「シンジ、朝だよ」
「ん〜」
「シンジ」
約5分ほど前からこんなやり取りが、繰り返されていたがベッドからは相変わらず気持ちよさそうな寝息が聞こえている。いいかげんアスカもイライラしてきたが、シンジが自分のことでこんなに悩んでいるのだからあたしはできるだけシンジにやさしくしようと、昨日決めたばかりだった。
「シンジ、起きて」
「う〜ん、あ、アスカ」
「シンジ、朝だよ、ガッコ行こ」
「ん、分かったよ。うるさいんだから、アスカは」
ピシッ!!
普段のシンジなら死んでもこんなセリフは吐かないのだが、昨夜はあの後もあれこれと考え込んでいたのであまり寝ていなかった。だから今朝は寝ぼけ具合もひどく、しょうがないと言えばしょうがなかった。アスカもよくここまで我慢したと言えるだろう。
「なんですってぇぇぇ」
バサッ、パシーン
「このあたしが起こしに来てあげてるんだからさっさと起きなさい、ばかシンジ!!」
結局はいつもと変わらない朝だった。
5分後、シンジはキッチンのテーブルで物凄い勢いで朝食を食べていた。
「シンジ、もうちょっと落ち着いて食べなさい」
シンジの母、ユイが流しで洗い物をしながらのんびりと言う。
シンジの父、ゲンドウはシンジの真正面の席で無言で新聞を読んでいる。アスカはすでに自分の家で朝食を食べて来ていたので、シンジの隣で紅茶などをすすっていた。
「そんな事してたら学校に遅れちゃうよ、母さん」
ご飯を味噌汁で流し込みながら母に言う。
「シンジがもうちょっと早く起きればすむ事でしょう、せっかくアスカちゃんが毎朝起こしに来てくれてるのに」
まったくその通りだったので何も言えなくなるシンジ。一方アスカは、シンジの事をぼ〜っと見つめていた。
“シンジって本当にご飯をおいしそうに食べるのね〜。おばさまもうれしいだろうなぁ。あたしもシンジにご飯作ってあげたいなぁ、シンジはあたしは料理なんかできないと思っているみたいだけどあたしだって一所懸命がんばってるんだから。でもまだ修行中だからもうちょっと待っててね”
「アスカ」
「えっ、な、何?」
「僕の顔に何かついてる?じ〜っと見られてると食べずらいんだけど」
「う、うるさいわね、いいからさっさと食べなさいよ、ばかシンジ」
努めて冷静に言う。
シンジはさして気にも留めずに最後の一口を飲み込んだ。
「ごちそうさま。アスカ、おまたせ、行こっ」
「うん。じゃ、おばさま、おじさま、行ってきます」
「行ってきます」
「ああ…」
「はい行ってらっしゃい」
二人はダッシュで表に飛び出して行った。
急いだおかげで遅刻もせずに学校に着いて今は授業中。相変わらずシンジは考え込んでいた。
“あぁ〜、何か良いプレゼントってないかなぁ”
今更説明の必要もないと思うがシンジの悩み事の内容とは一月後に迫ったアスカの誕生日のプレゼントである。かれこれ1週間前からこの状態が続いていた。クラスメートの洞木さんや綾波に相談しようかとも思ったが何故かいやだった。他の人へのプレゼントならともかく、アスカにあげるのだから、自分で選んで自分の納得した物をあげたかった。その結果、一人で悶々と悩むことになったのである。
そして授業内容が右から左に抜けつつ、放課後になった。シンジが自分の教科書を鞄に詰め込んでいると、シンジの数少ない親友の一人、鈴原トウジがやって来た。彼が何故常にジャージを着用しているかは相変わらずの謎である。
「シンジ、お前らなんかあったんか」
「なにが?」
「なにがやあらへん。シンジは暗いわ、惚流はおとなしいわ、気になってしゃあないわ」
「別になんでもないよ。トウジの気のせいじゃない?」
別にトウジならしゃべってもいいかな、とも思ったのだがすぐそばにアスカがいたのでだまっていることにした。
「ほんまか?ならええけどな」
その時帰り支度を終えたアスカがやって来た。
「シンジ、帰ろ」
「うん。じゃ、トウジ本当に気にしないでよ。じゃね、また明日」
「おう」
しばらくの後、二人は校舎を出て、家へと続く坂道を歩いていた。
“それにしてもさっきはちょっとあせったなぁ。カンのいいアスカならともかくトウジまで気づくなんて。自分では普段と変わらないようにしてるつもりなのに。やっぱりいつもいっしょにいると分かっちゃうのかなぁ。よしっ、決めた、これからはみんなの前ではなるべく考えないようにしよう。こんな調子だといつアスカに気づかれるか分からないし、それになによりみんなを心配させちゃうのは良くない。昨日の晩だってアスカは口は悪かったけど、僕のことを本当に心配してくれてあんな事を言ったんだ。きっとトウジの言ってたアスカがおとなしいって言うのもそのせいだ。苦労していいプレゼントを考えても、そのせいでアスカに心配かけてたらしょうがないもんな。うん、そうしよう”
シンジの考えはおおむね正しいが肝心な所が違っている。まぁ、この場合はこれでいいのだろうが。
「アスカ」
シンジは自分の隣をテクテク歩いていたアスカに声をかけた。
「ん?なに」
先程から相変わらず考え込んでいたシンジにいきなり話掛けられて少し驚きつつも返事をする。
「アスカ、今日の夜は?」
「家のママは今日も遅いみたい」
「そう。じゃあ、今日も晩ご飯は家でいっしょに食べようよ。家の親も遅いみたいだけど、今日は久しぶりに僕が食事作るよ。たぶんいつもみたいに母さんが用意してくれてると思うけど、なんか僕が作りたい気分なんだ。母さん程美味しいものは作れないけどいいかな?」
「う、うん。もちろんいいわよ」
シンジの言うとうり、ユイの作る料理はとても美味しいのだが、シンジが作った料理もかなりのものだ。和、洋、中から製菓までこなし、どれもとても美味しい。だからシンジの提案を断る理由なんてまったくなかったし逆にとても楽しみになった。
アスカの言葉を聞くとシンジはうれしそうに微笑んだ。アスカの一番弱い笑顔だ。
“シンジ、いきなりどうしたのかしら。あ、もしかしてプレゼント決まったのかな。そうだといいな”
「よし、じゃあ急いで帰って支度しよう!」
そう言うとシンジはアスカの手を引いてあと少しの坂道を駆け上って行った。
その夜、シンジの作ったシチューもきれいに無くなり、もう時間も遅くなっていたのでアスカは自分の家へと戻って行った。シンジはといえばまたと言うかやはりと言うか、勉強机で固まっていた。
「う〜ん、そういえば去年はなにあげたんだっけ。そうだ、靴だ。その前はえ〜とオルゴールだったかな。たしか去年もおととしもこうやって悩んでた気がする・・」
そこまで考えてシンジは、気分を変えようと思い引き出しからS−DATを取り出した。ヘッドホンをつけようとしてシンジはふと、本棚にあるアルバムに目がいった。
“あのアルバムにはアスカの写真もたくさん入ってるはずだ。それを見てれば何か思い付くかも”
そう思ったシンジは本棚からアルバムを取り出して机の上にひろげた。
案の定幼稚園以降のシンジの写真には必ずと行っていいほどアスカもいっしょに写っていた。それを見たシンジは今更ながら自分は今までは何をするにも、常にアスカといっしょだったと気づく。そう、今までは。ではこれから先はどうなのだろう。自分が中学を卒業し、高校や大学を卒業して社会に出る。そしてその時写す写真の中の自分の隣にはアスカはいるのだろうか。アスカの写真には自分は写っているのだろうか。
シンジは目の前にあるたくさんの写真の中のアスカを消して、自分一人で写っていると想像してみる。
するととても不安になり、恐ろしくなってきた。
人を愛するという意味はまだ良く分からない。ただ、これからもアスカといっしょにたくさん思い出を作っていきたいし、アスカのことを大事にしていきたいと強く思った。
そんなことを思いながらページをめくっていたシンジは、めずらしくシンジ一人で写っている写真を見つけた。その写真のシンジの隣に写っているシンジの背丈ほどもある物。それを見た瞬間、シンジの頭に豆電球が点った。
「そうだ!これだ!!」
そう言うとシンジは自分の部屋の押し入れの中に潜り込んでいった。
翌朝シンジはいつもより40分も早く目覚めた。それは家中からかき集めた4つの目覚し時計のおかげなのだがそれにしてもこれは奇跡といえるだろう。
「おはよう、母さん」
キッチンで朝食の支度をしていたユイが、その声で振り返るとそこにはすでに制服に着替えたシンジが立っていた。
「あら、おはようシンジ、今朝はずいぶん早いのねぇ」
「うん。今日はちょっと用があってもう行かなくちゃいけないんだ。アスカが来たらそう伝えといてよ」
「そう。分かったわ、アスカちゃんには言っておくから。あら何、そんな物もっていくの?」
「うん、学校で使うんだ。じゃ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
学校に着いたシンジは、自分の教室には行かずに職員室へと向かって行った。
(コンコン)
「失礼しま〜す」
「あらシンジ君どうしたの、こんなに朝早くに」
入って来たシンジを担任の葛城ミサトが見つけた。
「おはようございます、ミサト先生。実は青葉先生にお願いがあって来たんですけど。青葉先生いますか」
青葉先生とは音楽を教えている教師である。年が若く、ルックスもなかなか良いので女生徒に結構人気がある。
「青葉先生?いるわよ、ちょっと待ってね。青葉先生―」
ミサトは少し離れた青葉のデスクに向かって声をかける。すると、デスクでなにやら書き物をしていた青葉が顔を上げた。
「何ですか?葛城先生」
「うちのクラスのシンジ君が先生に用があるみたいなんです」
ミサトのデスクの前にシンジが立っているのを見つけた青葉は
「やあシンジ君、おはよう。なんだい、俺に用って」
「おはようございます、青葉先生」
シンジは青葉のデスクの所まで歩いていった。
「じつはその、休み時間とか開いてる時間だけでいいですから、音楽室を僕に使わせてもらえないでしょうか?」
「え、音楽室をかい。まぁ、授業や部活のないときならかまわないと思うけど、なんでまた?」
「はい、じつは・・」
青葉はシンジの話を黙って聞いていたが、それが終わると
「なるほど、よく分かったよシンジ君。俺もおよばずながら、協力させてもらうよ。開いてる時間だったら好きに使うといい。ほら、これがカギだよ、その荷物も準備室に置いておくといいよ。それで使いおわったら俺の所にカギを持って来てくれ」
そう言いながらカギをわたしてくれた。
「ありがとうございます。それじゃ失礼します」
シンジは職員室を出るとまず音楽室に行き、家から持って来た黒いハードケースを置いた。それから自分の教室に行き、机の上に鞄を置いてまた音楽室に戻って来た。
「よし、やるか!」
アスカが教室に入って来たのは、それから15分程してからだった。いつもの様にシンジの家にいくと「シンジは用があるらしく、先に出た」とユイに言われたので一人で登校してきたのだ。
教科書を机の中に入れながらシンジの机を見るがシンジはいない。
“シンジ、何やってるんだろう”
「アスカ、おはよう。ボンヤリしちゃってどうしたの」
見るとアスカの大の親友である洞木ヒカリがやってきた。とてもやさしい女の子なのだが、少し真面目すぎるのがたまにきずかも知れない。クラスメート達はその真面目さから彼女のことを「いいんちょー」と呼ぶ。まぁ、実際2年A組の学級委員長をしているのだが。
「おはよう、ヒカリ。ねえ、シンジ見なかった?」
「あ、そう言えば今朝はいっしょじゃ無かったんだ。私は見てないないわよ、でも鞄はあるから学校には来ている筈よ」
「ふ〜ん」
「ねえアスカ、最近碇君どうしちゃったの?」
「え、何」
「何って、いつも何か考え事してるみたいだし、アスカもちょっと元気なさそうだし」
相変わらず鋭いヒカリ。
「うん。あたしはともかくシンジが考えてるのはたぶんプレゼントの事だとおもう」
「プレゼント?」
「うん、あたし来月誕生日でしょう、たぶんそのプレゼントの事よ。で、あたしもじゃまするのも悪いかなって思っておとなしくしてるだけ。だから、ヒカリが心配することなんてな〜んにも無いわ」
「そうだったんだ」
「そ」
「やっぱりアスカってやさしいね」
「へ、、や〜ね、何いってんのよヒカリ。あたしはただその、そう、シンジにしっかり選んでもらわないと。なにしろもらうのはあたしなんだし、ただでさえあいつはセンスないし」
うろたえながらしゃべるアスカをヒカリはニコニコしながらみている。アスカもしゃべりながら自分の顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。
「私、アスカがうらやましいな」
「な、何が」
「だって碇君程相手のことを考えて思いやってくれる人なんていないよ、アスカはそんな碇君に想われてるんだから。アスカももうちょっと素直になって碇君のこと大事にしてあげなきゃ。ね」
「・・うん。わかってる」
そして予鈴が鳴り、あとはミサト先生が来るのを待つだけになったころ、シンジが教室に入って来た。
「アスカ、おはよう。今朝はごめんね、先に行っちゃって」
シンジが自分の席に着きながら斜め後ろのアスカに向かって言う。
「別にいいけど、そんなことよりあんた今まで何してたのよ」
「ん、ちょっとね。秘密だよ」
「ふ〜ん。ま、いいけどね」
シンジは、アスカがそれだけで引き下がったのがちょっと意外だったが、あまり深く考えないようにした。やがて、授業も終わり(シンジは全て睡眠学習だったが)昼食も食べ終わって、昼休みになった途端シンジは雲隠れした。アスカとしては非常に気になったがあえて探そうとはせず、ヒカリ達とおしゃべりをしていたのだった。
そんな日々が一月近く続いた後、ついにXデーがやって来た。授業も全て終わって今は放課後。
「じゃ、僕と洞木さんは料理の材料を買ってからかえるから、トウジとケンスケと綾波は先に僕の家に行って準備しててよ」
「よっしゃ」
「OK」
「うん、わかった」
綾波レイと相田ケンスケについては今更説明の必要もないとは思うが、レイは新学期になってすぐに転校して来た能天気な美少女、ケンスケはただの軍事ヲタクである。
「「ちょっと!それだけなの(かよ)!!」」
「え、どうしたの?二人とも」
「え、あ、ん〜ん、なんでもない」
「俺も、なんでもない」
「そう。アスカも先に行って自分の部屋で待っててよ、準備が出来たら呼びに行くから。それと僕の家の合鍵持ってるよね、それでトウジ達入れてあげてね」
「分かった。早く来てよね」
こうして4人と別れ、シンジとヒカリはスーパーに買い物に行った。料理の内容も二人で相談してなんとか決まり、買い物も済んで家に帰って来ると、トウジ達が(アスカ 誕生日おめでとう)というたれ幕を壁にかけているところだった。それから約1時間後すべての準備が整った。
「じゃあ碇君、アスカを呼んで来てくれる」
「うん、分かったよ」
シンジがアスカの家のインターホンを押すと、その直後にドアが開いてアスカが飛び出して来た。そのタイムラグはおよそコンマ2秒。
「おーそーいー。もう待ちくたびれちゃったわよ」
「ごめんごめん。でもこれでも急いで準備したんだよ。じゃ、そろそろ行こうか」
「うんっ」
二人が部屋に戻って来ると中は真っ暗だった。そんな中をそろそろと手探りでリビングに入って来ると(パンッ!)
「きゃっ」
耳元でクラッカーの乾いた音が鳴った。するとそれが合図であったかのように一斉にクラッカーが鳴り響き明かりが点いた。テーブルの上には様々な料理とケーキが置かれ、その後ろには四人が並んで立っている。アスカの隣りにはシンジの笑顔がある。
「アスカ、誕生日おめでとう」
「「「「おめでとう!」」」」
「ありがとう」
アスカは声が詰まってしまったがそれだけは何とか言えた。
パーティーは最高に盛り上がった。
そしてそれも佳境にはいったころ
「アスカ、これ、誕生日プレゼント」
先陣を切ったのはヒカリだった。
「ありがとう、ヒカリ」
それはとてもきれいなティーカップとソーサーのセットだった。
「実はこれ、私と鈴原からなの。鈴原が何を買ったらいいか分からないって言うから、じゃあいっしょに選ぼうってことになったの」
「まあ、そういうこっちゃ」
「へー、鈴原もありがと」
「なんや、今日はえらい素直やないか。いつもそやったらええのになぁ」
間髪入れずヒカリがトウジの脇腹をつっつく。
「アスカ、これ私から。おめでとー」
「ありがとう、レイ」
レイのプレゼントはかわいいサルの顔が付いたスリッパだ。
「これは俺から」
そう言ったケンスケの手にのっていた物はスタンガン。
「何よこれー」
「何よはないだろ。高かったんだぜ、これ。それにこれさえあれば夜道の一人歩きもOKだろ」
「ま、まあいいわ、ありがと」
「アスカ、これ僕から。誕生日おめでとう」
そう言ってシンジから渡された小さなかわいい紙袋を開けると中には真っ赤なリボンが入っていた。
「ありがとう、シンジ。大切にするからね」
「ちぇ、俺のときとえらい違いだな」
ケンスケが愚痴をこぼす。そしてパーティーは更に盛り上がっていった。
アスカとレイはワインを飲みまくり、シンジももちろん飲まされ、未成年の飲酒を注意しようとしたヒカリも無理矢理飲まされた。トウジは馬車馬のように料理を食べ、ケンスケはそんな様子を激写しまくっていた。
そして、そんな状態がしばらく続いていたがやがてパーティーもお開きとなり、みんなそれぞれ家へと帰って行った。シンジとアスカはようやくあとかたずけも終わってお茶を飲んでいた。
「アスカ」
「なに、シンジ」
「あ、あのさ」
「なによ」
「実はもう一つアスカにプレゼントがあるんだけど、受け取ってくれるかな」
「も、もちろんよ、何?」
「そう。よかった、じゃちょっと待ってて」
そう言うとシンジは自分の部屋に入って行った。押し入れの中から昨日こっそり持って帰って来たハードケースをひっぱり出した。カギをはずして蓋を開けると使い込まれているがきれいなチェロが収められていた。シンジはチェロと弓を取り出すとリビングに戻って来た。キッチンから椅子を持って来て座り、静かに弓を弦にのせる。シンジは何も言わずにアスカを見た。アスカは一度だけシンジと目を合わすと静かにその瞳を閉じた。それと同時に旋律が流れはじめた。それは静かだがとても強いメロディーの、不思議な感じの曲だった。アスカはじっと目を閉じて聞き入っている。いや、体感しているのかもしれない。
そして調べは長いサステインを残して消えていった。
(パチパチパチパチ)
シンジが顔を上げるとアスカが嬉しそうに拍手をしていた。
「すごーい。あたし感動しちゃった。とってもいい曲ね」
「そ、そう?どうもありがとう」
「ねぇ、今のは何て曲なの?」
「うん。これは僕が作った曲で、曲名は「ASUKA」って言うんだ。曲なんて書いたの初めてだったからみんなの前だとちょっと恥ずかしかったから」
シンジは本当に恥ずかしそうに頭を掻いている。
「あ、そうだ。これ、楽譜、アスカがしょうがないかも知れないけどアスカのために書いたものだから」
「そ、そうね。あたしはチェロなんてさっぱりわかんないけど、せっかく書いてくれたんだし、もらっとくわ」
嘘だった。手にしたときからそれはアスカの宝物になっていた。
「うん、ありがとう。じゃ、もう遅いし僕はお風呂に入るからアスカもそろそろ・・」
言いながらシンジが立ち上がり、キッチンの方へ行こうとしたとき後ろからアスカに抱きしめられた。
「ア、アスカ?」
「ごめん。ウソだよ、ウソだよシンジ。シンジがくれる物はみんな大切だから。みんな大事だから。あたしはシンジが一番だから。シンジが一番好きだから!」
「アスカ・・」
シンジは自分の胸に回された手に自分の手をそっと重ねた。
「あたし、もっと素直になるようにするから。だから来年の誕生日もその次もその次もずっといっしょにいて」
「アスカ、僕はあの曲を書いてる間、ずっとアスカの事だけを考えてたんだ。幼稚園のころからチェロをやり始めて、つらいと思ったときはすいぶんあったけど本当に楽しいと思ったときはあまりなかった。でもあの曲を書いてるときはとても楽しかった」
重ねた手にほんの少し力を込める。
「僕の来年の誕生日もその次も、ずっとアスカに祝ってほしい。・・好きだよ、アスカ」
先程から涙が出そうになるのをずっと我慢していたアスカだったがもう限界だった。その藍の瞳から涙があふれだす。シンジは目を閉じてアスカの体温を感じていた。そのままじっと動かない二人だったがしばらくして、ふいにアスカの体がスッと離れた。そしてシンジの唇にほんの一瞬柔らかいものが触れた。目を開けるとそこには優しく微笑んでいるアスカの顔があった。
「ありがとうシンジ、大好きだよ」
そう言うとアスカはパタパタと玄関まで走って行き、自分の部屋へと帰って行った。
「今のって、もしかして・・」
そう、そのとうり。
シンジはそのままの体勢でいつまでも固まっていた。
やがて日付が変わるころ、少年と少女はそれぞれの眠りについていた。それはとても安らかな眠りだった。
夜空にかかる月も優しげな今宵
願わくば二人のchildrenに素敵な夢を
おやすみなさい
So HappyBirthday to you
ver.-1.00 1997-05/28公開
ご意見・感想・誤字情報などは
こちらまで!
鈴木さんの『HAPPY BIRTHDAY』PARTU、公開です!
シンジ君決ましたね(^^)
カッコイイーー!
好きな女の子に曲を贈る・・・・
かなりキザな行動なんですが、シンジ君がやるととても柔らかく、微笑ましい物になりますね・・・
アスカちゃんもこらえきらずに涙を流して、そして素直な気持ちを・・・・
素敵な誕生日、二人にとって忘れられない誕生日になりましたね。
しかし、1ヶ月も練習に没頭してアスカちゃんをほっとくなんて−−罪な男です(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
早速1本書き上げた鈴木さんに貴方の感想を送ってあげて下さいね!!