【はじめに】
この物語は拙作「私立第三新東京幼稚園 A.D.2007」(全二十四話完結)の世界をベースに書かれています.
「TV本編のEVA世界」はもちろんのこと「学園EVA」からもかなり離れてしまった世界ですので(笑)できれば拙作の「幼稚園」正伝を先にご覧になることを推奨しますが,もし正伝を読むのが「面倒」でしたら幼いシンジ・アスカ・レイの三人が子供としてそれぞれそれなりに幸せに過ごしている世界ということだけでも頭に置いてこの物語をご覧ください.
【綾波家の一日】
−A.D.2008年3月末日−
学校では卒業式や終業式も終わって入学式・新学期を控えた春休みのある日曜の朝,第三新東京市のとある家庭でこの時期としては季節外れとなっていたこたつを親子3人で囲んでいた.若い夫婦と小学校入学を控えた娘の親子3人,母親はこたつの台の上にあるざるに載せられた伊予かんを一つ手に取り皮を剥いていた.父親の方はこたつからおよそ1メートル半離れて設置された21インチ型テレビ画面の方にじっと視線を向けている.黒髪黒目の両親とは異なった特徴の空色のおかっぱ髪に赤い瞳を持つ娘もまた父親に倣ってテレビ画面を見つめていた.
娘の名前は綾波レイ,母メグミ・父マサツグと一緒にここ第三新東京市に移り住んで11ヶ月になろうとしている.レイとマサツグはこれから始まるTV番組に胸を躍らせていた.
その21インチ型テレビのチャンネルは「朝陽テレビ」に合わせられていた.
エバン(Evan) エバン(Evan) 人は誰でも♪
エバン(Evan) エバン(Evan) 一つの輝き♪
機動刑事エバン♪
午前9時30分,CMから画面が切り替わって逆光の中,“一本角の鬼”のシルエットが浮かび上がる.紫の装甲の戦士エバン1号である.それから特撮物独特のノリのオープニングテーマが流れ出す.紫の1号,青の0号,赤の2号,黒の3号,そしてごく最近に加わった銀の4号の“面”がそれぞれ順繰りにアップで映し出された.そして“機動刑事エバン”のコールと共にそれぞれ武器を手にしたエバン戦士が全員集結する.
「「・・・・・・・」」
地球征服を目論む悪の組織「ゼーレ」の総統キールが送り込んだ最強のシト“タブリス”.
その強さの前に銀の4号が刺し違え,辛うじて勝利したエバン戦士達.
だが,4号の犠牲を悼む間も無く正体を表わし自らの体を改造した
キールと幹部達がエバン戦士達に襲いかかる.
悲しみを怒りに変え,エバン戦士達は敵に立ち向かうが
倒しても斬っても“再生”するゼーレの軍団を前に“絶望”の二文字が彼らに忍び寄っていた・・・.
「さらば エバン!戦士達に花束を!!」
オープニングに続いてCMの後,前回までのあらすじがダイジェスト画面と共に語られ,効果音と共に最終回のサブタイトルがテロップされる.前回「空の果てに・・・怒りと悲しみのエバン!」の終わりでは5人のエバン戦士のうち,シト“タブリス”と共に空高く閃光と共に消えていった4号,また「ネルフ」総司令の特命を受けて極秘任務に入った3号を欠いたところへ「ゼーレ」総統キールが幹部8人と共に総攻撃を仕掛けていた.
正体を表わし自らの体を改造したキールと幹部達・・・その姿は「羽根が生えた鱗と尻尾の無い白トカゲ」あるいは「羽根と手足が生えた白ウナギ」といったところだろうか.卑らしい笑みを浮かべているように見える口,本来目の付いているべき箇所がのっぺり平らとしていて何とも不気味だ.二又の槍状の武器を手に迫る連中の動きは鈍かったが迎撃に当たっていた青の0号・紫の1号・赤の2号はそのサギにも近い再生能力の前に苦戦を強いられていた.バックを流れる曲も前回に引き続き戦闘(エバンピンチ)のままだ.
「こんちくしょぉおおーっ!!!!!」 足場の悪い水場で薙刀状の武器を手に2号が(ちょっと“下品”かもしれない)雄叫びを上げゼーレ軍団…通称「白トカゲ」を薙ぎ払う.だが,数十秒後にはその体を再生してまた襲いかかってくるので切りが無い状況に陥っていた.
「…叫んだところで状況は変わらないわ.」 刀身に折り目が刻み込まれた短刀を構えた0号が静かな口調で2号に告げる.反発する2号.女性刑事のこの二人,事ある毎に2号が“叫び”0号が“呟く”形の言い争いを展開していた.
「…今は気力を使うべき時では無いわ.」 淡々とした口調の0号とは対照的に2号は気合一閃,手にした得物で「白トカゲ」の一体が投げ放った二又槍をあさっての方向へと弾き飛ばす.
「…それもそうね.」 突進してきた「白トカゲ」を体を捻って“いなした”後,0号が2号に応える.それから互いに顔をちらっと向けて軽く頷き合った.
「・・・0号も2号も今は守りを固めて.」 武器を持たずに両手を自由にしていた1号が二人に指示を出す.0号・2号共に短く返事をして彼の言葉に従う.三人は死角を作らないように背中を合わせて「白トカゲ」に対峙した.「白トカゲ」達は二又槍を手にエバン三人の周囲を取り囲んで間合いを窺う.
『・・・本当に・・・どうする?・・・どうすればいい!?』 手刀を構えながら1号は思索する.0号や4号が持つ冷静さ,2号や3号が持つ勇敢さ,この種のリーダーが大抵は持っている資質が自分には欠けていることを1号は実感していた.
『・・・もう誰も,死なせたくないんだ.』 自分はリーダーには向かないのだろう・・・そう思う1号だったが今はただ必死に自分の役割を果たさんとしていた.
「…エバンフィールド展開.」 正面から唸りを上げて飛んできた二又槍を0号は“エバンフィールド”を展開し防御する.“エバンフィールド”・・・それはエバン戦士が創り出せる不可視の力場.使い手の気力次第でありとあらゆる物理的・精神的干渉を遮断できるエバン戦士究極の防御手段であり武器でもあった.
「!…うっ.くっ.」 “エバンフィールド”で二又槍を弾こうとした0号がうめき声を上げる.“フィールド”に接触した二又槍が弾かれずにその場で回転を始め捻じり込むようにして“フィールド”に干渉し始めていた.0号は気力を振り絞り“フィールド”を強化して二又槍の侵食を抑えようとする.
「0号!・・・Shit!!」 0号の異変に気づいた2号と1号が思わず叫び声を上げる.2号が救援に入ろうとするが自分に向かってくる二又槍に舌打ちする.2号に代わって1号が「槍」に手を伸ばしその動きを止めようとするが「槍」はあたかも意志を持ったかのように凄まじい力で“フィールド”に食いつき離れなかった.BGMが悲愴感漂う曲に転じる.
「…逃げて…1号…2号.」 “フィールド”を展開しながら0号は絞り出すように言葉を紡ぐ.攻撃を受け,0号は「槍」の威力を悟っていた.この場にこのまま止まれば1号も2号も「槍」の餌食になる.その判断と思いが0号にその言葉を紡がせていた.
「まさか…ロンギヌスの槍!?」 エバン戦士をモニターする警視庁非公開組織「ネルフ」の作戦司令室でエバン戦士達の直属の上司で“課長”と呼ばれる長髪の女性が声を上ずらせる.“ロンギヌスの槍”・・・それは“ありとあらゆるものを貫き通す”と言われるエバン世界最強の伝説の武器.この世界の天地創造にも深く関わっており,「ゼーレ」総統キールはこの伝説の武器に執着していた.
「文献が正しければロンギヌスの槍は世界に一本しか無いわ.今奴らが手にしているのはそのレプリカというのが可能性として一番高いわね.」 長髪の女性の傍らにいた“博士”と呼ばれる金髪の女性が淡々と彼女に答える.この二人,“課長”は捜査・作戦面で“博士”は技術・武装面において日夜シトと戦うエバン達をこれまでサポートしてきていた.
「・・・ゼーレの連中,完成させていたのか.・・・まずいぞ.間に合うのか?」 作戦司令室奥にある司令席の背後から銀髪の初老の男性が席に座る「ネルフ」司令に耳打ちする.副官に耳打ちされた「ネルフ」司令・・・1号の実の父親でもある・・・だが,彼は両肘を机の上に置き両手を顔の前で組んだまま眼鏡をきらりと輝かせ無言のまま微動だにしなかった.
「アンタバカぁ!?この状況で逃げ出す“正義の味方”がどこにいるのよっ!」 0号に対して2号がやや乱暴な口調で叱咤し,1号がやんわりと牽制する.平生においても戦いにおいても感情をあまり表に出すことの無い0号,彼女には時折自分の命について突き放した見方をすることがあった.
「・・・・・・・」 “フィールド”に力を込めて「槍」の侵入を抑えながら0号は二人にこくんとうなずく.以前の0号だったら気にも留めなかったことだろう.
「うぉおおおーっ!!」 焦燥の色を浮かべて1号が0号の“フィールド”に突き刺さる「槍」を引き抜こうとする.1号の“鬼の面”の眼光が鋭く光る.だが,1号が力を入れても「槍」はしぶとく“フィールド”に食い込んだまま離れなかった.
「負けてらんないのよーっ!!」 自らを鼓舞するかのように2号は叫び声を上げて得物を頭上で振り回す.2号はその薙刀状の武器を巧みに操って飛来してくる「槍」を叩き落としていた.だが,叩き落とされた「槍」はあたかも自分の意志を持っているかのように「白トカゲ」連中のところに戻って行き,きり無しにエバン戦士を襲っていた.
「1号っ!」 注意を喚起する2号の呼びかけに応えて1号は“フィールド”を展開した.間髪を入れず甲高い衝突音が響き渡る.そして,「槍」と“フィールド”との攻めぎあいが八角形のオレンジ色の光を放ちながら始まった.
「ふはははっ.死ねえいっ!エバン!」 ゼーレ総統キール・・・「白トカゲ」の中で一番偉そうな奴・・・が高笑いを上げる.敵の首領の高笑いの後,数本の「槍」が1号と0号めがけて飛んでいく.まさに“すみやかなる死”が1号と0号に迫らんとしていた.
「ちくしょう・ちくしょう・ちくしょうぉおおおーっ!!」 焦燥・怒り・無力感・死への恐怖・・・諸々の感情が1号の中で渦巻く.叫び声を上げる1号.その時,彼の中で何かが弾けた.BGMが悲愴感漂う曲から戦いの曲へと変わる.
(フシューッフーッ) 1号の口元からくぐもった唸り声と共に蒸気のようなものが吹き上がる.それから,1号の背中から半透明色の羽根が生え後背で広がった.0号と1号に飛来した「槍」が1号を中心に球状に展開された“フィールド”によって全て食い止められる.
「暴走!?1号っ!」 ネルフの作戦司令室で“課長”が目を大きく見開き厳しい顔で1号に呼びかける.かつて過去に2回,似たような現象が1号の身に起きていた.いずれの時も1号の普段からは考えられない力が彼に宿りシトを「抹殺」していたのだが,その余りの凶暴さに戦闘後意識を回復した1号が思い悩み苦しむ姿を彼女は見てきていた.エバン戦士でない彼女は戦闘になれば後方でモニターして呼びかけることだけしかできない.そのことが彼女にはもどかしかった.
「いいえ,違うわ.」 “課長”の危惧を“博士”が否定する.それから“司令”がニヤリと笑みを浮かべ“博士”の言葉を継いだ.
「1号,聞こえる?」 “課長”の呼びかけに1号が応える.前2回の時とは異なり,1号は意識をしっかりと保持していた.
「いい.1号.今のあなたはエバンの持つ“鬼”の力をコントロール下に置いているの.」 “博士”が“課長”から席を奪い取り1号に説明する.“博士”の説明に戸惑いを感じる1号だが,彼女の「忠告」に彼は静かにうなずいた.
「1号!?」 “変化”した1号に2号と0号が声を掛ける.過去の1号の“暴走”を知っているだけに2号は半ば恐る恐る,0号は普段よりも微かに強い口調で声を発していた.心配の二人に1号ははっきりと呼びかけに応える.
「…良かった.」 1号の返事に0号はごく短い言葉で,2号は心配して損したかのような口振りで安堵の気持ちを表わす.かつて2号は戦いにおいて1号に激しい対抗心を燃やしていたが,戦いの中で次第に彼を認めるようになっていた.2号の激を受けて1号は“フィールド”の展開を強化する.0号・1号の“フィールド”に突き刺さった「槍」が1号の展開した“フィールド”の拡大と共に押し戻されていく.
「キエエッ」 ゼーレの幹部の「白トカゲ」達が意味不明の叫び声を上げる.改造の影響で不死身に近い再生能力を代償に総統キールを除く彼ら全員の知性は「戦闘員」並みのレベルに落ちていた.もっとも,キールに言わせれば「文句と言い訳ばかりの無能な連中」とのことだったから今の方がかえって彼の役には立つのかもしれないが.
「おのれぇっ.エバン!小癪なぁっ.」 人差し指をエバン達に真っ直ぐ突きつけキールは悪態をつく.放送開始から現在まで彼のついた悪態の回数は数十回にも及んでいた.もちろんその原因は1号をはじめとするエバン戦士達の活躍によるものである.
「むぅん! (呪・呪・呪・呪・呪・・・)死ねいっ!エバン!」 右手に「槍」を持ち投擲の体勢に入りながらキールは何やら文言をぶつぶつと呟き出す.そして呪いの言葉と共に「槍」をエバン戦士めがけて投げつけた.キールが投げた「槍」は唸りを上げてエバン戦士に向かって飛んでいく.「槍」は1号の“フィールド”に衝突し,オレンジ色の光と共に派手な音を響かせていた.
(パキーンッ) 「2号っ.」 キールの力なのかそれとも彼の武器が特別なのか,「槍」は1号の展開したフィールドを突き破り2号の頭部に真っ直ぐ向かっていく.0号の声に2号は体ごと振り返り咄嗟に自らが持つ“フィールド”と愛用の得物を「槍」の正面に向けた.
「くぉのおぉーっ!!」 叫びながら2号は自らの“フィールド”を全開にして薙刀状の得物を二又槍の間にねじ込んで横に払おうとする.エバンの“鬼”の力に目覚めた1号程では無いにせよ2号の“フィールド”は強力で,1号の“フィールド”で相当に勢いを減殺された「槍」など問題無く追い払える計算だった.ところが・・・
(ミリッ メシッ バギッ) 金属が軋む音の後,嫌な音が周囲に響き渡る.キールの「槍」を払おうとした2号の得物が柄の真ん中で奇麗に折れて吹っ飛んでしまった.2号の両の手にその衝撃が伝わり手が痺れる.だが,今の2号にその痺れをどうにかする暇は無かった.
「いやぁぁぁーっ!!!」 迫り来る「槍」を前に2号の悲鳴が戦いの場に響き渡った.
「(もぐもぐもぐ)」
TV放送の音声だけが綾波家の茶の間を流れる.レイとマサツグは一瞬でも見逃すまいと画面をじっと見ていたし,メグミもまた手にした伊予かんを口にほおばりながらやはりTV画面を見ていた.1年間に渡って放映された人気特撮番組「機動刑事エバン」も今日で最終回である.
「じゃあ,どーすればいいってーのよっ!?」
「出し惜しみはアタシの性に合わないのよっ!・・・てえぃやぁああーっ.」
「そういうことっ.」
「了解.」
「わかったわ.1号.」
「0号っ!!」
「・・・・・・・」
「一人で“消える”のは無しだよ.0号.」
「!…エバンフィールド展開!」
「1号はエバンの真の力に目覚めたのだ.」
「大丈夫です.課長.ただ,体がちょっとふわふわします.」
「“鬼”の力?」
「そう.1号,それがあなたが忌み嫌っていた力の正体よ.でも,それは多かれ少なかれ生きる者全てが持っているもの.それをコントロールできるか振り回されるかはあなた次第よ.」
「・・・わかりました.」
「…1号っ.」
「…大丈夫.“暴走”してないよ.」
「(ほっ)…まったく1号ばかり強くなって,ずるいったらありゃしない.」
「…2号.」
「…冗談よ.それよりしっかりやんなさいよっ.1号!」
「・・・うん.」
「クエエッ」
「ちっ!」
・
・
・
・
「・・・さあっ,アンタ達も大楽園遊園地でアタシと握手っ!」
遊園地のCMがTVから流れる.普通この手のCMの台詞はリーダーである1号が語るものなのだが,「機動刑事エバン」では1号・2号・3号の3種類のバージョンがあった.(0号と4号のバージョンが無いのは,0号はそのキャラクターゆえ,4号は登場が遅かったゆえにである.)
「お茶,飲むか?レイ.母さん.」
「…うん.」
「いただくわ.」
きゅうすを手にマサツグが娘と妻に尋ねる.レイとメグミがうなずくとマサツグはポットに手を伸ばしダイレクトできゅうすに湯を注ぐ.それからマサツグは少しばかりきゅうすを揺すった後,どぼどぼとそれぞれの湯飲みに一人分ずつ順に注いだ.
「「(ふーっ ふーっ)」」
マサツグとレイ,それぞれ大きな湯飲みと小さな湯飲みを手にし,二人して息を吹きかけお茶を冷ます.それから湯飲みに口をつけごくごくとお茶を飲み始めた.
「「ふぅ.」」
湯飲みの中のお茶を3分の2ほど飲んだところでマサツグとレイは湯飲みを卓上に置き一息つく.前回に引き続きエバンピンチの展開.いつもより短めの前半パートの間,レイは(そしてマサツグもまた)はらはらしながらTV画面を見つめていた.同じ時間,似たような光景がレイと同い年の仲良しであるシンジやアスカの家でも展開されていることだろう.特にアスカは2号をひいきにしているから気が気でないに違いない.
『…父娘(おやこ)よねえ.』
メグミはと言えば,伊予かんを手にしながらTVと二人の様子を交互に視線を動かしては微笑んでいた.間もなくCMが終わって後半パートに入る.果たして番組が終わるまでレイが湯飲みに口をつけることはあるのだろうか.
「いやぁぁぁーっ!!!」 アイキャッチの後,前半パートのラストより少しばかり巻き戻した時点から後半パートが始まる.つんざく2号の悲鳴,キール必殺の「槍」を前に2号の命は風前のともしびにあった.
「2号っ!!」 1号と0号が2号の悲鳴に反応する.だが,二人がどれだけ速く動いたとしても2号の窮地を救うのに間に合うとは思えなかった.まさにその時・・・・・
天空から一筋の閃光が2号の目の前・・・「槍」の直上に突き刺さった.その光の眩さに目の前にいた2号はもちろんのこと,0号も1号もキールら「白トカゲ」達(ちゃんと可視光を認識しているらしい)も光から顔を背ける.光が止んだ時,そこにはキール達が持つ「槍」とまったく同形の武器が水面に突き刺さりキールの投擲した「槍」を押さえつけていた.また,“フィールド”に食いついていた「槍」も全て水中に落ちていた.
「どうやら間に合ったみたいだね.」 上空から二人の声が聞こえる.聞き覚えのある声に1号が,0号が,2号が空を見上げる.1号達の視線の先には黒の装甲の戦士と銀の装甲の戦士がゆっくりと空から舞い降りる姿が見て取れた.エバン3号,そしてシト“タブリス”と共に消えたはずの4号であった.
「3号!・・・まさか,4号!?」 二人の姿に驚きと喜びの混じった声が1号と2号から上がる.0号は沈黙したままその光景を眺めていた.
「4号・・・本当に4号なんだね?」 地に舞い下りた4号に1号は話し掛ける.まだ目の前の現実が信じられないのか1号の声は震えていた.4号は両の手で1号の手を取り再会を喜ぶ.
「なーに,男同士で手を取り合ってんのよっ.気持ち悪いわね.」 手を取り合う二人に2号がいかにも面白くなさそうに口を挟む.男同士,しかも今は「変身」状態の姿で手を取り合うその光景は確かに異様ではあった.
「…二人共,再会を喜ぶのは後にしたほうがいいわ.」 武器を構えながら0号が淡々と二人に告げる.「援軍」が来たとは言え,敵に囲まれているという状況には変わり無かった.
「・・・リーダーも大変やな.」 ある意味において的確な言葉を3号が半ば他人事の口調で独り呟く.ちなみに話の本筋とは直接関係無いが3号はエバン戦士5人の中で唯一の既婚者である.
「ぬぅっ!貴様!タブリスと道連れで死んだのではなかったのか!?」 ここにいることが信じられないといった様子でキールが4号に問い掛ける.
「あいにくと,僕は死神に嫌われたみたいでね.」 どこで何を3号と約束したのか今一つ不明だが,場面は4号の回想に切り替わる.シト“タブリス”を“エバンフィールド”で押え込みながら飛行オプション装備の“エバンウィング”で高々度に達する4号.彼はそのはた迷惑な威力から使用を封印していたN2炸薬を0距離で炸裂させて“タブリス”を粉砕した.だが,4号もまた爆風に吹き飛ばされて戦場より遥か彼方の海上に墜落.生命維持モードで漂っていたところを極秘任務中の3号が救出した・・・・・というべたべた一直線の「実は生きていた」的展開が一気に画面を流れた.
「ま,それからワシと4号とで伝説の最強の武器を探し出したっちゅうわけやな.」 3号が4号の回想の後を引き継ぐ.それから3号は救出した4号と共に極秘任務であるロンギヌスの槍(本物)の探索を続行して探し出し,ここに駆けつけてきたというわけである.
「ロンギヌスの槍の・・・本物!?」 ネルフ作戦司令室で“課長”が事の成り行きについていけないといった表情で言葉を発する.
「ええ.そうよ.よくやったわ.3号.4号.」 事態に戸惑っている“課長”とは対照的に“博士”と副官と司令は冷静である.どうやら,3号の任務の内容を知っていたのはこの3人だけだったようだ.副官に返事をした後,司令はいつもの決めゼリフを口にした.
「・・・問題無い.シナリオ通りだ.」 何がシナリオ通りなんだか・・・この男,本当に考えてもの言ってるのかと一部(大人の)視聴者の突っ込みをよそに今日も司令は両の手を顔の前に組んで余裕を見せていた.
「さ,その槍を手にとって.2号.」 4号と3号が2号にロンギヌスの槍(本物)を手に取るよううながす.自分の知らないところで話が進んで2号は面白くなさげだったが,きり無しに再生してくる「白トカゲ」に打つ手が無かったことも事実だったので「槍」に手を伸ばす.2号が「槍」を手にすると,武器の形状が二又槍から薙刀状に変化した.
「こ,これは・・・」 自分が手にした得物の変化に驚く2号.驚きの2号に4号が涼しげな声で「槍」について解説する.4号の解説に2号はうなずいた.
「そうと分かれば・・・行っくわよぉーっ!!」 得意の薙刀状の武器と化した「槍」を手に2号は「白トカゲ」達に突進を開始した.
「ギエッ」 今までの鬱憤を晴らすかのように2号は弧を描くようにして得物を振り回す.2号の刃を受けて崩れる「白トカゲ」達,真正のロンギヌスの槍を受けた傷が再生することはなかった.また,本物の「槍」とコピーを打ち合わせるとたちまちコピーの方が打ち砕け,「白トカゲ」達は武器を失っていく.2号は「槍」を時に薙刀状にして振り回し,時に手斧の形状に変化させ相手を打ち据えていった.
「ギエーッ ギエッ ギエッ ギエッ」 修羅と化した2号を前にして「白トカゲ」達は逃げ出しキールの周囲にほうほうのていで集まる.2号は薙刀状の「槍」をびしっと前に突きつけて決めゼリフを吐く.・・・普通,こういうセリフはリーダーである1号が言うものなのだが.
「おのれ〜エバン!かくなる上は・・・」 2号とロンギヌスの槍(本物)の前に形勢逆転で追いつめられたキール.キールは悪態をつくといつの間にか手元に取り戻した自らの「槍」を手にすると部下であり元幹部の「白トカゲ」達に素早い動きで次々と突き立て始めた.
「キエーッ!!!」 キールに「槍」を突き立てられて「白トカゲ」達は悲鳴を上げる.突き立てた「槍」は不気味に脈を打ち,その度に「白トカゲ」が霧状と化して消滅しキールの肉体と「槍」が輝き出す.全てが終わった時そこにはキール以外の「白トカゲ」の姿は無く,代わりに不気味に輝く「槍」を手にする二回りほど大きくなったキールが立っていた.
「な,なんて奴や・・・.」 手下達を自らの糧としたキールの一連の行動に戦慄を覚えるエバン戦士達.その得体の知れない恐怖に,3号が思わず呟き,2号は自分で気づかないうちに声のトーンが強まっていた.
「それは・・・どうかな?」 キールが2号を挑発するかのように余裕の笑みを口元に浮かべる.その笑みに苛立ちと気味の悪さを覚えた2号が「槍」を構えキールに突進する.
「ちょっと待ちなさいっ.2号!・・・みんな,2号をフォローしてっ.」 2号の突出に“課長”が制止をかけようとするが間に合わず,1号達にフォローを指示する.彼女の指示を受けて4人は散開して2号の後を追いかける.
(ガキィーンッ) 2号の「槍」とキールの「槍」がぶつかり合う.やはり他のコピー品と異なって特別なのかキールの「槍」は「本物」と打ち合わせても打ち砕けることはなかった.
「なっ・・・」 あっさりとキールに攻撃を止められて2号は息を飲む.次の瞬間,キールは「槍」を突き返し2号を吹き飛ばす.
「きゃあぁーっ!!」 キールに飛ばされて2号は悲鳴を上げる.2号が吹き飛ばされた先には4号が走り込んでいた.武器を構えていなかった(構える武器を持っていなかった)4号は慌てて減速し2号を受け止める.ぶつかった2号と4号との間で言い合いをする・・・暇はなかった.
「死ねいっ.」 体を崩した二人に向けてキールはすかさず手近にあった手下の「槍」を投げつける.二人のうち4号が先に体勢を立て直したが今の4号に武器は無くキールの「槍」を(一時的にせよ)防ぐだけの“フィールド”を張る力も無かった.
(メキッ メリッ) 金属の板がひしゃげる音が響く.「槍」は4号の体に届いていなかった.衝突の瞬間,4号は咄嗟に背中の“エバンウィング”を差し出して盾の代わりにしていた.“エバンウィング”の推進力を利用して4号は「槍」の軌道を逸らす.高価なオプション装備を犠牲にして,始末書担当の“課長”が頭を抱え,製作・修理担当の“博士”がこめかみをひくつかせ,予算折衝担当の副官が眉をひそめる・・・ことはさすがに今日は無い.作戦司令室の誰もがかたずを飲んで事態の推移を見守っていた.
「ふん!味な真似を.だが,貴様の力ではワシは倒せまい.それともその『槍』を使うか?」 ひと思いに2号達を葬れなかったキールだったが余裕綽々で・・・「槍」を投擲した隙に打ちかかってきた3号のST・マゴロクEX・ソードをへし折り,0号の短刀を粉々に砕き,1号の“陽電子”剣を無効化するまでの一連の動作に1秒半とかからないくらいに・・・4号に対峙していた.キールが語る通り,今の4号ではたとえ真正の「槍」を使っても2号の二の舞になるのが落ちである.
「…そうだね・・・1号!」 4号はいつもと変わらない口調でキールの言葉にうなずくと2号の手から「槍」を抜き取って1号に放り投げた.1号が「槍」を受け取ると「槍」は“陽電子”剣の形状を取る.
「またすまないね,1号.後はお願いするよ.」 「槍」を手にした1号に4号は頭を下げる.シト“タブリス”との戦いの時も4号は1号に後を頼むと言って消えていった.彼の「また」にはその意味が込められていた.1号は4号に静かに応える.もし今のキールに対抗できる者がいるとすれば“鬼”の力を引き出しコントロールしている1号だけだろう.1号は覚悟を決めていた.
「ワシの野望を阻んだ“鬼”の力を引き出したエバンか!面白い!」 キールは剣の形をした「槍」を構える1号を前に不気味な笑みを浮かべる.その笑みは自分の力を如何なく振るう機会を得た喜びだろうかそれとも自らに近しい者を見つけた喜びだろうか.
「うぉおおおーっ!!」 得物を構えた1号は“フィールド”正面に集中させ突進する.真正の「槍」とキールの「槍」がぶつかり合い金属音が響いて火花と光が四散した.
「少しは歯ごたえがあるようだな.だが,非力!動きも甘いわっ.」 1号の突進に対して得物を突き合わせ間合いを詰めたキールは1号の脇腹を“フィールド”越しに蹴飛ばした.キールの蹴りは“フィールド”を突き破り,打撃を受けた1号はたまらず派手に水飛沫を上げて横に転がる.2号のように吹き飛ばされなかっただけましで,すぐに体勢を立て直してキールの第二撃を防ぎ攻撃に転じる.だが,力で上回るキールの前に1号は有効な打撃を与えられずにいた.
「どうした?エバン?我が配下サキエルとゼルエルを倒した“鬼”の力とはこの程度なのか?」 「くっ・・・・・!」 「ふはははははっ.悔しいか?おのれの非力さが?憎いか?ワシが?怒れ!憎め!“鬼”の力を解放すればこのワシを倒せるかもしれないぞ!?」 「“鬼”の力・・・」 斬撃を繰り出す1号の攻撃をキールは稽古をつけるかのようにあしらう.キールは過去の話を持ち出し1号を挑発する.“鬼”の力の解放・・・自分の力が通用しない敵を相手にする今の1号にとってそれは奴を倒す唯一の方法であるかのように思えてきた.屈辱感と怒りが理性を上回り1号の意識が遠のいていく.
(フシューッ フーッ) 再び,1号の口元から蒸気のようなものが吹き上がった.“暴走”状態に入ろうとする1号にキールは歓喜の声を上げる.解放された“鬼”の力の鉾先が自分に向けられることが分かっていながらなぜかキールは1号の“暴走”を望んでいた.
「駄目!1号っ.“鬼”の力に身を任せないでっ.」 1号の意識が沈み込みかけたその時,鋭い声が1号に飛んできた.はっとする1号.呼びかけた声の主は0号だった.普段の彼女からは想像もつかない声に1号だけでなく他のエバン戦士達も一瞬固まった.
「0号.アンタ・・・」 いち早く我に帰った2号が半ば唖然として0号に呟く.周囲の反応に構わず0号は言葉を続ける.声のトーンはいつもの淡々としたものに戻っていたが心なしか震えているようにも思えた.0号を前に1号は迷いを見せる.
「アンタバカぁ?0号に『死ぬな.』と言っておいてアンタだけ犠牲になるつもり!?矛盾してるわよっ.残されるアタシ達の気持ちを考えなさいよっ!」 煮え切らない1号に2号が畳み掛けるように叱咤する.3号もまた実感を込めるかのように2号に同調した.
「2号・・・3号・・・」 4号もまた二人に続いた.だが,すかさず傍らの2号に“グー”で殴られ水面に沈む.一人でさっさと消えてそれからひょっこり戻ってきた4号にしれっとそんなことを語られては2号ならずとも殴りたくなるかもしれない.
「・・・ゴメン.みんな.・・・ありがとう.」 共に戦ってきた仲間達それぞれの言葉を受けて1号は皆に謝り,それから感謝の言葉を返す.“鬼”の力に身を任せたりしない,1号はそう決意していた.
「愚かな・・・しょせん仲間など足手まといに過ぎぬわ.」 挑発に乗らなかった1号を見てキールは吐き捨てるように言い放つ.それに対して2号が噛み付くがキールの指摘に言葉を詰まらせる.キールの指摘通り,エバン戦士はロンギヌスの槍(本物)以外の手持ちの武器を失っていた.
「武器ならあるわよ.」 唐突に“博士”の声が割り込む.“博士”の言葉が終わると天空に光点が4つ現れ,次の瞬間には1号以外のエバン戦士の前に金属製のカプセルが着水していた.
「こ,これは・・・」 突然降ってきたカプセルを前に2号は戸惑う.着水したカプセルは二つに割れ,中から剣やら斧やらの近接戦闘用の武器が出てきた.中の武器について“博士”が説明する.
「・・・そんなものがあるならどうして最初から出さないのよ!?」 “博士”の説明を聞いて2号が恨めし気な口調で疑問を口にする.確かに2号の疑問はもっともなことであった.
「・・・まだ一度もテストしてなかったのよ.まったく実績の無いものを実戦投入するなんて科学者のプライドが許さないわ.」 2号の詰問に近い疑問に対して“博士”はしれっと答える.2号は続けて「・・・じゃあ,シト“サンダルフォン”の時に実戦テストと称して怪しげなオプションをアタシにぶっつけ本番で無理矢理装着させた件はどうなのよ!?」との突っ込みが喉から出掛かるが辛うじて自制する.この“博士”に下手に逆らえば後で“テスト”と称して何をさせられるか分かったものではないからだ.2号達エバン戦士はそれぞれ新しい武器を手にした.
「みんな.始末書のことは気にせずガンガン戦ってね♪」 「警視庁機密捜査班『ネルフ』警視正機動刑事エバン1号!対『シト』法第四条,機動刑事エバンは裁判所・法務大臣の許可無しに『シト』を抹殺することを許される・・・を発動します.」 武器を手にした戦士達に“課長”が軽い調子で声を掛ける.「始末書」を引き合いに出され,3号がこけた.1号がヒーロー物お約束の口上を述べる.それは最終回の今日も例外ではなかった.
「何を今更…返り討ちにしてくれるわ!我が糧となれ!エバン!」 1号の口上にキールは「槍」を構え直してエバン戦士に対峙する.キールの「槍」が再び脈打った.
「エバン双裂斬!」 薙刀状の武器を手にした2号が先陣を切って跳躍し自身の必殺技を繰り出す.2号は自分の持てる最大の力を今の攻撃に込めていた.
「エバン旋風剣!」 3号が細身の刀身の武器を振り回して斬りつける.新しい武器はキールとの攻めぎ合いにも刀身が折れること無く衝撃に耐えた.
「これならいける!いけるで!」 キールに攻撃を受け止められながらも3号は確かな手応えを感じていた.それは他のエバン戦士達も同様で,0号が短刀を,4号が槍状の武器を突き立てていく.いずれの攻撃もキールに防がれていたがエバン達の持つ武器は力強く打ち合いに耐えた.
「ぬうぅ!?ばかな!」 動きの良くなった,そして息の合ったエバン達の攻撃を受けてキールが狼狽の色を表わす.キールに先程までの余裕は消え,鋭く斬り突き立てるエバン達に次第に押されていった.
「エバン陽電子斬!」 剣の形に変化した「槍」で1号がキールに斬りつける.使用武器が陽電子剣ではないので技の名称としては合わないのだが1号必殺の剣が打ち合わせたキールの「槍」にザクッっと食い込んだ.
「ぐわぁぁぁーっ!!!」 「槍」に剣が食い込んだ瞬間,キールが肩口を抑えて悲鳴をあげる.まるで「槍」に自分の神経が通っているかのように.それからキールは「槍」を力任せに振り回し,エバン達を遠ざけて後方に引いた.
「これは・・・一体!?」 思わぬキールの反応に1号は追撃を行うことを忘れる.唖然とする1号に司令室の“博士”がいかにも説明的なセリフで解説した.
「それより,今よ!1号っ.」 “課長”が1号に指示を飛ばす.1号には今,何をすべきか分かっていた.エバン最強の必殺技「エバンブレイク」の行使である.1号に対して他のエバン戦士全員がうなずく.
「エバンフィールド展開!」
戦場のエバン戦士全員が“フィールド”を展開する.「エバンブレイク」,それはエバンの持つ“エバンフィールド”を核となる戦士に集中させて敵に突進し撃破する攻撃技.番組放映の中盤から登場し,核となる戦士として1号もしくは2号が主としてその任に当たっていた.最終回の今日はロンギヌスの槍(真正)を手にした1号に“フィールド”を集中させていた.
「一刀両断!エバンブレイク!!」 八角形のオレンジ色の燐光を身にまとって1号がキールに突進する.キールは咆哮と共に迎え撃つが1号の剣はキールの体を貫通する.キールは断末魔を上げ,次の瞬間には爆発する.爆煙が晴れて中からゆっくりと現れる1号.かくして,地球征服を目論む謎の組織「ゼーレ」は壊滅し,キールの野望は完全に潰えた.
「・・・今までご苦労だった.君達の働きに私からも感謝する.」 場面は変わって,警視庁内.「ネルフ」の司令であり警視監でもある1号の父が平時の勤務に戻ったエバン戦士達にねぎらいの言葉をかける.一列に並んで畏まって聞く1号達.ゼーレが壊滅しシトの襲撃の恐れが無くなった今,「ネルフ」はその組織を凍結することに決まった.すなわち,エバン達や他のスタッフは元の職場に戻るということである.
「ちょっち…いいかな?」 司令の前を辞去して移動する1号を“課長”が呼び止める.呼びかけられて1号は立ち止まり,他の4人と別れる.1号は“課長”と向かい合っていた.
「残念だわ〜からかい甲斐のある部下がいなくなってお姉さん,寂しいわ.」 茶化すように“課長”が1号に話し掛ける.空笑いを浮かべる1号.ちなみに“課長”の言ってることは事実で,捜査課で事ある毎に1号を捕まえてはからかいの種にしていた.それから“課長”の表情が引き締まる.実のところ,1号には赴任前所属していた管内の署の交通課に戻らずこのまま本庁に残るという話も来ていた.
「…決めたことですから.」 1号は“課長”の目を見据えて応える.1号の返答に“課長”は破顔し右手を差し出す.1号は右手を握り返し笑みを返した.それから1号は“課長”のもとを辞去して4人の後を追っていく.今回だけ特別に用意されたエンディングテーマの前奏がBGMとして流れ始める.
「・・・名残りは惜しいけど.かーちゃん待たせてるしな.ほな,みな元気で.」 「ネルフ」所属の刑事としての最後の日,至って軽い調子で3号が皆に別れを告げ立ち去る.彼の元々の勤務先は大阪府警で「エバン」としての使命を受けて以来,妻を連れて警視庁に赴任していた.
「今度,君にまた会える日を楽しみにしているよ.」 4号が1号の手を取りながら別れの挨拶をする.それを見て2号が二人に噛みつく.それに対して4号はしれっと答えて1号に同意を求める.話を振り込まれた1号は苦笑を浮かべた.4号は最後の最後まで一騒動を起こしていた.
「今度会う時は負けないんだからっ!」 2号が1号と0号を指差し宣言する.2号の「負けない」の意味は1号と0号とでは微妙に違うのだろうか.そこにまだ残っていた4号が自分を指差して2号にケチョンケチョンにされる光景が展開される.
「そろそろ時間か・・・じゃね!・・・ほら,アンタも行くの!」 2号は自分の腕時計を見ては1号達に別れを告げる.それからなおも1号との別れを惜しむ4号を軽くはたく.2号と4号は外国の警察から研修と言う形で派遣されていた.
「・・・・・・・」 2号と4号が去って,沈黙が1号と0号との間を支配する.ややあって1号が口を開く.0号はごく簡潔に短い言葉で1号を送り出す.それに対して1号は笑顔で応え,礼を述べる.それから別れの言葉を紡ごうとするが何か思い出しのたか中断する.
「…それじゃ,また.」 1号は「さよなら」を別の言葉に置き換えて0号に別れを告げた.それから立ち去りゆく1号の姿と共にナレーションが入る.
キールが滅び「ゼーレ」が壊滅してシトの脅威が無くなった今.
「エバン」としての使命を終えてそれぞれの場所に戻って行く戦士達.
だが,また新たな脅威が我々を襲ってくるかもしれない.
その時までは戦士達にしばしの休息を.
ありがとう エバン! 戦士達に花束を!
ナレーションが終わると,スタッフロールと共に最後の場面で前奏から流れていたエンディングテーマが前面へと流れ出す.スタッフロールの下で今までの名シーンがダイジェストで映し出されてそれからエバン戦士達や「ネルフ」スタッフの面々のその後がちらっと描かれていた.
警視庁の上級幹部として相も変わらず気難しい顔で書類に目を通し判を押す司令と副官,捜査課で席を挟んで向かい合っている“課長”と0号,科学捜査研究所の一室で助手と共に何とも怪しい実験を行っている“博士”,つまみ食いをしようとして妻に包丁を突き付けられて焦りまくる3号,某国の某市警でビシバシと部下に指示を飛ばす2号,飄々とデスクワークを片づける4号・・・そして最後に赴任前所属の交通課での1号の姿が映し出されて「おわり」となった.
「!」
「せやな.」
「4号!アンタ,生きてたの!?」
「・・・・・・・」
「また逢えて嬉しいよ.1号.」
「なーに,気取ったことゆーとんのや.ワシが来るまで動けんかったくせに.」
「それは言わない約束だよ.3号.」
「間に合ったな.」
「ああ.」
「ホンマもんとバッタもんの違い,見せたりいや.」
「乗せられてるみたいでちょっと気に入らないけど・・・ま,使ってあげるわ.」
「ロンギヌスの槍は使い手の意志を反映するんだ.例えば,剣をイメージすれば剣の形に,斧をイメージすれば斧の形に『槍』の姿を変えることもできる.今のは2号の愛用の武器に対する思いが『槍』の形を変えさせたんだね.」
「グエッ」
「まだまだぁぁーっ!!」
「グエッ グエッ クエッ クエッ」
「アンタ達の悪だくみもこれまでよっ!キールっ!」
「グギャァーッ!!!」
「キィーッ!!!」
「ハン!見下げ果てた奴ねっ.そんなことしたってアンタはもうおしまいなのよっ!」
「ハッタリかましてんじゃないわよっ.とぅぉりゃぁぁーっ!!」
「はいっ.」
「…了解.」
「しゃあないな.」
「わかりました.」
「この程度か?ぬるいわっ.」
「おっと.」
「!」
「・・・わかった.」
「ぐふっ!」
「ふはははっ.そうだ!怒れ!狂え!“鬼”となれ!」
「!」
「…1号.今,“鬼”の力を解放したら本当に…“鬼”になってしまうわ.」
「0号・・・しかし・・・」
「せや.1号.残されたもんの辛さはよーわかっとるやろ.」
「そうだよ.1号.君が消えたら僕は悲しいよ.」
「・・・アンタがそれを言う資格はないっ.(バキッ)」
「何ですって!?アタシ達とアンタを一緒にしないでよねっ.」
「武器を失った貴様らにいったい何ができるというのだ?」
「くっ・・・」
「ゼーレの連中がロンギヌスの槍のコピーを作っていたように私たちネルフも今まで収集したデータをフィードバックしていたのよ.その成果がそれ.本物のロンギヌスの槍ほどの威力は無いけど少しは役に立つはずよ.」
「プ,プライドってねえ・・・」
「(ガクッ)・・・この期に及んでそれを言うかいな.」
「キールは作り出した『槍』と自らを同化させていたようね.『槍』はキール自身でもありキールは『槍』でもある・・・さっきまでのコピーとは思えない威力はそのためだったのね.」
「はいっ.みんな.エバンブレイクだっ.」
「え?はい.」
「あはははは.」
「本当に…戻るのね.」
「…それなら私から言うことは何も無いわ.これからも頑張って.」
「はい.課長も元気で.・・・お世話になりました.」
「…奥さんによろしく.」
「奥さんによろしく言っといてね.」
「寂しくなるねえ.」
「大阪でも元気で.」
「おう.」
「ちょっと!また男同士で手を取り合ってんじゃないわよっ.」
「僕は友人として親愛の気持ちを表わしているだけさ.そうだよね?」
「・・・・・・・」
「…うん.」
「僕は?」
「アンタは論外!問題外っ!」
「まったくせっかちだねえ.」
「・・・・・・・」
「…そろそろ僕も行くよ・・・」
「…元気で.」
「ありがとう…お互いにね.さよ…」
「「(ぼ〜)」」
放送終了後しばらくの間,レイとマサツグは放心状態にあった.画面に映し出される次週からの新番組予告も二人には右から左へと素通りしていた.ややあって,マサツグは「うんうん」とうなずくと席から立った.レイはと言えば,思い出したかのように湯飲みに手を伸ばす.湯飲みの中のお茶はすっかり冷めていた.結局,レイは番組が終わるまで湯飲みに口をつけることは無かった.レイは湯飲みに残っている冷めたお茶を全部喉に流し込む.
「お茶,飲む?レイ.」
「…ううん.ごちそうさま.」
番組放映の間に伊予かんを2個平らげていたメグミがきゅうすを片手にレイに尋ねる.レイは首を小さく横に振ってメグミに応えた.レイの返答にメグミはうなずくと自分の湯飲みにだけお茶を注ぐ.
「・・・ちょっと出かけてくる.」
「あら?どこへ?お父さん.」
居間に再び戻ってきたマサツグがメグミに外出を告げる.マサツグは上着を羽織り,自分の財布を手にしていた.
「CD屋さん♪」
メグミの問いにマサツグは答える.マサツグの行き先はレコード店.今日は「機動刑事エバン オリジナルサウンドトラック」(最終回用ED完全版収録付)の発売日で,前々から「エバン」の楽曲も気に入っていたマサツグは楽しげな様子だった.
「・・・そう.」
「レイも一緒に行くか?」
「…ううん.うちにいる.」
マサツグの答えにメグミは顔を少し曇らせた.が,マサツグはそれには気づかずレイを誘う.レイはマサツグの誘いを断った.
「・・・そっか.それじゃいってきまーす.」
「…いってらっしゃい.」
「いってらっしゃい・・・」
娘に誘いを断られたマサツグだったが今日はさほど気にも留めずに玄関に急ぐ.余程今日のサントラCDを楽しみにしていたのだろうか.マサツグは妻の曇った顔に気づくこと無くお気楽に家を出ていった.
「さって・・・と.」
自分で入れたお茶を飲み干したメグミは右手にきゅうすと湯飲みの入ったお盆を左手に伊予かんの入ったざるを持って台所へと歩いていく.それから水を張ったたらいに浸け置いた食器を台所用洗剤で洗い始めた.
「・・・・・・・」
メグミが台所で洗い物をしている間,レイはこたつに座ってぼうっとスイッチがオフのTV画面を見ていた.食器同士がぶつかり合う音や水音が響く.しばらくしてレイはすっくと立ち上がる.
「こたつの電気,消しといて.レイ.」
背中を向けたままメグミがレイに指示する.メグミに言われてレイはてくてくと電源コードの方に歩き中間のスイッチをスライドさせた.それから居間を出ようとする.
「返事は?」
引き続き背を向けたままメグミがレイに声を掛ける.スイッチが切られたことは恐らくメグミには分かっていただろうが彼女は返事にこだわった.
「…はい.」
レイは小さく返事するとふすまの戸を引く.ふすまの先には真新しい学習机と椅子が部屋の角にでんと据えられており,机の隣にはキャスターのついた小さめのワゴンがぴたりとくっつけられていて旅行用に使えそうなコンパクトな目覚し時計が台上に乗っかっている.その傍らには“はろっぴぃ”と呼ばれるニワトリのファンシー系キャラクターがプリントされた円筒のごみ箱がぽつんと置かれていた.この春の小学校入学を機に与えられたレイの部屋である.
「…ふう.」
レイは自分にはまだ大きめの椅子をうんしょと引っ張って座り,机の上にべたーっと両手を置いて首を横に寝かして頬を机にぴとっとくっつけてため息をついていた.視線の先には真っ赤な新品のランドセルが置かれている.
新品の机から木の香りが漂いレイの鼻孔をくすぐる.その机は上段に平たい引き出しが3つ,下段に底の深い引き出し2つのごく一般的なものである.ごみ箱と違ってこちらはキャラクター物では無い.就学前のレイの引き出しの中身は幼稚園の時の「おえかき」道具などぐらいで机の上物の本棚も中身は書類の入ったA4サイズの角型封筒が一通と数冊の絵本だけだった.
「(ごろっ)」
机の上でレイは首を回して反対側の頬を机の面にくっつける.その視線の先には写真立てが乗っかっていた.中身の写真は卒園式の日に撮ってもらったものだ.仲良しのシンジとアスカ二人に囲まれたレイの姿が写っている.その隣にはクレーンゲームでゲットしたと思われるコミカル調のエバン人形が0号・1号・2号と三体並んでいた.レイは机で寝そべりながら写真を見つめていた.
「・・・・・・・」
食器のぶつかり合う音が止んでひときわ低くて大きな水音が流れた.メグミが食器を洗い終えたようだ.レイは寝そべったままエバン人形をつんつんと突っついていた.後片づけを終えたメグミは火の点いていないこたつに入って頬杖をつきながら今朝の新聞をめくり始める.
「…おかあさん.」
「何?レイ?」
「…おかいもの…いかないの?」
「そうねえ・・・」
メグミが三面記事をぼんやりと眺めているところへふすまが開く.レイは自分の部屋から出てこたつにすすっと入った.レイがメグミに尋ねる.新聞に視線を向けたままメグミは思案し始めた.
「・・・いかない.」
少し気だるそうにメグミがレイに応える.暖かい春の日差しが綾波家の居間に差し込んでいた.
「…どうしたの?おかあさん?」
「…何でもないわよ.レイ.」
普段とは異なるメグミの様相にレイが上目遣いに尋ねた.レイの視線を受けてメグミははっとした表情を一瞬見せた後,レイに笑みを向けて彼女のおかっぱ髪を撫でた.髪を撫でられてレイはにっこりとする.
「…おかあさん.」
「ん?」
「…また,みんなあえるかな?」
「?」
レイとメグミの会話,舌足らずなレイの問いかけにメグミはクエスチョンマークを浮かべる.
『・・・あ.今朝の「エバン」のことね.』
程なくしてメグミはレイの質問の意味を理解した.
「そうねえ・・・また会えるといいわね.」
「うん…」
メグミは是とも否とも答えず希望を口にする.メグミの答えにレイは小さくうなずいた.
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
それから二人は無言のまま,メグミは新聞をめくっては眺め,レイは折り込みのチラシを見ていた.色取り取りの写真や文字がレイの目に飛び込んでくる.
「・・・お昼,何にしようか?」
「・・・・・」
「お外に出かけて何か食べようか?」
「…おとうさんは?」
しばらくして不意にメグミがレイに尋ねる.メグミに尋ねられたレイは首を傾けた.外食を提案するメグミにレイは今は出かけてしまっているマサツグのことを尋ねた.
「・・・お父さん置いて,二人で出かけちゃおうか?」
「・・・・・」
メグミの提案にレイは無言で首を横に振った.
「だめ?」
「…うん.」
顔を近づけて尋ねるメグミにレイは少し目線を下に遣りながらもはっきりとメグミの提案を断った.そんな娘の様子にメグミは苦笑いを浮かべる.
「・・・そうよね.じゃ,お昼は家にあるものにしましょっ.何がいい?レイ.」
「…ラーメン.」
「そう.じゃ,ちょっと手伝ってくれる?」
「…うん.」
メグミは明るい口調で娘にお昼ごはんの希望を聞く.「ラーメン」と答えたレイにメグミはこたつから立ち上がりエプロンを手にするとレイに手伝うよう促した.
「・・・これでテーブル,拭いてくれる?」
台所でメグミはレイに絞った台拭きを手渡す.台拭きをメグミから受け取るとレイはてくてくとこたつの方に歩いて行き,体を伸ばしながらこたつの卓を拭いていた.
「さてと・・・」
レイがテーブルを拭いている間にメグミは買い置きのダンボール箱からインスタントラーメンのパッケージを二袋取り出す.それから大きめのどんぶりを二つ,ちいさめのを一つ,食器棚から台所の空いてるスペースに置いてその中にインスタントラーメンの液状スープを入れて少量の湯で溶く.そして,電子レンジの加熱容器にあけておいた今朝のごはんの残りにごま塩を振りかけた.
「レイ.冷蔵庫からほうれん草のお浸しとにんにくとねぎを出してくれる?」
テーブル拭きから戻ってきたレイにメグミは次にやることを告げる.メグミに言われてレイは冷蔵庫の扉をうんしょと開いて庫内を漁り始める.程なくレイはタッパの中に入った作り置きしたほうれん草のお浸しと野菜室に入ったねぎとにんにくを見つけ両手に抱えてメグミのもとに持っていく.
「…はい.」
「ありがとう…あ.ごめん.にんにくはそっちじゃなくて・・・」
レイから差し出された材料をメグミが受け取る.その時,メグミは自分の言ったことが舌足らずであったことに気がついた.
「こっちの方.」
にんにくを手にメグミは冷蔵庫に歩み寄り中を開けると醤油漬けになっている瓶を取り出した.メグミがレイに頼みたかったのは生の方ではなく加工済みの方だったようだ.
「こたつに座ってていいわよ.」
手伝ってもらうことが無くなってメグミはレイをこたつに座らせる.それからメグミはなべに水を張って湯を沸かし麺を煮立て,薬味にするねぎとにんにくを細かく刻んでいた.いそいそと動くメグミの後ろ姿をレイはじっと見つめていた.
「ごはんとお箸,持ってってくれる?レイ.」
数分後,出来上がった二人前のラーメンを三つのどんぶりに分けたメグミはレイに電子レンジで温めなおしたごはんと食事用箸をテーブルに持っていくよう告げる.
「ちょっと熱いから気をつけてね.」
そばにやってきたレイにメグミは耐熱容器に入ったごはんと三人分の箸を手渡す.今日の綾波家の昼食はインスタントラーメンの上に刻みねぎとにんにくそれにほうれん草のお浸しをのせたものと今朝の残りごはん,いわゆるラーメンライスであった.ごはんの方はいちいち三人に分けたりしない,その辺りはまあ適当である.
「ただいまあ.」
レイがごはんと箸をテーブルに置いているとのんびりとした声が玄関から伝わってきた.マサツグの帰宅である.麺の上に刻みねぎなどをのせているメグミをよそに,レイが玄関へぱたぱたと駆け出す.
「…おかえりな…さい.」
玄関でマサツグを出迎えたレイは目を見開く.マサツグの右手には黄色と白のフリージアの花束が抱えられ,左手にはケーキの入った箱が握られていた.箱には“銀座 ホーリー ☆ コーナー”と書かれている.
「…お母さんに渡してくれるかな?」
「…うん.」
マサツグは花束をレイに手渡すとメグミに持っていくようお願いする.レイはマサツグから花束を受け取ると両手一杯に抱えて母親のもとへと急いだ.
「おかあさん.」
「なあに?レイ?…まあ!」
娘に声を掛けられて台所のメグミが振り返る.メグミの振り返った先に黄色と白の花束を抱えたレイが立っていた.メグミは驚きの声を上げる.
「…おたんじょうびおめでとう.おかあさん.」
「…ありがとう.レイ.」
おずおずとレイはメグミに花束を渡す.レイから花束を受け取ったメグミは満面の笑みを浮かべる.今日はメグミの誕生日だった.それからメグミは受け取った花束から4,5本抜き取る.
「・・・はい.誕生日おめでとう.レイ.」
抜き取ったフリージアの花を束にしてメグミはレイに差し出す.今日,3月30日はメグミとレイ母娘二人の誕生日であった.
「あ〜先に渡すつもりだったのにぃ.」
台所にマサツグがぬっと現われて少し恨めしそうな声を上げる.彼の手にはメグミが渡したものと同じような花束が握られていた.
「おめでとう.レイ.」
メグミに続いてマサツグが花束を渡す.レイは少しはにかむようにして二人から花束を受け取った.
「…ありがとう.おとうさん,おかあさん.」
二人からの花束を抱えてレイはマサツグとメグミに感謝する.そんな娘の姿にマサツグとメグミはにっこりと微笑んだ.
「お花,飾らなくっちゃねっ・・・とその前に.」
「その前に?」
にこにこ顔でメグミは花束を抱える・・・が,何か重大なことを思い出したような顔をする.メグミの言葉にマサツグがおうむ返しに尋ねる.レイもメグミの顔を見上げていた.
「お昼ごはんよ.」
マサツグとレイの二人の視線を受ける中,メグミが綾波家の昼ごはんを宣言した.
「(ずるずる)・・・お父さん,覚えていてくれたんだ.」
「(じゅる)・・・と,当然じゃないか.メグミとレイ,一緒の誕生日なんだから.」
「(ずずっ)・・・『エバン』のCDに気がいっっちゃって忘れてたのかと思ったわよ.」
「(ずるずっ)・・・そ,そんなこと・・・し,失礼だなあ.」
お昼のラーメンを食べながらメグミとマサツグが会話を交わす.メグミはマサツグに誕生日を忘れていたんじゃないかと突っ込んでいた.
「・・・本当かなあ?」
「ほ,本当だよ〜.」
「そう?・・・ま,いいわ.とにかくありがと.お花,嬉しかった.」
「・・・・・」
ジト目のメグミに少し焦り気味のマサツグ,真相は如何なるものだろうか.疑いの目をしながらもメグミはそれ以上は追及せずに夫のプレゼントを素直に喜ぶ.そんなメグミの仕草にマサツグはしばらく惚けて動きが止まった.
「・・・あ.ところで午後どうしようか?」
「買い物に行くわよ.レイ,欲しいものを考えてね.」
「・・・やっぱり行くの?」
「もっちろん♪」
それからややあって我に帰ったマサツグが午後の予定を尋ねる.買い物に行くというメグミにマサツグの顔が少し引きつった.というのも,マサツグは(特に女性の)買い物に付き合わされることを苦手としていたからである.嬉しそうなメグミとは対照的にマサツグは複雑な表情を浮かべていた.
「(すーっ すーっ)」
隣の布団で夫が静かに寝息を立てているのをメグミは確認する.昼食後,メグミとレイの誕生日プレゼントを兼ねた買い物にマサツグはさんざ付き合わされて「お疲れ」となっていた.しかも,今日はよく食べてしかもいつになくビールを沢山飲んだから床に着いてからマサツグはあっという間に寝入ってしまっていた.
『・・・今日はお疲れさま.あなた.』
「…はい.おとうさん.」
「(こぽ こぽ こぽこぽ)おっとっと.(じゅる)」
「…ごめんなさい.」
「ひどかったって?」
「・・・そう言えば未だにビール注ぐの下手よねえ.お父さんは.」
「それじゃ,ロウソクを立ててっと・・・」
「「「はっぴばーすでぃーとぅーゆー♪・・・」」」
「誕生日,おめでとう.メグミ,レイ.ロウソク,吹き消して.」
「それじゃ,乾杯!」
「「いっただきまーす!」」
「(はぐ はぐ)・・・・・・・」
「(はぐ はぐ はぐ)レイも6歳かあ.早いもんだなあ.4月から小学校だし.」
「「ごちそうさまーっ.」」
夫の寝顔を眺めながらメグミは心の中で感謝する.メグミは数時間前の出来事を振り返っていた.
「ありがとう.レイ.」
買い物から帰ってきた後,綾波家の居間ではレイがマサツグに缶ビールをお酌する光景が展開されていた.娘にお酌をされてマサツグはにこにこ顔で,レイの方はと言えば生まれて初めてのビール注ぎでちょっと緊張している.「お酌」はメグミの提案だった.彼女によれば「6歳になった記念にちょっと新しいことをやってみよう」という趣旨である.
たどたどしい手つきで缶を傾けるレイ.マサツグの手にするグラスにビールが満たされていく.泡が上がってきてレイは注ぐのを中断するが間に合わず,マサツグが慌ててグラスに口をつけた.
「気にしない.気にしない.初めてなんだから.お父さんが子供の頃,親父・・・おじいさんに初めて注いだ時はもっとひどかったんだから.」
うまくビールを注げなくてレイがマサツグに謝る.だが,マサツグはさほど気にはしていない様子だった.それから彼は自分の昔のことを引き合いに出す.
「うん・・・僕の時は瓶だったんだけどその瓶が冷たくて重たくて,注いでる途中で下に落っことしちゃったんだ.その後はもう大騒ぎだったよ.」
「そんなことがあったの?ドジねえ.」
マサツグの言葉にメグミが反応する.マサツグの昔の失敗にメグミは少し呆れ顔になっていた.
「ま,そうだね.で,どうする?僕が注ごうか?レイに注いでもらう?」
「・・・お父さんにお願いするわ.」
ビール注ぎに関してメグミに突っ込まれるマサツグだったが気にする様子も無く妻にどちらに注いでもらいたいかを尋ねる.メグミのグラスにマサツグがビールを注ぐ.マサツグはビールを溢れさせること無くメグミのグラスに注いで父親の面目(?)を保った.
レイのグラスにオレンジジュースを注いだ後,マサツグはおもむろにロウソクを6本取り出してバースデーケーキに突き立てる.レイだけでなくメグミの誕生日でもあるのだから,さらにあと20数本立てるべきなのかもしれないのだが流石にそれはなかった.
ロウソクに火を点けて部屋の明かりを消し,マサツグとメグミが誕生日の歌を歌い始める.レイも二人に合わせる.去年までは歌っていたのは夫婦二人だけだった.今年は家族三人全員である.
「「(ふぅーっ ふーっ)」」
歌い終わってマサツグが二人にロウソクを吹き消すよう促す.レイとメグミは小さめのバースデーケーキに立てられたロウソクの火に向かって息を吹きかける.吹く息の弱いレイをメグミが助けていた.程なく,6本のロウソクから火が消える.
「かんぱーい!」
「…かんぱい.」
部屋の明かりを点けてマサツグが乾杯の音頭を取る.グラスを掲げるマサツグにメグミとレイが続く.三人はお互いのグラスをカチンとぶつけるとグラスに一口そして二口と口をつけた.
「…いただきます.」
元気の良い声が綾波家に響き渡る.メグミとマサツグの声だ.二人とレイの目の前にはオーダーしたパーティー用料理が並べられている.フライドチキン,ロブスター,ベーコン巻きサラダなどと洋食系の品々だ.(バースデーケーキは最後と言うことで冷蔵庫に戻された.)「いただきます」の声と同時に一家三人の箸が料理に伸びていった.
「(もぐ もぐ)・・・・・・・」
「(ぱく ぱくぱく ごくごく)・・・・・・・」
それからしばらくの間,沈黙もしくは食べ物を咀嚼する音だけが綾波家を支配する.メグミとマサツグ共に食い意地は結構張っている方だったし,レイはレイでゆっくりと料理を片づけていた.
「(ぱく)しょうがっこう…」
「(もぐ もぐ)そうねえ・・・シンジ君やアスカちゃんとまた一緒のクラスになれるといいわね?レイ.」
「…うん.」
「おいしい?レイ?」
「…うん.」
料理をついばみながらマサツグが取り止めの無いことを話し始める.マサツグに相づちを打つメグミ.また,メグミはメグミでレイに話を振っていた.
「…ごちそうさま.」
それから小一時間ほどして三人は食事を終える.料理は全て平らげたがケーキの方は二切れほど残った.残ったケーキは恐らく明日のおやつになることだろう.こうしてレイとメグミ,母娘二人の誕生祝いはお開きとなった.
『さて,私も・・・・・?』
メグミも眠りにつこうと布団をかぶった.が,ふすまを挟んだ隣の居間から物音が聞こえてくる.メグミはかぶっていた布団をめくり上げ,傍らに置いてあったカーディガンを肩から羽織ってふすまの戸を引く.
「(すすーっ) レイ?」
「…おかあさん.」
ふすまの戸を引いたメグミは娘の名を呼んだ.薄暗い闇の中でパジャマ姿のレイが薄っすらと浮かび上がっていた.母に名を呼ばれてレイは振り返る.
「(すーっ ぱたっ パチッ) どうしたの?レイ?」
メグミは後ろ手でふすまを閉め,居間の明かりを点ける.急に部屋が明るくなってレイは目をぎゅっと閉じた.
「ねむれないの…」
部屋の明るさに慣れた頃,レイはゆっくりと目を開いてメグミの問いに答えた.彼女の赤い瞳に困惑の色が浮かんでいる.
『レイが眠れないなんて,珍しいこともあるわね・・・』
レイの答えにメグミは首をひねる.というのも娘レイは食べることと寝ることに関してはとりわけマイペースな子で,その寝つきの良さは一番身近にいるメグミですら驚くほどのものであったからだ.
「どうして眠れないのかな?」
「・・・・・・・」
「とにかく,部屋に行きましょっ.(パチッ)」
メグミの問いかけに今度はレイが首を傾ける.その様子にメグミはレイを部屋へと送り戻す.レイが自分の部屋に入ったところでメグミは居間の明かりを消した.
「(すーっ ぱたっ)」
メグミが部屋に入ると部屋の中央に敷かれた布団の上にレイがちょこんと座っていた.レイの部屋,昼間の時と少し変わっている.ワゴンの上には昼間プレゼントされた白と黄色のフリージアの花が花瓶に生けられていた.また,机の上にはエバン3号と4号の人形が加わってエバン戦士が全員集合していた.
「・・・昔取った杵柄とは言え,狙ってゲットするのはメグミの買い物に付き合うよりも疲れたよ.」
布団に潜り込む前,マサツグは苦笑いを浮かべながらメグミに語っていた.机のエバン人形はマサツグのクレーンゲームでの成果である.
「どうしたの?レイ.何を考えてたのかな?」
「・・・おかあさん,わたし,4月からしょうがっこうよね?」
「ええ…そうね.」
「…しょうがっこうのこと,かんがえてたの.」
メグミはレイの左隣に座り込んで話し掛ける.レイはメグミの顔を見上げる形で応えていた.レイは小学校のことを口にする.
「興奮して眠れなくなっちゃったの?」
「…ううん.」
レイの答えを聞いてメグミは楽しみで眠れなくなったのかと尋ねる.それに対し,レイは首を横に振った.
「…しょうがっこう,シンジくんやアスカちゃんといっしょになれるかな?」
『あ…そういうことなんだ.』
レイがぽつりと呟く.その言葉にメグミは得心した.今日の6歳の誕生日の出来事をきっかけに思い起こさせられた新しい環境への不安がレイを眠れなくさせたらしい.
「シンジ君やアスカちゃんと同じクラスになりたい?」
「うん.」
「一緒じゃないと嫌?」
「…うん.」
『新しいクラス・・・私も子供の頃,仲良しの友達と一緒になれるかどうか気を揉んだわね・・・クラス発表の前日なんか眠れなくなっちゃって・・・』
レイとの会話の中でメグミは昔を思い出し,目を細める.前のクラスが楽しかったものであればあるほど,新しいクラスには不安を覚えたものだった.
「一緒になれるかどうかは・・・先生が決めることだからね・・・」
「うん…」
楽観するわけでもなく悲観するわけでもなく,メグミは淡々とレイに語り掛けた.メグミの言葉にレイはちょっと不安げになる.
「・・・シンジ君やアスカちゃんが一緒じゃないと心配?」
「…うん.あたらしいクラスでみんなとなかよくできるかな?」
レイの様子にメグミは顔を近づけてレイに問い掛ける.レイはうなずき,そのつぶらな赤い瞳でメグミを見つめていた.
「心配無いわよ.私達が引っ越してきた時…レイのことを知ってる人,誰もいなかったわよね?」
「うん….」
「でも今,レイにはお友達がいる・・・そうでしょ?・・・その時になれば何とかなるものよ.」
レイに見つめられてメグミは努めて明るい口調でここ第三新東京市に引っ越してきた時のことを引き合いに出してレイを安心させようとする.ここに来た時,レイに友達といえる子はいなかった.だが今は,世話焼きでちょっと寂しがりやのアスカちゃん,律義で気の優しいシンジ君など何人かの仲良しの子がレイには出来ていた.
「う・ん…」
「…だあいじょうぶよっ.だってレイはこ〜んなに可愛い子なんだもの.」
それでも心配顔のレイにメグミは娘をぎゅうっと抱きしめ頬擦りする.もし,マサツグがこの場にいたら「・・・親バカ(笑)」と突っ込みが入るだろう.もっとも,マサツグにしてもメグミの立場だったら思わず頬擦りしてしまう・・・気がしないわけでもないのだが.
「…でもやっぱりアスカちゃんやシンジくんといっしょのクラスになりたい.」
メグミに抱きしめられてレイの表情が少し和らぐ.だが,それでも「さくら組」の仲良しと一緒のクラスになりたいというレイの願いはやっぱり変わらないようだ.
「・・・それじゃ,レイの願いが叶うようにお祈りしよっか?」
「おいのり?」
「そう.お祈り.」
メグミは背後からレイの両肩に手を置いて提案をする.後ろを振り向き母親を見上げる格好で提案をおうむ返しするレイにメグミはにっこりと微笑んだ.
「おいのりすると…おねがい…かなうのかな?」
「そうね・・・叶うかもしれないし駄目かもしれない.でも,祈ることから始まる・・・ということもあるんじゃないかな?・・・ま,気休めなんだけどね.」
「・・・・・・・」
レイの問いかけにメグミはちょっと困ったような顔をする.それからメグミは苦笑い半分の表情で娘に語り掛けた.レイは首を傾けて考え込む.
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「…おいのり,してみる.」
「そお?・・・それじゃ,姿勢を正しましょ.正座して.レイ.」
「…レイがシンジ君やアスカちゃんと一緒のクラスになれますように.」
「…なれますように.」
しばらくの沈黙の後,レイがメグミの提案に賛同する.レイの反応にメグミは「本当にこれでいいのかな?」という顔をちょっとだけ見せた後,一転して真顔になる.そして親子二人で布団の上で正座して両手を組んで瞑目し,真剣に願いの言葉を口にした.
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「…さ,もう寝なさい.レイ.」
「うん….」
ちょっと大げさとも言える「お祈り」を終えて,メグミがレイに話し掛けて寝かしつける.母親に誘導されてレイは布団の中に潜り込む.そして,それからメグミがレイの掛け布団の乱れをちゃっちゃっと直した.
「…おかあさん.」
「なあに?」
「いっしょにねてほしいの….」
「え?」
布団に潜り込んだレイがメグミに一緒に寝て欲しいとお願いする.レイの「お願い」にメグミが一瞬固まった.レイの赤い瞳がメグミの顔を見つめる.
「そうねえ・・・・・うーん,悪いけど一人で寝てちょうだい.レイ.」
「だめ?」
「ごめんね.その代わり,レイが眠るまでお母さん,側にいるから.」
「ほんとう?」
「本当よ.だから安心して眠りなさい.」
「うん.」
実に可愛らしい顔でレイにお願いをされたメグミだったがしばしの躊躇の後,メグミはやんわりと断る.小学校入学を機にメグミとマサツグはレイと別々の部屋で寝るようにしていた.だが,つぶらな瞳で見つめ続けるレイを前にしてメグミは眠るまで娘と一緒にいるということで妥協した.
「おかあさん.」
「なあに?」
「おはなし・・・きかせて.」
「レイったら,甘えん坊さんね・・・いいわよ.何がいい?」
「とんがりぼうしのようせいさん.」
「また?レイは好きね.このお話が.」
「うん.」
布団の中からレイが今度はお話をせがむ.メグミと話しているうちにすっかり甘えん坊さんになったレイであった.レイのお願いにメグミは微笑んで快諾する.
「では・・・昔々,お空の国から小さな小さな妖精達が山の中の湖に舞い下りました・・・」
レイが目を閉じてメグミが話を始める.それからしばらく,メグミは物語を語り続けていた.
「・・・ある日,妖精達が湖から離れて遊びに出かけると一軒の屋敷が・・・・・」
「・・・・・」
「おやすみ,レイ.・・・レイの願い,叶うといいわね.」
・・・綾波レイ,6歳の誕生日の日の出来事であった.
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公開1998+05/30
ご意見・ご感想等は
qyh07600@nifty.ne.jpにまで.
「幼稚園」最終話以来,最初の投稿になります.書き上げるまで好調と不調が交互に来る状態で結構難産でした.改めてこの異色の物語を支持してきてくださった皆様に感謝します.完結後,7人もの方からお祝い・ご感想のお手紙をいただき「最後まで投げ出さなくて良かったあ」と思うことしきりでした(^^).
また,筆者の「お願い」に応えてくださってありがとうございます.(いえ,筆者として本当に切実に気になってたんです.)・・・答えてくださった方複数回答の中では「歌うこと」が満票でした.他には「甘えること」「肝試し」などが好評だったようです.
“ここの”世界のレイの誕生日ですが,いわゆる「慣習(笑)」に倣って決めました.従って「幼稚園」の世界ではレイとメグミ,ユイとマナの4人が同じ誕生日ということになります.・・・近い将来,誰かさんが大変なことになるかもしれませんね(爆笑).
さて,今回は対談風の後書きに初挑戦しました(笑).肩の力を抜いてお気楽にご覧ください.
【お・ま・け】
「へえ〜,また書き始めたんだ.Vくん.」
(十数分後)
「・・・ふーん.ま,Vくんらしいと言えばVくんらしいんじゃないの?相も変わらず淡白な文章だけど.」
(つづく・・・の?)
注1:大家さんの小説「めぞんEVA」の世界とは少し位相がずれてます.多分(爆).
「ん?・・・その声は,2軒挟んだお隣のMさん(仮名−笑)ではないですか.」
「随分,説明的なセリフね.あ,この元ネタを知りたかったら初号館の間取りを見てね(注1).で,完成したんでしょ?お姉さんに見してん♪」
「(そっちこそ説明的なんじゃ・・・)ま,いいですよ.どうぞ.」
「どうも・・・あんまり進歩が無いのは自覚してるんですけどこればかりはどうにも・・・・・ねえ(苦笑).」
「ねえって・・・そう言えば今回はちびアスカちゃん,名前だけなんだ.」
「ま,話が話ですし・・・・・(思い通りに書けたかどうかは別にして)一番最初に書きたかったエピソードだったし・・・・・投稿先のHP管理者さんを始めとする“アスカちゃんな”方には今回は“ごめんなさい”なんですが.」
「そ・れ・に」
「それに?」
「私のひいきのシンちゃんが出てないじゃない!それに私がモデルだというミサト先生,連載で全然活躍しなかったしぃ〜(と言って,筆者Vの首を絞める)」
「く,苦しい・・・と,とりあえず,シンジ君とアスカちゃん,ミサトさんについては外伝を書く予定…あります.」
「本当?」
「ええ.(“予定は未定”という言葉もあるけど−笑)」
「そう.だったら,書くからには自分なりでいいからきちんとしたものを書くのよ.いいわね?」
「は・い.(先生みたいなことを・・・・・あ,中学校の先生だったんだっけ−笑)」
「それじゃ,お約束の口上だけどこの筆者に何か言いたいことがあったら qyh07600@nifty.ne.jpに送るのよ.感想のメールなんかが来るとすっごく嬉しいみたいだから.・・・あ.Vくん,今日お馬さん見に行くからあとよろしくねん♪」
「へ?(・・・あとよろしくっていったい!?)」