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かつて天に戦あり

白き法の神々と黒き混沌の神々相争う

天と地が乱れるを危惧した灰色の無の神々かくのたまいき

天でも地でもない大地作りてそこで雌雄を決せん

かくして新たなる大地誕生す

人はその地をこう呼んだ

永遠なる闘いの大地

ジオフロントと
 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−− <ジオフロント創世記より>
 

Prologue

 

 (頬に堅いものがあたっている・・・。食い込んできて痛いな・・・。それにすごく熱いよ・・・。なんだか遠くに来た気分だ・・・。)
 少年はゆっくりと目を開けた。赤い土だけが目に映る。ゆっくりと身体を起こした少年の視界には、見渡す限りの赤い大地と雲一つない蒼い空が広がっていた。

 「ここはどこなんだ?・・・」

 少年はそう呟くと不意にめまいを覚えた。呼吸が荒くなり、地に膝を突き額に手をやる。
 おぼろげになっている少年の視界に影が映った。
 「ほう、珍しいの。地上人とは・・・」
 影の主はそう言ったように聞こえた。少年は声のした方に顔を上げたが、照りつける太陽の逆光で人物の姿ははっきりとはわからない。
 「ち、ちじょうびと?・・・」
 「そうじゃ、おまえさんその身なりではこの地の者ではあるまい」
 「ここはどこなんですか?」
 少年は急に脳が霧に包まれたような感覚を覚えた。薄れゆく意識の中でかなりの年輪を重ねたと思われる重厚な声がこう言った。
 「ここか・・・ここは永遠なる闘いの地」

 

 「ジオフロントじゃ・・・」

 


ジオフロント創世記


 

 

 


 「アスカ!!ねぇアスカ、待ってったら!!」
 「さっさとしなさいよ!!バカシンジ!!早くしないと遅刻するじゃない!!」
 碇シンジの前を疾走していた栗色の髪の少女、惣流アスカ・ラングレーは、立ち止まりも振り向きもせずそう答えると走り続けた。朝寝ているシンジをアスカがたたき起こし、碇家で一緒に朝食を食べ、遅刻しないように学校へ一緒に走る。もはや毎日の習慣と化した日常がそこにはあった。
 「アスカ、ここまで来ればもう大丈夫だよ。十分間に合うよ・・・」
 息も絶え絶えにシンジはアスカに哀願した。アスカはチラリと時計に目をやると息を一つつきシンジの哀願に応じてやることにした。
 「ん、まあそうね。でもシンジがもっと早く起きれば毎朝走らずにすむのよ!ちょっとは自分で努力しようとは思わないの?」
 「でもそれならアスカが毎朝もう少し早く起こしに来てくれればいいのに・・・」
 「なんですって!!アンタ自分のことを棚に上げてアタシのせいにしようっていうの?!もう二度起こしてやらないからね!!」
 アスカはそう言うとシンジに背を向けて再び走り出した。
 「ま、待ってよ!アスカ、僕がわるかったからさ」
 「知らない!」
 「そ、そんなこと言わないでよ。待ってよ!アスカ」

 ゴツンッ!!

 逃げるアスカを追いかけるため走るスピードを上げたシンジは、十字路で見知らぬ人影と衝突した。水色の髪、真紅の瞳、ガラスのような透明な肌、神秘的なその顔立ち、頭を強く打ち付け、意識が朦朧としていたが、相手の少女の姿はシンジの脳裏に強く焼き付いた。ものすごい音がしたので前を走っていたアスカも驚いて、シンジのもとに駆け寄ってくる。

 「大丈夫?!シンジ?」
 「う、ううーん・・なんとかね。それより・・・」
 「相手の人は?」と言いかけたところでシンジは妙な感覚に捕らわれた。自分の身体が自分のものではなくなるような感覚。背筋を走り抜ける悪寒。ぼやけて景色が何重にも見えてくる視界。シンジは金縛りにあったように声も出せなくなっていた。
 「ちょっと、ほんとに大丈夫シンジ?」
 少女の声はそこから激変した。悲鳴とも絶叫ともとれる調子に。
 「あ、あれっ!!なにこれ?!何か変だよ!!私の手が消えていく!!足も!!どうなってるの?!どうにかしてよシンジ!!」
 「助けてシンジ!!!」
 薄れゆくシンジの意識の中でアスカの助けを求める声だけが反芻していた。

 

 「アスカ!!!」
 シンジは唐突に目が覚めた。気がつくとシンジは木製のベットの上で横になっていた。白い毛布がかけられており、かたわらには濡れた布と水の入った桶が置いて有る。シンジは上半身を起こして、額に手を当て自分に何が起こったか考えをまとめようとしたがうまくいかなかった。自分がグッショリ汗をかいていることに気づく。ベットの横に置かれた布でとりあえず首の回りの汗を拭う。

 「いったいここはどこなんだろう?・・・・」

 シンジは誰に話しかけるわけでもなくそう呟いた。
 部屋の中を見渡してみる。簡素な木製の小屋だった。高原のキャンプ場にあるバンガローのような作りの部屋の中には、シンジが寝ているベットの他に大きめのタンスのようなものと無骨で頑丈そうな机と椅子が置かれていた。
 奥にもう1つ部屋があるのか扉が見える。入り口は結構広い土間のようになっていて、そこには水瓶や洗い場のようなものが設置されている。生活していくのに必要最小限なものしか置かれていないような素朴な小屋だった。

 カコーーンカコーーン

 乾いたような小気味よい音が聞こえてきた。
 「誰かいますか?」
 シンジは不安げな声でそう言ったが返事はない。ベットから起きあがったシンジは奥の部屋をのぞいてみるが誰もいない。どうやら外から聞こえてきた音のようだ。土間のところまで行ったシンジは自分の靴を発見し、靴ひもを結びなおして外に出た。
 

 「う、まぶしい・・・」
 澄み渡った青空は太陽の光をダイレクトにシンジに伝えていた。風はとまっていて、熱く重たい空気が大地を支配している。シンジは容赦なく照りつける日光を遮る手をかざして目を細める。ゆらゆらと蜃気楼のように揺れる空気の向こうに、斧を手に薪を割っている白髪の男の姿が見えた。
 「目が覚めたか?少年よ」
 白髪の老人は振り向きもせずに、重々しい声で言った。
 「あ、あなたが助けてくれたんですか?」
 「そういうことになるかな、狩に出ておったら妙な胸騒ぎがしての。まぁ気にすることはない」
 「あ、ありがとうございました・・・」
 シンジの口調は彼の精神状態を反映してかどこまでも弱々しかった。それでもシンジは右拳を堅く握りしめると、意を決したように最も気にかけていたことを訊いた

 「あ、あの・・・ここはどこなんですか?!」
 「ここは地上界ではない。おまえがどこから来たからかは知らんが、ここはおまえが今までいた世界とは別次元のところじゃ」
 シンジの質問を予期していたのか、白髪の老人はよどみなく答えた。

 「遙かなる神代の時代、天地に大きな争いが起こった。強大な力をもつ神々が相争えば世界は乱れ荒廃する。それを危惧したある神がこの世界を作り、神々の戦場とした。それがここ、ジオフロントじゃ・・・」

 詠うようにそして寂しげに語った老人の言葉をシンジはまばたきもせず聞いた。
 「にわかには信じられぬか?まあ無理もないが・・・」
 シンジは硬直していた。何万年も前からそこにある岩のように動きをとめ、ただ突っ立て居た。全ての時が静止したかのように。
 「どうした?少年よ、大丈夫か?」
 気使うような老人の一言でシンジの時間はようやく動き出した。
 「あ、ああ、はい・・・。ただ全然実感がわかなくて。頭の中もこんがらがってるし、何がなんだか・・・・」

 混乱するシンジをよそに、老人は急に話題を変えた。
 「名をなんという?」
 「は、はい・・碇シンジといいます」
 「碇・・・。本当に碇というのか?」
 碇という名前を聞いた途端、老人の表情は険しくなった。眉間の間にシワをよせ考え込むように白くなった顎髭を触る。
 「あ、あの、おじいさんの名前はなんというのですか?」
 ただならぬ老人の気配に気まずい空気を感じたシンジはそう言った。
 「わしか?わしは・・・」
 

 表情をすこしゆるませて老人が答えようとした瞬間、シンジは辺りの空気が一変したように感じた。
 次の瞬間老人は年齢を疑いたくなるような俊敏な動きでシンジを抱えて飛んだ。今までいたところがクレーターのようにえぐれている。
 「ドラゴンゾンビか!!ちぃ!!やっかいなやつがきおったわい!!」
 何がなんだかわからないシンジの視界にも、森の高い木々の間から姿を現した異形の怪物が見えた。象の何倍もあるような巨躯。漆黒の肉体からから放たれるまがまがしい気配。所々から腐りおちるように肉がそげ落ちており、骨やドス黒く変色した腐肉が露出している。巨木の根を連想させるような2本の足で立ち、鼓膜をつん裂くような咆吼をあげると巨体を突進させてきた。
 老人はシンジを抱えてもう一度飛んだ。
 「ちぃ!ドラゴンゾンビ相手に丸腰では分が悪すぎるわい!!」
 老人はそう叫ぶとシンジを放し、
 「シンジといったな!おまえはその辺に隠れておれ!ワシは小屋にもどり武器をとってくる!!」
 と言い置くと狼のように疾走した。

 老人は異形の化け物の正面で一度とまると、うなるような絞った声を漏らすと吸い込んだ息を気管から下腹へと落とす。右手を腰のあたりに引きつけると右拳が白く輝きだした。

 「はぁっ!!」

 気合いとともに右手を屍龍のほうに真っ直ぐ突き出し、溜めていた気を放出した。白い光はドラゴンゾンビの頭を直撃したが、ほとんど効いていないのか再びこの世のものとは思えない叫び声を上げた。
 しかしそれは煙幕だった。一瞬ドラゴンゾンビが停止した間隙を縫って老人は小屋に飛び込んだ。
 気分が悪そうに咆吼をあげた後、シンジの方をゆっくりと見た漆黒の龍は顔をむけると地響きをたてて突進した。

 「来るな!来るな!来るな!!来るな!!!!」
 

 シンジは無意識に絶叫していた。黒い巨体の後ろに忍び寄る絶対的な死に対して。尻餅をつきながら両手両足をバタつかせて後退したシンジの背中に堅い感触が伝わった。震えながら勢いよく首だけ回転させたシンジは、それがはなれの物置小屋の扉だとは気づかなかったが、反射的にドアを開けると小屋の中に逃げ込んだ。
 しかし敵が見えなくなったことはシンジの恐怖心を一層増大させた。そんなシンジを知ってか知らずか、ドラゴンゾンビは長大な尾を振り上げるとそれを物置小屋にたたきつけた。ドアのそばにいたシンジは小屋の奥まで吹き飛ばされ、無様に床に転がった。壊れかかった小屋の隙間から龍の顔が見えた時、シンジはすでに恐怖すら感じなかった。
 感情は凍りついていたが、防衛本能はまだ微かに動いていた。シンジは逃げ場を探して更に後ろに下がったが、逃げる場所はもう残されていなかった。壁際まで下がったシンジの手に不意にふれるものがあった。鞘ごと石の台座に埋まった剣の柄でだった。

 その時漆黒の龍の顎は、触れるもの全てを腐食して溶かす吐息を浴びせようとして開き始めていた。

 次の瞬間シンジは絶叫した。

 

 「目が覚めたか?」
 シンジはいつのまにかまたベットで寝ていた。
 「ここは?・・・。僕はあの時・・・・」
 シンジは急に頭が割れるような激痛にみまわれ、頭を抱え込んでうめき声を上げた。
 「無理をするな!今はただ眠ることだけを考えるんじゃ」
 シンジの額に老人の手が当てられた。大きく、堅くてしわだらけで無骨な手だったが不思議な暖かみが伝わってきた。シンジは大きく深呼吸するとベットに横になった。
 「あ、あの化け物は?・・・」
 恐る恐る尋ねたシンジに、老人はそっけなく言った。
 「死んだ」
 「おじいさんが倒してくれたんですね。また助けてもらいました・・・」
 それにたいして老人は何も答えなかった。
 「夜も更けた。もう眠れ。詳しい話は明日にしよう」
 しばらく間を置いてそういうと、老人はベットのそばに置かれていた椅子から立ち上がった。

 「あ、あの・・・」
 「なんじゃ?化け物ならこんから安心して眠れ。結界を張っておいた」
 「い、いやそうじゃなくて・・・おじいさんの名前をまだきいていなかったので・・」

 シンジの問いかけに意表を突かれたのか、老人は軽く笑うとこう言った。  

 「ワシの名はゲンシュウ・・・」
 

 「六分儀ゲンシュウじゃ」

 

 それだけ言うとゲンシュウは奥の部屋に消えた。シンジも目を閉じると急に睡魔がおそってきたのか、すぐに寝息をたてはじめる。そのシンジの右手首にはいつの間にか、蒼い宝玉があしらわれた紫色の腕輪がはめ込まれている。

 これからシンジの身に何が起きるのか?

 蒼い宝玉だけが全てを知っているかのように静かに光を放っていた。  

 


NEXT
ver.-1.00 1997-05/22 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などは meguru@knight.avexnet.or.jpまで。

 

 ジオフロント創世記のはじまりです。いきなりわけのわからない話でとまどった人も多いと思います。元ネタは?ときかれても困ってしまうのですが、これといった特定のものは有りません。ただ僕が今まで読んだり見たりしてきた色々な小説やアニメの要素が、ところどころににじみ出ていると思います。これなのでは?と思った人はメールを下さい。
 キャラクターはエヴァの人物をつかっていこうと思っていますが、PROLOGUEからオリジナルキャラが登場してしまいました。 わかりにく話かもしれないので設定資料を作るかも知れません。Project Eのほうも平行して書いていくのでそちらのほうも読んで下さい。


  MEGURU さん2本目の連載、
 異世界ファンタジー物の『ジオフロント創世記』第1回、公開です!
 

 突然見知らぬ空間に迷い込んだシンジ。
 彼を襲う今までの常識が通用しない出来事。

 何がなんだか分からないまま「死」に向き合う・・・・
 

 ドラゴンゾンビを倒したのは・・・・シンジなんでしょうね・・・
 あの剣はいったい何なんでしょう?
 なぜシンジはそれを使え、
 なぜ戦いの素人の彼はドラゴンを倒すほどの力を得たのか?

 アスカの行方も気になります。
 青い髪の少女も・・・・
 

 もう1本の連載と大きく異なる色の創作に MEGURU さんの気合いを感じます。
 さあ、訪問者の皆さん。意欲満々の MEGURU さんに貴方の感想を!


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