お詫び:前回の「新エヴァントレック」内で、「DA BUMP並の熱さ」とあったのは「DA PUMP並の熱さ」の間違い、「ラヴ&ポップ」とあったのは「ラブ&ポップ」の間違いでした。それぞれここに訂正すると共に、関係者の皆様に深くご迷惑をお掛けしたかもしれない事をニヤニヤ笑いながら表面的にお詫び致します。
マヤは口を尖らせて、艦長に聞き直した。
「だって、シンジ君はこの船にいるじゃないですかあ。」
「ああ、そうだが?」
当然のように答えるフユツキ。
「そうだが? って…今艦長、これから地球に行ってシンジ君の通っている学校の卒業式に立ち会うと、そう、おっしゃいましたよね?」
「ああ。」
「…だから、いる、じゃないですかあ。…まさか、ここにいるのはクローンだとか」
「その通りだが?」
至極当然の表情で言うピカード。
「都合が悪いと、全部それですか…」
ピカードは笑って、ライカーと視線を交わした。
「そんな事はないさ。今クローンに入れ替わっているのは、この船ではせいぜい、私に副長、ドクターにカウンセラー、シンジ君、それからゲォーフ位の物さ。後のクルーは全て本物だ。」
「え、え、え、え、えええええ」
ひゅーーーーー、ぱしっ。
「何か問題があるのかね? ロー少尉。」
今や往年の斉藤由貴並(「カ・イ・カ・ン」)(←間違ってます)のヨーヨー使いとなったリョウジが尋ねる。
「い、いええ、副長。あ…じゃあ、今までのクローンのシンジ君はどうなるんですかあ?」
「月曜日に分別ゴミで出すようだな。」
「いやいや副長、それでは余りに酷という物だろう。だからこの前ミスター・スネックの所に行った時に置いて来たよ。」
「なるほど。それなら問題ありませんね。」
ローは顔をひきつらせた。
「(問題大あり…)ところで、艦長。」
「何だね。」
「何でかうんせらあの温泉の反対側に、その…変な工作を」
「失礼な! これは立派な家だぞ。」
ブリッジの隅、ミルキー温泉の反対側で、「あかりハウス」とマジックで書かれた段ボールの中から艦長は顔を出した。
「イケブクロ基地勤務時代を思い出すよ。」
怪訝そうなマヤにリョウジは囁いた。
―宇宙。そこは最後のボランティア(意味不明)。これは、宇宙戦艦エバンゲリオン号が、新世代のクルーの下に、24世紀において概ね任務を続行し、未知の世界を探索して、新しい生命と文明を求めるふりをしつつ、人類未踏の宇宙に、アバウトに航海したりしなかったりする小話である―
「分かったゲォーフ、艦長室で受ける。」
部屋に入ったビューティーは机の上の画面のパネルを押した。
「…校長!」
小さい画面に、気難しそうなじじいの顔が現れる。
「ピカード。君は…変わっていないな。昔から意味も無く看護婦姿になったり、カウボーイ姿になったりして他の生徒達を大いに誘惑していたな。」
「お恥かしい限りです。」ピカードは微笑んだ。
「(今の方が恥かしいがな…)」
「校長のグノーシス主義の講義にはいつも泣かされました…」
「はは。」
「地球へは後5時間程で着く予定です。」
「それは素晴らしい。」
カワイ校長は、言葉とは裏腹にむっつりとした表情で口を閉じた。
「…何か、問題でも?」
「ああ、実は…事故があった。生徒の1人がそれで死亡したのだ。」
「…まさか、」
「いや、大丈夫だ、クラッシャー候補生は無傷だ、安心したまえ。」
フユツキは泣きながら頷いた。
「うっうっうっ、もしシンちゃんに万一の事があったら、あたい一体どうしたら良いかと思ったよ。岩田屋さんに奉公に出たって家族は養えやしぇん。シンちゃんが植物人間にでもなったら、あたい…」
すぱーっ。
葉巻を取り出すフユツキ。
「まずは漬けるね。そしてモミシダク!」
「ピカード。」
「おじいさんは、もんでは投げもんでは投げしたのじゃったー。」
「ピカードー…」
「ある日おじいさんは民族解放戦線のゲリラ兵と」
「…ピカード、ピカード!」
フユツキはナレーションを中断した。
「は?」
「は、ではない。とにかく事故があった。卒業式は延期になる。」
艦長は頷いた。
「それでは、こちらの方で事故の調査を大至急行います。」
「いや、良いんだ、艦長、これはあくまでアカデミー内の事件だからな。我々が査問会を開く。」
「しかし…」
「協力は有り難いが、そういう事だ。以上で通信を終える。」
画面はいつもの連邦の爆弾マークに切り替わった。
「どこから出て来たのだ。この葉巻…」艦長は自分の右手を見つめた。
ブルマ姿のフユツキは緑の庭園を散歩していた。
どうやら日本風の庭園らしく、ししおどしに灯篭、ぴーぽ君にパチンコの電飾、テレクラの捨て看などが自然の中にレイアウトされている。
フユツキはそのセンスの良さに驚嘆していた。
「マギデッキでは、どんなに本物に似せて再現してもこの息吹までは再現できん。他の惑星には捨て看は無い。この景色、この空気が…」
フユツキが立っているのは、地球のサンフランシスコにある惑星連邦の士官学校内の庭園であった。
しばらく庭園をうろうろするビューティーは、やがてパチンコの電飾を調整する一人の老人に目をとめた。
「…あ…あなたは…」
振り向いた老人は綺麗な白髪を後ろで縛っていた。
老人はニコリともせず向き直った。
「今、忙しいんだがね。」
「あなたは…バッジさん。まるで変わっていない。私がここの生徒だった時と同じだ。」
「今この「パ」の字の電球を消す作業をしているんだ。手伝ってくれるかな。」
「え、ええ。」
ビューティーは看板を抱えながら、バッジ翁に聞いた。
「今回の事故について、お聞きしたいのですが…」
「事故…事故ね。君の恋人も含まれていたそうだな。少年趣味も大概にしたらどうだい。」
「お恥かしい限りで…」
バッジは肩を上げた。
「まあ、私の知った所では無いがね。」
「何か情報が欲しいのですが…」
「情報?…私は庭師だ、情報屋になった覚えは無いぞ。…そこのコードをハサミで切るんだ。」
「は、はい…」
バッジはピカードの様子に満足そうに頷いた。
「情報という程の事は知らない。…そうだな。彼等は…「カメイド・シケモック」は、校内で一番有名なチームだった。4人組みで何をするのも一緒だ。…そう、50年程前の君達のようにな。」
バッジはビューティーにウインクをした。頬を赤らめる純情少女フユツキ。
「実力もあるし、華もある。…チームのリーダーはパリス候補生だが、彼がまたハンサムでな。それにシンジ君だろう。校内のトップ1・2が揃っている訳だ。3人はリーダーの言う事なら何でも従っただろう。それこそ、リーダーが山田花子に酒を飲ませろと言ったら皆疑いなくそうするだろうな。うん、これでこの看板は正しく「チンコ」と表示するようになったぞ。」
ピカードは看板を元あった場所に立てた。
「私が知っている事いったらこれ位だよ、ピカード。」
「分かりました。有り難うございます。…あの、バッジさん。」
「ん?」
「あの時は…有り難うございました。」
バッジは捨て看の位置を直しながら、手を振った。
「過ぎた事だ。エバンゲリオンのお偉い艦長さんが何を言っている。」
ピカードはおもむろにブルマの白いタグを引き千切った。
「これは、ささやかなお礼です。」
千切ったタグをバッジに手渡すフユツキ。
「…」
「じゃ、ばいちゃ。」
バッジ翁はしばらく白い布切れを困ったように見つめていたが、やがて頭を振るとタグをぽいっと捨てて仕事を再開しだした。
カワイ校長は重々しくチャルメラを鳴らした。
ぴゃらぴゃらぽぷひー。
「これより査問会を始める。」
学園の一室。前方に2人の指揮官が座り、左手の席に3人の候補生達が座っている。柵の向こうの傍聴席には十数人程度の関係者達がいた。
「トモエ・サトロク教官。」
校長の隣に座っていたヴァルカスカ人女性が頷いて立ちあがり、候補生達の前に進み出た。
「シトー候補生。あなたの乗る練習機にデューラー候補生の練習機が追突したのですね?」
眼鏡をかけたイブジョー人が立ち上がった。瞳は赤く、おとなしい雰囲気の女性だ。かなり緊張しているように見える。
「はい。」
「その時の状況を説明してもらえますか。」
「…私達4人は、卒業直前の最後のチーム飛行をしていました。「チドリアシ・ブルース」フォーメーションです。アル…あ…デューラー、候補生は、予定のコースを取らず、突然出力を上げて前方を飛行中だった私の練習機にぶつかって来ました。」
「何故彼の機は突然出力を上げたんだね。」
校長の言葉に頷くサトロク教官。
「ええ…良く、分かりません。私の後ろで起きた事なので…」
ざわめく査問会場。傍聴席のビューティーとドクターは目を合わせた。
「クラッシャー候補生。」
トモエはシトーの隣の地球人の候補生に声をかけた。
「あなたはデューラー候補生の後ろを飛行していましたね。」
「…はい。」
「事故の時、彼がどういった状態だったか説明してもらえますか。」
シンジ(本物)は、しばらく見ない内に随分やつれているように見えた。
シンジは力無く答えた。
「…出来ません。」
査問会場は更にざわめいた。
「出来ないとは、どういう事ですか?」
トモエの声は心なしか苛立っているように聞こえる。
「あー、つまり、こういう事です。」
シンジの更に隣の地球人候補生が立ち上がった。
彼はまつかつかの長髪をさらさらとなびかせ、涼しげな目からぴかーんと光を放った。
「デューラー候補生は、最近良く問題を起こしていました。彼は魔術を用いる飛行法に馴染めないようで、いつも調子がおかしかったんです。多分ストレスに耐えられなくなったか、何か小さなミスがあったかでパニックになったんでしょう。」
彼の言葉に校長と教官は目を合わせた。
「…それは初耳だ。彼にそんな問題点があったとは、聞いた事がない。」
「僕達も、彼を助けようと努力をしたんですが…それが、却ってこのような結果になってしまって…」
長髪男は目を伏せた。
トモエは手持ちの端末の入力を終えた。
「分かりました。クラッシャー候補生のフライトレコーダーの解析を待ちましょう。今日はこれで査問会を終了します。」
「心配する事は無いさ。俺達は親友だろ?」
男はシンジに微笑みかけた。
シンジが溜め息をつきながら査問会場を出ようとすると、一人の男に呼びとめられた。学校の人間ではないようなので、傍聴人の一人なのだろう。
「君は、確か…クラッシャー君、だったね。」
「はい、そうですが…」
40代前後の民間人男性は、沈痛な面持ちでシンジに頭を下げた。
「私はアルの父親だ。…君達には、本当にすまない事をした。」
「そ、そんな…」
「うちの息子が起こした事故で、君達、カメイド・シケモックの名前をけがしてしまった。本当にお詫びのしようもないよ。」
「そ、そんな事ありません! アルは、その…」
「いや、良いんだ。」アルの父は小さなプラスチック製の何かをシンジに手渡した。
「これはアルの肩身だ。君達で持っていて欲しい。」
「…イチジク、浣腸ですか?」
「ああ。これがアルの残した唯一の物だ。」アルの父は沈痛な面持ちで頷いた。
ちょっと見ない内にドクターの医療室は大変な事になっていた。
ちゅいーん、ちゅい、ちゅい、ちゅいーん。
例によってチェーンソーの音がうなる中、明らかに人体を入れていると思われる冷凍ボックスの山をかきわけて進む艦長。
「ああ、艦長。」ナース・ハルナが艦長に気づいて体の向きを変えた。両手で工事用のドリルを持っている。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ、スイッチを切ってくれるか。」
「…ああ。」
ナースは頷くものの、そのままドリルを振り回した。
「ドクターなら、あちらに。」
「ああ、有り難う。」
艦長はホルマリンや液体窒素等の薬品臭の立ち込める「医療室」を進み、ドクターのデスクに辿り着いた。
「あら、艦長。珍しいわね。」
ドクターのデスクには幼稚園児が工作したものと思われるパラボラアンテナらしき物がくるくると周っている。壁には2×5m位の大きな猫ポスター。みゃー。
ドクターは目も上げずに、端末をいじっていた。
「どうしたのかしら。」
「…ああ。シンジ君の事なんだが…」
ドクターは軽く頷いた。
「恐らくストレスが溜まっていたんでしょう。」
「…は?」
「黒魔術よ。彼、最近そっち方面に凝っていたようだわ。」
ピカードは眉を寄せながら、ドクターに確認する。
「つまり、シンジ君が故意に事故を起こしたと、そう言っているのかね?」
ドクターは初めて顔を上げた。今更何を言うのか、といった表情だ。
「違ったかしら?」
「…い…いや、特にそういう話は無いんだが…」
「意外ね…」
「(どういう親…)」
「溜まった時はいつでも殺っちゃうよう育てて来たつもりだけど…」
フユツキは顎を床に落した。
「どうしたの?」
落した顎を戻す艦長。
「ああ、いや、何でもない。…シンジ君が事故を起こした訳ではないだろう。ドクター、君も調べて欲しいのだよ、事故の際、何があったのか。既にレイタ少佐とラ=フォージ少佐にも調査させているのだが…」
「動機ね?」
「あ、いや、動機の前に、まずは状況を詳しく知りたいのだ。デューラー候補生は魔術飛行に弱かったらしい。当時の記録を回すので、魔術的見地から意見を聞きたいのだ。」
「まあ、まず、何かの嫉妬でしょうね…」
「た、頼んだぞ?」ピカードはふとチェーンソーの音がどこから来ているのか気になりだした。
「パリス君、好い加減な事を言うなよ!」
シンジはパリス候補生に食ってかかっていた。
「フッ。好い加減な事? 分からないじゃないか。アルは確かに最近おかしかった。あの飛行の時、彼はカミカゼの魔法を使ったのさ。俺達はそれを知っている。」
「そんな! 何の証拠も無しに」
「彼がそうでなかった、という証拠も無いだろう。クラッシャー。」
彼の完全無欠と言っても良い(もしくは無酸素登山と言っても良い、更には感電ム、ム……と言っても良い)美貌に見つめられ、思わず紅潮したり膨張したりするシンジ。
「…そう、かも、しれないわよね。」
シトーが自信無さ気に頷いた。
「そんな、シトーさん!」
「カスミは良く分かっているよ。…クラッシャー。アルは何かのミスでパニックになり、カミカゼ魔法を使ったんだ。これは事実だ。…クラッシャー、君なら、ずっと宇宙を旅して来たから分かるだろう? こういう危機には、チームが一体となって団結する事が必要だって事をね。われらがカメイド・シケモックが、こんな事で分解してしまったら、アルも悲しむんじゃないか?」
「そ、そんな…パリス君…」
「クラッシャー。君は何も悪くない、ただ動揺しているだけだ。俺で良ければ、幾らでも慰めてあげるよ。」
両手を広げるパリス候補生。
はしっ
「……パリス君っ!」
「よしよし。泣かない泣かない、ほーら良い子だ…」
どこからかクロッキー帳を取り出し、2人の様子をスケッチし出すシトー候補生。
翌日
トモエ・サトロク教官は差し棒を持って、コンコンと自分の左手に叩いていた。
「確か、あなた達の船隊はチドリアシ・ブルースのフォーメーションで飛行していたと言いましたね、クラッシャー候補生。」
「はい。」
「この映像を見てみましょう。」
ぽちっとな。
彼女がスイッチを押すと、画面に狭いコクピットから見た宇宙空間が映し出された。
「これはクラッシャー候補生の船の記録映像です。」
トモエは付け足した。
ビデオの中でパリスからの通信が聞こえる。
「こちらパリス、これよりフォーメーションに入る。」
「こちらクラッシャー、了解。」
その後映像は数秒で砂嵐になった。
トモエは差し棒で机をカツ、と突いた。
「この映像が記録されていた時の状態を覚えていますか、クラッシャー候補生。」
「はい。」
「その時フォーメーションはどうなっていましたか。」
「…」
「答えなさい。」
「…チドリアシ・ブルースのフォーメーションを保っていました。」
「事実ですか?」
「はい。」
「巻き戻して。」トモエの声で巻き戻されるビデオ映像。
「ここです。」
トモエはシンジの船の計器がはっきり見える部分で画面を静止させた。
「拡大して。」
ぱ | ||
↑ |
||
し | く | でゅ |
45701.6 |
シンジの船と他の候補生達の船の位置関係が示されている。
「クラッシャー候補生。これは、チドリアシ・ブルースのフォーメーションですか?」
「…いいえ…」
下を向いたまま答えるシンジ。査問会場はまたざわめきだした。
「先日あなた方は、デューラー候補生はシトー候補生とクラッシャー候補生に前後を挟まれた形で飛行していたと言いましたね。しかしここの記録によるとシトー、クラッシャー、デューラー各候補生は横一列に並んで飛行しているように見えますが?」
「…」
「何か言う事は有りますか? クラッシャー候補生。」
「ありません。」
シンジはこれ以上無く小さな声で答えた。
ぱらほれひー(訳:ほにょにょにょぷー)。
「休廷。」カワイ校長が重々しく告げた。
一応付き合いで査問会場に来たドクターは、うつむく息子に数ヶ月ぶりに声をかけた。
「色々と問題があるようね。」
シンジは上目遣いにドクターを見あげ、すぐに目をそらした。
「母さん! …別にそんな事、ないよ。」
「そう?」
いつものように白衣を着たまま机の上に腰掛ける。
「あなた達の言っている事は、記録と大幅に食い違っているのよ。」
「…」
リツコは、彼女にしては珍しく優しい微笑みを見せて息子の肩を叩いた。
「しっかりしなさい。一体どうしたと言うの? 私は、あなたの味方よ。」
「か、母さん…」(@_@)
「アリバイ作りなら幾らでも協力してあげるわ。」
すこーん。
勢い良く滑るシンジ、机に頭を激突。
「い、いや、遠慮しておくよ。」
「…あら、そう。まあどうでも良いけど…」
あくびをしながら爪を砥ぎだすリツコ。
ずーん。
「(やっぱり僕は母さんの子供じゃないんだ…)」
今更な事でブルーになるシンちゃん。
「いや、シンジ君、私は君の味方だぞ!」
「…艦長!」
「いや、今はビューティーと呼ばれている。」
「また、好き勝手な事を…」
呆れた顔で頬杖を突くシンジ。
「何か、シンジ君変わったね。あたいの知ってるシンちゃんはそんなんじゃなかった。」
「…」
「ソンナジャナカッタデース。」付け鼻で言うビューティー。
「ないないない! そんなんじゃないっ。♪」スポットライトを浴びるビューティー。
「そのような事は記憶にございませんなあ…」眼鏡を上げるビューティー。
「はらたいらさんに全部!」名前の書いてある板を上げるビューティー。
「あ、あの艦長…」
「違うの、ビューティー!」
「ビューティー!」
「はっ。何怒ってんの。」
「ああっ、もう! とにかく艦長も母さんも僕には構わないで! いや、母さんはもうちょっと構って!…ってもう母さんいなくなってるし!」
シンジは立ち上がった。
「とにかく。この件に関しては、別に艦長や母さんがする事は何もないですから。」
「シンちゃあん。」なおも甘えるビューティー。
「…触らないで下さい。」
がーーーーーん。
セメント化(石化の140パーセント相当の強度)(当社比)するビューティーを残しシンジは立ち去った。
失意のビューティーは艦に戻ってレイタとミイラの説明を聞いていた。
「この時のシンジ君の船のフライトレコーダーを解析していて、面白い事に気づきました。」
「何だね。」
「見てください。デューラー君の船がシトーさんの船に接触する直前の時間、シンジ君の船から大量のブタネティオールが放出されています。」
「ブタネティオール…」
「アストラル点火剤の一種で、以前は魔術コントロールの際良く使われた物質よ。現在は練習機でのみ見るけれど…」
ピカードはレイタを遮った。
「いや、良く分かったレイタ。しかし何故飛行中にそんな物を放出する必要性がある。」
ミイラ男は頷いた。
「その通りです。…マッド系統のシステムに異常があったのかもしれませんね。」
「…いや、これは…」
ビューティーは例によってハミケツを直しはじめた。
「私がアカデミーにいた時にやろうとした事と、同じだ…」
「シンジ君、これを見給え。」
地上に再び降りたピカードは、アカデミー内の自分の控室にシンジを呼んでいた。
「(それとは関係無い絵が一杯あるような気が…)」
「この技は、成功すれば非常に臭く、綺麗であり黄色くもある。しかし同時に非常に危険な技でもあるのだよ。即ち失楽園だ。」
びしっ。
シリアスな表情でソバを指差すピカード。
「(何が何だか…)」
「過去、アカデミーにおいて一度だけこの技は挑戦された。記録によると、その時の4人のクルーは全員臭さに耐え切れずに亡くなっている。…シンジ君、私が何を言いたいか分かるか。」
「ソバ…が…ワイロで…」
「何をふざけた事を言っている。」
「えええ」という表情で艦長を見るシンジ。
「シンジ君、正直に言って欲しい。君達カメイド・シケモックは、安全だが地味なチドリアシ・ブルースではなく、危険だが派手なコルボード・スカンクバーストをやろうとしていたのではないかね?」
シンジはつばを飲んだ。
「どうなんだ。」
「答えたく…ありません。」
「…」
ピカードは厳しい表情でシンジを見据えた。
「シンジ君…私は今でも、君が初めてエバンゲリオンに来た時の事を忘れる事が出来ない。初めて君が乗船した日…ええっと…Kと色々あった、んだったっけ? それで、ドクターがあれで、結局あれだったなあ…」
がーん。
「(全然忘れてるーっ!!)」
「シンジ君、あの頃の君は、輝いていた。それはもう結婚ホヤホヤのヤンママ並に輝いていたさ。間違いなく子供は翔と名づけ、当然のように子供に剃り込みをいれて公園で孤立して姑ともうまくいかなかったりする位に輝いていた。それが何だ!
今ではカルバドスを飲んでルチアーノ・バルベラのスーツにバゼロン・コンスタンチンの時計でハッピー・カムカムか?
どれも全然聞いた事も見た事も無いんだよーっ!!」
あらぬ方向(どうやら上方)を見て叫ぶ艦長。
ぜえ、ぜえ、ぜえ…
「…と、とにかく。私が言いたいのは、時計はロジャース辺りで売ってる500円のカシオ製がベストだという事だ。」
はっ
「話をそらしたなーっ!」憤慨してシンジを指差すビューティー。
「か、艦長…」
「ビューティーよん。」
「ビュ、ビューティー。それは、僕だって…4年も経てば、変わる所もあります。」
「おっぱいの吸い方だって変わるだろう。」
「(無視)…もう、話す事が無いのであれば、これで…」
「シンジ君。連邦士官として最も基本的な心がけを覚えているかね。」
シンジはやや眉を上げ、誰でも知っている連邦の基本理念を暗唱した。
「「楽しく楽しく優しくね」…」
「それから?」
「「取りあえず楽しくやってこうよ」…」
「それで?」
「「何をやるのも勝手だけど、人に迷惑をかけるのはノンノン。ましてやズルっこはダメっちゅ。」…」
「君の今の態度は連邦士官として、宇宙撫子として正しい物かね?」
シンジは口を閉じたまま艦長を見た。
「シンジ君、長い間、私にとって君は輝く太陽であり、いろかほるラフレシアであり、勝俣にとっての色々だった。…しかし私の愛していたシンジ君はどこかへ行ってしまったようだな。」
「ビューティー…」
「もし君からこの事を証言しないようなら、私が査問会で証言をするまでだ。」
シンジはしばらく黙っていたが、やがてフユツキの視線に耐えられなくなったかのように立ち上がった。
「…失礼します。」
「どうしたんだ、クラッシャー。」
どうしようもなく整った顔立ちのパリス候補生はシンジの様子に眉を潜めた。
「艦長は全部知っているんだ。もう諦めて、本当の事を話そうよ!」
「クラッシャー、落ち着くんだ。ピカード艦長が全部知っている? どうせ、何か物的証拠を持ってる訳じゃないんだろう? 俺達が黙っていればそれですむ事じゃないか。違うか?」
「艦長が、ウソつきの変質者のいかれポンチの(ピー)(ピー)(ピー)(ピー)(ピーキーズ)だと言えと言うの!?」
「(まるで言いたいみたいだな…)クラッシャー、今、しばらくの間我慢していれば、それですむんだ。もし今喋ったら、どうなると思う?
俺達は間違いなく退学処分だな。良くて、単位を落して留年だ。…作者じゃあるまいし…」
マジで言うてはならぬ事にさらっと触れるパリス。
「クラッシャー、君は確かに艦長から色々言われるのは辛いかもしれない。しかしその為にグループの結束を無にしたいのか?」
「そ、そんなつもりじゃ…でも、僕にはもう黙り続ける自信が無いんだ。」
「俺が君の立場なら、何としてでも口を閉じ続けるだろう。そうすれば、証拠が無い以上彼等も追求は出来ないんだ。分かるか。」
「…」
「俺に任せてくれ。大丈夫だ。」
「パリス君…」
パリスの目に吸い込まれるかのように近づいていくシンジ。
そして2つの影は1つとなる。口付けをしながら、パリスはシンジの頭に手を置いた。
ずる。
「「あ」」
シンジのかつらがずれ落ちた。
「「…」」
説明し尿! 実はシンジ(本物)は船にいた頃、酔った艦長とドクターに頭を永久脱毛された事があったのだ!
「あ、あ、あ、あ、あ、うううわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
恋人の前でのヅラフィールド崩壊に半狂乱で駆け出すシンジ。
「こ、これは…」呆然としたパリスは呟いた。
「ナヴァンゲリオン…」
間違ってた。
「本校の教官として、あなた方の真摯な協力が得られないのは本当に残念です。」
トモエは冷静さの中に厳しい調子を含めて言った。
パリス、シトー、シンジの3人は沈黙を守ったままで、3度目の査問会も決定的な証言は出ないまま終わりつつあった。
「残された記録とあなた方の証言はことごとく食い違っています。…しかしながら、私達はあなた方が本当は何をしたのか、確証を得るに足るほどの情報も得ていません。今からでも遅くありません。何か言う事はありませんか。」
3人を見渡すサトロク教官。3人の候補生達は一様に目をそらし、押し黙っている。特にシンジは完全に魂の留守番(ちょっと懐かしい)状態だ。
教官は校長と視線を交わした。
「分かりました。それでは、3人の処分は、一様にけん責、及び在籍中の魔術権の剥奪とします。これにてこの件に関する査問会を終了…」
逃げちゃダメだ、抜けちゃダメだ、ズレちゃダメだ、脱いだらスゴイんだ、新宿鮫だ、小室とタメだ(しかも等)、笠置トメだ、阪急梅田、あられは亀田…
「待って下さい。」
シンジ・クラッシャーは立ち上がった。
「証言を、付け加えても、よろしいでしょうか。」
トモエは軽く頷いた。
「どうぞ、クラッシャー候補生。」
「…僕達は…僕達は、チドリアシ・ブルースのフォーメーションを取ろうとはしていませんでした。僕達が飛行しようとしたのは、「コルボード・スカンクバースト」だったんです。」
(何故か頭に手をやりながら)シンジは続けた。
「これは成功すると「ぷー」というおならの音が宇宙空間から地球まで響き渡り、とても臭いというダイナミック(ダイクマ)なアクロバット飛行です。が、これはスカンクのおならの成分で、アストラル点火剤としてまれに使われるブタネティオールというガスを大量に使う大変危険な技でもあり、実際連邦では、アカデミーでは、過去100年に渡ってこの飛行は禁止されています。僕達がやろうとしていたのは正にこれだったのです。」
シンジの説明で、一気に騒然となる査問会場。
シンジは傍聴席のアルの父親を見た。
「デューラーさん、シケモックの名をけがしたのはアルじゃない、僕達なんです。それからやっぱり浣腸はいらないです。」
シンジは校長の方に向き直った。
「付け加える証言は、以上です。」
トモエはシンジが座るのを見てから、隣の赤い長髪に聞いた。
「何か言う事はありますか?」
「…いいえ。」
「…分かりました。本日の査問会はこれで終了します。各候補生達の処分については、後日連絡します。以上。」
パリスは刺すような目でシンジをちら、と見ると、無言で立ちあがり去って行った。
傍聴席には、いびきをかいて眠るビューティーと全く無関心に端末を打ち続けているドクターがいた。
「パリス候補生は退学処分になったよ。」
イメクラのプラカードが刺さる庭園の中、しゃがんでダンゴムシを見つめていたシンジはフユツキの声に顔を上げた。
「…艦長。」
「後から教官達に頼み込んだのだ。「全てを計画、先導したのは俺だ、処罰は俺だけにしてくれ」、そう言っていたそうだよ。」
「…そんな…パリス君だけが悪かった訳じゃないのに! …僕達をかばったんだ。「シケモック」の為に、自分が犠牲になったんだ…」
「正に「リーダー的存在」と言った所だな。」
何故か苦虫を噛み潰したような表情で言う艦長。
「シンジ君と、シトー候補生は、それぞれけん責、1年分の単位無効、そして在学中の魔術権の剥奪だ。」
「ええ。」
「それにシンジ君、これからシンジ君は、事故の事を知らない者がいないこの環境で勉強を続ける事になる。…決して、楽な状況ではないぞよ。」
シンジはビューティーの言葉に、自嘲めいた微笑みを見せた。
「それは平気です。母さんに作られてから今まで、ずっと…僕は、どこへ行っても、良く言えばアイドル、悪く言えば伊勢エビの扱いを受けて来ました。こんな言い方をしたらおかしいですけど、むしろ今、ようやく肩の荷が降りた感じです。」
「そうか。」
「これからはマスコットや人形でなく、自分で自分の未来を決めようと思います。パリス君は僕に優しくしてくれたけど…それに頼っちゃいけないんですね。これからは」
フユツキはシンジを抱きしめた。
「はがあっ」
「嬉しいっちゃ! ウチ嬉しいっちゃ! やっぱりダーリンは、あんな長髪ナンパ男やなしにウチを選んでくれたっちゃね!」
「あが、が、あが…」
フユツキの熱い抱擁に早くも呼吸困難のシンジ。
びしっ。
「本官は、誠に嬉しいのであります!!」
「は、はあ…」
「この喜びをどんな羊羹にして表そうか…」
「表さなくて良いです…」
「今の気持ちを歌にしてみます。」
ぽろん…
ギターを奏でだすビューティー。
「ローシアーの皇帝一家が…原子力で離散ー…♪…(語り)俺達野良ヤギには、それがお似合いなのさ…」
「(よ、良く分からないけど雰囲気は凄い暗い…)」
「…わん、とぅ、すり、ふぉ! Hey! げんげんげんげん原子ショック! げんげんげんげんげんこつー。♪」
「(しばらく会わない内にますます元気になったな、艦長…)」
シンジは立ち上がった。
「ああ、そうだ、艦長。少し付き合ってもらえますか。」
「げんげん♪…何だね。」
「見せたい物があるんです。」
ビューティーは可愛らしく小首を傾げながらシンジに付いて行った。
「まだなのかね、シンジ君。」
「もうすぐです。…この建物の中にあります。」
倉庫のような建物の中に入るシンジとビューティー。
「シンちゃん、ここ、どこなのお?」
辺りを見回す艦長。
「ここです。」
シンジは微笑んで小さな船の天井に手を置いた。
「このアカデミーで僕がずっと乗って来た船、「ピアス」です。」
「…」
「もう、この船に乗る事も無くなりました…ちょっと寂しいですね。」
「シンジ君…」
「何ですか?」
「これって…ただのその辺の池にある足漕ぎボートに見えるんだが…気のせいだろうか?」
「もちろんその通りですが?」
「宇宙、飛んでたよね?」
「ええ?」
「いや、ええ?、じゃなくて。」
ロボットのように両手をパタパタ動かすビューティー。
シンジは艦長に不思議そうに尋ねた。
「魔術のコースで、やりませんでしたか? ただの足漕ぎボートで宇宙を飛ぶ実技。最近はだから生身でも空飛べますけど…もちろん艦長もそれ位出来ますよね?」
ふわあっと浮き上がるシンジ。
じょじょじょじょ…
艦長失禁しつつ硬質プラスチック化。(石化の230パーセント相当の強度)(陶磁器)(←ダジャレ)(その上分かり難い)
−今回執筆時のBGM-CD 「Love is...」 by 河村隆一
流し気味につづく
次回予告
先天的な低肺機能。肺炎球菌肺炎。医師の説明を聞くアスカ。
ミサトは死亡した。
次回「真夏の子供達」第20話、「171201番」。御期待下さい。
本当の次回予告:「Inner pulse」のエヴァトレ版の予定。(^^;
「殺すな殺すな…」(^^;
「おっ、シンちゃん。」
「あ、作者さん、一つ聞きたい事があるんですけど。」
「何でしょう。」
「何回か前に、「海辺の生活」が山本某や森山某に似てるって話がありましたけど、結局あれって誰だったんですか?」
「(色々有ってそんなの忘れてたな…)ああ、それはですね、「フラグメンツ」「ありがとう」等で有名な漫画家の山○直樹(=森○塔)氏の事らしいです。」
「へえー。」
「後から調べたら、山本直純は指揮者、森山周一郎は声優でした。」
「…それってギャグでボケてた訳じゃないんですか?
両方ともとても有名ですよね?」
「…(赤面)」
「…」
「しかも私この人の漫画知ってました。しかも好きです。」
「じゃあ何で分かんなかったんですか。」(^^;
フッ。
「薬が切れてたからかな…」
「(おいおい)…でも、本当に僕は肩の荷が降りた感じですよ。」
「何が。」
「だってもう、これでようやくこの話から降りられるかと思うと、嬉しくて嬉しくて。」
「シンジ君、性格キツくなったね…」
「僕も一時期に比べれば随分楽になりましたけどね。アスカも充分素直になってくれたし…ただ毎晩激しすぎるのが唯一の悩みかな?」
「(キャラ変わってるよ…)そ、そうなんだ。」
「気づいたんですよ。僕さえ望めばどんな世界も作れるらしいんです。例えばアスカや綾波と学園でいちゃいちゃする世界とか。僕って神様らしいんですよ。」
「…」(-v-;
「でもそういった世界を作るには、まずその土台となる器が必要じゃないですか。それがこの花瓶なんです。これには象徴としての力が宿っているんです、第5次元の預言者の思念が伝わっているんですね。能力のある人は、これを買うと自分の思い通りの世界が作れるんですよ!!」
「…幾らすんの。」
「これは有恵者用の物なので32万円しかしないですよ。」(^^)b
「…ねえ、それってギャグでボケてるの?」(ToT)
29秒後作者死亡。(死因林家兄弟の「寝ても覚めても…」。)
以下次回