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Project E

第九話

「私は永遠に20代」


 「鈴原トウジ君、君には失望した」

 朝の張りつめた空気の中、冷酷な声が教室に響きわたった。

 「な、なんでや!ワイが何をしたっちゅうねん?!」

 数人の男子生徒に手足を押さえつけられたトウジは、全身の力を使ってふりほどこうとする。普段のトウジなら可能だったかもしれないが、右肩を部活の練習試合の際に負傷し、厳重にテーピイングが施されている体では無理というものだった。
 その傷が先ほどまでの彼を天国に、これからは地獄に導こうとしている。味方になりそうな洞木ヒカリは職員室に呼ばれており、碇シンジはまだ登校していない。綾波レイはいることはいたが、無視を決め込んでいる。

 「ケ、ケンスケどないしたんや?!わぁー!机に肘を突くな!指を組むな!顎を乗せるな!眼鏡光らすな!」

 トウジの絶叫をまるで意に介していないかのように、相田ケンスケは眉1つ動かさずに短く冷たい宣告を下した。

 「やれ」

 その声に周りの男子生徒が反応する。
 トウジの鞄のチャックを開け、中身を捜索し始める。トウジの鞄の中に教科書はない。宿題が出たとしても全部学校に置いて帰っているからだ。バスケットシューズやジャージの代えにまじって、トウジの所有物とはおよそ似つかわしくない花柄でピンクの袋があった。

 「これだ!」

 中身は弁当箱であった。いつもは学食の購買部で昼御飯を買うトウジには珍しい。

 「トウジ、仲間内で隠し事とは感心できないね。幸せはみんなで分け合うものだと思わないかね?」

 トウジが答える間もなく、ケンスケ達は行動に移った。素早く蓋を開けると、代わる代わるトウジを押さえつけながら、あっと言う間に弁当箱の中身を口に入れる。全てが終わった後でトウジは中身の無くなった弁当箱を見つめて、ただ泣いていた。

  「や、山城先輩の弁当が・・・」


 時間を遡ること30分ほど前、先週の週番の影響が抜けていないのかトウジは始業開始時間よりかなり早く登校していた。時間を持て余した彼は、何となく第2体育館に足を向ける。
 無人に思われた体育館に、ボールの弾む音がした。覗いてみるとショートカットの髪の少女がシューティング練習に打ち込んでいる。トウジは入り口近くで、しばらくその姿に見とれていたが、やがて少女はトウジに気がついた。

 「あら、鈴原君どうしたの?」

 「い、いあや別にこれっちゅう用があるわけないんですけど・・・」

 シュートを打っていた少女・山城ユリカの視界に、トウジの肩の包帯が目に入る。

 「怪我大丈夫?ごめんね私のために・・・・」

 「い、いやワイがちょっとトロかっただけです。それに女の人を守るのは男の義務ですから・・・」

 赤くなりながらそう答えるトウジに、ユリカはすまなそうな視線を投げかける。

 「あ、そうだ。ちょっと待っててね」

 そう言うとユリカは更衣室に入り、ピンクの袋を手に戻ってきた。

 「お詫びにね、お弁当作って持ってきたんだけど受け取ってもらえるかな?・・・」

 トウジは意外な展開にキョトンとしてしまった。全校生徒の憧れの的・山城ユリカお手製の弁当が食べられるなんて・・・。

 「あ、ごめん。迷惑だったかな?」

 「そ、そんなことないです!!ほんまにありがとうございます!」

 何度も頭を下げながら受け取ったトウジの顔は幸福感に満ちあふれていた。その弁当は彼の口に入ることもなく消えていくことも知らずに・・・。


 その頃2年生ではある噂が校内を駆けめぐっていた。当初その噂は「腕を組んで歩いていた」ということだった。しかしその後「抱き合ってKissをしていた」になり、最終的には「ホテルから出てくるところを見た」にまで成長していた。
 噂の主はもちろん碇シンジと惣流アスカ・ラングレーである。
 以前からなにかと噂のあった2人である。一度火がつくと加速度的に広まってしまった。通常この手の工作に関わっている相田ケンスケだが、今日のこの件には珍しく関わっていなかった。

 (シンジと惣流の噂か・・・。発生源はB組、とすると三笠ヨウコあたりか。まあこの2人は以前から噂になっていたしな。一度本格的に火がつけば、潜在意識にのってエスカレートするのも速いということか。まあいい。惣流はどうせシンジにしか手に負えないし、つきあいも長いからな。それよりカスミちゃんのこの写真!!これが問題だ。ああどうしよう?!)

 ケンスケが悩んでいるのは昨日入手した暁カスミの私服姿の写真である。可憐な姿がよくでているケンスケ入魂の作品だ。闇マーケットに出せば、飛ぶように売れるにちがいない。
 しかし自分の好きな人は、自分だけのものにしてしまいたい!商業的利益をとるか精神的満足度を得るか、ケンスケの苦悩は続いた。




 「ちょっとシンジ早くしなさいよ!遅刻ギリギリよ!」

 「待ってよ、アスカ!」

 すでに年中行事とかしたやり取りをしながら、シンジとアスカは廊下を疾走していた。2人の姿にいぶかしげな視線がいくつも注がれているが、前しか見ていない2人は気づかない。
 シンジとアスカが自分たちが凝視されているのに気がつくのは、チャイムの鳴る間際に教室に入ってからである。入室した途端、ほとんどクラス全員の視線を感じ取った2人はたじろいでしまった。

 「ヒ、ヒカリなんかあったの?」

 いつものように朝のホームルームの準備にをしていたヒカリにアスカが声をかける。

 「ふ、2人とも、ふ、不潔よ!」

 顔を真っ赤にしたヒカリは、それだけ言うと無言でプリントを配り始める。チャイムが鳴ったため、シンジとアスカは席に着いたが、なんとなく居心地が悪かった。

 「みんな、おっはよう!」

 休日明けだというのに、珍しく時間どうりにやって来たミサトは、今日も陽気だった。ミサトはクラスに流れる不穏な空気に気づくが、噂に敏感な彼女には原因が誰にあるかすでに見当がついていた。

 「アスカ、ショートホームルームが終わったらチョッチ職員室まできてね」

 ミサトの発言は火に油を注いだも同然だった。
 やっぱりあの噂は本当だったのか、ホテルで補導でもされたのか、産婦人科で問題を起こしたのだという話がヒソシソと行われている。いつもならざわついた雰囲気を叱るヒカリも、親友がしでかした(ヒカリはそう思いこんでいる)ことだけに何も言えないでいた。ただ1人綾波レイだけが、他の思考をしているようであった。

 (シンちゃんとアスカの噂本当なのかしら?!もしそうだったら一大事だわ!これはお父様に調査を頼まないと・・・。あ、でも主人公が最初からリードしているドラマなんて演出不足よね!やっぱり障害があってこそ、愛は盛り上がるというもの。シンちゃんもきっと私との愛を盛り上げるために、こんな噂を立てたのだわ・・・。ああ、きっとそうに違いないわ!!)




 「ちょっとミサト、こんなところに連れ込んでどういうつもり?」

 ミサトがアスカといるのは、職員室の一角に設けられた進路指導室と呼ばれる小部屋である。入り口には鍵がついていて、防音もきちんとなされている部屋だ。
 生徒個人のプライバシーに関わることを話すところなので、というのがその理由である。それほど他人に聞かれてはまずい話をするのか?ミサト!

 「アスカ!一応学校なんだからさ、ミサト先生って呼んでくれない?」

 「ふん、そういうことは教師らしいことをしてから言うのね!」

 アスカはいつもながら強気だったが、ミサトは余裕を崩さなかった。

 「ふーーん、やっぱり大人の仲間入りをすると発言も強気ねぇ・・・」

 「ちょっと、それどういう意味?」

 ミサトは思わせぶりに足を組み直した。

 「いやね、昨日はシンジ君とお楽しみだったそうじゃない。学校中で噂になっているわよ。ホテルから出てきたなんていう目撃証言まであるわ」

 「ホ、ホテルなんて!アタシとシンジは、まだそこまで行ってないわよ!!」

 「まだね・・・まだってことは?」

 アスカは珍しく墓穴を掘った。
 顔を真っ赤にして下を向き、今朝のクラスの視線の意味を理解した。アスカが自分のシナリオ通りに沈没したので、ミサトは完全に調子に乗ってしまった。

 「そういえば、アスカ、私がいない間に結構好き勝手に言ってくれるわね?特に第七話での三十路女ってどういうこと?!私はリツコと違ってまだ20代よ!」

 「お、同じ様なもんじゃない・・・。どうせもうすぐ30でしょ?」

 「何言ってるのよ!サザエさんの法則を知らないの?アニメキャラは歳を取らないのよ!!私は永遠に20代のままよ!それに作者の都合や回想シーンで若返ったりもするんだから。”ネルフ誕生”であのリツコでさえ高校生やってたじゃない?!」

 「でもあの金髪眉黒女の制服姿見た?あんな老けた高校生、今時いるわけないでしょ!どうみたってあれはコスプレよ!いや、コスプレというより犯罪に近いわ!偽証罪か猥褻物陳列罪で捕まらなかったのが不思議なくらいよ!」

 「それは認めるけどね、でも・・・」

 その時ミサトは背筋に悪寒が走った。自分の後ろから発せられる絶対零度のオーラ。振り返るといつのまにか赤木リツコが背後霊のように立っていた。

 「2人とも・・・・、覚悟はいいわね?」

 「リ、リツコ!誤解よ!ものは言い様ってことで、アンタもそれ以上歳とらないってことにもなるし」

 ミサトは一応フォローしたちもりだったが、リツコの冷徹な表情はさらに温度を下げているようだった。

 「20代と30代の間には決して乗り越えることのできないジェリコの壁が存在するのよ。でもミサト、あなたはもう年齢の心配をする必要はないわ・・・」

 その瞬間ミサトとアスカは死を覚悟した。




 この日の3時間目、第一中の体育館は喧噪に包まれていた。
 林間学校の説明会のため二年生全クラスが集められていたからである。別に教室に備え付けられている大型立体ビジョンを使えば、そんな必要はないのだが、何事も全体行動を好むのは日本人の習性らしい。体育館には二年生の4クラスが並び、担任と学級委員が資料の配付を始めている。
 A組は葛城ミサトが体調を崩したので副担任の赤木リツコが代わりを務めている。なぜA組の担任がいないのかは、ミサトをスケープゴートにして逃げ出してきたアスカだけが知っていた。アスカは恐怖のあまり、それを口にすることは決してなかったが。

 「葛城先生どうしたんですか?先輩」

 「知らない方がいいこともあるのよ、マヤ」

 リツコの氷のような言葉に、他の3人の担任は息をのんだ。シゲルはリツコを避けるようにしながら、マヤに小声で話しかけた。

 「マ、マヤちゃん、葛城先生なにかあったのかな?」

 「い、いえ私は知りませんよ、青葉先生・・・」

 シゲルの隣にいた眼鏡をかけた若い男は口を開けて何かいったが、文章化されなかった。

 「え、おまえも葛城先生のことが心配だって?ん?それになぜ自分だけセリフが与えられないって?それはな、マコ・・・」

 「だめよ、青葉先生。日向さんは名前で呼ばれることもセリフを言うことも禁止されているんですよ」

 「でもマヤちゃん、なぜコイツは出番が与えられないんだい?」

 「それはね、脇役のくせに葛城さんに手を出そうとしたかららしいわ。私たちも気を付けないと。出過ぎた行動をとれば、日向先生のように存在を抹消されてしまうかもしれないわ・・・・」

 脇役の悲哀はなおも続いていた。


 一方ミサトを犠牲にして死地から生還したアスカは、ご機嫌斜めだった。整列は背の順で並べられているため、シンジは少し前目、アスカは後ろの方で離ればなれになってしまっているからだ。
 それだけならまだ許せるがシンジの左隣に綾波レイ、右隣に暁カスミがいることはアスカの許容範囲を越える出来事だった。男女が交互に並んでいるので仕方のないことではあるが、アスカの繊細な神経には関係のないことだった。しかもその2人は、あろうことか親しげにシンジに話しかけている。

 (ちょっとそこの2人シンジから離れなさいよ!!何ベタベタしてんのよ!それに今更何をやっても無駄よ!アタシとシンジは・・・)

 そこまで考えたアスカは急に恥ずかしくなってきた。自分の唇を触ると顔を伏せる。なんだかこの体育館にいる人みんなが、自分を見ているような気さえしてくる。周りをチラチラと眺めながら、アスカは昨日の高台でもシーンを回想していた。更に顔を紅潮させながら、アスカは幸福感に浸っていた。

 一方綾波レイは焦っていた。前の時間からシンジと体育館で話をするのを楽しみにしていたのに、思わぬ邪魔が入っていた。

 「ベルリン・フィルハーモニーはどうだったの?シンジ君」

 「すごくよかったよ。特にオーボエとフルートは良かったから暁さんも行って来たらどうかな?」

 「うん、行きたいんだけどね。A席で5000円もするでしょ。今月ちょっと無駄遣いしちゃったの・・・」

 「あ、それなら僕が券をあげるよ」

 「わ、悪いわそんなの」

 「いや、どうせ父さんが会社でもらってきたものなんだ。まだ2枚残ってるけど、このままじゃ宝の持ち腐れだし・・・。暁さんのように音楽が分かる人に使ってもらえた方が券も喜ぶと思うよ」

 「で、でも・・・」

 「いいから、ね?明日、音楽教室に行く時もっていくからね」

 「う、うん・・・。ありがとう・・・」

 透明感があって屈託のない微笑を浮かべるシンジとすこし顔を赤らめながらも嬉しそうなカスミ。端から見ていると仲の良い恋人のように見える。

 (シンジ君ですって!この女、シンちゃんを名前で呼んでいるの?!アスカとは腐れ縁だからしょうがないとして、何で作者が勝手に作ったオリジナルキャラがこんなに親しげに話しているの?!全く最近の若い者ときたらヒロインに対する礼儀というものを知らないわね!!)

 そしてシンジとカスミが仲良く会話しているのを苦々しく思っていたのは、綾波レイだけではなかった。シンジのすぐ後ろにいたムッツリ・メガネ・オタク(レイ談)こと、相田ケンスケも怪しく目を光らせていた。

 (シンジ!!おまえは昨日惣流といちゃついておいて、今日はカスミちゃんを毒牙にかけようとしているのか?!公園での写真を公表しないでいた恩を忘れたか?!!”シンジは知るわけないだろう”許せん、絶対に許せん!!・・・いつか刺す・・・、必ずだ!!)

 「うん、じゃあ、シンジ君の好意に甘えることにするね。あ、それなら今度何かの機会にお返しするね」

 「い、いいよ、そんなこと・・・別に気にしないでよ」

 「で、でもそんなの悪いわよ・・・それとも・・・」

 カスミはそこでいったん言葉を区切るとシンジの耳元に口を寄せ、誰にも聞こえないように囁いた。

 「私が何かしたら迷惑かな?・・・」

 かなり照れながら、しかし顔に似合わず大胆に言ってのけたカスミの一言に、シンジは驚いてしまった。お子様なシンジはわからなかったが、半分告白しているようなカスミのセリフである。

 「あ、いや、そんなことないけど・・・。今部活とかで結構忙しいし・・・。本当に気にしなくていいよ」

 気にするなと言われれば逆に気にしてしまうのが人の常。無意識の内に女性を誘惑するのは誰に似たのか、碇シンジ?それにまんまと釣られる暁カスミ。

 「あ、そう言えばもうすぐシンジ君のお誕生日だったよね?その時にお礼するね。いつだったっけ?」

 シンジにそう尋ねたものの、実はカスミはシンジの誕生日を知っていた。それでも訊いてしまうのが乙女心というものである。

 「あ、ありがとう。6月6日で実は林間学校の最終日なんだよ」

 「あ、そうなんだ」

 その時、伊吹マヤが台にあがって林間学校の詳しい説明を始めた。2人は話も一区切りついていたので、アスカがそばにいたら激怒しそううな会話を止めて壇上のマヤの話を聞き始めた。

 (シンジ・・・殺す・・・)

 (この女・・・殺す・・・)
 

 怒りの炎を心に秘めたレイとケンスケの行動が何をもたらすのか?この時知っているものは誰もいなかった。




 その晩


 「あ、お父様?私、レイです。ちょっと頼みたいことがあるんだけど・・・」

 しばらく話した後、電話を切ったレイの表情は不気味に笑っていた。



第十話へ
ver.-1.10 1997-11/15 リニューアル
ver.-1.00 1997-06/04 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などはmeguru@knight.avexnet.or.jpまで。

 Project E第九話をお届けします。ますます暴走するレイ。彼女を止めることはもう作者である僕にもできません。活躍の気配を見せる暁カスミと、ついに登場する綾波レイの父親。ちなみにレイの父親はオリジナルキャラでは有りません。一体誰なのでしょうか?予想がついた方はメールくださいね。では

 MRGURUさんの連載、『Project E』第九話公開です!
 

 なんだかもてまくりシンジに腹立つなぁ(笑)
 アスカはいいんですよ、私はシンジxアスカが好きだから。
 レイもまあ、許せる。
 でも、他の女にまで!
 ケンスケに共感してしまったなんて・・・・恥ずかしい(^^;
 

 レイの父親・・・

 未登場キャラから言えば冬月かな?
 キールも面白いし・・・・
 マイナーどころで
 [浅間山の温泉にペンペンを運んできた宅配便の男]とか
 [本編第一話でやたらとがなって浮いていた軍人]とか、
 [「技術局第3課の意地に賭けて−−」と言っていたエンジニア]とか、
 ま、まさか、
 [SHEEL03]なんていうのかも・・・・
 

 訪問者の皆さん。
 「レイのオヤジは誰だ!」に貴方の予想を!
 正解者には MEGURU さんから金一封!! ・・・嘘です。(^^;

 代わりに私から自転車置き場の無期限駐輪権を1名様に送ります(マジ)


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