ばしっ。
取り敢えずいつまでも起動スイッチを触っていたマコトを血の海に沈めたレイタは、無表情に首を傾げた。
「作動システムチェック中…おかしいわ、頭部に何か、ノイズが発生しているわ。」
「500年放置されていたから、どこかに問題があるんじゃないですか?」2秒で生還したマコトがレイタに聞く。
「いいえ。…これは何かのメッセージね…どうやらピカード艦長が、私の頭部に何かメッセージを刻んだようね。…解析中…解析中…」
「発射まで後10秒。」
「…解析中。解析終了。」
レイタは胸のバッジを叩いた。
「レイタよりブリッジ。」
「接続はうまく行ったか?」
「ええ副長。今胞子魚雷を発射しようとしているかしら。」
「ああ。」
「今すぐ中止して。理由は後で説明するわ。」
「ゲォーフ、発射中止!」
「発射中止。」
ゲォーフはパネルの中止ボタンを押した。
「艦長が言いたかったのはこの事と思われるわ。」
ブリッジ後方のコンピュータモニタに図面を表示するレイタ。
「つまり、胞子魚雷では時空トンネルも爆発するので、連動して19世紀の地球にも被害が及んでしまうという事か。」
「その通りよ。」ライカーに頷く。
「で、どうすれば?」顔の一部がへこんでいるマコトが尋ねる。
「魚雷の出力と方向の調整が必要ね。洞窟のみが破壊できる程度の出力を再計算する必要があるわ。」
「なるほどな。」
「其れで船長は如何為るのだ。」
副長達は急に声をかけて来た勝を見た。
「もう見学は飽きましたか。」
勝の後ろからドクターが腕組みをして来る。
「見学って言うか、マヤに軽い黒魔術で遊ばれていたのよ。見てられないから洗脳を解いたわ。」
「いやあ、未来は素晴らしい! 惑星連邦万歳! エバンゲリオンばんざああああいい!」
「まだちょっと解けきってないのよ。」ドクターが付け足す。
「おお、おれいた殿、話はろお殿とどくたあ殿から全部聞いたぞ。疑ったりして済まなかったな。」
「…構わないわ。」
「然し、この素晴らしい船員達が、己が艦長を見捨てる筈は有るまいて? 何か方策が有ろうぞ。」
レイタはパネルを操作する。
「…現在例の洞窟内に、ペリディア人の活動は見られないわ。今ならあそこで擬似的に竜巻を起こして時空トンネルを開く事が可能よ。」
モニタに表示された図面を見て、ドクターが口を挟んだ。
「でも、この船の設備では、口はごく小さくて不安定な物になるわね。」
「ええそうね。うまく行って一人が行って、一人が戻って来る分しか開かないと推測されるわ。」
「其れなら問題は無いぞ。」
勝は上機嫌に言った。
「私が行って、船長が来れば良いんだ。」
「…しかし、これは非常に危険で、」
「副船長、何を下らん事を言っている。私が己が時代に戻り、船長が己が時代に帰る、これで万事解するでは無いか。危険等承知の上だ、こう見えても私はめりけんにだって行ったんだ。己が家に帰る位、何の問題も有りはせん。」
ライカーはレイタと目を合わせた。
「どうやらさっき頭を岩にぶつけた時に出血したようだな。しょうがない、助けを呼ぶとしよう。」
「…は…はやく…おねがい…」
舌が出た状態のマユミに頷くとフユツキは立ち上がり、洞窟の出口に向かって歩きはじめた。
「待たれい! 船長殿、待たれい!」
勝が洞窟の奥から走って来た。
「…あなたは!」
「副船長殿から言付けじゃ。ぺりぢあ星への砲撃が5分以内に始まるので、その前に奥のあの口へ飛込めとな。」
「…そうか、ありがとう。」
「いやあ、君達惑星連邦の諸君は実に素晴らしい! 快男子ここに極まれりとは正にこの事!」
「だ、大丈夫かね?」
「かはははははあははあはははは、大丈夫だ、私は全く持って快調だぞぉ、きゃっはっはっはっは」
ビューティーは目の様子がおかしい勝に思わず後ずさった。
「…そ、それではマユミ君を頼んだぞ。」
「任しとき! ほれ、急がんと例の口が塞ぐぞ。」
「ああ、分かった。マユミ君、それじゃあ、又……どうせ又後数分後に会うのか…」何故か頭を押さえるピカード。
「…覚えて…おきなさい…」
「そ、それではな。」
「達者でな!」
ピカードは勝に手を上げると、洞窟の奥へ走り出した。
「ペリディア人の活動が観測され始めた。」
副長はせんべいをビネガーソースにつけて食べながら、苛立たしげに聞く。
「艦長は?」
「まだ確認されていませんよお。」
「活動が本格的に活発になっている。どうやら起き始めたようだ。」
「…」
ゲォーフは問いただすように呼びかけた。
「…副長!」
「分かった、胞子魚雷、発射。」
「了解。胞子魚雷、発射。」
ぶよん、ぶよん、ぶよん。
エバンゲリオンからキノコ型の魚雷が3発、ペリディアに向かって発射された。爆破されるペリディアの洞窟。
「転送室よりブリッジ。」
「何だ。」
「ピカード艦長を無事、収容しました。」
ちっ
「よくやった。」
「(副長、今…)」
「ん?」ライカーはゲォーフに振り向いた。
「ああいや、何でもない。」
「そうか。」
「………え?」ゲォーフは震えながら呟いた。
「取り敢えずはこれで出血は押さえた。後はじっと、安静にしている事だ。」
マユミは小さく勝に頷き、微かな声を振り絞って言った。
「…わたし…ぜったい…やつ…のろう…」
「な、何を言う。あの様な素晴らしい人達を呪うと言ったのか? 否、これは私の聞き違いだな。兎に角真弓殿、そなたも疑って、大変失礼した。」
「(あいつらと一緒にしないで…)」(ToT)
「其れでは私は失礼するとしよう。」
「(えええ!)」
勝は立ち上がると、出口に向かって歩き出し、ふと立ち止まった。
「ああ、如何、忘れる所で在った。」
戻って来る勝。
「(そうよ、頼むから私を忘れないで。)」
勝は近くに落ちたままのレイタの首のそばに自分の小刀を置いた。
「これで良し、と。」
「(おいいいい)」
勝は鼻歌を歌いながら洞窟を後にした。
−今回執筆時のBGM-CD 「湾岸スキーヤー」 by 少年隊
つづく
次回予告
来た加持に事情を告げると、彼はアスカに「君のせいじゃない」と言う。優しい加持に逆にショックを受けるアスカは夜の町を呆然と歩く。自分達のマンションに戻るがいるのはペンペンだけだった。彼女は「そんな事がある訳は無い」と思いながらも、レイのアパートに歩いて来る。ドアの新聞受けから聞こえるのは、聞き覚えのある2つのくぐもった声。そしてアスカは階段から飛び降りた。次回「真夏の子供達」第22話、「夏休み」。御期待下さい。
本当の次回予告:ロン毛炸裂!
「オリンピック、見てましたかあ?」
「時期外れですね。」
「…あう。それはマユミ殿、確かに今回のブランクは長かった。だからこそ、頑張ってエヴァトレ連発したではないか!」
「何とかしてこの連載を早く終わらせようとしてますね。」
「分かるう?(^^; そうねえ、何とか気力が続く内に、完結させたいとは思うのよねえ。」
「完結しないエヴァ小説って多いですもんね。」
「構想に暇が追いつかないんだろうね。まあ、最近のエヴァ小説のトレンドっていえば、前回も言ったけどイタイ系、後未完放棄、後内輪もめに更新ペース低下でしょ?」
「作者さん大概のに関わってませんか?」
「な、な、何があ?(^^; いや、だから、せめて完結位はちゃんとしたいなと。」
「そうですか…後この変な連載は何話位あるんですか?」
「大体10話じゃないかな。」
「一応、予定はあるんですね。」
「うん、最終回とか、ああしよう、こうしようみたいに想像膨らませたりとかしてさ。(^^)
他はすっとぱして最終回だけ書きたいね。」
「何て傲慢な態度…そういえば、上の「次回予告」も最近凄いですね。あれはプロットとか考えてるんですか。」
「んーん。(^^) 毎回出任せー。一体次回にどうなるのか、作者も知らない!」
「偉そうに言わなくても…」
「しかし困りましたね。まだエヴァトレ全体の3分の1位残ってるって事っすわ。」
「困るんですか。」
「だって、もうネタ無いもん。いやつまり、ストーリーはスタトレそのままだから別に良い(?)んだけど、以前は、タイトルがハングルだったり、急に終わってニセ後書きがあったり、分岐式だったり毎回遊びがあったじゃないっすか。あのネタが全然無いっすわ。」
「そういうのがないと、面白い小説として成立しないって事ですよね。」
「うん…ていやそうじゃなくて。…何? 前から思ってたんだけど、作者の私に好意的な登場人物はいない訳?(逆ギレ)」
「いると思ってたんですか? もう1回自分の連載読み直してみたらどうです?」
「それは怖くて出来ないの…」
「…」4秒後作者死亡。(死因「発掘!あるある大事典」の昼間っぷり。)
以下次回