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EPISODE:05 / Intermission
Bパート
「ねえ、どこ行くか決まってるの?」
シンジは、提案者アスカに聞いた。
「いえ。」
至極きっぱりと言うアスカ。
「・・・」
レイは、相変わらず無言でついてくる。
天気のいい昼下がり、3人は久しぶりに街へ出かけてみた。
土曜と言うこともあって、さすがに人が多い。
…とは言っても、押すな押すなの騒ぎがあるわけではない。
この街は、基本的にNERVの関係者だけが住んでいるため、人口はそれほど多くないのだ。
それでも、この日は第三新東京市にしては珍しく、人通りが多かった。
「今日、人がいっぱいいるね。」
「そうね。何かあったのかしら?」
「綾波はどう思う?」
「分からないわ…」
「…ま、いいわ。とりあえず、服でも見に行きましょ。」
「え? まさか、僕は…」
「そ。荷物持ちよ。」
「そんなぁ〜…」
「さ、行きましょ!」
アスカに半ば引きずられるようにして、シンジは店に入っていく。
レイも、その後をすたすたと追いかけていった。
その時に考えていたのは、三者三様であった。
(荷物持ち…やっぱり。どうせまたいっぱい買う気なんだろうな。ああ、何か今日のアスカ機嫌がいいからなぁ…。何とか重くならない方法は…)
(フフフ…今日、シンジはアタシにメロメロになるのよっっ!!)
(弐号機パイロット、危険だわ。何とか碇君と離さないと。そして、碇君と…ポッ)
「目標、ブロック3の店舗コードD21に入りました。」
あるビルの屋上。
この暑い中、黒いスーツを来た男が1人。
サングラスを掛けて、さらに双眼鏡を覗いていた。
どう見ても、悪役にしか見えない。
傍らには、仕事道具の入った鞄。
男は、今回の仕事の目標である3人の子供が店にはいると、眼鏡のつるについている超小型無線機に向かって話しかけた。
重い、声で。
『了解。』
これまた、重い声が返ってくる。
『接触待機に入れ。』
「了解。」
男は答えると、すぐ双眼鏡を鞄にしまった。
そしてサングラスを脱ぎ、軽装に着替える。
ものの2・3分で、雰囲気と体格は別にしても、外見だけでは普通の青年に見えるようになった。
「…よし。」
男は、少しニヤリとしてそうつぶやくと、鞄を持って階段を駆け下りていった。
「うーん…。こっちにしようかな…いや、やっぱりあっちかな…」
アスカは、さっきから2着の服を見比べてうなってばかりいる。
シンジは近くのベンチに座ってジュースを飲んでいるが、どうもアスカのことが気になって仕方がない。
どれくらい持たされるのか、しきりに気にしている様子だ。
なるべく軽く、そういう願いばかりがシンジの頭の中にあった。
「えーい、こうなったら両方!」
そんなシンジの願いに反して、アスカはどんどんと決めていく。
既に、店に入ってから10分で5着。
「はぁ…」
陽気なアスカの声とは裏腹に、シンジの心はだんだん暗くなっていくのだった。
ちなみに、レイは。
シンジの隣りに座って、少し赤くなってうつむいている。
(碇君が隣にいる…。うれしいけど、恥ずかしい…。どうして?)
「目標、3階Aブロックにて発見。」
先程の男が、携帯電話に模した無線機に話しかける。
その服装からは、全く普通の青年にしか見えない。
だが、彼の体格が、そして何より雰囲気がただものではないと感じさせていた。
『了解。待機せよ。』
「はい。」
右手に持った無線機をポケットにしまうと、そのまま男はぶらぶら歩き始めた。
ポケットの中の手は、無線機とは違う、何かの機械を掴んでいた。
カチリ
親指が、ダイヤルを回す。
そして、安全装置を解除する。
(あとは…)
目標が、動くのを待つだけだ。
「よーし、これも買っちゃえ!」
アスカがカゴに、またも服を放り込む。
すでに、10着を超えている。
(あああ…だんだんと重くなる…)
シンジは気が気でない。
だいたいアスカが服だけで済むはずもないので、シンジは経験から服の重量の3倍位と見ていた。
また、それは結局シンジが全て持つことになるわけだ。
(アレくらいだから…。ああ、荷物全部持って歩いたら沈んじゃうかも…)
「はぁ…」
そう考えて、シンジはため息をつく。
さっきから、相変わらずこればっかりだ。
(碇君と2人きり…ポッ)
…だとかなんとか考えて沸騰しかけているレイのことも、気に留めていないらしい。
レイが、ちゃっかりシンジの手を握っていても、まったく気づいていない。
(…ん? ちょっと待てよ。『沈む』…)
どうやら、いいアイディアが浮かびかけたらしい。
こういうときばかりは、シンジの頭脳がフル回転する。
そして。
「そうだ!」
思わず、シンジは手を握って立ち上がる。
(え?)
突然手を引っ張られて、レイは戸惑ったが、シンジが手を引いたのだと分かると、さらに顔を赤くする。
(碇君が、私と一緒にどこかへ行こうとしてくれているのね…)
相当な勘違いなのだが、端から見ているとどうしてもレイと同じように見えてしまうようだ。
「!?」
周囲の視線が、一斉にシンジに集まる。
「う゛…」
シンジは、後頭部に巨大な汗を浮かべながら固まってしまった。
「ちょっとちょっとちょっと!」
アスカが、つかつかと歩み寄ってくる。
「アンタたち、アタシだけ残して2人でどっかへ行こうとしてたでしょ!」
「し、してないよ!」
「じゃあ、なんでちゃっかり手なんか握りあってるのよ!!」
「手…?」
アスカに言われて初めてレイと手をつないでいることに気づくシンジ。
レイは、相変わらずもじもじしていた。
「あ、ご、ごめん!」
シンジは真っ赤になって手を離そうとするが…
「いいの、このままで…」
レイは、相変わらず頬を赤く染めながら言う。
(きゃっ、言っちゃった…)
「綾波…」
「碇君…」
バックにバラが…と思った瞬間。
「あのねぇ! アンタが良くてもアタシは良くないの!」
アスカが飛び込んできた。
「…どうしてそういうこと言うの?」
「アンタばっかずるいわよ!」
そう言うと、アスカはシンジのもう一方の腕を握った。
「ちょ、ちょっ…アスカ…」
「シンジはアタシのよ!」
「違うわ。碇君は私のものなのよ。」
「アタシの!」
「私の!」
しばらくにらみ合っていた2人は、突然引っ張り合いを始める始末。
これにはさすがにシンジも困った。
観客はひそひそ話を始めてしまう。
しかし。
「いたい、痛いってば! やめてよアスカも綾波も!」
「ファースト、シンジが痛がってるわよ! アンタ離しなさい!」
「いやよ。弐号機パイロットこそ離せば。」
「絶ッッッ対に、い・や!」
「イタタ、痛い痛い!」
シンジの抵抗も空しく、争いはエスカレートするのみだった。
ちなみに、
「をっ、『大岡裁き』!」
…と観客の誰かがつぶやいたかどうかは定かでない。
「イタタ…」
「大丈夫、碇君?」
「フン!」
結局勝負はつかず、冷静になってくると周りの視線が恥ずかしくなって2人は引っ張り合いをやめた。
その後、アスカは憂さを晴らすかのように買いまくる。
シンジの荷物が更に増えることは確実であった。
ちなみに言っておくと、シンジのさっきの思いつきはその後の騒ぎで一旦きれいに消え去ることになったという。
しばらくたった、ある時。
「…ねえ、綾波。」
「何?」
「トイレ…行って来てもいいかな?」
「ええ…」
(トイレ…ポッ)
レイ、妄想モードに突入。
なんか、さっきから暴走しまくっているような…。
「じゃ、じゃあ行って来るから。」
「待ってるわ…」
うつむいたまま、か細い声でそれだけ言うレイ。
いつもと何か雰囲気が違う。
そのに、逃げ出すようにしてトイレに向かうシンジだった。
「…ねえ、ファースト。シンジは?」
そんなところへ、アスカが会計を終えて出てくる。
その両手には、大きな紙袋。
辺りを見回すアスカ。
「碇君なら…トイレ…(ポッ)」
真っ赤になっているレイの雰囲気には、アスカまでもたじたじ。
「そ、そう…。なら、ま、待ってないといけないわね…」
「ええ…」
「目標と、接触します。」
『了解。タイミングを外すな。』
「はい。」
男は、飲んでいたジュースの缶を捨てると、シンジに向かって歩き出した。
あと、数歩で目標と接触する。
男の右手に、力がこもる。
チャンスは一度きり。
シンジは、すぐそこに魔の手が迫っているとも知らずに歩いてくる。
あと、5m。
4m。
3m。
2m。
1m…
「やっぱり、人が多いよな…」
考えながら歩いていると。
ドシン
ほらぶつかった。
「あっ、す、すいません。」
「すみません!」
シンジと、男は同時に相手に謝った。
「すいません、よそ見してて…」
シンジが謝る。
「…あの、もういいですから。それより…トイレの場所、知りませんか?」
「トイレ、ですか。」
「はい。」
シンジが立ち上がる。
男も立ち上がる。
男は、右手をポケットから抜いた。
「あそこの通路を、右に曲がって…」
説明しているシンジの背中に、右手の機械をそっと当てる。
男の手が、ゆっくりとスイッチを押す。
バチッ!!
ものすごい音がした。
「それから、真っ直ぐ行くと…」
シンジは全く意に介さず、説明を続ける。
「な…」
男は、思わず後ずさった。
確かに、最大出力でやったはずだ。
男の持っていたのは、スタンガン。
最大出力にすれば、人間はもちろん、馬や牛でも簡単に気絶するほどのもの。
それを確かに受けておきながら、平然としているとは…
男は、自分の目が信じられなかった。
「? どうかしました?」
「な、なんて事だ…」
男の目は完全に怯えている。
カタン。
小型スタンガンが、男の手から落ちる。
落ちたときにスイッチが床で押され、火花が飛ぶ。
バチッ!
そして、床は黒く焦げた。
煙も発している。
「!」
それを見たとき、シンジの表情が変わった。
一瞬にして、男に視線を移す。
「ひっ!」
まさに、蛇に睨まれた蛙。
男は、ぺたんと座り込んでしまった。
「誘拐犯だ!」
シンジが男をさして大声で言い放つ。
「た、助けてくれぇ!」
男は、あわてて逃げだそうとした。
「・・・」
シンジが、わずかに指を動かす。
「ぶっ!」
瞬間、男は何もない空間にぶつかった。
鼻血を出して、仰向けにひっくり返る。
「…何事ですか!?」
監視員が2人、走ってくる。
「この人が、僕を気絶させて誘拐しようとしたんです!」
「何っ!?」
「これが、証拠ですよ。」
シンジは、そう言うと男の落としたスタンガンを拾って見せた。
スイッチを入れると、確かに火花が飛ぶ。
「よし。警察に連絡しろ。」
「はい。」
年輩の監視員が、もう1人に告げる。
若い監視員は急いで走っていった。
「大丈夫かい?」
「はい。」
「シンジ!」
「碇君!」
そこへ、荷物を持ったアスカとレイが到着。
「だ、大丈夫…だった?」
相当急いできたらしく、2人とも息が上がっている。
レイに至っては、涙目だ。
「う、うん。」
「シンジ、何されたの?」
アスカが、荷物を持ったまま歩み寄ってきた。
「スタンガンで…」
「大丈夫だった? やけどは?」
「ないみたい。」
「そう…よかった。」
…と。
「ん?」
床の焦げに気づくアスカ。
(この焦げ具合からして…出力1M(メガ)V位かしら。こんなもの、人間に使うもんじゃ無いわね)
「はい、退いて下さい。済みません、退いて下さい。」
警察が到着したようだ。
こうして、結局あの男は気絶したまま警察に引っ張られていった。
シンジは怪我も無かったので、すぐ帰ることが出来た。
帰り道で。
「ねえ、シンジ。」
「何?」
「…しっかし、よくアンタあれだけの電気受けて無事だったわねぇ。さすがね。」
「どのくらいだったの?」
「推定で1MVくらい。あんなの受けたら、人間だと良くてすぐ気絶、悪くすると死んじゃうわよ。」
「1MVね。…そのくらいじゃ、僕は何ともないよ。」
「どうして?」
「エヴァの電源、何Vか知ってる?」
「いいえ。」
「…1T(テラ)Vなんだけど。」
「いっ、1Tぁ!?…た、たしかに、それと比べたら1MVなんか雀のフンね。」
「アスカ、雀の『涙』。」
「い、いちいち細かい男ね!」
夕日に向かって仲良く歩くアスカとシンジの後ろには、長い影がついてきていた。
ver.-1.00 1997-07/23公開
ご意見・感想・誤字情報などは
VFE02615@niftyserve.or.jp
まで。
次回予告
波乱の幕開けであった1日目も無事終わる。
だが。
アスカとレイの、「女の戦い」に始まり、ゼーレによる誘拐未遂などなど、次には更なる波乱が待っていた。
あとがき
第5話・Bパートです。
またアクションが書きたくなってきたので、ちょっとだけ入れてみました。
でも、他に思いつかんのか、武器は(^^;。
とりあえず、1日目はこれで終わりです。
Cパートでは、2日目についてになります。お楽しみに!
<< 緊急告知? >>
第5話で休日の内容を終了させる予定でしたが、作っていくうちに構想が膨らんでしまい、5話だけでは終わらせられなくなってしまいました。
そのため、「休日」は、第5話・第6話の連続として書いていきます。
…某月某日の某監督みたいなこと言ってるなぁ…(^^;
Tossy-2さんの『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第5話Bパート、公開です。
ゼーレ。
秘密結社の選り抜き・・・ですよね?シンジ誘拐なんて大事を任されるくらいですから。
その選り抜きを全く問題にしないシンジの力。
考えてみればシンジは使徒とやり合って居るんですから、人間なんて屁ですよね(^^;
甘く見て、
あしらわれて、
気絶して、
警察に連れて行かれて・・・・
ゼーレの工作員、良い所無しでした(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
某監督の二の鉄を踏んだTossy-2さんに励ましのメールを!(笑)
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