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EPISODE:05 / Intermission
Aパート
And on the seventh day God ended his work which he had made;
And God blessed the seventh day, and sanctified it:
どことも知れない、闇の支配する空間。
だが、そこは完全な闇ではなく、少しだけの光があった。
その空間のどこかの場所。
そこには、中空に浮かぶホログラム・ディスプレイが数個。
ディスプレイには、各々一つずつ映像が映り、横には何やら文字が浮かんでいる。
その周りを取り囲むように、数個のモノリスが存在していた。
「SEELE SOUND ONLY」、そう書かれた、辺りと同じく漆黒の板が。
だが、それも映像に過ぎない。
この空間に存在するものは、映像だけなのだ。
実在するものは、何一つとして存在を許されない。
ここは、そういう場所だった。
ディスプレイの事に、話は戻る。
ホログラム・ディスプレイには、第16使徒との戦いの様子がいくつかの静止画像で映し出されていた。
まだ二重螺旋構造の時点のアルミサエル。
腹部を貫かれる零号機。
活動停止した弐号機。
そして、青白い光を全身にまとった、初号機。
実はもう一つ、ディスプレイは存在した。
そこに映し出されているのは、シンジの顔。
モノリスに目はないが、それらはまるで中央に映し出されている画像を見ているかのようだった。
「SOUND ONLY」とありながら、誰も声を発する気配すらない。
…と、「01」の番号を持つモノリスがふいに声を発した。
重苦しい声が、無限とも思われるような空間にこだまする。
「アルミサエルも、失敗したか。」
それを皮切りに、他のモノリス達が次々と声を立てる。
「残る使徒はあと一つのみ。」
「約束の日も近い。時間がない。」
「それまでには、全ての事を終えなければならん」
「エヴァシリーズはどうだ?」
「既に8体、予定通り用意されつつある。」
「…後は槍と初号機だな。」
「ああ」
「どちらも、早急になんとかせねばなるまいな。」
「しかし、尋常な手段では無理だぞ。」
「問題はない」
その声と同時に、今まで後ろに隠れていたシンジの顔のウィンドウが表に現れた。
シンジの顔は、普段通りの無表情。
黒い髪と、同年代の男子にしては白めの肌。
そんな中で、瞳だけが強い印象を放っていた。
赤い、瞳が。
ディスプレイには、細かな個人情報が記されている。
名前、年齢、出身、両親について、住所、性格、身体的特徴などなど…。
そこでは、白地に黒の無機的な表示がされていた。
だが、「身体的特徴」の項目に、丁寧にも色付きで強調された記述がたった一行だけ存在した。
「EVA-01」…。
「では、初号機を手に入れるためのシナリオはどうする。」
「私が作ろう。」
「…どういう方法で。」
「いくら初号機の力を持っていたとしても、所詮は14歳の少年だ。心理的に操作するのはたやすいことだ。…何か意見は?」
「・・・」
「…では、異存はないな?」
「よし。了解した。よろしく頼むぞ」
今度は、モノリスが、ディスプレイも一緒に消える。
音もなく。
そして空間は、「無」へと還った。
後には、何もない。
光も、音も。
「えっ? 休み、ですか?」
今はシンクロテスト後。
シミュレーションプラグから出たばかりのシンジは、ちょうど毎日の実験でうんざりしていたところをミサトに呼び止められた。
そして、休日の話を切り出されたわけである。
まだ着替えもしていない。アスカとレイは先に行ってしまったのだが。
「そうなのよ。3日くらい、どう? 久しぶりに取る気無い?」
確かに、休暇は久しぶりだ。
ここの所、第15・第16と明らかに人間を対象とした使徒が襲来して、そのせいでアスカとレイが危険な状況に追い込まれたりといろいろ起こっている。
そのため、万全の構えで、という言葉の下に毎日実験があるのだ。
アスカとレイはシンクロテストが終わると後遺症についてのチェック。まあ、チェックはいらなくなる日も近いのだが。
シンジは「とりあえず」シンクロテストとセルフコントロールのトレーニング。セルフコントロールの方は一応自主的だ。
おかげで、3人は学校が終わると毎日NERVに通い、家に帰るのが7時や8時はざらとくる。
これが毎日続くのである。
…まあ、使徒が来ないだけ良いことは良いのだが。
「はあ…取りたいですけど…でも、僕達パイロットが3人共いないと、困るんじゃないんですか?」
「大丈夫、大丈夫。」
「でも、もし万が一の場合は?」
「そしたら、シンちゃんが直行する事になるわよ。」
「え…まさか、僕1人で使徒と戦うんですか?」
「いえ、まあそうなったらアスカやレイにも急いで出てもらうことになるわね。シンちゃんはそれまで1人でなんとか間を持たせてくれれば良いだけよ。」
「それじゃ休暇とちがうじゃないですか。」
「それはそうなんだけど…」
ミサトは、不思議そうに少し首を傾げながら言った。
「…実はね、最初に『休暇を出そう』と言ったのは碇司令なのよ。」
「え、父さんが?」
「そう。…だけど、珍しいわよねぇ…使徒は来ない、ってことなのかしらねえ…」
「そうですね。」
シンジとミサトは、2人して首を傾げている。
不審げな表情が浮かんでいた。
と、そこへ冬月がやってくる。
「おや、どうしたんだね?」
2人の様子を見て、冬月は問いかけた。
「あ、副司令。」
「あの…ちょっと、いいですか?」
シンジが控えめに声を掛ける。
「ん? なんだ?」
「父さんが…僕達に休みを取れ、って言ったって、本当ですか?」
「ああ、そのことか…。私も理由はよくわからんのだが、本当だ。…まあ、このところ実験続きで忙しかったからだろうな。」
「…だそうよ。シンジ君、どうする?」
「どうする、って言われても…」
「碇がこんな事を言うのも珍しい。記念にどうだね、取ったら。」
冬月は、少し微笑んで言う。
(ど…どうしようかな…)
ますます困惑するシンジだった。
(どうしようかな…)
シンジは、まだ結論を出しかねていた。
そこに着替えを済ませたアスカ&レイが到着。
「あらシンジ、まだ着替えてないの?」
「え?…あ、アスカ。」
「ねえ、何かあったの?」
「い、いや。なんか、父さんが…僕達に3日位休暇を取らないか、って…」
「休暇、ですって!?」
「休暇…」
その言葉を聞いた途端、アスカとレイの目が怪しく光る。
シンジはまだ考え中のためほとんど上の空だ。2人の様子などまったく気にしてすらいない。
「…学校は行け、ってことだけど、訓練とか実験は休みになるって話だよ…」
と、そこでやっとレイとアスカに視線を移した。
そしてシンジはやっと2人の様子に気づいたのであった。
「…ふ、2人とも…?」
2人の変貌ぶりに怯えるシンジ。
自然に身体が数歩後ろへ下がる。
ミサトも数歩後ずさっている。
目の付近に影を作って小刻みに震えながら口元を「ニヤリ」と歪めて「くっくっくっ」と笑っていれば、誰だって怖いだろう。
(休暇…つまりは実験が休みって事よね。ということは…学校が終わったら早く帰ってシンジと「でぇと」でもしようかしらね…)
(休暇…実験がないこと…時間ができる…碇君とまた2人…お料理…ポッ)
「取るわ! 取る取る! 絶対取る!」
「私も、休暇、とります。」
アスカとレイは、食いつかんばかりの勢いでミサトに迫った。
更に引くミサト。
レイは相変わらずいつもの口調だが、その向こうには何かメラメラと燃える闘志のようなものが感じられた。
「シンジ(碇君)も取るわよね!?」
そして次はユニゾンでシンジに迫る。
「あ、いや、あの…」
「取るわよね…?」
「いや、その……うん。」
迫力に負けて思わずそう言ってしまうシンジ。
いくら変わっても、やっぱり性格は相変わらずだった。
「これで決まりね!」
アスカが言う。
「そ、そうね…」
その様子を冷や汗たらたらで見ていたミサトは、ひきつった笑いをしながら言った。
「そうか…なら、碇には私からそう伝えておこう。」
しばらく沈黙を守っていた冬月が声を出す。
「あ、はい。」
「…では、またな。」
そして、冬月は足早にその場を立ち去った。
「あ、そうだ。僕も着替えてきます」
「あ、私もしなきゃいけない仕事があったんだ」
シンジとミサトも逃げ出すように同じ方向に走っていく。
後に残ったアスカとレイは。
(弐号機パイロット…やはり、碇君狙いかしら…危険ね…)
(ファースト…やっぱりシンジ狙いね…何とかしないと…)
お互いを見つめ、バックには炎が燃えていながらにらみ合っている。
その視線の先では、まるで火花が飛んでいるかのよう。
…あな恐ろしや (^^;
NERV司令執務室。
ゲンドウがいつものポーズで机に座っている。
そこに、冬月が帰ってきた。
「碇…」
ポーズを全く崩さず、ゲンドウは聞く。
「どうした」
「…3人とも、休暇を取るそうだ。」
「ふっ、そうか…」
しばし沈黙。
そして、冬月。
「なあ、碇。」
「ん?」
「本当に…良かったのか? 老人達が…」
「それに関しては、問題ないと言っただろう。」
「…だが、何故こんな時に限って休暇を出そうとするんだ。間が悪すぎるぞ。」
「こんな時だからこそだ。老人達がシンジを狙っているのは事実だ。初号機の存在無くしては、人類補完計画は発動できんからな。」
「…しかし、だからといって街に出せば狙いやすくなるのではないか。」
「いや、むしろ街中の方が人混みがあって手は出しにくい。人混みの中で堂々と誘拐と行く訳もないからな。それに、この事は公にはできん事だしな。」
「だが、本部にいた方が警護も…」
「冬月。監査部がゼーレとつながっているのを忘れたか。」
「・・・」
「…つまり、監査部の手で誘拐の可能性もあるわけだ。むしろその方が質が悪い。」
「分かった…。だが、本当にそれだけか?」
冬月が聞く。
「いや。」
ゲンドウは至極あっさり答える。
「彼らもたまには休まんといかんだろう。」
「…まあ、それはそうだが…」
「つまり、休暇は当然のことだ。…第一、シンジに直に手出しをするような奴はよほどの常識知らずか無鉄砲だ。」
「それはそうだがな…」
冬月は、まだ納得しない顔をしている。
「…では、ファーストやセカンドはどうするのだ。シンジ君に手出しできんと知ったとて諦めるとは思えん。そうなれば、2人が危険にさらされるぞ。」
「それについても問題は全くない。」
「…なぜだ?」
「2人とも、休日中はシンジと共に行動することになっているが、これは好都合だ。シンジが全員守れるからな。」
「…なるほど」
冬月はふっと軽く笑った。
「どうした。」
「いや、あまりに細かいところまで気を配っているからな。お前らしくないと…」
「…悪かったな、適当で。」
「そういう意味ではないのだがな。…ところで、この計画はいつからあったんだ? これだけ細かいとかなり…」
「休暇を決めたのは昨日だ」
「・・・」
「理由の半分は今お前と話していて思いついた。」
「…相変わらず、か。」
「冬月、お前もな。」
めずらしく、司令執務室には長い会話が続いていた。
それが外に漏れることはなかったが。
…結局こうして、シンジ・アスカ・レイは、3日ほど実験が休みになったのである。
「碇はチルドレンに休暇を出したそうだ」
暗闇に、声が響く。
ゼーレの会議・再びである。
「まさに狙ってくれと言わんばかりだな。」
「いや、待て。奴のことだ。罠かもしれん。」
「しかし、約束の日は近いのだぞ。」
「そうだ。そのために初号機=サードチルドレンを回収しなければならん。」
「やむをえんな。たとえ罠だとしても、だ。」
「その為の計画はどうなっている。」
「現在、26通りのパターンがあるが、有効そうなのは5つ位だな。」
「では、穏便な方から、だな。」
「ああ。公に知れないようにしなければならんからな。」
「では、シナリオ通りに。」
「了解」
ゴウン…
風が吹くような、あるいはどこか遠くでエンジンがかかるような、そんな音がしてモノリスは全て消えた。
同時に、一瞬で。
彼らは、気づいていない。
全てゲンドウの目論見通りであることを。
シンジの力を甘く見すぎていることを。
とにかく、波乱に満ちたモノになるであろう休日の幕は、切って落とされようとしているのであった。
人々は、それぞれに思いを秘めてそれを待っていた。
ある者は、自分の好きな人を想い。
ある者は、平和を願い。
そしてまたある者は、戦乱を企み。
ver.-1.00 1997-07/22 公開
ver.-1.10 1997-09/26 修正版公開
ご意見・感想・誤字情報などは
Tossy-2@nerv.to
まで。
次回予告
ついに休暇1日目が始まった。
晴れた昼下がりに、街に繰り出すシンジ・アスカ・レイ。
だが、魔の手は確実にシンジに迫っていた…。
あとがき
いや、お久しぶりです。本当に(^^;
部活やらテストやらで忙しかったもので、更新に手間取ってしまいました。
さて、お待ちかねの(?)第5話では、予告通り3日間の休日がシンジ・アスカ・レイに与えられます。
平穏に過ごそうとする彼らですが…。
このあとは、続きを呼んでのお楽しみ!
では、第5話Bパート、こうご期待!
更新ポイント
・ 「がさつ」を「適当」に(^^;
Tossy-2さんの『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第5話Aパート、公開です。
シンジ達に与えられた含みのある休日。
ゲンドウvsゼーレ。
古狸と妖狐の化かし合いが始まりそうですね。
そういうドロドロした所とは別のアスカvsレイの戦いも序盤から激しい火花が(^^;
二人ともすっかり明るくなって・・・ううう・・・
嬉し涙が頬を濡らしてます(爆)
さあ、訪問者の皆さん。
感想メールを書いたことがありますか?
まだの人はこの機会にぜひ(^^)
長文は必要ないんです。 「一言」これだけで嬉しい物なんです!
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