Bパート
一応出てはきたものの、シンジは困惑していた。
無理もないところだろう。いきなり実戦なのだから。
(とりあえず、もっと接近しなくちゃならないわね)
(うん、わかった…)
(足下、気を付けてね)
(うん…)
ここまで来る間も相当足下に気を使ってきたのだが、その時よりも更に注意深く踏み
出す。
ズウゥ…ン
人気のない街に、その足音だけが響きわたっていた。
「どうやら、あちらと交戦する模様ですね。」
状況を見守っていた戦自の本部で。
司令官に告げる声。
「もしそうだとしたら、周辺の地区は危険です。部隊を直ちに回収した方がよろしい
のでは…」
唇をかみながら、それを聞いていた司令官が言う。
「…地上部隊並びに航空部隊、帰還させろ。直ちにだ。戦闘が始まる前にな。」
それだけ言うと、彼は指揮室を出ていった。
「屈辱…か。そうだよな…」
先程のオペレータは、1人つぶやいていた。
「あれだけの被害を被ったんだ。それでも全く歯が立たないなんて…」
昼間から続いていた状況報告を思い出す。
「15年前の悲劇の再来、となりうるかもな…」
ふと、彼は視線を宙に走らせた。
そして、再び言う。
「それだけは、勘弁して欲しいよ…」
「うっ!」
シンジは、注意深く歩くあまりバランスを崩しかけてしまい、結局転んだ。
ドゴオォォ…ン
またもや響きわたる大きな音。
「うう…」
うめきながら立ち上がろうとしたシンジだが、ふいに頭が何かにつり上げられるよう
な感覚を覚えた。
視界を、何か黒い物体が遮っている。その隙間からは、街のビルが見える。
シンジの頭は、使徒に掴まれていたのだった。
サキエルは、初号機を片手で軽々と持ち上げると、空いている右手で初号機の左腕を
掴む。
成す術もなくされるがままになっているシンジ。
サキエルの右手に力がこもる。
ギギギ…
「あぐうっ!」
シンジがうめく。
音と共に、左手に痛みが走った。
そして、ついに。
バキッ…
初号機の…シンジの左腕は折れた。
サキエルが掴んでいるところより先は、何の反応もなくぶらぶら揺れるだけとなって
しまった。
シンジは叫ぼうとした。
しかし、声が出ない。あまりの恐怖に。
身体も、動かない。
間髪入れず、シンジの視界に白い光が入ってくる。
サキエルの光の槍だ。
槍は、初号機…シンジの頭部の一ヶ所を、何度も何度も突いた。
ガン… ガン…
「ぐっ…、ぐっ…うう…」
定期的に襲ってくる衝撃に、シンジは気絶しそうになりながらも耐えていた。
とにかく、逃げちゃダメだ。
自分が逃げたら、地上はこいつのいいように破壊されてしまう。
だから…。
しかし、そういう決意にも関わらず、状況はいっこうに好転しなかった。
「まだか…頑丈な奴だ。」
そうつぶやきながら、サキエルは自分の手のひらに発生した光の槍を初号機の頭部に
打ち込んでいる。
バキ…
少し手応えがあった。
サキエルは、更にペースを速めた。
一方、シンジは。
ガン、ガン、ガン…
サキエルの攻撃スピードが速くなったことを感じ、同時に自分の身体を覆うこの装甲
がもういくらも持たないという事を知っていた。
(もう、駄目なのかな…)
(だめよ、諦めちゃ!)
(でも、もう持たないよ)
そうシンジが言った瞬間。
バキィ…ン
シンジの耳に大きな音が聞こえた。
右目が見えない。すさまじく、痛い。
そのままシンジは飛ばされ…ビルに背中を打ちつけて止まった。
サキエルの槍が縮んでいく。
シンジの頭はだらんとたれた。
貫通した穴から、血が吹き出す。
シンジは、意識が遠のいていった。
(もう…ダメみたい…)
一瞬、ここに来た事を後悔したが、その後すぐシンジの意識はブラックアウトする。
少しの時間さえ、残ってはいなかった。
「碇君…」
レイは、初号機の反応がいきなり弱まったことに不安を抱いていた。
「もしかして…」
不安は募るばかりだ。
「心配なのは、私も同じよ。」
気づくと、アスカが横にいた。
アスカは、小声で告げる。
「あいつだって、何も考えないで戦いに臨んだワケじゃないはずよ。だって、申し出
は拒否できるんだもの。」
「…そうね。でも…」
「性格からして拒否できないだろう、って言いたいんでしょ?」
「・・・」
コクン、と頷くレイ。
「そんなことはないわよ。出てく時のあいつの顔見た? いつものあいつからは想像
もつかないぐらいまじめな顔してたわよ。」
「・・・」
「いやいや出ていったはず無いじゃない。それに、あいつは自分で行動してるのよ。
いつもは流されるだけなのに。」
「・・・」
「大丈夫。あんたの大好きなシンジはきっと
帰ってくるわ。」
「! ど、どうして…?」
アスカの言葉にレイがちょっと驚いて聞くと、
「あんたバカぁ? シンジを見つめるその目を見てりゃ分かるわよ、誰でもね! …
まぁあの鈍感なシンジは別としてね。」
「…そうかしら」
レイは、またもや顔が赤くなってきている。
アスカも、そんなことを言いながらも裏ではシンジの心配をしていた。
(まさか、いきなり…なんてことは無いわよね、シンジ…)
その言葉に対する答えが帰ってくることはなかった。
「ふん…口ほどにもない」
サキエルは、そうつぶやくととどめを刺すべく初号機の方へ向かっていった。
初号機は…シンジは、反応する気配すらない。
完全に沈黙していた。
(シンジ君、シンジ君!)
初号機は必死でシンジに呼びかけていたが、返事はない。
それなら自分で動けば…とも思うのだが、それは出来ない。
初号機は、そもそも与えられた命令を実行するだけの存在であり、発言が出来るとは
いえ最終的に動くのはシンジだからだ。
だから、シンジの意識が無くなれば、当然身体も沈黙するわけである。
(シンジ君、シンジ君!)
呼びかけを続ける初号機だが、それに対しての反応は全くない。
(私が身体を動かせれば…)
この時ほど、「肉体を持たない存在」と言うモノを恨めしく思ったことは無かった。
「いきなり静かになりましたね、あなた」
「そうだな…」
ゲンドウは、再びTVを取り出した。
「むっ!」
「どうしたんです?」
「…やられてしまったらしいな」
「そうみたい…ですね」
「ああ、あの黒い方が街を破壊してしまうぞ」
「いやですねぇ」
「そうだな」
…実感あるんだろうか、この夫婦わ (^^; 。
ケンスケとトウジも。
「動け!もう一回動けよ!動いてくれよ!」
「こら、動かんかい!パチキかますで!
B>」
「トウジ…お前の『ぱちき』は効かんと思うよ。」
「う…言ってみただけや!本気にすな!」
「どうかな…トウジは本音が出やすいタイプだからな…と、そうでもないか。委員長のこと好きなのに言い出せないんだからな。
」
「う、うるさいわい!」
ゴス
照れ隠しのトウジの拳がケンスケにヒットする。
「え?鈴原が、私のこと…きゃっ☆ ヒカリ、うれしい!」
ヒカリは、この2人の大きすぎるひそひそ話を聞いて1人の世界モードに早くもトリ
ップしていた。
「ふふ… ふふふ…」
あやしげな笑いとよだれが、だらしなく開いた口から漏れる。
「そんなことより…ああ、もっと戦闘を撮らせてくれよお!
」
ケンスケは、コブを頭に作りながらそれを全く気にしていない様子で心の底から願っ
ていた。
眼鏡の奥には…涙らしき光るモノが。
トウジは…。
「あない変なモンにワシらの街破壊されたらたまらんで!…コラ
、動け動け!動かんかい!」
…周りの人々は、いつもと違う様子でありながらいつもと同じ様子でもある2人のこと
はあまり気にしていない。
変なのには関わりたくない、というのが本音であろうか。
ともかく、シンジが大ピンチなのは、変わりようのない事実だった。
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次回予告
沈黙した初号機は、このまま使徒のなすがままになってしまうのか。
街も、いいように破壊され尽くしてしまうのか。
そして、シンジの運命は…?
次回、第2話堂々の(?)完結!
あとがき
第2話もクライマックスです。
いやー、戦闘シーンというのは結構描写が大変ですねぇ。
何しろあまり書き慣れてないもので…(^^;。
Cパートは、もっと激しい(何がだ)シーンを作る予
定ですので、お楽しみに!
…って、ネタバレしてどーする!(笑)
Tossy-2さん『の新戦士 エヴァンゲリオン』第2話Bパート公開です。
エヴァ小説史上、一番イっているヒカリがここにいます(^^;
いきなり大ピンチに陥っているシンジをほったらかしにした緊張感のない空間、避難所(^^;
トウジやケンスケに、ゲンドウ、ユイ。
みんな妙にのんきです。
アスカやレイまでもがずれた会話をしていますね(^^)
・・・・アスカが「ヤキモチ」(?)を焼いていますが、これは波乱の予感です!
さあ、訪問者の皆さん。
貴方だけです。シンジ君を本気で心配できるのは!(笑)