アスカは思わず息をのんだ。地球上にいる生物の中で最も巨大なのはシロナガスクジラである。アスカはシロナガスクジラを見たことはなかったので、今まで目撃した最も大きな生物と言えば、動物園で見た象かキリンだった。
今、目の前にいる生物は象やキリンといった騒ぎのものではない。頭部だけで象何頭分にも匹敵するような大きさの化け物である。矢尻のような鋭角的な頭部とそれに続く巨大な胴体部分、手足は退化してしまったのかついておらず、代わりに数本の触手が肩口と思われる部分から伸びている。
手の代わりにそう大きくない羽根のようなものが両脇についていて、羽根の浮力で身体を浮かしているように見える。胴体部分は段々細くなり、鋭い刃のついた尾になっており、凄まじい破壊力を秘めていそうだった。
規格外、それがこの魚天使・ガキエルについての第一印象である。今まで実際に見たの使徒が人型であっただけに衝撃も大きい。アスカは自分が劇画の中にトリップしたような気さえした。
しかし使徒が放つ妖気は数十m離れたこの場所からも体感できる。武者震いか恐怖のためか、とにかく肌を振るわせる鼓動が、現在目の前にあることが現実であると告げていた。
「資料より一回り、いや二回りは大きいわね・・・」
リツコは思わず声を漏らした。しかし、リツコは実際に声を出すことで状況を的確に把握していた。躊躇している暇はない。こうしている間にもミサトはたった一人で強大な敵と戦っているのだから。
リツコは冷めた瞳の中に灼熱の炎を宿らせ、戦闘の指揮をだした。
「レイ!地中も含みこむようにフィールドを全開!これ以上ガキエルを本部に近寄らせないで!」
リツコの声に無表情に答えたレイは純白の錫杖を天に向かってかざす。レイの作り出した白く輝く壁はガキエルを半月状に囲むように展開した。ただガキエルが巨大すぎるためと、地中を進んできたと思われるガキエルに対抗するため、フィールドを地面の中にまで展開したことで、完全に包み込むのは無理だったようだ。
レイの張った光の壁にガキエルは不機嫌そうに首をもたげた。頭部には突起物が無くどこに目があるのかさえわからないが、レイを睨んでいるかのようにみえる。
ガキエルは伸び上がると獣のような咆吼を天に向かって吐いた。まるで舞台の幕開けを告げるサイレンのように。
第13話
戦場に咲く華
「魔法部隊は私に魔力を集中させて!青葉君の部隊はアスカを援護して!いくわよ!」
リツコの鋭い指示とともに、ネルフは動き出す。彼らの本来の指揮官のことを思うと胸が張り裂けそうになる者もいたであろうが、今はそんなことを考えている余裕はない。戦場では一瞬の迷いが死を招く。
アスカはすでに抜きはなっている真紅のEVAを見つめた。特訓の成果もあってEVAは再び輝きを取り戻している。しかし今までのやり方ではなく、一からやり直している段階なので、破壊力の点から言えば前より落ちているような気がした。
「自分の欲望に任せて振るっても本来の力は出んよ。自分の最も強い思いを中核にして周りのもの全てに感謝し、力を借りるようにしないと、おまえの成長はすぐに止まるじゃろう」
ゲンシュウの助言もあってアスカはEVAの扱い方を根本的に変えている。今まではただ激情に任せて振るっていただけだったが、今は自分の思いを心の中で再確認し、その思いを周りに伝えるように念じてEVAをつかうようになっている。
そうしないとEVA本来の力は出せない、とゲンシュウは言うのだが、アスカには何だかまどろっこしい気がする。シンジのように直感力に優れた人間なら、何も考えずにそういったことができるのであろうが、物事を論理的に組み立てて考えるアスカは手順を踏んでいかないとうまくできない。
どちらが優れているという問題ではない、とゲンシュウは言っていた。
「肝心なのは純粋な意志の強さじゃ。それを伝える方法は個人差がある。おまえはおまえのやり方で扱えばよい」
諭すように言ったゲンシュウの言葉が頭に浮かぶ。もう一人の適格者・綾波レイにどう扱っている訊いてみようと思ったこともあったが、いざ無表情なレイを前にすると何も言い出せなかった。
アスカはリツコの横で錫杖を掲げているレイをチラリと見た。真剣味のある表情をしてはいるのだが、どうも感情というものが感じられない。レイはどういう思いを抱いてEVAを使っているのだろう?疑問がアスカの胸の内を駆けめぐる。
しかし、それは時間にすれば一秒にも満たない間のことだった。ガキエルがレイのフィールドに激突した轟音はアスカを現実に引き戻した。
「アスカ!魔法が当たった瞬間を狙いなさい。ガキエルの動きが僅かながら鈍るはずだから。ねらいは首の付け根にコアがあるはずだけど、まずは脇の羽根を攻撃して」
リツコの言葉にアスカは静かにうなずく。EVA02の柄に埋め込まれている赤い宝玉に願いを込めて、アスカは腰を落とし体勢を低くした。
ゲンシュウに教わった疾風の構えである。より俊敏に動くためにアスカは動きを止めて力をため込んだ。両足に足場を固めるように力を入れると、踵を上げて親指の付け根に重心を置く。ここに重心をおいていれば、どの方向にもすばやく動くことができる。
アスカは目一杯引き絞られた弓のような体勢をとり、リツコの合図を待っていた。軽く息を吐いてともすれば焦ってしまう心を落ち着ける。焦りと油断は戦いにおいて最も危険なものだとゲンシュウから教わっていた。
「闇の底に封じられし 地獄の業火よ 漆黒の炎を統べし 黒龍となりて 猛々しきその姿 今ここに」
「魔炎黒龍波」
リツコが凝縮させた魔力は漆黒に染まる龍となってガキエルに向かって飛んだ。鉄をも簡単に溶かしてしまう劫火を纏った一撃は、ネルフ魔法部隊により数段増幅されていた。
普通の敵なら一瞬で黒こげになってしまうが、使徒相手には足止め程度にしかならない。それでもアスカが斬り込める隙を作るには十分な攻撃だった。
炸裂した呪文は、ガキエルの周囲の土をガラス状に融解させ、轟音とともに煙幕を作り出した。アスカはガキエルの懐に飛び込んだ。脇をすり抜けるようにして、飛び魚のような羽根を切り裂きガキエルの向こう側に着地する。
手応えはあった。真紅のEVAが刀身に纏った炎で、血が付いたとしても一瞬の内に蒸発してしまうので血糊ははついていない。だが、羽根を切り裂いた時に肉と液体を斬るような感触は確かにあった。
「いける!」
アスカはそう叫ぶと大地を蹴って反対側の羽根を切り落とそうとした。両側の羽根を落とせば動きを封じられる、そうすれば勝てる!アスカは勇躍して斬りかかろうとした。
しかしアスカの視界に不吉な影が映る。大地に映った頭上の影は、どす黒い殺気をはらんでいた。
ドグッ!
アスカは振り下ろされた鋭い刃を間一髪でよけた。襲ってきたのはガキエルの巨大な尾である。土煙を上げながらアスカが先程までいた場所にめり込んだ尾は、衝撃波だけでアスカをはじき飛ばした。
転がりながらなんとか体勢を整えたアスカの目に荒れ狂うガキエルの姿が映る。触手と鋭角な頭部を狂ったように振り回したガキエルは、レイの作り出した白い光の壁を滅茶苦茶に叩き出した。理性の欠片もないような攻撃だが、レイのフィールドには次々とひびがはいっていく。
そして何本かの触手はついに白い壁を突破し、ネルフ魔法部隊に襲いかかった。何とか壊滅は免れているように見えるが、部隊は混乱を極めていた。魔法使いは近接戦闘には弱い。ネルフの面々は多少は体術訓練も受けていたが、所詮は魔法使いである。有効な反撃も加えられないままネルフ魔法部隊は危機的状態に追い込まれた。
アスカに続いて切り込もうとしていた青葉シゲルの剣士部隊が帰ってきたことで、なんとか壊滅は避けられたようだが、もはやアスカを援護するどころではなくなっていた。
一方アスカはガキエルの長大な尾を相手に苦戦を強いられていた。レイのフィールドを壊した頭部や触手とはまるで別の意志があるかのように、正確に攻撃を仕掛けてくる。ものすごいスピードで襲いかかる尾に、アスカはただ逃げることしかできなかった。
逃げながらもアスカの脳は高速回転を続けている。なんとか弱点をみつけようとしているのだが、なかなか見つからない。リツコが言った首の付け根のコアに届けば、倒せるのだろうが、遙か上方にあるコア目がけて飛んだ瞬間、鋭い尾に串刺しにされるか払われるのが関の山だ。
アスカはまず、尾を片づけることにした。尾を切り落とし、背中を駈け昇ってコアを直接攻撃。迷っている暇はなかった。時間はあまりないのだ。アスカは尾の動きに集中するとチャンスが来るのを待った。
鋭い尾がアスカを上空から襲った。アスカは振り下ろされた尾を寸前のところでよけるとEVAを振りかざす。アスカの手には刀が固い肉に食い込んでいく鈍い感触が伝わってきた。
しかしガキエルの尾は予想より遙かに強固だった。鱗のようなものに覆われているうえ、固い骨がある。EVA02は尾を切り落とすことができずに、骨に当たって止まってしまった。しかも固い肉に食い込んだ剣は容易には抜けない。
何とか剣を抜こうとするアスカに背後から襲いかかるものがあった。ネルフ魔法部隊を混乱に陥れた触手である。アスカは振り向いて確認したが、よけきれるタイミングではなかった。
「こん畜生!!」
アスカの絶叫は死へのプレリュードとなってしまうのだろうか?咄嗟の出来事にアスカは死を覚悟することすらできなかった。
一瞬目を閉じてしまったアスカの身に痛みはなかった。目の前で何かが激突する鈍い音が聞こえただけである。瞼を開いたアスカの視界には、黄金を溶かしたような見事な金色のヴェールが映し出された。
「こん畜生だなんて、品のない声を出してはいけなくてよ。たとえどんな状況になって追い込まれてもね」
軽やかなハープを思わせる優美な声だった。凄惨な戦いの場にいることを忘れさせるような響きがした。アスカの前に立ちはだかった金髪の女性は首だけ振り返るとアスカに視線を向けた。
「あら、それはEVA02ね。それではあなたが惣流アスカ・ラングレーね。噂通りのかわいい子ね。将来が楽しみだわ」
そう言うなりその女性は、ガキエルの触手をなんと素手ではじき落とした。手は髪の色とおなじく金色のオーラに包まれている。魔法でもかかっているのだろうか?そしてようやくEVAを尾から引き離したアスカを抱えて飛んだ。アスカは抱え込まれた瞬間、甘美な薔薇の匂いを嗅いだ。
「淑女の振る舞いはエレガントでなくてはならないわ。たとえ殺し合いの最中に身を置いていても」
女性はそう言って片目をつぶって見せた。アスカと同じアイスブルーの瞳だった。白磁のような肌に薫り立つような金髪、黄金に輝く剣を片手にもち、涼しげな微笑を浮かべている。名工がいくら魂を込めても作り出せないような、美しい顔は戦いの最中だというのにアスカをも魅了した。まるで戦いの女神が転生したかのようである。
「リョウ?いるんでしょ?少しは手伝いなさい」
アスカを離してガキエルに向きなおった金髪の女性は、僅かに顎を動かしてアスカの背後に音楽的な声を掛ける。
「いや、超過勤務手当と危険手当はもらっていないんだ。それにもう一人気になる女性がいてね。この場は君に譲るよ」
アスカは自分の背中から聞いたことのある声が聞こえてきてビックリした。さっきまで人の気配がまるでしなかったのに。
「か、加持さん!」
「やあ、アスカ。今日もかわいいね」
「こ、こんな時に何を言っているんですか?!」
「まあまあ、それより彼女の戦い方をよく見ておけ。アスカと同じタイプの剣士だ。きっと参考になる」
アスカはさきほど自分を助けてくれた女性の方を見た。金髪の剣士は後も立てずに歩き出し、いつの間にかガキエルに接近している。ガキエルも身体を入れ替えて金髪の剣士と正面から相対していた。
「それじゃ、またな。アスカ」
加持の声がしたので振り返ってみたが、加持はすでに消えていた。まるでさっきいた加持は幻覚だったかのように音も立てずに消えた。
狐に摘まれたような顔をしたアスカだったが、EVAの柄を握りしめると立ち上がった。とにかく今は目の前のことに集中しなければならない。ここは戦場なのだ。
「まったく図体ばかり大きくなって、淑女に対する扱いはまるで成長していないわね、魚天使ガキエル」
金髪の剣士の優美な調子は、巨大な使徒を目の前にしても変化はない。ガキエルは場違いなくらい美しい声に、無言で触手を動かすことで答えた。
金髪の剣士はダンスでもしているかのような軽やかなステップでそれをかわすと、剣を構えなおした。音を鳴らして踵をくっつけ、直立不動の体勢を取る。左手は手首を軽く曲げ、手の甲が接するように腰につけ、右手で剣を胸の前に突き立てる。騎士が戦いの前に行う儀式のような仕草だった。ガキエルの連続攻撃の合間に、どうしてそんなことができるのか、後ろで剣を構えるアスカにはまるで分からなかった。
「覇流・剣士、シャルロット・フェリアス・ド・ヴィコント。参る!」
一際大きな声で名乗りを上げると、金髪の剣士はガキエルに突進した。途中触手が行く手を遮るように立ちふさがるが、手にした黄金の剣を一閃させた金髪の剣士は、紙のように触手を切り裂いた。矢のような一直線の動き。フェイントなどは一切かけずにただ真っ直ぐに目標を狙う動きだった。
「アスカ!左!」
軽やかな声が金髪の剣士から飛ぶ。アスカは反射的に駆け出すとガキエルの左脇腹に残っている羽根目がけて疾駆した。邪魔するように出てきた触手を金髪の剣士と同じように切り裂いたアスカは、全くスピードを緩めることなく突っ込んでいく。ガキエルの繰り出した鋭い尾が、血を吹き出しながらもアスカを頭上から襲う。しかし、余りのスピードに尾は、アスカの影を踏むことすらできなかった。
二人の女性剣士は互いに連携しながらガキエルの身体を徐々に、そして確実に切り裂いていく。まるで動きの鈍い熊に襲いかかる鍛え上げられた猟犬のようだった。いくら威力があってもあたらなければ意味がない。二人の速さにガキエルはついていくことができなかった。
「どいて!」
部隊を何とか後退させたリツコから鋭い声が飛ぶ。それが何を意図しているのか二人にはすぐに分かった。後ろにレイを従えたリツコの両手には、目に見えるほど強力な魔力が凝縮されていた。
「魔炎黒龍波!」
二度目の黒龍波が飛ぶ。今度はネルフ魔法部隊による増幅ではなく、レイのEVA00によるパワーアップ版である。EVA00は直接の攻撃力こそないが、防御と力の凝縮にかけてはEVAシリーズで他を寄せ付けないほどの力を秘めている。
「アスカ!」
動きが止まったガキエルを見た金髪の剣士の声にアスカは鋭く反応した。真紅のEVAは天をも焦がす紅蓮の炎を巻き上げてガキエルに襲いかかる。
ズバッーーーン
轟音を上げてアスカのEVA02はガキエルを切り裂いた。しかし息の根を止めたかに見えるその一撃の後もガキエルは生きていた。僅かに身を翻してカオを真っ二つにされるのを防いだガキエルだが、瀕死の重傷といった具合である。それでもガキエルは最後の力を振り絞るようにして地中に頭から突っ込んだ。
膨大な量の土煙と、切り裂かれた血肉の破片を残してガキエルは地中に消えた。音もなく掘り進んできた来襲時とは違い、地響きをたてて去っていく。音はあっという間にネオトウキョウから消えていった。巨体でありながらものすごいスピードであった。
ガキエルの方を向いてEVAを構え直すアスカをリツコが止める
「アスカ!深追いする必要はないわ!それにまだ戦いは終わっていないのよ!」
リツコの叱咤にアスカは我に返る。そうであった。まだ戦いは終わっていない。強大な使徒を相手にたった一人で戦い続けている剣士がいるのであった。
★
その頃葛城ミサトの生命の華は散りかけていた。致命傷は受けていないが、別々の生き物のように動き回るショウの剣をかわし続けることは不可能だった。徐々に身体についた傷は増えていき、出血の多さに目がくらむ。加えてショウの暗黒剣による傷は、龍脈の力を持ってしても塞がることはなく、ミサトはすでに血塗れの状態であった。
それでもミサトは諦めなかった。自分が一分一秒でも多く生きていることが、味方の勝利につながるのだ。絶対に諦めるわけにはいかなかった。それほどまでのミサトの気迫をもってしても、絶望的な状況に変化はなかった。ミサトは既に死を覚悟していた。
「ふん、よく持ったが、そこまでのようだな」
ショウの昏い声は死に神の足音のようだった。ここまでか・・・、ミサトは出血ではっきりしない意識の中でそう思った。ミサトは目的のためには逃げることも厭わなかったが、すでに逃げるだけの体力は残っていなかった。両足で立っていることさえ奇跡的なくらいの重傷なのだ。
ゆっくりと歩みを進めるショウの足が唐突に止まる。少しだけ身をよじって後方に飛ぶ。
ミサトの目にはショウのいた空間が奇妙に映った。頭がボウーっとしているせいかとも思ったが、目の錯覚ではないらしい。でなければショウが後退するはずがない。
ショウのいた空間は斜めに光の筋が走っていた。そして光の筋から右側の空間が奇妙にずれている。音もなく非対称の様にねじ曲がった空間は、ミサトの目の前に一人の男が降り立つのと同時に元に戻った。
「大丈夫か?葛城」
ミサトは死の間際に自分の最も愛している男が現れたことが信じられなかった。死ぬ直前に見るという走馬燈かと疑ったくらいである。しかし目の前にいる男は紛れもなく、本物の加持リョウジのようであった。
「久しぶりですね」
呑気な声を発したのは加持の方である。しかし、その瞳はいつものように穏和な光をたたえてはいない。正面で相対するショウは、慎重に剣を構えなおした。加持は天王流四天王最強にして恐怖天使イロウルでもある六分儀ショウが、慎重にならざるを得ないほどの力を秘めているのであろうか?
「お目当てのゲンシュウ閣下はいませんよ。そして碇シンジ君はちょっと寝ていましてね、あなたの相手はしたくないそうです」
ショウは僅かに眉をひそめた。その言葉を疑ってはいないようではあったが、戦闘態勢は解かない。
その時地震のような揺れと轟音が伝わってきた。ショウは構えはそのままにして眼球だけ動かして街の西側の方を見やる。
「どうやらあちらでは決着がついたみたいですね。何ならこちらも決着をつけますか?
あなたがEVAの適格者二人と赤木リツコ、そして聖剣士シャルロットを同時に相手にする気があればの話ですがね」
加持の言葉を聞いたショウは更に表情を曇らせた。目の前にいる一見風采の上がらない男がハッタリを言う人間ではないことをショウは知っていた。構えを解かないまま二,三歩下がったショウは剣を鞘に収める。
慎重に後退を始めたショウに聖歌を思わせるような声が掛けられた。
「逃げる気なの?」
ミサトが朦朧とする意識の中で後ろを振り向くと、いつの間にか金髪の剣士が立っていた。その女性は加持を押しのけるようにして前に出ると、鋭い眼差しをショウに向ける。
「三年前の封邪の迷宮での一件、話してもらえないかしら」
「おまえのことだ。自分で確かめてきたのだろう。だったら分かったはずだ。おまえの弟の首を斬ったのは俺だということを」
「確かに・・・。あの斬り口はあなたにしかだせないもの。でも弟は単なる学者よ。あなたの剣を叩き折るなんてまねはできないはずよ」
沈黙が流れた。唐突な風が吹き、ショウの黒髪とシャルロットの金髪をともになびかせる。乱れる髪を気にもとめず、鋭い眼光がぶつかり合う。同じように髪をなびかせていても二人の心は決して重なることがないようであった。
「経緯がどうであれ、おまえの弟を殺したのは俺だ。それで十分なのではないか?」
「そうね。それなら私はここに宣言するわ。弟の血はあなたの血をもってあがなってもらうわ。復讐は血と悲しみによってなされなければならない、それが我がヴィコント家の掟よ!」
「よかろう。やってみるがいい」
シャルロットとの話がすむとショウは漆黒のEVAを抜き放ち、黒い障気を足下に発生させる。段々広がって直径2mくらいの円を作り出した黒い気は、徐々にショウを飲み込んでいった。
「小僧とゲンシュウに伝えておけ。この次はないと・・・」
「彼は小僧ではない。碇シンジだ」
ショウの言葉に加持は強い口調で返した。その言葉には額面以上の意味が込められていたことを、その場にいる者全員が感じ取っていた。
「ではシンジとやらに伝えておけ。極光の剣は俺がもらい受ける。それまで剣にふさわしい力量を身につけておけと・・・」
ショウは首まで暗黒の海に埋めて、最後に言い放つと消えていった。ショウが消えるのと同時に暗黒の海も消えて無くなり、そこにはショウの言葉の余韻だけが残っていた。
☆
「ミサト!大丈夫?!」
ネルフのメンバーで真っ先に来たのはリツコだった。転移の呪文で飛んできたのだが、ミサトとショウが最初の場所から戦いながらかなり移動していたので、探すのに手間取ったようだ。リツコの後ろには心配そうなアスカと無表情のレイがいる。
ミサトは向日葵のような笑顔をつくってみせるとVサインをしてみせた。しかし安心してしまったのか、ミサトの身体はVサインをしたまま崩れ落ちかけた。その身体を加持が優しく抱えると、ミサトは静かに横たえられた。
リツコは致命傷がないことを確認するとホッとしたような表情をみせ、治療呪文をかけ始めた。その様子をシャルロット、アスカ、レイが三人三様の表情で見つめている。
加持はその様子を見回すと、少しだけ顔をしかめてバツが悪そうに頭をかいた。
(今日奮戦したのはみんな女性じゃないか・・・。これではネルフにおける男性の立場がないなあ・・・)
加持が物思いにふけっているとアスカが口を開いた。
「ねえ加持さん」
「ん、どうしたアスカ?」
「この人はどなた?」
アスカはつぶらな瞳を二,三度まばたきさせたあと、立っているだけで優美な雰囲気を漂わせる女性を見上げた。
「あ、彼女は・・・」
「あら自己紹介もせずに失礼したわね」
金髪の剣士は加持を押しのけるようにして一歩前にでた。
「私はUN軍八旗将の一人にして、西方一の大国、ロマール法国国王グランヴィル三世の王妹、シャルロット・フェリアス・ド・ヴィコント。これからしばらくここにお世話になるわ」
それが彼女の挨拶だった。
MEGURU さんの『ジオフロント創世記』第13話、公開です!
MEGURU さんの後書き通り、
女性陣大活躍!
ですね(^^)
特にとうの立った(失礼(^^;)ミサトとリツコ。
気迫決意責任決断。
やってくれます!
ホントにシゲルとマコトは何処にいるの?状態です(笑)
・・・・あぁ・・・悲哀。
シンジの異な今回はチャンスだったかもしれませんが、
新キャラ[シャルロット]の前に台詞すら・・・・
・・・・あぁ・・・無情。
まあ、別にこの二人のFanなんて居ないでしょうから(笑)
さあ、訪問者の皆さん。
感想メール! 応援メール!
ここらで一度書いてみましょうよ!