第七話 作戦 リツコは、薄暗い廊下を何百回と歩いてきたような足取りでツカツカと音を 立てて先を歩いている。ミサトはその後ろ、シンジは更にその後ろを歩いてい た。シンジは一抹の不安を抱きながら歩いていた。 …付いてきたこと、謝らなきゃ…でも、なんて言おう… 「シンジ君……こっちよ…」 「あ、はい…」 それは、重厚な扉に見えた。しかし、カードキーで簡単に開くのを見て、呆 気にとられる。しかし次の瞬間、シンジはミサトに手招きされてその中に入っ ていった。 「ご、ごめんなさい……ミサトさん…僕…」 「いいのよ、シンジ君。それより、リツコの話を聞いて」 「はい……」 そう言ってシンジは、中央に置いてあるテーブルに座った。 リツコも座って、なにやらカチャカチャと機械を操作している。 「それじゃ、今後のことについて説明するわ」 シンジはいきなり本題に入ったリツコに驚いたが、ミサトはいつものことの ように人数分のコーヒーを入れて、テーブルに置いた。 すると、各個人の目の前に液晶ディスプレイが出てきて、先ほどの戦慄の映 像が映し出される。 「これ……」 「そう、さっきの映像よ。熱反応センサーで映してあるから相手も解るでしょ?」 「はい、でも、あんまり見たくありません……」 「ごめんね、シンジ君…取り合えずこれから説明しようと思っていたの」 「そうなのよ、まず、この敵なんだけど…今の私たちの技術では、倒すことは 無理よ」 「それじゃ…どうするんですか」 「アスカの技術、つまり未来の技術を使います。これを見てちょうだい」 リツコは、自信満々にそういうと、液晶画面をクリックする。それに連動し てシンジ達の画面にアスカの髪留めが映し出される。 「アスカの髪留め?僕も今つけています」 「そう、その髪留めを使うのよ。でも、この髪留めはアスカの物ではないわ」 「どういうことですか?」 「それはね……1年前のことなの」 リツコは、コーヒーを飲んでタバコに火をつけた。ピンク色の箱のカプチー ノという銘柄だ。ちょっと変わった色の煙を出すそのタバコは、精神安定の効 果もある。ニコチンがあまり入っていないためこのタバコを愛用する人も多い。 「まだ、このジオフロントが建設中のときの出来事よ……」
−1年前− 空には暗雲が立ちこみ、今にも雨と雷が落ちてきそうな天気。しかし、空気 が軽いのは、乾燥注意報が出ているだけのことはある。 リツコは、ディスプレイから目を外して空を見上げた。よく空調が行き届い ている部屋にいるにもかかわらず、リツコは寒気を感じて外へ出た。 先ほどまであんなに晴れていたのにと、リツコは一度背伸びをすると、首を 2、3度縦横に振って再び空を見上げた。 すると、ぽつりぽつりと水滴が地面に潤いを与え始める。間髪入れずリツコ は施設内に戻る。 「危ない危ない…」 リツコは、そう言うと自室に戻ってデスクチェアに座り、タバコを吸い始め る。外はあっという間に土砂降りの雨で覆い尽くされた。 ふぅっと、一気にタバコの煙を吐き出すと、リツコは再びディスプレイにむ き直して作業に戻った。 「…………あら…雨、あがったのね」 気が付くと、窓から陽が射し込んでいる。時計を見ると1時間ほど降ってい たようだ。 リツコは、再び外に出た。完全に澄み渡った空を眺めて深呼吸をした。 「大丈夫?ねぇ、大丈夫?」 「ん?」 すると、裏の方で人の声がする。 興味を持ったリツコは、施設の裏へ回ると、そこには少女を抱きかかえてい るミサトが居た。 ミサトもリツコに気が付いたようで、目で助けを求めている。それを見て、 胸元から携帯電話を取り出すと、どこかに電話をして、すぐに駆け寄ってきた。 「久しぶりね?ミサトがここに来るなんて珍しいじゃない」 ミサトも、リツコ同様ここの職員なのだが、法的調査中とか何とか言って、 長期休暇中である。なんでも、年頃の男の子を預かったとかなんとか。 「そうね、何年ぶりかしら…って今はそんなこと言っている場合じゃないわ」 「そうね、この子、どうしたの?」 「リツコのとこに遊びに行こうとしたらこの雨じゃない?車から出るに出られ なくて止むのを待ってたらいきなり目の前に現れたの。そしたら、雨も止んだ から、駆け寄って…それで……」 「ふぅん…取り合えず、救護班呼んだから、治療センターに連れていきましょ う」 「そうね…しかし、どうしてこの子裸なのかしら…」 「そんな趣味の人の所にいたんじゃないの?」 「ばっ馬鹿な事……」 その後、救護班が毛布に包んでその少女を治療センターに運んだ。 そして、1週間の間、その少女は目を覚まさなかった。
リツコは、そこまで話してコーヒーを飲み干した。 「その子の髪留めなのよ、それ」 「え……と言うことは」 「そう、アスカより1年前に未来からの来訪者があったって言うこと、それと ネルフがそれに関わっていると言うこと、そして、その少女の名前は、綾波レ イであると言うこと…」 「なんだって!?」 シンジは、素っ頓狂は声を発して立ち上がった。ミサトは、その声に驚いて 危うくコーヒーを目の前のディスプレイに吹きかけるところだった。 「それからね、あの敵はアスカだけじゃなく、レイも狙っているわ」 「えぇ!!」 「それでね、シンジ君あなたに協力してもらいたいの」 そう言って、リツコは後ろのロッカーから何か取りだしてきた。 それはブヨブヨとした感触のあるライダースーツのような物で、サイズはシ ンジにあわせてあるのか、リツコには小さそうだ。 「これを着てみてちょうだい、あそこの扉の先が更衣室になっているから」 「はい……」 「全部脱いで全裸で着るのよ」 「「えぇ!?」」 今度は、ミサトも素っ頓狂な声を上げて椅子から滑り落ちた。 リツコは、さもそれが当然と言った感じでシンジにそのスーツを差し出して いる。目は事務的だ。 「全部脱ぐんですか?」 「そうよシンジ君…」 「……わかりました」 トボトボと更衣室に入っていくシンジ。その背中には、何か哀愁のようなも のが漂っている。 「なんなら、私が手伝ってもいいのよ」 「何言ってるのリツコ!その役目は私!」 「じ、自分でできます!」 シンジは怒鳴って更衣室のドアを閉めた。 顔を真っ赤にしながら、ロッカーを開けて自分の姿を鏡に映してみる。 アスカからもらった髪留めのスーツを取り合えず脱いで、リツコのスーツを 着てみる。ひんやりとした感触がシンジの全身を覆っていく。 「あぁ!おしい!」 ミサトは、テーブルに座って、液晶画面を食い入るように見ている。 その姿を見て溜息を吐くリツコ。 「ミサトそれ、いい趣味とは言えないわよ」 「何言ってるのよ、私に黙ってコッソリ見てたくせに」 「それは………」 似たもの同士である。 −数分後− 先ほどのスーツを着込んだシンジが更衣室から出てくる。 足の裾を引きずっている姿は、どこか滑稽である。 「リツコさん、ダブダブです」 「任せて……えっと、このボタンを押せば…」 キュンと言う音と共にスーツはシンジの体にフィットする。 きつくもなく、だぼ付いているわけでもない。 「パワードスーツだそうよ。おそらく、頭で考えた瞬間体が動かせるみたい」 「頭で考えただけで……」 「そうよ」 そう言ってリツコは、シンジに向けて銃を構えた。ポケットに入れてもほと んどわからない大きさだ。いわゆるデリンジャーである。 そして、有無言わさず発砲する。 「な!?リツコ!!何するのよ!」 「大丈夫よ。こんな銃じゃポップコーンが弾ける程度の衝撃だから」 「そんなこと言ったって」 「あ、本当だ……すごいや…」 うずくまっていたシンジの目の前につぶれた弾丸が転がっている。先端がつ ぶれていて、何か堅い物に当たった感じだ。 「さて後は、シンジ君…あなたの気持ちを教えてもらえないかしら?」 「え!?気持ちって?」 「アスカの事よ…好きなんでしょ?」 「……………」 シンジは、考えてみたが、答えは出なかった。確かに、そばにいたら楽しい 女の子ではある。しかも、かわいい。これは好きにならなければ可笑しいので はないだろうか。 しかし、それが純粋にアスカを好きなのかと言うとそうではないような気が する。 「わかりません……でも、一緒にいて楽しいのは、間違いありません」 結局このような中途半端な答えになってしまった。 しかし、リツコ達にとってはそんな答えでも十分であったようだ。 「よろしい、それじゃ、対策を練るわよ」 3人は、再びテーブルに座って、作戦会議の続きを行った。
作者による後書き どもども、OHCHANです。 さてはて、執筆活動が低迷しています。どうしたもんでしょうか… はい、ごちゃごちゃ言い訳はしませんが、取り敢えず少しずつでも書いてい こうと考えていますので、みなさま、見放さないでください。 それでは、次回をお楽しみに。
OHCHANさんの『Time Sinner』第七話、公開です。 未来の技術を取り入れた、 攻撃力も 防御力も 着方も(笑) 素晴らしい服を手に入れたシンジ! リベンジの準備は万端!? 大丈夫だよね!? 気持ちの方も覚悟できているし、 大丈夫! ・・・きっと さぁいこうっっ さあ、訪問者の皆さん。 少しずつ OHCHANさんに感想メールを送りましょう!