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煩悩の世界エヴァンゲリオン
第参話 あたしの王子様

「これからよろしくね、シンジ」

アスカはそう言って微笑む。

「よろしくって・・・」

ぼくは、突然のことに混乱していた。


○同日午後6時32分碇家


そんなぼくに母さんが 

「今日からアスカちゃんは、うちで暮らすことになったわ」

「ええっ!」

「あなたには、話してなかったけど前から決まっていたことなの」

「前からって…」

「実はアスカちゃんのご両親はNATO軍関係者で、今度、戦略自衛隊に長期出向でくることになってたんだけど…」

「納豆?」

「そう、あの、ねばねばするって、NATOよ、北大西洋条約機構の略よ、シンジ」

お約束ボケをするシンジとツッコミするアスカ。

「続き、いい?で、中東の方で戦争が始まっちゃってアスカちゃんのご両親がヨーロッパを出られなくなっちゃったの」

「…」

「で、アスカちゃんだけ、先にきて日本の生活に慣れておいたほうがいいだろうって、話になったのよ」

「ふーん、じゃあなんでアスカがここにいるの?」

ぼくは、アスカに聞いてみる。

「ユイおばさまとあたしのママは親友なのよ」

「ああ、だからうちで暮らすことになったんだ」

ぼくはようやく納得した。

「これからよろしくね、シンジ」

また、にっこり笑うアスカ。

ぼくは、そんなアスカにどぎまぎしながら

「よ、よろしく、アスカ」

と答えた。

「シンジ」

「何?母さん」

「アスカちゃんにはあなたの記憶の事、話してあるから」

「あ、そうなんだ」

そう言い、アスカに目をやる。

うなずくアスカ。

「だから、アスカちゃんにドイツの事、いろいろ聞くのよ」

「うん」

「アスカちゃんよろしくね」

「はい、おばさま」

アスカは母さんにそういうとぼくの方を向き、

「じゃ、部屋に行くわよ」

「部屋って?」

「あたしの部屋。シンジの部屋の隣よ」

「隣って物置だったんじゃ・・・」

「ああ、それなら、先週業者に来てもらって、いらないものは、持ってってもらったわ」

こともなげに言う母さん。

「じゃ、行くわよ」

「う、うん」

ぼくは、アスカに手を引かれ二階に上がっていった。



○同日午後6時37分物置改めアスカの部屋


「うわぁ」

アスカの部屋に入ってみるともうきれいに家具が置かれていて、あとは少しのダンボールが置いてあるだけだった。

「ああ、今日、業者の人に来てもらって家具を入れてもらったの。もう住めるわよ」

アスカはそう言いながら、ダンボールの一つをゴソゴソやっている。

「あ、あった」

そう、言ってディスクをベッドに放る。

「何、これ」

「アルバムよ。あとは、端末ね」

そういいながら、またゴソゴソやるアスカ。

「あった、あった」

そういいながら、端末を持ってくる。

「シンジ、ここに座って」

と言ってベッドを指差す。

「あ、うん」

ぼくは、それに従い座る。

アスカはくっつくようにすぐ隣に座ってきた。

とたんに恥ずかしくなったぼく。

「あ、アスカ」

「なぁに、シンジ」

「もう少し、離れて座らない?」

と、聞いてみる。

「何言ってんのよ。こうしないと一緒に見れないでしょ」

「う、うん」

と、アスカに押し切られてしまった。
なんか、主導権は完全にアスカにあるみたいだ。

「これが、あたしたちの写真よ」

そう言って見せられた写真は、鼻に判創膏、右手に新聞紙で作った棒を持った、負けん気が強そうな女の子と、泣きべその男の子が、一緒に手を繋いでるものだった。

「あんたは泣き虫で、いつもいじめられてたから、あたしが守ってあげてたのよ」

「なんか、ぼくは今とあんまり変わんないね」

「そうかな?あと、こんな写真があるわ」

その後見せられた写真はこんなものだった。
プールではしゃぐアスカと溺れるぼく。
山の頂上で威張るアスカとへろへろのぼく。
運動会で一等賞のアスカとビリのぼく。
なんか、見てるうちに情けなくなってしまった。

「情けないな・・・」

「一緒に写ってる写真はこんなのしかないけど、シンジもかっこいい時があったのよ」

「え、どんな」

「シンジ、左手出してくれる?」

「え、左手?」

と左手を差し出すぼく。

「じゃなくって、左腕をめくって。傷があるでしょ」

「ああ、あれ」

ぼくは、制服の上着を脱ぎ、Yシャツの袖をめくる。

「やっぱり大きな傷になってるわね」

「ぼくは、覚えてないんだけど、犬に噛まれた傷だって」

「その傷が出来たわけを教えてあげるわ」


○2007年4月ドイツ某保育園


シンジもあたしもまだ保育園に入ったばかりだったわ。

「シンジ、なんでまた泣いてるのよ」

「あ、アレクにぶたれた」

「まぁた、やつね」

てな具合で、いつもあたしに助けてもらってる情けない男の子だったわ。

そんなある日、保育園の塀を越えて犬が入ってきたの。

今考えれば大した事の無い犬だったんだけど、その時のあたしたちって小さかったじゃない?

だから大きな犬って感じがしたわ。

「アスカ、やめたほうがいいよ」

「何よシンジ、こわいの?」

「こわいよ」

「じゃ、シンジはそこで見ていて。あたしがちょちょいのちょいでやっつけちゃうわ」

そう言ってあたしは例の新聞紙の棒を持って向かっていったの。

でも、やっぱり小さいあたしには犬は強敵だったわ。


ガッルルウ


飛び掛かってきた犬を避けるため、思わず棒を手放しちゃったの。
徐々に端に追いつめられて最後には、角に追いつめられたの。


ガルルルル


「アスカにげて!」

シンジの声が聞こえたの。

「もうだめ」

あたしは、観念してその場にしゃがみこんじゃったわ。


グァァッ


そして、飛び掛かってきた犬に思わず目をつぶったの。

「うぁっ」

シンジの悲鳴が聞こえたわ
恐る恐る目を開くと、犬に左腕を噛まれながら立ち向かうシンジがいたの。

「アスカ、にげて!」

「だって、シンジが」

「ぼくなら、だいじょぶ、だから、にげて」

「シンジ・・・、待ってて」

あたしは、そのまま棒を取りに行ってすぐ戻ったの。

「シンジをはなしなさい、このばかいぬ!」


ポカッ


あたしは、力の限り、犬を叩いたの。


キャインキャイン


犬は、逃げていったわ。
シンジその場にしゃがみこんで、左腕を押さえながら、

「また、アスカにたすけられちゃった」

って苦笑いをしたの。

「ううん、シンジがたすけにこなければだめだった・・・」

「ぼく、やくにたった?」

「うん」

「よかった」

ほっとしたのか微笑みを浮かべるとそのまま、シンジは気絶しちゃった。


○4月23日午後7時2分アスカの部屋


「あの時のシンジは、カッコ良かったのよ」

「ふーん、ぼくがそんなことをね」

「でも、その傷が証拠なのよ」

「でも、信じられないなぁ」

「なによ、あたしがウソついてるとでも?」

ちょっと目つきが、こ・あ・い。

「い、いやそんなことないけど」

「まあ、このあたしも今のあんた見たら信じられないけどね」

「って、ひどいこというなぁ」

「ふふふ」

「ははは」

ぼくは、一緒に笑いながら、ああ、この娘は間違いなく幼なじみだって、確信したんだ。


さて、もう一人の幼なじみは・・・。


○同日同時刻綾波家


シュリッシュリッ

今日の夕飯は、豚肉と大根のお煮物。

この前シンちゃんに教わったんだ。

まずは、大根の皮を剥いて、と。

「ただいま」

「おかえり、お兄ちゃん」

お兄ちゃんが台所にきた。

「遅かったね」

「うん、ちょっとシンジ君とデートさ」

「デート?」

「ああ、偶然帰りに会ってね、コンビニで話してたら遅くなっちゃったよ」

「なぁんだデートじゃあ、ないじゃない」

「ははは、ところでシンジ君に聞いたけど」

「なぁに?」

「転校生がきたって?」

「うん、惣流アスカさん」

「その娘、どんな娘なんだい?」

「赤い髪でロングヘアで蒼い瞳の娘よ」

「その娘、シンジ君の知り合いだって?」

「うん、でもシンちゃん、覚えてないって言ってたけど」

「そうかい」

「転校生がどうかした?」

「いや、お知り合いになりたいもんだなぁと」

「お兄ちゃん、だめよあたしの同級生ばっかり手を出して」

「だめかい?」

「あとで、責められるのあたしなんだから」

「そうか・・・」

「ねぇお兄ちゃん、もてるのになんであたしの同級生ばっかり・・・」

「それはねぇ・・・・・・聞きたい?」

「い、いや、いいです」

どうせ、ろくでもない事言うに決まってる。

「いやぁ、残念だなぁ」

意地悪に微笑むお兄ちゃん。こ・あ・い・よ・う。


○同日午後11時30分碇家アスカの部屋


「あの時から、あんたは、あたしの王子様なのよ」

アスカは隣の部屋で寝ている幼なじみにそっとつぶやく。


○同日同時刻綾波家レイの部屋


星空にひときわ輝く月を眺めながら

「おやすみシンちゃん」

幼なじみにつぶやくレイ。


○同日同時刻綾波家カヲルの部屋


同じく星空にひときわ輝く月を眺めながら

「おやすみシンジ君」

不敵な笑みを浮かべながらつぶやくカヲル。


○同日同時刻碇家シンジの部屋


「・・・たすけて・・・」

その夜、悪夢を見るシンジだった。

Aパート了


次回に続く

ver.-1.00 1997- 05/09 公開

ご意見・感想・誤字情報などは masaya@mars.interq.or.jpまでお送り下さい!


ども、峯マサヤです。

さて、第参話Aパートいかがだったでしょうか。

今回、何回も推敲を重ねた上の難産でした。

その割にこんな出来ですけど・・・。

それでは次のBパートでお会いしましょう。


 峰マサヤさんの連載、「煩悩の世界エヴァンゲリオン」第参話Aパート公開です!

 ああ、やっぱりカヲルはこんなキャラだったのか・・・
 前回のコメントでまともなカヲルに驚いていたのに、
 「ひょっとして」の方が当たりでした(^^;

 ガイナが生み出したアニメ史上もっともイっちゃているホモ、カヲル・・・・・
 web上でもっとも活躍しているヤヲイ、カヲル・・・・・

 彼の生きる道はここにしかないのか?(笑)

 

 [ノリつっこみ]をしていたアスカに関西人の私は大喜び(^^)
 アスカとレイのシンジをかけた戦いの予感にラブコメ好きの私は大喜び(^^)(^^)  

 さあ、訪問者の皆さん!
 難産の後に産み落とされたこの作品の感想を峯さんに送って下さい!!


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