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 シンジは深い霧の中にいた。白い煙以外何も目に映るはない。どこまでも続くような霧とよどんだ空がシンジの視界を埋め尽くしている。

 ここはどこだろう?

 ここは君の心の中

 僕の心の中? ところで君は誰?

 僕は碇シンジ 君の中にいるもう一人の君さ

 どうして僕はこんなところにいるんだろう?

 君がそう望んだから

 シンジは辺りを見回してみた。立ちこめる霧は全く晴れる様子はない。人の気配もない。シンジの混迷の度合いは加速していった。

 誰かいないの? ミサトさん? アスカ? リツコさん? 加持さん? ゲンシュウ先生? 父さん? ・・・母さん?

 どうして誰もいないの?

 君がそう望んだから

 背中から声が聞こえた気がしたシンジは、不意に後ろを振り返って見た。そこには木製の扉がある。白い霧にただ扉が浮かんでいた。

 シンジはドアノブに手を掛けてみた。鍵がかかっているのか開く気配はない。渾身の力を込めて引っ張ってみるがうんともすんともいわない。

 どうして開かないんだよ! 

 それは君が本気で開けようとしていないから

 僕は本気で開けようとしているさ!こんなところに一人でいるのは嫌だ!

 シンジは頭を抱えて叫ぶと二,三歩後退してドアに体当たりをした。シンジの肩と扉が激突して鈍い音がする。しかしさほど頑丈そうに見えない木製の扉は、何度繰り返してもビクともしなかった。

 どうして壊れないんだよ!こんなドアが!

 それは君がぶつかる振りをしているだけだから

 振り?大きな音がしているじゃないか?!

 それは君がそういう音を聞きたがっているから

 なんでここから出れないんだよ?!

 君がそう望んでいるから





ジオフロント創世記

第11話

大切な人



 葛城ミサトはいつもと同じ時刻に起きた。寝汗で濡れた夜衣を脱ぎ捨て、乾いた服を着直す。バスタオルと着替えを持って浴室に行ってシャワーを浴びる。肌から火が出るようなお湯と身も凍るような冷水を交互に浴びて、身体と心を引き締める。
 洗面所に戻りもう一度顔を洗い、髪をとかすと自室に帰って剣を腰に差す。簡単な手甲をして緊急用の道具を身につける。昨晩使用した信号弾や結界の短剣も装備した後、鏡に映った自分をじっと見つめる。
 大きく一つ深呼吸をして自分の部屋を出る。それが彼女の日課だった。

 この日も朝日は輝いていた。昨日がどんな酷い夜でも必ず朝はやってくる。ネルフ本部を取り囲む木々に巣を作っている小鳥のさえずりは、昨日の使徒との戦いを過去のものにしていた。
 ミサトはポットで湯を沸かしてコーヒーを入れる準備をする。コーヒー豆を入れてある缶を開けて中身をみると、あと二、三回分しか残っていなかった。

 「またリツコにもらってこなくちゃね・・・」

 ミサトは自嘲気味に呟くと缶の蓋を閉めた。リツコに酒を控えるように注意され、朝はコーヒーを飲むようにしたのだが、缶の中身はあまり減らなかった。忙しさにかまけて飲む暇はあまりなかったのである。一ヶ月分が入った豆の袋をもらったのは一体いつのことだったであろうか?
 古い豆からひいたコーヒーがおいしいわけがない。しかしミサトは少し微笑みながら香りのないコーヒーを飲んだ。速く使い切って新しい豆をもらいに行こう。今度は先日彼女の家にやってきた同居人が、消費するのを手伝ってくれるはずだ。

 ミサトは時計を見た。8時15分。通常シンジが起きてくる時間から30分以上経っている。昨日は随分落ち込んでいたから、眠れなかったのかもしれない。もう少し待ってみようか?それとも起こしに行こうか?
 最後に残った一口分のコーヒーを飲んでいる間、ささやかな悩みを抱えたミサトは、結局起こしに行くことにした。カップをテーブルに置いてシンジの部屋に向かう。


 「シンジ君?もう朝よ。そろそろ起きなさい」

 返事はない。シンジは布団もかぶらずベットに身を横たえたまま、ミサトに背を向けている。困ったように腰に手を当てたミサトは、シンジに歩み寄った。
 「シンジ君、さっさと起きなさい。くよくよしていてもどうにもならないわ。起きて行動することから・・・」
 ミサトがシンジの肩に触れた瞬間、右肩をベットにつけて横向きに寝ていたシンジは仰向けになった。まるで身体に全く意志が通っていないかのように。ミサトの視界に飛び込んできたシンジの顔にはあきらかに生気がなかった。

 「シンジ君?!」

 窓から聞こえてくる小鳥のさえずりとミサトの絶叫が重なった。






 「どうなの?!リツコ!」

 「わからないわ」

 「わからないって!どういうことよ、それ!」

 ミサトは診察終えても冷静そのものに見えるリツコに、掴みかからんばかりの剣幕である。リツコは一度真剣な目でミサトを見た。それは冷静以外のものが含まれているような深い瞳だった。
 ミサトはしばらくリツコの真剣な眼差しを凝視した後、椅子に座り直した。
 「身体の方は問題ないわ。昨日の使徒との戦闘によるダメージは見あたらない。精神浸食の可能性も調べたけど異常なし。脳波を調べてもただ眠っているだけなのよ。どんな刺激を与えても目が覚めないけれど」

 「寝ているだけって、まさか?!」
 ミサトは一瞬にして青ざめた。椅子から立ち上がり震えた声を発する。眠ったまま目覚めることのない人物には、思い当たりがあった。
 「いえ、母親とは違うわ。シンジ君の身体や心に欠けているものは見あたらないわ」

 「じゃあ・・・」

 「だから言ったでしょ。わからないって・・・」

 リツコは診断書をデスクの上に置くと煙草に火を付けた。一度大きく吸い込んだ後、指先で弄ぶように灰を落とし、いくらも吸ってないのに灰皿に押しつける。それが苛ついているリツコの癖であることをミサトは知っていた。

 「当分様子を見るしかないわ。命に別状はないわけだし」

 リツコは話を打ち切るように言った。無造作に立ち上がると白衣のポケットに左手をつっこんで身を翻す。部屋を出る際に治療班の人間に二,三の指示を言って置いてドアを開ける。首だけ回して肩越しにシンジとそれに付き添うようにしているミサトを見やると、歩き出した。コンクリート床に反射するヒールの音はいつもより重い音がした。



 アスカは前触れもなく目覚めた。身体がだるい。夢を見ていた記憶はないのだが、悪夢にうなされていたかのように頭はズキズキした。
 寝返りをうって横向きに縮こまるような格好で寝ていたアスカの視界に初めに飛び込んできたのは、隣のベットで眠るように眠る同じ適格者の少年だった。シンジは診察の後、集中治療室に入れられるはずだったのだが、リツコの指示でアスカと同じ部屋に運ばれていた。

  「アタシまだ生きてるのかな?・・・。何でだろ?・・・」

 アスカは自問自答してみたが答えは出なかった。最近はよくわからないことばかりだ、アスカは少し愚痴っぽくなっていた。過去のことを思いだそうとすると脳に霧がかかったようになってしまうし、未来のことはもっとよくわからない。
 アスカは鉛のように重い身体を引きずってシンジのベットの傍らまで歩み寄った。ほんの数歩の距離なのだが、全身全霊の力を使わないとたどり着けないほど身体は思うように動かなかった。それほどまでして歩み寄る理由はなかったが、アスカは無性に少年の顔が見たかった。
 アスカは規則正しく寝息をたてるシンジの顔を見た。顔は限りなく透明に近い白だった。死んでいるわけではなさそうだが、生気というものが感じられない。色素がすっかり抜け落ちてしまったかのようだ。

  「なんでコイツの顔が思い浮かんできたんだろ・・・」

 アスカの呟きは消え入りそうなくらい小さかった。語尾に絡まるようにしてドアが開く音がする。書類を持って入室してきたのはリツコである。
 アスカの表情はたちまち曇った。アスカはこの理知的な女性が余り好きではなかった。嫌いというわけではないが、苦手なのである。全てを見透かしたような瞳をするから。

 「身体の具合はもういいの?」

 「なんでコイツがここに寝てるの?」

 「病室がちょっと混んでてね」

 リツコは故意に論点をずらした。アスカがいきなりシンジのことを切り出したので、興味深そうにアスカを眺めている。アスカが嫌いな瞳の色だった。
 傍らで寝ている少年のことは気にかかっているのだが、嫌悪感はそれを上回った。後で振り返ってみたらただ照れていたと思うかもしれないけれど。
 アスカは急に立ち上がって病室を出ていこうとした。重い足取りを隠してリツコの脇をすり抜ける。

 「身体は大丈夫?」

 「余計なお世話よ!」
 振り向きもせず、アスカは出ていった。リツコは部屋を出ていったのを見送った後、溜息をついた。
 「身体の方は異常がないからいいとして、問題は心ね・・・。でも不器用で恥ずかしがり屋なのはどうやら生来のものみたいね」


    





 その日の夕刻葛城ミサトは頭を抱えていた。デスクに不機嫌そうに方肘をついて、指で机をたたいている。
 個人としてシンジが目覚めないことが重くのしかかっているせいもあるのだが、ネルフ作戦行動部隊・隊長としての悩みもまた重かった。
 事実上のアスカの戦線離脱がその原因である。半ば無理矢理病室を抜け出してきたアスカは定時訓練に参加したのだが、EVAがまったく反応しなくなっていた。EVAの発動を示す宝玉の輝きもなかったし、炎を操る力も大幅にダウンしている。
 身体のキレは精神力で押さえ込んでいるせいか、いつもより少し落ちる程度なのだが、今のアスカはただの無鉄砲な剣士だった。

 「実戦になれば復活するわよ!今日はちょっと調子が悪いだけ!」

 口調は自信満々だったが、それが強がりでしかないことは本人が最も自覚しているようであった。

 



 アスカは訓練の後、自分の部屋に戻ってきていた。帰りがけに加持のところに寄ってみたのだが、相変わらず留守だった。
 ベットの上で縮こまるように座り込むとただ震えていた。自分がEVAを使えなくなったからではない。EVAを使えなくなることによって誰からも必要とされなくなることが怖いのだ。

 EVAを使えなくなったらここから追い出されるのかな?そうしたらどこに行けばいいんだろう?過去のことは思い出せないし、何か他に特技があるわけじゃないし・・・。

 アスカは過去の記憶が偽りであることにほぼ気が付いていた。しかし依然として本当のことは思い出せない。偽りの記憶だとわかっても何の解決方法にもならなかった。
 またあの少年の顔が思い浮かんだ。アスカは急いでそれを打ち消そうとした。他人にばかり、それもあの軟弱そうな少年に頼るのはプライドが許さなかった。

 コンコン

 不意にドアをノックする音がした。アスカは肩を振るわせて扉の方を見た。居留守を使おうとも思ったが、もしかしたら加持かもしれない、でもアイツだったらどうしよう?期待と不安が半々に心を支配したアスカだったが、意を決して玄関に行った。顔を二,三度叩いて表情を整えた。鏡で無理に明るい表情を作ったのを確認するとドアを開ける。
 そこに立っていたのは思いがけない人物だった。白髪の威厳のある老人は手に包みを抱えて直立不動の体勢でいた。

 「な、何か御用ですか?」

 「ふむ。ちょっとおまえさんに渡したい物があったのでな。中に入ってもいいかの?」

 「ど、どうぞ・・・」

 六分儀ゲンシュウの突然の来訪を受けたアスカは明らかにとまどっていた。

 アスカはリツコ同様この老人もあまり好きではなかった。ただし理由は少し異なる。まずアスカは老人にどう接していいかわからなかった。過去の記憶はぼやけているのだが、あまり老人と話したことがないせいかもしれない。14歳の少女が単に生理的に毛嫌いしているだけかもしれないが。
 そしてこの老人はシンジばかりに気を使う。それが最大の要因だった。嫉妬しているだけなのだが、アスカはそれを自覚できなかった。

 「大した用事じゃないのじゃがな」
 ゲンシュウはそういいながら包みの紐をほどいた。出てきたのは真紅のライトメイルである。龍玉と様々な装飾で埋め尽くされた鎧は芸術品といってもいいほどの仕上がりだった。シンジのつけているものと色違いのような品だが、アスカに合わせたのかブレストの部分は優美な膨らみを描かれている。
 「シンジのものと大体は同じ作りじゃ。もっともあやつは使い方がいまいちよくわかっていないようじゃがの。気を集めて練り上げたい時はここの、胸部の中央についている龍玉に精神を集中させるんじゃ。肩のところに付けられたのは主に防御用につかう、それから・・・」

 「わ、私はいりません!」

 ゲンシュウの説明をほとんど聞き流していたアスカは我慢しきれなくなったように叫んだ。椅子から立ち上がりゲンシュウに背を向ける。

 「どうしてじゃ?」

 「わ、私は・・・。私はもうEVAが使えないんです・・・。私が持っていてもしょうがないものです・・・」
 アスカは肩を振るわせながら、心の底から声を絞り出した。同時にこの老人が嫌いになった。おそらくこの老人は全てを承知しているのだろう。それでもう戦力にならない自分をなんとか戦わせようとして、防具を持ってきたのだと思った。

 「どうやら勘違いしているようじゃの。適格者の能力は本人がそう望まない限り失われることはないものじゃよ。それに・・・」

 「で、でも・・・動かないんです!・・・」

 「それにワシが勘違いと言った最大の理由は、これをおまえさんに渡す理由じゃよ。ワシはおまえさんが、適格者じゃからこれを作ったのではない。おまえさんがシンジの大切な人だからじゃよ」


 「大切な人?・・・」


 アスカはピクッと体を動かした。ゆっくりとゲンシュウの方に身体を向け、大切な人という言葉を頭の中で反芻している。そのつぶらな瞳には涙が浮かんでいた。

 「そうじゃ。シンジはこの世界に来てからおまえさんのことばかり気に掛けておったよ。シンジの剣があそこまで上達が早いのも、何とかしておまえさんを助けたい一心のせいじゃ。あやつは照れ屋じゃからあまり口には出さんが、剣からひしひしと伝わってくるのがワシにはわかる」

 ゲンシュウの目には厳しいでも不思議に暖かい光が宿っていた。アスカの瞳からはボロボロと止めどなく涙がこぼれてきたが、アスカはそれを拭おうともしなかった。

 「ジオフロント世界は意志の世界じゃ。願えばなんでもかなうというわけではないが、意志の力は何よりも強い力として働く。シンジが強いのはEVAの力ではない。シンジが誰よりも強い意志を持っているからじゃ。そしてシンジの意志の源はおまえさんじゃ」

 「ア、アタシ?・・・」

 「そうじゃ、人間一人の力は微々たるものじゃ。しかし、誰かを助けたいと思い、誰かを幸せにしたいと思えば龍脈や精霊、そして周りの人間は必ず力を貸してくれる。おまえさんが今、適格者としての能力を失っているのは心を閉ざしているからじゃよ。おまえさんはここまで一人の力で生きてきたわけではあるまい?気づかないうちに、色んな人に助けられてきたはずじゃ」

 「アタシが助けられて・・・・」

 「そうじゃ、ほれ窓の横にいる風の精霊もおまえさんのことを心配しとる」

 ゲンシュウは半開きになっている窓に視線を向けた。アスカも釣られて同じ方向を見る。窓からは不意に風が吹き込んできた。風はアスカの艶やかな髪とあふれ出る涙を宙に舞わせる。その風は柔らかく、且つ暖かくアスカを包み込むようであった。

 「それから何よりもシンジが心配しておる。おまえさんの身体にはシンジの気が守るように取り巻いておるよ」

 アスカはまばたきをして自分の身体を見つめた。自分の身を一回転させてもう一度見直す。何だか身体のあちこちが白い光に包まれているように見えた。光はついては消え、ついては消えアスカの身体にまとわりつくようだった。
 ゲンシュウは音もなく立ち上がるとアスカの頭をそっとなでた。ゴツゴツしていて固い手だったが、何だか暖かみが伝わってくるようで心地よかった。アスカはゲンシュウの分厚い胸に顔を埋めて大声で泣いた。悲しみからくるものではない。ジオフロント世界に来て初めて得る歓喜と安らぎからくる涙であった。
 記憶はまだ戻らなかった。しかし繊細な顔をした少年が、はにかみながら自分に笑い欠けているような光景だけは頭の中に飛び込んできた。それが記憶に焼き付いている限り、他のことが思い出せなくてもあまり不安な気持ちにはならなかった。

 ゲンシュウはしばらくアスカの好きにさせておき、泣き声が収まってくるとたくましい腕をアスカの両肩に置いた。
 「よいか、今シンジは自分の心と戦っておる。助けてやれるのはおまえさんを置いて他にはいない」

 「自分の心と?・・・」

 「そうじゃ。シンジの両親は10年間にこの世界に来た。父親に関しては少しは知っていると思うが、母親のことは何か聞いておるか?」
 アスカはプルプルと首を左右に振った。ネルフの司令官がシンジの父親であることは知っている。しかし母親のことは何も聞いてなかった。名前すら知らないし、生きているかどうかすら知らない。

 「シンジの母親は深い眠りについておる。誰のせいでも無いんじゃが、シンジの父親は不器用なヤツじゃから、自分のせいだとでも言ったのじゃろう。シンジは今、自分の殻に閉じこもったままじゃ。そして助けられるのはおまえさんしかいない」

 「ア、アタシが?・・・で、でもどうすれば?・・・」

 「なるべくシンジのそばに付いていてやってはくれんか?そして帰ってきて欲しいと一心に祈る。シンジがそうやっておまえさんを守ってきたように」

 アスカはゲンシュウの言葉が完全には理解できなかった。しかし理論的にはわからなくても心ではわかったような気がした。アスカはまだ赤くはれている瞳を浮かべた顔で元気よくうなずいた。
 ゲンシュウはアスカの顔をもう一度確認するように眺めると、両肩から手を離して身を翻した。玄関まで行きかけて立ち止まったゲンシュウは、言い忘れていたことがあるかのように振り返った。
 「今日はゆっくり休め。おまえさんも疲れている。シンジのところに行くのは明日からにした方がよい。それから明日からおまえさんにも剣の稽古をつけてやるから、明日の10時に鍛錬場にこい」

 アスカはニッコリ笑って返事をすると、こちらも言い忘れていたことがあるのに気づいてゲンシュウを呼び止める。
 「あ、あの一つだけお願いがあるんですけど・・・」

 「なんじゃ?」

 「アタシのこと、おまえさんって呼ぶのは止めて下さいませんか?一応アスカって名前があるんです」

 ゲンシュウは狐につままれたような顔をしていた。アスカは滅多なことでは驚かないこの老人の意表をつくことに成功していた。

 「あ、ああ、わかったよ。アスカ」

 「それから、おじいちゃんって呼んでいいですか?」

 ゲンシュウは更に困惑した顔になった。険しい顔つきというわけではないのだが、ほとほと困った顔である。かつて五倍の敵に包囲されても顔色一つ変えなかった男とは思えないほど、ゲンシュウの顔は崩れていた。

 「か、かまわんよ。好きに呼んだらいい」

 ゲンシュウは苦笑いを浮かべ照れたような表情を浮かべて足早に部屋を出ていく。なんだか逃げ出すように。


 「おじいちゃんか・・・」
 ゲンシュウの脳裏にはアスカの明るい声が響きわたっていた。

 「何年ぶりかの、そんなふうによばれたのは・・・」

 彼自身の孫にもそんなふうによばれたのは、ほとんど記憶がない。ゲンシュウは二人の孫の顔を思い浮かべると少し厳しい表情になった。悲しみと哀れみと後悔と、様々な思いを秘めた厳しい顔付きである。



 その晩アスカは夜もそれほど更けていない内から眠くなった。自分の身体を取り巻いている空気に一つ呟くとベットに入る。

 「お休み、シンジ」

 アスカはすぐに眠りについた。少女が明日が来るのを楽しみにするのは、ジオフロント世界に来てから初めてのことであった。





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ver.-1.00 1997-06/24 公開
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 ジオフロント創世記第11話です。今回はアスカの復活がテーマです。勿論まだ完全に復活はしないのですが、いかがだったでしょうか?アスカをTV版のようにはしないで下さいというメールをいただいたんですが、元々そういうつもりはありませんでした。
 映画でもアスカの復活。あれは描写があっけなさすぎると思っていたのですが、いざ自分で書いてみると難しいです。僕のアスカ復活劇も結構あっけないものになってしまいました。自分の表現能力のなさが悲しいです。
 それでは初めての次回予告(この時点で次回のタイトルが決まっているのは、初めてのことなんです・・・。恥ずかしながら)
 眠り続けるシンジ。シンジがいないネルフに帰ってきた強大な敵が襲いかかる。アスカははたしてシンジを守りきれるのか?そしてレイは?ゲンドウは?ゲンシュウは?どうなるのか?
 それでは次話「ショウ、再び」でお会いしましょう。


 MEGURU さんの『ジオフロント創世記』第11話、公開です。
 

 アスカ復活ですね。

 自分を必要とする人、
 自分を気に掛けてくれる人、
 自分のために命を懸ける人。

 アスカにとってシンジとは。
 

 思い出せない記憶、しかし笑顔が頭に浮かぶ。
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 会長に筆を進める MEGURU さんに感想を送ってあげましょう!


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