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Project E

第三話

「ふっふっふ」



 「林間学校??」

 「朝、ミサトセンセが言ってたやんけ。なんや聞いとらんかったんか?シンジ?」

 今朝のことにあまり深入りするとアスカが爆発してしまうと思ったケンスケは、朝のことを無視したようにこう続けた。

 「北海道でスキーだろ。楽しみだな・・」

 15年前の巨大隕石の落下事件、通称セカンド・インパクトは日本の四季を一変させていた。第三新東京市のある関東地方は年中夏、気流の影響で雪雲と寒冷前線が集中するようになった北海道は一年の四分の三が冬になってしまっていた。
 自然の雄大な復元力は徐々にそれらを正常に戻しつつあったが、15年という短いタームで完全にもとに戻ることは不可能だった。

 「スキーか・・・僕はしたことないからよくわからないや・・・トウジはやったことあるの?スキー?」

 「そんなんあるわけないやろ。ワイは雪っちゅうもんすらみたことないわ。」

 「ふん、アンタ達やっぱりお子さまね。スキーもしたことないなんて!!」

 空腹感から脱したためか普段の自分を取り戻しつつあったアスカは自慢げに言った。

 「アスカはスキーしたことあるの?」

 幼稚園の頃から一緒にいるのに、アスカがスキーをしている姿を見たことのないシンジはビックリしてそう聞いた。

 「ドイツには四季がちゃんとあるのよ。ドイツにいるママのところに行った時に何度かやったことがあるわ。シンジにはアタシが特別に厳しく教えてあげるからね。覚悟しときなさいよ!!」

 その時シンジの脳裏には思い出したくない数々の記憶が浮かんできた。アスカに泳ぎ方を教えてもらった時。アスカは
 「人間なんて力抜けば浮くようにできてるのよ!ほら水死体だって最後には浮いてるでしょ!」
 と身も蓋もないことを言って、シンジを床に足が届かない2mプールに放り込んだこと。
 アスカに自転車の乗り方を教えてもらった時、
 「自転車なんてトロトロ乗ってるから安定しないのよ!!」
 と言って坂の上から自転車にまたがったシンジを突き落としたこと。
 アスカの教え方はいつも「習うより慣れろ」で、その上かなり強引だった。今度もああなるのかと思うとシンジは青くなった。

 「スキーかぁ・・・。アスカ私にも教えてね。」

 ヒカリのなにげない発言にたいしてシンジは
 (そんなことは言わない方が・・!!)
 と思ったがすでに手を遅れだった。アスカはヒカリの肩を叩きながらうなずいている。不幸はみんなで共有した方がいいのか?それともはたから見ているからこそ楽しいのか?どちらにせよシンジにはそれから逃れることはできそうになかったが。

 「でもスキーやったことあるの、惣流くらいちゃう?あとの連中は実際に雪見たこともないと思うで?」

 「っふっふっふ・・・」

 ケンスケはメガネをキラリと光らし、不気味に笑った。

 「ケ、ケンスケ・・どないしたんや?・・・」

 「雪中行軍は軍人としての必須科目だよ。僕がスキーくらいできないと思ったのかい・・・トウジ・・・」
 ケンスケはそう言いながら音のない笑いを漏らした。ケンスケのメガネが謎に光を放っている。妖しいとしか形容できないオーラを放出しながらケンスケは完全にトリップしていた。
 (うおーー!!この前軍事体験ツアーで寒いのを我慢して”雪中行軍・八甲田山再び!”を受講しておいて良かった!!スキーができるのはこのクラスでは俺と惣流くらいだろう・・・。隠れた特技を見せつければ「相田君て実はたのもしかったのね・・・・」とかなんとかいっちゃって・・・やっと俺にも春が来るな・・・長い冬だった。”スキーで彼女をゲットするぜ大作戦”発動だ!!)
 そんな中1人だけ冷めた表情で食事をとっていたのが綾波レイである。

 (全くどうにかならないかしら?このむっつりメガネオタク・・・。妖しいオーラだして場を支配しちゃってさ・・。おかげでシンちゃんと話ができないじゃない!でもアスカだけスキーができるっていうのは問題よね・・・。どうにかしなくっちゃ・・・)
 アプフェル・シュトゥルーデル、つまりウィーン風アップルパイを無造作に口に入れながら、綾波レイは思考の海へと身を沈めた。




 「ええっと、それでは洞木さん。プリント配ってね」

 昼休みの後、五時間目のロングホームルームのはじめに葛城ミサトはそう言った。相変わらず雑用は何もしない。教卓の横の椅子に座って、タイトなミニスカートから露出している悩ましげに足を組んでいるだけである。
 今朝シンジにスカートの中身を見られたことは微塵も気にしていないのか、それとも気にするような羞恥心を生来持ち合わせていないのか・・・。おそらく後者であることはミサトを知る者共通の認識であろう。

 「ええっと初日は飛行機で移動して・・・二日目からスキーかぁ・・・三、四、五とあって六日目に帰るから・・・丸々四日も滑ったら、ちゃんと滑れるようになるかな?アスカ?」

 「そ、そうね四日もあったらいくらのろまなシンジでも滑れるようになると思うわ。」

 アスカは肩をビクッとさせるとあわててそう言った。悪態はついているものの迫力はいつもの半分以下である。

 (四日間シンジとつきっきりでスキーかぁ・・・。少しは進展するかな?でもシンジ見るからに奥手だから私から仕掛けなきゃダメかな?とにかくこの林間学校が勝負よ!!アスカ、行くわよ)
 一方レイは顔を少し赤らめながら机の下で拳を握っていたアスカをじっと観察していた。
 (怪しいわね・・・アスカのあの態度は・・・。なにか決心したような感じだわ・・・。これはそろそろ本気で行かないとシンちゃんとられちゃう・・・。あまり乗り気じゃなかったけど、あの話受けちゃおうかな・・・)

 アスカとレイが水面下で密かなつばぜり合いを繰り広げていた頃、今世界で最も怪しい男、相田ケンスケの脳細胞はかつてないほど活発に活動していた。
 (ふむ・・・五泊六日か・・・。時間はあるようでないな・・・、でもカテゴリーAのメンバー全員にアタックをかける時間はあるな。しかしカテゴリーSの写真はいい値がつくからな・・・。ましてや一回しかない林間学校の写真はプレミアもの!数を限定して質のいいものを提供できれば、バブル状態になって相当な高値を呼ぶことは間違いない!経済的な要素と心理的な満足度のどちらを優先させるべきか?いや、なんとか両立させなければ・・・。これは綿密な行動計画と下調べが必要だな・・・。


 <カテゴリー>とは?

 これは第一中のきっての情報屋である相田ケンスケの手による女性のランクづけである。容姿・スタイル・人気・写真の売り上げなどの詳しいデータをもとに厳密な審査が行われ、上からS、A、B、Cの四つのカテゴリーが存在する。
 もちろんその内容は極秘であり、詳細を知っているのはケンスケ一人である。ちなみに最上位のカテゴリーSに分類されているのは全校でわずかに五人。
 まず一人目は三年生随一の美少女にして女子バスケ部の華、山城ユリカである。明朗快活で優しい性格、スポーツ万能、部長を務めているだけあって同性の人望もある正統派であり、学年を問わない幅広い支持層を持っている。
 二人目は隣の二年B組にいる暁カスミ。ひかえめな性格でクラシック鑑賞が趣味、吹奏楽部に所属。社長令嬢でもあり、お嬢様系が好みの男の心をとらえて離さない。
 そして惣流アスカ・ラングレーと綾波レイ。アスカはそのハッキリとした言動と日本人離れした容姿で女王様系?とハーフ系の支持を集めており、自称可憐で清楚な薄倖の美少女、綾波レイは、一部の神秘系の絶対的な支持を獲得していた。
 最後にトリを務めるのは心はオヤジ、身体はフェロモン全開の二年A組担任・葛城ミサト。五人のなかで最もきわどいショットを提供してくれるミサトは、売り上げNO1になることもしばしばあった。ところでカテゴリーSに一年生が含まれていないのは、まだ入ってきたばかりで、調査が不十分であるためである。
 そしてカテゴリーSに次ぐカテゴリーAに格付けされているのは総勢一五名。
 この中には出番の少なさを反映してかミサトに遅れをとった保健教諭の赤木リツコ、最近赤丸急上昇の二年B組担任の伊吹マヤ、授業参観の時にシンジの姉とまで勘違いされた若作りの帝王、碇ユイも含まれている。
 写真が売買されるのはここまでであり、カテゴリーBは普通の人々、(洞木ヒカリはカテゴリーBの上位と評価されている)カテゴリーCはそれ以外・・・という分類になっている。
 ちなみにリツコに用事があって偶然学校を訪れた人工進化研究所所長・赤木ナオコは、その化粧の濃さから半径2m以内の人間を失神させたので、カテゴリーCにランクされていることはケンスケだけが知っている・・・。




 「それでは、今日はここまで。明日の臨時ホームルームで班や飛行機の座席を決めたりするからね。それと今日渡したプリントをよく読んでおくようにね」

 それまでの前振りを全てヒカリに押しつけておきながら、ちゃっかり最後は自分がしめる無責任教師・葛城ミサトが、そう言うと放課後を告げる鐘の音が学校中に響きわたった。

 「シンジ、さっさと部活にいこか?」

 同じバスケ部に所属しているトウジからそう声をかけられたシンジは自分の荷物をまとめながら答えた。

 「あ、うん。でもアスカにちょっと聞かなければいけないことがあるんでちょっと待っててよ」

 第一中では部活動は原則必修ではない。
 しかし「所属することが大変好ましい」といった半ば強制とも受け取れる通達がでており、ほとんどの生徒がなんらかのクラブに所属していた。
 入学当初シンジは幼い頃から習っていたチェロを生かして音楽系の部を探していたのだが、第一中にある唯一の音楽系の部は吹奏楽部。つまり弦楽器であるチェロはお呼びではなかった。そこを知り合ったばかりのトウジに捕まり、自分の意志とは無関係にバスケ部に入部させられたのである。
 ちなみにケンスケは写真部、アスカとヒカリは弓道部に入っている。最初アスカは
 「クラブ活動なんて子供みたいなこと、やってられないわ!」
 と言ってどこにも所属していなかったのだが、「その運動神経をいかして是非我が部に!」「いやその美貌はうちの部のマネージャーがピッタリ!!」などという激しい勧誘合戦に辟易したのか、しばらくしてからヒカリにつきあって弓道部に入部した。ちなみにヒカリがなぜ弓道部に入ったのかはアスカだけが知っている。

 「なんや、ついに惣流に愛の告白でもするんか?」

 「ち、ちがう(わ)よ!!」

 ちなみに心の中でユニゾンしていたのは、アスカではなくシンジの隣の席の綾波レイである。
 シンジはトウジの冷やかしに真っ赤な顔で答えるとアスカの席に歩み寄った。

 「ねぇアスカ、今日の夕飯なにがいい?今晩母さんが少し遅くなるから僕が作るんだ。」

 ロングホームルームが終わっても考え込むようにじっと座っていたアスカは、シンジの言葉を聞くと停止していた時間が動き出したかのように帰り支度を始めた。

 「あ、ゆ、夕飯ね。なんでもいいわ。・・・・あっでもなんか簡単に食べれるものがいいわね。」

 アスカの脳細胞は猛スピードで疾駆する機関車の車輪のごとく回転していた。

 (明日のホームルーム・・・。林間学校の班・席決めの日。あ、あと22時間ほどしかないわ!あまり時間がないわね・・・。急がなくちゃ!!)

 アスカの意外な返答にシンジは少し驚いた。以前時間的余裕がなかったため、手軽なものを作ったら
 「アンタ!この手抜き料理はなに!!もっとちゃんとしたもの作りなさいよ!!」
 と怒鳴られたことがあるからだ。キョトンとしているシンジを後目に帰り支度をすませたアスカは、ヒカリにこう言うと急いだ様子で教室を出ていった。

 「あ、ヒカリ。今日ちょっと用事があるの。部長には体調がよくないといっといて。」

 その姿を不思議そうに見送ったヒカリはシンジに聞く。

 「碇君、アスカの用事って何か知ってる?」

 「い、いや知らないよ。アスカ何も言ってなかったし・・・」

 (アスカやっぱり何かたくたんでるわね・・・・でもまあいっか、鬼の居ぬ間になんとやらってかんじよね・・・・)
 そう思いながらアスカの様子を眺めていたレイはなるべくさりげなく立ち上がって、今日一日考えていた計画を実行に移した。

 「・・・・碇君・・・」

 「碇君ってば・・・・」

 アスカの後ろ姿を見てボーっとしていたシンジはようやくレイに気がついた。

 「あ、綾波?なんか用?」
 アスカのことを気にかけたシンジに、レイは内心ハンカチを噛んでいたが、外見はクールなままだった。

 「この前バスケ部の人にマネジャーにならないかって勧誘されたから、見学してみようと思って・・・。碇君バスケ部だったわよね?」

 「あ、そうだね。うん、じゃあ一緒に体育館行こう。おーーいトウジー、部活行こうよ」

 シンジとレイは待ちくたびれたようにあくびをかいているトウジのほうに歩いていき、三人一緒に教室をでていった。ヒカリはその様子を複雑な視線で見つめると、自分も荷物を片づけ始めた。




 「・・・以上がE計画の進行状況です。何かご質問は?」

 黄昏のように照明が落とされた薄暗い部屋に加持リョウジの声が響いた。かなり広さのある部屋なのだが、二つのデスク以外何も置かれていない空虚な空間と圧迫感を与えるような部屋の暗さは、加持の声を実際の音量以上に大きくしていた。
 手を口の前で組んで両肘をデスクの上に乗せ、一言も発せず報告を聞いていた男、碇ゲンドウは唐突に座っていた椅子を180度回転させ加持に背中を向けた。

 「ケース7が起こるようだな・・・」

 「はい。28日後に予定されています。」

 それを聞いたゲンドウはメガネを中指で軽くあげるとニタリと笑ったが、ゲンドウの背中しか視界に入っていない加持にはもちろん見えない。

 「作戦の詳しい状況は?」

 「ただいま第一次着工分の64%が完成しています。78時間以内に100%になる予定です。完成後36時間以内に第一回のテストを実施します。その後第二次着工にはいります。最終的な完成は22日後になる予定ですが・・・よろしいですか?」

 「異論はない。存分にやりたまえ。」

 椅子をさらに90度回転させ横顔だけ加持に見せたゲンドウは、そう言うとおもむろに手を振り、加持に退出を促す。一礼して歩き出した加持にゲンドウが声をかける。

 「それからケース17の検討にはいりたまえ。」

 「・・・彼の実戦投入はまだ時期尚早では・・・ゼーレの動向も気になりますし・・・。不確定要素も多すぎます。」

 そこまで言って加持は頭を下げる。

 「すみません。出過ぎた発言でした・・・。」

 それでも加持は頭を下げておきながら上目使いにゲンドウの様子を窺っていた。ゲンドウはそんな加持の胸の内を知ってか知らずか無機質に返した。

 「かまわん・・・。時計の針を戻すことはできなくても自ら進めることはできる。」

 全く表情を見せずそう言ったゲンドウの発言内容を完全に理解する事は、加持の鋭利な頭脳をもってしても不可能だった。


同時刻 ネルフ地下8階


 精神安定剤をうたれてベットに固定され、窓もなく鉄格子付きの扉に閉ざされた部屋に閉じこめられた冬月コウゾウは、こう呟いた。
 

 「・・・・碇・・・・」

 「・・・やはりアスカちゃんのマネをした時、腰に当てた腕の角度が気いらなかったのか・・・・・」

 冬月の独白に答えられる者はもちろんいなかった。



第四話へ
ver.-1.10 1997-05/20 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などは meguru@knight.avexnet.or.jpまで。

 MRGURUさんの連載小説『 Project E 』第三話、公開です!

 2年A組にはエヴァ操縦適格者、つまり「変な奴」が集まっているんですね。

 ケンスケの電波な妄想計画が・・・・・怖いです(^^;;;;;
 それに対するレイちゃんの心中でのツッコミ・・・・私のレイちゃんイメージが崩れていきます (;;)

 様々な思惑を秘めた林間学校がどうなるのか楽しみですね。(^^)/
 

 [E計画]、[ゼーレ] ネルフでは何が進行しているのでしょうか?
 冬月・・・私の中の冬月が崩れていく・・・(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん!
 伏線張りまくりの MEGURU さんに「大丈夫か?」のメールを(笑)


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