「作ったのよっ。うっさいわね」
”やっとおさまってきたみたいね”
アスカはミサトのからかいですっかりいつものアスカに戻っていた。
「へー。手作りねぇ〜」
「何よ、なんかモンクある?」
「べっつにー。で、結局この部屋にはないのね」
ミサトはこれ以上からかうと、別の意味でヤバいので本題に入ることにする。
「そうなのよ。やっぱり帰り道で落としたらしいわ」
「なんか心あたりとか無いの?」
「そんなこと言ったって・・・・・あっ!!」
”もしかして・・・”
「アスカ?」
「ちょっと出かけてくるっ!!」
そう言うとアスカは床にころがっているケイタイと財布をポケットにねじこむと部屋を飛び出していった。
「ちょ、ちょっとアスカ、行き先くらい言ってきなさいよ」
そんなミサトの声も無視して表に出たアスカはアスカは目的地へと全力疾走を開始する。
”途中で落としたとしたらあそこしか考えられないわ”
そう。アスカが目指すのは三河屋だ。
”さっきおじさんをたたいた時にバッグから落ちたんだ”
三河屋を目指して爆走するアスカ。
行き過ぎるコンビニにシンジの姿があることにも気付かずに、すれ違う軽トラにいつもよりちょっとだけ着飾った
三河屋のおっさん夫婦が乗っていることにも気付かず走って、やっと三河屋に着いた。
”そんな・・”
[誠に勝手ながら本日は閉店させていただきました]
「おじさん!いたら開けてー、おじさーん」
がしゃんがしゃんとシャッターを叩くが、シャッターも裏口らしいドアも開く気配はない。
それから店の周りをうろうろしてみるが、中々に掃除が行き届いていてゴミすら落ちていない。
しょうがないのでここは諦めることにして、次にどうするかを考えてみる。帰ろうかとも思った
が、念の為に学校までの道をたどってみることにした。
「ただいまー」
シンジの、それほど大きくも無い声がミサトの耳に届いた。
「シンちゃ〜ん?おかえり〜」
「ただいま、ミサトさん。アスカはまだ帰ってないんですか?」
キッチンに入って来たシンジは、テーブルの上におかれているケーキの箱をチラっと横目で見ながら尋ねた。
「さっきまで居たんだけど、ちょ〜っち用があったみたいででかけたわよ」
「そうですか」
シンジは、ミサトが飲み干したビールの空缶をクシャっと握り潰すのを見ながら応えた。
「シンちゃ〜ん、もう1本おねが〜い」
「はい」
テーブルには既に潰れた空缶が3つ転がっている。
「ハイ、ミサトさん。これが最後ですから味わって飲んで下さいね」
「え〜っ、そんな〜」
ミサトはまるで、今日がこの世の終わりであるかのように嘆く嘆く。
「心配しなくても大丈夫ですよ。さっき三河屋に寄って頼んできましたから」
「さ〜っすがシンちゃん、ありがとー」
「缶のエビチュは、今ケースでは在庫が無かったみたいなんでビンにしましたけど、いいですよね?」
「もっちろんよー、缶でもビンでもドーンとまかせてよ〜」
いや・・、まかせてって・・・・
ミサトは最後の缶エビチュをぐびぐびと飲んでいる。って言うか、流し込んでいる。きっと味などは
分からないだろう。
「じゃ、僕はシャワーあびてきますね。」
「ん〜、行ってらっさ〜い」
シンジは普段にもましてお気楽な様子のミサトに”??”と思ったが、”まぁ、酔っ払いのことだから”
と気にしないことにした。中々にスルドイが中々に冷たいシンジ。
”ピンポ〜ン”
と、その時玄関で来客の知らせを告げるチャイムが鳴った。
「誰かしら?」
ミサトが席を立とうとすると,シンジが
「あぁ、多分三河屋さんですよ。ビール持ってきたんじゃないですか。僕出ますから」
ホットパンツにタンクトップというスタイルのミサトにそう言うと玄関に向かうシンジ。
「らっきー。ちょうど今飲み終わっちゃったのよね〜」
そう言いながらも、いつもなら両手をあげて喜ぶビールの配達だと知って、今日は
失望の色が浮かぶミサト。シンジはそんなミサトにも気付かずに、引きずる様にしてビールケースを
キッチンまで運んで来ると、スペースの許すかぎり冷蔵庫にビールを詰め込んでいく。ミサトはそんなシンジの
背中をじっと見ていたが・・・
「あれっ!?」
突然シンジが素っ頓きょうな声をあげた。
「どしたの、シンちゃん」
「ミサトさん、ケースの中にこんな物が入ってたんですよ」
そう言いながらシンジが差し出したものは・・・・
「!?」
”・・赤い包み・・”
ミサトはシンジの手からひったくる様に包みをうばう。
「ミ、ミサトさん?」
ミサトはそのかわいいリボンに挟み込んであるメッセージカードに気付くと、悪いとは思いつつもそれを開いた。
”Merry Christmas
From Asuka”
部屋のふすまに掛けてある、何とか読める程度の日本語とほんとに同じ人物が書いたのかと思うような
美しい筆記体でそう書かれていた。
「ミサトさん?何か知ってるんですか?」
「へ?あ、あぁ、シンちゃん、シャワー浴びて来ちゃいなさいよ」
ミサトはそう言うとへらへらと笑う。
「でも、その包みは・・」
「あ、こ、これ?これはそのー、そう!三河屋さんからのクリスマスのプレズントよ」
「は?」
「い、いいからシンちゃんは早くシャワー浴びてきちゃいなさい。もうすぐアスカも帰ってくるわよ。
それともいっしょにはいる?」
「な、な、何言ってんですか、1人で入るに決まってるじゃないですか!」
シンジはそれ以上詮索するのはやめてシャワーを浴びに風呂場へと向かった。
「さてと・・」
ミサトは風呂場からシャワーの音が微かに聞こえてくると、アスカの部屋に行き机の上に包みを置く
それからテーブルの上の電話へと手を伸ばしていった。
”どうしよう・・・せっかく作ったのに・・あんなに頑張ったのに・・無くなっちゃったよ・・・”
今、コンフォートマンションのエレベーターに乗り込んだ少女の目には涙が浮かんでいた。
”シンジになんて言えばいいのよ・・・顔合わせらんないよ・・・”
(お掛けになった電話は現在電波の届かない場所におられるか・・・・・)
ガチャン
「ちっ、圏外か・・」
ミサトがそうつぶやいたとき、玄関のドアが開く音がした。
「アスカ?」
玄関の方を見るとうつむきながら靴を脱いでいるアスカがいた。
「アスカ、ちょっと部屋に・・」
アスカは玄関にシンジの物に違いない靴を見つけると、一目散に自分の部屋に走っていってしまった。
「ア、アスカ・・人の話を・・・・おーい」
ガラッ、どたどたどた。
”来た来た”
「ミサトッ!!」
アスカが腰に手を当てて立っている。目が少し赤い。
「んー、なにー?」
「ちょっとミサト、なんであれが私の部屋にあるのよっ」
「あれって?」
「とぼけないでよ、エプロンよ、エプロン」
かなり興奮してるご様子、ほとんど喧嘩腰である。そんなアスカをミサトはしばらくの間見ていたが・・
「知らないわよ。私ここでずっとビール飲んでただけだし」
「じゃ、誰よ。シンジが知ってるはずないし・・・・」
「あら、そんなの簡単よ」
「誰よ?」
ミサトの顔をジロッとにらむアスカ
「まだ分かんないのアスカ?今日はクリスマス・イブよ」
「はぁ?それがどうしたのよ」
「ま、ちょっとした、奇跡ってやつよ」
そう言うとミサトはまだ自分のことを睨んでいる少女に、ニコっと微笑んだ。
”ま、いいかな・・今日はクリスマスだしね”
それはアスカにそんなことを思わせるような、次第に心が落ち着いていくような、そんな笑顔だった。
アスカは諦めたように、フゥっとため息を1つつくと苦笑する。
「ミサトって、ホンッットに適当ね。まぁいいわ。エプロンも出てきたんだしね」
ぶっきらぼうに言うアスカの顔にも、いつの間にか笑顔が戻ってきている。
「あ、アスカ帰ってたんだ、おかえり」
ふりむくとシンジが風呂場から出てきたところだった。
「シンジ・・ただいま」
そう言うとちょっとアスカは恥ずかしそうに笑った。
窓から流れ込む夕日とアスカの茜色の髪がぶつかって、溶けていく。それはまるで水彩画のように自然で清涼な
美しさだった。シンジは自分の顔が赤くなっていくのを感じていた。
「そ、そうだ。アスカに渡す物があるんだ。ちょっと待ってて」
そう言うとシンジは慌てたようにキッチンに入っていき、戻ってきた彼の手には青い奇麗な包みがあった。
「ア、アスカ、これ。クリスマスのプレゼント」
「な、何よ、つまらないモンだったら承知しないわよ」
そう言いながらアスカの心の中は言いようのない喜びが90に、もうちょっとムードとか考えなさいよ、という思いが
10である。
「むーりしちゃてー」
「うっさいわね、ミサトは黙ってなさいよ!」
「へーへー」
ちなみにミサトの心は”早くビール冷えないかしらねー”が100である。
「ま、まあ気に入るかどうかは分からないけど、とにかく開けてみてよ」
シンジのそんな言葉も言いおわらないうちにがさがさと包みを開けるアスカ。
「え!」
「うそ」
異口同音の言葉を発するミサトとアスカ。奇麗な包装紙の中から出てきたものは真っ赤なエプロンだった。
胸の部分には小さく
Asuka
と刺繍がしてあった。
「ど、どうかな?最近はアスカもだんだん料理覚えてきたし、その、気に入って・・くれたかな?」
アスカ暫し沈黙。
「ふーん。アンタはそんなにあたしに家事を押し付けたいワケね」
「ち、違うよ。そんな訳ないじゃないか。僕はただ1人でするよりも、その、アスカと一緒に料理してる
時、すごくた、楽しいから、でも、あの・・・べ、別に嫌だったら無理に使うことはなくって・・その、あの・・」
「わかったわっ」
しどろもどろになっているシンジの鼻先にビシッと白く、長い人差し指を突きつけて言い放つ。
「そこまで言うんならこれからはあたしも手伝ってあげる。その代わり必ずアンタも一緒にやるのよ。
いい?これは約束よ。やぶったら死刑よっ」
「も、もちろんだよ、アスカ。約束するよ」
「そ。じゃ指切りよ」
うつむき加減で指切りをする二人、顔に差す朱は夕日が隠していた。
そんな2人をにこにこしながら眺めるミサト、手には待ちきれずに冷蔵庫から取り出したビールビン(3本)と
グラスが握られていた。
”ふ〜ん、今年のサンタはやけにサービスいいじゃない”
「「指切ったっ」」
沢山の人が住む第3薪東京市。色々な人がいて色々な出来事が起こります。
ま、何はともあれ今夜は聖夜。
MERRY CHRISTMAS
To All people!!
NEXT
ver-1.00 1997-12/22公開
ご意見、感想(文句とかね)などは
こちらまで!
鈴木さんの「Dreams On Christmas]公開です。
(大家さんのまね。一回言ってみたかった)
どうでしたか?クリスマスプレゼントの話はきっと沢山の方がお書きになると思ったし、私のような弱小者
がたちうちできるはずもないとも思い、ちょっとだけひねってみました。
それにしてもプレゼント考えるのって大変ですね。自分のカミさんのプレゼントよりも悩みました。
書き終えてから思ったんですがシンジとアスカの出番があまりありませんね、この話。特にアスカが・・。
た、たまにはいいかな・・・。
ちょっと居たたまれなくなったので今回はこの辺で。じゃね。
「Tetuya Komuro」のナンバーから「Dreams On Christmas」を聞きながら
よかった、本当によかった (;;)
鈴木さんがLASを書いてくれました〜
入居当時はアスカなSSを発表していた鈴木さん。
ところが
長い休養をあけてみると・・・
綾波な作品を連発。
「転んじゃったのか〜」
辛かったのです (;;)
そして今回。
ここにまた、すばらしいLAS小説を!!
二人とも好きだったのね(^^)
鈴木さんの『Dreams On Christmas』、公開です。
一所懸命作ったエプロン。
アスカちゃん、健気可愛い〜
それを渡したところの妄想。
アスカちゃん、危な可愛い〜
無くしたエプロンを必死に探す。
アスカちゃん、頑張れ可愛い〜
こんなに可愛いアスカちゃんの
こんなに必死な思い。
サンタさんも粋な計らいですね(^^)
シンジからのプレゼントを受け取る。
アスカちゃん、爆裂可愛い〜
さあ、訪問者の皆さん。
大家をヤキモキさせた鈴木さんに感想メールを送りましょう!
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【 めぞん 】 /[鈴木]の部屋