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 「10年ぶりというところか・・・」

 「君たち使徒に時間の概念があるとは知らなかったよ。永遠の時を生きることができるのにね」

 薄暗がりの広大な空間に二人の天使の声が交錯する。チューバのような重低音とフルートのように軽やかな声は、互いの音質は優れていたがハーモニーは最悪であった。両者の間で奏でられる協奏曲は、心のすれ違いを反映してか調律がまるでされてなかった。

 「君たちか、随分な言い方だなタブリス」

 「その名前は捨てたんだ。今は渚カオルと名乗ることにしているんだ」

 「人間にでもなったつもりか?」

 「そこまで傲慢じゃないよ。ただ名前までも神に支配されるのは嫌だということだよ」

 矢継ぎ早に言葉が交わされる。攻撃的な意志が声に宿っているのか、言葉を交わしているというより目に見えない弾丸を打ち合っているかのように見える。
 激烈な気がぶつかり合い、二人の使徒はすでに戦闘を始めていた。一歩間違えれば死という結果のみが待ちかまえている戦いを前にしているというのに、二人の瞳は爛々と輝いている。体中の血が沸騰しているのが二人には分かる。
 血の温度の上昇にともない、二人は言葉や気だけではなく身体も戦闘態勢に移行させていく。ゼルエルは軽く拳を握りしめて骨をならし、カオルは軽く手首を翻して穂先に太陽のような光を宿す槍を取り出した。

 「光の槍、EVA08か・・・」

 「イロウルがEVAを使ったという話を聞いてね。僕にもできるんじゃないかと思ったんだよ。君と戦うにはこのくらいの備えも必要さ」

 「相変わらず器用だな」

 「君はいつまで経っても不器用だね・・・」

 戦いを愉しんでいるかのような二人の間に一瞬だけ昏い空気が流れる。言葉に出してしまえば数秒間のうちに溶けてしまうが、長年に渡って積み上げてきた思いは血肉沸き踊る二人の心に一抹の影を残した。
 沈黙を破ったのはゼルエルの方だった。拳を腰だめにして鋭い眼光をカオルに向ける。その拳はカオルの頭部くらいの大きさがあった。身長は二倍、胸回りで三倍、腕の太さにいたってはカオルの四倍くらいはあるように見える。短く刈り込まれた黒髪に精悍な顔つき、身体は純白の鎧で構成されている。別に防具を身につけているわけではないのだが、使徒は自分の身体をある程度変形させることができる。鎧はゼルエルが戦闘形態をとっていることの証であった。闘神という言葉が現実化したような姿がそこには存在した。
 両者は段々気を高めていく。肌互いに相手を説得できるとは思っていないし、説得しようとする意志もない。所詮彼らは言葉では語り合うことができない間柄であった。

 「ならば戦うしかないな」

 「場所を変えないかい?ここは神が作りし遺跡。それを壊し回るのは君も本意じゃないだろう?」

 「いいだろう。俺の目的はあくまで”槍”とEVA00を極めし女だ」

 ゼルエルとカオルは戦闘態勢を崩さぬまま消えた。シャルロットとゲンドウにも超高速で上昇していく二人がかろうじて見えただけである。カオルはゼルエルが侵入の時に開けた穴を伝って外界にでると、ネオトウキョウに東側に広がる草原に着地した。普段から人気のない場所だが、ゲンドウが全住民に避難勧告をだしていたためにまさに無人の荒野であった。

 カオルの冷ややかな流し目とゼルエルの射抜くような眼差しが激突する。その瞬間両者は視線だけでなく身体も激突させていた。

 鬼神のごときゼルエルの拳と光り輝くカオルの槍の刃先。

 激突する閃光は辺りを昼間のように照らしだし、飛び散る火花は人の腰くらいまである草原を一瞬のうちに焼き尽くした。激突の衝撃波はネオトウキョウは堅固な城壁をひびを入れ、ネルフ本部の地下にいるシャルロットとゲンドウが地盤の揺れにバランスを崩すほどであった。
 儀式のように互いの武器を打ち合わせた二人の天使は、大空に舞い上がると再び対峙する。神魔戦争以来繰り広げられてきた戦いは、新たな幕開けを迎えようとしていた。




ジオフロント創世記

第18話

誰がために



 カオルが動く。自分の身長の倍以上の輝く槍を携えて。
 杖の部分だけでカオルの身長の倍くらいの長さがある。装飾も何もされていない簡素な杖だがプラチナを精錬させたようにしなやかで強固、杖自体が発光している。刃先は十文字になっており、杖との結合部分に埋め込まれた宝玉からから光が伸びる。
 刃がついているというより、刃元の宝玉から滝のように流れ出る白き光が穂先を形成していると言った方がいい。太陽の光を凝縮させたような輝きを発する槍は、カオルによって軽々と振り回され闇夜に流星のような軌跡を描き出した。
 夜の戦闘で光を発するのは、本来タブーとされる行為である。自分の位置を相手に知らせてしまって標的になるからだ。しかしこの二人の間には、通常の戦闘常識など存在しなかった。赤い光を宿した彼らの瞳の前では昼も夜も関係なかったし、これだけ膨大な気を発していれば相手がどこにいるかなどすぐに分かる。

 閃光のように突進したカオルは水車のように回転させた槍を振り下ろす。狙いはゼルエルの左肩口。決まればゼルエルの胸に埋め込まれたコアを両断され、使徒の活動は完全に停止する。
 コアは使徒の生命活動をささえる動力であり、唯一の弱点といってもいい。コアを真っ二つにされない限り使徒の活動は止まらない。
 コア以外の部分は伝説の武器といわれる様々な武具、例えばゲンシュウが保持していた極光の剣やシャルロットの持つ聖剣ラ・ロッシュのようなものと超一流の使い手が揃えば傷を付けることはできる。しかし肝心のコアには普通の武器では全く歯が立たない。EVAのみが使徒を倒せると言われる所以はここにある。コアを破壊しない限り使徒は再生を繰り返しまた復活するのだ。
 無論ゼルエルはコアを両断されることを受け入れたりはしなかった。巨体似合わぬ俊敏な動きで間合いをつめると、空手の十字受けの要領で槍を刃ではなく杖の部分で浮け止める。そして受けると同時にノーモーションで殺人的な気を込めた右足をカオルの側頭部に向かって叩きつける。
 カオルはゼルエルの右ハイキックの到達をフィールドを張って一瞬遅らせると空気を蹴って飛び上がる。受け止められた槍の部分を支点にして棒高跳びの選手のように舞い上がり、回転させた槍でゼルエルの背中をならう。ゼルエルは目の前からカオルが消えて交差させた腕に変化を感じ取った刹那、カオルの攻撃を読み巨躯を翻して光の刃をかわす。
 二人の天使はまばたきを一回するくらいの僅かな時間でこれだけの攻防を演じていた。カオルとゼルエルは生と死の綱渡りを口元に笑みを浮かべながらしていた。それが彼らの存在理由であったから。




 「始まったようじゃの」

 天に舞い上がったカオルとゼルエルを追いかけるように地上に出てきていたゲンドウとシャルロットは落ち着いた重厚な声を聞いた。振り返って声の主を見た二人は、旅支度も解かぬまま上空を見上げる老人を見た。

 「お久しぶりですね、ゲンシュウ閣下」

 「うむ。おまえさんも元気そうじゃの、シャルロット」

 忽然と現れた威厳のある老人・六分儀ゲンシュウはそこにいるのがさも当然であるかのように悠然と佇んでいた。

 「魔法ネットワークは封鎖したはずですが、どのようにしてここに来られました?」

 「ヴェルドの所に行っておったのでな」

 その名前を聞いたときシャルロットは珍しく嫌そうな顔をした。麗しげな唇からは溜息と名の空気が放出され、眉の間にはしわが一本はいる。ヴェルド・ラーンとはシャルロットが苦手にしている数少ない人間の一人であった。

 「白銀も動くのですか?」

 「状況が複雑になって来ておるからな。動かざるを得んじゃろ」

 「黄金は?」

 「あやつは当分駄目じゃ。頭が固すぎる」

 ”黄金”という名を出した途端、ゲンシュウは吐き捨てるような口調になった。憎らしげというわけではないが、焦れったいような表情をしている。前天将として未だUN軍に絶大な発言力を持つゲンシュウにも思い通りにならないことがあるらしい。
 ”黄金”、”白銀”とは共に八旗衆の部隊名である。元々八種類の旗を掲げていたことから八旗衆と言う名前がついたのであり、旗の色がそのまま部隊名となっている。
 黄金・白銀・真紅・漆黒・紺碧・紫紺・琥珀・水晶というのがその名前であり、通常黄金の旗将が八旗衆の筆頭を務める。元来旗の間に序列はなかったが、慣例から黄金が最も格式が高い。現在の八旗衆筆頭も黄金を束ねる男であり、真紅の旗将シャルロットは次席をつとめている。もっともその他の旗将は行方不明・正体不明であるから必然的にそうなってしまうのだが。
 シャルロットは融通の利かない黄金の旗将の顔を思い浮かべて苦笑した後、天空にきらめく閃光を見上げた。遙か上空で激闘を繰り広げる二人の天使は視界には映らなかったG、大地を振るわせる強大な気のぶつかり合いは感じ取ることができた。




 「っく、やるなタブリス!」

 十何度目かの衝突の後、ゼルエルは吐き捨てるように言った。愉しげな表情はすでに消えている。勿論好敵手と相まみえる高揚感は今も感じているのだが、戦いに酔いすぎることは自らの破滅を招く。

 柔のカオルと剛のゼルエル

 決着は永遠につきそうもない激闘が続く。互いに捨て身になれば勝負はついてしまうかもしれないが、両者ともまだその時期でないことを承知していた。と言っても手を抜いているわけではない。実力はまさに伯仲している。力の差は砂粒一つほどであるか、あるいはそれ以下であった。
 一見押しているように見えるのはカオルである。スピードで優るカオルは目にも留まらぬ動きでゼルエルを翻弄している。それでもカオルは攻撃の手を緩めたりはしなかった。できなかったと言い換えてもいい。
 ”使徒最強”というゼルエルの看板に偽りはない。EVA08を持ってこなかったら攻撃力で劣る分、自分は即座に消滅させられていたかもしれない。いや本気になれば今でもそうなる確率は高い、カオルはそう思っていた。カオルはような行動を続けながら前に相まみえたときより更に強くなっているゼルエルの強さを実感していた。
 カオルの不安は現実のものになろうとしている。間断のない攻撃を受けながら致命傷を負わないで耐えていたゼルエルの気が一段と高まっていく。
 (勝負に出る気か?ちょっとまずいかな・・・)
 心の中で口にした言葉とは裏腹に、周囲の空気は緊張の度合いを徐々に、しかし確実に増している。カオルとしてはしばらくこの対峙を続けるつもりであったが、ゼルエルにはゼルエルの理由があるらしい。向こうにはあまり時間はないようであった。
 ゼルエルの気の高まりを受けて、カオルは更なる攻勢に出た。守勢になってはどうにもならない、しかし相手の好きなようにやらせることもないであろう。カオルは嫌がらせと投げやりをたして二で割ったような気分で槍を振るった。
 内心のシニカルな思いはともかく、カオルが繰り出した一撃はそれまでで最も鋭い突きだった。闇夜に輝く流星と化したカオルは敢然とゼルエルに突進する。ただならぬ殺気を感じたゼルエルは攻撃用に高めていた気を一部守勢に回して攻撃に備えた。


 ピカッ!!!


 光の槍・EVA08がものすごい閃光を放つ。視界が焼き付いたようになったゼルエルは、カオルの姿をほんの一瞬であるが見失ってしまった。視界がまともに戻ったゼルエルが見たものは空一面に広がる数千、いや数万のカオルであった。

 「分身攻撃か!」

 残像攻撃ではなく完全な分身攻撃。速さで身体がぼやけているだけの攻撃とはレベルも危険度も違う攻撃である。天王流・幻龍陣と少し似ているが分身の数が比べものにならないくらい多かった。ゼルエルは奥歯をかみしめながら腕を胸のまで交差させ防御結界の力を最大限まであげる。
 カオルとは何度も戦っているゼルエルは分身攻撃を幾度か見たことがある。その時もかなり苦戦したのだが、今回は分身の桁が以前より二桁ばかり多い。
 (ここは退くべきか?)
 撤退という文字がゼルエルの脳裏によぎる。圧倒的なカオルの攻勢にはいまのところ為す術がない。だがこのまま退却することはゼルエルの自尊心が許さなかった。また浅間ではサンダルフォンとサハクィエルがまだ戦っているはずだ。
 自らの心を奮い起こしたゼルエルは慎重にカオルの様子を観察する。ゼルエルはまだ冷静さを失ってはいない。防御に徹しながらも鋭い目つきで状況を見る。前回戦った時の分身はこれほど多くはなかった。カオルも成長を続けているとはいえ、この上昇度は異常だ。しかもこれだけの分身を生み出せるキャパシティがあるのなら、もっと効果的な攻撃手段をとるであろう。使徒の中で最も頭がキレて、最も勝ち安きに勝つのが自由天使・タブリス、いや渚カオルであるのだから。
 前回のカオルにはなくて今回のカオルにはあるもの。ゼルエルは瞬時にそこまで思考を進めるといきなり目をつぶった。

 「そうか!そういうことかタブリス!!」

 叫ぶと同時にゼルエルは全身の闘気を数百本の閃光に変えて放出した。それまで防御に使っていた全エネルギーを反転させての攻撃である。光はゼルエルを中心とした花火のように飛び散りカオルを突き刺す。閃光は数万はいるかのように見えるカオルの一部にしか命中しなかったが、カオルは確かなダメージを受けたようであった。ゼルエルが発した光に影ができるのではないかと思えるくらいの光が爆発した後、空には疲れ切ったような顔をしている二人の天使だけが残された。

 「光を統べるEVAを使っての幻覚か。考えたな」

 「まあ所詮小細工だけどね」

 視界に映る光景とは、網膜に焼き付いた光の連続パターンである。物体に当たって反射した光は眼球のレンズを通して網膜で映像化され脳に送られて識別される。光を操るEVA08は使い用によっては光の構成を変えて幻覚を見せることも可能なのである。
 もっともただの幻覚ではゼルエルに通用するはずがない。カオルは分身すると気がやや希薄になることを利用してこの攻撃を仕掛けた。分身すると同時に周囲の光の連続パターンを変化させ、なおかつ作り出した幻影に自らの気をのせる。その後は分身で攻撃を仕掛けながらも幻影で牽制を続ける。  ただしこれは言葉にするより非常に困難な作業である。ゼルエルを騙すには幻覚を作り出すのと分身するのに一千万分の一秒のずれがあってもいけないし、相手の位置に合わせて光を操作しなくてならない。これほどのことができるのはジオフロント世界広といえどもカオルくらいのものであろう。
 カオルとゼルエルは互いに憔悴した表情を浮かべている。使徒は永久動力機関であるコアを持つが、EVA又は使徒による攻撃を受けた場合、再生に時間がかかる。カオルはゼルエルの光線をうけていたし、ゼルエルも攻撃に映る瞬間カオルの分身の一つに攻撃を受けている。互いに致命傷ではないがしばらくは全力が出せない。


 ズッウウゥーーン


 二人の使徒の超常的感覚は200km以上離れた浅間山の激闘の結果を感知していた。地脈が急に活性化した後、大きな気が一つ消える。それが誰のものであるかは両者には即座に分かった。

 「サンダルフォンが逝ったようだね」

 カオルの言葉は事実上の勝利宣言であった。そう遠くない内に、サンダルフォンを片づけたネルフは戻って来るであろう。ゼルエルはそれまでに負傷した身体で渚カオル、碇ゲンドウ、シャルロット・フェリアス・ド・ヴィコント、そして六分儀ゲンシュウを倒さなくてはならない。完調であってもそれは困難なことであるが、負傷した今となっては不可能なことであった。

 「タブリス、なぜおまえは人間に味方する?」

 「なぜ君は神に従うんだい?何千年も前に君たちを見捨てた神に。世界にもはや神は存在しないよ」

 カオルはゼルエルの問いを予期していたのであろう。撤退の覚悟を固めながら、それでもカオルを攻めるような声を出したゼルエルだが、カオルの激烈な反応に僅かに眉を動かした。
 「人間のDNAに様々なことが刷り込まれているように使徒とはそのように作られている。真の意味で神に抗う使徒はおまえくらいのものだ」
 ゼルエルはそう言いかけて、その言葉を頭の中だけに留めた。カオルは明確な回答を期待していないようであったし、カオルの他にも神に抗った使徒を思い出したからである。その使徒は神々の手によって作られた棺に収められ、槍によって封印されていた。
 しかし、一部の人間が画策したある計画の露見とともに起きた使徒の分裂で封印は解除された。完全に解けたわけではないが、複数の使徒がかかりきりになって封印を守る状態が続いている。ゼルエルは混乱の後人間の手に落ちた槍を是が非でも奪回しなくてはならなかった。使徒の一部は神との合一を夢見て封印された使徒を復活させようとしている。ゼルエルが神に命じられた使命を果たすにはまず槍を取り戻す必要がある。

 「全能なる主の使い、力天使の名において槍は必ず奪回する。そして神界への門を開く可能性のある女は必ず殺す」

 一段と厳しい目つきで宣言したゼルエルは、下界を一瞬見下ろすと虚空に消えた。悲壮な決意を秘めたゼルエルの言葉をカオルは微動だにせず聞いた。そしてしばらくゼルエルがいた空間を見つめ続ける。
 カオルの頬をゆっくりと流れる空気が伝う。先程まで激しく動いていた反動であろうか、空気の流れは氷河の下を伝う水のようにゆっくりと流れていた。

 カオルは急に歌い出した。

 以前南部域を放浪していた時に覚えた黒人霊歌。黒人は地上界だけではなく、ジオフロント世界でも最初は虐げられた存在であった。不当に押さえつけられた歴史が作り出した歌。それは美しい旋律や精微な技巧とは無縁であったが、力強い詞と生命力に満ちた歌であった。
 神に殉じることしかできないかつての友に歌を捧げたカオルはゆっくりと目を閉じる。締め付けられるような思いを胸の中で反復して瞼を開ける。
 カオルは瞳を開いた後、また神を恨んだ。自分に悲しみという感情を与えたからではない。涙というものを与えてくれなかったからだ。カオルは神が作り出した最後の天使である。当然のことながら使徒の最終形態として作られており、他の使徒にはない様々な力が与えられている。
 使徒にはそれぞれ自己進化能力が備わっているが、完全な精神の進化能力を与えられたのはカオルだけである。それでもカオルが笑うということが分かるまでは百年以上かかった。怒りを知るのにまた百年、悲しみを知るのにまた百年以上。自分もいつかは泣くことができるのであろうか?
 カオルは再びゼルエルがいた空間を見つめた。もし涙を流すことができるようになったら、不器用な友のために泣くことができるのだろうか?深い溜息をもらしたカオルにこの日最初の日光が差し込んでくる。

 「日はまた昇る、か・・・・」

 その言葉は誰に捧げたものであろうか?この世界を創造せし神に?それともかつての友である使徒に?あるいは人間達に?もしくはそのどれでもない自分に・・・・。




 「こっぴどくやられたわねー」

 ネルフ本部十五階にある展望室から下に広がる町の様子を見たアスカは半ば呆れたように言った。その後ろで腕を三角巾で吊っているシンジは何を言ったらいいか分からずただ突っ立っていた。
 浅間山の激闘も冷めやらぬ内にシンジ達はネオトウキョウに戻っていていた。魔法通信で本部の無事は確認していたが、またいつ使徒が襲ってくるかは予測が付かない。いつでも最善策をとる必要があった。
 戻ってきたのは三人の適格者と青葉シゲルの部隊、そして負傷兵であり、赤木リツコがこれに同道してきた。葛城ミサトはまだ事後処理に追われており、帰ってきてはいない。

 「それにしてもどうやったらこんな風になるのかしら?」

 ガラスに顔をくっつけて街を見下ろすアスカは腰に手をあててもっともな疑問を口にした。ネオトウキョウは城壁がほぼ全壊してる上、ほとんど全ての建物の屋根にひびが入っている。ネルフ本部の正面には底がどこにあるか深くてよく見えないような大穴が開いていた。それでも重要施設にはほとんど損害がないため復旧は案外速いのかもしれない。十四歳にしては破格なほど鋭敏な頭脳を持っているアスカだが、どうやったら街全体が上から押さえつけられたように損害を受けるのかさっぱり分からなかった。

 「あ、ここにいたのね二人とも」

 アスカの疑問を打ち消すかのように現れたリツコはいつものように冷静な声をシンジとアスカにかけた。振り返った二人の視界には、白衣に着替えたリツコとその横で超然と佇む一人の少年の姿が映っていた。

 「紹介しておくわ。彼がEVA08の適格者・渚カオルよ」

 「よろしく、碇シンジ君、惣流アスカ・ラングレーさん」

 カオルが差し出した手に吸い込まれるように右腕を出そうとしたシンジは肩に痛みを覚えた。サハクィエルに切り落とされた腕はくっついているとはいえ、まだ完全ではない。それに気が付いたカオルは右手を引っ込めて左手を差し出した。シンジは少し頭をかいて照れたようにカオルの手を握る。

 「アンタがここを守ったの?」

 「まあそういうことになるかな惣流さん」

 「惣流さんなんて言い方は止めてくれる?アスカでいいわ」

 「じゃあ僕もカオルでいいよ」

 「あ、僕もシンジでいいから・・・」

 はにかみながら言い出したシンジの顔を見たカオルは限りなく透明に近い済んだ笑顔を見せた。シンジとアスカはあまりにもその笑顔が綺麗だったのでどう反応したらいいか分からず呆然としていた。

 それがジオフロント世界の命運を握る子供達の出会いであった。



NEXT
ver.-1.00 1997-08/01 公開
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 ジオフロント創世記第18話です。今回は使徒にスポットをあててみました。主役はズバリカオルです。
 突然ですがジオフロント創世記はしばらくお休みします。もう一つの連載を完了してからまた書き始めるつもりです。速くて十日、遅くても二週間以内に次話をUPしたいと思っていますが、予定は未定、どうなるかはわかりません。大学は夏休みでも色々と忙しいもので・・・。
 一応一区切りがついているよころで休止したのですが、どうでしょうか?次話からの話では今まであまり登場の機会のなかったレイとユイが出てくると思います。トウジ、ヒカリ、ケンスケは登場するの?というメールをいただいたのですが、彼らの設定は決まっているのですが、まだ登場のチャンスはありません。勿論霧島マナもなんですが、彼女もどこかででてくるはずです。なんていってもEVAの適格者は十三人いるのですから・・・・、猫の手も借りたいくらいです(笑)
 それではまた


 MEGURUさんの『ジオフロント創世記』第18話、公開です。
 

 カヲルとゼリエルの対決。

 華麗で、重厚。
 優雅で大胆。

 本物の力を持つ二人の激しい戦いでしたね。
 

 カヲル・・・・08の適格者でしたか。

 あと、えっとぉ
 既にいるのがレイ・シンジ・アスカ。
 そしてこのカヲルの4人。
 全部で13人ですから、あと、9人。

 これはオリキャラ必要ですね。

 あっ、ケンスケが念願のEVAに関われるかも(笑)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 壮大な物語を書くMEGURUさんに激励のメッセージを!


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