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私立第三新東京幼稚園A.D.2007



第六話 遠足(後編)


遠足当日の朝,第三新東京市上空は雲一つ無い青空が広がっていた.

−朝 碇家−

「ふぁ,おとーさん,おかーさん,おはようぅ.」
「ああ.おはよう.」
「おはよう,シンちゃん.まだ寝ててもいいのよ.」
シンジは自分で起きていた.ややはれぼったい目をしていたが.

−朝 惣流家−

「おはよう,ママッ!」
「おはよう,アスカ.早いわね.顔洗ってらっしゃい.」
「はーい!」
アスカは洗面所に行って顔を洗った後,気合を入れていた.

−朝 綾波家−

「レイ,レイ.今日は遠足でしょ.はやく起きないとだめよ.」
「…(ふあああ)おはよう….」
レイは寝ぼけまなこで母メグミに起こされていた.

−集合場所 第三新東京幼稚園−

「みんなー,二列になって集まって!」
幼稚園の中庭で黒のトレーニングウェア姿のマヤは体操帽に運動着姿の園児達に集合の号令をかけていた.
「「はーいっ」」
マヤが受け持つシンジ達のクラス「さくら組」の園児達は程なく列を構成した.
「全員,二列で集合!」
切れ長の目に中分けの長髪の男性教諭が集合の号令をかけた.
「「はーいっ」」
これもまた,程なく列を構成と思いきやおもいっきり列を乱している一団がいた.見れば一人の園児の周りに数人の園児達が集まっている.
「ちょっと,あいだっ,いいかげんにしまいなさいっ!」
カメラを取り出してまわしているケンスケをヒカリが注意した.
「べつにええやんか.」
ケンスケの代わりにトウジが言い返す.
「なんですってぇ!すずはらたちがそんなことしてるからいつまでたってもしゅうごうできないんじゃないっ!」
と言ってヒカリはトウジの右耳を引っ張った.
「イテテッ,か,かんにんしてくれや….」
昨日と異なってすぐ実力行使に出たヒカリにトウジはあっさり降伏した.
「とりあえず,これは昼食まで先生が預かる.」
先述の男性教諭がケンスケの手からカメラを取り上げた.
「えー?なんでだよー!カメラはもちこみきんしってプリントにもかいてなかったよー.シゲルゥ!」
カメラを取り上げられたケンスケが不平を言った.
「あおばせいせいでしょっ.」
シゲルと呼んだことをヒカリが注意した.
「と,とにかく集団行動を乱すようではカメラは持たせられないな.さ,二列に並んで.」
トウジ達のクラス「かきつばた組」担任青葉シゲルは再度集合の号令を掛けた.
『今度からカメラ禁止もしおりに書こうかなあ?』
園児達を並べながらシゲルは考えていた.

−第三新東京市郊外 森林公園−

幼稚園から目的地の森林公園までの移動の間,園児達と先生は歌を披露したりしりとりをしたりして過ごしていた.一時間はあっという間に過ぎてゆき一行は目的地に着いた.
「みんなー,これから歩くコースについて説明します.」
マヤが園児達を集めて午前中の移動についての説明を始めた.隣のかきつばた組の方でもシゲルが同様の説明を始めていた.他のクラスでも同じ光景が見受けられていた.
園児と先生が歩くコースは公園内にあるいくつかあるコースの中でも一番距離が短く道も平坦なものであった.それでも片道3KM弱あるので園児の足だとそれなりのものではあったが.
移動中の隊列は園長先生が先頭に立ち,年長組4クラス…さくら組・かきつばた組・あやめ組・つばき組の順で園児達は二列隊形で並び各クラスのしんがりに担任が付くという形であった.シンジはさくら組の先頭でレイと並んでいた.

「…ねむそうだけど,だいじょうぶ?」
寝不足なのか低血圧なのかいまひとつはっきりとしないレイにシンジが声をかけた.
「…んん…だいじょうぶ…ありがとう….」
レイはやや眠たげにシンジに応えた.
「レイちゃん,つらかったらすぐいってね.」
「…うん.」
列の先頭ではそんなやり取りが行われていた.

「いとしのシンちゃんといっしょじゃなくてざんねんだったなあ.そーりゅー?」
アスカの隣のツヨシが挑発してきた.ちなみにツヨシのフルネームは相馬ツヨシという.
「アンタ,アタシにケンカうろうってぇのっ?」
アスカはそう言ってツヨシの方を睨みつけた.
『あーあ,なんでしゅっせきばんごうなんかでたいれつをきめるのよー.はやくおひるにならないかなあ.』
ツヨシを睨みつけた後,アスカは独り考えに浸っていた.

「それじゃ,お昼にしまーすっ!」
「「「はーいっ!!」」」
二時間半ほど歩いて目的地に着いた園児達は「お昼」の声に正直に反応した.
「マヤせんせー,いっしょにたべましょっ.」
「マヤせんせえ,こっちこっちぃ.」
「せんせぇ,いっしょにたべようっ.」
「マヤあ,いっしょにたべよーぜー.」
「マヤせんせい,いっしょにたべてくださいっ.」
マヤはさくら組の園児だけでなく他のクラスの園児にまでお昼を一緒に食べようとばかりに引っ張られていた.
「シゲルー,いっしょにたべよーぜー.」
「せんせえ,いっしょにたべようっ.」
「シゲルさまあ,いっしょにたべましょっ.」
「あら,シゲルさまはわたくしとたべるのよっ.」
シゲルもまた園児達に引っ張りだこであった.マヤとは別の意味での慕われようだったが.

シンジ・アスカ・レイの三人は自然と集まってお昼を食べる場所を探していた.
「あのー?そうりゅうさん?」
三人の背後から聞き覚えのある声がした.三人が振り返るとそこにはヒカリ・トウジ・ケンスケの三人が立っていた.ケンスケはシゲルから返してもらったカメラをまわしており,トウジはアスカと目を合わさないようにそっぽを向いていた.
「なあに?えっと….」
「ほらきヒカリよ.ヒカリでいいわ.」
アスカが名前を思い出しているとヒカリが名乗った.
「アタシもアスカでいいわ.ところでなんのよう?ヒカリ?」
「いっしょにおひるどうかなあとおもって.それに,ちょっとすずはらっ.」
ヒカリはそういってトウジの腕を引っ張った.トウジは不承不承の態度でシンジ達の前に出てきた.
「ほらっ,すずはらっ.」
ヒカリがトウジをうながす.トウジは気まずそうな顔でシンジの前に立った.
「き,きのうはすまんかったな.ワイのほうもようまえをみてんかったから….」
そう言ってトウジは頭を下げた.
「…いや,そんな,あたまなんてさげないで.ぼ,ぼくのほうもわるかったんだし.」
トウジの行動に慌てたシンジが頭を下げるのをやめさせようとした.
「じゃあ,ゆるしてくれるんか?」
「もちろんだよ.」
「おおきにな.ワイはすずはらトウジ.トウジでええわ.」
「ぼくはいかりシンジ.ぼくもシンジでいいです.」
お互いに謝ったのを見てヒカリは安堵の表情を浮かべた.
「それからレイちゃん.きのうはまきこんでほんまにすまんかった.」
トウジは昨日に引き続きレイに頭を下げた.
「…ううん…もうきにしてないから….」
レイはトウジの行動にちょっと困った表情を浮かべながら小さな声で応えた.
「それから,そーりゅー,きのうはかっとなってもうてわるかったな.」
先の二人と異なりトウジは目をそらしながらアスカに言った.
「すずはらっ.」
ヒカリがトウジの態度をたしなめた.
「まっ,いいわよっ.シンジにあやまったんだし.」
アスカもまたトウジを見ずに応えた.
「そ,それじゃおひるにしましょっ.」
気まずくなった空気を振り払おうとヒカリが宣言した.
『こまったわね….』
ヒカリはトウジとアスカの間にわだかまりが残っていることを憂いていた.
ちなみにケンスケはこの一部始終をカメラに収めていた.

六人は弁当を食べるのに適当な場所を見つけると円を組んで座った.座り方はシンジを基点に右回りでアスカ・ヒカリ・トウジ・ケンスケ・レイの順だった.従ってシンジの両隣はレイとアスカが座っていた.六人は改めて自己紹介した後,各自の弁当を広げた.
「え!」「あ!」「…!」
シンジの弁当のおかずを見たシンジ・アスカ・レイの三人は驚いた.シンジの弁当のおかずは鳥の唐揚げと卵焼き・いんげん豆を煮た物でこれらは昨日三人で買ってきたものが材料となっていた.
「ユイおばさまもいきなことするわね.シンジ,アタシとレイがえらんだんだからよーくあじわってたべなさいよっ.」
感心した表情でアスカがシンジに言った.
「うん!」
シンジが満面の笑みで応えた.
「......」
レイは顔が火照るのを感じていた.
「いやあ,シンジせんせはしあわせもんやなぁ.」
三人の光景を見ていたトウジが茶々を入れた.
「なによっ.」
「まあまあ,こんなばめんそうそうでくわさないんだし.」
トウジの茶々にアスカが反応したところへケンスケがカメラをまわしながらフォローを入れた.
「それよりはやくいただきましょっ.」
不穏な状態にならないうちにとヒカリが話を打ち切った.
「「「「「いっただきまーすっ」」」」」「…いただきます…」
いただきますの言葉の後,六人はしばらくの間弁当を食べる事に集中していた.

「ねえ,シンジ.アタシのハンバーグあげるからそのたまごやきちょうだい.」
弁当を食べ始めてしばらく後,アスカはシンジにおかずの交換をねだった.
「うん.いいよ.」
シンジは間髪置かずに交換に応じた.
「おいしいっ!やっぱりユイおばさまのたまごやきってさいこうよねーっ.」
アスカはユイの作った卵焼きを満足そうにほおばっていた.
「......」
レイはアスカの表情を見て自分も卵焼きが食べたくなっていた.が,シンジに何も言えずにただシンジの方を見つめていた.
「…?…!…はい,レイちゃん.」
シンジはレイの視線に気づいた.シンジは最初なぜレイが自分を見ているのか分からなかった.が,さっきの事を思い出してフォークに卵焼きを刺してそれをレイの口の前に持っていった.しかし,レイは真っ赤になって俯いてしまった.
「「おーっ!」」
トウジとケンスケがシンクロして声をあげた.
「ち,ちょっとなにやってのよっ!バカシンジ!レイがはずかしがってるじゃないっ!」
シンジの行動にうろたえたアスカが大声をあげた.
「それにレイっ!アンタもたまごやきがたべたいならたべたいっていいなさいよっ!まったくグズなんだからっ!」
「…ごめんなさい….」
アスカに怒られてレイは下を向いてシュンとしてしまった.その様子にアスカはしまったと思った.
『なんでレイにあんなきつくあたっちゃったんだろう.』
アスカは自分の取った態度に戸惑いと嫌悪を感じていた.
「と,とにかくシンジ!アンタもレイのべんとうからなにかもらいなさいよっ.」
アスカは気まずい空気を振り払おうとシンジにレイとおかずの交換をするよううながした.
「…うん.レイちゃん,ぼくのたまごやきとそのアスパラのベーコン巻きこうかんして.」
シンジはうなずくとレイにおかずの交換を要求した.下を向いていたレイも顔を上げて交換に応じた.
「それじゃ,いただきまーす.」
シンジはレイからもらったベーコン巻きを口に運んだ.レイはそれをじっと見つめていた.
「おいしいっ.」
シンジは満面の笑みを浮かべた.それを見てレイも卵焼きを口に運んだ.卵焼きはレイの口の中で甘く柔らかく広がった.
「…おいしい….」
レイも少し顔を赤らめながら微笑みを浮かべた.レイの表情を見てアスカは安堵した.
「さっきはごめんね.きつくあたっちゃって.」
「…ううん…いいの.…ありがとう,アスカちゃん.」
気まずくなっていた空気が振り払われていった.

「そんなにうまいんか?シンジのべんとうのたまごやきは?」
いつのまにかシンジの背後に来ていたトウジが言った.
「もちろんよっ.」
シンジの代わりにアスカが答えた.
「なあ,せんせ,わいにもひとつわけてーな.」
「うん.いいよ.」
トウジの要求にシンジは快く応じた.
「ちょっと,アンタもなにかおかずをだしなさいよっ.」
二人のやり取りを聞いていたアスカが口をはさんだ.
「せやかてワイのべんとうはもうからやし,それにせんせがええってゆうてるんやからそーりゅーがくちをはさむことやあらへん.」
口をはさんできたアスカにトウジが言い返した.
「なんですってぇ!?」
トウジの言い草にアスカもケンカ腰になってきた.
「もう,やめてっ.すずはらのぶんはわたしがだすからっ.」
また険悪になるトウジとアスカにたまりかねたヒカリが自分のおかずを出す事を申し出た.
「ヒカリっ,こんなやつあまやかすとつけあがるわよっ.」
「すずはらはこんなやつじゃないもんっ.」
アスカの物言いにヒカリが反発した.見れば半分涙目になっていた.
「…ご,ごめん….」
言い過ぎたと思ったのかアスカはヒカリに謝った.
「なーんかしらけちまったな…って,ヒカリ,なんやたまごやきあるやんか?」
と言ってトウジはヒカリの弁当を覗き込んだ.ヒカリの弁当箱の中にも卵焼きが入っていた.ただ形は少々不格好で少し焦げ目がついていたが.
「だ,だめっ.これはしっぱいさくだから….」
ヒカリは慌ててトウジから自分の弁当箱を隠そうとした.が,それより素早くトウジはヒカリの弁当から卵焼きをつかみ取って口の中に入れた.
「(はぐはぐはぐ)…いけるでこれ.なあ,ヒカリ,もういっこくれーな.」
『すずはら….』
ヒカリが何も言わないのを承諾とみたのかトウジは次から次へと卵焼きを口に入れて残っていた分を平らげてしまった.

「ねえ,ヒカリ.おべんとうじぶんでつくってきたの?」
トウジの行動で固まった一同の中からいち早く抜け出したアスカがヒカリに尋ねた.
「え?ううん.あのたまごやきだけ.うまくつくれなかったんだけど.」
「そないなことない.うまかったで.ヒカリのたまごやき.」
「アンタにはきいてないわよっ.あーあ,アタシもたべたかったなあ.」
「あのときすなおにせんせのたまごやきをわたせばそうならなかったんや.あとのまつりやで.」
「…なっ….」
トウジに言い込められてアスカは言葉に詰まった.
「いっぽんとられたね.アスカ.」
シンジは微笑みながらアスカに言った.
「シ,シンジまで…なによっ.もうっ.」
アスカは真っ赤になりながら頬をぷうっと膨らませた.それを見てヒカリが吹きだした.それにつられてトウジ・ケンスケ・シンジも笑い出す.レイも笑うのをこらえていた.
「もう,ヒカリまでなによっ.レイっ.アンタも?」
アスカは怒ったような困ったような表情を浮かべて叫んでいた.

「楽しそうね.」
ようやく笑いが一段落した頃,マヤが六人に声を掛けた.マヤやシゲル達先生方は昼食の間あちこちの園児達の所をまわっていた.
「あ,マヤせんせい.」
シンジが声をあげた.
「こんにちは.」
マヤは微笑み応えた.
「こんにちは.」×6
それぞれ挨拶を返した.
「ちょっとおじゃましていいかな?」
「ええ,どうぞ.」
全員を代表してアスカが応えた.
「じゃ,おじゃましまーす.」
マヤはそう言ってシンジとレイの間に座った.
「あなた達,うちのクラスの子じゃないわね.私は伊吹マヤ.さくら組の担任よ.ちょっと自己紹介してくれるかな?」
マヤはヒカリ達を見てそう言った.
「ほらきヒカリです.」
「ワイはすずはらトウジ.」
「あいだケンスケです.」
三人それぞれ自分の名を名乗った.
「よろしくね.とこでシンジくん達とは前からお友達?」
マヤはヒカリ達に疑問をぶつけた.
「いいえ.じつは…」
ヒカリはマヤに昨日の出会いから今日一緒に昼食を共にするまでの経緯をマヤに話した.
「…ということなんです.」
「ふーん,そうだったの.そういうこともあるのね.でも,ケンカはだめよ.アスカちゃん,トウジくん.」
「ワ,ワイはべつに….」
「ア,アタシだって….」
トウジとアスカはそれぞれ自分からケンカを始めたわけではないと言いたげだった.
「ところでレイちゃん,転入して2週間になるけど幼稚園は楽しい?」
マヤはレイに向き直って尋ねた.
「…はい.」
レイはもじもじしながらマヤに応えた.
「そう.」
マヤはレイに微笑んだ.
「シンジくんにアスカちゃん,幼稚園は楽しい?」
「たのしいですっ.」
「もちろんよっ.」
シンジは笑みを浮かべてアスカは胸を張ってマヤの問いに応えた.
『…よかった.ほんと…かわいいわね….』
マヤは三人の表情を見て安堵した.
それから六人と二言三言話したマヤは席をたった.
「午後の自由行動の前の集合に遅れないでね.」
去り際にマヤは六人に集合の事を告げた.

午後に入って園児達は森林公園のひらけた緑地で遊び始めた.先生方のお達しでは森の方に入ってはいけないという事だったがそれを破る子は必ずいるもので何人かは先生の監視をくぐりぬけて森の中に入っていった.
「おーい,ケンスケ.なにかおもろいもんあったかぁ?」
「いいや,さっぱりだな.」
トウジとケンスケも先生とヒカリの目を盗んで森の中に入っていた.
「まったくどこへいったのかしら?まさかもりのなかにはいったんじゃないでしょうね?」
ご明察.二人に撒かれたヒカリは森の近くを歩いていた.そこでヒカリは森の中から出てきた三人組の園児達と鉢合わせた.
「!」
「!」「!」「!」
「あなたたちなにやってるの!?」
先に口を開いたのはヒカリだった.
「なにって.なあ.」
「なあ.」
「ああ.」
三人組は相手が一人でしかも女の子だと分かるととぼけることに決め込んだ.
「わたし,あなたたちがもりからでてくるのみたんだからねっ!」
ヒカリは三人組の態度に多少引きながらも言うべきことを言った.
「みたっていってもなあ.」
「ここにはおれたちしかいないし.」
「だまってりゃわからない.」
三人組はそう言うとずいっとヒカリの方に迫った.三人組としてはヒカリをちょっと脅してから去るつもりだった.が,自分達が森の中で集めていたものの存在を忘れていた.

「きゃあぁぁぁーっ!!」

ヒカリは三人組の集めていたものを見て悲鳴をあげた.言うまでもなく集めていたものとは毛虫・イモムシ・カイガラ虫の類だった.
「ありゃりゃ.」
「まいったな.」
「さくせんしっぱいか….」
三人組…タカシ・ツヨシ・カズヒロは予定外の事態に困惑していた.虫の類を集めていたのはもちろんアスカへのリターンマッチ用のものだった.

「ヒカリになにさらしとんじゃっ!」

三人がみるとそこにはトウジが憤怒の表情で立っていた.なぜかケンスケはいなかった.
「ま,まずいっ.」
「どうする?」
「かくなるうえはせんめつさせるのみ.」
三人はどこかずれた言葉を発しながら体勢を整えた.
「いくぞ,ふぉーめーしょんぜっと!」
「おう!」
「とう!」
タカシとカズヒロがトウジを包囲し,ツヨシがヒカリの脇についた.ツヨシは虫の類が入った帽子をヒカリのそばにかかげた.
「ぐっ.」
トウジはうめいた.元から三対一の上にヒカリを人質に取られて絶対不利に立った.トウジはタカシとカズヒロにじりじりと間合いを詰め寄られていた.
「ヒカリをはなせっ.おんなのこひとじちにとるなんておとこのすることやないっ.」
トウジは不利な状況の中,三人組に叫んでいた.
「そんなこといわれてもなあ.」
「ここまできちまうと….」
「あともどりはゆるされない.」
三人は口々にそう言ってトウジの要求を却下した.タカシとカズヒロは手にした虫類の入った帽子の中身をトウジにぶちまけようとしていた.
「すずはらっ,にげてっ.」
「そないなことできっかっ.」

「たあぁぁぁーっ!!」

トウジと悪ガキ二人が声の方を向くとそこには帽子を飛ばしながらツヨシに飛び膝蹴りをかましたアスカの姿があった.後方にはケンスケ・シンジ・レイが続いていた.

「アンタたちっ!!かくごはできてんでしょうねぇっ!!!」

ケンスケから事情を聞いていたアスカは仁王立ちになってタカシとカズヒロを睨みつけた.ツヨシは飛び膝蹴りのダメージから回復していなかった.
「か,かくなるうえはっ.」
「これでもくらえっ!!」
タカシとカズヒロは虫達をアスカに向けてぶちまけた.

「おなじてはにどとくらわないわよっ!!」

アスカは素早く虫達を避けるとタカシの前に出て思いっきり頬を張った.一方カズヒロの方はトウジに頭突きをかまされていた.
「いってーっ.」
「......」
「うっ.」
形勢は完全に逆転していた.タカシとカズヒロは捨てぜりふを吐いてツヨシを引きずって逃げていこうとした.

「まちなさぁぁーいっ!!」

「またんかーっ!!」

アスカとトウジは逃げて行こうとする三人を追いかけようとした.

「もうやめてっ!」

ヒカリが追い討ちをかけようとする二人を止めた.

「すずはらもアスカももうやめてっ.ケンカはだめだってマヤせんせいもいってたでしょっ.」

「せやかて….」
「それはそうだけど….」
トウジとアスカはヒカリの剣幕に押されながらも何か言おうとした.

「とにかくもうやめてっ.わたしはもうだいじょうぶだからっ.」

「わ,わかったがな.」
「わかったわよ.」
ヒカリに完全に気圧された二人は三人を追いかけるのを諦めた.
「いいっ.ケンカはダメよっ.」
「「…はい.」」
ヒカリに注意されて二人は大人しくなった.
「…でも,すずはら,アスカ,…ありがとう.」
二人を注意した後,ヒカリは助けてくれたお礼を二人に言った.

「…さて,と,ぼうし,ぼうし.…あった.」
飛び膝蹴りをツヨシにかました際に飛ばしてしまった帽子をアスカは見つけ出し頭にかぶろうとした.
「あっ,アスカ,そ,それは….」
シンジがアスカの動きを止めようとしたがアスカは帽子を頭上に持ってきてしまった.

ばさっ

アスカの頭上から毛虫・イモムシ・カイガラ虫が降ってきた.アスカは自分の帽子とツヨシの帽子を間違えていた.

「い,いやぁぁぁーっっ!!シンジ,とってぇー!!」

アスカの悲鳴にシンジ達は慌ててアスカにまとわりついた虫達を取り払っていた.
「…そーりゅーもおんなのこやったんやな.」
トウジはアスカが聞けば半殺しにされかねないことを誰にも聞こえないようにつぶやいていた.


「ううっ,いたい….」
帰りの列の中でツヨシはマヤ経由で返してもらった帽子をかぶって歩いていた.
「あれははんそくだよな.」
「うんうん.」
タカシとカズヒロが半ば無責任に応えていた.ちなみに帰りの列はクラスごとに分かれてること以外は自由に並んでいた.

「たのしかったね.」
「そうねっ.」
「…うん.」
「そやな.」
「ええ.」
「おもしろいものとれたし.」
シンジ達はそれぞれクラスの最前方と最後方にいて六人で話しながら帰り道を歩いていた.

帰りのバスに乗ると園児達の大多数は寝入ってしまった.バスが幼稚園に着くと園児達は眠たげにバスから降りて,中庭に集合した.それから先生の話の後,解散になった.園児達は歩いて帰るもの,送迎バスにのるものそれぞれめいめいに帰途についた.

−夕刻 綾波家−

「ただいまっ.」
メグミが買い物から帰ってくるとリビングのテーブルで寝ているレイを見つけた.メグミは微笑んでレイを起こさないよう布団に運んだ.

−夕刻 惣流家−

「たっだいまーっ.」
「おかえり.たのしかった?」
「うん!」
アスカはキョウコに満面の笑みを浮かべていた.

−夕刻 碇家−

「ただいまっ.」
「おかえりなさい.遠足はどうだった?」
「あのね,あのね,きょうは…えーと…たのしかったっ!」
シンジはユイに今日あったことを話そうとした.が,うまく話せなかったのでただ微笑んで応えた.
『シンジ….』
次の瞬間,ユイはシンジを抱きしめて頬をすりすりしていた.


第七話に続く?

公開05/24
お便りは qyh07600@nifty.ne.jpに!!

1997/05/19 Ver.1.0 Written by VISI.



筆者より

あれもこれもと詰め込んだおかげで六回の連載の中で最長となりました.
「とびひざげり」は危険です.しゃれにならないので実践するのはやめましょう.
今回はトウジ×ヒカリな話になっています.(シンジ達も始めと最後,それに中程でもいろいろとありますが.)
カメラを持ってくる園児なんて普通いないと思いますが…まあ持たせてしまいました.(笑)
オリジナルキャラの悪ガキ三人組ですがあっちの世界にいきつつあります.(^^;)
レイの母の名前ですが「メグミ」に決まりました.(べたべたですね.)ご意見メールを送ってくださった方,ありがとうございました.
ご意見・ご感想お待ちしております.


誤字・脱字・文章・設定の突っ込み等は,
までお願いします.


 VISI.さんの『私立第三新東京幼稚園』第六話、公開です。

 「さくら組」のアスカ・レイ・シンジと
 「かきつばた組」のトウジ・ヒカリ・・・・それともう一人は、えーと・・・ああ、ケンスケ。(^^;
 六人の楽しい1日でしたね。
 ・・・・それにしても、「かきつばた」とは渋い(^^)

 バスの中で歌ったり、
 2列になって歩いたり、
 みんなでお弁当を食べたり、すごく楽しそうです。

 私も小学校の遠足を思い出しましたよ(^^)
 

 悪ガキ3人集との戦いも今回はトウジが主役でしたね。
 怖いながらも注意をしてしまうヒカリちゃんは、もう「委員長」なんですね。

 お家に帰ってからのママへの報告にもそれぞれの性格が出ていてとても可愛かったです。

 シンちゃんを抱きしめたい・・ってなに言ってんでしょ、私は(^^;

 さあ、訪問者の皆さん。
 貴方も遠足の想い出にひたりましたか?
 感想と合わせてVISI.さんに教えてあげて下さいね(^^)/


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