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妖精の憂鬱
第一話 美少女襲来

 

 

 毎朝毎朝、懲りずに走っている二人。

 惣流アスカと綾波レイである。

 遅刻しそうになりながら、学校への道をひた走る。

 アスカは、朝が遅いわけではない。

 なのにどうして、毎朝こうしているのか。

 その原因は、半年ほど前に惣流家の隣に越してきた、低血圧娘のレイ。

 起きあがるまで、たっぷり一時間はかかる。
 

「もう、いい加減、起きられるようになりなさいよ!!」
「だって・・・はぐはぐ・・・眠いんだもん」
 

 寝坊のため、朝食をまともにとれないレイは、食パンをくわえている。

 なんとも情けない姿だ。

黙っていれば、二人とも文句なしの美少女なのだが。

 二人は、自分の事を良く見せようなどとは、これっぽっちも思ってないらしい。
 

滅茶苦茶に気の強いアスカ。

 曰く、『平気で、男の子に張り手をくれる』『貰ったラブレターなど読まずに蹴散らす』

『口げんかの天才』・・・・・その他諸々。

 性格が、小悪魔的なレイ。

 曰く、『とにかく他人の恋愛話に首を突っ込む』『貰ったラブレターを掲示板に張り出す』『よく眠る』・・・・・等々。

 惣流アスカ。

 綾波レイ。

 十四歳。

 恋に目覚めないお年頃である。
 

「ねえねえ、今日転校生が来るんだって」
「そういや、二バカがそんなこと喚いてたわね」
 

 遷都されたばかりの第三新東京市。

 人が増える一方なので、転校生もひっきりなしにやって来るのだ。
 

「かっこいい子だといいなあ」
「あ、あんた、止しなさいよね、もう」
 

 別に、素敵な出会いを待っているわけではない。

 レイにとって、かっこいい男など格好のターゲットなのだ。
 

「ええ、どうして?」
「あのねえ、渚の奴まだ立ち直ってないみたいよ」
「あはは、あれは、渚君が悪いんだもん」
「そりゃ、そうだけどさ」
 

 一ヶ月ほど前に転校してきた渚カオル。

 この二人をのぞく女生徒が、狂喜したほどの美少年だった。

 何処にいてもそうだったのか、すぐに女の子達と親しくなった。

 しかし、この学校にはレイがいたのだ。

 およそ二週間の間に、カオルは複数の女の子に手を出そうとした。

 が、何処から繋がったのか、声をかけられた女の子達は『好意に値するね』などという言葉が、それこそ絨毯爆撃のように振り撒かれていたのを知った。

 その後、十数人の女の子達から、寄って集ってボコボコにされたのだ。

 その裏で暗躍していたのは、もちろんレイであった。

 アスカは、勿論そのことを知っている。

 恋はしない方がいい、この子がそばにいる限り。

 そう誓わせるに十分な出来事だったのだ。
 

「でも、女の子かもしれないじゃない」
「そしたら友達が増えるからいいもん」
「ま、それもそうね」
「それにしてもさ、アスカは何で好きな人とかいないの」
 

 おい、とか思わず言ってしまいそうになる。

 気付いてないのだろうか。

 ジト目で見つめているアスカ。
 

「アンタねえ、無茶いわないでよ!!」
「なんで?」
 

 真顔で訊ねてくるレイ。

 思わず、転びそうになってしまうアスカ。

 これだけの会話は、全て走りながら行われているのだ。

 尋常な肺活量では、出来ない技である。
 

「さらし者は嫌なのよ!!」
「は・・・・・?」
 

 全然理解していないようだ。

 正気か、と思ってしまったのも仕方ない。

 それにしても、この程度の認識で、あれだけの事をやっているのだろうか。
 

「アンタにからかわれたくないからよ!!」
「ええっ、あたしアスカなら断然応援しちゃうけど」
「その、応援の仕方に問題があるのよ!!」
「どうして、あたしのサポートで上手くいった人達って結構いるのに」
 

 確かに上手く言ったようだ、結果的には。

 だが、過程は。

 はっきり言って悲惨だった。

 『とにかく既成事実を作らせてしまえ』

 それが、レイの戦法だった。

 そんなモノが我が身に降りかかったら。

 アスカは、そこまで怖いモノ知らずではない。
 

「と、とにかく、あたしに見合うほどの男なんて、そうそういるわけ無いじゃない」
「ふーん、でも、なーんかひっかかるのよね」
「な、なにいってんのよ」
「何となくだけどさ、アスカ、もう心に決めた人がいるような気がして」
「バ、バ、バカなこと言わないでよ!!」
「おや、図星かしら?」
 

 図星であった。

 『心に決めた人』

 そこまで大層なモノではないが、友達と恋愛話などをしている時、ふと、思い浮かぶ顔がある。

 昔、どこかに引っ越して行ってしまった幼なじみ。

 かっこいいとは言えなかった。

 男のくせに、女の子の服を着ていた(着せられていた?)のを覚えている。

 でも、優しい笑顔をしていた。
 

「ね、誰々?」
「そんなんじゃないわよ!!」
「おしえてよー」
「だから、違うって」
「うーん、誰だろう、アスカって顔で選ばなそうだし」
「ち、ちょっと」
「難しいわね」
「だ、だから違うんだから」
「心配しないで、このあたしに任せなさいって!!」
「あのねえ」
「で、誰なのそいつは?」
 

 『しつこい奴』

 しかし、アスカはそれほど悲観していなかった。

 もうすぐ学校だ、そうすれば有耶無耶にしてしまえる。

 

 懐かしい思い出。

 それは、忌まわしい思い出でもあった。

 優しい笑顔の幼なじみ。

 微笑んでいる瞳。

 でも、その片方は自分と同じ色をしていた。

 忘れてしまいたい。
 

「あと五分しかないわよ」
「いっけなーい」
 

 いっそうスピードをあげる二人。

 あとは、無言のまま一気に校舎になだれ込む。

 どうやら、アスカの思惑通りに行ったようだった。

 

 


 

 

 いつもより騒がしい教室。

 誰もが転校生の話題で、盛り上がっている。

 まだ、性別は知らされていない。

 双方とも、かなり期待している。

 ここのところ、各クラスに転校生が相次いでやって来るからだ。

 だが、当たりと言われる人物は、見あたらない。

 中でも、大当たりの筈だった渚カオル。

 『性格に難アリ』、と言うことで現在は却下されている。

 この間の事件は、全校にわたって知られていた。

 更には尾鰭がついた為、最早、彼が日の目を見ることはないに等しい。

 噂とは恐ろしいモノなのだ。
 

 『色魔』『ヘンタイ』『男色』『使徒』・・・etc.etc。

 訳の分からない『二つ名』をいただきまくっていた。

 カオル君の落ち込みようは、いかほどか。

 以前いた学校では、上手く行っていたのだろうに。

 最近の彼は、訳の分からないことを呟くまでになっていた。
 

「ケンスケ、どないなっとるんや」
「分からないよ、僕の情報網に引っかからないなんて」
 

 鈴原トウジと相田ケンスケ。

 『二バカ』アスカがそう評していた二人である。

 学校一の情報通であるケンスケ。

 その彼にして、今回の転校生の正体は、掴めなかったようだ。

 と言っても本人が、『情報通』で通っていると思っているだけ。

 他の人間に言わせると『ただのデバガメ』になってしまうのだ。
 

「可愛い女やとええなあ」
「ふふ、また儲かるな」
 

 これが、デバガメの所以である。

 相棒の、怪しい関西弁を喋るトウジ。

 二人で校内美少女の写真を撮っては、売り捌いているのだ。

 

 ちなみに、最近の人気ランキング。

 第一位・・・惣流アスカ

第二位・・・綾波レイ

 第三位・・・渚カオル  

 何故、この三人が上位を占めているのか。

 関係者、所持者、曰く。

 『写真に性格は写らない』

 なんとも情けないが、これが現状である。
 

「女や、女であってくれ」
「神様・・・」
「鈴原、何バカなこといってんの!!」
 

 おっしゃるとおり、バカまるだしの二人に『伝家の宝刀?』洞木ヒカリの一喝である。

 腰に手をあてて、憤然とした顔をしていた。

 だが何故、トウジだけなのだろう。

 バカなことを言っていたのは、ケンスケもだが。

 まあ、その辺は、言わずもがなである。
 

「せ、せやかて、いいんちょ・・・」
「とっとと席に着きなさい!!」
「わ、分かってるがな」
 

 指定の制服があるにもかかわらず、何故か何時もジャージを着ている。

 一見すると、『硬派なスポーツマン』といった印象を受けるが、中身はこの通り。

 お下げ髪の少女ヒカリは、まだ治まらないのかすごすごと席に戻っていく、トウジの背中を睨んでいる。

 なかなかに微笑ましい光景だ。

 だが、それも、この教室に置いてはまずい行為だった。
 

「大丈夫よ、そんなに心配しなくったって」
「あ、綾波さん」
「ふふっ、ジェラシーまるだしってね」
「ち、違うわよ・・・わ、私は、委員長として」
「成る程ね、だったら今度からは、相田君も一緒に怒らなきゃ」
「え、あ、そ、それは・・・」
 

 こういう目に遭うのである。
 

 

 まあ、もっとも毎朝こんな感じではあるが。

 しかし恐ろしい。

 先程まで、アスカと昨日見たドラマの話題で、盛り上がっていたのだ。

 かなり熱中して、話していたはずだが。

 レイの耳は、こういった声に対して特別のようだ。
 

「あ、綾波さん、そろそろ席に着かないと」
「ほいほーい、じゃあまたあとでね」
「な、・・・・・」
「くすっ、冗談よ」

 

 

 

 

 つい先程まで騒がしかった教室。

 今は、静寂と緊張が支配している。

 『ごくっ』

 誰かが唾を飲む音。

 静かな教室に、異様なほど響きわたる。

 教壇に立った若い女教師が、緊張した生徒達を見渡す。

 葛城ミサト。

 こういった演出が、大好きなのだ。
 

「覚悟は出来たか諸君!!」
「おおっー!!」
 

 凛とした声で告げるミサト。

 決死の形相で答える生徒達。
 

 何が、彼らを此処までさせるのか。

 正直、転校してきた方はたまったものではない。
 

「安心しなさい、かなりの上玉よ」
「うおっー!!」
「美少女か、それとも美少年か!!」
「お願い!!」
「た、頼む!!」
 

 一体、何をお願いして、頼むというのか。

 教室内のテンションは、上がりっぱなしであった。
 

「さあ、入ってきなさい!!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・?」
「あ、あれ、どうしたの」
 

 誰も入ってこない。

 当然か、こんな中に入りたいと思う奴がいるだろうか。
 

「ほ、ほれ、何、照れてんのよ」
「は、はあ・・・・・」
 

 半ば強引に連れ込まれる転校生。

 顔が、少々ひきつっている。
 

「う、うおー!!」
「やったぞ!!」
「も、儲かる」
「か、可愛い」
「ぼ、僕とおつき合いを」
「歌はいいねえ」
 

 若干、外れている奴もいるが、これが転校生への反応だった。

 確かに可愛いと言っていいだろう。

 アスカやレイに比べて、少々地味ではあるが、整った顔立ちは負けてはいない。
 

「はいはい、静粛に!!」
 

 ミサトの一言で静まる生徒達。

 かなりの統率力である。
 

「さあ、自己紹介して」
「あ、あの、き、霧島マナです。よ、よろしくお願いします」
「趣味は何ですか?」
「え、えっと、料理です」
「か、可愛い!!」
「はっ・・・・?」
「お友達から始めましょう」
「え、あの・・・?」
「・・・・・・!!」
「・・・・・・??」
 

 最初以外は、訳の分からない質問を受け続けるマナ。

 縋り付くような視線をミサトに向けるが、一向に止めようとしてくれない。
 

「「「いやーん!!!」」」
「あ・・・・の・・・」
「僕は君に会う・・・・・!!」
「な、・・・・・な・・・・」
「いいかげんにしなさい!!」
 

 可哀想に思ったヒカリが一喝する。

 ミサトばりの効力を持っているのか、すぐに静かになるバカ一同。
 
 
 

 霧島マナ。

 悲惨な転校初日は、まだ始まったばかりだった。


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ver.-1.00 1997-05/07公開
ご意見・感想・誤字情報などは kazukun@mxv.meshnet.or.jpまで。

 また一人「めぞんEVA」に小説書きが生まれたました。
 記念すべき20人目の仲間、さんの初投稿作品は、『妖精の憂鬱』です(^^)/

 これは!!!

 走っているアスカを見たときは、
 シンジと一緒なんだろうなと思っていたのですが、相手はレイ。
 転校生の話が出たときは、
 それこせシンジだと思ったのですが、まさかの霧島マナ。
 2度にわたり完全に意表を突かれましたね!

 しっかりと人物が書かれているのは、
 アスカ・レイ・ヒカリ。そして、マナ・・・・・・・・

 この辺りにというタイトルと結びつく物があるんでしょうか?
 非常に興味を引かれました。

 訪問者の皆さん、
 今までにない学園エヴァをはじめた葵さんに激励のメールを送って下さいね!


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