「はぁ〜」
14歳の少年は、この日数十回目のため息を、自室の勉強机に座ってついていた。
“困った……”
何か悩み事があるらしい。
“どうしよう……”
そしてそれは、結構深刻のようだ。
少年は目の前の卓上カレンダーをじっと見つめながら何かぶつぶつ言っている。そして
「はぁ〜」
ため息の記録が更新されていく。ちなみに今日は11月6日、別に今日、明日に何かあると言うわけではない。だけど、その日は確実にやってくる。
“あと1ヶ月か……何にしよう”
少年がまたため息をつきかけたそのとき、
(ガラッ)
部屋の襖が元気よく開いた。
「シンジ、お風呂あいたよ、入っちゃえば?」
少年が振り返ると、濡れた赤毛にバスタオルを這わせている少女が立っていた。
「うん。わかったよ。ありがとう、アスカ」
彼女の名は惚流・アスカ・ラングレー、彫りが深くてスッと通った鼻すじや深い藍の瞳、そして燃えるような赤い髪は、彼女の体の中に1/4だけ流れるゲルマンの血のせいだろう。父親はドイツ人なのである。彼が惚流キョウコと結婚し、アスカが生まれた後もドイツで暮らしていたがアスカが幼稚園に入るとき母子で日本に移り住んだのである。そして以来この少年の家、碇家と惚流家はお隣さんどうし、碇家の一人息子の碇シンジとアスカとは幼なじみなのである。
しかしいくら幼なじみとはいえ何故アスカがシンジの家の風呂を当たり前のように使っているのかも説明しなければならないだろう。
「しかしうちのママも仕事とはいえ一人娘のこのあたしをよくこうもほったらかしておけるわねぇ、信じらんない」
「しょうがないよ。うちも似たようなものだし、それに僕もアスカがいつも家に来てくれて嬉しいよ」
「そ、そう?ま、まあ、あたしもあんたを毎朝起こしてくれとか、あんたの勉強をみてくれとかおばさまに色々たのまれてるしね。それにしても、この天才美少女のこのあたしにここまで世話をやいてもらえるあんたははっきり言って宇宙一の幸せものよ。感謝しなさいよ」
説明の手間がはぶけた。ところでこの二人のことをここまでよく知っている私は誰なんだろう?
まあいい。
「う、うん。わかってるよ」
“毎朝ふとんをはがされてベッドから落ちるのも鬼の様なスパルタで勉強を教わるのも僕なんだけどなぁ、そこまで言うならもうちょっと僕にやさしくしてよ”
とっさにそんなことを考えるシンジだが口には出さない。いや、出せない。それは彼がアスカからもらった数え切れないほどのビンタのおかげで備わった防衛本能だった。
「そんなことより、あんた最近暗いわねぇ。まああんたの根暗顔はもともとなんだけどそれにしても最近とくに暗いわよ、何かなやみでもあるんだったら一人でウジウジ考えてないでこのあたしに相談しなさいよ」
「そ、そ、そんなことないよ。僕は元気だし、なやみなんて全然ないよ、ホント、うん、だからアスカも気にしないでよ。」
「そ。ならいいけど」
「うん。ごめんね、心配かけちゃったみたいで。じゃ、僕お風呂入ってくるね」
そう言いながらシンジは部屋を出ていった。
“うそばっかり。あんたほどうそをつくのが下手な奴なんていないわよ。あたしにも隠すようなことなの?あたしはシンジに何でも言ってほしいのに、どんな些細なことでも相談してほしいのに、あたしじゃダメなの?シンジ……”
そんなことを考えながら部屋を出ようとしたアスカの目がカレンダーで止まった。12月4日の部分にサインペンで書かれた二重丸の所で。
“あ…”
アスカの表情がパッと明るくなる。
「なるほどね。これはあたしには相談できないわね。でも無理しないでね、あたしはシンジがくれる物ならどんな物でもうれしいから」
そう言うとアスカはにこにこしながらキッチンのほうへ消えていった。
一方、バスタブに身を沈めながらもシンジの苦悩は続いていた。
「もしかしてバレたかな、いやそんな訳ないよな、うん、だいじょうぶ」
失礼だがもう少し自分というものを理解したほうがいいかもしれない。
そしてしばらくして風呂からあがりパジャマに着替えたシンジは何か飲もうと思いキッチンにやって来た。
「ふう、さっぱりした。やっぱり風呂は命の洗濯だなぁ。……ん?」
シンジはぶつぶつ言いながらテーブルの上に置かれた物に目がいった。
(シンジへ お風呂からあがったらこれでも食べて。あたしは眠くなっちゃったからもう寝るね
おやすみ。アスカ)
見ると、洗ってヘタも取ってある苺がボウルの中にたくさん入っていた。
「な、何だこれ、どうしたんだろう」
“アスカかな、今家には僕とアスカしかいないんだからアスカに決まってるよな。でもなんであのアスカがこんなことしてくれたんだろう、まさかまた僕をからかってるんじゃ”
シンジはそんなことを考えつつキョロキョロとまわりを見回す。また防衛本能が働いたらしい。
シンジのこんな性格を形成した要因の半分以上がアスカにあるとはいえ、アスカもちょっと不憫ではある。
「まあいいや、せっかくアスカが用意してくれたんだから。いただきます、アスカ」
そして結局は、よろこんで食べるシンジだった。
「めぞんEVA」にやってきました新しい仲間が!
28人目の小説書き、鈴木さんの第1作『HAPPY BIRTHDAY』公開です!
WELCOMEtoめぞんEVA!! 鈴木さん(^^)/
アスカの誕生日を前にしたシンジの苦悩・・・
そう、シンジは苦悩しているんですね。
・・・・アスカは何でもいいに違わないのに・・・・
ああ、可愛く微笑ましいカップルです(^^)
シンジが相談してくれないことに落ち込み、
その理由を知って喜ぶ・・・アスカちゃんが本当に可愛いです。
鈴木さん、
アスカxシンジのラブラブ物というのは、よくある題材だけに『色』を出すのは難しいですよ!
埋もれてしまわないように頑張って下さいね(^^)
訪問者の皆さんも鈴木さんにいろいろアドバイスや感想をおくって下さいね。