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タイトル



第3話 「友達の価値」
Story:03 Friends and I

Bパート



シャムシェル、襲来


 水平線の彼方から、それはやってきた。

 烏賊のような身体に、鳥脅しのような目。
 第4使徒、シャムシェルだ。

 彼(?)は、飛行形態でゆっくり、しかしまっすぐ迫ってきた。ここ日本の、第3新東京市に。

 「…あそこか。」
 シャムシェルは、目的地を確認するようにつぶやいた。
 喉にあたる場所にあるコアが、うっすらと光を帯びる。

 「サキエルの仇…とらせてもらうぞ」
…一応、仲間のことは意識しているようだ。

 そのまま、海上をゆっくりと進んでいった。



 「未確認物体、太平洋上空にて発見!」

 戦自本部。

 「今度こそ…今度こそは…!」
 例の司令官は、今までも硬かった表情を、一層硬くした。

 「対A戦闘態勢に移行しろ!」
 「了解しました!」

 対A戦闘態勢…
 この間の敗北から学び、こういった未確認物体の為に作られた作戦の開始。
 当然、N爆雷も使える。

 「N部隊はいかがいたしましょうか?」
 「航空部隊に出動要請だ。」
 「しかし…海上では狙えませんが。」
 「目標進行経路予想は?」
 「…こうなっております。」
 「住宅密集地か…、まずいな…。よし、ではN2部隊は待機にしておけ。」
 「了解しました。」



 生徒たちは、既にシェルターに避難していた。

 それでも、やはり中学生だ。
 この状況下でもいつも通りの話をしている。
 数名を除いて。

 「また碇君1人で行くの?」
 「しかたないよ、アスカは風邪だし綾波はその看病だろ?」
 「ええ…」
 「だから、また行って来なくちゃならないんだけど…」
 「この間から…ごほごほ…監視が厳しくなったしね…ごほごほ」
 「はぁ、ケンスケか誰か出るって言い出してくれればいいのになぁ…」

 シンジ達の会話を知ってか知らずか、ケンスケがシンジを手招きした。

 「? なんだよ?」
 「なぁ…またなんか来たんだろ?」
 「ん? …たぶん、そうだろうね。」
 「なぁ…、見に行かないか?」

 なんたる幸運!(御都合主義とも言う)
 シンジの言った通りになった。
…が、そこでホントの感情を出せないのがいささか辛いところではある。。

 「へ?」
 「外に、さ。な、手伝ってくれよ。ロック外すのとかめんどうなんだよ。」
 「なんで、僕が?」
 嬉しさを隠しながらシンジが言う。

 「3人もいれば開くだろう、とね。」
 「そやな、多分。」
 「トウジも…なんだね。」
 「ああ。」

 まあ…予想通りだ。

…とにかく、シンジ・ケンスケ・トウジは委員長=ヒカリの目を盗んでなんとか逃亡を企てた。
 そして、なんとかそれは成功した。

 まあ、アスカとレイの貢献に寄るところも大きいのだが、それはまた別の話。



 ピッ ピピッ…

 無機質な電子音が響く。
 懐からハンディコンピュータを取り出したケンスケは、ロックにつなぐと何やらかちゃかちゃやっている。
 だが、全く開く気配がない。

 「ケンスケ…そろそろ諦めたら?」
 「いや…まだだ…もう少し…。」

 そういって、ケンスケはキーを叩き続ける。
 そして。

 よし、これでいいはずだ!

 パシン

 リターンキーを押す音が響いた。

……。

 しかし、3秒経っても5秒経っても、ロックはなんとも言わない。

 「開かない…みたいだね。」
 冷静に言うシンジ。

 「う…。」
 ケンスケが呻く。

 「さっきから『これでいいはずだ』って、5回も聞いたよ。」
 「う、うるさいな! シンジこそ、開けられるならやって見ろよ!」
 「わ、分かったよ…」

 シンジは、そう言うとケンスケがつないでいたコネクターを外してしまった。

 「あ、なにするんだ?それじゃ開かないぞ!」
 「いいからいいから。」

 シンジはロックに手をかざす。

 ピッ!

 一瞬にして、ロックは外れた。
 扉が少し開き、外の光が漏れている。

 「あら〜…」
 「あちゃー…」
 あまりのあっけなさに、唖然となるトウジとケンスケ。

 「お、俺の努力はなんだったんだあぁー!」
 そう叫びたい、ケンスケであった。



 外に出て歩いている、シンジとケンスケとトウジ。

 「でもシンジ、どうやって開けたんだ?」
 「う…それは…あの…」
 「教えてくれよお!」
 「あの…ああいうロックには必ず叩くと弱いところがある、って…父さんが教えてくれたんだ…」
 もちろん、これはウソだ。

 「そうか…お前の親父も、やるな。」
 そう言ったケンスケの眼鏡が光る。

 (いずれ、碇の親父には挑戦しなければならないようだな、フフフ…)
 彼がそう思っていたことは、言うまでもない…のかな?

 「は、ははは…」
 そんな状況を知っているはずもないが、なぜかひきつった笑いしかできないシンジであった。

 その頃、シェルターでは、
 「ひえっくしょぅい!」
…と、ゲンドウが大きなくしゃみをしていたとかしていなかったとか。



 「…よし、これでカメラアングルもばっちりだ。」
 「せやけど、ホンマに来るんかのお…?」
 「きっと、来るさ。」

…そんなケンスケ達をよそに、シンジは街の中心部へと向かっていた。

 「はぁはぁ…。ここまで来れば大丈夫かな…」
 (そうね。じゃ、始めましょうか)
 「うん」

 その声に反応するように、シンジの身体が薄く光を帯びる。
 次の瞬間、シンジの姿は消え、そして初号機の姿へと変わった。

 ちなみに、ケンスケ達は。
 あ、あそこ! でたぞ!!
 「ほ、ホンマや。いや〜、大迫力やのお…来た甲斐があった、っちゅうもんや。」
 「録画録画!」
 「ワシも写真…あー! カメラ忘れてもたー!」
 「しょうがない…あとでプリントしてやるよ。」
 「え、ええんかケンスケ!」
 「ああ」
 「ホンマ、持つべきものは友達やなぁ!」

 (フ…小遣いが増えるな。シナリオ通りだ)
 (ああ…迫力がありまくりや…。ええなあ、ええなあ)

…とまあ、興奮・感動していたのであった。
 この時、彼らの頭の中に「後で叱られるゾ」という事実が全くなかったことは、恐らく誰にでも推測できるところだろう。



 (…あいつか…)
 シャムシェルは、初号機を確認すると戦闘形態へ移行した。

 その頭を持ち上げ、手らしき部分を開く。
 今まで何もなかった手とおぼしき部分には、光のムチが発していた。

 そんな異常事態の中にも、蝉の鳴き声は相変わらず響きわたっていた。



2度目の戦い


 (今日は山の方にはなるべく行かないで戦わなくちゃね…。ケンスケとトウジが外にいるから)
 (そうね…)
 (でも、よかったのかな。危ないって言わなくて…)
 (うーん…、やっぱり今のままで良かったと思うわよ。だって、出てから言ったんじゃ怪しまれるだけだしね)
 (まぁ、なんとかなる…かな?)
 (そうでなくても、しなきゃいけないでしょ?)
 (う…ま、それはそーだけど…)

 (待って。…来たわ!)

 そう初号機が話すのと同時だった。

 シュルルッ!

 そういう音を立て、文字どおり一瞬のうちにムチが伸びてくる。
 初号機は、それをすんでのところでかわした。

 「まずいな…」
 (まずいわね…攻撃の速度が違いすぎる…)

 シンジは、固かった表情を一層固くした…つもりになる。

 (いくぞ…!)
 そうつぶやくと、シンジは左肩からナイフを取り出して立ち上がり、使徒のムチを避けながら使徒めがけて走っていった。



 その頃。
 トウジとケンスケは、相変わらずあの場所で戦いを見ていた。

 「ほぉ…どっちもやるのぉ…。」
 「ああ。特にあの紫の方はね。」
 「どーゆーこっちゃ?」
 「反応速度がすごいんだ…。機械じゃ、あそこまで出来ないんじゃないかな。」

 ケンスケは、ファインダーを覗き込んだままだ。

 「せやけど、あれはどーみても…」
 「いや、わからないよ。だって、中身に何が入ってようと見えないだろ?」
 「うう…ま、それはそーやけど…」
 「ああ、でも誰が乗ってるんだろう」
 「『乗る』?」
 「そうだよ。見るとおりロボットだとするなら、人の制御は必要だぜ。」
 「お前さっき中に何が入ってるかわからんゆーたばかりやないか。」
 「ま、あんなでかい生き物、いるとも思えないからな。」
 「なんや。…で、なして人が乗っとるんや?」

 「コントロールを離れる危険性の高いリモートコントロールよりは、人間が乗っていると考えた方がいいからな。」

 「ああ…そゆことか。…けど、あの紫のやつは、逃げることに関してはホンマ、プロみたいやなぁ…」
 「そうだな…よくまあ、あそこまで速い攻撃を避けられるもんだ。パイロットに会ったら聞いてみたいね。」
 「せやけどそーゆーことになったらお前はむしろ『俺を乗せて下さい!』…て言うんやろ。」
 「当たり前じゃないか。」

 ケンスケは、至極きっぱりと断定した。

 「せやけど…あそこまで逃げるのがうまい、言うと…」

 まるでシンジや(だ)な! ハハハハハ…
 2人は、顔を見合わせて笑った。
 当然、それが「どんぴしゃり」なのは知るはずもない。

 「あれ、ところでシンジは?」
 「ん…そういえばどっかではぐれたよーな…」
 再びケンスケはファインダーに、トウジは街の方に目を移した。

 「でもま、この辺は迷うこともないだろうからな。」
 「それもそうやな。」
 「そのうち、俺達を見つけるだろ。」

 非常〜に楽観的なご意見、ありがとうございました…

…って、ホントにそれでいいのか! (^^;



 (くっ、ちょろちょろと…)

 シャムシェルは、ムチを振り回しながらそんなことを考えていた。
 実際ケンスケ達も言ったとおり、初号機(シンジ)の避け方は大した物で、まさに「天性の才能」と言っても過言ではないようなもの。
…なんとなく情けなく聞こえるなぁ…。ホントはすごいことだと思うんですけどね。

 さて、避けてる方の初号機はと言えば?

 (あぁ、もう! うっさいわね!)

 隙もみせず襲ってくるムチに、いささか辟易していた。
 だが、ここでやめるわけにはいかない。
…というわけで、少しずつではあるがシャムシェルの方へと向かっていた。
 右手にはプログナイフ。
 だんだんと、その高周波振動刃がうなりを上げ始める…。



 「ぐっ!」

 シンジは、シャムシェルのムチを間一髪、かわす。
 それと同時に、それを切り落とすべくナイフを振り下ろした!

 ギンッ!

 高周波振動している物同士がぶつかりあって、いやな音を立てる。
 それにも構っていられない。
 シンジは、なかなか切れないナイフに、更に力を込めた。

 だが、それがいけなかった。

 シャムシェルの腕がナイフを器用に掴み、はじき飛ばす。

 「あっ…!」
 シンジに一瞬隙が出来た。

 当然シャムシェルがそれを見逃すはずもない。

 ザッ!

 ナイフが一足先に山に突き刺さった瞬間。

 (今こそ!)
 心の中でそう叫びながら、シャムシェルは再びムチをふるった。

 パシッ!

 それは、初号機の左足首に巻き付いた。
 それにシンジが気づいたときには、既に初号機は放り投げられていた。山の方に。

 (まずい!)
 シンジはそう思ったが、状況が変わるわけではない。
 重力と慣性で、初号機はどんどん山に向かっていく。
…尚、EVAは「光の羽」(ATフィールドの一種)を持っており、それとATフィールドの重力制御により飛べる…はずなのだが、そんなことをシンジが知るはずもない。

 そして、次の瞬間。

 ズズ…ン…

 初号機は、山の斜面にたたきつけられた。



 「…おい」
 ケンスケが呼びかける。
 トウジは、さっきから続く戦闘の状況がちっともかわらないので、そろそろ飽き始めていた。

 「んー、何や?」
 「あれ…」
 「あっちゃー、捕まってもたか…」
 「うーん…もう少しだったのにな。」

 残念がっている2人。
 だが、そんなことをしている間にも、シャムシェルの光のムチは、初号機を高々と空に掲げていた。

 当然、その後放り投げられる初号機。

 その様をじっと見ていたケンスケ達。
 だが、それが自分たちの方に向かってくる。
 だんだん近づいてくるにつれ、2人の口が大きく開いていき、恐怖も高まってくる。

 「ぎゃああぁぁぁぁ!!」
 ケンスケとトウジは、あまりの恐怖に、お互いの身体を支え合って目をつぶった。

 次の瞬間、

 ズズ…ン…

…という音が辺りに響きわたった。
 初号機が、山肌に激突したのだった。



「逃げちゃ、ダメだ」


 「うう…」
 シンジの意識は衝撃により一瞬どこかへ飛んでいたが、何とか首だけを起こした。
 シャムシェルがやってくるのが見える。

 ふと、左手の方を見るシンジ。
 そして。

 「!!」
 シンジの目には、左手指の間にいて辛うじて助かった、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらがたがたと震えるトウジとケンスケの姿が映った。



 初号機の視線に気づいているのか、気づいていないのか。

 「うぅ…」
 2人は、今にも泣き出しそうな顔をして、初号機の顔を見ている。

 …2人とも、大丈夫? 怪我はない?
 シンジは、わざと声を変えて喋った。ばれてはどうしようもない。

 「? どっかで聞いたような…?」
 ケンスケが首を傾げる。

 しばらく、両者沈黙…。

 しかし、そんなことをしている間にもシャムシェルはゆっくりと迫ってくる。ムチを振りながら。
 それに気づいたとき、初号機(シンジ)が第二声を発した。
 今回は、声を変えているヒマも無かった。
 「危ない!」

…幸いにも、2人は気づかなかったらしいが。

 ムチが初号機の、そして2人の方へと伸ばされる。

 (何とかしなきゃ…!)
 シンジは、そのムチを両手で掴んだ。
 接触部分が焦げ、ただれる。

 ぐ…うっ…!!

 何とか悲鳴を抑えながら、シンジは言った。

 逃…げて…2人とも…。
 その初号機の声に、2人は這うようにしてシェルター入り口の方へと戻っていった。
 ただ、外で相変わらず状況を見つめていたことは言うまでもない。



 (よし…)
 シンジは、トウジ達が急いで走っていくのを見て、心の中でつぶやいた。

 (さあ、反撃するわよ!)
 (うん!)

 シンジは、ムチを引いてシャムシェルを引き寄せ、力任せに蹴った。

 「ぐお!」
…と言ったかどうかは定かでないが、シャムシェルは町中に逆戻りした。
 それを確認すると、シンジはゆっくりと立ち上がり、傍らに刺さっていたナイフを抜いた。

 シュゥゥゥ…

 肉の焦げる音がする。
 手のひらが焼けて痛い。

 しかし、やらなければならない。
 そうしなければ、未来は…。

 「逃げちゃ、ダメだ。」
 シンジは、そうつぶやくと、再びこちらに向かって来ようとするシャムシェルに向かって突進していった。



 (くっ! こしゃくなっ…!)
 やっと体勢を立て直したシャムシェルが、ほとんど無防備状態の初号機に向かってムチを放つ。

 ドスッ!

 ムチは、初号機の腹に2本とも刺さった。

 ぐ…ぐああぁぁっ!
 刺された箇所に、痛みが走る。
 シンジは、叫びながらも突進を続ける。

 (あれが弱点よ! あの光っている球!)
 初号機がすかさずアドバイスした。



 「…あああぁぁぁっっ!」
 腹部に走る痛みに悲鳴を上げながら、シンジはナイフをシャムシェルのコアに突き立てた。
 火花が飛び散る。

 「この…おおおぉぉぉ…っ…!」
 だんだんと、刃が奥まで食い込んでいく。

 (もう少し…もう少し!)
 そう思うシンジの視界がぼやけてきた。
 痛みで気を失いそうになっているのだ。

 (もう…少し…!)
 そう心の中で叫んだ時。

 パシッ!

 コアがひび割れる。
 激しく飛び散っていた火花がおさまっていく。
 シャムシェルのムチも、動きが弱まり…

…そして、シャムシェルは活動を停止する。
 シンジが意識を失う3秒前の事だった。

 そして、その5秒ほど後、シャムシェルは自爆した。

 ドゴオォォォ…ン……

 某月某日、第4使徒・シャムシェル、ここにせん滅。



Cパートに続く

ver.-1.00 1997-06/12公開
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 次回予告

 何とか使徒を倒したシンジだったが、再び怪我をしてしまう。
 そんなシンジに、トウジとケンスケは?


 あとがき

 はうー、戦闘は疲れますー。(*_*)
 でもまぁ、次(Cパート)は戦闘ないしな…うんうん。

 ところで今回は、舞台であるこの世界について、ちょっと語ってみることにします。
 なんせ、かなり設定がややこしいところもありますので。
 ではまず、基本的なところから。

 2015年、日本の旧「箱根」に作られた第三新東京市に、宇宙より襲来する使徒。
 それを倒すべく、選ばれた3人の少年・少女。
 彼らは、使徒に対抗しうる唯一の手段「エヴァンゲリオン」として、戦いをつづける…

…というのが基本背景。一応、TVと違う点は、

  ・ NERVはない。
  ・ ゼーレもない。
  ・ ユイは生きてる。
  ・ ミサトやリツコが先生してる。
  ・ 転校してくるのはレイでなくアスカ。

…等々。詳しくは、そのうち出す「設定資料」を参照して下さい。

 では、Cパートをお楽しみに!



 Tossy-2さんの『新戦士 エヴァンゲリオン』第3話Bパート、公開です(^^)
 

 サキエルに続いて、シャムシエルとの死闘。
 今回もシンジ君は一人で頑張りました。

 レイもアスカも働けいっ!(笑)
 

 気を失ってしまったシンジ、
 シンジ以外の2of3バカも正体に気付いてしまうんでしょうか?
 次回は青春物語なのかな?
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 命がけの戦いをクリアしたシンジ君に激励のメールを!


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