第八話 新たなる来訪者 時に西暦2115年… ケンスケは、最後の力を振り絞るようにしてエンターキーを押した。目の前 のカプセルが光だし、丸い光球になる。一度、光の球が大きくなったかと思う とあっという間に小さくなって光が消える。 やがてあたりは、何事もなかったかのように静まり返った。 ”よかった…無事、行ったみたいだ…” ケンスケは、ゲージの年号がマイナスになっているのを見て心の中でつぶや いて、笑みを浮かべた。そして力が抜けたように床に突っ伏す。刹那、激痛が 走ってケンスケは腹を押さえて芋虫の様に蠢く。 「やっぱり痛いや…」 先ほど撃たれた場所からおびただしい量の血が流れ出て、服を赤く染めてい る。恐らく、もう立つ力も残っていないであろう。 一応、救急装置はオンにしてあるが、とても間に合わない。 「うまく……行くのかな……」 チラッとゲージを見ると、−100と表示されて緑のランプが点滅している。 どうやらタイムトラベルは成功したらしい。 それを見たケンスケは安心したのか、目を閉じた。 そして、ケンスケの最期の映画が幕を開ける。 辛かった日々、楽しかった日々、思い出に残る一瞬。 しかし、子供達には辛い現実。ケンスケは目を背けたかった。 ”いやだ!” ”このまま死んでいくのはいやだ!” しかし、ケンスケの生命は、もう尽きようとしている。 自分でもわかっている。 ”いやだ!!” しかしケンスケは心の中で叫んだ。何度も、何度も現実から目を背けながら 叫んだ。無我夢中であった。どうしても心残りがあるのだ。 「いやだ!」 ついに、ケンスケは目を覚ました。 その刹那、ケンスケは光の球に吸い込まれるようにして姿を消した。
シンジとミサト、リツコの3人は、ネルフ内のトレーニング室に来ていた。 とにかく、シンジがこのスーツに慣れることが先決であるとの事なのだ。 シンジも納得の上である。 「それじゃ、はじめるわよ」 リツコの合図とともに、シンジは走り出す。それを別モニターで見ながら、 いささか笑みを浮かべるリツコ。 徐々にスピードを上げるシンジ。次第にシンジの残像が重なりだしてシンジ の着ているスーツの色が帯状になって見えている。 呆気にとられたミサトは、ポケーとその光景を見つめた。 「はいストップ!」 再びリツコの合図でシンジはピタリと止まる。それと同時に帯状になってい たシンジの姿もなくなる。その途端、ズンという音が室内に響きわたる。 驚いたというリアクションをとって、ミサトはリツコの方を向いた。 「どうしたの?」 「シンジ君が急に止まったから、慣性の法則で、空気だけ走り去った状態にな ったのよ」 「ふーん」 「ちなみに、今のシンジ君の速さだけど、マッハを越えたわよ」 「嘘でしょ?人間に耐えられるようなスピードじゃないわよ」 「それを可能にしたのが、あのスーツなのよ」 それを聞いてミサトはシンジを見た。平然とそこに立っているシンジを見て 納得したのか、頷いてみせる。 ちょうどそこにシンジが部屋に入ってくる。 「どうですか?リツコさん」 「いい感じよ。次は、攻撃や防御ね」 「はい」 再びトレーニング室に戻ったシンジ。 そこに、何個かレンズが取り付けられた球体が4個シンジの周りを取り囲む ようにして浮かぶ。 そして、トレーニングは静かにはじまった。 息もつかせぬ攻撃の嵐。シンジは、それをいとも簡単によけながら、球体を 破壊していく。その間、4秒。 「すごいわ、シンジ君」 さすがに驚いたのか、シンジの動きにリツコは拍手で祝福する。ミサトもつ られて拍手をする。 その拍手に照れながら、シンジは再び出てきたレーザーボールを確認した。 「さっきより速いわよ」 「わかってます」 キリッとした顔を見せるシンジ。 だが、その顔も残像となる。再び4秒後、シンジは平然と破壊されたレーザー ボールを見つめている。 リツコは、拳に力を入れた。 「お疲れさま、シンジ君。その間合いとタイミングを忘れないで」 嬉しそうにマイクを握ってそう言うリツコ。シンジも、誇らしげにリツコの 方を向いて、笑顔をおくった。 その時、ミサトの携帯電話が鳴り響く。相手はどうやら医務室からのようだ。 「もしもし?え、そう、わかったわ。すぐに行くから、えぇ…わかったわ」 「どうしたの?」 「アスカが目を覚ましたらしいの」 「そう、シンジ君、医務室に行くわよ。アスカが目を覚ましたって」 「本当ですか?」 シンジは、残像だけ残すとロッカールームへ姿を消した。 そしてシンジは、着替えを済ませるとミサト達の待つトレーニング室の入り 口に走り出した。先ほどより体が重く感じるのは、スーツを脱いだからであろ うか。 「お待たせしました。早く行きましょう」 「そうね」 そう言ったリツコであったが、シンジの変な歩き方に気がついた。 「シンジ君、体の方は大丈夫?」 「え?」 「普通あのスーツを脱いだ後は重く感じたりするから動きづらいとおもうけど」 「そうですね…でも、そんなこと言っている場合ではありませんから…アスカ のところに急ぎましょう」 「一応、これを飲んでおきなさい」 そう言ってリツコは、シンジに赤と白のカプセルを渡した。 そのカプセルをシンジは水もなしに飲み込むと、ミサトに行きましょうと、 目で合図を送る。 ミサトは無言で頷くと医務室へと歩き始めた。
天井も、壁も、見える範囲がすべて真っ白の世界。 アスカは、明かりになるような物は何も見あたらないのに真っ白で、明るい 世界にいた。 ”アタシ死んじゃったのかな?” 目を覚ましてから、ずっとこんな世界にいると誰でもそう考えてしまうので はないだろうか。 アスカは、全快していたのだ。生命維持装置もはずされて、最初居た救急治 療室からも移されている。 まだ目がはっきりしないのであろうかと、アスカは目をこすろうとするが、 腕が思うようにあがらない。とまどいながらも何とか腕を持ち上げることに成 功し、辺りを見回すとようやくそこが病室であることがわかる。 ”アタシ…生きてる…” 次の瞬間、病室の扉からノック音が聞こえる。遠慮がちに、ノックされた音 は、誰が聞いてもそれがシンジであることがわかる。 「はい……」 「アスカ、僕だよ」 「シンジ……いいよ、入っても」 「うん……」 ミサトとリツコも入りたかったが、取り敢えずシンジだけ行かせることにし た。もちろん、リツコにちゃんと話をするようにと言われてはいるが。 シンジは、緊張しながら病室に入った。 「アスカ……」 「シンジ…よかった…」 「それは、僕の台詞だよ、もう大丈夫なの?」 「ん…もう、どこも痛くないよ」 まだ横になっているアスカの顔をのぞき込むように見ると、ほっとして笑顔 をアスカに送った。それに笑顔で答えるアスカ。 ゲロアマな空気が流れる。が、そんな空気が歪みだす。 そして、その空間に亀裂がはしると、そこから一人の男の子が倒れ込んでき た。そして、じわりと赤い水たまりが広がる。 「!?……」 「うそ!?…ケンスケ?」 「え!?」 アスカは、素っ頓狂な声を上げた。 シンジはその声を聞いてすぐさまその男の子に近づいて起きあがらせたが、 ドロリとした赤黒い液体が大量に流れて、シンジの腕の中から滑り落ちる。 「う、わぁあぁぁぁ……」 言葉にならない悲鳴を上げながらシンジは、その場に茫然自失となった。 「いやぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」 切り裂くようなアスカの悲鳴。その悲鳴と同時に、ミサトとリツコが病室に 入ってくる。 一瞬、ミサトは口に手を当てて驚いたが、すぐさま携帯で医療チームを呼ぶ と、アスカと同じ治療をほどこすように命令して、シンジをアスカの側に連れ ていくと大丈夫よと励ましてから医療チームについていった。 「シンジ、シンジ……アタシの手を握っていて……お願い……シンジ」 「うん……」 そう言うと、シンジはアスカに手を差し伸べたが、その手が真っ赤に染まっ ている事に気がついて慌てて手をきれいに拭くとアスカの手を握った。 アスカの手は、ジワリと汗をかいている割に一瞬放してしまおうかと思うほ ど冷たかった。そして、小刻みにふるえていた。 それを感じて、シンジは握る力を一層強めるのだった。
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作者による後書き どもども、OHCHANです。 おぉっと新たなる展開の予感が!!しかし、活躍するのは…… おっと、それ以上は、とても私の口からは…… というわけで、次回をお楽しみに…
OHCHANさんの『Time Sinner』第八話、公開です。 ケンスケ、生きるのだ。 ケンスケ、起きあがるのだ。 あちこちの小説でひどい目に遭い続けているケンスケ。 ここでは良い役が貰えそうだぞ!? アスカに情報を伝えて○ぬとか、 シンジと共に戦い彼をかばって○れるとか、 リツコの新兵器の重要なデータと引き替えに○くとか、 きっと、もっと、良い役・・・ 生き残るのが良い役か(^^; GO〜☆ さあ、訪問者の皆さん。 HP8万の OHCHAN さんに感想メールを送りましょう!!