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Project E

第十五話

「君にはあらゆる選択の余地はない」


 「相田君!あれ、いないわね。今日は相田君お休み?」

 朝のホームルームで珍しく自分で出席をとっていた葛城ミサトは、雑務において彼女が全幅の信頼を置いているというより、押しつけている洞木ヒカリの方を見た。
 クラス編成が行われてからまだ2ヶ月に満たないが、ミサトの事務能力のなさはすでに父兄にまで広まっている。今では欠席の連絡をミサトではなくヒカリにする保護者すら存在した。そんなことをする親も親だが、学級委員長にそこまでの権限を認める学校も学校である。
 もっとも暴走中の冬月が校長で酒乱のミサトにマッドのリツコが教師をやっている学校であったから、誰もこの学校を信頼していなかったが。

 「はい。来ていません。てっきり葛城先生の方に、何か連絡がいっていると思っていた

んですが・・・」

 「いえ、私の方には何もきてないわ。・・・脇役の悲哀に悲観して自殺でもしたくなったのかしら?」

 教師のセリフとは思えないほど物騒なことを言ったミサトは、顎に手を当ててしばしの間考え込んだ。
 Project Eに関して言えば、ミサトの出番はケンスケよりもさらに少ないのだが、もう一つのSSでそれなりに活躍しているミサトは大して自分のことは気にならなかった。引くところは引き、押すところは押すということを心得ているというのが、大人というものなのかもしれない。

 「まあいいでしょ。どうせいなくても話の進行には支障ないしね」

 こういう無責任な教師がいるからいじめがなくならないのだが、現実を無視しているProject Eの中ではそれほど問題にはならなかった。筆者がカオルの登場によって、ケンスケの出番などに気を使っている暇がなくなったのかもしれない。

 「ええっと次、碇君。・・・ちょっといい?シンジ君・・・」

 出席番号2の碇シンジの名前を呼んだミサトは、シンジの格好を見て言葉を止めた。正確には、シンジとその両腕を抱え込むようにしている2人の少女、それに片方の少女につきまとう少年、計4人の格好を見たからであるが。

 「アスカもカオル君も自分の席に戻りなさい。それからレイもシンジ君を解放してあげなさい」


 「嫌よ!」「命令でも拒否します」「せっかちなリリンは嫌だね。不愉快の極みだよ」


 三者三様の言い方でミサトの言葉は却下された。レイはシンジの腕を更に自分の身体に密着させ、アスカは近づいてくるカオルに蹴りを入れた後レイと同じ行動をとり、カオルは美辞麗句を無駄に消費させている。

 「一応ここは学校なんですからね。もっと恥じらいというものを持ちなさい」

 ミサトの説教は全く功を奏していない。いつも教師の威厳を放棄するような行動をとっている報いだろうか?
 ミサトは仰々しく、そして深く嘆息してみせた。脳味噌に羞恥心の欠片も存在しないミサトにとっては、教室でどれだけいちゃつこうと一向に気に障らなかった。彼女が注意したのはそれが自分の存在意義だと思ったからであり、溜息が深かったのは道徳的な説教は自分の柄じゃないと思ったからである。

 「恥じらいなんて自分の辞書にもないことを押しつけないで!」

 「恥じらい?・・・初めての言葉・・・。知らないわ」

 「恥じらいはいいね。リリンの文化の根源をなすファクターの一つだよ」

 言い方は様々だが、ミサトの言葉はまたもや却下された。レイとカオルは直裁的な表現ではないが、従う意志のないことはその瞳と行動が示している。
 ミサトは溜息混じりに三人の顔を眺めると肩をすくめた。教師の威厳を否定されたからではない。日本人離れしたアスカ、レイ、カオルの容貌に先日彼女の親友が言った言葉を思い出したからである。


 「日本のアニメ・漫画は質・量ともに世界一よ。でも容姿が西洋人風の登場人物が多いのはなぜかしら?名前は日本人でも髪の色は黒じゃないキャラが多すぎるわ。西洋コンプレックスとオリジナリティーの欠如のなせる技だわ」

 「そんなこと言える柄かしら。リツコも一部では趣味の悪い金髪眉黒女っていわれているのよ」

 「私だって好きで染めてるわけじゃないわ。ガイナのキャラの描き分けがなっていないせいなのよ。年齢と髪型かえればマヤとシンジ君とあの髭親父はそっくりだっていう噂もあるのよ!」

 「リツコ・・・・」

 「どうせ私は似合わない金髪だわ!でもそうするしかなかったの!母さんの口紅の色だって気持ち悪いとか言われているし・・・、親子揃って趣味が悪すぎるのよ!」


 茜色の髪にアイスブルーの瞳をしたアスカ、生物のものとは思えないような空色の髪に赤い瞳のレイ、北欧の神話にでてきそうな白銀の髪にレイと同じ赤い瞳を持つカオル。改めてみてみるとやはり不自然な容貌をしている三人であった。
 外見だけを見ると芸術品のような三人だが、中身とは言えば芸術的とはほど遠かった。内面は三人そろって極めつけの暴れ馬である。アスカは気に入らない騎手が乗ろうとしたら手がつけられないくらい暴れ回るし、レイは騎手そのものを拒んでいる。カオルといえば後で振り落とすためだけに騎手を乗せているような趣すらある。
 シンジを取り囲むようにしてミサトを睨み付けている三人がこうなってしまった元々の原因は、レイの大胆な行動である。朝、教室に入ってきて席に着いたシンジの腕にいきなり抱きついたレイは、シンジが懇願しても全く聞き入れなかった。
 アスカはレイに怒鳴り散らしていたのだが、
 「うらやましいなら、うらやましいって言えばいいのに」
 というレイの一言にキレてしまったのか、自分の机を無理矢理シンジの隣にくっつけてレイと同じ行動をとった。大胆な行動をとりながら涼しい顔をしているレイとは対称的に顔は真っ赤だったけれど。
 やがて登校してきたカオルは、アスカを見つけるなりあっちの世界に旅立ってしまったような一人芝居を始め、手がつけられない。
 ヒカリも最初は注意していたのだが、先日アスカにまで委員長としての存在意義を否定されたヒカリにはいつもの迫力がなかった。
 かくして3人のテロリストにジャックされた教室は、学業の学舎としての機能を放棄してしまいラブラブ炸裂の公園のようになってしまっていた。

 「学校から出れば、このサイトから追い出されない程度に18禁に触れても私はタッチしないけど、あんまり調子にのってると、前回鈴原君が言った通り殺されるかもよ?」

 「アタシたちがいなくなったらどうやって話が進むのよ?!アタシは殺されたりしないわよ!」

 「でも精神崩壊くらいはあり得るわよ・・・」

 ミサトの声は背筋に冷たいものが走るくらい冷たかった。顔はにこやかに笑っているが、こめかみの辺りと視線に殺気が籠もっている。伊達に女を三十年もやっていないというところか。しかしミサトの言葉の余韻が冷めやらぬ内に、冷たい言葉すら凍り付かせるような調子の声が教室にこだました。

 「精神崩壊なんて生ぬるいわ。私とシンちゃん以外の人間はみんな死んじゃえばいいのに・・・・」

 教室は静まり返った。レイの言い方は何気ないものであったが、それだけに絶対零度の冷たさをもって斬りつけてきた。かろうじて正気に踏みとどまったのは年の功を発揮したミサトと何事にも動じないカオルだけだった。

 「レ、レイ、映画のネタばらしになるような発言はしないでね・・・」

 「映画?見ていないわ、だって私の主演映画だもの。見る必要を感じないわ」

 「アンタの主演映画ですって?!ラストシーン見たでしょう?主演はア・タ・シ!」

 レイの一言にプライドを傷つけられたのか荒れ狂う雪嵐のような寒さから抜け出したアスカは、敢然と言い放って立ち上がる。レイも脇に抱え込んでいたシンジの腕を放すとゆっくりと立ち上がってアスカと視線を合わせる。
 「僕って主役じゃないの?・・・」
 そう悲痛な叫びを心の中であげていそうなシンジの頭上で火花が散る。たかが中学生といっても激烈な女の戦いには違いない。それもヒロインの座とシンジの所有権がかかった戦いとなればお互いに絶対に負けるわけにはいかなかった。

 「所有権って・・・。あ、あの僕の意見は?」

 まだそんなことを言っているのかシンジ。暴走もしていない君は無力同然ということをまだ理解していないのか?母親にでさえ「アスカちゃんに捨てられたシンジなんか群から離れた渡り鳥よ!使い捨てのLCL以下よ!いつもギタギタにやられるだけのUN軍ほどの価値もないわ!」」と言われたのを忘れたのか?シンジに主体的意志などというものは生まれたときから存在しない。

 「まあまあ、二人ともそれくらいにしてくれる?話が進まないから」

 ヒカリが絶不調なために喧嘩の仲裁もしなくてはいけなくなった葛城ミサト・29歳。教師の威厳はまるでないが、今はまだ本格的に戦うときではないとアスカとレイは判断したのか、二人は椅子に腰を下ろした。

 「素直に聞き入れてくれて嬉しいわ。アスカと渚君が席を元に戻してくれるともっと嬉しいんだけど」

 「嫌よ!」

 ミサトの言葉はまたもや拒絶され、事態は振り出しに戻ったようである。レイとカオルが少し静かになっただけ好転したと言うべきなのであろうか?

 「邪魔な人間はまとめてディラックの海に放り込んでしまえばいいのよ!名前も登場しない人間なんかいなくても、どうせヒカリとジャージ男、ムッツリメガネオタクだけいれば話は進むんだし」

 「私がいなくても話は進むわよ・・・」

 ヒカリは暗い声でボソッと言うとそのまま机に突っ伏して泣き出した。トウジとのラブコメは中断、出番と存在意義は縮小、映画での出演は皆無と泣きっ面に蜂状態を更に悪化させたような状況に身を置かれているヒカリは泣くしかなっかた。そのことが泣くことしか知らない女を軽蔑する筆者の心証を更に悪くするとは知らずに。

 「あ、惣流!イインチョ泣かせたな!」

 トウジの突っ込みはすでに条件反射に近かった。彼はすでに山城ユリカに乗り換えようとしている設定になっているのだが、トウジとヒカリがくっつかないエヴァ小説はほとんど存在しない。ヒカリを助けるとことを深層心理に刷り込まれてしまったトウジの余り悲しくはない末路だった。

 「何よ!アンタ!ヒカリを振って別の女に走ったくせに今頃になってかばうなんて。ひょっとして二股かけるつもり?!」

 「ちがうわい!二股男はシンジだけでたくさんや!」

 「ト、トウジ!僕はふ、二股なんて・・・」

 「ああ、そういやB組の暁入れれば三股やったな。悪かったなシンジ、二股男なんていってしもうて」

 「ト、トウジ・・・」

 両親には酒のつまみにされ、アスカとレイには自由意志を認めてもらえず、頼みのカオルはアスカにゾッコン。ケンスケとヒカリはろくにかばってくれない上、トウジにまで追い打ちをかけられたシンジは心の中で叫んでいた。
 「誰か僕を助けてよ!僕に優しくしてよ!!」
 こんなことなら自分との関わり合いだけが登場理由のカスミをキープしておけばよかった。彼女なら自分に冷たく当たることはないだろうとかなバチ当たりなことを考えているシンジであった。


 ガラッ


 唐突に教室の扉が開く。ドアの向こうからおっかなびっくりしながら顔を出したのは、ホームルームに来ていなかったケンスケではなかった。シンジの思考を反映してか両手にプリントを抱えてたっていたのは暁カスミである。

 「どうしたの、暁さん?」

 「あ、あの・・・」

 「出番がないから来たなんてことは言わないでしょうね?それはルール違反よ!一応話の筋に従って出てきてもらわないと」

 「い、いえ・・・林間学校のプリント持ってきただけですけど・・・。職員室に葛城先生が忘れていったので伊吹先生に言われて・・・」

 カスミは教卓に歩み寄ってミサトにプリントの束を渡した後、チラッとシンジの方を見た。シンジは咄嗟にとびきり綺麗な笑顔を作り、カスミに微笑みかけようとした。その試みは半ば成功していたのだが、シンジの両脇に鎮座するアスカとレイから棘だらけの視線をもらったカスミはシンジの笑顔に気づくことなく、逃げるように教室を出ていった。シンジは呼び止めようとしたが、アスカとレイのただならぬ雰囲気に神経が凍り付いてしまい何もすることができなかった。

 「ええっとそれじゃ林間学校のプリント配るから読んでおいてね」

 相変わらずズボラなミサト。加持が彼女から逃げているのも何となく納得がいく。

 「ちょっとミサト!それで終わりにするつもり?!」

 「え?だって読めば分かるでしょう、アスカ?」

 「アタシたちはそれでいいとしても読者はどうするのよ?!連載が止まっている小説の細かい設定なんか誰も覚えていないわよ!」

 アスカは読者の声をバックにして悠然と反り返ってみせた。ミサトにしてみれば面倒な説明などしないで、さっさとホームルームを終わりにしたかった。

 「あ、それもそうだけど疲れたから次話じゃ駄目?」

 「駄目よ!最近作者忙しいみたいじゃないの!一時は高速魔人なんて大家さんに言われていたけど今ではただの失速魔人だわ!今説明しなくていつするのよ?!」

 「分かったわよ・・・。ったく!作者の怠慢のツケをどうして私が支払わなければいけないのかしら・・・」

 ブツブツと作者に毒付きながら、渋々と教卓にもどるミサト。それでも怠慢の責任を年長者がとるだけまだ健全だったかもしれない。誰も来ない山奥にコンサートホールをつくったり、採算の見込みのない新幹線や道路を乱設して国家予算の何倍もの借金を累積させるどこかの政府よりは遙かにましであろう。

 「はい、じゃ、みんなよく聞いてね。出発は来週の月曜、日程は五泊六日の予定でのスキーです。最終日は自由行動になる予定よ。それから・・・」

 ミサトの投げやりな声が二年A組の教室に響きわたった。





 ミサトが第三新東京市で北海道へのスキー林間学校について説明を始めた頃、相田ケンスケは窮地に陥っていた。
 ”スキーで彼女をGETするぜ大作戦”という美意識の欠片も感じさせない計画を建てたケンスケは、学校を休んで北海道に来ていた。セカンドインパクトによる気象の激変で万年冬になってしまった北海道は、五月の終わりだというのに空気は身を切るように寒かった。
 ケンスケは雪中行軍の軍事訓練ツアーの経験から、アスカとともに2ーAでスキーができる数少ない人間である。スキーでいいところをみせて積年の願望を果たそうとしたケンスケは、念入りに下調べするために雪が舞い散る第二新千歳空港に降り立った。そこから電車で30分かけて札幌に入り、車に乗り換えて走ること1時間余り、一週間後に第一中が使用するスキー場が見えてくる。
 しかしスキー場の入り口でケンスケは立ち往生することになった。一ヶ月ほど前にこのスキー場を手に入れたネルフ・リゾートという会社が、シーズン中であるにも関わらず大規模な工事を始め立ち入りが禁止されていたのである。ケンスケはなんとか中にいれてもらおうと交渉したが、融通の利かなそうな厳つい警備員は首を横に振るばかりでまともに取り合おうとはしない。
 業を煮やしたケンスケは裏手に回り込むと密かに潜入しようとしたのだが、100mと歩かない内に黒一色のスキーウェアをきた体格の良い男達に囲まれスタンガンで気絶させられていた。
 目覚めた時ケンスケの視界に映っていたのはむきだしのコンクリートと不気味な鏡であった。十畳ほどの部屋である。天井は通常より高くケンスケの身長の三倍くらいはある。壁は頑丈そうなコンクリート、ドアは完全防備のチタン合金製で明かりは薄暗い。壁の一面は総鏡張りであり、その方面の知識も持っているケンスケはそれが防弾マジックミラーであることに気が付いた。
 拷問部屋
 現在では死滅してしまったかのような言葉が目の前にあった。ケンスケは二,三回拳を握ってみてしびれがとれていることを確認すると自分の身体を見回してみる。どこにも痛みはない。手も足も付いているし意識もはっきりしている。時計を取られてしまっているのでどのくらい時間が経っているのかは分からないが、とにかく身体を傷つけられたことはないようだ。
 軍用ブーツの感触に違和感を覚えたケンスケは右足をさすってみる。無い。いつも隠していたセラミックナイフが抜き取られていた。ベルトのバックルに化けている万能ツールも眼鏡に仕込んだ特殊な針金も取られている。
 ケンスケは半ば嬉しいそうに無機質な床に腰を下ろした。特殊繊維で織り込まれたアーミーパンツに包まれた身体からはコンクリートの冷たさは伝わってこなかったが、代わりに背筋に冷たいものが走った。冷たい汗に含まれているのは何も恐怖だけではない。劇画と想像の中だけにあったスリルが今目の前にある快感も含まれていた。
 死の恐怖はあまりない。自分を殺そうと思えばいつでもできたのに、生かしておくには何か理由があるのだろう。手際から見ても相手は超一流のプロ、錯乱して殺されるなんてことはない。ケンスケの家はさほど裕福でもないから金目当ての誘拐監禁という可能性も低い。ジャーナリストの父親が何かやらかした可能性もあるが、それならこんなところで捕まえる必要はないわけで、スキー場にある秘密を隠すために捕まえたというのが最も妥当な線である。
 少し落ち着いたケンスケが更に思考を進めようとしていると、部屋のライトが急に転倒した。光はかなりまぶしく、ケンスケは振り返りながらも手で目を覆った。

 「相田ケンスケ君、君には黙秘権はない。君には弁護士を呼ぶ権利もない。君には裁判をうける資格もない。君にはあらゆる選択の余地はない」

 身も蓋もない。ケンスケはここまで自分の意向を無視された言葉を聞いたのは初めての経験だった。声は変調機にかけられているのか不自然に重低音で、部屋に巧妙に隠されたスピーカーを通じてケンスケを圧迫してくる。

 「君には我々の要求に従ってもらう。断っておくが君に選択権はない。右の首筋を触ってみたまえ。小さな突起物が身体に埋め込まれているのがわかる」

 反射的にその言葉に従ったケンスケの指先には、言われたとおりの突起物が確認できた。といっても全く違和感はない。言われなければほくろくらいにしか思わないであろう。

 「それには小型の爆弾が仕掛けられている。君が我々の意にそぐわない行動をとったときにどうなるかは説明する必要もないだろう。言っておくが、それには特殊な感知センサーが仕込んである。無理にはずそうとすれば起爆装置が作動する。ああ、それから通常の爆弾感知器や金属探知器には全くかからないから安心したまえ」

 (安心できるかそんなこと!)

 ケンスケは内心そう叫んでいたが、実際の言葉にだすような愚は犯さなかった。男の言葉が正しければ妙な行動をとらない限り自分の身の安全は保障されるらしい。利用された後どうなるかは分からなかったが。

 「君への第一の要求は、君が校内で販売している碇ユイの写真の販売の即時かつ永続的な停止だ」

 それまでとは違う声で発せられた言葉にケンスケはズッこけた。何を言い出すのかと思ったらそんなこととは・・・。それでも何事も深読みしたがる性格のケンスケは途方もない想像を始めていた。自分はネルフのスキー場で捕まった。それなら相手は財団ネルフである可能性が非常に高い。ネルフは世界的な大財閥だが、色々と黒い噂も多い。シンジの母親、つまり碇ユイはその会長夫人。ケンスケが撮った写真の中に何か知られたくない秘密が隠されていたのかもしれない。

 「い、碇会長!最初の要求はそれではないでしょう?もう少しもっともらしいことを言わなければ・・・」

 「五月蠅いぞ!加持!ユイはワシだけのものだ!以前冬月にくれてやった写真だって実は合成だぞ。体の部分はナオコ君だ。それをあの餓鬼はこともあろうに売りさばこうなぞ、極刑に値する!」

 マジックミラーの向こうでスピーカーのスイッチを切った加持は、隣で興奮しているゲンドウをたしなめたが逆効果であったようだ。それでも加持はくだらない仕事を早く終わらせたいと思っていたので、やんわりとゲンドウを制した。

 「興奮なさらないで下さい。特別調査室の人間がすでに彼の家に潜入しています。彼が撮った写真とネガは全て回収できます」

 「ううむ、分かった。それからユイの分は全てワシに持ってこい!いいな!」

 ゲンドウは再び理不尽なことを言って加持に溜息をつかせると、尋問に飽きたのか様々な装置が備え付けられている部屋を出ていった。加持は伏し目がちにゲンドウを見送った後、ケンスケに自分たちの要求を話し始めた。馬鹿げたことであったが、加持はもっともらしくするために事実をかなり誇張して話した。それくらいは給料に含まれているだろう、加持はそう思っていたがやるせなさは募った。





 数時間後、再び眠らされたケンスケは札幌に予約したホテルの一室で目を覚ました。窓の外を見るとすでに漆黒の帳が出ており夜もかなり更けているようだ。月明かりに光る雪を眺めながらケンスケは満足げに呟いた。

 「やっと俺の出番だな・・・。くっくっく」

 怪しさ全開のケンスケは大声で笑い出すと眼鏡を光らせた。ゲンドウと加持の要求はケンスケに何をもたらすのか?そしてケンスケの行動はシンジ達にどんな影響を及ぼすのか?引っ張りに引っ張って遅れに遅れた林間学校はもうすぐであった。



NEXT
ver.-1.00 1997-07/30 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などは meguru@knight.avexnet.or.jpまで。

 かなりお待たせしましたProject Eの最新話です。ジオフロント創世記のシリアスにはまってしまってこちらが書けなくなってしまいました。最速メールも多く来たんですが、なかなか筆が進まなくて・・・。
 作者も皆さんも話の内容を完全に忘れているかもしれませんが、前のを見直してみて下さいね。説明を入れるとくどくなってしまうので・・・。Project Eはこの後連続で書いて二週間以内に完結する予定です。最近は忙しくてすっかり更新が遅れてしまい失速魔人となってしましたが少しだけペースアップしますので見捨てないで下さい・・・。
 ではまた


 MRGURUさんの『Project E』第十五話、公開です。
 

 選択権がない。
 嫉妬の目が痛い。
 恥ずかしい思いをする。

 

 ・・・別にいいじゃないかぁぁぁ
 アスカとレイという、少々中身に問題があるとはいえの、超美少女に好かれているんだから(^^)

 その中身にしても、自分に寄せる思いの強さゆえなんて・・・
 な、なんて恵まれて環境なんだ・・・

 

 ケンスケが大きく話の流れに絡みそうだけど−−−
 ま、どうって事無いでしょ。ケンスケだもん(笑)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 ラスト向けて走り出したMEGURUさんに応援のメールを!


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