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第六話 刺客

 抱き合っている二人を、暗闇の中真剣な眼差しで見ている男が居た。
 その男は、いつの間に侵入していたのか、厳重に管理されているこの独房に、
息を潜めていたのだ。しかしよく見ると、背景が微妙にずれているのが見える。
男はステルス迷彩を着用しているようだ。これなら熱反応スコープでない限り
この男を見つけることはできない。
 しびれを切らしたかのように、男がゆっくりと動き出す。

「誰?」

 素早く反応したのはアスカであった。男の気配に気がついて、後ろを向くと
闇に話しかける。
 シンジもキョトンとして、闇を見つめた。しかし、シンジには何も見えない。
ただ、冷たい闇が存在しているだけだ。シンジには少なくともそう見えた。

「惣流…僕だよ」
「……まさか…ケンスケ?ケンスケなの?」

 暗闇からの聞き慣れた声を聞いてアスカは素っ頓狂な声をあげてしまった。
シンジは、暗闇から声がしただけで目を丸くしている。

「惣流、帰ろう。未来へ…」
「未来へ?」

 アスカはケンスケの声が聞こえる方向を見て、一言そう言うと考えた。

 どうやって帰るって言うの?それに、ケンスケはどうやってここへ来たの?
その前に、この気配は……

「そう。と言っても、取り合えずここから出ることが先決かな」

 そう言うと、ケンスケは二人の拘束具をはずした。そして、二人にヘッドセ
ットをかぶせると、素早くボタンを押す。一瞬にして二人はスーツに包まれる。
アスカは、前も着たことがある赤を基調とした物だ。シンジのは、白を基調と
した物で、アスカのスーツをそのまま白くしたようなデザインである。
 アスカは、スーツを久しぶりに着たため、ルンルン気分(笑)で立ち上がっ
た。シンジは訳も分からぬまま、その場の空気に流されていた。

「さぁ、こっちに簡易抜け穴を作ったから、ここから出よう」
「待ってケンスケ、久しぶりなんだから顔ぐらい見せてよ」

 アスカのその言葉で、辺りに沈黙の空気が流れる。それを感じて、アスカは
ニヤリと口元をゆるめて、ケンスケが居るであろう方向を睨んだ。
 次の瞬間、アスカは後ろへ身を翻した。バック転をしてシンジの側に着地す
る。一瞬だけ青白い一筋の鈍い光を見て、アスカは髪留めから長剣を取り出す
と闇に向かって構えた。

「やっぱりね」
「何時わかった?私の変装は容姿体型以外完璧のはずだ」

 先ほどの声とは比べ物にならないほど潰れた声が独房の中に響いた。

「完璧?その言葉はあふれんばかりの殺気を消してから言いなさいよね」
「そうか、やはり無理だったか…」
「アタシに髪留めを渡したのは、ミスね。これであなたが勝つ確率はグンと減
るわ。取り合えず、どっかに行ってちょうだい」

 自信ありげにしゃべるアスカを見て、偽ケンスケは鼻で笑った。

「それは、ハンデだよ。それがないと、とてもじゃないが私となんて戦えない
だろうからね」
「それはどうかしら?」
「やって見るかね?」

 次の瞬間、背景が動いた。アスカは応戦する暇もなく、その攻撃を受けてし
まう。痛いと思う前にアスカは串刺し状態になっていた。一瞬の出来事であっ
た。シンジは、その光景を見ながら腰を抜かして、その場に力無く座り込んだ。

「あ…かはっ……ぐっ」
「おや、避けられなかったかな?ハンデをあげてもこれだからな…まぁ仕方な
いな…さて……」

 ドサリと音を立ててアスカは倒れ込んだ。倒れた瞬間、口から血を吐いた。
苦痛に顔をゆがめながら、アスカは悔しそうに偽ケンスケを睨み付けた。
 シンジは動けなかった。恐怖で体が硬直してしまったのだ。蛇に睨まれた蛙
とは、まさにこの状態を言うのだろう。絶望的なまでの力の違いは、彼の自由
を奪うには十分であった。

「君にも生きていてほしくないんだがね…」

 再び背景が動いた。しかし、シンジに当たる瞬間、金属と金属がぶつかる音
が響いて、その攻撃は中断された。

「なめないで頂戴。アタシはまだやれるわ……」
「ほほう、たいしたものだ。まだ生きているとは、こうでなくてはここまで追
ってきた甲斐がない」

 偽ケンスケは、嬉しそうにアスカとの間合いをとると、見えない剣を構えな
おした。アスカも痛みを我慢しながら、長剣を構えると偽ケンスケを消え入り
そうな意識の中、睨み付けた。
 丁度その時、ミサトが入ってきた。

「何なの?何が起こっているの?」
「ちっ!邪魔が入ったか…次こそは、覚悟しておけよ!!」

 偽ケンスケは、その言葉を残すと、身を翻して姿を消した。
 ミサトは呆気にとられた表情を見せたが、我に返ると、アスカに駆け寄った。

「しっかりしなさい、アスカ、シンちゃん」
「シンジが無事なら、それでいいのよミサト…」
「あなたは生きていないと駄目なのよ。シンちゃんの為に生きなさい。さぁ医
務室に行くわよ」

 ミサトは、アスカを抱きかかえると今度はシンジの側に座って、シンジの頬
をピシャリと軽く叩いた。
 その一括で我を取り戻したシンジは、ミサトを見ると一度だけミサトに頭を
下げてアスカの手を取った。
 ミサトはそれを確認すると、疾風のごとく医務室を目指した。
 アスカは、シンジの手の温もりを感じて目を覚ました。

「シンジ……よかった、無事だったんだ」
「アスカ、僕はこうして生きている。だから、アスカも生きるんだ」
「大丈夫。アタシは死なないわ…髪留めの生命維持装置、最大にしているから」
「アスカは絶対に死なせない。僕が、絶対に…」

 アスカは、それを聞いて安心したのか、眠るように目をつぶった。
 シンジは医務室に到着するまでアスカの手を離すことはなかった。


 カタカタとタイプの音しかしないある部屋。空調は効いていないのか、その 前に煙の進出力が大きかったのか、辺りは白く靄がかかっている。  その中で、パソコンを前になにやらデータを分析している人間が一人。技術 主任の赤木リツコ博士である。リツコは、独房で起きた出来事をトップシーク レットとした。取り合えず、独房に設置されていたすべてのカメラの映像ファ イルを自分の端末に移動させ、アスカを刺した人間の解析を行った。  モードを赤外線にしてあったカメラでとらえた映像から容姿体型まではわか ったが、声の判別は出来なかった。  リツコは一度溜息を吐くと吸いかけていたタバコをくわえて頬杖をついた。 彼女独自の考えるポーズだ。  何者なのかしら、人間業じゃないわねあの動きは…力のベクトルが全くない わ。理想的な動きと言えばそれまでだけど、アスカを刺したときも力は入れて いなかった。ただ、手を伸ばしただけのような…そんなに切れ味がいい刃物な のかしら。それにしても、強敵ね…シンジ君もねらってたようだし…これじゃ、 ミサトだけではシンジ君は守っていけないわね…  リツコは、何度目かの録画映像を見直してパソコンを終了させた。  さてと…ミサトの様子でも見に行ってみようかしら。  タバコを灰皿につっこむとリツコはその部屋から出ていった。  ものの数分もしないうちにその部屋の煙は空調の中へと姿を消した。
 アスカの体には何本ものコードや、必要なのかと思われるほどの点滴の管が 体の至る所に接続され、まるで別の生き物になってしまったかのようにベッド の上に眠っている。そうしないと、今にも絶命してしまう程、アスカの体は傷 を負っていた。今のところはそのコードや点滴の管のおかげで生命維持を行っ ている。取り敢えず、傷口及び傷を受けた内臓は綺麗に縫合されているのだが、 その出血はさすがに髪留めの生命維持システムをもってしても補えるものでは なかった。その為、最先端と呼ばれる医療機器がアスカの体の治療に当たって いた。もちろん、ミサトの指示である。  絶対に死なせない。  ミサトはそれだけを考えて、医療スタッフに指示を出した。シンジは、ずっ と側にいたかったが、無菌室での作業と長時間に及ぶ手術のため、外で待つこ とにした。病室の近くにある長椅子に座って、アスカの手を握っていた自分の 手を見つめていた。次第に冷たくなっていくアスカの手を思い出して、シンジ は目をつぶった。  ミサトは、シンジの隣に座って、そんなシンジを見つめていた。 「シンちゃん。アスカならもう大丈夫よ。最先端の機器と最高の医療スタッフ で治療しているから…」 「はい、ミサトさん……」 「後ね…シンちゃん、ちょっと言いにくいんだけど…」  ミサトは、ちょっと難しい表情をするとシンジに向き直った。 「ミサト、ちょっと…」  しかし、リツコの登場で、その行動は中途半端な格好で終わらされてしまう。 ちょっとむっとした顔をリツコに向けるミサト。 「お邪魔だったのはよくわかっているわ。でも、緊急事態なの」 「そう、シンちゃんごめんね、ちょっと席を外すわ」 「はい……」 「どうする?家に帰ってもいいけど…」 「それは駄目よ。シンジ君、あなたにも来てほしいのだけど」  リツコは、真剣な表情でシンジを見つめるとそう言った。シンジは一度、ア スカの病室の方を見て、何かを訴える表情をミサトの方に向けた。  ミサトはそんなシンジにニコッと微笑んで、 「アスカなら大丈夫。ここにいれば、絶対ね」  そう言い聞かせた。リツコは、その様子を見ながら時計をチラッと覗くと、 急かすようにミサトを小突く。  慌てたようにミサトはリツコを見た。うっすらと額に#マークが見える。 「それじゃ、シンちゃん一緒に行きましょうか」  冷や汗混じりでシンジに言い聞かせるミサトであった。
つづく 1998+11/07 公開 不明な点、苦情などのお問い合わせはこちらまで!


作者による後書き  どもども、OHCHANです。  なんか、次第に見えてきたような気がします。(って設定ないんかい!)  やばいです。最大の敵が現れました。うーん追跡者ですね。  なんか、T2みたい。  さて、次回はミサト達の真相が明らかになるはずです。  お楽しみに…
 OHCHANさんの『Time Sinner』第六話、公開です。  強いっ  強すぎるぅ  なんだなんだ、あの敵は  アスカちゃんを一撃。  シンジもやばかったよね。  アスカの体力と  ミサトの時の運で  助かったけど・・・  リベンジマッチはすぐありそうな。  リツコさんの知力を足して、  こんではやっつけちゃおう!  逆襲なのだ!  さあ、訪問者の皆さん。  部屋のカウンタがえらいことになっているOHCHANさんに感想メールを送りましょう!


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