タカボックは困惑した表情を隠さなかった。
「総裁。つかぬ事をお伺いしてもよろしいでしょうか。何故、ここで車を…」
停車したリムジンの中で、100歳近い老人は、信じられない物を見たかのように座り呆け、頭を振り続けた。
「タカボック。あー、君は以前、…彼は、既に死んだと言ったのでは…なかったかね?」
「は?」
タカボックは運転席から老人の方を振り返り、彼の視線の指し示す方向に目を向けた。
公園に老人が1人座っていた。
しばらく怪訝そうに見ていたタカボックは、やがて小さく声を上げた。
「……あ…」
「そうだ。」
「あれは、元総裁……至急連絡を」
「駄目だ。」
「チャンコーン総裁、し、しかし…」
チャンコーン翁はタカボックの手を押さえたまま、目を閉じ、首を振った。
―宇宙。そこは最後のボランティア(意味不明)。これは、宇宙戦艦エバンゲリオン号が、新世代のクルーの下に、24世紀において概ね任務を続行し、未知の世界を探索して、新しい生命と文明を求めるふりをしつつ、人類未踏の宇宙に、アバウトに航海したりしなかったりする小話である―
「素っ裸牧場・傑作選」を艦長室で78時間連続で見続けていたフユツキは、ふらふらとしながらブリッジにやってきた。
「どうだね、状況は。」
「特に異常は無いですぅ。スキャンは後4時間で…ちょっと待って下さい。」
周囲に美少年の写真をベタベタと貼りつけている(信仰なのだから仕方が無い。)マヤはパネルで手を止めた。
「未確認の飛行物体が確認されます。前方3000キロ、マーク142。」
「小型の探索船のようだが、船籍は不明だ。」
ゲォーフの声に頷くピカード。
「レイタ、分析は出来るか。」
「…非常に古いタイプの人工衛星の一種だと、推測されるわ。」
「しかしこの付近にMクラスの惑星は確か無かったはずだが?」
リョウジの言葉に間を置いて頷くレイタ。
「そうね。おかしいわ。」
マヤが指を動かす。
「映像を受信。モニタに回しますう。」
モニタの向こうには、何やら小さな飛行物体が浮かんでいる。立ち上がるフユツキ。
次の瞬間彼は気を失った。
「どうした、これ位でもう降参かぁ?」
フユツキが気付くと、医師が机で何やら書き物をしていた。
「…一体…ここは…どこだね?」
フユツキの言葉に肩を上げる医師。フユツキは、自分の横たわっているベッドが壊れかけで、ギシギシ言っているのに気付いた。
「やれやれ。記憶でも無くなったか?」
周囲を見回すフユツキ。ピンキッシュな壁と天井、御世辞にも整っているようには見えない医療器具。一応はどこかの医療室のようだ。どうやら自分は気を失って倒れ、ここに運ばれたという事らしい。
「…マギデッキ、プログラム終了。」
何の反応も起こらない。
「ビューティーよりブリッジ。…ビューティーよりライカー。」
そもそも自分のこのピンクの服に通信機は無いようだ。ピカードは溜息をついた。
「何だそれは。新種のお祈りか?」
「…君達がどういうつもりか知らんが、連邦をなめてもらっては困るぞ。私を捕らえた所ですぐに応援がやって来るのだ。」
「何だかしらんが、そういう話は看守とでもしたらどうだ。それとも本当に頭がいかれちまったのかい? 2748号さんよ。」
「2748号?」
怪訝そうなフユツキの声に医師は頭を上げた。
「本当に…覚えてないのか?」
「あ…ああ、そのようだな。一体私は、どうしてしまったのだ?」
「どうしたか? ああ、つまり、姦られたんだよ。」
「やられた?」
「レイプされたって事さ。お前さん位の美少年は、ここでは狙われても仕方が無い。ま、目立たないようにする事だな。」
「び、美少年?」
医師は驚くフユツキの様子に口を曲げた。
「別にほめてる訳じゃない。それどころかここではそれは死刑以上に酷な話かもな。注意しておけ、ここでお前が死んでも、誰も悲しむ者はいないぞ。死姦が趣味の奴も多いしな。」
「…待ってくれ、つまり私は死刑囚なのか?」
「…この刑務所に入ってるって事は、多分そうなんじゃないのか?」
よりにもよって死刑囚とはな…一体ここは…アオバシアか、ロミュラスカか?
いずれにしてもあまり人権に配慮の有る国ではなさそうだ。
「そうか…私の犯した罪とは、一体何なのだろう? 私はここにどれ位前からいる?」
「そう一どきに聞くな。良いか、俺は医者だ。そういう話は看守に聞けって言ってるだろ。」
ピカードは自分の着ている半スケルトンのピンクのネグリジェを見ながら、頭を振り溜息をついた。
「艦長、一体どうしちゃったのお?」
バスタオル姿のミサト・トロイがマヤに聞く。
「さあ? 血圧が上がりすぎて遠くの国へ旅立ったんじゃ…」
「遠くの国?」
マヤは「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりに微笑んだ。
「イブジョーの教えでは、人は死んだ後別の世界に旅立つといわれています。そこでは、Jr.達が一糸纏わぬ姿でハッスルハッスル(コンピューターおばあちゃん)だそうです。」
ぐっひゃっひゃっひゃっひゃ…
自分で説明しながら唾液がどんどん分泌されていくマヤ嬢。
ミサトは倒れたまま意識を失っているピカードの顔を見下ろしながら、首を振った。
「…それは無いわね。」
「何でですか! イブジョーの教えを冒涜するつもりですかっ!?」
「いや、そうじゃなくて、まだ向こうの国には旅立ってないって事よ。艦長の血圧は普通の地球人の45倍も高いのよ。もし血圧上昇が死因なら頭から吹き出るはずよ。レッドスネークカモンがぴいひょろろとね。」
「なるほど…」
「それ以前に、今、艦長、失禁してらっしゃるわ。」
じょじょじょじょじょ…
「…そうですね。」マヤは真面目な顔でミサトに頷いた。
ゲォーフは何故かあや取りを1人でやっている副長に報告する。
「…駄目だ。やはりこちらを追って来ている。」
「どういう事だ。」
前方で、フユツキの尿海の床から足を浮かせているレイタに聞くリョウジ。
「分からないわ。推定では、この船の蟻融合炉と連動して動いているのではないかしら。」
「だとすれば簡単にあの物体から逃れる事は難しい、か…」
「ただ、向こうから攻撃する様子も無いわ。」
「なるほど。それはともかく…」リョウジは顔を上げた。
「…取り敢えず、艦長をどかさないか。」
「誰が近づくの。」
リョウジは周囲を見回した。
「「「「「…」」」」」
「しばらく放っておくか。レイタ、無人探査機を発射してくれ。」
「分かりました。」
レイタは無表情に頷いた。
どうもここは好きになれない。じめっとした湿気が常に辺りを包んで、何か塩辛い。
話によるとフユツキの「正しい」名前は「」というらしかった。まあ本名が何であれ、ここではまず2748号である事に変わりはない。
医療室を早々に追い出されたは、刑務所の廊下を歩いていた。周囲は皆地球人と同じ顔をした種族(又は地球人そのものかもしれない)で、自分と同じ半スケのネグリジェを着ている。全員男性で、決して善良そうな顔つきではない。
そして皆一様に、こちらを欲望のこもった様子で凝視しているようにみえて仕方が無い。は軽く頭を振りながら、当ても無く歩き続けた。
そうか、ここでは私は皆の欲望のはけ口なのか…いたいけな美少年の私を、皆が毎夜毎夜襲って来る訳だ…
これ、アリなんじゃないの?(所さん風に)
にやあーっと笑うに、がたいの良い男が近づいて来た。
「おいお前、何処を見て歩いてる!」
「…コスモビューティーは常に前方10メートルに視点を置いて歩く訓練をしている。君にぶつかったりはしなかったはずだが?」
の口調に、男は「はあ?」というような困惑した表情を一瞬見せた。は思った。さっきの医師と反応が同じだ。あるいは私の受け答えに何か不自然さがあるのかもしれん。
「そういう問題じゃねえだろ!」
「ああ、すまんな、私はもう年でな、もしかしたらぶつかったが私が気付かなかったのかもしれん。それならば謝るよ。」
の言葉に相手は激昂した。
「んだとコラァ! てめえ俺をなめてやがんのか! おめぇが年寄りなら俺達はもうとっくのとうにあの世行きになってるじゃねえかよ!!
15のガキがざけた事言ってんじゃねえ!!」
「じゅ、じゅ、じゅ、じゅうごぉ!?」
が改めて自分の手の肌を見ると、確かに綺麗だ。慌てて自分の顔を触る。スベスベプッチンプリンエビバディパポペ。そして頭には…ヘアーが…
おいおいおい、これアリなんじゃないのおおお!?(ムスタングの違法改造車を評して)
「おいこらてめ人の話聞いてんのか。」
「あ、う、それは聞いてるさ。な、何を言うのさ。僕はちゃんと聞いてる…のさ?」
ディープな関西人が無理して喋る標準語のような口調に、相手の四つ角指数は更に上昇した。
「おい、てめえ、ケツ貸せ。」
男は言うや否や若のネグリジェを破き、己の暴れんぼう将軍をパイルダー・オン。
「うおおおおお! これ、アリなんじゃないのおおおおお!!」歓喜にむせぶ。
「それは大変だったわね。でも今は充分ブリッジもきれいになっているように見えるけど。」
医療室から呼ばれたドクター・リツコは、ブリッジでピカードの様態をトリコーダーで検査していた。
「それは先輩! さっき固めるテンプルで全部取りましたから!」(*^^*)
「そう…あ、アリサ、エビチリール5ccお願い。」
「はい。」
隣のナース・アリサ・ハルナが頷いて赤い注射をリツコに手渡す。
「むぅー。先輩私の話聞いてますぅ?」むくれるロー少尉。
「ああ、少し後にしてもらえるかしら。今こっちで忙しいから。アリサ、チンジャオール10cc。」
「はい。」緑の注射をドクターに渡すアリサ。
「良いじゃないですかぁ、こんな腐れ親父なんてどうだってえ。」
「ロー少尉、それは失言よ。」
「…レイタ少佐…」
「確かに艦長は人間としては必要の無いクズよ。しかし彼が艦長でいるお陰で私達は好き勝手に遊べるの。」
冷静に言うレイタにドクターは頷いた。
「その通りよ、マヤ。」
ロー・マヤはやや目を広げた後、頷いた。
「…分かりました。でも、ドクター。」
「何。」
「ドクターは、私とドクターの間の愛情と、艦長の命とどっちが大切なんですか?」
丁度艦長の腕に注射を打っていたドクターはフ、と笑った。
「まったく、マヤは仕様の無い甘えん坊ねえ…」
がた。
腕に刺した注射をそのまんまにマヤの方へ歩いていくドクター。
「先輩っ!」(*v*)(こらならセーフ!!)
「マヤ。」(^^)
「あ、あの、ドクター、艦長は…」
「大丈夫よ、アリサ、放っておいても。彼、生命力強いから。」
その時湯気の向こうから燃える二つの炎(闘魂)が現れた。
「よくも私のマヤちゃんを…」
「あら。マヤを人の所有物のように言う能天気女の声が今聞こえたような気がしたけど、気のせいよね。」
「コロス。」湯気の向こうから現れたカウンセラーは、アイアンナックルをカチャリと装着した。
「2分で飽きられたぞ、艦長…」(ToT)
段々徳光化しつつあるゲォーフ。
ここ数日でことフユツキはムショの生活をすっかりエンジョイしだしていた。
何しろ会う者会う者皆自分を美少年扱いするのだ。これで気分が良くない訳が無い。大体エバンゲリオンのクルー達は自分に冷たすぎる。「必ず2倍にして返す」とあれだけ言ってるのに金を貸し渋ったり、その癖一旦貸した金は執念深く覚えて催促し続けたりする。私の芸術的作品(「誰でもピカソ」で予選落ち)とも呼べる「あかりハウス」も「都市の美観を損ねる」とか言って撤去されてしまった。一体何故だ。何故カウンセラーの風呂はOKで私のハウスは駄目なのだ?
ハレブタ(もしくはヤマザキ)よ、教えてくれ!!
ブツブツブツブツ…
は頭を振って、それから周囲を見回した。
彼等死刑囚達は現在食事をとっていた。ここ数日で刑務所の男という男達を殆ど吸い尽くしたは、周囲から畏怖の目で見られていた。
「あ、あの、ビューティー、食べて下さい。」
隣の席の囚人が食べ物を「献上」する。
「おう、そうか、悪いな。しかし私はこんな臭い飯より、君の方を食べたいぞ…」
隣の囚人の股間をそろ、と撫でる。
「そ、そんな(ぽっ)…人が一杯見てますたい。」
「良いではないか、良いではないか!」隣の囚人の帯をぐるぐるとほどく。
「あれー。そんなゴム体操なー(1、2、3、ゴム、2、2、3、ゴム)。」
ぐるぐるぐる。うはうはうは。
どすん。
左隣の男の…をしゃぶろうと構えた時、勢い余ったは右隣の別の囚人とぶつかった。
「ああ、これは失礼。」
「気をつけな。」
「ぐふふふ、もう既にここはこんなに」
「おい、」左隣の男は、静かだが低い声での肩に手を置いた。
「気をつけろと、言っているんだ。」
「あ、ああ…済まなかったな。」
言葉とは裏腹に美少年はややむっとした表情を見せた。
「結論から言わせてもらうとね。私達に打つ手はないわ。」
返り血を手で拭いながらリツコが言った。
「どうしてよ! 今これに死なれたら困るのよ! またツケが溜まってるし!」
ペッ、と赤い液体の混じった唾を吐きながらカウンセラーが聞く。
「アリサ、説明して。」
2人の間で少し震えている色白の日本人看護婦は「ええっ」という表情をドクターに見せたが、やがて口を開いた。
「そ、その…艦長は、身体的には何の異常も見られないんです。ただ、大脳新皮質の活動のみが通常の数倍のスピードで活動しているのですが…」
「…だって、現に寝てんじゃんさ。」
「ええ。ですから、私達にはどうする事も出来ないんです。原因が全く分かりませんから…」
「分からなくは無いわ。」
「どういう事、レイタ?」腕組みをしながら借金取り立て人(ミサト)が聞く。
「先程から観察していると、前方の飛行物体から発せられるエネルギー量と艦長の様態には相関関係が見られるように推測されるわ。」
「もう少し具体的に何が原因か、分かるか?」
「いいえ副長。まだ情報が足りないわ。」
カウンセラーは角を出した。
「だからって、何もしないでこの状態で待ってろって言うの? いくらこいつに貸したと思ってんの、5万ラチナム円は下らないのよ!!」
「待つより他無いわよ。下手に手を出したら命に関わるかもしれないのよ。そもそも彼に金を貸す方がどこかおかしいんじゃないかしら?」
「な、ぬわぁんですって!」
ナースは苦笑した。
「べ、別に5万ラチナム円位なら、良いじゃないですか…って、え?」
「「あら、アリサ/アリサちゃん、いつからそんなに偉くなったのかしら?」」
「ふ、ふ、副長ぉ。」
「…すまん。俺にはどうする事も出来ん。」
半泣きのナースに2人の鬼神が近づく。このままでは彼女がすぐそこのマヤに続いて殉職するのは時間の問題のようだ。
次第に刑務所内の番長と化していただが、彼にも我慢が出来ない事がいくつかあった。
まず、看守達の暴力には閉口した。更に例の男−ムドーというらしい−が、どうもカンに触る。
他の囚人達は今やに期待半分、恐怖半分のいたいけな小羊の目を見せるのだが、ムドーの目だけは彼に対しても鋭さを失っていなかった。は彼がいる事による不快感で、以前のエバンゲリオンの艦長としての日々を忘れないでいるような部分があった。
ある日、は「自由行動」の時間、小さなグラウンドの壁際でたたずむ彼を見つけた。
はムドーに近づく。ムドーと、彼の隣に体育座りで座っていた男−眼鏡を掛けたインテリ風の男で、確かリューイチというらしい−が顔を上げた。
「ここは、構わんかな。」
ムドーは無言で肩を上げた。
「失礼するよ。」
は彼等の隣に腰を降ろした。
グラウンドでは死刑囚達がキャッチボールをしたりシンクロナイズドスイミングをしたりバイアスロンをしたり人間将棋をしたりしている。
「…君達は他の囚人達とは違うようだな。」
ムドーはリューイチと軽く目を交わした。
「…お前さんもかなり違うようだがな。」
「口調が年寄り臭いとよく言われるよ。どうも、国の言葉が訛りがひどくてな。」
「それだけじゃないだろ。…まあ、構わねえけどな。」
3人は黙り込んだ。
「…君達は私が何も考えていないと思っているだろう。」
「違うのか?」
はムドーの言葉に眉を上げた。
「…んっと…うーん…そうだなあ…違う。」
「説得力ゼロだぞ、お前…」
「いや確かに違う。違うったら違う。「対決! マイベスト10」の歌手位違うぞ!!」
ムドーは溜息をついた。
「ふざけるな。お前は何も悩んでなんかいないだろうが。良いか、お前みたいな能天気な輩がいるから世の中が良くならねえんだよ。いや、それは俺が言えた事じゃないのは良く分かってる。ただな。ただ…お前のような奴が俺と同じ刑務所にいてのほほんとしているかと思うと、俺は正直吐き気がする。」
ムドーの言葉を聞いていたリューイチが口を挟んだ。
「そこまで言わなくても良いでしょう。それに、彼が最初の頃受けた虐待は、あなたも見たはずだ。彼はそれで、精神がおかしくなってしまったのかもしれない。」
「…そうか。」
「ち、違う。私は全くもって正常だ。どこもおかしい所なんか無いぞ。それは確かに、この前魔術で浮く恋人を見た時はチビったが…」
ムドーは納得した様子でリューイチに頷いた。
「そういう事か。」
「でしょうね。」
「人の話を聞き給え!」
ムドーは哀れんだ様子で言った。
「ああ、悪かった。そうか、それなら全然楽しそうでも仕方が無いな、まだ若いのに、可哀相に…」
「…」(`´)
「ところで君は、一体何の罪でここにいるんだ?」
はリューイチに答えた。
「あ、ああ…それが、良く、分からんのだよ。つまり、この刑務所に来る前の記憶が、無いのだ。」
「やっぱり和久井映美ですね。」
「今で言えばいしだ壱成、千秋か?」
「千秋は当たっているけど違うでしょう。」
ひそひそ会話をするリューイチとムドー。
はやや苛立った様子で言った。
「大体君達はどうだと言うのだ。」
「聞きたいか? 俺がここにブチ込まれる原因になった話でも。」
「どうせ暇だしな。」
「よかろう。」
ムドーは千秋()に、自分の半生を語りだした。
俺はお袋を小さい時に亡くしてたから、親父とずっと2人暮らしだった。
親父はヒヨコの雌雄鑑別士をやっていたが、自分でヒヨコの雌雄鑑別士が嫌で嫌でたまらないというタイプだった。多分彼がなりたかったのはヒヨコではなく、センザンコウの雌雄鑑別士だったんだろうな。しかしこの国では、センザンコウの雌雄鑑別士はエリート中のエリートだからなあ。
だから親父は自分の仕事を嫌っていた。親父は、家に帰って来ると、すぐにガンジャの世話になってチロルの村に飛んでいくような、情けない男だった。
俺はだから、親父を嫌っていた。親父はいつも、保育園に俺を迎えに来る頃には目の焦点が合わず、しきりに「小峰嶺奈に踏まれたい、小峰嶺奈に踏まれたい」と呟くような状態だったからな。
その頃、隣の家にソノカっていう娘がいて、俺より4歳年上だった。
俺はソノカが大好きだった。俺は暗い性格で、よくいじめられていてなあ。そういう時もソノカはいつも俺の事を守ってくれたんだ。
ソノカが小学校を卒業する時なんて、俺はどれだけ泣いたかなあ。とにかく俺はそれ位彼女の事を慕っていた。
俺は中学生になっていた。
ソノカは高校生になっていて、しかもガングロのロンゲがどうこうとか言うような顔色の悪い今時の女子高生みたいなんじゃなく、きちんとした清楚なイメージの高校生になっていた。そうじゃないと話が色々成り立たないだろうからな。
俺はそんなソノカにますます切ない思いをするようになっていて、その思いをどうすれば良いのか分からなかった。
ある日、親父が雌雄鑑別に忙しく、俺が暇を持て余していると、ソノカが自分の家に俺を呼んでくれた。
俺は最初の内こそソノカと一緒に楽しくせんだみつおゲームを(2人で)やったりしていたが、その内彼女の女の匂いに我慢が出来なくなった。
俺は彼女に抱き付いていた。…その後、どうやったのかはよく覚えていない。ただ、気付くと俺はソノカの中に入っていた。
ソノカはその時どんな顔をしていたんだろう。今思うと、それは恐怖に満ちた顔だったような気がする。しかしそうでなかったような気もする。いずれにしてもその時は、俺はソノカと一つになれた事への喜びと快感で頭が一杯になっていて、それ以外の事は何も考えていなかった。
俺はしばらくずっとソノカの中に入ったままだった。しかし行っちまってから、ようやく俺はソノカの様子がおかしい事に気付いた。
俺は急に自分のした事が悪い事だったのではないかという思いにかられ、その行為を止めようとしたんだが、その時にはもう遅く、俺がパンツをはく前にソノカの両親が帰って来た。
よく覚えていないが、ソノカの両親は不思議と俺の事を怒らなかった。ただ、彼等の態度からやはり俺がとんでもない事をやらかしたらしい事は伝わった。
俺が自分の家に帰ると、ソノカの両親から話を聞いた親父は既に出来上がった状態で俺に金属バットを振りかぶった。振りかぶって…自分に当てて自爆した。俺はこんなベタな死に方をする親父が自分の父親だったかと思うと心底嫌になった。それから俺はその家を後にした。
俺はその後、名前を変え、地方の街でしみったれた三流民間企業のヒラ社員をやっていた。まあそれでも真面目に、こつこつと働いて、その内一応は家族なんて物も持つようになった。
異変に気付いたのは娘が6歳になった時だった。保育園から帰って来た俺の娘が、今日、変な女の人を見たっていうんだ。最初は何の事だか分からなかった。俺はもう全くあの時とは別人の、真面目な人間になっていたつもりでいたから、まさか生まれ故郷の街に関係の有る人間がここに来るとは思わなかったんだな。ま、今思えば傲慢な話さ。
娘をつける変質者に憤慨した俺は翌日保育園で見張りをした。するとヤツが現れたんだ。ソノカだよ。
30後半になったソノカは音無可憐並の不気味さで、こっちを見てニヤっと笑ったんだ。
やがて彼女は俺のした事を種に恐喝を繰り返すようになった。俺もその時には家族がいたから、素直に自首する訳にはいかない。自分の女や娘を悲しませたくはなかった。だから俺はソノカの言う事には何でも従った。
やがて俺は会社を辞めざるをえなくなり、完全にソノカの下で働く事になった。彼女は持ち前の聡明さでその街の市長になっていたが、その頃はマフィアの暗躍していた時代で、彼女も常に裏とのパイプを必要としていた。それが俺だったという訳だ。
俺の仕事もあって、彼女はとんとん拍子に力をつけていった。そして10年後には、ついに彼女は国の副大統領にまで昇り詰めた。
俺はしかし、別に嬉しくはなかった。その頃俺の愛情は、長年連れ添って来た妻と娘に向けられていて、ソノカにはあの時の事を申し訳なく思う気持ちこそあれ愛情は無かった。彼女から与えられた仕事も嫌々やっているまでであって、好き好んでやっている訳じゃない。俺はヒヨコ雌雄鑑別士をしていた親父の気持ちが初めて少し分かったような気がした。
ある日ソノカは、副大統領執務室で俺を誘惑した。しかし俺は頑として、首を縦には振らなかった。ついにはソノカは怒り出し、「あなたが私の物にならないのなら、私はこの世なんていらない」と言い出した。
俺は一瞬、ソノカが実は、今まで俺の事を愛していたのではないかとその時思った。その事を聞くと彼女は笑った。
「馬鹿を言わないで。ただ、私の初体験が4秒で終わったのが許せないだけよ。」
俺は早漏だったんだ。
彼女はその思い出が許せないらしく、俺に迫ったが、俺は妻や娘の顔が頭に浮かんで来て、ソノカにうんと言う事は出来なかった。
すると彼女は、執務室の核ミサイルの発射ボタンを押した。
それから後は…色々ありすぎてよく覚えていない。ただ気付くと俺は先の世界大戦の主要戦犯として法廷に立っていた。
俺は…「長く持たせる事を知らなかった罪」で裁かれたいと願ったが、裁判官や検事にそんな話は通じなかった。
俺はそれ以来、「手を抜かずにやろう」と思うようになった。それが…俺の贖罪だ。未だに俺は早い。早いが、少なくとも長く持たせるように毎回努力はしよう、そう思うようになったんだ。
「勝手な思い込み…かも知れん。…が、全てが手遅れだ。これが勝手な思い込みに過ぎないとしても、もう俺には何も無いんだ。」
は余りに色々な思いが交錯して、ムドーに何と言って良いか分からなかった。やがては重々しく、口を開いた。
「あんた間違ってるよ。」
「そう?」
「いや、良い話でした。」リューイチは涙を拭いながら、ムドーに握手を求めて来た。
「ありがとう。」
「違う、絶対あんたら間違ってる…」
「君は一体、何をしてここに来たんだ。いや、記憶喪失なのは分かったが、何か少しでも覚えている事はないのか?」
は深く溜息をついた。
「それは…ある。幾らでもあるさ。私がここに来る前…3年前までは、私は宇宙船の艦長をしていた。」
「「ぷぷーっ」」
「わ、笑うなーっ!!」
は焦った様子で付け足した。
「妄想だと思いたいなら思え。私はサカターン人ではなく地球という星の人間で、確かに宇宙船の艦長をしていた。これは事実だ。今だって、夢を見せられているに違いないのだ。」
「…やっぱり千秋だな。」
「うっさいわ。」千秋は続けた。
「とにかく私は、誰が何といおうとUSSエバンゲリオンの艦長フユツキ・コウゾウ・ピカードだ。」
「お前はだろ?」
千秋は首を振った。
「…全く…もう良い。」
ふとリューイチが、の表情に目を細めた
「ちょっと待て…君は…君は、本当に昔の事を覚えていないのか?」
「…ああ、そうだが?」
「理由が分かったぞ。君…私は一年前まで外にいたから知っているが、君は先の大戦の首謀者として政府に攻撃されているんだ!
しかし、現在実は君は無実だったのではないかという事で問題になっているんだよ。君のフルネームは、・チャンコーンだ。」
どーん。
「…それが…何でだと分かるんだ?」
ムドーが聞く。
「いや、どこかで彼は見た事があるなと思っていたんですよ、今の首を振る表情で分かりました。これは彼が以前「スターめっきり旦那が帰国」という番組で見せた表情と全く同じだ。記憶が失われているのも、拷問のせいなら説明が付く。しかも名前も、年齢もぴったり一致している。チャンコーン君、君は無実だ。今でこそ千秋になってしまったが、君は私達とは違ってここにいてはいけない人間なんだ。」
「そ、そうなのかね?」
「ああ、間違いない!」
リューイチが頷いた。
「では、私はビビアン・スーなのか…」
は深刻な表情で呟いた。
「「(人の話をちゃんと聞け…)」」
ブリッジにはナースとマヤの屍が転がっていた。
「ねえ、やっぱつまんないわ、艦長いないと。何とかして叩き起こしましょうよ。」
赤黒い血で染まった手を払いながらトロイが言う。
レイタが振り返った。
「可能かもしれないわ。」
「どういう事だ、レイタ。」寝ている艦長の頭に足を乗せながら聞く副長。
「艦長が寝たままの原因が分かったわ。今、無人探査機の送って来た情報によると、前方の飛行物体からアリクイハカセビーム(略してハカセ)が放射されているわ。これが艦長の脳波と同調して、艦長に一種の夢を見させているものと推測されるわ。」
「夢?」聞き返すライカー。
「ええ。恐らく一種の精神攻撃兵器なのではないかしら。」
「じゃ、何、艦長1人だけがその攻撃を受けているって事なの? また随分と効率の悪い話ね。」
「そうとは限らないわ。戦闘の状況…例えば1人で巨大な兵器を操縦するような時代なら、充分有効な武器たり得るわ。」
白衣を赤く染めたリツコはレイタに聞いた。
「それで、どうすれば艦長を起こす事が出来るのかしら。」
「アリクイハカセビームの影響を中和させるツッパリメモリアルビーム(略してビーム)を艦長の頭部に照射すれば、理論上は飛行物体の影響を遮断する事が可能になるはずよ。」
リツコは頭を振った。
「駄目よ、危険すぎるわ。」
ミサトはリツコに食って掛かった。
「じゃ、じゃあこのままここに放っておけっていうの!?」
「そうは言っていないわ、ただ、それでは危険すぎるのよ。5万ラチナム円を取り返し損ねたくないのなら、私の言う事を素直に聞く事ね。」
「くっ…」
3人の話を聞きながら考え込んでいたライカーはレイタに質問した。
「一体どこの兵器なんだ、そもそも。」
「分からない。ただ、もし飛行物体がずっとこのアリクイハカセビームを発していたのだとすると、その残留波が残っていると推測されるわ。そこから発射地点が割り出せるかもしれない。」
「機関室でマコト君と調べてくれ。」
「分かりました。」
レイタは頷いて、ブリッジを離れた。
リツコとミサトはまだ闘い足りないらしく睨み合っている。
「どうやらまだ納得している顔には見えないわね。」
「当たり前っしょ。私はあんただけは昔から信用してなかったのよ。何よ、自分がネコの癖して、いつから「ネコ」を飼う習慣なんかつけたのかしら?」
「な、言ったわね、あの時ふったのはあなたでしょ! 急に「男が出来た」とか言って、知り合いを出された日には誰だって絶望するわよ。あれから数年、メグ(作者注:13話を参照)を見付けるまでどれだけ辛かったか!」
「よくそういけしゃあしゃあと言えるわね。相手をとっかえひっかえしておいて…」
「あなたには負けるわよ! そもそもあなた、本物のミサトじゃないじゃない。」
「そういう状況にしたのはあんたでしょっ!」
「ゲォーフ。」リツコの声に、ゲォーフはビクッとして振り向いた。
「な、何だ。」
「あなた、どう思う?」
「それは勿論、私の方が正しいわよ、ねー!」
「どちらが論理的により整合性のある事を言っているかしら?」
「あ、そ、そ、そうだな…」
「「はっきりしなさい。」」
「あ、う、助けて…」(ToT)
3人目の犠牲者の屍を見下ろし、ドクターとカウンセラーは溜息をついた。
「良いエクササイズになったわね。」
ミサトに軽く頷くリツコ。
「同感だわ。」
知らない内に復活していたナースが(私は師匠のフラン研。広末涼子ではない)、医療用トリコーダーを眠れる森のピカードにかざしている。
「脈拍その他、全て正常を保っています。」
「でも、やはり脳波だけは異常に活発に動いているわね…」
「それって、レイタの言っている事が正しければ、精神攻撃を受けているって事でしょ! 何とかしなさいよ! 5万ラチナム円がかかっているのよ!」
リツコはうるさそうにミサトを見やった。
「そんなに5万ラチナム円が惜しければ、私が弁償するわ。もし艦長が死んだらね。」
「…まあ、それなら、良んだけど…」
リョウジ・ライカーはドクターに命令した。
「さっきレイタが言っていたツッパリメモリアルビームを、照射してくれ。」
「「…副長!!」」
ライカーは思いつめた様子で話し出した。
「このまま何もしないではいられない。私は艦長を、自分の手で殺したいんだ。ここで勝手に死なれては困る。」
「副長…」
「…分かりました、やってみましょう。アリサ、医療室から携帯用ビーム照射機を持って来て。」
「はい。」
その後も何の反省もしなかったは毎日男を誘惑しまくり、良い汗をかくと、決まって刑務所の運動場にやって来るのだった。はこの一時だけは、ムドーとリューイチとの穏やかな会話を楽しむようになっていた。ムドーの言葉は間抜けだが、それだけに突っ込みがいがある。逆にリューイチの言葉は知的で、同じ鬼畜として教えられる事も多いようには感じていた。
リューイチは、どうやら昔は歌手をやっていたらしかった。しかし調子に乗りすぎてワンフーの首をきゅーっとやってしまったのだと言う話をは他の囚人達から聞いていた。
と2人はその日、塀の外でのチャンコーンを巡る状況について話をしていた。
と言っても、情報を一番良く知っているのはリューイチなので、自然、会話はリューイチの話を2人が聞くという形になった。
リューイチはに尋ねた。
「しんちゃんという人に記憶は無いか?」
「し、シンちゃん?」
「ああ。もと君の同僚の青年で、彼は今ゲルマーンの統一政府特使に就任している。噂では、彼と君は恋人同士だったらしい。」
「良く知っているな。」
リューイチがムドーに答える。
「「悲劇の純愛」として皆のゴシップの種ですよ。何でも彼はチャンコーン君…つまり君だが、に「あの公園で会いたい」と言ったという話があってね。何の事だか分かるかい?」
「公園? いや…」
「そうか…」
「シン…ちゃん…」
青年は呟いた。
その時突然彼等の寄りかかっていた高い壁の上のスピーカーから、声が響き渡った。
「1672号。運動場出口まで出頭しろ。」
ムドーは穏やかな顔で立ち上がった。
「やれやれ。7年も待たせやがって。遅漏の男も嫌われるぜ。」
「ムドー君!」は立ち上がった。
カウンセラーはうさん臭げにドクターに聞いた。
「ねえ、何で脇の下に照射機をセットしてるの。」
「ここからが一番脳の神経によく伝わるのよ。アリサ、合図をしたら打つわよ。」
「はい。」
「1、2、3…照射!」
眠る艦長の脇の下に2本のビーム光線が放たれた。
「うっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃ、止めてくれくすぐったいいいい」
立ち上がったはそのまま笑い転げて倒れ込んだ。呆気に取られた表情の囚人、看守達。
「心拍数が上昇、脳波も乱れています!」肌の色などはレイタに似ているが、レイタと違って普段はとても柔らかな表情のはずのハルナが、緊迫した様子で報告する。
リツコは頭を振った。
「駄目ね…照射停止! ユッケジャン酸30cc準備!」
ビームの照射は停止された。
モニタを見ていたナースが目を丸くした。
「信じられません…心拍数通常の36000に低下。脳波も、通常パターンに戻っています…」
「駄目よ。」リツコはカウンセラーに言った。
「5万ラチナム円は諦めた方が良いわ。」
「そ、そんなあ…」
「気がついたか。」
が目を開くと、例の病室だった。
窓の向こうのツバメがちゅん、ちゅんと鳴いている。
「…どの位、私はここにいたのかね。」
「3日間だ。」
「3日! そんなにか…ムドー君には後味の悪い別れ方になってしまったな…」
「こういった発作は以前からあったのか?」
はやや苛立たしげに首を振った。
「…私は6年前のこのベッドより前の記憶は無いのだよ、知っているだろう。」
「ああ、そうだったな。何でもそれ以前は、お前さん宇宙船の艦長さんだったんだろう?」
はきまり悪そうになった。
「やめてくれ給え。もうその話は散々馬鹿にされて懲りているのだ。全く、人が熱にうなされて見た夢をそうそう笑わないで欲しいものだよ。」
「…なるほど? まあ、もう熱は無いし、口調もしっかりしているようだし、問題は無かろう。」
医師は振り向き、青年に問い掛けた。
「…君とムドーは、確か友人だったな。」
「ああ。」
「なら恐らく、彼がいなくなってしまう事のショックで一種のパニック状態になったのだろう。」
「そうか…(そこまで彼を気にしてたっけ?…)」
は頷いた。
その頃から、は徐々に徐々に態度が悪くなって行った。以前は男達を誘惑する以外は基本的に無害だったのだが、今では派閥のような物を作り手下を何人も抱え、名実共にメダカーンの刑務所の「裏ボス」となっていった。
ムドーが処刑されてから数週間後、リューイチもあのスピーカーに呼ばれ、刑を執行されに行った。
は(遊び相手が減るという意味で)命のはかなさを思い、ますます荒れて行った。
は20代になっていた。(どこから調達したのか)白いアルマーニのスーツと寅壱の七分に身を包み、水タバコを吹かすは呟いた。
「そろそろここも飽きたな…」
ある日、は「生きて帰る者はいない」と呼ばれるその国の刑務所を手下に呼ばせたヘリで簡単に脱獄し、その後はメダカーンの首都でマフィア稼業に精を出していた。
勿論それには、刑務所で築いた裏人脈が不可欠だったし、ムドーから学んだ裏社会の知識、リューイチから学んだ法律の切り抜け方等が大いに役に立った事は言うまでもない。
ただ、はどうも奇妙な印象も感じていた。刑務所を抜け出てから数年、今日に至るまで、殆ど何の失敗もなくここまでやって来たのが意外なのだ。自分はまだ30だし、マフィアとしてははっきり言って未熟だ。それに自分の場合15より昔の記憶が無いというハンディがある。にも関わらずここまで順調に来れた事が、にはどうも不思議だった。
は、しかし仕事以外の点では必ずしも全てが順調に行っている訳ではなかった。
彼はどんなに女を抱いても(男に抱かれても)、いつも心は別の場所をさ迷っていた。
彼は「シンチャン」という男が、どうしても気になっていた。配下の者等の話を総合すると、彼は現在では30代の若さで世界統一機構の総裁という、事実上この星を代表する立場になったらしい。彼は1回だけ動くシンチャンを見た事があった。
ある日、の邸宅のテレビを子分が不用意につけると、どこか見覚えの有る、女性的で温和な顔の男性が議場で演説をしていた。
それを見た途端、は激しく気分を害し、そのテレビとテレビをつけた子分をリボルバーの弾に沈めた。
それ以来はテレビを絶対見ないようになり、新聞も絶対ではないが可能な限り読まないようになったのだった。
その日は上機嫌だった。ここ6年程設置の為に奔走していた新ビジネス−政府に色を付けてもらっている以外は基本的に合法的な物で、競バッタという名前のビジネスなのだが−を、今日ついに開始したのだ。
目抜き通りのチャイニーズレストランにリムジンで乗り付けたチャンコーンは、祝砲のマシンガンを空に打ち鳴らしながら叫んだ。
「お前達、今日は好き放題食って、騒いで良いぞ!」
「「「「「「うおおおおおーーー」」」」」」
歓声を上げる子分達。
一同は貸し切りにしたチャイニーズレストランの中になだれ込んだ。
中ではテーブルに「11PM座り」で寝そべる美女達。(ところで女体盛りってまずいらしい。)
「親分、祝いの席ですぜ、何から手を付けましょうか?」
40にさしかかったは、鋭い剃刀のような顔つきで子分達を見回した。
「そうだな…」
ゴクリ…
固唾を飲む子分達。
「まずは、皆で飾り付けだ!!」
「「「「「「うおおおおお!!!」」」」」」
「今日の為に街中の折り紙とヤマト糊を買い占めておいた!! お前達好きなだけ紙輪っかを作れ!!」
「さっすが親分!」
「「「「「「みーんなーで作れば楽しーいなー♪」」」」」」歌いだす黒服の子分達。引きだす美女達。
「お? 君が作っているのはびっくり箱だな。」
「へい親分、こうやって2つの短冊状の紙を交互に折り重ねていくと…あら不思議! びよよーんと紙のバネが!!」
「はっはっは、こいつぁあ愉快だ! なあ兄弟!」
「「「「「「そうですね!!」」」」」」声を揃える事に異常な才能を見せるマフィア達。
お誕生会(競バッタ組織の)パーティーは、やがてプレゼント交換会の時間になっていた。
「「「「「「何が出るかな、何が出るかな…」」」」」」
の前に周って来た包みは何やら細長かった。
「これは一体何だ?」
言いながら包みを開ける。
中から出て来たのは、茶色の木の棒のような物体だった。
子分の1人が立ち上がる。
「そ、それはあっしが買った物なんす、親分。」
「何だこれは…また随分大きなバイブだな…」
「違います! リコーダーです!!」
「リコーダー?」
「…ええ、縦笛の一種っすよ。目やにも溜まる程の御嬢様な親分にはぴったりかと…」
「縦笛…尺八のような物か?」
「え、ええ、まあ、そうです。」
「なるほど…それは確かに御嬢様向きだな…」
どうやら気に入ったらしい親分の様子にほっとする子分達。
「それではさっそく吹くとするか…」
すー、すー、すー。
「親分、吸うんじゃなく吐くんです。」
「…ああ、そうだったな。」
「それから上下逆さまです。」
「む…こうか?」
「後、手をグーにしないで、いくつか開いている穴の上に指を乗せた方が…」
「ええい、じゃかしわー!!!!」
親分はリコーダーをぶん投げた。
ばかっ、ごきっ、がしゃーん。
「お、親分…」
「うむ、良い音色だ…」
がーん。
「「「「「「(親分が感動の黒い涙を流してらっしゃるー!!!)」」」」」」
ぱたぱたぱた…
レイタが浮かない顔をしてブリッジに戻ってきた。顔が浮かない代わりに体全体が浮いているように見えるが気のせいに違いない。
「どうだった。」
「場所は、分かったわ。」
自分の席まで飛んでやってきたレイタは、さっそくパネルで座標を示す。
「ここよ。」
自分の席のモニタに送られてきた画面を見てライカーは難しい表情になった。
「しかし、ここには星は何も無いようだが?」
「いえ。以前はMクラスの惑星があった事が分かっているわ。ただ、その星は2万年以上前に恒星のピーターラビット化の影響で爆発しているの。」
「…」
副長は、艦長の頭に足を乗せたまま、苛立たしげに足をコツコツと動かした。
タカボックは実直な若者だった。彼はいつものように、新聞をアイロンでプレスし、いくつかの重要な手紙を机に置き、ドアの前でボスがやって来るのを待っていた。
「首相。」
がドアを開けるとタカボックは堰を切ったように口を開いた。
「この後14時からは民主コレステロール党のカブタック議員と昼食です。15時からはゲルマーン国代表との会談で、17時30分から国際尻毛貿易委員会の最高会議に…」
は手を振った。
「止め給え。もう良い。今日のスケジュールは全部頭に入っている。」
「…承知しました。」
最早頭髪も薄くなり、残る髪もすっかり白くなったチャンコーンは椅子に腰掛け、軽く頭を振った。
「あの頭痛薬は駄目だな。やはり何か…腫瘍か何かがあるのではないか?」
「例の、頭を蹴られるような痛みですか?」タカボックは心配そうに尋ねた。
「ああ、ここ数年、恒常的に妙な痛みがある。こんなのが「ただの疲れ」なはずがない。…あそこは、薮じゃないのか?」
「…」
「どうも気が短くなっていかんな。シマダーンの代表達と話すと特にそうなる。」
はそう言うと、秘書に笑って見せた。
「なあ、タカボック。君は今年で何歳になるんだ。」
タカボックは戸惑いを隠して穏やかに答えた。
「27になりますが。」
「27年…そうか。もうそんなになるか。時間は過ぎると速い物だな。」
「少し…お疲れですか。」
「まあ、そうかもしれん。いや、午後からの仕事に差し支えはないがね。なあタカボック、27年前、まだ私が40代の頃、私が当時、秘書をしていた君のお父さんと初めて会った時にした話の事を覚えているかね。」
「元総裁の事ですか。」
「ああ。彼は…シンチャンは、当時既に姿を見せなくなっていた。一体どこへ行ってしまったんだろうなあ。」
の皺がれた声に、タカボックは首を傾げるような動きを見せた。
「30年以上探して見つからないのです。やはり、彼が総裁を辞めた時かそのしばらく後で、亡くなったと考えるのが妥当ではないでしょうか…あの頃はそういう時代でしたから…」
「うむ…」
首相は細長いケースからリコーダーを取り出した。
「私がその頃、色々悪さをしていたのは君も知っている事だろう。」
「…首相…」
「このリコーダーはその頃自分の部下から貰った物だ。後から、シンチャンが人を伝って私に送ってくれた物だと知った。シンチャンは…記憶を無くす前の私と、恋愛関係にあったらしい…そして、妙な事に、記憶を無くした後の私もその事に何の疑問も抱かなかった。つまり、」
首相はリコーダーの口をパクッとくわえていた。
「ふあおふきあおは。(今も好きなのさ。)」
タカボックは直立不動の体勢のまま、窓の向こうのマングローブを眺めた。
チャンコーンは続けた。
「うぇいぎがみえあが。ちゅうかないぱねむー。だー。(私がメダカーンの首相をやっているのも、彼に私がどこにいるかを教える為なのだよ。しかしもう…死んでしまったのかも、しれないな。)」
「何故、そんな話を?」
「さあ…何故だろうな。」
ぷ、ぽ、ぺー、ぷっぷーぽぺー、ぷっぽーぺー…
首相は中々の音色で、リコーダーを吹きだした。
リョウジ・ライカーはあくびをしながらレイタに聞いた。
「結局、艦長を救う手だては全くないのか?」
「…こちらから逆ハックを仕掛けて光線の送る情報を変形させる事は可能よ。」
「ただ、この光線の情報内容まで分析してプログラムするには最低でも4時間はかかるでしょう。艦長がそれまで持つかどうか…」
ミイラが言葉を繋いだ。
レイタは頭を振った。
「これは素晴らしい精神兵器ね。」
「そうか…」
レイタは僅かに微笑むような表情を副長に見せた。
「後は、艦長の頭の悪さ加減に期待するしかないわ。精神攻撃は、相手が一定以上の知性を持ってはじめて成立する物だから。」
「艦長は、性格が悪いだけだ。頭が悪い訳ではない。」
ゲォーフがレイタの言葉を修正する。
「そうかもしれないわ。」
は自分が年をとったと実感していた。
最近とみにおかしい。急に目が霞んだり、耳が聞こえなくなったりする。ひどい時には自分が幻覚を見ているかのような奇妙な感覚さえあった。どうも景色が妙だったり…現実の景色を評して言うのもおかしいがリアリティが欠けているように感じられたりするのだ。
「…タカボック。今日の、これからの、予定は…何だね。」
既に初老を迎えた秘書が答える。
「11時より囲碁問題に関する記者会見、12時にメダカーン三輪車組合幹部と昼食会、13時から北京原人映画鑑賞…」
「重要な物などないな。あー、タカボック、予定を変更して…ドクター・フシボックの所に、行ってくれ。」
「…やはり調子がお悪いのですか?」
「ああ、どうもいけない。」
「昨日、シンチャン氏を見られて、そのまま執務を続けられている訳ですから…」
「いや、それは問題ではない。そんな、事で、統一会議、総裁は、心を乱されたりは、しない。大体、あれが、シンチャンであるとは、あー、証拠は無いではないか! あー、とにかく、ドクターの所へ連れて行き給え。大至急だ。」
「分かりました。」
リムジンは国の要人が現れる事では有名な大病院に滑り込んだ。
「一体、今日はどうしたんです。」
ドクター・フシボックは、この星サカターンの最重要人物とも言えるチャンコーン総裁を相手にしてもまるで萎縮した態度を見せなかった。
老はドクターに全面の信頼を置いているようで、大きく頷いて話し出した。
「ああ。やはり、あー、今日なども、起きてから、目の霞みや耳鳴りがひどいのだ。」
ドクターは溜息をついた。
「総裁。総裁は既にお年ですから、そういった事は仕方が…」
「そういう問題ではない! その、執務に、支障が出るようでは困るのだよ! 全く。ここ数日に比べて、今日は特に…ひどいぞ。」
ドクターはやや興味をそそられたらしく、総裁に向き直った。
「一体何かあったんですか。」
答えたのは総裁ではなくタカボックだった。
「実は総裁は昨日、あの、シンチャン氏を…」
「こら、タカボック、そんな事をドクターに言って良いとは…」
「見たのか?」ドクターはタカボックに問いただす。
タカボックは頷いた。
「どういう状態だった。」
「…彼は、公園で、1人で座っていました。着ている物などから推測して、恐らく…辛い人生を送って来たのではないかと…」
ドクターはタカボックの言葉に顔を暗くした。
「……そうか…」
「…ドクター、シンチャンを…知っているのか?」
「…ええ。この星の者は皆あなた達の事を知っていますよ。」
「そんな。馬鹿な事がある訳はあるまい。かっはっ、年寄りを馬鹿にしおって。確かに昔、本当に昔、私と、彼が、噂になったという話は聞いた。しかし…その後、そんな話は、聞いた事がない。」
ドクターは頭を振った。
「知らない訳はありません。ただ…世界がおかしくなったんです。」
「何の話だ?」
ドクター・フシボックはに尋ねた。
「総裁。失礼ですが総裁は、御自分の家族を持たれる事がありませんでしたな。それはシンチャン氏への愛の為ですか。」
はしばらく目を閉じた。「行って」しまったかとやや焦るドクターとタカボック。
「…ああ。」
は目を開いた。
「彼は、今も、ああして…公園で、待っていたのだな。知らなかったよ。」
「嬉しいですか。」
は、ドクターのぶしつけともとれる質問にゆっくりと答えた。
「ああ。…彼が私を…今も…愛してくれている事を、知ったんだ。もう私は、いつ死んでも、悔いはない。」
「それは出来ません。」
ドクターは低い声で否定した。
「な、何故だ。」
「総裁。総裁は、覚えていますか。あの、「奇妙な夢」の日々を。」
「な…」
口を開けかけ、は頭を振ってドクターに問いただした。
「君が、何故、そんな事を知っている!」
ドクターは彼の質問に答えず続けた。
「あの、刑務所であなたが見た夢は、夢ではなかったのです。チャンコーン総裁。」
「…」
「あなたの体験しているこの世界は、昔私達の星サカターンにいた人物の記憶をベースにして作られた物なんです。総裁、あなたは精神攻撃を受けていたんですよ。」
「精神、攻撃…」
が顔を上げると、ムドーが苦笑しながら腕組みしていた。
「ああ、済まないが、この兵器は誰か接触して来た者を見つけると自動的に攻撃をしかけてくるんだ。俺達は君が見方なのか敵なのか、そもそもまだサカターンとマジカールの戦争が続いているのかどうかも分からない。ただ、君は運悪く兵器の前を通りかかったので、光線を浴びてしまったのさ。」
マフィア時代のの子分が現れて、に駆け寄って来た。
「でも親分はすげえっすよ! 本来は、親分は刑務所で酷い目に会って、その後もずっと苦労を続けて精神的にどうしようもなくなるほど傷つけられるはずだったっす。ところが、親分は刑務所に入ってそうそう人生をエンジョイしはじめたんですよ。」
ドクターは頷いた。
「我々…つまり、この精神攻撃兵器のコンピューターには、予想も付かない反応でしたよ。この兵器は今まで何百人もの兵士達を戦闘不能に追いやって来たけど、こんな反応は初めてだった。この装置が見せる世界は、不信感を抱かせない為ある程度はあなたの知識や記憶、反応に会わせて変わっていくんです。しかし、こんな世界になってしまうとは、予想外でした…」
ムドーが言葉を継いだ。
「その結果、お前が見るこの世界は、設定のアラが目立つようになってきた。そもそもこの世界のお前がこんなに長生きするなんて思ってなかったし、想定範囲外のパラメーターで世界をシミュレートしているんだ。お前が言ってた目が霞むとか、耳が聞こえなくなるとかは、つまり、シミュレーションの反応が遅くなった…このコンピューターの手におえなくなって来たって、事なのさ。」
「そして昨日、あなたが公園で寂しく座るシンチャン氏を見た事で本来プログラムされていた世界とのズレは決定的になったんです。…何故なら、本来のプログラムでは、あの公園に座るのがあなたで、リムジンからあなたを見るのがシンチャン氏のはずだったのです。これで、この兵器はあなたへの精神攻撃は完全に失敗であったという結論に達しました。」
「そ、そんな…」
ドクターは続けた。
「あなたにはお詫びのしようもありませんが、これが事実です。」
「刑務所をエンジョイして、そこで人脈を作りマフィアになって、最後には総裁にまでなっちまった。お前さんには完敗したよ。」
ムドーはほぼ魂の抜けかかっている老の肩を叩いた。
「しかし、私達はあなたから一つの事を学びました。」
「それは、愛する事の素晴らしさです。」
彼が振り返ると、そこには彼がいつかテレビで見た、シンジ・クラッシャーそっくりの若者がいた。
「シンチャン!」
「さん、さんがたくましく生き続けて、どんなに本来のシミュレーションを離れても、僕だけは愛し続けてくれている事に僕達は深い感動を覚えました。僕の見た目はあなたの記憶から抽出したんですが…本当にさんは、その人の事が好きなんですね。」
は何も答えず、ゆっくり立ち上がってシンチャンを抱きしめた。
「ああ。好きだとも。」
「私達はあなたの愛に勝てなかったんです。」
シンチャンは老チャンコーンに微笑んだ。
「ですから、この兵器はこれから自爆します。」
「え?」
「自爆します。」
ドクターは繰り返した。
「ど、どどどういう事だ。」
「この兵器は精神攻撃兵器です。いかに強靭、いかに異常な精神であろうと破壊できなければ意味がありません。つまりこの兵器は、存在する意味がたった今、なくなったのです。」
「ちょ、ちょちょちょっと待ち給え、それで、私はこの世界から、無事に戻れるんだな?」
「や、多分精神攻撃光線の急な遮断のショックで死ぬんじゃ…」
「え、え、え、えええええ」
「あなたのような人を亡くすのは残念ですが、戦略上仕方がありません。自爆開始10秒前、9、8、」
「ちょ、ちょっと待ち給え、まだ私はシンチャンと1回も愛を育んでないんだ!」
「100歳越えた老人が何言うとんねん。」
手で突っ込みを入れるムドー。
「7、6、5、4、3、」
はシンチャンを抱く手にぎゅっと力を入れた。
「2、1、」
世界が急に、目の眩む白い光に包まれだした。
「…艦長、艦長、艦長!」
フユツキが目を開けると、目の前に涙を溜めたナースがいた。
「…ハルナ君?」
「艦長っ!」
ナースはフユツキに泣き崩れた。
「目を覚まされたんですね! 本当に良かった! ドクターも、カウンセラーも、飽きたとか5万返せとか言いながら帰っちゃうし、私、1人でこんなのの責任取りたくないし、どうしようかと…」
フユツキは眩しそうに目を細めながら尋ねる。
「…こ、ここは…」
「エバの、ブリッジです。」
「ブリッジ…エバ…エバンゲリオン…」
フユツキはゆっくりと立ち上がった。
また1人あやとりをやっているライカーがあやとりに全神経を集中させたまま艦長に言う。
「前方の飛行物体は今、自爆した所です。御無事でしたか。」
「ああ…そのようだ。…私が倒れてから、一体どれ位たったのかね。」
「23分よ。」
前方のレイタが答える。
「そうか…」
「連邦の歴史データベースによると、サカターンは2万年前に当時彼等の植民星だったマジカールと戦争状態になり、それが惑星のピーターラビット化を早めたそうです。その時使われた精神兵器が艦長を攻撃したんですね。」
バター茶を啜りながら、フユツキはリョウジの報告に頷いた。
「そうか。」
「それから、艦長。あの兵器は、自爆する直前に船内にある物を転送させて来たのですが…」
「何かね。」
「…」
副長は無言で細長い箱をピカードに手渡す。
「これは…」
ピカードはしばらく目を見開いて箱を見ていたが、やがてその中から古ぼけたリコーダーを取り出した。
♪あ、い、は、心の、仕事よ…
流れるような旋律を奏でるフユツキのリコーダー。
「…どうかね?」
「…リコーダーですから、数十分練習すれば誰でもそれ位は吹けるんじゃ…」
がーん。
フユツキはリコーダーを落した。
ばこっ。
ライカーは顔を上げる。
「あっ、その音は良いですね。」
ががーん。
−今回執筆時のBGM-CD 「愛は心の仕事です」 by ラ・ムー
つづく
次回予告
シンジはやはりこれはいけないとレイの部屋を立ち去ろうとする。しかし彼女の部屋が余りに殺風景なのを尋ね、レイの答えに要領を得なかったシンジはお茶を入れて彼女の話を聞く事にした。彼女のシンジやアスカより遥かに過酷な半生の話に、シンジは言葉を失う。自分に出来る唯一の事が彼女を抱く事だと思ったシンジは、裸のレイをベッドに寝かせ、暖かく包み込んだ。次回「真夏の子供達」第21話、「アイリッド(2)」。御期待下さい。
本当の次回予告:幕末高校生。
「どうも。最近すっかり月間ペースが定着化しているフラン研でーす。」
「色々忙しいんですか?」
「…ナース。ああ、いや、別に忙しくはないんですけど。」
「です、けど?」
「スランプなんです。」
「はあ…でも、作者さん、いつもスランプスランプって言ってるような気もするけど…」
「いえいえ、今回のは本当に大スランプなんです、今まででも一番の。」
「(別に力説しなくても…)そ、そうなんですか。」
「まあ、このままフェードアウトして、今後は毒投稿ページの管理人として第2の人生を…」
「それってもしかして、大家さんに喧嘩売ってます?」
「違う! そうじゃなくって。」(^^;
「…でも、「毒」投稿ページって、どういう意味ですか?
何でただの投稿じゃなくて、毒?…」
「何かね、私って毒専門作家だと思われてるらしくって、HPに有り難い事に投稿作品を頂いているんだけど、それらの傾向が、何て言うか…」(^^;
HPを見る作者とナース。
「うわあ…」(^^;;;
「いや、本当に有り難い事なんですけどね、勿論。」
「最近はやりらしいですもんね…でも、何でこういった作品達が作者さんのページにあるのに、エヴァトレは平気でめぞんにあるんですか?」
「…さあ? 良いじゃん、一周年だし、無礼講だって事で…」
「そういうアバウトな言い方が、良識派の人達の神経を逆撫でしているんじゃないかしら。」
「ムスムス。だから毒なのだ。」
「(幼稚園児?…)」16秒後作者死亡。(死因伊藤みどりが全世界に放映された事実。)
以下次回