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12/23。祝日かつ土曜日だった。わたしは学校が休みなので、ヒカリの所へと遊びに行った。

「あれ、ヒカリ、編み物?」

わたしがヒカリの部屋で、毛糸の山と編み棒とそれに掛かっているものを見て、わたしは聞いた。

「え、う、うん……」

ヒカリ、ちょっと顔が赤い。

「へぇ……何編んでんのよ?」

「ま、マフラーよ」

マフラー……行き先は大体予想ついたけど、わたしは意地悪く聞いた。

「ふーん、誰にぃ?」

「……鈴原に

ヒカリは頬を真っ赤に染めて消え入りそうな小さな声で答えた。

そして、慌てて付け加えた。

「ほ、ほら、明後日はクリスマスだし、た、たまにはこういうのも良いかなって思って……」

ふーん、クリスマスにねぇ……、クリスマス?

クリスマスって……あ!そうだ明後日だったんだ。すっかり忘れてた。

というのも、わたしにとって、クリスマスというのはそんなに特別な日というわけではないから。

わたしって、やっぱり家庭が家庭だけに、そういった家族にとって特別の日って言う概念がイマイチわ

からなかった。

ママが生きてた頃は、クリスマスなんて無かったし。今のママと過ごしたクリスマスも、あまり、楽し

いものでもなかったから。

誕生日も半ばそうだったけど、誕生日は好き。自分の成長を数字で実感できるじゃない。

日本ではクリスマスは家族よりも恋人達の日って感じがしたから、気にもとめてなかったわ。

そこまで考えた所で、わたしの頭の中を一人の男の子の顔がよぎる。

そいつは……シンジ。

なんで急にシンジが浮かびあがったのだろう。

あんな冴えない、暗い、なんか情けないヤツのことなんて。

そりゃ、わたしのことを助けてくれたり、毎日お弁当を作ってくれたりもするし、それにこの間のわた

しの誕生日にはケーキを焼いて、花束をくれたんだっけ。

あの時は……、本当に嬉しかった。どうしてだかわからないけど、たまらなく嬉しかった。

そうだ……クリスマスなんだったら、それのお返ししたって不自然じゃないわよね。

なんて思ってたら、ヒカリが突然、

「あ、アスカだって、碇君に何プレゼントするんでしょ?」

「ま、まぁ……!」

思わず生返事をしてしまったわたしに、ヒカリは驚いたような表情の後、微笑みうかべて、

「あらぁ……ちょっと言ってみただけだったんだけど……やっぱりね〜」

と、いやらしく突っ込んでくる。

「だ、だって、ほ、ほら、この間の誕生日にシンジ、一応ケーキとお花とくれたし。お返しくらいしな

きゃなんないかな〜って……」

「誕生日のお返しねぇ、だったらアスカは大変ね。あんなにたくさんプレゼント貰ったんだから」

と、ヒカリがまたしてもスルドイ突き返しを入れてくる。

い、言われてみれば、わたしって人気者だからかなりのプレゼントを貰った記憶もあるわ。

「い、いや、でもね……」

わたしが困っていると、ヒカリは、

「ふふふ……、もういいよ。けど何あげるの?」

と聞いてきた。

「そうねぇ、わたしは編み物できないから……」

わたしは考えてみる。

何をシンジにあげたら喜ぶかな。

あいつは洋服とかには結構無頓着だから、特にこれを上げたら喜ぶってのはわからないし。

CDとかも……シンジならクラシックだろうけど、大概は持ってるだろうしなぁ。

そうだ、

「……新しいウォークマンとか、かなぁ」

シンジがいま持ってるやつってもうだいぶ前のだし、新しいの買ってあげたらきっと喜ぶわよね。

わたしがそう言うと、ヒカリは再び驚いたようで、

「アスカ……お金持ちね、この間あんなにお洋服買ってたのに」

と、言う。

「い、言われてみれば……」

この間、ヒカリと何軒かブティックを見てまわった時に、クリスマスセールだとか何だとかで、素敵な

お洋服が安くなってたから、結構たくさん買ったんだった。

おかげで今あまりわたしお金もってないんだったな。

と、そこでわたしは大切なことに気づいた。

お金がないってことは……シンジにウォークマンなんて買えないじゃない!

と、そこまで考えたときに、ヒカリの妹、ノゾミがお菓子を持って部屋にやってきた。

結局、その話はお菓子で止まっちゃったんだ。

けど、お金、一体いくらくらいあったのかしら……


MAGIの贈り物
- The gift from the MAGI -


その日わたしは家に帰るなり、わたしの部屋の机の中から財布を取りだし、中味を数える。

「たった……208円」

わたしは財布の中身を数えて、そう結論づけた。

208円って……それじゃウォークマンはおろか、CDすら買えないじゃない。

ど、どこかにいくらか入っていないかしら。

わたしは机の中や、本棚、押し入れ、考えられる限りの場所をさがしてみた、けど、

「ない……」

わたしは結局1円も発見する事ができなかった。

どうしよう……、このままじゃ何も買えないわ。

誰かに借りるしかないかな。

と、その時、わたしは昼休みにヒカリが言ってくれた事を思い出した。

ヒカリに頼めば少しは貸してくれるかもしれない。

わたしはリビングルームへと出た。

うまい具合に誰もいないみたい。

ミサトは当然本部だし、シンジは鈴原、相田とどこかに出かけたまま帰ってきてない。

今がチャーンス!

わたしは期待を込めて、受話器を取り、電話を掛ける。

ぷるるるる、ぷるるるる、がちゃ、

『もしもし、洞木です』

「あ、ヒカリ?わたし、アスカ」

『アスカ?どうしたの』

「うーん、ちょっと言いにくいんだけど……」

わたしはこの時に、周りを見、誰もまだ帰っていない事を確認して、

「お金、貸してくれないかな?」

『え?お金って……やっぱり、持ってなかったの?』

「ま、まぁ、そういうこと」

『うーん』

「ねぇ、ヒカリ、お願い」

『ゴメンね、アスカ。私もいまあまり、持ってないんだ。この件だけは他の人に頼んでみて』

「えー?」

『本当、ゴメンね。じゃぁ』

そう言うと、ヒカリは電話を切った。

もう、ヒカリったら頼りにならないんだから。

って、わたしはヒカリを責めれる立場にはないわよね。

けど、お金、どうしようかしら。

ミサトに頼んでいくらか用立ててもらうとか……

わたしが悩んでいると、ドアの開く音がして、

「ただいま」

と、シンジが帰ってきた。

「おら、シンジ、おかえり」

わたしも声をかける。

リビングに入ってきながら、シンジは

「そう言えば、アスカ聞いた?ミサトさん、今日の午後からしばらく北海道に出張だって」

「えー!?で、いつ帰ってくるのよ?」

「なんだか……年内いっぱいはかかりそうだって言ってたよ」

「そ、そんな……」

頼みの綱ナンバー2まで……、

「あまりに長い間家を空けるから、一応リツコさんが僕らの面倒を見てくれるらしいけど……」

シンジはそこで言葉を濁す。

無理もないわよね。わたしもあの人はなんだか苦手。

それに、面倒を見るってったって、リツコはNERVで研究しっぱなしで、ここはおろか、自分の家に

だって帰ってるんだか怪しいものだわ。

ああ、どうしよう……、そうだ!本部に行って、誰かに頼んでみよう。

そう思って、出かけようとすると、シンジが

「あれ?アスカどこ行くの?」

「わたし、本部に用事があるの」

「ふーん……、なにかあったっけ?」

「あ、アンタには関係ないわよ。個人的なことだから。じゃ!」

わたしはそう言うと、家を出てNERV本部へと向かった。


わたしが本部に着くと、ちょうどマコトのメガネが出てくるところだった。

マコトはわたしをみるなり、

「あれ?アスカちゃん。今日はOFFじゃなかったっけ?」

そう声をかける。

普段はシカトして澄ましちゃうんだけど……今回はちょっと事情がちがうもんね。

「ねぇマコト、アンタ、お金持ってない?」

「は?」

「だから、お・か・ね」

「そりゃ、無くはないけど……」

マコトは困ったような顔で答える。

「じゃぁさぁ……」

と、わたしが話だそうとすると、マコトは突然、

「あ、僕は自分が食べるだけで精いっぱいだから、無理だからね!」

と、言うと突然走り去ってしまった。

けど、どーいう意味よ!?

「この、バッカヤロー!」

わたしは去った口に向かってそう叫んだ。


本部の中に入って、とりあえず、リツコの所に行ってみようと思い、リツコの研究室へと向かった。

すると、途中のエスカレーターでロン毛のシゲルとすれ違った。

「おや、アスカちゃんじゃないか。どうしたんだい、今日は?」

シゲルがわたしに声をかけてくる。

わたしは、さっきの事もあるので、今回は慎重に言葉を選ぼうと思って、

「うーん、ちょっと、男の人に頼みたい事があるのよねぇ」

と、極めて可愛子ぶって言ってみた。

しかし、シゲルときたら、まるで自分が対象だと思ってないらしく、

「男の人……というと、シンジ君かい?」

と、ふざけた事を言う。

……まぁ、それが普通の反応なのかもしんないけどさ。困ってる女の子にはもっと優しくしてくれても

いいんじゃないの?

わたしはこめかみに血管を浮かべつつも、落ち着いて、

「うーん、この件はシンジじゃちょっと……駄目なのよ。もっと頼り甲斐のある人じゃないと……」

「と言うと、加持さんかい?あの人なら自分の部屋にいると思うけど」

わたしは全く煮え切らないシゲルに、業を煮やし、思わずシゲルの胸座をつかんで、

「アンタでいいのよ、アンタで」

と、低い声で言う。

すると、シゲルは脅えたようで、

「お、俺っすか?」

と、言葉が急に丁寧語になった。

「で、なにをすれば……」

「お金……ちょっとでいいの」

と、わたしがいうと、シゲルは突然、

「お、俺は全然持ってないっす。冬のボーナスも家の払いに消えちゃいますし……」

と、情けない事を言う。

「もう、頼りないわねぇ」

わたしがつかんでいた胸座を放すと、シゲルはすぐに、

「す、すいませ〜ん」

と、言いながら全速力で去っていった。

もう、マコトといい、シゲルといい、ここの連中ってどうしてこうなのかしら?

だいたい、シゲルが家の払い?あいつ一戸建てでも持ってるの?

どいつもこいつも嘘吐きばっかり。まったく、もっと加持さんみたく頼り甲斐のある人って……

……加持さんか。あんまり加持さんの所には行きたくないけど、リツコに頼むよりはマシかな。

この間も、一緒にお出かけしたときに、たくさんおごってくれたし。

わたしはそう考えて、加持さんの所へとむかった。


加持さんのドアの前まで来ると、わたしはまず、深呼吸をして、わたしの一番いい表情を作る。

そして、ゆっくりと、加持さんの部屋のドアを開ける。

部屋のなかで加持さんは、机に向かっている。

わたしは、

「加持さん」

と、声をかける、と、加持さんは振り返って、

「おや、アスカじゃないか。どうしたんだい?」

と、優しく声をかけてくれる。

ほんと、さっきの二人とはおお違い。

「ちょっと、頼みがあるんだけど……」

「何だい?」

「お金……」

そう言うと、加持さんもあろうことか、顔を引き攣らせて、

「す、すまない、アスカ。他をあたってくれないか」

と、困ったように言う。

ど、どーして加持さんまで!?

「そんなこと言わないでさぁ、お・ね・が・い」

「む、無理なものは無理なんだよ。すまない」

そう言うと、加持さんはわたしの背中を押して、わたしを部屋のそとへ動かし、

「俺も忙しいんだ、年末だし。分かってくれ、アスカ」

と、言うと勝手にドアを閉めてしまった。

「ちょ、ちょっと加持さん!?」

わたしはあわててドアを叩いて見る、けど反応はない。

ちょ、ちょっと、どーしてこうなるのよ!?

「もう……、加持さんのバカァ!」

わたしはそう言うと、加持さんの部屋を走り去った。


「……結局、ここに来ちゃったわけね」

わたしはリツコの研究室の前でそうつぶやいた。

もう、他にチョイスはないんだからしょうがないわね。

そう思って、ドアを開けようとすると、不意に、ドアが開いて、ファーストが出てきた。

わたしはすっごく驚いてしまい、しばらく動けないで居ると、ファーストはわたしを一瞥すると、無造

作に去っていく。

「ふぁ、ファースト!ちょっと」

わたしはファーストに声をかけてみた。

と、いうのも、よく考えたら、ファーストは司令のお気に入りなんだし、ひょっとしたら結構持ってい

るのではないかと思ったから。

「……何」

例によって、無気質な声でわたしに反応するファースト。こんなのにお願いしなきゃいけないなんて…

…、けど、非常事態だし、仕方ないわよね。

「アンタ、お金持ってるわよねぇ、ちょっと、貸してくれない?」

と、わたしとしては最大級の頼み方をしてみた。すると、

「……お金なんてないわ」

と、ファーストは無下に言う。

「ない訳ないでしょう?アンタは司令のお気に入りなんだから」

「……別に気に入られてはないわ」

「とにかく、お金よ。持ってるんでしょう?」

「……ないわ」

……ファーストはすごく強情なのは知ってたけど、ここまでだとは思わなかったわ。

わたしが困っていると、ファーストは、

「もう、良いわね。じゃぁ」

と言って去っていく。

「ちょ、ちょっと?」

と、わたしは声をかけてみたけれど、今度は振り向きもせずにファーストはいなくなった。

もう、どうして……

と、弱音を吐こうとしていたら、後ろから、

「アスカ、何してるの?」

との声がかかる。

慌てて振り向いて見ると、そこにはリツコの姿が。

「リツコ……いつからいたのよ?」

「さっき出てきたばかりよ。それよりレイと何してたの?」

口に出しながらも、リツコはさほど興味も無い様子だ。

「うーん、ちょっとね」

わたしはそう言ってはぐらかす。リツコは案の定、

「あらそ」

そう言って、リツコは立ち去って行こうとする。

わたしは当初ここに来た目的を思い出して、

「ちょ、ちょっとリツコ」

「何?」

「お願いがあるんだけど……」

しかし、わたしが何も言う前に

「お金ならないわよ」

と、リツコも言う

「!?どーして?」

わたしがそう言うと、リツコは面白くなさそうに、

「どうしてかしらね……、なんかそんな気がしたからちょっとカマかけてみただけよ」

そ、そんな気がしたって……どーいうことよ!?

「じゃぁね」

わたしが考えているのを尻目にリツコは足早に去っていった。

で、でも、これじゃ全滅じゃない!どうしよう……、

あ、でももう一人いるじゃない。それも一番しっかりしてそうな人が。

と、思った所でリツコが振り返って、

「マヤならいないわ。今日あの子はOFFよ」

と、わたしの希望にとどめを指した。


「はぁぁぁ」

出口へと帰る道すがら、わたしはため息をはき続けていた。

本部に来ればお金も何とかなる、と思ってた希望が全て打ち砕かれたんだもの。むりは無いわよ。

あと、話をしていないのは、司令と副司令くらいのものだけど、あの二人にはちょっと頼みにくいもん

なぁ。

やっぱ、土台むりなのかな。わたしがプレゼントなんて……、

とか考えていると、出口に着く。

しょんぼりしたまま、わたしが出口を通って行くと、

「あら、アスカちゃんじゃない」

と、知った人の声。わたしが驚いてその声の方を見ると、

「マヤ……、OFFじゃ無かったの?」

わたしの質問に、マヤは決まりが悪そうな表情で、

「それが……、ちょっと、本部に忘れ物しちゃってね。そう言えば、アスカちゃんも今日はお休みでし

ょう?どうしてここに……まさか、使徒?」

「違う違う……、ちょっと……」

そこまで言ってから、わたしは今日ここに来た目的とこれまでの事を思い出す。

そう言えば、みんなわたしがお金、と言った途端に嫌そうな顔をしていた。

……確かに年末だから、わからなくもないんだけどさ。けどあそこまで露骨に嫌がらなくたって。

マヤは最後の頼みの綱だもの、慎重に行こう。

そして、わたしは言った。

「マヤに相談したい事があって来たのよ」

「私に?アスカちゃんが?」

驚いたようなマヤの質問に、わたしはうなずいて答える。

「うん。できれば個人的に」

わたしの答えにマヤはしばらく考え込んだ後、

「ふーん、そんなこと初めてね……、じゃ、ちょっとここで待っててくれるかな?」

「はーい」

わたしの答えを聴くと、マヤは本部の中へと入っていった。


マヤが出てきたのはそれから約20分後。

「ゴメンね、遅くなって」

と、言いながらマヤは出てきた。

「別にいいよ。しょうがないもの」

いつものわたしならきっと切れていただろうけど、今回は事情が事情だもの。

「そう、ありがと。じゃあ、どこでお話する?そこの喫茶店とか」

と、入り口を出てすぐの所を指差した。

「うん、そこでいい」

わたしが答えると、マヤが

「そ、じゃぁ行きましょう」

と、歩き出す。わたしもそれにならった。


本部入り口の目の前の喫茶店は、別になんてことない、どこにでもあるようなやつだった。

わたしたちが席につき、コーヒーを頼んだ後、マヤが訊ねてきた、

「それで、相談したい事って、何かしら?」

「えっと……」

わたしは少し言いよどんだ。

何せ、マヤが最後の希望なんだもの。どうしても成功させないと。

これまでの他の人のリアクションから、『お金』という言葉がいけないみたいだから、それを避けない

と……

けど、どうやって?正直に全部話すわけにもいかないし……。

と、わたしが困っていると、マヤが

「言いにくそうね」

「ちょっと……」

と、言ったところで、コーヒーが運ばれてきた。

マヤは何も言わずにカップを手に取り、コーヒーをすする。

わたしもそれにならって、カップを口元に持っていき、口を付けた所でマヤがいきなり、

「シンジ君?」

「ブハッ!」

マヤの核心をついた言葉に、わたしは思わずむせてしまった。

マヤは驚いて、

「大丈夫?」

と、言ってくれたけど、誰のせいだと思ってるのよ?

わたしはとりあえずカップをテーブルにおいた後、

「平気だけど……」

と、なにか言ってやろうとしたけど、その前にマヤが

「ふーん、やっぱりそうかぁ、可愛いわねぇ」

と言って、微笑む。

わたしが焦って、

「な、なんでそーなるのよ!?」

「そんな事言うわりには、焦ってるじゃない」

と、マヤは冷静な突っ込みを入れてくる。

「まぁ、確かにシンジも入ってるけどさ。けど、秘密よ。絶対に」

「はいはい」

「でもたいしたことじゃないんだけど。シンジね、わたしの誕生日にケーキとお花とくれたんだ。で、

もうすぐクリスマスでしょう?せっかくだから、そのお礼になにかプレゼントでもしようかな〜って…

…」

「シンジ君だけに?」

「え?いや、別に、そーいう意味じゃなくて、プレゼントくれた人みんなに……」

しまった、これを先に言わなきゃいけなかったんだ。

しかし、マヤは

「あら、そうだったの」

と、納得した。へんに素直ね。

「そう、そーいうこと」

すると、マヤは意味ありげに微笑み、

「ふーん、けど、それって秘密じゃないの?」

「ん?そうだって最初に言ったじゃない」

「じゃあどうして私に言ったの?」

「へ?」

「私もハンカチをあげた記憶があるんだけどな」

「あ、そーいえば……」

いいかけてわたしは慌てて口を塞ぐ。

そんなわたしのリアクションにマヤはくすくす、と笑う。

――さっきの笑いはこういう意味だったのね。

「私の事なんて考えてなかったみたいじゃない」

「ち、ちょっと忘れてただけよ」

わたしは焦りまくって弁解した。

するとマヤは、

「ま、いいでしょ。それで、今なら相談事って何だか言える?」

またしても勝ち誇った様な微笑みを顔に浮かべて訊ねてきた。

ふふふ、けど、そういう理由じゃないもの、言いづらかったのは.

「うん。そのプレゼントなんだけどね。今わたし、全然お金がないんだ。だから、その、」

わたしがそう言うと、マヤは呆れたように、

「借金したいってこと?」

「ま、まぁ、平たく言えばそう」

「シンジ君にプレゼントしたいのなら、ちゃんとお金ためておきなさいよ」

「ほっといてよ」

痛い所をつかれ、わたしは思わず本音を吐く。言ってしまってから、しまった、と思ったけどもう遅い。

マヤは再びくすくす、と笑い出した。

何も笑わなくたっていいじゃない!

わたしが憮然としていると、マヤがそれに気づいたみたいで、

「ゴメンゴメン。気悪くした?」

「……別に」

当然よ、と言い返したいところだけどわたしはぐっとこらえた。

お金の事さえなきゃ、そんな事しないけどね。

するとマヤは

「けど困ったな……助けてあげたいのは山々なんだけど……」

「ちょ、ちょっとどーいうこと?」

まさか無い、なんてことないでしょうね?

「いや、私も明日の予算がちょっと……そうだ!」

一人考え込んで、結論を出すマヤ。

「ねえ、明日、アスカちゃんも私と一緒に増やしに行く?」

突然マヤが訳のわからないことを言い出した。

「は?」

わたしは思わず間の抜けた返事をする。

すると、マヤは時計に目をやり、途端

「いけない!私これから行かなきゃいけないとこがあるんだ。お金、欲しいんだったら明日、本部の私

の所まで来てちょうだい。それじゃ!」

と、駆け出そうとする。

「ちょ、ちょっとマヤ?」

「何?急いでるんだから手短にね」

……やっぱリツコの影響を受けてるのかな。

わたしはテーブルの上の伝票を差し出し、

「これ、お願い」

と、言った。

「急いでるんで払っといて……、あ、そうだったわね」

マヤは苦笑してそれを取ると、お勘定を払いに行った。


そして、今日、12/24、日曜日。

わたしは昨日のマヤの言葉通り、NERV本部のマヤのデスクの所まで来た。

お金欲しかったら、ここにおいでって昨日言ってたから、一応来てみたけど、

たった一日でどうにかなるものなのかしら?

まさかマヤが嘘をつくともおもえないけどさ。

そのマヤは、というと、わたしがここに来るなり、

「やっぱり来たわね」

「まぁ……他にあてもないしね」

「そう、じゃぁ、まずアスカちゃんはいくら持ってるの?」

「へ?えっと……208円」

わたしが言うと、マヤはそれを端末にインプット……ってどうして?

「ちょ、マヤ?」

「ちょっと、待ってて」

マヤはしばらく画面とにらめっこをする。

「で、で、結論は?」

わたしは焦っていた。そりゃそうでしょ?もう当日だもの。

マヤは不適に微笑んで、マヤは机の上の端末のキーボードを叩きはじめた。

「……何やってんの?」

とてもコンピューターが関わる事じゃないと思うんだけど。

マヤは画面から目を離さずに言う。

「MAGIにちょっと計算させているのよ」

MAGI……それはNERVの本質とも言えるほどのスーパーコンピューター。

NERVが世界に誇れる二つの物の一つのことよ。

もう一つは何か?EVAに決まってるでしょう。

けどこれ「マギ」って読むのってなんか違和感を感じるのよね。

ほら、英語読みだったら「マジャイ」の方が近いじゃない。

まぁそれを言い出したら、EVAだって「イーヴァ」になっちゃうか。

けど……、MAGIまで取り出して、一体マヤは何をしようとしてるんだろう。

そうこうしているうちに、結果が出たようだ。マヤはそれをまじまじと見つめる。

そして、イキナリ立ち上がり、

「よし、行きましょうアスカちゃん」

とすたすたと歩き出す。

わたしは慌てて後を追う。

「ちょ、ちょっとどこへ行こうって言うのよ」

「決まってるでしょう?お金を増やしにいくのよ」

お金を増やす……そんなことできるのかしら?

この世の中でそんなに簡単にお金が増やせるところ……

ま、まさか、ウリとかそーいうの?


それからしばらくの間というのは気が気じゃなかった。

だって、ただ一言「お金を増やす」とだけ言われて、本部を出てすぐに電車に乗ったのよ。

止めても良かったんだけど、そしたらそれこそクリスマスに何も買えないって思ったから、こうしてマ

ヤについて来てはいる。

けど、なんかちょっとでも怪しいそぶりがあったら逃げないと。

電車の中でマヤは終始無言でずっと新聞を見詰めている。

……なんか、マヤの新聞変わってるな〜、色が奇麗だし、薄いし……

次第に電車は混んできた。

どうしてだろ?日曜日の下り電車ってこんなに混むんだっけ?

あ……そこのおじさんもマヤと同じような薄っぺらい新聞持ってる。


で……

「……どこ?ここ」

わたし達が降り立った駅は『新府中本町』だった。

ここに来るまでが大変だった。だって、電車はここに近づくに連れて混むわ混むわ。

この駅で殆どの人が降りて、一安心かと思ったら、マヤが「私達もここで降りるわよ」って言うから降

りてきたんだけど……。

「ちょっと、なんでこんな混んでるのよ!?」

「まあ年収めだからかな。中山なんかもっと凄いと思うんだけどね」

「……中山?」

「それよりもちゃんと、はぐれないでね」

マヤはそう言うと、再びあの変な新聞とにらめっこ。

「マヤ?」

わたしが声を掛けても、返事をせずに、新聞を見ながらあるくだけ。

しょうがないから、わたしもマヤの後ろにくっ付いて歩くことにした。


そして、

わたしたちがやってきた場所は……


『……第三コーナーを回っていきます。先頭はノースハインツ。その後ろ半馬身のところにレイクオブ

ザレース。その後ろはベテラン福永のカイゼルマックスだ。外を通ってニホンピロエイム……』

とのアナウンスの流れる中。何人もの人々が、設置されているテレビ、大きな画面に向かって熱い視線

を投げかける。中には……

「そら、タカユキ、仕掛けなさい!もう。中山は短いんだから、早く!」

と、側で叫んでる人も……、側で?

「……ま、マヤ?」

いつの間に手にしたのか、手に新聞を丸めて持ち、耳に赤鉛筆を掛けて、とかなりレトロなスタイルで

マヤは嬌声をあげている。

これでだいたい分かってもらえると思うんだけど、ここは……

「新東京競馬場……って、なんで先に言ってくれないのよ!?」

わたしの苦情にもまったく耳を貸さずに。「そのまま、そのまま!」

……駄目だこりゃ。

ふと、わたしは周囲を見渡す。考えてみたら競馬場なんて初めてきたんだ。

目の前の大きい画面の手前に、レーストラックが見える、けど、今日は使われていないみたい。

……なんで、ここでレースやってるわけじゃないのに、こんなに人がいるのかしら?

そう、別にここでレースはやっていないのに、フェンスに沿って敷物をしいて座ってる人、人、人。

後ろを見ると、大きい建物があって、そこのベンチも完全に埋まっているみたい。

と、その時、例の画面のレースが終わったみたいで……

「きゃーっ!やった。やったわ!」

……マヤってこーいう面持ってたんだ。

「ねぇ、マヤ」

「ん?何?」

「一体どうしたの?」

「うんとね、馬券が当たったの!2000円くらいの配当だから、だいたい……40000円ね」

「2000円?四万円?」

わたしは最初、マヤの言ってる事が良く分からなかった。配当が2000円ってどういう意味なの?

儲かったようだとは思うけど。

「さぁ、これ全部で次のレース行くわよ〜!」

「ちょ、マヤ?」

「あ、アスカちゃんも賭けたら?」

……マヤの稼ぐって、そーいう意味だったのか。

でも確か日本の法律じゃ未成年の競馬って、御法度じゃないの?

わたしの気持ちに気づいたのか、マヤは

「でも、そーいえばアスカちゃんは馬券買えないんだっけ」

「そ、そうね」

「ま、私が買ってきてあげるから、この紙に書きなさい」

と、わたしの考えとは見当違いの答えを返してきた。

もう、頼りにならないな〜。

でもこのままじゃしょうがないもの。競馬でも何でもやってやろうじゃない。

けど、どうすればいいんだろう?こういうのは経験者に聞くのが一番良いわね。

「マヤ」

「ん?なぁに?」

「次のレースって……」

「ああ、次は年内最後のGI、有馬記念よ。とはいっても、今年は天皇賞を春秋連覇したネオマックス

と三冠馬のレボリューションのマッチレースね」

「いや、そうじゃなくて……」

「そりゃ、武ユタカはネオマックス蹴って、ホーリーエリアスに乗るみたいだけど、それは去年お手馬

だったからでしょうね。昔イナリワンに乗ってたときもスーパークリークの復帰とともに乗り変わった

みたいに」

「ちょっと、マヤってば」

「何よ。まだ疑ってるの?MAGIだってあの二頭できまりだって結論づけたのよ」

……本部でMAGIにやらせてたのって、競馬の予想だったのね。

「そうじゃなくて、なんていう馬が、何番かわからないのよ!」

「なんだ、そう言ってくれればいいのに」

「何も言わせてくれなかったじゃないの!」

「そうだっけ?じゃ、これに載ってるわ」

と、マヤはさっきの薄っぺらい新聞をわたしに差し出す。

それを見ると、確かに一面(!?)に第XX回有馬記念と書かれた表が載っていた。

ざっとそれを眺めて見る。けど、全然わからない。

大体、何なのよ。黒毛とか栗毛とか、前走とか、脚質だのって……

あー、もう、どうすればいいの?

ただ、数字を組み合わせて見るとか……、そうだ!

わたしの誕生日、12−04っていってみよう。

わたしは12番の馬と4番の馬の名前を見てみる。

そこには、

12 ホーリーエリアス 牝 五歳 武ユタカ

4 カミノテフィア 牝 六歳 田中カツハル

との表記……あれ?

12ー4ってつなげると、ホーリーエリアスカミノテフィア。アスカって入ってるじゃない!

すっごく縁起いいかも。これで決まりね。

「マヤ。わたし連勝の12−4」

「12−4って4−12でいいの?このレースは3−5一点よ。さっきも言ったでしょう?」

「べつにいいでしょう?」

「けど4−12って言ったら、テフィアが人気薄で20000円もつくのよ」

また訳のわからない言葉。

「いいの!208円分、ちゃんと買ってきて!」

「もう……分かったわ。けど、外れても何もあげないからね」

そう言われると、一瞬マヤの言う通りにしようかとも思ったけど、208円じゃどうせ何もできないも

んね。


そして、レースが始まる。


『さあ年の締めくくり、第××回有馬記念。いよいよスタートです。スターターが台に昇っていきます

。まもなくファンファーレがなります』

とのアナウンスとともに、モニターの中で白い服を来た人が車の上で旗を振る。すると吹奏楽が聞こえ

てくる。

すると、周りの人たちはみんな、その曲にあわせて手拍子をする。そして、曲のおわりに、みんな新聞

を丸めて持って、手を大きく振っている。良く見るとモニターの中でも同じ事が起きている。

『各馬、ゲートに収まっていきます……最後の馬が収まりました。まもなくスタートです』

がたっ

『さぁゲートが開いた。各馬順調なスタートです。まずはおっと、3番ネオマックスが行きました。そ

れを追って6番のキングスマッシュ、1番のルールオブザレース、と続いていきます』

……アナウンサーはそう言ってるんだけど、わたしは良くわからない。

ま、たしかに3って鞍に書いてある馬が先頭を走ってるみたい。

わたしの……12ー4は

『中段を後方からはオレンジの帽子、12番、武ユタカのホーリーエリアスです。それを追って4番、

カミノテフィア』

と、後ろの方にいるみたい。

……やっぱ、わたしの誕生日だからって、無茶だったのかな?

いや、そんなことはないわ。このアスカ様の名前だって入ってるのよ!

そうよ。ユカタだかユタカだか知んないけど、勝ちなさい!

わたしがそう思っている間も、レースは続いていく。

『ネオマックスが先頭で第二コーナーを曲がって向こう正面です。現在も先頭はネオマックス。1馬身

はなれまして6番キングスマッシュ。そしておっと、はやくもレボリューションもこの位置にあがって

きました。半馬身差で1番のルールオブザレース。14番キクカノチカラ。8番のアルテマウェポン…

…そして後方3頭目はホーリーエリアス。続いて4番カミノマックス、最後方からは11番ゴットシャ

トーといった体制です』

わたしの馬達は未だに後方みたい。マヤの馬は前の方にいるのに。

けど、マヤはなにか不満そう。

「ああんヒトシったら、早すぎるわよ!」

……台詞だけ見たらかなりヤバイわよね、これ。

『さぁ第三コーナーを曲がった当たりで……おっと、はやくもレボリューションあがっていきました。

それについで8番のアルテマウエポンもあがっていくぞ。レボリューション、早くもネオマックスに並

びます』

わたしの馬はどうしたのだろう……、いまやモニターにすら写ってないわ。

あーあ、やっぱだめだったのかな〜。

と、その時だ。

「おっと、外から12番のホーリーエアリスもやってきている!先頭に三頭並びまして第四コーナーを

回り、最後の直線に入ります」

「やった!そのままきなさい!

わたしは思わず叫んでしまい、慌てて周囲を見渡す、けど回りもみんな叫んでるみたいで全然気にして

いないみたい。

つくづく競馬場って変なところね〜

「マックス!さぁ最後の足よ!出しなさい!」

っと、これはマヤね。

『直線のこり400メートルを切りまして、おっとホーリーエリアスが抜け出した!ホーリーエリアス

が先頭!ネオマックスはどうだ?ネオマックスの足色はあまりよくないぞ。ついでレボリューション…

…、おっと、直線13番アオイエキスプレスもやってきた。』

やった!けどあなただけじゃなくて、もう一頭は?

「嘘……」

マヤは呆然としている。外れそうなんだものね、無理ないわ。

『しかし先頭はホーリーエリアス。2馬身、3馬身と差を広げていく!最後の坂を昇って先頭はホーリ

ーエリアス、そして2番手に……おっと、赤い帽子4番のカミノテフィアがやってきた!田中のムチが

うなってカミノテフィアだ!カミノテフィア、ホーリーエリアスに近づいてきた!残り100メートル

を切りました!先頭はホーリーエリアス、カミノテフィアと並んでいます!ホーリーエリアス、カミノ

テフィア!ホーリーエリアス、カミノテフィア!そのままの体制でゴールイン!一着は写真判定でしょ

う!そして三着にはレボリューションが入りました。』

「きゃー!やった〜!やった〜!!みたマヤ?12−4でしょ!?やった〜!」

「そ、そんな。MAGIの予想が……」

がっくりうな垂れるマヤ。フフフ。処置無しってところかしら?

「ねぇねぇマヤ!はやくお金貰ってきてよ!」

「まだ駄目よ」

「どーして?」

「確定してないんだもの」

……競馬って複雑。なんでこんなものマヤはおぼえられるのだろう?

確かに、モニターの側に順位を示す表示板があるけど、1着2着は空白で、その右隣の1と2の間のと

こには『写』と出ている。

写真判定とか言ってたから、その意味だろうな。


しばらくして、さっきの表示板に『確』の文字と赤ランプが点って、マヤは「払い戻してきてあげる」

と、去っていった。

うふふ〜、一体いくらになるのかな〜。

そして、マヤが戻ってくる。

「ねぇマヤ!いくらになった」

わたしが聞くと、マヤは黙って一万円札四枚と千円札二枚、百円玉4枚を差し出した。

よ、四万円も?

わたしが驚いてマヤをみあげると、

「配当は21200円だったわ。だからこれだけ」

と、面白くなさそうに言う。

「きゃー!やった〜!これでプレゼント買える!」

マヤには悪いけど、わたしは嬉しくって、また大声を出してしまった。

「その前にさぁ、アスカちゃん」

「ん?なーに?」

「あの……わたし、さっきのレースで、そのぉ……」

嫌な予感。

「……まさか?」

「そう、その……お金、貸してくれない、かなぁ?」

こ、こーいう展開になるか。

まぁ、わたしは20000円もあれば十分だし、マヤには今日ここまで連れてきてくれた恩もあるし。

「わかったわ。で、いくら?」

「うーん、ごせ、……いや、一万円」

「ちゃんと返してね」

わたしはマヤに一万円を渡す。

「ありがと、アスカちゃん」

「じゃ、帰りましょ。わたし、お買い物とかしたいし」

「……そうね」


わたしたちが第三新東京につく頃には、もう日も暮れていて、わたしたちは、そこで別れることにした。

わたしは電気街までお買い物にいき、最新のウォークマンを買って、家路へと急いだ。

「ただいま〜」

「あ、おかえりアスカ。今日はどこ行ってたの?」

「うーんと、内緒!」

「ふーん」

と、わたしはリビングを見渡して見る。

……いつもとおんなじ。クリスマスらしいデコレーションが一つもない。

今日がイヴだっていうのに、しんじらんない!この馬鹿は……

「ねぇシンジ、今日、何の日だかしってる?」

「へ?」

「今日はさぁ」

「ああ、クリスマスイヴだよね」

なんだ、知ってるんじゃない。

「ちょっと待ってて」

シンジはそう言うと、冷蔵庫へと行って、中からケーキを取り出した。

シンプルな苺のショートケーキ。けど真ん中にサンタクロースの飾り物が載っている。

わたしが感心して見ていると、シンジは

「これ作るの、思ったより手間取っちゃってさ。ツリーとか飾ってる時間なかったんだ」

「ふーん……、でもおいしそう」

「食べる?」

「うん!」

シンジはまずケーキを切り分けてお皿に乗せると、今度はティーサーバーに紅茶を作って、持ってきて

くれた。

「いただきま〜す」

わたしはそう言って、フォークを手にとり、ケーキを一口食べる。

うーん、スポンジも、クリームも苺も丁度良い感じ。

シンジってつくづくお料理が上手ね〜

「ん、おいしいじゃない」

「ふふふ、ありがと」

シンジはわたしにそう言うと、自分も食べはじめた。

ケーキを食べおわって、わたしがプレゼントを出そうかな、と思ったとき、シンジは、シンジは突然

「ねぇアスカ。サンタクロースって、信じてた?」

「へ?」

突然の質問に、わたしは間の抜けた返事をしてしまった。

「何よ、いきなり」

わたしが訊ねると、シンジは

「僕、ほら、4才の時に父さんと別れて、おじさんの所にいたんだ。それで、その年のクリスマスに、

サンタクロースにお願いしたんだ。父さんに、会いたいって……」

と、どこか遠い目をしながら語り始める。

けど、分かる気がする。わたしはママが死んじゃったときにはもう、サンタクロースなんて信じていな

かった。けど、もしそうじゃなかったら、きっとママに会いたいってお願いしたと思う。

……変な感じ。なんだか急にシンジに親近感もっちゃった。

「紙に書いて、枕元に置いておいたんだ。ひょっとしたら、って思ってさ。けど、次の日の朝、枕元が

寝る前と全く変わってなくて、気づいたよ。サンタなんて、いるわけないって……」

そういうと、シンジは弱々しく笑う。

「それ以来、僕にとってクリスマスって、何の日でもなかった。ただ、周りが騒ぐばっかりで、僕には

何もなかったからさ。けど、今年は違う。今、僕にはこういう日を一緒に祝える人が周りにいる。今回

はミサトさんはいないけど、こうして、アスカがいる」

シンジの話の中にわたしが出てきて、思わずわたしは目を丸くする。

「……今日、こういう日を祝うために、他の人と自分との為に、ってケーキを作るのが、楽しくてしょ

うがなかった。だから……ありがとう、アスカ」

お、お礼なんて急に言われても……、

でも、今思い返して見ると、昨日から金策に駆け巡った時間って、いらいらしながらも、結構楽しかっ

たような気もする。今日だって……まぁ勝ったってのもあるかもしんないけど、帰り道、楽しくてしか

たなかった。シンジが喜ぶのが、目に浮かぶようだった。

それが……クリスマスが楽しかったりする理由かな。わたしにはそんなこと考えた事も、考えるように

させてくれた人も今までいなかったもの。

「何言ってるのよ、アンタも変ね……」

「そ、そうかな……」

シンジは途端ちょっと赤い顔をする。

「ウフフフフ」

わたしはそう言って笑いながら、一つの考えがまとまっていった。

プレゼントを渡すのは、もっと後にしよう、と……


そして、その晩。

時計は12時少し前。

わたしもシンジも寝室に引っ込んでから、ちょうど一時間くらいだろうか。

もう、シンジ、寝てるかな。

わたしはこっそりとおき出すと、デスクの上に置いておいたプレゼントを手にとって、ドアへと向かっ

た。

え?何をしてるのかって?サンタクロースよ。

さっき、シンジが寂しそうにサンタクロースの話をしてたから、それなら、と思って。

クリスマスだし、ちょっとくらいのミラクルだと思って……、

と、わたしはドアの外に聞き耳を立てて見る。

音はしない。きっともうシンジも寝てるだろう。

わたしはそおっとドアを開けて、暗い中、ゆっくりとシンジの部屋へと向かって歩き出す。

音を立てないように慎重に、慎重に……

がつっ!

と、わたしは頭をなにかにぶつけたみたいで……

「「痛っ」」

と、声を……って、ちょっとまって、今、まさか……

「シンジ?」

「アスカ?」

そう、わたしがぶつかったのは、シンジだった。

「あ、アスカ、何してるの?こんな時間に」

「し、シンジこそ」

改めてシンジを見る、するとわたしはシンジの右手で視線が固まった。

……包装された四角い箱、あれはひょっとして……

と、わたしは改めてシンジの顔を見る。するとシンジはわたしの右手を見つめていた。

あ、やば、隠すの忘れてたわ。

するとシンジは驚いたようにわたしの顔に向き直る。

わたしはその顔に笑顔で答えてあげた。

うふふ……シンジもまったくおんなじ事考えてたんだ……

なんか、急におかしくなって、わたしは笑い出す。

シンジも釣られてか笑い出した。


「急にサンタクロースの話しだしたと思ったら、こーいう伏線だったのね。まったく考えもしなかった

わ」

「僕だって、まさかアスカがプレゼント用意してたとは思わなかったよ」

明かりを点けたリビングの中、わたしたちはさっきの事についての話をしてた。

「ふふふ、まぁいいわ。で、それは何?シンジ」

わたしはシンジのプレゼントを指差して訊ねた。

「え、じゃぁアスカ、開けてみてよ」

と、言ってシンジはわたしにそれを差し出した。

わたしはプレゼントを受け取ると、すぐに開いて、そして、

「あーっ!このペンダント!」

わたしは驚いてシンジを見た。

と言うのも、シンジのプレゼントに入ってたのは、わたしがついこの間見て、気に入ったやつだったか

ら。

その時は、例の洋服をたくさん買ったせいで買えなかったんだけど……どうしてシンジはこの事を?

シンジは笑って、

「アスカ、そのペンダントの話、委員長としてたでしょう。だから……」

聞きもしなかったのに、答えてくれた。

うふふ……でも、嬉しい。シンジ、わたしのことに結構、気を回してるんだ。

「ありがと、シンジ。すっごく嬉しい!」

「どういたしまして」

シンジは照れくさそうに答える。

「じゃぁ、シンジも開けてごらんなさい」

と、わたしはシンジにプレゼントを渡した。

シンジはそれを受け取って、開けてみて

「!これ、新しいウォークマン!どうしたのアスカ、これ?」

「ん?まぁ、今回はペンダントと、誕生日のお礼をかねてってところかしら?」

「ありがとう。でも……高かったでしょう?大丈夫だった?」

「ん?まぁね……」

金策の話は内緒。変な風にとられたら嫌だもの。

と、そのとき、部屋の窓に白いものが舞う姿が見えた。

「え?」

わたしは驚いて、ベランダに出る。

すると……外はちらちらと、雪が降っていた。

「どうしたのアスカ、いきなり」

と、シンジもベランダに出てきて、言葉を失う。

「雪……本当に降るんだ」

わたしは手を差し出し、雪を受け取ろうとする。いくつかの雪が手の中に入っては溶けて消えていく。

「あはは……冷たい」

「……ほんとだ」

あれ、いつのまにかシンジもわたしと同じ事をしている。

ふっと、わたしの頭の中に、有名なクリスマスソングが流れ出す。

I' dreamin' of a white Christmas...

ホワイトクリスマス、か。素敵だな。

わたしはふと、シンジを見る。シンジは未だに手を差し出したままだ。

そっと、わたしはシンジの側に寄って、シンジに寄りかかるように、シンジの肩に頭をのせた。

シンジは驚いてわたしの方を見る。そして、ゆっくりとわたしの肩へと手を回す。

降り続ける雪の中で、わたしは思う。

シンジとこういうのも、悪くないな、と……。


そのころの、ミサトのマンションの上空2万Mでは、

「ねぇマヤ、ほんとにこんなことでいいの?」

『はい。きっとシンジ君とアスカちゃんには最高のプレゼントだと思います』

「あの二人がねぇ……」

『シンジ君はどうか知りませんけど、アスカちゃんは今日、シンジ君へのプレゼントをどうにかしよう

と必死だったんですよ』

「あら。シンちゃんも二日前はかなり真剣な顔してわたしんとこ来て、お金持ってってたけどね……っ

てことは……」

『ま、そういうことでしょう』

「なるほど。あ、そろそろ旋回して、もう少し降らして!」

ミサトの号令とともに、大量の雪を積んだ爆撃機が旋回し、再び雪の投下を始める。

「けどこれ、マヤが考えたの?」

『えっと、何かしてあげたいな、と思ったのは私ですが、考えたのはMAGIです』

「マギねぇ……まったく、とんでもないコンピューターだわ。恋愛の機微までかんがえてるなんてね」

『ふふふ、製作者の性格が伺われますね』

「あはははは……、なるほど、おばさんらしく、そーいうことにはミーハーなわけか」

おしまい

ご意見・感想・誤字情報などは mayuki@mail2.dddd.ne.jp まで。

はい、クリスマスなお話です。

しかも、またしても昔のお話がベースなんだから困ったもんですね。

それも私の敬愛するO.ヘンリの、私の一番好きなお話で。

本当の話は……ご存知の方が多いと思いますが、とっても良いお話で、

私はアメリカに来てから、あの話が載っている本を三種類ほど手に入れました(^^;

あはは……(苦笑)


 yukiさんの『MAGIの贈り物』公開です。
 

 

 万馬券一発、小金持ち!
 

 アスカちゃんの純粋な思いに
 神様は応えてくれました〜

 応えたのはサンタさんかな?(^^)
 

 神様にしろ、サンタさんにしろ、
 アスカ様のお役に立てて光栄でしょう(爆)
 

 

 競馬は苦手でも、
 ムード作りは上手でした(^^)
 

 常夏の第三新東京市での”ホワイトクリスマス”

 キラキラ降り注ぐ雪と
 満点のムードの包まれた二人は−−
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 プレゼントを届けてくれたyukiさんに感想メールを送りましょう!


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