BY秋月
「あ、あの・・・カヲル君、本読むのかな?」
シンジがふと思いついたようにカヲルに話しかけた。
「いいね、本は人間産み出した文化の極みだよ。」
「そ、そうかな・・・」
シンジはカヲルの肯定だか、否定だか分かりかねる返答に困りながら、いや実際にカヲルのそれは返答になっていないのではあるが、曖昧に相づちをうつ。
「それがどうかしたのかい?」
「うん、ここの図書室の蔵書は結構多いんだ。みんな利用しないのがもったいないぐらいだよ。」
「そうなのかい。そういうシンジ君はよく利用しているのかな?」
「えっ、う、うん・・・その、少しは利用しているよ。でも、綾波の方が多いんだけどね。」
「まったく、今時わざわざあ〜んな辛気くさいところに好んで行くのはアンタたちくらいよ。」
シンジとレイは時々本を借りに図書室によるのだが、アスカはシンジ達に付き合う以外では自分から図書室に来ることはほとんどない。シンジにしても初めはあまり読んでいなかったのだが、レイに付き合ってしばしば訪れるうちに少しずつ読書量が増えだしてきている。今ではここの常連の部類に入るであろう。もっともレイほど頻繁には通っていないのではあるが、そのレイは、といえば一部の者から”書架の天使”などと呼ばれ、下手な図書委員よりもはるかに書籍の場所を把握している。
そんな二人に関わらず、電子機器の普及や情報通信の発達によりほとんどの本はデジタル化され、各端末から知りたい情報を自由に入手できる時代となり、図書室を利用する生徒の数は少なくなっている。欲しい情報を検索し、すぐに手に入れられる手段があるのにわざわざ手間のかかる書籍類を探す者が少なくなるのは自然な動きであるかもしれない。
シンジ達は階段を上り1階上の図書室に話しながら向かう。シンジが先頭に立ちそのすぐ脇にレイがそしてその後ろでアスカが何かとカヲルに話しかけている。時々アスカは前を歩く二人に話を振り、シンジ達を交えて話を盛り上げる。この辺りはさすがアスカらしい配慮である。シンジは話すことは苦手であり、レイは必要なこと以外はほとんど口にしない。そんな二人を活発な性格のアスカがフォローしてきた。しかしアスカもコミニケーションに優れているとは言い難い、何かと自分の優位を認めさせようとする態度は敵を作りやすく、何かと問題が持ち上がるのであるがそういうときにはシンジやレイが不器用ながらに仲裁に入り何とか丸くおさまっている。三人はそれぞれ不器用ながらも危うい境界を守ってきたのであった。
4人は視聴覚室によってから図書室へと向かった。先頭を歩いていたシンジがドアを開け順番に入っていく。
ガラッ
中に入ると正面に本の貸し借りを行うカウンターが見え、その向こうにはいくつもの書架が整然と並んでいるのが目にはいる。シンジを先頭に4人はゆっくりと図書室の中に入っていった。中には図書委員なのだろうカウンターの中で手元の本を読んでいる女の子が一人しかいず、どこかもの悲しい雰囲気を漂わしている。
「や〜ぱり誰もいないわね。まあ、いつものことだけど。」
アスカがその様子を見てすぐに悪態をつく。ドアの開かれた音で気づいたのかカウンターの中にいる少女が顔をシンジ達の方へ向けた。
黒い髪をおかっぱにした少女は入ってきたのがシンジ達だと気づくと元気な声をかけてくる。いかにもはつらつとした印象を受ける少し茶色味を帯びた黒い大きな目が愛らしい。
「碇先輩!!」
「あ、やあ、コヅエちゃん。」
「あ、綾波先輩も。この頃来てくれなくてコヅエは寂しかったですよ。」
「お久しぶりね、コヅエちゃん。」
「あれ、惣流先輩まで。」
「何よ。私が来たらいけないってぇの。」
「い、いえ、そんなことはありません。ただ珍しかったもので・・・」
「まあ、そうよね。アタシは・・・」
「あ〜〜!!その人誰ですか?」
アスカが何か言いかけていたのにも関わらずコヅエはシンジ達の後ろにいる人物を見つけ、いきなり大声を上げた。アスカが少し不機嫌そうになるのにもお構いなしだ。
「あ、えっと、今度僕達のクラスに転校してきた・・・」
「渚カヲルっていうんだ。シンジ君、そちらの可愛い子を紹介してもらえるかな?」
「そ、そんな〜可愛いなんてぇ〜・・・・先輩、誰にでもそう言ってるんでしょ。」
シンジが説明する前にカヲルが口を挟み、コヅエはカヲルの言葉に赤面して俯いてしまう。だが、すぐに顔を上げるとまだ頬に朱をさしたままであったがカヲルの方を少し恨めしそうに見上げて言った。カヲルはそれに少し困ったように微笑むとシンジの方に同意を求めてくる。
「そんなことはないよ。・・・シンジ君も可愛いと思うよね。」
「本当ですか?碇先輩。」
「えっ、う、うん。」
「本当ですか〜」
いきなりふられた言葉にシンジは少し狼狽えながらも肯定する。それに対してコヅエは嬉しそうな声をあげた。
「うん。」
「シンジ君の言葉なら信じるんだね。」
カヲルが相変わらず微笑みを浮かべたまま言う。
「あ、そ、そういうわけじゃないんですよ。そ、その・・・ほら、碇先輩って嘘をつけない人ですし・・・その・・・」
先程よりも赤みの増した顔をうつむけながら弁解しているような声を出す。
「もう、アンタ達何やってんのよ。紹介するんじゃなかったの!?」
そのやり取りにアスカが我慢しきれなくなったのか不機嫌な声で割り込んできた。
「あ、うん、カヲル君、彼女は鈴原コヅエちゃん。1年の図書委員で、トウジの妹なんだ。」
「トウジ、くん?」
「あ、その同じクラスの・・・」
「クラスに黒いジャージを着たバカがいたでしょ!あいつのことよ。」
「黒い、ジャージ・・・あ、彼の妹さんなのか。」
カヲルはやっと思い出したようで、一言呟くと少し真剣な顔をしてコヅエに問いかける。
「気になっていたんだけど、何故彼はジャージなんだい?朝は体育でもあるのかと思ったけど今日はなかったようだし。部活か何かかい?」
「・・・・」
カヲルは至極まじめに聞いているようであったが、それを聞いたシンジ達は答えに詰まって一様に沈黙した。訝しげにカヲルが一同を見回すが、誰もすぐには返事を返せない。どこかきまづい沈黙を破ったのはコヅエの彼女らしからぬ弱々しい声だった。
「そ、その・・・止めさせようとしたんですけど、ポリシーだからって。」
「あの熱血バカは何がポリシーよ!!まったくヒカリの気が知れないわ。
アンタも大変ね。あんなのが兄なんて。」
アスカは心底呆れたような声を出し、次にはコヅエの方に同情しているような眼差しを向ける。彼女からすればそんなやつが身内というのは我慢ならないのかもしれない。
「そ、そんなこと、ありませんよ。優しいところもあるんですよ。あれで・・・」
「ヒカリも同じこと言ってたけど。アタシには分からないわ。」
「そ、そうですね。碇先輩のように誰にでも優しい訳じゃありませんし、不器用でもありますけど・・・」
「な、何でそこにシンジが出てくるのよ!!」
「え、でも、優しい人って言えば、だいたい碇先輩の名をあげますよ。」
「何ですって!この鈍感バカのどこか優しいってのよ?」
「アスカぁ。な、何も本人の前で言わなくても・・・」
「バカをバカと言って何が悪いのよ。そんなことも分からないからアンタはバカだって言うのよ。」
はっきりというとあまりにも説得力に欠いているのだが、彼女の猛烈な勢いで断言されるとシンジのような気の弱い者は反論も出来ず困ったような顔で愛想笑いを浮かべるだけで精一杯だった。
シンジ達は図書室を出ると音楽室により、下の階に降りていく。
「あら、シンジ君。」
「あ、マヤさん・・・す、すいません。伊吹先生。」
シンジは微笑みにつられたように答えたが、校内であることを思い出して急いで言い換える。
「ふふっ。いいのよ、シンジ君。今日はどうしたの?あれ、見かけない子もいるのね。」
「えっ、ええ。彼の案内をしているんですよ。」
「転校生?」
シンジがマヤにカヲルを紹介し、マヤとカヲルはお互いに挨拶を交わす。
「私は伊吹マヤ、この学校の校医をしているわ。よろしくね。
もっとも保健室になんか用事がないに越したことはないんだけどね。」
マヤは少し悪戯っぽくそう言った。童顔で普段から年若く見えるが、そのように笑うと余計に幼く見える。それにカヲルは微笑を持って答える。
「ええ、そうですね。でも、こんなに美人の先生が診てくれるなら毎日だって怪我してきますよ。」
「まあ、お世辞が上手ね。」
「そんなことより、マヤ、加持さん知らない?」
アスカが急に口を挟む。先程訪れた職員室にアスカの言う加持という人物はいなかったのだ。加持は体育の教師であり、アスカの憧れの人でもある。また、ミサトの恋人だという噂だが、ミサト本人は凄い剣幕で否定しているという。
「加持さん?職員室にいなかったの?」
「いなかったから聞いてんじゃないの?」
「そう、じゃあ、先輩のところかな?」
「リツコの?」
アスカが少し怪訝そうな表情を浮かべた。
「時々あそこで葛城さん達と休んでいるのを見かけるわ。」
「ふ〜ん、行ってみるわ。ほら、シンジ!行くわよ。」
「そんなに急がなくてもいいじゃないか、アスカ。」
「何言ってんのよ。さっさとしなさい。」
「待って、アスカちゃん。私も行くわ。」
「え〜〜マヤが何のようよ。」
「先輩のところへ行くんでしょ。コーヒー入れて上げるから一緒に行きましょう。今日は誰もきそうにないし。」
「ま、まあ、いいわ。」
アスカは物につられたような形になるのが気に入らないのか少し言いよどみながら答えた。
「それじゃ、早く行くわよ。」
アスカは一人先に歩き出した。
中学校の理科の準備室としては機材の揃いすぎた少し広めの部屋でミサトはディスプレイに向かっている女性の背中に厳しい声で問いかけた。その女性は短い金髪に銀のフレームの眼鏡をかけて自分を睨み付けているミサトにお構いなしにキーを叩き続けている。彼女は第一中学校において「理科室の主」の異名を持つ、理科教師赤木リツコである。その名の通りこの理科準備室が彼女の私室と化しているのは公然の秘密であった。机の上には何故かいくつもの猫の置物が置かれている。
「何の事かしら?」
リツコはようやく人心地ついたのか、キーボード上を踊っていたその細い指を休めて、しかしミサトの方を振り返ることもなく問いかける。
「も、ち、ろ、ん、あの転校生のことに決まってるじゃない。」
「・・・ミサト。」
「な、何よ」
「・・・美形よね、転校生。」
「それがどうしたのよ?」
いきなり改まったように自分の名を呼ぶ親友に眉をひそめながら、ミサトは怪訝そうに問い返した。ミサトはリツコとは大学時代からの親友であり、現在も仕事、プライベートと共に良い友人の関係を作っている。そのミサトからしても、リツコの次の発言は思いも寄らないものであった。
「手を出しちゃ駄目よ。」
「リツコ!!」
「冗談よ。」
「あ、あのねぇ〜。あたしは子供に手ぇ出すほど飢えてないわよ。」
思わず目をむき、怒鳴りつけたにも関わらずあまりにあっさりとしたリツコの言いようにミサトは笑いながら返事を返す。しかし、その口元が引きつっていたのは致し方なかったことかもしれない。そんなミサトの様子にリツコは新たな悪戯をけしかけた。
「ミサトには加持君がいるものね。」
「あ、あんなやつとは何の関係もないわよ。」
ミサトは真っ赤になって慌てて関係を否定する。そのミサトのあまりに予想どうりの反応にリツコは少し意地悪な微笑みを口元に浮かべた。リツコは未だ背を向けたままのためその表情はミサトから窺うことは出来ない。
「ふぅ〜ん、ふられたの?」
「そ、そんなこと、って、あんなやつとは何の関係もないって言ってんでしょ!」
「はい、はい。じゃあ、噂は本当だったのね。」
「な、何よ?噂って。」
「加持君が実はロリコンだったって噂よ。」
「な、何ですってぇ〜!!」
「はい、証拠写真。」
絶叫をあげるミサトにリツコは机の引き出しから一つの写真を取り出すとミサトの方に向き直ってその写真を差し出す。ミサトは僅かの逡巡の後にひったくるように奪い取り、その写真をのぞきこんだ。しばしの沈黙。
「・・・・これって、アスカじゃない。」
「そうよ。」
その”証拠写真”はショッピングを楽しんでいるのであろうか30代ぐらいの無精髭をはやし、髪を後ろで一つに束ねた男と男の腕に腕を絡めた赤い髪の少女が写されていた。男は少し困ったような、それでいて優しそうな表情を少女は満面の笑みを浮かべている。ミサトはこの二人の関係を心得ている。今までリツコが自分に言っていたことの証拠がこれだというのであれば、リツコの真意は・・・
「リツコ!あんたからかたわね!」
「ほっとした?」
「な、何で私が・・・」
リツコのからかい半分の口調にミサトは否定の言葉を紡ごうとするが、その声は明らかにうわずり、その言葉自体を声調において否定している。そんなミサトを面白いものでも見るように見つめながら、リツコはさらに言葉を足した。
「他にも面白い噂があるわよ。」
「な、何よ?」
警戒しているようなミサトの口調にリツコの笑みがいっそう深まる。
「聞きたい?」
「べ、別に・・・」
「ミサトがシュタだって。ほんと、あなたたちって似合いのカップルね。」
「リ、リツコォ〜〜誰よ?そんな噂流したの。」
「まだ流れてないわよ。」
「へっ。」
リツコの思いもよらぬ答えにミサトは間抜けな声をあげる。しかし次のリツコの一言にその顔色が一気に変わった。
「これから流すのよ。私が」
「リツコ!!!あんたわ〜〜・・・ま、まあ、いいわ。誤魔化そうとしてもダメよ。」
ミサトは怒りで赤くなった顔をリツコから逸らすと気を取り直したように改めて話し出す。
「あら、何の事かしら?」
「その様子じゃ、やっぱり何かあるわね。
転校生よ。よりによって私のクラスを指定してくるなんて。どういうことなの?」
「ミサト、その話は後にしましょう。」
真面目な顔のミサトの問いにリツコの顔は瞬時に引き締まり、
「ダメよ!誤魔化すつもりでしょ。そうはいかないわ。」
「誰か来たのよ。」
「ここに来る物好きなんてマヤじゃないの?」
「あの子が今日ここに来る予定はないわ。用心しておくべきだわ。」
「そんなに重要なことなの?」
「そうね。一つだけ言っておくわ。あの子・・・渚カヲルは、フィフスチルドレンよ。」
「!?」
リツコの真剣な声の一言にミサトの顔もこれ以上ないほど引き締まった。コンソールの電源へと手を伸ばすリツコの背中に何かを問いかけようとしたとき、部屋の中に軽いブザーの音が響いた。
ミサトはリツコが電源を落とすと同時にドアの方に歩み寄り、少し警戒しながらドアを開けた。そこには満面に笑みを浮かべた童顔の女性が立っていた。
「あ、葛城さんもいらしゃったんですね。先輩いますか?」
「ええ、マヤちゃん、リツコならいるけど、どうしたの?」
「さっきシンジ君達が保健室に来ましてね。今度はこっちに来るっていうので一緒に来たんです。」
「えっ、シンジ君達って。」
「転校生に校内の案内をしているそうなんですよ。」
そういうマヤの後ろを見ると確かに4人の子供達が控えている。
「そ、そう。」
「私がコーヒー入れますから、先輩達も休憩しましょうよ。あまり根を詰めすぎると体に毒ですよ。」
マヤは屈託のない笑顔を浮かべて、そう言った。
「あ、で、でもねぇ〜」
「あっ、先輩、私が入れますから。シンジ君達も入って、入って。」
リツコの先程の発言の真意をすぐにでも問いかけたいミサトはなんとかマヤを考え直してもらいたかったのだが、その思いも空しくマヤはさっさと中に入っていってしまった。すでに新しくコーヒーを入れ直そうとしているリツコの元に向かっていきながら、外にいるシンジ達を元気良く中に招き寄せる。
「あの、ひょっとして、邪魔、でしたか?」
申し訳なさそうに聞いてくるシンジに笑顔を向けながらも、ミサトは怒鳴りたいのを我慢していた。もちろん相手はマヤである。
「いいのよ。さあ、入って。」
「ミサト、加持さんは〜いないの?」
「何で加持がここにいるのよ。」
ミサトは憮然とした表情で答える。
「時々ここに来てるんでしょ。マヤから聞いたわよ。隠してないで出しなさいよ、ミサト。」
「あいつはいないわよ。」
「え〜〜そんな〜。」
「まあ、まあ、はいどうぞ。」
そこにマヤがコーヒーを人数分入れて戻ってきた。その後しばらく当たり障りのない会話が7人の上で交わされたが、その間ミサトがいつになく寡黙で、何かを考えているようだった。
そんなこんなで、疲れ果てながらもグランドから少し離れている武道場などの施設にたどり着いたとき、急にシンジは誰かに後ろから目隠しされた。
「だぁ〜れだ?」
「うわっ・・・そ、その声は、霧島さん?」
急なことに驚きながらも聞き覚えのある声におずおずと答えた。
「ぶぅ〜、だぁ〜め、それじゃあ〜。」
「えっ!?」
「いつも言ってるでしょ。ほら〜ちゃんと呼んでくれないと離さないからね。」
「マナ!!アンタはまた、何やってんのよ!」
「ダメ、シンジが”マナ”って呼んでくれるまで離さないの。」
「な、何言ってんのよ。早く離しなさい。」
シンジに抱きついて離れないマナの様子を見てアスカは大声を上げるが、それにも関わらずに手を離そうとしないマナに噛みつかんばかりに詰め寄った。睨み付けてくるアスカにマナはシンジの身体に腕を回したまま顔を向けると。いかにも不条理であるとでも言いたそうな目を向ける。
「アスカ、あなただけ名前で呼ばれるのって不公平じゃない。」
「いいじゃない。アタシとシンジは幼なじみなんだから。」
「ううん、ずるいわよ。」
「ずるくなんかないわよ。」
「ずるい。」
「ずるくない!」
「ずるい!」
「あ、あの・・・ど、どうして霧島さんが、ここに?」
「あれ、シンジ、見学に来てくれたんじゃないの?」
そういう彼女は白い胴着に黒い袴という弓道の練習着であった。その立ち姿はなかなかに堂に入っている。シンジはその姿に暫し目を奪われ、慌てたように言う。
「あ・・・そ、そうか、霧島さん、弓道部だっけ。」
「うん、忘れてるなんて酷いな〜。」
「ゴ、ゴメン。わ、忘れていったって訳じゃないんだけど・・・」
「はんっ、こんな女のことなんて気にすることないわよ。
シンジ。それよりも早く行くわよ。」
マナに対して真っ赤になって何かいいわけを並べようとしているシンジにアスカは不快さを隠しもせずに言い放つ。
「う、うん、あれ、そういえば、何で僕達が見学に来るって分かったの?」
「そういえばそうね。なんでなのよ?」
「シンジ達が転校生を連れて見学に回っているってもう噂になってるもん。」
怪訝そうに問いかけられた質問をマナはあっさりといった調子で答えた。それを聞いてシンジ達の脳裏に今まで回った部室らの様子が鮮明に思い出される。
「えっ。・・・それじゃあ、今まで行く先々で人が集まっていたのって・・・」
「うん、勧誘合戦をしてるみたい。うちの部の方でも用意しているみたいよ。
だから〜わたくし霧島マナは一足先にシンジ達の様子を見に来たのであります。」
「そ、そう・・・」
「シンジィ〜どうするのよ?」
「カ、カヲル君、どうしようか?」
「そうだね。もうだいたい見てきたし、また今度にしようか?」
二人の情けない声を聞いてカヲルもいささかうんざりしていたのかあっさりと決断を下した。
「うん、それがいいよね。」
「シンジ。」
4人は顔を見合わせてそれぞれの意思を確認すると教室に帰るためにきびすを返した。そのシンジの背中にマナが声をかけてきく。
「何?」
「役に立ったでしょ。・・・お礼が、欲しいな〜。」
屈託のない笑顔でマナは言った。それにシンジが反応するよりも早くアスカが声を張り上げる。
「何でシンジがアンタにお礼しなきゃなんないのよ。」
「だって助かったでしょ。」
「これぐらいのことでお礼してもらおうなんてずうずうしいのよ。」
「ダメ?シンジ。」
激昂するアスカを放っておいて、マナはシンジの方へ懇願するように目詰めてくる。当然シンジがそれを断りきれるはずがない。アスカの方を気遣いながらもシンジは控えめに肯定する。
「えっと、そ、その僕に出来ることなら構わないけど。」
「よかった。えへへ。シンジならそう言ってくれると思ってたんだ〜。」
「な、なに?」
マナは安心したように呟くとシンジの方に悪戯っぽく微笑んだ。そんなマナの様子にシンジは少し不安そうに問いかけてみる。他の3人もその様子を息をつめたように聞き耳を立てた。
「今度、弓道の大会があるんだ〜。それに応援に来てくれないかな?」
少し不安そうに上目遣いに問いかけてくるマナの様子に、少し頬を赤らめながらもその内容自体には何の問題もないとシンジは判断した。
「うん、いいよ。それで場所は何処なの?」
「ここの弓道場。」
「うん、必ず行くから、頑張ってね。」
「うん、待ってるからねぇ〜。」
シンジがマナに微笑みかけるとマナも心底嬉しそうに満面の笑みで答えた。それを眺め、アスカは少し安心したような不機嫌そうな顔をし、レイは一見無表情に見えたがその紅い瞳の中には複雑な光が瞬いていた。そして、カヲルはとらえどころのないいつもの微笑みをその顔に浮かべていた。
青から赤に変わり始める空の下で、子供達の声はいまだに途絶えていなかった
秋月さんの『朧の刻』第3話、公開です。
オリキャラ登場(^^)
名前は[コヅエ]
トウジの妹!
”ズ”ではなくて、”ヅ”
小学生ではなくて、中学生。
この辺りがオリキャラのオリジナリティ(^^)
新登場のマナちゃんも含めて、
シンジの回りは絡んでます〜
さあ、訪問者の皆さん。
感想を書きましょう! 秋月さんに送りましょう!