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異説エヴァンゲリオン
Dreams On Christmas



「もうちょっとで完成よ、がんばって」
ここ、第三新東京市立第一中学校の家庭科室から何事か励ますような女の子の声が聞こえてくる。
今日は2学期の最終日で、もちろん明日からは冬休みだ。そして終業式も先ほど
無事終わっている。さらに加えて今日はクリスマスイブ、校内には生徒などほとんど残って
いないはずなのだが・・・・

「やった。できたじゃない、アスカ。完成よ!」
女の子の声がひときわ大きくなった。
「やった・・・、やったやった、できたー」
更に大きな別の少女の声。家庭科室の中には2人の少女がいた。1人は好きな男の子が
できたせいで、顔のソバカスが気になり始めた、黒いおさげ髪がかわいい子。
名前を洞木ヒカリという。
そしてもう1人は深い藍の瞳と燃え立つような紅い髪の少女。どう控えめに言っても
かなりの美少女だ。通った鼻筋と彫りの深い顔立ちもその体に流れる
ゲルマンの血が色濃く出ているのだろう。
名前を惣流・アスカ・ラングレーという。
と、お約束でベタな前説をしてしまったが、とにかくそんな2人が座っている机の上には
真新しいコバルトブルーのエプロンが広げられている。そしてその胸の部分には
フェルトで小さく
”Sinji”
とある。
「おめでとう、アスカ」
「ありがと、ヒカリ。ヒカリのおかげよ」
「ううん。私はたいした事はしてないわ、ここまでがんばったのはアスカよ。これなら碇君も
きっとよろこぶわよ」
「そ、そうかな・・・・・へへ」
頬を赤く染め、後頭部をポリポリと掻くアスカ。普段は常に堂々としていて勝ち気なアスカも
ことシンジの事となるとトロトロになってしまう。
”本人の前でそれがだせればねぇ”
それが、そんな時のヒカリの定番のセリフなのだが今日のところは言わないでおいた。
”そうだよね、一所懸命作ったんだもん、気に入ってくれるよね、シンジ”
(シンジ、これ・・・・受け取ってくれる?)
(ありがとう、アスカ。僕のためにこんな素敵な物を・・・。とってもうれしいよ、でもねアスカ
僕が1番ほしい物って何かわかる?)
(え?)
(それはね、アスカからにしかもらえない、アスカしかもってない物なんだ)
(え?え?それってもしかして・・・)
(今年は欲しいな)
(う、うん。いいよ、シンジなら・・・・)
(アスカ・・)
(シンジ・・)
そしてボルテージはガンガンに加速する・・・
が、
「アスカ、アスカ、アスカってば!」
「・・へ?」
なにやら妄想に浸っていたらしいアスカだったが、 親友によってサルベージされたようだ。
「へ、じゃないわよ、どうしたの急にボーッとしちゃって」
「な・・なんでもない・・・」
「それより早くラッピングしちゃおうよ」
「そ、そうね」



さて、きっと明日から新しいエプロンでキッチンに立つことになるであろう彼、通り名を
葛城家の主夫、碇シンジはというと・・・いた。
ところ変わってここは第3新東京市の繁華街にある三バカトリオいきつけのゲームセンターだ。
「今カマ掘ったんだれやー!」
「悪いなトウジ、おさきに」
怪しいジャージ男、鈴原トウジの運転する黒いスポーツカーのスリップからぬけて、その
わきをぶち抜いていくグリーンのスポーツカー。駆っているのは、キラリと光るメガネが
怪しさ満点な男、相田ケンスケだ。
彼らは、今話題のカーレースゲームでデッドヒートを繰り広げていたのだった。
そしてわれらが主人公(一応ね)碇シンジの車はかなりの後方に位置していて、前を行く
2人とはほとんど半周の差がついている。もちろんそれは作戦などではなく
もはや勝負の世界からは完全に置いていかれていた。

・・結果――
1位 ケンスケ
2位 トウジ
3位 コンピューター
4位 てゆうか、ビリ シンジ
「2人ともだめだなー、てんで話にならないぜ」ニヤリ
ケンスケがそのメガネに蛍光燈の光を反射させつつ言う。その顔は少々アレな笑顔だ。
「上等や、今度は格ゲーで勝負せい!」
おもしろいほど簡単に挑発にのってくる男である。
「OK」
シンジはそれほどくやしくもなさそうでシレッとしていた。
彼はもともと勝負事の類いはあまり好まなかったし、どうせいくらやっても負けるんだ
という思いもあるのかもしれない。

2人が格闘ゲームのコーナーに消えたあともシンジは黙々と1人でレースしていた。
「今に見とけよ・・」
・・そうでもなかったらしい。
ポケットの中では、両替してきた100円玉がじゃらじゃらいっている。
ハンドルの側に書かれている攻略法を機械のように反芻するシンジ。
「7000回転までひっぱってシフトアップ・・7000回転までひっぱってシフトアップ
7000回転までひっぱって・・・」
ちょっと目がうつろ。


「でさー、聞いてよヒカリー―――」
「へぇ〜、「耳エヴァ」ってそんなにおもしろいんだ〜」
「そうなのよー、隣のクラスの鈴木があんまり絶賛するんで見始めたんだけどさ〜」
シンジがちょっとイッちゃっている頃、アスカとヒカリは、最近葛城家で大ヒットなテレビ
ドラマの話などをしながら帰り道を歩いていた。
「それにしてもプレゼント間に合ってよかったね、アスカ」
「うん。・・ねぇ、ほんとにあんなのでシンジのやつよろこんでくれるかな?」
「何言ってんのよ、アスカらしくないよ。あんなにがんばんたんだもの、絶対よ」
「そうね・・そうよね。なんたってこのアタシの手作りなんだからっ」
(シンジ・・これ・・・)
(ありがとう、アスカ。僕からのお礼はこのエプロンをつけて朝も、昼も、夜も、一生
アスカの側でごはんを作るっていうのはどうかな?)
(えっ!それってもしかして・・・えっ?えっ?)
(好きだよ、アスカ。一生離したくないよ)
(・・うん。離さないで)
(アスカ)
(シンジ)
・・・入ってる入ってる。現実のアスカはにへらんにへらんとして、フラフラ歩いている。
彼女も結構ヤバめだ。
「アスカ、アスカ。アスカ!」
「え?あっ、何?」
「何じゃないわよ。ぼーっとしちゃって」
また妄想の海に溺れていたアスカをヒカリが助け上げた。
「ごめんごめん」
「どうせ碇君のことでも考えてたんでしょ」
「な、なに言ってんのよ、違うわよ」
端正な顔立ちを真っ赤にしながら、必死に否定するアスカ。この辺はもう定番中の定番だ。
「ふ〜ん」
「そ、それよりヒカリの方こそ鈴原に何あげたのよ」
「え、わっ、私は・・別に、何も・・・」
「そ。じゃ、さっき階段の踊り場で鈴原に渡してたのは、何だったのかな〜」
効果てきめん。アスカに負けず劣らずその顔を朱に染めていくヒカリ。
「あ、あれはそんなんじゃなくってその、鈴原が前に新しい帽子が欲しいって言ってた
ことがあってそれでこないだ買い物に行ったときに探して・・じゃなくて、偶然見つけたから
鈴原の代わりに買っといただけだからその・・別にクリスマスプレゼントって訳じゃ・・・」
パレットガンの様にすごい速さで言い訳という弾丸を速射する。もっともアスカには
1発も命中していないのだが。
「ふ〜ん。で、鈴原はなんだって?」
天才少女アスカとて14歳の恋する女の子、親友の色恋ざたには非常に興味がある。
「とってもよろこんでくれて、これからもよろしく、って・・」
(いいんちょ)
(鈴原)
(今までいいんちょ、いや、ヒカリの気持ちに気づいてやれんで、ほんまに悪いことしたなぁ)
(鈴原・・ううん、いいのよそんなこと)
(こんなワイでもほんまにええんか?)
(鈴原・・君・・・)
ヒカリにしてはめずらしく妄想モードが起動しかけたのだが・・・
「・・・あっ!アスカ、あぶない」
「え?」
ドシン。
「キャッ」
アスカはずっとヒカリの前を、後ろ向きで歩いていたので前が見えず、そのせいで誰かと
ぶつかってしまった。あやうくバランスを崩しかけたがなんとか立て直した。
「アタタ・・・。すいません、ちょっとよそ見してて・・って、三河屋のおじさんじゃん」
「おー、誰かと思ったら葛城さんとこの嬢ちゃんか」
見ると、でっぷりと太ったおっさんが、酒屋の前でビールケースをガチャガチャと積み上げていた。
「ごめんねおじさん。ちょっとよそ見しちゃってて」
「いいっていいって。それより葛城さんとこはビールまだいいのかい?」
「いいんじゃないの。無くなったらミサトが黙ってるはずないし。それにミサトはちょっとくらい
禁酒したほうがいいのよ、まったく、。だ〜から嫁のもらい手がないのよねー」
言いたい放題だ。
この店の名前は三河屋。葛城家御用達の酒屋である。シンジ達の保護者である葛城ミサトの
消費する莫大な量の酒はいつもここで買っている。酒だけではなく、シンジも調味料や
ジュースなどを買いにちょくちょく来ている。アスカもたまにくっついて来ていた(もちろん
”ヒマだから”、”しょうがないわねー”と自分をフォローすることはかかさなかったが)
のでこの店主のおっさんとはすっかり顔なじみになっていたのである。
「ハハハ、そうか。まっ、なんかあったらまた注文しとくれ。あ、それと今日は夕方には店閉めちゃうからね」
「そーなの。クリスマスだから?」
「ああ。女房とメシでも食いに行くかってことになってね」
「へぇ〜、おじさんやるじゃん」
そう言ってアスカは手に持っていたバッグで、おっさんの背中をバン、とたたいた。たぶん相手がシンジ
だったらきっかり30秒は息ができなくなっていただろう。それくらいの強さでたたいたにもかかわらず
さすがにおっさんはびくともせずに、ニコニコと笑っていた。
アスカの後で見ていたヒカリもそんなやりとりがおもしろかったのだろう、クスクスと笑っていた。

だが・・・・

たたいた拍子にバッグの中から、赤い包装紙で綺麗にラッピングされた、さほど大きくもない包みが
”パサ”っと足元のビールケースの中に落ちた。ガチャガチャと音をたてるなか、それに気付く者は
誰もいなかった。
「それじゃおじさん、奥さんとなかよくね」
「ああ、じゃあね」
そんな別れの挨拶を交わすと、アスカとヒカリはまた帰り道を歩き出すのだった。



話は少し前になるが、ここは3バカのいるゲームセンター。
「動け!動け!動け!動いてよー!」
目の前にあるモニターには数十回目の[TIME UP]の文字。
シンジがシフトノブをがちゃがちゃやりながらわめいている。
シンジキレかけ。
大量の100円玉も殆ど無くなっていた。

「シンジ、熱くなってるとこ悪いんだけどいい時間だしそろそろ帰らないか」
ふっ、と我に帰って時計を見ると4時半を指していた。
「そうだね。そろそろ行こうか」
そうしてぞろぞろとゲームセンターを後にする3バカ。
「じゃあな、シンジ」
「ほなセンセ、またな」
「うん、トウジもケンスケもまたね」
店の前で2人と別れたシンジは帰り道についた。
「さて、途中で買い物して帰らなくちゃ。え〜っと、メインのビーフシチューは昨日のうちに作って
ねかせてあるし、その他もほとんど仕込んであるしあとはサラダとかミサトさんのツマミとか簡単
なものだけだな。あっ、ビールがもうないな。今日はミサトさんも定時上がりにしてもらったって
言ってたし、三河屋にも寄って注文してかなくっちゃ。ケーキはミサトさんが用意してくれるって
言ってたし、そんなもんかな」
”はっ!もしかして用意ってミサトさんの手作りじゃないよね・・・。もしそうだったら・・・、料理を
目いっぱい食べてケーキは悪いけどミサトさん1人で食べてもらおう”
あらゆる状況を想定して、対策を立てるシンジ。ネルフが誇る名作戦課長の下で暮らしている
のは伊達ではないようだ。
シンジはぶつぶつ言いながら目的地へと急ぐ。彼が目指しているのは”クイーンズ’シェフ第3新東京支店”
という、およそありとあらゆる食材が取り揃えられている、言わば食のデパートだ。程なくして
その巨大な建物にたどり着き、シンジの姿は店内へと消えていった。




ちょうどその頃、コンフォートマンションの駐車場にものすごい勢いで滑り込んで来た1台の
車があった。見覚えのある青いルノー。そう、葛城ミサトのご帰還である。
彼女は危なげないステア操作(あくまで彼女の主観だが)で所定の駐車スペースに愛車を
止めると、鼻歌を歌いながらエレベーターニ乗り込んだ。手には”新青山ラ・レーヌ”と書かれた
包みをぶらさげている。これはなかなか有名なケーキショップの名前だったので、シンジと
アスカはどうやらケーキにありつくことができそうだ。

「たっだいま〜、おみやげ買ってきたわよ〜ん」
玄関でパンプスを脱ぎ捨てながら自分の家族に呼びかける。アスカの靴はあるのだが
しかし返事はない。
「あれ?」
キッチンに入り、テーブルにケーキを置きながら
「シンちゃ〜ん、アスカ〜、いないの〜」
再度呼んでみるが返事は返ってこない。しかし、アスカの部屋の方からガサゴソという音が 聞こえてくる。
「!?」
緊張がはしった。拳銃を忍ばせてあるハンドバッグを手にするとアスカの部屋に足音を殺しながら歩いて行く。
コンコン
「アスカ?」
聞こえてくるのは、相変わらずのガサゴソという音だけ。
「アスカ、入るわよ」
そう言って、たっぷり5秒は間をおいてから、自分の半身のさらに半分だけふすまを開けた。
すると部屋の中には、ベッドの上でバッグの中をごそごそとやっているアスカの姿があった。
床にはブラシや手鏡や携帯電話などがちらばっている。それを見るとミサトはホッとして緊張を解いた。
「何だ、アスカ、いるんだったら返事くらい・・」
ミサトはアスカを見ると言葉を切った。顔色が真っ青なのだ。ミサトのことなどまるで気づいて
ないかの様である。
「ちよっとアスカ、何かあったの?」
「・・・ないの」
「でもものすごく顔色悪いわよ」
「・・・がないの」
「何かあったんでしょ」
ちょっとずれている。
「ないのよ!学校出るときはたしかにあったのに!!」
アスカは突然手にしていたバッグを投げ捨ててさけんだ。
ミサトはその様子に少々たじろいだが努めて冷静にアスカに話し掛けた。
「アスカ、とにかく落ち着いて。何があったか話してちょうだい」
アスカはしばらくベッドの上で固まっていたが徐々に興奮もおさまってきたようだ。
「シンジに渡そうと思ってたプレゼントが無くなっちゃったのよ。今日の放課後用意してからこのバッグに
帰ってきてみたら無くなってたの」
「そうなの。で、プレゼントって?」
「そ、それがミサトに何か関係あるわけ?」
「まぁまぁ、そんな冷たいこと言わないでさ〜。こっそりこっそり」
そう言ってミサトは自分の耳に手を当てながら、アスカににじり寄って行く。
「エ、エプロンよっ」 「作ったのよっ。うっさいわね」
”やっとおさまってきたみたいね”
アスカはミサトのからかいですっかりいつものアスカに戻っていた。
「へー。手作りねぇ〜」
「何よ、なんかモンクある?」
「べっつにー。で、結局この部屋にはないのね」
ミサトはこれ以上からかうと、別の意味でヤバいので本題に入ることにする。
「そうなのよ。やっぱり帰り道で落としたらしいわ」
「なんか心あたりとか無いの?」
「そんなこと言ったって・・・・・あっ!!」
”もしかして・・・”
「アスカ?」
「ちょっと出かけてくるっ!!」
そう言うとアスカは床にころがっているケイタイと財布をポケットにねじこむと部屋を飛び出していった。
「ちょ、ちょっとアスカ、行き先くらい言ってきなさいよ」
そんなミサトの声も無視して表に出たアスカはアスカは目的地へと全力疾走を開始する。
”途中で落としたとしたらあそこしか考えられないわ”
そう。アスカが目指すのは三河屋だ。
”さっきおじさんをたたいた時にバッグから落ちたんだ”
三河屋を目指して爆走するアスカ。
行き過ぎるコンビニにシンジの姿があることにも気付かずに、すれ違う軽トラにいつもよりちょっとだけ着飾った
三河屋のおっさん夫婦が乗っていることにも気付かず走って、やっと三河屋に着いた。
”そんな・・”
[誠に勝手ながら本日は閉店させていただきました]
「おじさん!いたら開けてー、おじさーん」
がしゃんがしゃんとシャッターを叩くが、シャッターも裏口らしいドアも開く気配はない。
それから店の周りをうろうろしてみるが、中々に掃除が行き届いていてゴミすら落ちていない。
しょうがないのでここは諦めることにして、次にどうするかを考えてみる。帰ろうかとも思った
が、念の為に学校までの道をたどってみることにした。



「ただいまー」
シンジの、それほど大きくも無い声がミサトの耳に届いた。
「シンちゃ〜ん?おかえり〜」
「ただいま、ミサトさん。アスカはまだ帰ってないんですか?」
キッチンに入って来たシンジは、テーブルの上におかれているケーキの箱をチラっと横目で見ながら尋ねた。
「さっきまで居たんだけど、ちょ〜っち用があったみたいででかけたわよ」
「そうですか」
シンジは、ミサトが飲み干したビールの空缶をクシャっと握り潰すのを見ながら応えた。
「シンちゃ〜ん、もう1本おねが〜い」
「はい」
テーブルには既に潰れた空缶が3つ転がっている。
「ハイ、ミサトさん。これが最後ですから味わって飲んで下さいね」
「え〜っ、そんな〜」
ミサトはまるで、今日がこの世の終わりであるかのように嘆く嘆く。
「心配しなくても大丈夫ですよ。さっき三河屋に寄って頼んできましたから」
「さ〜っすがシンちゃん、ありがとー」
「缶のエビチュは、今ケースでは在庫が無かったみたいなんでビンにしましたけど、いいですよね?」
「もっちろんよー、缶でもビンでもドーンとまかせてよ〜」
いや・・、まかせてって・・・・
ミサトは最後の缶エビチュをぐびぐびと飲んでいる。って言うか、流し込んでいる。きっと味などは 分からないだろう。
「じゃ、僕はシャワーあびてきますね。」
「ん〜、行ってらっさ〜い」
シンジは普段にもましてお気楽な様子のミサトに”??”と思ったが、”まぁ、酔っ払いのことだから”
と気にしないことにした。中々にスルドイが中々に冷たいシンジ。
”ピンポ〜ン”
と、その時玄関で来客の知らせを告げるチャイムが鳴った。
「誰かしら?」
ミサトが席を立とうとすると,シンジが
「あぁ、多分三河屋さんですよ。ビール持ってきたんじゃないですか。僕出ますから」
ホットパンツにタンクトップというスタイルのミサトにそう言うと玄関に向かうシンジ。
「らっきー。ちょうど今飲み終わっちゃったのよね〜」
そう言いながらも、いつもなら両手をあげて喜ぶビールの配達だと知って、今日は
失望の色が浮かぶミサト。シンジはそんなミサトにも気付かずに、引きずる様にしてビールケースを
キッチンまで運んで来ると、スペースの許すかぎり冷蔵庫にビールを詰め込んでいく。ミサトはそんなシンジの
背中をじっと見ていたが・・・
「あれっ!?」
突然シンジが素っ頓きょうな声をあげた。
「どしたの、シンちゃん」
「ミサトさん、ケースの中にこんな物が入ってたんですよ」
そう言いながらシンジが差し出したものは・・・・
「!?」
”・・赤い包み・・”
ミサトはシンジの手からひったくる様に包みをうばう。
「ミ、ミサトさん?」
ミサトはそのかわいいリボンに挟み込んであるメッセージカードに気付くと、悪いとは思いつつもそれを開いた。
”Merry Christmas

             From  Asuka”

部屋のふすまに掛けてある、何とか読める程度の日本語とほんとに同じ人物が書いたのかと思うような
美しい筆記体でそう書かれていた。
「ミサトさん?何か知ってるんですか?」
「へ?あ、あぁ、シンちゃん、シャワー浴びて来ちゃいなさいよ」
ミサトはそう言うとへらへらと笑う。
「でも、その包みは・・」
「あ、こ、これ?これはそのー、そう!三河屋さんからのクリスマスのプレズントよ」
「は?」
「い、いいからシンちゃんは早くシャワー浴びてきちゃいなさい。もうすぐアスカも帰ってくるわよ。
それともいっしょにはいる?」
「な、な、何言ってんですか、1人で入るに決まってるじゃないですか!」
シンジはそれ以上詮索するのはやめてシャワーを浴びに風呂場へと向かった。
「さてと・・」
ミサトは風呂場からシャワーの音が微かに聞こえてくると、アスカの部屋に行き机の上に包みを置く
それからテーブルの上の電話へと手を伸ばしていった。



”どうしよう・・・せっかく作ったのに・・あんなに頑張ったのに・・無くなっちゃったよ・・・”
今、コンフォートマンションのエレベーターに乗り込んだ少女の目には涙が浮かんでいた。
”シンジになんて言えばいいのよ・・・顔合わせらんないよ・・・”

(お掛けになった電話は現在電波の届かない場所におられるか・・・・・)
ガチャン
「ちっ、圏外か・・」
ミサトがそうつぶやいたとき、玄関のドアが開く音がした。
「アスカ?」
玄関の方を見るとうつむきながら靴を脱いでいるアスカがいた。
「アスカ、ちょっと部屋に・・」
アスカは玄関にシンジの物に違いない靴を見つけると、一目散に自分の部屋に走っていってしまった。
「ア、アスカ・・人の話を・・・・おーい」
ガラッ、どたどたどた。
”来た来た”
「ミサトッ!!」
アスカが腰に手を当てて立っている。目が少し赤い。
「んー、なにー?」
「ちょっとミサト、なんであれが私の部屋にあるのよっ」
「あれって?」
「とぼけないでよ、エプロンよ、エプロン」
かなり興奮してるご様子、ほとんど喧嘩腰である。そんなアスカをミサトはしばらくの間見ていたが・・
「知らないわよ。私ここでずっとビール飲んでただけだし」
「じゃ、誰よ。シンジが知ってるはずないし・・・・」
「あら、そんなの簡単よ」
「誰よ?」
ミサトの顔をジロッとにらむアスカ
「まだ分かんないのアスカ?今日はクリスマス・イブよ」
「はぁ?それがどうしたのよ」
「ま、ちょっとした、奇跡ってやつよ」
そう言うとミサトはまだ自分のことを睨んでいる少女に、ニコっと微笑んだ。
”ま、いいかな・・今日はクリスマスだしね”
それはアスカにそんなことを思わせるような、次第に心が落ち着いていくような、そんな笑顔だった。
アスカは諦めたように、フゥっとため息を1つつくと苦笑する。
「ミサトって、ホンッットに適当ね。まぁいいわ。エプロンも出てきたんだしね」
ぶっきらぼうに言うアスカの顔にも、いつの間にか笑顔が戻ってきている。
「あ、アスカ帰ってたんだ、おかえり」
ふりむくとシンジが風呂場から出てきたところだった。
「シンジ・・ただいま」
そう言うとちょっとアスカは恥ずかしそうに笑った。
窓から流れ込む夕日とアスカの茜色の髪がぶつかって、溶けていく。それはまるで水彩画のように自然で清涼な
美しさだった。シンジは自分の顔が赤くなっていくのを感じていた。
「そ、そうだ。アスカに渡す物があるんだ。ちょっと待ってて」
そう言うとシンジは慌てたようにキッチンに入っていき、戻ってきた彼の手には青い奇麗な包みがあった。
「ア、アスカ、これ。クリスマスのプレゼント」
「な、何よ、つまらないモンだったら承知しないわよ」
そう言いながらアスカの心の中は言いようのない喜びが90に、もうちょっとムードとか考えなさいよ、という思いが
10である。
「むーりしちゃてー」
「うっさいわね、ミサトは黙ってなさいよ!」
「へーへー」
ちなみにミサトの心は”早くビール冷えないかしらねー”が100である。
「ま、まあ気に入るかどうかは分からないけど、とにかく開けてみてよ」
シンジのそんな言葉も言いおわらないうちにがさがさと包みを開けるアスカ。
「え!」
「うそ」
異口同音の言葉を発するミサトとアスカ。奇麗な包装紙の中から出てきたものは真っ赤なエプロンだった。
胸の部分には小さく

Asuka

と刺繍がしてあった。
「ど、どうかな?最近はアスカもだんだん料理覚えてきたし、その、気に入って・・くれたかな?」
アスカ暫し沈黙。
「ふーん。アンタはそんなにあたしに家事を押し付けたいワケね」
「ち、違うよ。そんな訳ないじゃないか。僕はただ1人でするよりも、その、アスカと一緒に料理してる
時、すごくた、楽しいから、でも、あの・・・べ、別に嫌だったら無理に使うことはなくって・・その、あの・・」
「わかったわっ」
しどろもどろになっているシンジの鼻先にビシッと白く、長い人差し指を突きつけて言い放つ。
「そこまで言うんならこれからはあたしも手伝ってあげる。その代わり必ずアンタも一緒にやるのよ。
いい?これは約束よ。やぶったら死刑よっ」
「も、もちろんだよ、アスカ。約束するよ」
「そ。じゃ指切りよ」
うつむき加減で指切りをする二人、顔に差す朱は夕日が隠していた。
そんな2人をにこにこしながら眺めるミサト、手には待ちきれずに冷蔵庫から取り出したビールビン(3本)と
グラスが握られていた。
”ふ〜ん、今年のサンタはやけにサービスいいじゃない”
「「指切ったっ」」






沢山の人が住む第3薪東京市。色々な人がいて色々な出来事が起こります。
ま、何はともあれ今夜は聖夜。


MERRY CHRISTMAS
To All people!!






NEXT
ver-1.00 1997-12/22公開
ご意見、感想(文句とかね)などは こちらまで!

鈴木さんの「Dreams On Christmas]公開です。

(大家さんのまね。一回言ってみたかった)
どうでしたか?クリスマスプレゼントの話はきっと沢山の方がお書きになると思ったし、私のような弱小者
がたちうちできるはずもないとも思い、ちょっとだけひねってみました。
それにしてもプレゼント考えるのって大変ですね。自分のカミさんのプレゼントよりも悩みました。

書き終えてから思ったんですがシンジとアスカの出番があまりありませんね、この話。特にアスカが・・。
た、たまにはいいかな・・・。
ちょっと居たたまれなくなったので今回はこの辺で。じゃね。

「Tetuya Komuro」のナンバーから「Dreams On Christmas」を聞きながら

 よかった、本当によかった (;;)

 鈴木さんがLASを書いてくれました〜
 

 入居当時はアスカなSSを発表していた鈴木さん。

 ところが
 長い休養をあけてみると・・・

 綾波な作品を連発。
 

 「転んじゃったのか〜」

 辛かったのです (;;)

 そして今回。
 ここにまた、すばらしいLAS小説を!!
 

 

 二人とも好きだったのね(^^)
 

 

 

 鈴木さんの『Dreams On Christmas』、公開です。
 

 

 一所懸命作ったエプロン。

 アスカちゃん、健気可愛い〜

 それを渡したところの妄想。

 アスカちゃん、危な可愛い〜

 無くしたエプロンを必死に探す。

 アスカちゃん、頑張れ可愛い〜
 

 

 こんなに可愛いアスカちゃんの
 こんなに必死な思い。

 サンタさんも粋な計らいですね(^^)
 

 

 シンジからのプレゼントを受け取る。

 アスカちゃん、爆裂可愛い〜
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 大家をヤキモキさせた鈴木さんに感想メールを送りましょう!


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