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異説エヴァンゲリオン
Just One More KISS



相変わらずセミの鳴き声がやかましいここは日本、第3新東京市。

時間は、午後3時をまわったところである。

「ごめんね、アスカ、買い物付き合ってもらっちゃって」

「いいわよヒカリ、そんなこと。アタシも結構楽しんだしね」

その市街を、楽しそうにお喋りをしながら歩いている2人の少女の姿があった。

第壱中学校2―A学級委員長を肩書きに持つ洞木ヒカリと、惣流・アスカ・ラングレー、肩書きは

第壱中学校の生徒、大卒、エヴァンゲリオン弐号機パイロット、セカンドチルドレン等色々ある。

「でも、いつもは碇君と一緒に帰ってるのに」

ヒカリがすまなそうに言と

「いいのよ別に。アイツといるのは義務なんだし」

アスカが苦笑しながら答える。

「そうなの?でも、アスカと碇君って結構お似合いだと思うけどな〜」

「な、何言ってんのよ、ヒカリ!なんでアタシとシンジがお似合いなのよっ。シンジなんか

バカでトロくて情けなくておまけにスケベよ!この天才美少女のアタシとつりあう訳ないじゃない」

「ふーん。でも碇君といる時のアスカってすごく楽しそうにみえるんだけどなぁ。でもたしかに 彼、頼りなさそうなところはあるわよねぇ」

ヒカリがアスカの方を、チロッと意地悪そうに見ながら言った。

「で、でも、ああ見えても良いところも意外とあるのよ。助けてもらったことだってあるし、いざと いう時は結構頼りになったりするし、優しいし・・・・・・」

アスカが慌てたように言うと、ヒカリは満足気にうなずく。

「へ〜、アスカにとっての碇君は、優しくて頼りがいのある男の子なんだぁ」

「ちが・・でもバ、バカでスケベには違いないわよっ」





その頃、バカでトロくて情けなくてスケベで優しく、頼りがいのある少年、碇シンジは葛城家のキッチンにいた。

シンジは巨大な冷蔵庫の前にしゃがみ込んで、今日買ってきた食料品を中にしまっている。

瞬く間に冷蔵庫は一杯になっていく。中身は、2/3が約1週間分の食料で残りはすべてビール。

シンジは絶妙な配置でスペースを作り、収納していったのだが、最後にどうしても

缶ビールが1本だけ入らなくなってしまった。

「まぁ、1本くらい外に出しといてもいいかな・・・」

そう言いながら、シンジは手にしたビールをジッと見ている。

”くぅ〜!やっぱビールが最高ね〜”

保護者の口癖がどこからともなく聞こえてくる。

”プッハ〜、やっぱり朝はビールよね〜”

冷蔵庫の前で固まっていたシンジはつい考えてしまった。

”そんなにおいしいのかな・・・・・?”



カシュッ


そして、小気味よい音を立てて、プルタブが開けられた。

ドキドキしながら、まずは1口。

グビッ

「苦い・・・」

口の中に広がっていく苦み。

「なんでミサトさんはこんなもの、あんなに飲めるんだろう・・・・」

シンジが手に持っている缶の中身は、まだ殆ど残っている。

「これ、どうしよう・・・・」

とても全部飲めそうもなかったが生来貧乏性が発揮されて、捨ててしまうのもためらわれた。

と、その時葛城家の、もう1つの冷蔵庫が開いた。

「そうだ!」

結局シンジは、もう1人の同居人、ペンペンに頼むことにした。ペンペンのエサ皿にドボドボと

ビールが注がれていく。ヒョコヒョコと寄って来たペンペンは思った通り、美味しそうにそれを飲み始めた。

恐るべきは葛城ミサトである。1/3ほど残ったビールは、しょうがないのでシンジが自分で飲むことにした。












「パターン青!使徒です!!」

オペレーター、日向マコトのその一言でネルフ本部の発令所は騒然となった。

「エヴァの発進準備急いで!パイロットに非常召集!!」

ミサトの激が飛ぶ。

「リツコ、零号機は?」

「無理よ。神経接続のフィードバックレギュレターの異常はまだ解決されてないわ」

赤木リツコが、ここ何日か徹夜が続いているとはとても思えない表情と口調で答えた。

「チッ・・・・」






「はい、もしもし?・・・・・・・え!・・・うん・・・わかった、すぐ行くわ!!」

アスカが、使徒襲来の連絡を受けたのは、ヒカリと別れ、家まであと5分の道を歩いていたときだった。

電話を切ると、アスカは駆け出して行く。自分を待っている弐号機のもとへ・・・・・



PiPiPiPi PiPiPiPi

”電話が鳴ってる・・・・あの音は非常回線だ・・・・・出なきゃ・・・・・・・・・”

シンジは洗面所で、鳴り響く携帯電話の呼び出し音を微かに聞いていた。頭と体が

燃えるように熱い。心臓は口から飛び出しそうだった。それでも、何とか自分の部屋まで辿り着くと

ケイタイの通話ボタンを押した。

「もしもし、シンジ君?ミサトよ!使徒がでたわ、すぐ本部まで来てちょうだい。シンジ君、聞いてる?」

「あ・・・は、はい、聞いてます。すぐ行きます・・・」

「そう。お願いね」

ミサトは、あわただしく用件だけを伝えると電話を切ってしまった。

シンジは、ますます燃えるような熱さを増してくる頭を抱えてベッドに倒れ込んだ。

「ぐっ・・・くっ・・・ああああああぁぁぁぁぁ!!」

のたうちながら、叫ぶシンジ。そのとき、シンジの中で何かが弾けた。

「ふうううぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」

急速に自分の体が冷えて、頭が冴え渡ってくるのを感じる。ゆっくりとベッドから身を起こし

顔を上げていく。それは、普段のシンジからは想像もできないくらい凛としたものだった。

「使徒だと・・・・・また出やがったのか・・・・・・・」










今、第3新東京市まで目前に迫った使徒が、発令所の主モニターに映し出されていた。

ズングリとした体に頭のようなものが乗っている。細長い手足がのびていて、両腕には第3使徒、サキエル

のようなパイルバンカーが付いていた。

射出された弐号機は、一定の距離を保ちつつ使徒と対峙する。使徒は、弐号機など眼中にないかのように、歩を進める。

「いい?もうすぐシンジ君も来るわ。パレットガンで中距離射撃。使徒を牽制するのよ、いいわね」

「ハン!あんなのアタシ1人で十分よ。シンジなんか出る幕ないわよ」

言い放つとアスカはパレットガンを3点射モードにセットして、使徒に乱射する。

「初号機パイロットが今到着しました。直ちにエントリー開始、出撃スタンバイまで160秒」

オペレーターの報告がミサトの耳に飛び込んできた。

「シンジ君!」

「ミサトさん、遅れて悪かったな。今どうなってるんだ?」

「??シンジ君・・よね?」

「何言ってんだよ!あたりまえだろ。それよりアスカは無事なんだろうな」

シンジが、いつもからは考えられないほどの荒々しさで、まくしたてる。

「え、ええ。アスカなら大丈夫よ。それよりシンジ君こそどうしたのよ」

「は?どうもしねえよ。それよりなにやってんだよ、早く出してくれよ!」

「ちょ、ちょっと待ってて」

それだけ言うとミサトはエントリープラグのシンジとの通信を一時切った。

「リツコ?」

「ええ、分かってるわ。彼、ちょっとおかしいわね」

「おかしいなんてもんじゃ無いわよ。初号機の発進は見合わせたほうがいいわ!」

「そうね、検査の必要があるわね」

「葛城三佐、何をしている」

重苦しい声が発令所に響く。碇ゲンドウだ。

「初号機を直ちに出撃させろ」

「しかし司令、パイロットの様子が・・」

「かまわん、出撃だ。いつもより役に立つかもしれん」

「はい・・・」

ミサトは自分の息子の異常を気にもかけようともしないゲンドウに、嫌悪感を感じながらも

命令に従う。

「マヤ、初号機の発進準備続行してちょうだい」

「りょ、了解」

「葛城三佐」

先ほどと変わらぬゲンドウの声。一瞬、テープレコーダーかと思ってしまう。

「はい」

「初号機パイロットはアルコールを採っているな」

「は?」

ミサトならずとも思わず聞き返してしまうゲンドウの発言。

「シンジは酒を飲んでいるな」

「さ、酒?い、いえ私はしりませんが・・・・なぜでしょうか?」

「ふっ、あいつは昔から1滴でも酒を飲むとああなる。何も問題ない」

そう言いながら、ゲンドウの横顔にいつもと違うものが浮かんでいることに気づいた者は

側にいた冬月コウゾウだけだったろう。

しかしミサトはゲンドウの方をチラっと見ると誰にも分からないようにフッと目を伏せて微笑んだ

「了解しました。以後、気をつけます」

「ああ」

「初号機、出撃準備完了しました」

「初号機の回線開いて」

「了解」

「シンジ君?お待たせ。用意はいい?」

「いつでもいいぜ。状況は?」

「使徒は湾岸線沿いに上陸、まもなく市内に入るわ。現在アスカが交戦中だけど状況はいいとはいえないわね」

「OK まかせな。使徒なんてこの俺がぶっ潰してやるぜ」

「おー、言う言う。じゃ、いくわよ。エヴァンゲリオン初号機発進」









「最終安全装置、解除!エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!!」

「きゃあああああ!!」

シンジの初号機が地上に射出されたのと、無線にアスカの絶叫が飛び込んできたのはほぼ、同時だった




アスカは焦っていた。その理由が、パレットガンを撃ちつくし、表皮近くに若干のダメージをあたえたものの

歩みを止めない使徒にあることは間違いなかった。

アスカは空になったパレットガンを捨て、プログナイフを装備し、使徒に突っ込んでいった。

その様は、まさに獰猛なヒョウのようだ。完璧なタイミングと最高のスピードで繰り出された

プログナイフはそのまま、使徒のコアに吸い込まれていくかに見えた。

しかし、使徒はその巨体からは想像もつかないほどの機敏さで身をよじってそれをかわした。

そしてそのまま体を流して右の手のひらからパイルバンカーを撃ち出した。正確にねらった

とも思えないそれは、しかし弐号機の右肩口に深々と突き刺さり、容易に背中まで貫通した。

アスカは絶叫しつつも持ち前の精神力を総動員して、パイルバンカーを引き抜いて即座に

よろけながらも後退する。しかし体勢を整えるひまはあたえられず、弐号機の体液がべっとり

ついたパイルは弐号機の顔面にねらいを定めた。もはや、利き腕も動かず武器もない。

”やられるっ。シンジ!!”

その瞬間アスカが、冴えなくて根暗な同居人の名前を心の中で叫んでいたのはなぜだろう。

思わず目を閉じ、やがておそいかかるであろう、衝撃と激痛に備え、歯を食いしばる。

ガッ

しかし、それはやっては来なかった。目を開けてみると、視界に飛び込んでくる初号機の

横顔。弐号機の眼前まで迫っていたパイルバンカーを力強く握り締めていた。

「よう。遅くなっちまったな。平気か?」

シンジは戦場には似つかわしくない軽い口調で言った。しかしモニターに映るアスカを見つめるその顔は真剣そのものだ。

”シ、シンジ・・・”

シンジはそのまま使徒を引き寄せ、脇腹を蹴り飛ばした。たまらず100mほど吹っ飛ぶ使徒。

「な、何よ。あんなのこのアタシ1人で十分だったのに」

アスカは心の底からホッとしながらも、強がってしまう。

「どうやら平気みたいだな。もう大丈夫だ。あとはまかせてお前は後退しろ」

アスカは、いつもと違うそのシンジの口調にとまどいつつもそのセリフに、更に声を荒げる。

「な、アンタ人のハナシ聞きなさいよ。アタシ1人で平気だってのよ。それにアタシのこと

オマエなんて呼ぶのは100年早いのよ!」

「まぁまぁ、細かいことは言うなってお前も言ってたじゃねぇか。それにどの道その右腕じゃ

ナイフも持てねえだろう。お前は1人じゃないんだぜ。ここはまかせろよ」

「アスカ!事情はあとで説明するわ。今はシンジ君の言う通りよ。後退して、アスカ」

発令所のミサトが割ってはいってくる

「くっ・・分かったわよ。でもいい?シンジ、アンタに・・・きゃあ!シンジ、うしろ!!」

蹴り飛ばされた使徒が再びせまり、背を見せている初号機の延髄にパイルバンカー

を打ち込む。だがシンジは危なげなく、身をひねってそれをかわすと再びそのパイルを

つかんだ。

「へっ!あめぇよ・・・アスカ」

「わ、分かってるわよ、うっさいわね。いい?シンジ、アンタに勝ちをゆずってあげるんだから 必ず勝って帰ってきなさいよ!」

「まかせな」

油断なく徐々に後退を始める弐号機。

「てめぇか・・・・俺の女にいろいろやってくれたのは・・・・」

「ちょ、ちょっと!誰がアンタの女よ、勝手なこと言わないでよね!!」

反射的に言葉が出てしまう。しかしシンジの言葉に対して嫌な気分はまったくなかった。

むしろ、発令所にも聞こえてしまっていることの恥ずかしさからでてしまった言葉だ。

顔を赤くしたアスカを乗せた弐号機は初号機が射出されたゲートに収容される。

シンジはパイルバンカーをつかんだ両手に力を込めていく。

「てめぇは許さねえぇぇぇぇ」

バキン

そのままパイルバンカーをへし折ると、間髪入れずに使徒に肘うちを入れる初号機。

またもやもんどりうって跳ね飛ばされる使徒。シンジは一足飛びに使徒に追いつくと顔面を

踏みつけて立つ。

「知ってるか?アイツは借りをつくんのが何よりも嫌いなんだぜ」

やさしいともとれる口調でしゃべりながらシンジは、使徒の右肩に、折ったパイルバンカーを

突き立てる。それは易々と使徒の体を背中まで貫いた。

「しかも、10倍がえしだってよ」

淡々と言いながら刺さったパイルをねじっていく。

「俺が代わりに返してやるよ」

もがく使徒の右腕をつかんで思い切りひっぱると、メリメリと音を立てて使徒の腕はちぎれた。

はたして、使徒に恐怖や痛みはあるのだろうか。しかし今、シンジの体から吹き出す物凄い

鬼気を叩き付けられてもがく使徒の姿は、恐怖に脅えているようにしか見えない。

触れてはいけない物に触れた恐怖、傷つけてはいけない物を傷つけてしまったことへの

恐怖、そして死への恐怖。そんなものにかられているようである。









その頃、アスカは収容されたケージで、ミサトの説明を聞いていた。

「酒ぇぇぇ?!」

「そうなのよ、碇司令の説明だとシンジ君はお酒飲むとああなっちゃうらしいわ」

「な、なんていいかげんな体質なのよ」

おっしゃる通りだと思う。アスカは半ばあきれ気味だ。しかし、彼女にはさっきまでの不安は

まったく無くなっていた。そう、それはシンジが「大丈夫」だと言ったから・・・

普段は、冴えなくて根暗で、しかし世界中で1番やさしく、いざという時、1番頼りになる彼。

そして、きっと世界で1番自分のことを分かってくれている少年、碇シンジが、「大丈夫」だと言ったのだから絶対に大丈夫なのだろう。

「早く帰って来なさいよね、バカシンジ・・・」







使徒は初号機から逃れようと、なおも激しく体を動かす。そして左の掌からもう1本のパイルバンカー

を撃ち出した。シンジはそれを躊躇すること無く掌で受け止める。紙に穴を開けるように、それは

初号機の手の甲まで貫通し、パイロットにも激痛が走るがシンジはまるで意に介さない。

「覚悟はできてるか?」

シンジが不敵に笑い、初号機の両目が妖しく発光する。

そして左肩からプログナイフを抜くと使徒のコアに突き刺した。

ギィィィィン

大気を裂くような金属音の中で狂ったようにもがく使徒。

しかし数分後、コアに深々とプログナイフが刺さった使徒は、完全に沈黙していた。



初号機が回収されたケージに、シンジが降り立つと、通路にしゃがみ込んでいるアスカの姿があった。

「さっすが、ムテキのシンジ様、たいした余裕よね〜」

思わず口をついて出てしまった。

「ああ、お前がいてくれたからな」

「な、何よそれ、嫌味?!アタシなんて何もしてないじゃない。シンジ1人いればいいじゃない。

アタシなんかどうせいらないのよ!!」

シンジにはかなわない、シンジは自分よりも強い。だが本当はそんなことはもうどうでもよかった。

本当に嫌なのは、シンジの足手まといになること、シンジの役に立てない自分だった。

アスカが荒い息をついて 喋り終えるとそれまで黙っていたシンジが突然右手を振り上げた。

”え、うそ?!”

思わず目を閉じて身体をかたくするアスカ。



ペチッ


その後やってきたのは、痛みではなく温かいシンジの掌だった。目を開くとやさしく微笑んでいるシンジの顔。

「違うぜ、アスカ」

「え?」

「俺はただアスカを守りたかったから戦っただけ。自分の好きな女を傷つけられたから戦った。それだけだ」

”シ、シンジ・・・今・・好きな女って・・・・・”

「ね、ねぇシンジ、アタシのこと好きなの?」

「ああ、好きだぜ」

「それは、あの、同僚として?クラスメートとして?」

早鐘を打つような心臓が、更に加速される。

「どれも外れだよ。俺の好きなのは 、強くて激しくて自分に厳しくて、やさしくて繊細で明るいアスカっていう

女の子だ。お前以外に感じることは決して無い。覚えておいてくれ、俺はこれからもお前のことを

助ける。いつでも、何があっても必ず助けてやる。自分の命なんて真っ先に賭けてやるよ」

「シ、シンジ・・アタシ・・・・」

「でもな、この世に無敵の人間なんていやしねぇよ。俺だってただの人間だ、どうしようもない

ときだってある。それが戦いの中とは限らないけど必ずある。そんなとき俺を助けてくれるのは

きっとアスカしかいないと思う。だからそのときはアスカ、お前に頼るぜ」

「・・・・・・・・・・」

「じゃ、俺は先に上がってるぜ。肩、ちゃんと検査してもらえよ」

シンジは、ちょっとおどけて笑ってみせると、背を向けて歩き出して行く。アスカは、自分が

何をしているのかは、はっきりと分かっていた。分かってはいたのだが止めることはできずに

シンジの背中にすがりついていた。

「シンジ・・・」

アスカの声は、今まで聞いたことの無いほどの弱々しいものだった。

「さっきは助けてくれて、あ・・ありがとう・・・・・・シンジ・・アタシアンタのことなんて嫌いよ。嫌いだけどアンタにはさっきの借りがあるの。それを

返すまではずっとシンジにくっ付いててやるわ。だからシンジは何かあったらすぐにあたしに言うのよ。

何があってもこのアタシが助けてあげるわっ」

「いいぜ。なら俺はそれまでに、一生かかっても返せないほどの貸しをアスカにつくってやる」

「そしたら一生シンジのそばを離れないわよ」

「上等」

シンジは、自分の体に回されたアスカの手を握った。

「しかし今のはちょっとビビッたぜ。もしアスカが俺に抱き着いて、”シンジ、愛してるわ!”

なんて言ったらどうしようかと思ったよ」

「・・・・・・・・・・バカ・・・・・・・・・・もし、アタシがそう言ってたらシンジ、どうしてた?」

「愚問だよ。自分の好きな女からの告白を受けた男のすることは1つしかねぇ。抱きしめて

キスするって、相場は決まってるんだ」

”シンジ・・いいの?アタシなんかで・・・アタシ信じちゃうよ・・・ミサトも酔っ払った人間は嘘つけないって言ってたもんね”

「・・じゃ、言っちゃおうかな・・・・・」

シンジはアスカの手をやんわり解くとアスカに向き直った。そしてアスカを抱き寄せて肩に顔を埋める。

”アタシ、こんなに胸がドキドキしてる。シンジとした、ファーストキスの時だって平気だったのに・・・・・・キスなんてこんなもんかって思ったのに

「シンジ、あのね・・・・アタシ、シンジのことが――――――よ」

アスカはシンジの耳元で、何事かささやいた。耳元でないととても聞こえないほどの小声で。

シンジの息がアスカの耳に掛かる。

「やン、くすぐったいよ・・・・・」

「・・・・・・・・」

「シンジ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「シンジ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

アスカが顔をあげてみると、シンジは笑うような顔で眠っていた。

「・・・・やっぱりこういうオチか・・・・」

”・・・・・・ちょっと残念だけど、アタシはやっぱりシンジのことが好き、シンジもアタシのことが好き。

それが分かっただけでも今日は良かったかな・・・・でもシンジ、2回目のキスは絶対シンジの方からしてよね。”

その後、通路の隅で、まるで母親のような笑顔で、眠るシンジを抱いているアスカの姿を見掛けた整備員が、何人かいたそうだ。








翌朝、葛城家。

「アスカ、朝だよ、もう起きてよ」

掛布団を蹴っ飛ばして、大の字になって寝ているアスカを揺するシンジ。その甲斐あって、ようやくアスカは目を開いた。

「う〜ん・・・もうあさぁ〜?」

ムクッと起き上がると、ボサボサ頭で、寝起きの自分の前にシンジがいる。

アスカの、脳ミソはみるみる覚醒していった。

バッチ〜ン

「ア、アンタ、何考えてるのよ!アタシの部屋には入るなって言ったでしょうが!!それにアタシの布団剥いで、何するつもりだったのよっ!!」

アスカは真っ赤な顔で怒鳴る。シンジも片方のほっぺただけ真っ赤な顔で反論する。

「な、何言ってんだよ。アスカが呼んでも起きないからだろ。それに布団なんて 初めから掛けてなかったじゃないか」

「いいからさっさと出てってよ!バカァ〜〜〜!!」



10分後、2人はキッチンで朝食を食べていた。

シンジは、ほっぺたに手形を付けて、モソモソとお新香などを食べている。アスカは真正面

の席でそれをジロジロと見ていた。

「相変わらず情けない顔してるわね〜」

「うるさいな〜」

シンジが上目遣いでチラッとアスカを見ながら言う。

「あ〜あぁ、昨日のアイツはカッコ良かったのになぁ〜」

シンジの肩が、ピクッと反応する。

「ア、アスカ、昨日のアイツって・・・・?」

ちなみにシンジは昨日、ビールを飲んだあたりから今朝までの記憶がない。

「べっつに〜。アンタには関係ないじゃ〜ん」

すました顔でアスカが答える。

「そ、そうだけどさ・・・・でも、あの・・・・・・」

うろたえまくっているシンジを、アスカはしばらくの間、ジッと見つめていたが・・・

「ねぇシンジ」

「な、何?」

「もしもよ。もしもアタシが川に落ちて溺れてたらアンタどうする?」

「そんなの、飛び込んでアスカを助けるに決まってるじゃないか!」

シンジは真剣に答える。

「泳げもしないのに?」

「うっ・・・も、もちろん。そんなの関係ないよ、絶対助けてみせるよ!」

「・・・・・・・」

シンジをジーッと見つめるアスカ。

「そ、そんなことよりアイツって」

アスカはそんな言葉を遮って、シンジの額にデコピンを一発。

「イテッ」

「期待してるわよ、シンジ!絶対助けてよねっ」

???なシンジを、アスカは嬉しそうにニコニコと見ていたのだった。








追記。

あの日以来初号機の主装備として、「酒」というのが追加されたというのは、残念ながら未確認な情報である。










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ver-1.00 1997-12/31公開
ご意見、感想などは こちらまで!

ども。セガタ三四郎です。

自分で自分にあげたクリスマスプレゼントのセガサターンのおかげで執筆の時間が減るわ減るわ。
いくら頑張っても「大戦F」のキュベレイが倒せなくて、ちょっと機嫌が悪い私です。


―――のっけから私事でゴメンナサイ。

毎回毎回ノリで書いてる私ですが、今回の話は無理があったかな〜。

とか、書き終えてから思ってしまいました。でもせっかく書いたんだから乗っけてしまえと・・・

いい加減さに磨きをかける作者です。

それにしても、私は、戦闘シーンは書いちゃいけませんね。もう、難しすぎるわ。 雰囲気出ないし。


ところで、こんな私の小説にも感想等のメールを出して下さる方が、結構いらっしゃいます。

で、メール頂いた方には100%返事をお出ししていますが

もし、「感想書いてやったのに、返事来ねぇぞ」って方がいらっしゃいましたら、お手数ですが

その旨、ご一報ください。たぶん大丈夫だとは思うけど、念のため。



その他の方も、応援、感想、批判、(キュベレイは、こう倒せっ!とかももちろんオッケー)
なんでも良いので、メール下さい。作者のアンビリカルケーブルですので。

では、なんか、訳の分からない後書きになっちゃいましたが今回はこの辺で。

じゃね。


「BUCK TICK」のナンバーから「Just onemore KISS」を聞きながら


 鈴木さんの『Just One More KISS』、公開です。
 

 LASものとLRSものをご投稿下さる鈴木さん。

 メールが届くたびにドキドキしてます(^^)
 

 今年最後の【めぞん】公開作はLASでした。
 

 ホッとして喜んでいる方、
 ガクッとして「Back」ボタンを押しちゃった方、

 両方いるんだろうなぁ(笑)

 私はもちろん♪
 

 

 強気で男らしいシンジくんに
 アスカちゃんちょっとドキドキ〜

 そんなアスカちゃんも可愛いですが、
 元に戻ったシンジと一緒にいるアスカちゃんもかっわいかったですね〜
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 年の締め括りをアスカにしてくれた鈴木さんに感想メールを送りましょう!


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