Aパート
例の宇宙船。
「どうやらアダムはあの小さな島にいるようだな」
「ああ」
「では、まず誰がいく」
「私だ」
サキエルが声を出した。
「私が行こう」
暗闇に浮かんでくるサキエルの姿。TVのまんまのその姿。
「では、頼むぞ。サキエル」
「きっと、任務を…」
そう言うと、サキエルの姿はふっと消えた。
「未確認物体、太平洋にて発見!」
状況報告がされる。
ここは、戦自の本部。
「ミサイルを撃ってみろ」
司令官とおぼしき人物が声を出す。
「了解!」
すぐさま反応が返り、謎の物体(サキエル)に向けてミサイルが数発発射された。
…しかし、全く効いている気配はない。
「奴は…何者だ?」
数十分後、サキエルは戦自の攻撃も空しく上陸、第三新東京めがけて進んでいった。
「何としても目標を足止めしろ!」
「厚木と入間も全部上げろ!」
司令官は次々と指示を飛ばす。
しかし、そういう指示の中、状況は芳しくない物ばかりであった。
ピーン ポーン パーン ポーン…
お約束のチャイムの後に、放送が入った。
「みなさん、落ちついて良く聞いて下さい。」
校長先生の声だ。かなりあわてている。
「現在、この場所に向かって謎の物体が進行中だそうです。シェルターへと速やかに
避難して下さい。繰り返します……」
放送が終わらないうちから、教室は騒がしくなった。
(使徒…かな?)
(多分ね…)
しかし、シェルターに行かないのも怪しまれそうなので、シンジは一応みんなについていった。
「ま…まって…待ってよお! はぁ、はぁ…待ってってば…」
…シンジは、足が遅かった。
そんな中、ケンスケはビデオカメラを覗きながらもかなり快調に走っている。
…特技だな。
「…ふふふ…本物の戦闘が見られるなんて…感激だな」
報道管制がされ始めているが、ケンスケは気にもしていない。
なぜならば、この町の至る所にケンスケが仕掛けた
「隠し撮りカメラ」が設置してあるからだ。
「くそっ!こうなったら…おい!
例の物を使え!」
「れ、例の物…よろしいのですか?」
「ああ。こうなってはしようがない。…これより、N2作戦を発動する!
!」
サキエルは、第三新東京市に確実に向かってきていた。
「もう少しだ。もう少しであの忌々しきアダムを…」
と、そのとき。
彼の足下で眩い閃光が起こる。
N2爆雷が作動したのだった。
「ぐぅっ!」
サキエルはその光に飲み込まれた…。
「やった!!」
司令官は思わず叫ぶ。
自分たちの勝利を確信して。
…しかし、その喜びはすぐさまディラックの海の彼方へと消える。
「目標、未だ健在!!」
オペレータの報告。
「何だとおっ!?」
確かに映像を見ると爆心地には前とほとんど変わらない使徒の姿。
ただ変わった点としては、顔が2つになったところぐらいか。
「…バケモノめ!」
司令官は、忌々しそうにつぶやいた。
「…そろそろか…」
シンジは天井をにらみながらそうつぶやく。
「ん、どうした?」
「いや、ちょっと…」
相変わらずシンジの視線は天井に向いている。
「トイレなら、早く行って来た方がいいぞ」
ケンスケが再び言う。カメラのディスクの準備中らしい。
「…そうだね」
ケンスケのおかげで口実をやっと思いついたシンジは、ヒカリのところに向かった。
「あの…洞木さん…」
「? 何?」
「僕…トイレに…」
「分かったわ。ごゆっくり。」
シンジが出ていこうとすると、後ろからレイが走ってくる。
「待って、碇君。1人では危ないわ」
「あ、綾波…」
「私も一緒に行くわ」
「だ、だめだよ…危ないよ」
「だから、私も…」
「ちょ、ちょっと綾波さん?」
ヒカリが声を掛ける。
「なに?」
「碇君は…トイレに行くのよ」
「…それがどうしたの?」
「だって…一緒に行ったりしたら…」
「!!」
臨界点に達して真っ赤になりながら言うヒカリの言葉にやっと気づいて、レイもまた真っ赤になる。
2人は沸点に達しているようで、全く動かない。動けない。
「じゃ、じゃあ行って来るよ」
シンジは、とりあえずこの場を逃げ出すことにした。
「ふ〜、さてと。あとはロックを外して…」
ピッ!
電子音と共に、「Locked」の表示が「Open」に変わる。
シンジは、シェルターの扉を開いた。
電子ロックを外すのはさほど難しくない。シンジの場合、視線を走らせればたいてい開いてしまうのだ。
一応、普通の人はこういうことを出来るわけもない、というのは記しておくこ
とにしよう。
…余談だが、この街の至る所にはシェルターがある。
セカンドインパクト後の紛争が絶えなかった時期から、避難設備としてどこでも配備されているからだ。
しかし、2001年2月14日にバレンタイン休戦条約が結ばれ、一応の紛争は決着した。そのためシェルターは必要なくなったのだが、つぶすのももったいないということでまだ残っているのだ。
街の方を真剣な眼差しでにらむシンジの視線は、サキエルただ一点に向いていた。
「…あれが、敵か…」
(そう。第三使徒・サキエルよ)
「…よし」
シンジは覚悟を決めたようだ。
自己修復を終えたサキエルがこの街に向かってに歩み寄ってくるのが見えた。
「…準備はいい?」
(ええ、いつでも)
「じゃあ、始めよう。」
(そうね)
次の瞬間、そこには既にシンジの姿は、なかった。
(初号機が、起動したようね)
零号機がつぶやく。
(碇君が…?)
(ま、そういうことよ)
やっと冷めてきた頭で、事実を確認したレイ。
(やっぱり行かないとだめかしら…でもこの状況では…)
さっきの行動の時から、レイにはヒカリの監視がついていたりする。
(だめね…やっぱり)
レイは諦めた。
その頃、アスカもこの事実を知っていた。
(初号機の反応、感知したわ)
(あのシンジとか言う奴?)
(そうよ。戦闘態勢に入ったようね)
(私は行かなくていいの?)
(大丈夫だと思うわ)
(どうして?)
(だって…敵、雑魚だもの)
あっさりという弐号機。
アスカは、その後しばらく身動きせず巨大な汗を浮かべていたという。
一方、こちらはシェルターでも相変わらずビデオカメラを覗いているケンスケ。隠し撮りカメラから映像を受信している。
その目に、意外な物が飛び込んでくる。
「これは…」
紫色の、巨大な、人型をした…ロボット?
信じられない光景だが、ケンスケはディスクが入っていることを確認すると、録画ボタンを押した。
(何やらおもしろそうなことになりそうだ…)
やけに興奮した表情のケンスケに、トウジが尋ねる。
「ケンスケ、お前どないしたんや。そないに興奮して…」
「トウジ…いいことを聞いてくれた。これを見ろよ」
「ん〜? どれどれ…」
渡されたビデオカメラをつまらなそうに覗き込むトウジだが…
「…な、何やこれは!?」
無理もない。こんなもの見たら誰だって驚く。
「分からないけど…あっちの奴と戦う気じゃないか?」
「ん…。そう言われると…そうも見えるな」
トウジとケンスケはひそひそ話モードに入っている。
そんな2人を気に留める人間はいない。いつもの事だ。
その頃、ユイとゲンドウも同じシェルターに避難していた。
「何が起きてるんでしょうね、あなた」
「わからんな」
「見に行くのも危険ですし…」
「おお、そういえばこんなものがあった」
ゲンドウは、懐からポータブルTVを取り出し、スイッチを入れる。
しばらく砂嵐。
そして、ついにチャンネルがあったのか、町の映像が映る。
「あら、こんなところにカメラがあったんですか?」
「私が設置した。人間の生態観察などに使える」
ゲンドウが再びチャンネルを変える。
「便利ですね、あなた。」
「そうだろう。こういうときのために…」
「やっぱり…若い子目当てですか?」
「い、いや。そんなことはない」
なぜかどもるゲンドウ。
「じゃあ、このアングルは何なんです!?」
ユイがTVをひったくってダイヤルを回す。
画面に映ったのは、地面すれすれから見上げるカメラの映像。
「う…いや…」
「全く…」
ユイは、またダイヤルを回した。
すると、町から山の方を展望したカメラのところで手が止まる。
「あら…何かしら、これ。」
「どうした?」
「ほら、あなた」
「…むう、見たこともないものだな」
「生き物…でしょうか?」
「いや。どう見てもあれは『巨大ロボット』だ。こんな時に見られるとはな…。フフフフフ…」
「…そ、そうですね…」
やたら強調して嬉しそうに言うゲンドウに、ユイはちょっとたじたじ。
シンジは、変わり果てた自分の姿を見て驚いていた。
「こ、これが…僕?」
(そうよ。これが私とあなたの本当の姿…EVA初号機)
遠くにあるビルのガラスに反射した自分の姿。
それは、元のシンジの姿とは全く違う(当たり前だ)。
体の表面は紫色を基調とした装甲で覆われ、腕など一部が黒だったりライトグリーンだったり青灰色だったりする。
頭には角(飾り?)もついている。
…と、主観で見るとまさに鎧を着た巨大な人間のようだが、どー見てもこれは「巨大ロボット」にしか見えない。
「…まぁいいや。じゃあ、行くよ。」
(了解!)
初号機は、サキエルと対決するべく、町中の方へと歩を進めていった。
「ふん…現れたか。…アダムも一緒のようだな…」
サキエルはふとつぶやいた。
その白い仮面(?)にある2つの黒い目の先にある物。
それは、こちらに向かってくるEVA初号機の姿だった。
「私と戦う気か。おもしろい。…さて、どんなものかな?」
サキエルは、非常におもしろそうにつぶやく。
その声に反応するかのように、彼の手に光の槍が生まれた。
「碇君…頑張って…」
レイはそうつぶやいていた。
地上の、シンジ…初号機がいるであろう方向に向かって。
「シンジ…負けるんじゃないわよ」
アスカも同じく。
「???」
そんな2人を、ヒカリは首を傾げながら見つめる。
同じ方向を向いてみるが、どうも何もある気配はない。
(綾波さんは元からだったけど…惣流さんもね。同じね、理解しにくいのは)
とかなんとか、勝手に話を進めている。
「碇君…」
再びつぶやくレイ。
そんなところに、ゲンドウとユイがやってきた。
「あら、レイちゃんじゃない。」
「…こんにちは。」
「シンジが見えないようだが…」
「碇君なら…さっきトイレに…」
「そうか。シンジ…そういうことは早めに済ませてませておくものだぞ…」
「全く、シンジったら…。せっかくおもしろい情報を仕入れたから教えてあげようと思ったのに…」
ユイが残念そうにつぶやく。
「…ユイ。」
「何ですか、あなた?」
「私も…トイレだ」
言ったと思いきや、ゲンドウは既にそこにいない。
「…この親にしてこの子有り、か…」
ユイはため息を一つついた。
「…何ですか? おもしろい情報というのは…?」
いつの間にかヒカリも話に加わっている。
「ああ、それね…。なんと非現実的なことに表に訳分からない生き物らしき物と、紫色の巨大ロボットがいるのよ。」
「・・・」無言のレイ&ヒカリ。
「シンジに教えたらどんな顔するか楽しみじゃない?」
楽しそうにユイが言う。
それを最後に、しばらく沈黙が流れ…
「…それにしても碇君、トイレ長いわね…」
ヒカリが沈黙を破ってつぶやく。
「案外、もう知っていて表に出ているかもしれんぞ、ユイ。」
いきなりユイの後ろにゲンドウ。
「あ、あなた!脅かさないで下さい!」
「そうか、すまん。…シンジは、トイレにはいなかったぞ」
「…え」
ユイとヒカリが心配そうな表情になる。
「ねぇ、綾波さん。碇君…どうしてると思う?」
ギク
「・・・」
(まずいわ…)
レイはちょっと冷や汗をたらす。
「さ、さあ…」
ちょっと声がうわずってしまったが、心配中の母親&委員長は気にする様子もない。
「碇君たら…外に出ちゃったのかしらね…」
困った顔のヒカリ。
「もしかしたらシンジ、外に出ちゃってるかも知れませんね。」
「ああ、そうだな。」
「気が弱いくせに好奇心だけは強いですからねぇ…あの子。」
「フッ、問題ない…」
「大有りです! 巻き込まれでもしたらどうなるんです!」
「その時はその時だ。」
「言いたくないですけどね、シンジはあんまり運動神経いい方じゃないんですよ!」
ユイがゲンドウに詰め寄る。
ちょうどその時、初号機(=シンジ)が盛大なくしゃみをした。
(だ、誰かウワサしてるのかな…。まさかね…)
「あっ!」
カメラを見ていたケンスケが思わず声を上げる。
「…どないしたんや?」
「いや、ちょっと…」
「何かあったんかいな?」
「分からないけど…くしゃみ…かな?」
「…どーしてロボットがくしゃみなぞすんのや。不自然やで」
「俺も、そう思う…」
そうつぶやくトウジ&ケンスケであった。
「そういえば…シンジ遅いよな」
「んー? …ああ、そうやな」
…とか何とか言っておきながら、半分シンジのことは忘れかけているご様子。
いーのかな? (^^; …ま、いいか。
ご意見・感想・誤字情報などは VFE02615@niftyserve.or.jp まで。
次回予告
サキエルと交戦状態に入るシンジ。
しかし、戦闘経験のない彼は、早くも窮地に陥る。
サんな状況の中での、シンジの行動とは?
あとがき
どもども、Tossy-2です。
んー、なんか緊迫感とシリアスさに欠けるな…と自分でも感じるのですが、まぁ暗い
よりは明るめの話にしていく予定なので。
ところで、この物語のパターンが、2話にだいたい現れています。
…って、かなりバレバレ的な部分もありますけど。
さて、次の話では、早速シンジ大ピンチ! の予定です。
いやはや、どうなることやら…作者にもあまり先の方は見えません(をいをい)(^^;。
とりあえず、行くところまで行ってみようと思いますので。期待は…してくれてもしてくれなくてもいいです。(^^;
ともあれ、第2話Bパート、お楽しみに! (^^)
Tossy-2さんの『新戦士 エヴァンゲリオン』第2話Aパート、公開です。
やはり戦略自衛隊は役に立たないようですね(^^;
なんだかここまで来ると涙さえ誘われます(笑)
さあ、いよいよシンジがエヴァに変身!
後書きによると次回いきなり”大ピンチ”に陥るようですが、
その時、アスカは? レイは?
プロ裸足の覗きテクニックを披露しているケンスケとゲンドウは見ているだけなのか?
・・・ゲンドウはともかくケンスケは見てるだけのような・・・
だって、彼が活躍している所って想像できないもん(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
使徒と正面切って戦うシンジ君に激励のメールを!!(^^)