機動妖精
接触編・PART5
S-17 碇家帰宅
シンジたちは、第三新東京市のちょっと小高い丘に立つ我が家に帰ってきた。
「じゃ、あたし、お夕飯の準備するわね」
そう言って、レイは、自分の部屋に駆け上がって行く。
今日は、レイの当番なので着替えに行ったのだろう。
「じゃ、ぼくも着替えようかな」
成績のことで突っ込まれたくないシンジは、撤退準備をした。
が、夕食を食べないわけにいかないのである。
こうやって問題を先送りにするのがシンジなのであった。
S-18 作戦会議
ここは、インディペンデンスデイの艦長室。
「ミサト、今度の作戦だけど、いつも通りやるわ」
「ああ、使徒で出ていって、カジを降ろして帰ってくるってやつ?」
そう、言いつつ、端末のキーを叩き、以前の侵略記録を表示させる。
「ええ、今回は、第参使徒を使うわ」
「サキエルね」
人型の使徒で、オールマイティ型の戦闘能力を持つ使徒である。
「ええ、あれなら地球人の戦力を知るのに丁度いいわ」
「そうね。じゃ、作戦の伝達をカジにしとくわね」
「ええ、でもいいの?」
この『いいの』の意味は、危険な任務だということを表している。
「カジ?そーいうアンタは、どーなのよ」
お互いの腹の探り合いをする、ミサトとリツコ。
「あたしたちは、もう友人関係以外ないわ」
そーいいつつ目をそらすリツコ。
「ホントに?」
疑いの視線を向けるミサト。
「ホントよ。それに、ミサトの返事を聞いてないわ」
「あたしは…」
「あたしは?」
「あたしは、カジを信じてる」
「そう…」
(やっぱりね。この辺があたしとミサトの違いか…)
少し表情を曇らせるリツコ。
「じゃ、作戦発動は、猶予時間の終了と同時に!」
「了解!」
S-19 夕食の時間
「おにーちゃーん、夕飯出来たわよー!」
一階の食卓から、レイの声が聞こえる。
「ああ、わかったよ!」
シンジは、成績のことで憂鬱になりながら、階段を降りてきた。
「さ、ご飯にしましょ」
レイは、エプロンを脱ぎつつ、自分の席に座る。
ちなみに配置は、レイの隣がゲンドウ、レイの正面はシンジとなる。
生前のユイは、シンジのとなり、ゲンドウの正面であった。
その配置が今まで続いている。
「シンジ、成績のことだが…」
「さ、お父さん、そんなことは、置いといて、ご飯にしましょ、冷めちゃうわよ」
「ああ、そうだな、レイ」
レイが、さりげなく助け船を出す。
愛娘の言うことは、何でも聞いてしまうゲンドウのパターンを見抜いているのだ。
そんな、レイの気遣いが嬉しいシンジであった。
「うん、うまいぞ、レイ」
「ありがと、お父さん」
嬉しそうに微笑むレイ。
「近頃、母さんに似てきたなぁ」
そう、言って涙ぐむゲンドウ。
「お父さんったら…」
レイは、そう言われて複雑な表情である。
「レイって母さんにそっくりだよね。ぼくは、まるっきり父さん似だけど」
「そうだな。まぁ、逆でも美男美女だったと思うぞ」
これって暗に自分の愛息子、愛娘が『美男美女』だと言ってるのだ。
裏返せば、自分も妻も『美男美女』だと言ってるのと同じである。
「そうかな…」
そー言う意味を感じ取れたシンジは、ちょっと顔を赤くする。
「そうだよ。でもなシンジ…」
そう言って、表情を険しくするゲンドウ。
「お前みたいな成績は、父さんも母さんもとったことないぞ」
「…」
「お前は、父さんと母さんの子だ。だから、やれば出来るはずなんだ」
「…うん」
「つまり、今の成績は、お前の努力の無さを表してるのだ」
「…」
「努力してみないか?シンジ。学年で一番を取れとは、言わん。大体それは、無理に近いしな」
ちなみに学年一番は、アスカである。英語、数学、理科を得意科目とし、全般的に成績が高いレベルで安定している。唯一の弱点は『音楽』だ。
ちなみに、シンジの得意科目は、音楽と家庭科。
レイは、音楽と理科であり、他の科目は、普通よりやや、いいくらいで安定している。
「せめて、レイくらいの成績をとってみろ!それくらいの能力は必ずある。なんと言っても、総合科学者と遺伝子工学者の血を引いた、サラブレッドなんだから」
「うん…」
「うんじゃないだろ?シンジ」
「はい!」
「よし、いい返事だ。父さんは期待しているぞ」
そう言って、ゲンドウは、食卓の料理に視線を戻し、レイに話し掛けた。
「ああ、料理が冷めてしまったな、済まんなレイ」
「うん、温めてこようか?」
「いやいい。冷めても美味しいぞ」
「ほら、おにーちゃんも食べて」
「うん」
そう言われて、シンジも料理に手を付け始める。
そんな様子を見ながらゲンドウが、思い出したかのように話し始める。
「おお、そうだ。今日の放送見たんだろ?」
「放送って何?」
すかさずレイが聞く。
「なんだ、知らんのか…?じゃ、なんで宇宙船のこと知ってたんだ?」
「たしか、山岸さんがMITとかで見たとか」
シンジは、思い出しながら言った。
「なるほど、そっちか」
「で、放送ってなんなのお父さん!」
興味津々のレイが、急かすように言う。
「ああ、例の宇宙船から、電波ジャックがあってな」
「電波ジャック?」
「ああ、それも全世界規模でな。見たいか?」
「見たい見たい!!」
見たがりのレイが騒ぐ。
「ああ、待ってろ」
と、言うとゲンドウは、テレビのスイッチを入れる。
そして、短いパスコードを打ち込むと、NervのHP(ホームページ)を表示させた。
「これが、例の放送だ…」
そして今日の9時1分52秒に電波ジャックで放送された内容が表示された。
「あの宇宙船って、地球侵略に来たの?」
レイが驚きの表情のまま言う。
「ああ、その様だ」
「その様だって父さん…」
「私たちに何ができると言うんだ?シンジ」
「それは…」
「だろう?まあ、第三新東京市に攻撃の手が来ないことを祈るだけだ」
そう言ったゲンドウだったが祈りは天には届かなかった。
S-20 作戦発動、3時間前
ミサトは、カジをブリーフィングルームに呼び出した。
「カジ、遅かったじゃないの!」
ミサトは、眉間にしわを寄せながら、そう言う。
「ああ、済まなかったな」
と言ってるが、全然済まなそうにしないで微笑むカジ。
そうやって微笑まれれば何も言えないミサトだ。
「まぁ、いいわ。で、作戦の内容だけど」
「ああ、さっき、作戦内容は読んだ。いつもどおりだろ?」
「ええ、そうよ。だいじょぶ?」
「俺を誰だと思ってるんだい?」
「そうだったわね」
「そうさ」
そう言って、カジは、ミサトに微笑む。
ミサトも微笑みを返す。
作戦発動の3時間前とは思えない、柔らかな空間がそこにあった。
S-21 学校、始業前
「昨日の放送、生で見られなかったなんて!!、相田ケンスケ一生の不覚!!」
そう言って、悔しがるケンスケ。
でもしょーがなかったのだ、理由は…。
「ごめんね、ケンスケ君。昨日、あんなこと頼んじゃったから」
「ああ、いいよ。あんな放送があるなんて知らなかったんだろ?それなら、君のせいじゃないさ」
「うん」
ほんわかした空気のふたり。
その様子は、クラスの女子を羨ましがらせるには、充分であった。
それは、夕焼け色の髪を持つ少女も例外ではなかった。
「いいわねぇ、あのふたり。いい空気ね」
「うん。いいよね」
空色の髪を持つ少女も例外ではないようだ。
「でも、あいつじゃ、そんなこと無理ね」
「そーね。おにーちゃんじゃね」
お互い言いたい放題なふたり。
そんな風に言われてる、シンジは、トイレでくしゃみをしていた。
「で、今日の9時だっけ?期限は」
そう言って、宇宙船の話をしだすケンスケ。
やっぱ、色恋より趣味を優先するあたりがケンスケだ。
「うん、正確には、9時1分52秒ね」
そーいうことは、あんまり気にしないマユミも似たようなもんだ。
案外、このふたり似た者同志なのかも?
「まったく、あのふたりは、もどかしいわねぇ」
と苛立つアスカに、
「あら、アスカは違うの?」
と、厳しい言葉のレイ。
「あたしは、いいのよ!」
強がるアスカ。
「ホントに?」
意地悪く聞くレイ。
「うぅぅ」
そりゃ、いいわきゃない。
「どしたの?」
一番タイミングの悪い瞬間に現れるシンジ。
「なんでもないわっ!!」
ごすっ
とグーでなぐられるシンジ。
「な、なんで…」
「さぁね」
と、微笑みながら、ケンスケ達の方へ行くレイ。
「なんでなんだよ…」
混乱するシンジだった。
S-22 午前9時1分52秒、オーストラリア上空50km
惑星侵略超A級戦艦インディペンデンスデイ、ブリッジ。
各種ディスプレイの表示を見ながら、ふたりの女性。
「リツコ、地球からの降伏の意思表示は?」
「ないわ」
「使徒は?」
「最終整備は、1時間前に終了」
「工作員は?」
「第参使徒『サキエル』に搭乗済みよ」
「よっしゃ、作戦発動」
「了解、作戦発動、最終承認!ファイナルフュージョンプログラム起動!!」
「って違うでしょ、リツコ」
「ふふふ、冗談よ。作戦発動!」
その声に、オペレータの少女と言ってもいいような女性士官が、作戦の開始を全艦に伝える。
「作戦発動を全艦に発令します」
ver.-1.00 1997-08/29公開
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峯マサヤさんの『機動妖精』接触編・PART5、公開です。
いよいよ始まる侵略作戦。
危機感バリバリ、
緊張ガチガチ、
皆さんアタフタ。
・・・の筈なんですが、
ほんわかムードに包まれていますね(^^)
「さっと、読んじゃってください」
とのことなので、
コメントもサッと書いちゃいました(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
元ネタも分かった『機動妖精』の感想を峯さんに送りましょう!