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私立第三新東京幼稚園A.D.2007



第二話 自己紹介


「気をつけて,いってらっしゃーい.」
ユイは二人をバス停まで連れて行き,園児送迎用バスに乗せた.
ここ第三新東京市は20世紀に成立した大保守連合政権による首都機能移管政策の一環で 計画された「新東京市」の一つで国内7ヶ所で前例のない急ピッチで建設が進行してい た.
新都市の人口構成は建設以前の住民を除けば建設関係・誘致した企業や研究所・移転し た政府組織の関係者が多数を占めていた.急激に増えた人口の割には 学校…特に保育所・幼稚園は数的に多くなかった.
『さて...と.私も戻らなくっちゃ.』
ユイもまた研究者としてゲンドウと共に市内の研究施設に勤務していた.


−私立第三新東京幼稚園−

「…みなさんは今日から年長組になるわけですが小さい子達とも仲良くするのですよ… 」
水色のブラウスに紺のスカート姿の初老の女性…園長先生が年少組からそのまま持ち上 がりの年長組のクラスで話していた.
「…さて,今日からみなさんと一緒に勉強する新しい先生を紹介しますね.」
黒髪でショートカットの20歳前後の整った顔立ちをした女性が白のトレーナーにジーン ズのいでたちで入って来た.
「伊吹マヤです.みんな,仲良くしてね.」
マヤは微笑みながら通りの良い声で第一声をあげた.もともと整った顔立ちの彼女だが ,微笑むと周囲の空気が和らいでいく.
「おーっ!」「はーい!」
それぞれ思い思いの言葉で園児達は返事する.シンジやアスカもまた同様であった.
「それじゃ伊吹さん,あとはお願いしますね.」
そう言って,園長先生は教室を後にした.
「マヤせんせい,そとであそぼーっ!」
「マヤせんせー,どこすんでるのー?」
「マヤせんせぇ,てれびげーむやるー?」
「いぶきせんせい,ごほんはすき?」
「せんせぇ,たんじょうびは?」
「マヤぁ,すきなたべものなんだぁ?」
「マヤせんせい...」
園長先生が退出すると園児達はそれぞれ矢のように質問やらおねだりをマヤに浴びせ掛 ける.マヤはともすれば収拾がつかなくなる状況に対してきぱきと質問に答えていった が全てに答えるのに30分強かかった.
「それじゃ今度はみんながわたしに自己紹介してね.」
質問が一段落するとマヤは園児達に問い掛けた.
「それじゃまず,碇シンジくん.」
出席簿を見ながらマヤはあいうえお順で先頭の園児の名前を呼んだ.
「はっ,はいっ!」
シンジは緊張の面持ちで椅子から立ち上がった.
『いちばんだし,アスカのまえだし,しっかりやらなくちゃ.』
シンジは母ユイの言葉「人の目を見て話すのよ」ということを思い出して,マヤの目を 見つめた.するとマヤはにっこりと微笑んできた.

「いっいっかりぃひーっ」

マヤに微笑まれてシンジは舞い上がり,声が裏返った.
「どーしたぁ,シンジィー!」
「ほれちゃったのお?シンちゃーん?」
「なっさけねーの」
クラスの中の悪ガキと呼ばれている三人組がシンジを冷やかす.
「ちょっとやめなさーいっ」
マヤが三人の冷やかしを止めようとする.
「あー,ひーきだ,ひーきー」
「シンちゃんの,とっしっうえっごろしーっ」
「けっ」
マヤと三人のやりとりにクラス内が騒ぎ出す.騒ぎの中,シンジは下を向いてますます 真っ赤になっていった.
「みんな静かにしてっ!」
マヤは騒ぎを静めようとするが三人組はかえってまぜっかえすわ,静かにしていた園児 も騒ぎ出す者,意味も無く走り出す者,床をごろごろしだす者,眠り出す者(っておい っ)等々が出てきて騒ぎは大きくなるばかりであった.





「うるさぁぁーいっ!!!」



その声は大騒ぎの中クラス中に響き渡った.その場に居た者全員が沈黙し,声の主の方 を向いた.アスカだった.

「タカシ,ツヨシ,カズヒロ!!ガキみたいなバカやってん じゃないわよっ!」

と悪ガキ三人組を「口撃」した.

「それにバカシンジっ!あんたがそんなだからあいつらにな められるのよっ!」

返す刀でシンジにも言葉の剣を突き刺した.
「(ぼそっ)おまえだってガキだろうが...」
「(ぼそっ)あんたがいちばんうるさい...」
「(ぼそっ)バカよわばりするほうがもっとバカ...」
悪ガキ三人組…タカシ,ツヨシ,カズヒロはそれぞれ小さい声で言い返していたが,ア スカが「なによっ!?もんくあんの?あんたらまたあたしにのさ れたいわけ!?」と言わんばかりの目で睨んでいたのでそれ以上何も言わなか った.
「そっ,それでは続けますね.井ノ神キクコちゃん...」
騒ぎが静まってようやく我に返ったマヤが園児達の自己紹介を再開した.が,マヤはシ ンジの自己紹介がまだ終わっていなかったことを忘れていた.園児達も忘れていた.一 名を除いて.
『はぁ,またしっぱいしちゃったよ...アスカにおこられる...』
シンジはひとりごちていた.


−送迎バスからの帰り道−

「シンジ….」
アスカはシンジに話し掛けた.
「な,なに?アスカ?」
シンジは幼稚園での騒動を思い出し恐る恐る返事をした.
「あいつらのいうことなんかきにすんじゃないわよ.」
「え?」
「とにかくそーゆーことっ!」
アスカは話を打ち切るとシンジの手を引いて家路についた.
『あれ?いつもだったら5分はせっきょーするのに?』
シンジの頭の中では疑問が渦巻いていた.

第三話に続く?

公開05/02
お便りは qyh07600@nifty.ne.jpに!!

1997/04/30 Ver.1.1 Written by VISI.



筆者より

マヤを幼稚園教諭として登場させました.(年齢差については別世界ということで.. .)トウジ,ケンスケ,ヒカリは少なくともシンジ達と同じクラスではないようです.
代わりに悪ガキ3人が登場していますが力関係はアスカが完全に上ですね.

誤字・脱字・文章・設定の突っ込み等は,
までお願いします.


 [VISI.]さんの連載投稿「私立第三新東京幼稚園」第2話公開です!

 園児に振り回される保母のマヤちゃん・・・・可愛いんだろうなぁ・・・
 ああ、園児になりたいっ(笑)

 元気いっぱいの子供達の様子が伝わってきて楽しくなりました。
 シンジに何かとかまうアスカちゃんもラブリー!!
 がんばれ女番長! 悪ガキに負けるな!

 VISI.さんの描く幼稚園の光景にメロメロになった貴方! ぜひメールを送って下さい!!


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