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【はじめに】

このお話は一応『シンジとジュリエット』の続編にあたります。

若干前作からの引きがあるので、前作を読んでからの方が楽しめるとは思います。

また、タイトルは「まごころ」ですけど、映画とは何の関係も……ないと思います(^^;。

(映画見てないからなんとも言えんっすわ(爆))


「もうだいぶ良くなったね。碇シンジ君。明日には退院だね」

と、定時診察に来た少し太目の医者は言った。

「ほんとですか!」

シンジは柄にも無く大きな声を出す。とても嬉しそうだ。それもそうであろう。これからはまた、今ま

で通りの、そして何よりもアスカとの生活にもどれるのだ。

「良かったわね、シンジ!」

側で付き添っていたアスカも、明るい声で言う。

「うん、ありがとう、アスカ」

シンジは微笑んでアスカに答えた。

それは事情を知らない人間が見ても、とても微笑ましかった。

あの、『ロミオとジュリエット』の様な出来事の一連のあらましを知るものはごく僅か……当人達とミ

サト、マヤ、リツコ位のものだ。アスカが完治した理由、シンジが衰弱した理由などはミサトに達よっ

て全て隠蔽された。マスコミに知れ渡ったら、そこからシンジ達の過去などを割り出されかねないし、

何よりも、状況が少し違えばシンジもアスカも死にかねなかった事を考えると、とてもゲンドウには話

せたものじゃない……というのが彼女らが隠した理由だった。

ゲンドウは、というとシンジが入院した事を報告したときにも、「そうか」、と一言言っただけで表向

きには何かしている様には見えなかったが、陰ではこっそり原因の解明とシンジの警護の強化を諜報部

に依頼したそうだ。結構な親バカである。もっとも、元NERV随一の才女達が相手では原因の解明などど

うにもならなかったが。

一応、シンジの入院はあまりにも熱心に劇の稽古に徹したため、アスカの回復もただの自然治癒として

扱われている。

そういうわけで、この件に関しては、実はゲンドウやコウゾウも知らない。こんな一介の医者が知る由

もなかった。

医者が唯一知っている事は、赤毛の可愛い女の子――すなわちアスカ――が、いつもシンジの身辺の世

話を親身にやっている、ということだけ。

だから、医者も、

「碇君、まぁこれに懲りて無茶はよすんだぞ。君はまだ若いから、気持ちはわからなくもないが、ほら、

こんなに可愛い恋人さんに心配かけちゃいかんよ」

と茶化す。

二人は思わず頬を赤らめ、互いに見つめあう。

それを見て、医者は、

「はっはっは、ええのぉ、若いモンは」

と無茶苦茶親父臭い台詞を残して去っていった。


続(!?)シンジとジュリエット
まごころ Part A - Being tender -


医者が去り、しばらくした後今度はミサトが病室にやってきた。

「シンジ君、アスカ、元気?」

入るなり、ミサトは声をかけた。

「あ、どうもミサトさん……おかげさまで。僕、明日には退院できるそうですよ」

シンジはさっき得たばかりの嬉しいことをミサトに話す。

案の定、ミサトも

「ほんと!良かったわ!」

と、嬉しそうに言う。

「ありがとうございます……」

答えながら、シンジはふと家の様子を思い浮かべた。

そして、

(そう言えば……僕一週間位入院してたし、その前一週間も特に掃除とかしなかったな……とんでもな

い事になってないといいけど)

初めて見た時の部屋の惨状と、アスカが家事をできないことを思い出して、シンジは少し血の気の引く

思いがした。

それに気づいてか、アスカが

「あれ、シンジどうかしたの?」

と声をかける。

シンジは一瞬声を詰まらせたが、

「え……別に……」

と極力平然と答えた、が、

「嘘ね」

アスカは一言でシンジの言を突っぱね、

「具合が悪いなら悪いでちゃんと言ってくれるかしら?」

と、威嚇をかける。

シンジは慌てて言う。

「い、いやその、僕がいない間、家で掃除とか、どうしてたのかな、なんて」

「へ……?」 間の抜けた返事の後、どういうわけかアスカが突然頬を赤く染めた。

そんなアスカをミサトはにやにやと見ていた。

なんか様子がおかしくなったので、

「あれ?僕、変な事いったのかな……」

とシンジはいう、そして

「あらぁ?アスカ、シンちゃんには何も言ってないのぉ?」

ミサトはからかうような口調でアスカに声をかける。

アスカは、というと、真っ赤になってうつむいたままだ。

(何か変だぞ……、これは、帰ってみたら、台所には食器の山、テーブルの上にはビールの空缶だらけ、

なんて状態が待っているのでは……)

そう思ったシンジは、思い切って聞いて見る事にした。

「じゃあ、食事はどうしてました?」

この発言に、アスカは完全に固まった。

ミサトは考えながら、ちらちらとアスカの方を見る。

いくら鈍いシンジでも、アスカに何かあった事くらいは察しが付いた。

「ね、ねぇアスカ」

な、何よ……

シンジが声をかけたら、アスカは消え入るような声で答えた。

その反応に、シンジは、

(やっぱり……なにかあったに違いない。きっと凄い惨状なんだろうなぁ……)

と確信して、フォローしようと、

「ま、まあ、退院したら、僕がやるからさ」

と、声をかける。

しかし、アスカは相変わらずうつむいたまま。

ミサトは、というとにやにやしたまま二人を見つめていた。

(アスカの性格じゃ、言うのは難しいわよね〜、でも私が言うのもなんだしぃ)

とかミサトが考えていると、アスカが意を決してか、

「し、シンジ」

「ん?何?アスカ」

「あのね……」

声はかけたものの、言葉がそれに続かない。

「えっと、その……」

きんこんかんこ〜ん♪

と、ちょうどその時、5時を知らせるチャイムが鳴った。

「あれ、もうそんな時間か……」

5時は面会終了時間である。

アスカは気づいていないかのように先ほどの言葉の続きを言おうとした、

「その、ね……」

が、シンジは

「もう時間だよ、アスカ。今日もありがとう。それにミサトさんも」

と、二人にねぎらいの意の言葉をかけた。

その言で現実に戻ったアスカ。 「え?あ、ああそうね。じゃぁ、もう帰るわよ。ふん」

口ではそう言ったものの、話の腰を折られてアスカは少し不機嫌になった。

……不機嫌は隠せないようで、すたすたと振り向きもせずにアスカは出ていった。

ミサトはシンジの鈍感さにあきれながらも、

「じゃ、明日ね」

と、去っていった。



そして、そのミサト達が帰宅直後の葛城家では、

じゃぁぁぁぁ

かちゃかちゃかちゃ

きゅっきゅっきゅっ

との音が台所から流れていた。 しばらくすると、

ぴんぽ〜ん♪

と、インターフォンが鳴った。

台所にいた人物が、急いで玄関へ行き、ドアを開ける。

すると、

「いらっしゃい、ヒカリ」

インターフォンを鳴らした主は洞木ヒカリだった。

「こんにちは、アスカ」

と、ヒカリも迎えに出たエプロン姿の人物に声を掛けた。

アスカは招き入れながら、

「いつもごめんね、忙しい中わざわざ呼び出したりして」

「別に構わないよ。アスカも色々忙しいんだし」

「ありがと。じゃぁあがって、楽にしてて。まだ食器片づけ終わってないんだ」

「あらそうなの?じゃぁ私も手伝おうか」

「うーん、でもあとちょっとだから、一人で大丈夫」

そう言うとアスカは再び台所へ向かう。

ヒカリもアスカの後に付いて行った。手伝わないまでも、ちょっと出際を見ようと思ったのだ。

流しでは、まだ数個の茶碗、お鍋が水に浸したままだった。

アスカはそれらをてきぱきと洗っていく。

後ろで見ていたヒカリは、

「アスカ、すごく手際が良くなったね」

と声を掛ける。

「そ、そう?」

「うん。家事はじめて一週間にはとても見えないよ」

……実はシンジの入院、アスカの復帰以来、葛城家の家事はほぼアスカが担っていた。

当初、家事のカの字も知らなかったアスカは、ヒカリに頼んで、わざわざ教えてもらっていたのだ。

ヒカリの親身の指導と、もともとアスカは器用だったのですぐに人並みにはできるようになった。

そうこうしているうちに、食器洗いが全て済んで、アスカはヒカリに声を掛けた。

「終わったわ」

ヒカリは立ち上がって、持ってきたエプロンを着ける。

「じゃぁはじめましょ。今日は煎り鶏よね……じゃぁちゃんと蓮、酢水につけた?」

「ええ、そこにあるわ」

――家事は一応一通り覚えれば、繰り返すだけで良いのだが、料理はそうもいかない。作るもの、材料、

その他色々違うからだ。だから料理だけは、アスカは未だヒカリの世話になっていた。

「にんじんの皮を剥いて、食べやすい大きさに切って」

「はーい」

包丁を持ってからまだ一週間の筈なのに、アスカはかなり器用に皮を剥いていく。

「……アスカ、本当は前に包丁持ったことあるんでと、ヒカリが言いたくなるほど上手に皮を剥いている。

「そ、そんなことないわよ」

……包丁を持ってからは一週間だが、実は持った日からアスカは連日ジャガイモで特訓したのだ。おか

げでたくさんのジャガイモを犠牲(笑)にして、アスカは上手に包丁を使えるようになった。

そんなこんなで、にんじんを切り終えると、

「こんにゃくをゆがいて、ちょうどいい大きさに切る。レンコンは薄く切って、鶏肉はぶつ切りに……」

と、着々と料理は進んでいく。

「おなべに油をしいて、全部の材料に火を通して」

「水入れて、煮込んで」

「お砂糖入れて」

「お醤油を入れたら、後は蓋をせずに煮るの」

このあたりで、においに釣られてミサトが台所に姿を見せる。

が、アスカはそれに気づかないほど料理に集中してたし、ヒカリはそれに気づいたが、別にいつもの事

なので気にはしなかった。

「煮汁がある程度の量になったら、お皿にあげて、上に昨日のサヤエンドウをのせたら、出来上がりよ」

と、完成品がテーブルに置かれた。

と、同時位に缶ビールの蓋が開いて、ミサトはいつのまにか持っていた箸で、出来立ての煎り鶏をつま

みながら、飲みだした。

アスカは慌てて、

「ちょっとミサト、何してんのよ!」

と声をかける、が

「ん?見てわかんない?」

「そーいう意味じゃなくて!食べる前にちゃんと断りなさいよ!だいたい誰が食べて良いって言ったの

よ」

ちょっとエキサイト気味のアスカを、ヒカリは慌ててなだめようとした。

「あ、アスカ、落ち着いて」

そうこう言ってるうちにもミサトの箸は止まらない。

改めてアスカが大声を出そうとしたとき、ミサトは言った。

「これ、とってもおいしーじゃない。シンちゃんにも食べさせてあげたいわね〜」

その言葉を聞いた途端、アスカの怒りは立ち消え、身を乗り出すようにミサトに顔を近づけて、

「え、ほ、本当?」

と、嬉しそうに聞く。

いきなりのその豹変ぶりに、ヒカリは驚いた。

ミサトは続けた。

「ええ。シンちゃんも喜ぶわ〜きっと。『アスカの手料理……しかもこんなにおいしいなんて……』と

かナントカ言っちゃってさ」

アスカは顔を真っ赤に染めて……、突然、

「な、何言ってるのよミサト!」

と、唐突にミサトに大声を出した。

その豹変ぶりに、ミサトは当初驚いたが、すぐに、理由に見当が付いた。

(はは〜ん、洞木さんにはまだ隠してるつもりなのね、バレバレだと思うけど……そうだ!)

そしてミサトはからかうように言う。

「あらぁ?でもアスカ、お料理してあげるつもりだったんでしょう?それもシンちゃんには内緒で……」

「ば、馬鹿!」

慌ててアスカはミサトの口を塞ぐ。

しかし、ヒカリも言う、

「あらぁ?たしか『シンジいないし、ミサトは駄目だから仕方が無いの』じゃなかったの?家事」

と、ものまね入りでアスカをからかう。

一応アスカがヒカリにいった台詞はその通りだったけど、最初からヒカリだって分かっていた。

(だいたい毎日お見舞いに行ってて、それに碇君の病室で会ったときは『はい、あ〜ん』なんてやって

た癖に……今更隠してるつもりなのかしら)

アスカは大慌てで

「そ、それは……」

と後に続けようとするが、

「アスカ、素直になりなさい。じゃないとシンちゃんに嫌われちゃうわよ」

ミサトの放ったこの一言がアスカにとどめをさした。

嫌われる……それはアスカにとってはトラウマの、きつい言葉なのだ。

アスカはガクっとひざを落とし、床に正座するように座り込んだ。

「嫌われる……それだけは、嫌……」

つぶやくとともに、アスカの目に水滴が溜まっていく。

それを見て仰天したヒカリは

「あ、アスカ……、葛城さん!やりすぎですよ!」

と、ミサトに向かって声を荒げるが、ミサトは全然動じた様子もなく、ビールを傾けながら、

「だいじょーぶよ」

と一言述べた後に再び煎り鶏をつっつく。

ヒカリはそれをみて、はぁ、と一度ため息を吐いて、

「ねぇ、アスカ、大丈夫よ、きっと、ね、碇君、アスカの事嫌いになるわけないでしょ?」

と、優しくアスカを慰めはじめる。

アスカは一度顔を上げて、ヒカリを見る。ヒカリはにっこりと微笑む。

「ね。アスカに泣いた顔は似合わないよ」

「……ありがと、ヒカリ」

アスカは心が慰められると同時に、心底、ヒカリが慰めてくれた事が嬉しかった。

ヒカリはハンカチをアスカに渡して、

「じゃ、涙ふいて、さっさと続き、はじめましょ!」


そして、その晩、

アスカはベッドに横になりながら考えていた。

あの後は、結局料理、食事、後片付け、風呂、とのステップを踏んで、10時過ぎだというのにもう眠い

アスカはベッドの中、と言うわけだ。

(ヒカリ……優しかったな)

さっきの慰めの事だろう。

当初、プライドの高かったアスカは、ヒカリにすら泣き付いたり、愚痴をこぼしたりと言う事はなかっ

た。唯一、弱みを見せた、壱七使徒との戦闘直後にも、哀れみや慰めを求めた事もなかったし、慰めら

れたとしても、きっと突き放していたことだろう。

それが、この半年の、アスカが言う所の静養を経て、アスカはずっと素直になった。アスカ自身、そう

思っている。でなければ、ヒカリの慰めになんか目もくれなかっただろう。

(優しさ、か……)

考えてみれば、アスカが人を好きになる理由の一つである。

加持、ヒカリ、そしてシンジ。

みな、タイプはそれぞれ違うが、共通している項目。

(わたしに優しくしてくれる……、チルドレンとか、クラスメートとか、肩書きを抜きにして、一人の

人間として)

母親であるところの惣流・キョウコ・ツェッペリンが実験の失敗より入院する事になって以来、いやな

る前からか、アスカはあまり『優しさ』を与えられていなかった。

仕事に忙しい父母、そして狂ってしまった母親、継母の形だけのいたわり。

そんな、本当の優しさの無い世界中でアスカは育っていったのだ。

だから、人一倍、優しさに敏感なのかもしれない。

(わたしはどうなのだろう?)

加持にとっては優しい少女だったのか?

ヒカリにとっては優しい友達だったのか?

そして、シンジにとっては……

自分の動向を思い出してみて、アスカは少し沈んだ気持ちになった。

そして、

(優しくなろう。もう、嫌われたくはないもの)


そして、次の日。

ミサトは、シンジを迎るべく車で病院へと向かった。

アスカは、というと、おりしも土曜日――完全週休二日制の実施によって休み――だったので、同伴し

ていた。

「いい、ミサト。絶対言っちゃだめだからね!」

いいながらアスカは持っていた紙包みをぎゅっと抱きしめ、頬を赤らめる。

その中には、今朝握ったおにぎりと、昨日の煎り鶏とが入っていたりする。「はいはい、わかってるわよん」

ミサトは苦笑しながら答える。

(今、これだものね〜、これからはもう見せつけまくりになるのかしらね〜)

(これはこれでぎすぎすしていた前よりはずっと良い状態なんだとは思うけど、なんか腹立つわね……

ちょっと発散してやっか!)

そう考えるやいなやミサトはアクセルを深く踏み込む。

ぎゅおおおおん

と凄い音がして、車のスピードがどんどん上がっていく。

アスカが慌てて制止の声をかけようとするが

「ちょ、ちょっとミサト!」

「黙ってないと舌かむわよ!」

前の車をかわすべくハンドルをきりながらミサトは答えた。


数分後、

シンジは荷造りをしながら、迎えが来てくれるのを待っていた。

ふと窓の外を見ると駐車場が見えて、

きゅきゅきゅきゅっ

という凄い音と同時にミサトの車が回転しながら駐車スペースに収まっていくのが見えた。

シンジは思わず顔に手を当てながら思う、

(相変わらずだな〜ミサトさんも。学校ならいざ知らず、病院なんだからもうちょっと静かに入って来

れないのかな〜)

ミサトが車を降りてしばらくした後に、今度は助手席のドアが開いて、ふらふらになりながらアスカが

出てくるのがシンジの目に入った。

(あれ?なんでアスカもいるんだろ……あ、今日は休みなんだ。)


「はぁ……生きてるって素晴らしいわ……」

アスカは車を降りるなりそうつぶやいた。

「うん?なんか言った?」

ミサトの問いかけに対して、アスカは

(なんかもなにもあるかってのよ。あんな乱暴な運転して……死ぬかと思ったわ)

と、思い、口を開きかけて、

(おっと、『優しく』だったわね)

「別に何も……」

と、アスカにしては最上級の答えを述べた。

「ふーん、そう、じゃ行くわよ」

ミサトはその言葉には何も感じる事なく病院の入り口へと向かう。

「あ、待ってミサト」

アスカも慌ててミサトの後を追った。


ミサトの車が入ってくるのを確認してしばらく後、

シンジは荷詰めを終え、部屋の片づけをしていた。

そして、片づけがあらかた済んだ頃

「おはよ、シンジ、元気?」

と、病室の扉が開いて、アスカが入ってきた。

「おはよう、アスカ、ミサトさんは?」

シンジは声をかけながら、アスカを見る。

アスカは手を背中に持っていった姿勢でこっちを見ていた。

「ミサトは退院の手続きしてるわ」 答えながら、アスカは周りを見渡し、少し残念そうに言う。

「あら?もう片づけ済んじゃったの? 「うん、あらかたはね、今朝済ませちゃったんだ」

シンジはアスカの不自然な姿勢に気づきもせずに答えた。

「なぁんだ……(手伝ってあげようかと思ってたのに)」

アスカはしばらく黙って、考えよう、と後ろ向きになる。

(片づけして、疲れた所に「お腹すいたでしょ、はい、これ」って感じで渡そうと思ってたんだけど、

ちょっと無理みたいね。作戦の変更を……)

ところでアスカは気づいていないのだが、実はあの後ろ手の姿勢で振り返ったのだ。

ってことは、

「……アスカ?」

シンジが急に後ろ向きになったことと、手に持っている紙包みが気になってアスカに声をかける、が

アスカは考え事に夢中で

(さてどうしようかな〜、このままお昼までここで時間つぶすってのもなんだし〜)

「アスカ!」

シンジは大きい声で呼びかける。するとアスカもようやく気づいたようで、

「え、あ、何?シンジ」

と、振り返る。

「その、……手に持ってる紙包み、何?」

「へ?」

思わず間抜けな声をあげた後、アスカはようやく自分がどういう姿勢なのかを認識した。

とりあえず、紙包みを体の正面に持ってきて、そして、顔を真っ赤にさせる。

「こ、これは、その……」

ちょうどその時、シンジのお腹がぐぅぅぅぅぅぅぅ、と鳴った。

シンジも少し赤くなって、

「ハハハ……、実は今日まだ朝ご飯食べてないんだ。なんか配膳が遅れているんだって」

アスカにとって、それは千載一遇のチャンスだった。

「じゃ、じゃぁさ、その……」

アスカは思い切って、その紙包みを渡そうとした、

「おはよう、碇君、朝ご飯よ。遅れてごめんね〜」

と、朝ご飯ののったトレイを持って看護婦が部屋に入ってきた。

シンジはそれを受け取る

「どうもありがとうございます」

「どういたしまして……」

看護婦はそこで固まった。アスカがシンジには見えない角度でものすごい形相で睨んでいるのが目に入

ったのだ。

が、

(おっとっとっと、優しく、優しく)

アスカはすぐに表情を和らげ。にこり、と微笑む。

その突然の変化に、看護婦は驚き、目をパチクリさせてアスカを凝視する。

そして、

(……ここんとこ夜勤が続いてたから、疲れてるのかしら)

と、さっきの形相を見間違いか何かと思ったようだ。

「それじゃ、ごゆっくり」

と、看護婦は出ていった。


「さて、と、いただきます」

と、シンジは箸を取って、運ばれてきた朝ご飯を食べはじめた。

病院食だから、栄養価は問題無いのだが、味はというとイマイチだ。

が、シンジはもともと味には無頓着(ミサトの料理のように酷いものではない限り)なので、黙々と箸

を運んでいる。

しかし、わざわざ代わりの食事まで持っているアスカは、

「シンジ、それ、おいしくないんでしょ?だったら……」

と、紙包みを渡そうとしたアスカを待ち受けていたのは、

「ん?アスカもお腹すいてるの?何かあげようか」

とのシンジの見当違い言葉。

アスカは、はぁ、と大きいため息を吐いた。

「そう言うんじゃなくて……」

と、アスカは再び手を後ろに戻す。

「じゃぁ、何なの?」

と、シンジは箸を休めることなく無神経に訊ねる。

「……何でもないわよ」

ちょうどその時、ミサトが病室にやってきた。

「シンジ君、退院の手続き、すんだわよん」


続く



 yukiさんの『まごころ』Part-A、公開です。
 

 いじらしいなぁ・・・アスカちゃん(^^)

 シンジのために。
 シンジに嫌われないために・・

 ”嫌われないために”
  ちょっと痛々しくもありますね。

 
 
 やさしさ。

 いつまでで続くでしょう(^^;
 続いたら続いたで、アスカらしくないのかも・・
 

 気の強いところも含めて、
 意地っ張りなところも含めて、

 ”アスカ”なんですよね。
 

 シンジくんはどう受け止めるのかな。

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 感想を言葉にして、yukiさんの元へ!


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