機動妖精
接触編・PART2
S-6 第三新東京市立第一中学校2年A組
始業前の教室。
廊下側の席で、ふたりは、幼なじみの少女に絞られていた。
「しっかし、兄妹そろってねぼすけなんだから…」
「ごめん、アスカ」
「しょうがないじゃん、宿題終わんなかったんだから」
反射的に謝るシンジと一応理由に正当性を持たせるレイ。
性格の違いは、この辺でもわかる。
「まぁ、今回は、しょうがないって言えばしょうがないわね。でもね、あんたたち」
「「うん…」」
「なんで、毎日なわけ?」
そう言って、じと目のアスカ。
「「うっ」」
((い、言えない…。宿題してないときは対戦格闘ゲームのやりすぎなんて))
二人とも大きな汗マークが後頭部に浮かんでいる。
さすが、双子、シンクロ率は高いようだ。
「どうしたの?なんで言えないの」
じと目から、三白眼にモーフィング効果で変わっていく、アスカ。
「ええーと、ねぇレイ?」
と言って振り向くと…。
いない。
(逃げたな、レイ。先を越された…)
と、思いながらシンジは、アスカに睨まれていた。
そう、まるで、ヘビに睨まれたカエルの様に…。
(ふふふ、おにーちゃんがトロくて助かったわ)
一足早く、幼なじみで親友のアスカから逃げ出したレイはそんなことを考えながら、廊下側から、窓際の席に向かう。
「どうした、レイちゃん。また、惣流か?」
いつものことなので『また』というメガネの少年。
アスカに絞られる、シンジとレイという構図は、このクラスができてから、毎度のことだ。
「そうなのよ、聞いてよ、相田君」
「どうせ、また、寝坊したんだろ?」
そんなことは、予想できる範囲だ。
「そうなの。よくわかったわね」
『寝坊』の言葉に驚いた様な顔のレイ。
ボケなのか?天然なのか?レイの返事は時々間が抜ける。
「君らが寝坊しない日の方が少ないからね」
「ひっどーい、相田君。でも、そうかもね」
レイは、そう言って、軽く微笑む。
「そうだよ」
と言ってにっこり笑うケンスケ。
割とケンスケは、女の子に人気がある。メガネをかけてオタクな趣味の持ち主なのだが、人当たりが柔らかいところと、話術が巧みなところがある。
そんなところが、人気の秘密なのだろう。
が、ケンスケは、月に2、3度ある、告白をことごとく断ってきた。
それは、彼が、ある少女に夢中だからだ。
その彼女が、息を弾ませながら教室に駆け込んできた。
「ンスケ君!」
彼女は、ケンスケの名を呼ぶときに急ぐと、頭の『ケ』がぬけてしまうことが多い。
「マユミちゃんどうしたんだい?そんなにあわてて」
「あのね、宇宙船なの」
「宇宙船?SF雑誌の?」
「そんな、特撮専門誌じゃなくて本物!!」
「それって、UFOとか」
面白そうなことにすぐ、首を突っ込みたがるレイは、案の定、この話に首を突っ込んだ。
「そう、UFO」
「ホントかよ?」
「ホントよ。MITの軌道予測だと、日本の真上を通るわ」
「でも見えないんだろ?」
「んーん。太陽の中を通るから、見えるらしいわ」
「そうか、じゃ、これが使えるかも」
と言って、デジカメを取り出すケンスケ。
「これに、偏光レンズを付ければ見えるんじゃないか?」
「そうね。MIT予測だと、午前9時1分52秒から10秒間、太陽の中を通るらしいから」
「わかった、じゃ、マユミちゃん屋上で写真撮ってくるから、先生には適当に言っといて」
「うん」
「相田君、撮れたら、わたしにも見せてね」
見たがり聞きたがりのレイは、やっぱり見たいようだ。
「ああ、いいよ。じゃあね」
と言うと、教室を風のように出ていった。
レイは、その姿を見送った後、廊下側の自分の席の方を見てみた。
やはりそこには、ヘビに睨まれたカエルが居た。
合掌、ポクポクポクチーン。
S-7 日本、午前9時1分52秒
朝食の後片付けが終わり日本の主婦が落ち着くころにワイドショーは、始まるようになっている。
そのワイドショーが始まって、約2分が経とうというころ、『それ』は、始まった。
S-8 衛星軌道上惑星侵略超A級戦艦インディペンデンスデイ艦内放送局第2スタジオ『それ』の10分前
慌ただしい空気の流れる室内。
ここは、インディペンデンスデイ艦内放送局第2スタジオ。
通常、軍艦の艦内放送と言えば、戦闘態勢の発令等、殺伐としたものが主になるが、この『艦』は、違う。
通常、惑星侵略には、長い時間がかかるが、その間、乗組員の士気を維持または高めておかねばならない。
そのため、艦内放送で戦意高揚ドラマ(戦争、格闘技物等の映画)を流すことがよくある。
ところで、この艦では、戦意高揚ドラマを自作できる環境がある。
理由は、この艦が全長5kmの巨大艦なので空きスペースが割とあることにある。(ちなみにこの空きスペースには、リツコの実験室と呼ばれる使徒の格納ドックにも匹敵するリツコの私室もあるが、これは、また別の話だ。)
この空きスペースのおかげでこの艦内放送局にも撮影スタジオが8室あった。
だから、ドラマを自作できるのだ。
そして、この艦では、自前でドラマを作れる環境があることをいいことに、トレンディドラマを制作、放映していた。
全ては、『すちゃらか艦長』ミサトの趣味である。
そして、このスタジオは、普段はドラマ撮影に使われるものなのだが、今日は、別の目的に使われていた。
「ほらほら、時間がないわよ、ミサト」
「また、これやるのー?」
「そうよ、ミサト。あんた、これやる時、いつもノリノリじゃない。今日はどうしたのよ」
「いいでしょ、今日は、ノリ気じゃないだけよ」
「カジ君のこと?まだ、TELしてないの?」
「いいでしょ、んなこと!!」
「ふふふ、素直じゃないわね。あたしが、もらっちゃうわよ」
と、目を細めるリツコ。
「いいわよ!ノシ付けてあげるわ!!」
「ホントに?なら、早速」
と言って、携帯端末のボタンを押すリツコ。
「カジ君?リツコよ。ねぇ、聞いてぇ」
猫なで声のリツコ。
端末のボリュームを上げ、外部に聞こえるようにする。
「なんだい、リッちゃん?」
こちらも、甘い声で囁く。
ミサトが聞いてることをわかっててやっているのだ。
「ミサトがねぇ、あなたのこと、あたしにくれるって」
「そうかい?なら、よりを戻そうか?」
「ええ、そうしましょ。昔みたいに…」
色っぽい会話が続いているが、その後ろには、般若がいた。
「あのー、おふたりさん。よりを戻すのは結構ですけど、放送が目の前なんですけどねぇ」
「ミサト、眉間にしわ寄ってるわよ」
「っさい!!」
「カツラギ、冗談なんだから、本気にするなよ」
そう、甘い笑顔をミサトに向けるカジ。
「あんたなんて、リツコでも、食堂のおばさんでも、だれとでもくっついちゃえばいいのよ!!」
そう言う、ミサトの瞳の端が光っていた。
「カツラギ…、悪かった」
「あんたって、いつも女にやさしい振りして、鈍感で無神経なんだから…」
「ごめん、カツラギ」
「あんたは、謝ってばっかり」
「そうだな…、でもな、これだけは、言えるぞ」
まじめな顔で、ミサトを見据える。
「…」
「おまえを愛してる。それだけが真実だ」
「うそ」
「おまえしかいないんだ」
「だれでもいいんでしょ」
「だれでもいいわけじゃないぞ!!おまえじゃなきゃだめなんだ!!」
今度は、声が端末からではなく、じかに聞こえた。
「カジ…」
声の方に振り向くミサト。
「おまえじゃなきゃだめなんだよ!!」
「カジィ!」
「カツラギ!!」
ミサトとカジは、スタジオの衆目の中で固く、熱く、強く抱き合っていた。
「結局、このふたりは、こうなるのね」
ひとり、さみしそうな金髪の美女。
「でも、放送させないと…」
そう言って、『パンパン』と手を鳴らすリツコ。
「ほらほら、いい大人が、昼メロやってないで!ミサト、あんたには、仕事があるでしょ」
「いや、もーすこしー」
甘えた声のミサト。ホントに艦長なのか?
「『いや』じゃないでしょ、ミサト!」
「ほら、リッちゃんが怒ってるよ」
と、おどけた様に言うカジ。
「リョーちゃんもふざけてないで!!」
「おお、こわ」
「ほらほら、放送まで、時間一杯よ」
「うー」
「『うー』じゃないっ!!」
三白眼のリツコ。はっきり言って怖いっす。
「はーい」
「はい、よろしい」
一変にっこりのリツコ。でも血管浮いてる。
「で、スピーチ(宣戦布告)の文句は?」
「いつも通りやって」
「じゃ、カンペ頂戴」
「そう言うと思ったわ」
そう言って、模造紙に書いた、カンペをAD(戦闘時は、右舷砲手担当)に持たせる。
「はい、本番20秒前でーす」
若い女の子のタイムキーパが、本番開始20秒前を告げる。
ver.-1.00 1997-08/22公開
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峯マサヤさんの『機動妖精』接触編・PART2、公開です。
そろそろ”元ネタ”がわかった人も出始めたかな?
私は・・・・
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分かりません(爆)
気になるなぁ・・・
侵略者ミサトは相変わらずお気楽ボケボケですが、
お仕事をきちんと出来るのかな?
・・・きちんとされても困るけど(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
クイズは締め切られましたが、感想はエブリタイムオッケーです(^^)