Time Sinner 第参話 偽りの過去 アスカがシンジの中学校の留学生となって、はや1週間がすぎようとしてい た。いつもはシンジよりはやく起きるアスカも最近では朝寝坊をするようにな った。 もちろん、シンジに起こしてもらいたいのも理由の一つにあったのだが、そ れは伏せておくとしても、体が筋肉痛で痛いのだ。 起きようとすると、体の節々に激痛が走り、そのたびに情けない声をあげな ければならないほどにひどいのだ。未来と過去と比べたとき、筋肉の使用頻度 が格段に違う事が大きな理由であった。未来では、バーチャルサバイバルでも 優秀な成績を収めたアスカであったが、体力はやはり女の子なのである。 その日も結局シンジに起こされてシャワーを浴びてなんとか体の疲れをとっ て、朝食を食べたのである。 「ねぇシンジ。今日転校生が来るらしいわよ」 それは、登校中の出来事であった。 何気なく、昨日担任の先生が、転校生の話をしていたことを思いだしたアス カは、その話題を持ち出してきた。 「へぇ、可愛い子だといいのにね」 転校生は可愛い女の子と決めつけているシンジ。 その言葉にむっときたのか、アスカは、ふくれっ面になるとプイッと横を向 いた。 「あ、やきもち?」 「うるさいわね!」 ふくれっ面をさらに膨らませて怒っているアスカ。 それを見て、シンジは少し微笑むと前を向いて歩きはじめた。 次の瞬間であった。彼女は突然現れたのだ。 ちょうど電信柱で隠れていて、シンジ側からも彼女側からも見えなかったの だろう。シンジと彼女は正面衝突したのだ。 辺りにコイーンという間抜けな音が響きわたる。 「いつつつ……」 このときアスカは、ほら見なさい天罰が下ったのよ。と言いたかったのだが ぶつかった相手を見たまま固まってしまった。 こいつだ。 アスカは思った。そう、もう一人の元凶。綾波レイである。 危なく身を翻してナイフで切り裂きたい衝動を理性でおさえると、シンジを 見た。 シンジは、レイを見てポーッとなっている。 やばいと思ったアスカは、シンジを立ち上がらせると、 「ほら、シンジ。立ちなさいよ、学校遅れるわよ」 と言って、レイから、元凶からなんとか自分の方に気が向くように頑張った。 しかし… 「あの、ゴメン。ちょっと気が付かなくて、怪我とかなかった?」 シンジは、アスカの努力を微塵も感じていないみたいだ。 「大丈夫、気にしないで…じゃ、さよなら」 何事もなかったかのように去っていくレイ。 その後ろ姿をため息混じりに見つめているシンジ。 そして、その後ろで新たなる決意をメラメラと燃やしているアスカの姿があ った。あまりに燃やしすぎて、陽炎が見える。 「シンジ!学校行くわよ!!!」 「え?あ、うん…」 その後、シンジは商店街で、あの子が転校生ならなぁなどと口を滑らせてし まい、見事にアスカの張り手を食らうことになる。 「喜べ男子ぃ!」 最近若作りが目立ってきた年齢弐十九歳の担任の先生は教室に入ってくるな りそう言った。(注!間違ってもミサトではない) しかも、急なことだったので、まだ自分の席に座っていない生徒が慌てて自 分の席に戻ろうとした瞬間であった。 「ふふふ、それでは噂の転校生を紹介する!さ、入って」 教室の扉が勢いよく開かれて、一人の少女が静かに教卓の横まで歩いてくる。 そして、チョークで黒板に自分の名前を書くと、 「綾波レイです。よろしく」 と言って、静かに振り返ったのだ。 その瞬間、一斉に男性陣から歓喜の声が教室一杯に響きわたる。 アスカは不機嫌そうな顔で、私の時はこんなじゃなかったのに、と外を見な がら呟いた。シンジを見ると、嬉しそうにレイを見つめている。 ふてくされつつも、アスカはレイを見た。 青い髪の毛に赤い瞳。容姿体型はデータと寸分違わないが、その性格がデー タとは食い違っていた。 もっと明るい性格のはずなのだ。アスカはそう思うと、机の上の端末に未来 からのデータをつなげて確認してみたが、やはり性格だけ違っていた。 誰かが私よりもっと過去に行って何かをしたんだわ。 そして、この理由にたどり着いた。 最初からおかしかったと言えば、おかしかった。未来のデータに間違いなん てあるはずがないのである。 シンジやミサト、そして今回のレイの件。どれもデータとは違うものなのだ。 誰が?確かシンジは1年前ぐらいからとか言っていた。 それまでは、アルバイトをして生計を立てていたはず。何があったの1年前 に。そして、誰が来たの? シンジの隣にレイが座っていることなど気にもせずに、アスカはそんなこと を考えていた。 結局その日、アスカはその事ばかりが頭から離れずにシンジの家に帰ってき たのだ。 「アスカ、ねぇアスカってば?」 夕食も食べ終わって、ボーっとテレビを見ているアスカにシンジは少し心配 そうに話しかけた。 学校から帰るときも、シンジの話を上の空で聞いていた事を思い出して更に 心配そうな顔になるシンジ。 「なに?シンジ」 よく見ると、顔色が少し悪いような気がする。 「大丈夫?つらそうだけど…」 シンジは心配そうにアスカを見つめた。 しかし、さっきまでボーっとしていたアスカが急に立ち上がると、 「シンジ、もう寝る!おやすみなさい!」 と言って、寝室に姿を消したのだった。 ポツンと一人取り残されたような気分になったシンジは、ミサトの部屋を訪 ねた。ミサトは、半分酔っぱらったような返事をすると、シンジを部屋に招き 入れる。 「ミサトさん。なんか、アスカが元気がないんです。どうしてでしょうか?」 「さぁ、シンちゃん、気になるの?」 「はい」 少し顔を赤くしながらそう答えるシンジ。ミサトは、小悪魔的笑みを浮かべ ると、 「あのねぇ、アスカはシンちゃんの事が好きなのよ」 そう切り出したのだ。 赤い顔をもっと赤くしながらシンジは言葉が見つからない様子で、口をぱく ぱくさせている。 「あ、あ、あの、アスカが、僕のことを?」 「そう!シンちゃんの事を好きなのよ」 「また、ミサトさん冗談ばっかり…」 「冗談ではないわ」 今まで酔っぱらっていたようなミサトが急に真面目な顔できっぱりと言った。 シンジは、ミサトの顔を見て、これはマジだなと思った。 しかし、結局どうして良いかわからないのは変わらないのだ。 「それで、僕はどうすれば?」 「もちろん、その気持ちに答えてあげればいいのよ」 「答える?どう答えれば良いんでしょうか?」 「それは…そうねぇキスをしちゃうとか」 「キ、キスですか?」 一瞬にして耳まで赤くなるシンジ。 ミサトは可愛いなと思いながら、シンジに顔を近づけた。 「自信を持って、シンちゃん。あなたなら大丈夫だから」 そう言って、そっとシンジの頬にわかるかわからないか程度に唇をよせると そう言ってはなれた。 その時のシンジの顔はおそらくミサトにとって死ぬまで忘れることが出来な いであろう、とてもキリッとして男の顔がそこにあった。 「わかったよ、ミサトさん」 ミサトの部屋を後にするシンジ。 自分の部屋に戻ったシンジは、アスカについて悩んでいた。 アスカは、僕のことが好きなのか? たしかに、アスカの裸を見たし…責任とらないといけないのはわかるけど… 本当に僕のことを好きなのだろうか。 ミサトさんには自信を持てと言われたけど、僕は、僕は… ぼんやりとアスカの顔を思い出して一人で顔を赤くするシンジ。 そして、アスカの顔はレイの顔に姿をかえる。 そう、僕はあの転校生が気になって仕方がないんだ。だからといって、アス カの事が嫌いというわけでもない。 なんてこった、これじゃ僕は二股をかけていることになるじゃないか。 でも、ミサトさんの言っていることに間違いはないと思う。 だって、ここに居たいって言ってくれたんだ。アスカは僕と居たいって言っ てたんだ。だから、アスカは僕のことが… でも……はぁ、なんか疲れた。今日はもう寝ようかな。 一度ため息をつくと、シンジは疲れた体をベッドに預けた。 もう少しで眠ろうとした時、ノックの音がしたのでシンジは気のない返事を 返した。 「シンジ。アタシ…入ってもいい?」 声の主はアスカだった。すぐにわかったシンジは、アスカを部屋に招き入れ た。 「どうしたの?アスカ。何かあったの?」 「眠れないの…シンジ…なんとかして」 とりあえずシンジは、アスカを隣に座らせた。 アスカは、枕を抱きしめて俯いている。 「眠ろうとすると、昔のことを思い出して駄目なの」 今にもとぎれそうな声で囁くとアスカはシンジに体重を預けると、 「お願いシンジ。今日は一緒に…」 訴えかけるような眼差しでシンジを見つめるのだった。 「わかったよアスカ。今日は…いや、これからいつでも眠れなくなったら僕の 所に来てよ。それで、アスカが眠れるんだったら、いつでもおいでよ」 そう言ってシンジは、アスカを抱き寄せた。 アスカは無言で頷くと、シンジの枕の隣に自分の枕を置いて、横になった。 シンジはやさしくアスカを守るように、隣で見守った。 やがて、アスカから心地よい規則正しい寝息を聞いて安心したのか、シンジ も眠りについた。 その日、アスカが落ちてきた場所に同じものが姿を現していた。 そして、そこから何かが姿を現したのだ。 それは緑色や赤色を発光させながら闇夜に姿を消したのだった。
作者による後書き どもども、毎度OHCHANです。 ようやく話がのってきたような気がします。 でも、これからおもしろくなるんですよ、実は… 追跡者が登場していますね。これからの展開が気になるでしょうね。 続きをまてぇーい! それでは、今回はこの辺で。
OHCHANさんの『Time Sinner』第参話、公開です。 前回から出ていた”データと食い違う事象”。 シンジ・ミサトそしてレイ。 垣間見えるアスカ以外の干渉者。 シンジとミサトはどこかに収入源を設けたのでしょうが、 レイに至っては性格までもが変化させられています・・・ ミサトを追うように現れた謎の存在と共に気になりますね。 なにが・・・ さあ、訪問者の皆さん。 OHCHANさんに貴方の感想をメールしましょう!