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エヴァンゲリオン パラレルステージ

EPISODE:04 / Keep alive as a human being.

第4話


生きていく






Dパート



苦悩、そして


 『さよなら…』
 レイの声が頭の中で反響している。

 使徒の射程範囲外で、シンジは一度考えていた。

 (どうしたら…)
 シンジは悩み、そして焦っていた。
 早くしなければ、そう思い続けている。
 そうでなければ、レイは…

 さっきまで青かった空には、いつのまにか夕焼けがやってきている。
 だが、時間は経てど、状況は変わらない。
 使徒が攻撃してくるため、うかつには近づけない。
 再び説得するため回線を開こうとしたが、つながらなかった。

 (僕に出来ること、それは…)
 そして、シンジは数度目の結論に達した。
 同じ結論に。

 (…使徒を倒すことしかない)



 (そして、綾波を…綾波を助けるんだ! 絶対に…)

 そう決めると、シンジは再び使徒の射程範囲に向かっていった。
 すぐ使徒は向かってくる。
 再びシンジはそれを避ける。

 (使徒は邪魔だけど…きっとなんとかできる。…いや、なんとかしてみせる。僕には初号機の力があるんだから…!)
 そう自分自身を励まし、再び戦地に舞い戻ったシンジ。
 それを迎え撃つ使徒。

 しかし、シンジの状況は明らかに異なっていた。
 シンジは、今までのようにただ避けるだけではなく、なんとか突破しようと積極的に試みている。
 いろいろ試行錯誤するシンジ。
 だが、使徒はその攻撃をあるものは難なくかわし、そしてあるものは受けとめた。

 シンジの視界で、零号機が苦しそうに微動した。
 零号機は、全身が痙攣したようにときどき震えている。
 そしてまた、その時零号機は、ひときわ大きく動いた。
 腹の痛みをかばうかのように、苦しみに負けないように。

 その状況が、シンジには手に取るように分かった。
 だから、声に出さないまでもシンジは叫んだ。

 (綾波…綾波いぃっ!! だめだ! だめだよ!)
 ついに、シンジは感情を抑えきれなくなった。
 シンジの脳裏に、レイの姿が一瞬にしてフラッシュバックする。

 初めて会ったときの、包帯の痛々しいレイ。
 学校で見た、いつも1人のレイ。
 少し怒った表情のレイ。
…そして、笑っている、レイ…

 『さよなら…』
 さっき聞いた声。
 ずっと前にも聞いた言葉。
 哀しみを含む、別れの言葉。
 大きな哀しみが、シンジを飲み込む。

 「…あああぁぁぁっっ!!」

 心の底からわき出た感情は、叫びへと変わった。
 しかし、その叫びが口から出ることはない。
 代わりに、強く長い咆哮が、初号機の口から発せられた。

 天に向かって吠える、初号機。つまりシンジ。

 その胸の奥からは、強い鼓動が聞こえてきた。

 ドクン、と…。



 その頃。
 発令所は、またもパニックに陥っていた。

 突然の初号機の咆哮、そして地震。
 モニターが一瞬死んだ後、また戻る。
 センサーも一瞬作動しなくなるが、すぐ作動を始めた。

 「な、何!?」
 ミサトは、マコトの背もたれにしがみつきながら、問う。

 初号機から、高エネルギー反応です!
 マコトが答えた。

 「レベルは!?」
 リツコはマヤのディスプレイを覗き込む。

 だめです、計測不能。センサー計測限界を超えてます!
 マヤの悲鳴に近い報告。

 「予測値では…1.0×10…です…」
 マコトが、少し震える声でMAGIの予測データを読む。

 「1.0×10…」
 その報告に、リツコでさえ目を丸くして絶句した。

 「わかりやすく言うと、どのくらいなの?」
 ミサトはマコトに再び聞く。

 「それは…」
 考え込むマコト。
 代わりにリツコが答えた。

 「この地球と、そして月を一瞬にして消滅させることが出来るくらいのエネルギー、と言えば分かるかしら?」

 !!
 ミサトも、やはり絶句した。

 そんな彼らの後ろでは、冬月がゲンドウと小声で話していた。
 「やはり、S器官か…?」
 「ああ。」



 (これは…)
 戸惑いながらも、自分の中から無限に湧き出してくる波動をコントロールし始めるシンジ。

 (この力は…S器官か…)
 ふと、第14使徒との戦いを思い出したが、すぐ頭から消えた。

 …いける!
 シンジは、自身に満ちた口調でそうつぶやいた。
 その身体の周りには、第15使徒・アラエルを倒したときと同じような、青白い光が発している。

 動きの止まった初号機を、ここぞとばかりに狙う使徒だが、その強力なATフィールドは突破できなかった。
 何度も何度も繰り返し叩く。だが、所詮それは叩くだけに終わっていた。

 (待ってて、綾波…今、いくから…)



 「碇く…うっ!」
 初号機の咆哮が聞こえた次の瞬間、あの痛みが再びレイを襲う。
 そしてまたレイは意識をあの場所へと引き戻された。

 (いや…助けて碇君…助けて…)
 薄れ行く意識の中でレイは初号機の咆哮を聞きながら、レイはそう思っていた。

 (助けて碇君…助けて…たす…け…!)



 『…あなたは私を拒むのね。なぜ?』

 「碇君が、待っているからよ。」

 『そう。…でも、あなたは彼を捨てた。そして、私はあなたとひとつになる。』

 「・・・」

 『もう、あなたは何もできない。』
 再び口元を歪める嫌な笑いを浮かべる使徒。

 それに、ビクッとなるレイ。
 思わずレイは後ずさりする。
 使徒は、まるでそれをおもしろがっているかのように一歩一歩同じ距離を歩いて近づいてくる。

…ふと、レイの背中が硬いモノに当たった。
 後ろを振り返ったレイは、見えない壁のようなものを感じた。

 「…!」
 正面を向くと、使徒がそこまで迫っている。

 『言ったでしょ? あなたは何もできない。』

 いや…いや! 私、碇君と別れたくない! あなたなんかと一緒になりたくない! 助けて! 助けて碇君!

 その時。

 使徒の歩みが止まった。
 そして、使徒は苦しみ始める。

 『…ああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ…!』
 断末魔の悲鳴が辺りに響きわたる。

 今まで辺りを包んでいた闇が、赤くなり、青くなり。
 そして辺りが眩い光に包まれたかと思うと、レイの意識は現実に戻った。



 光の残像を後に残し、零号機に向かってまっしぐらに走っていく初号機。
 使徒は、なんとか初号機のATフィールドを突破しようとしているが、その真の力の前には及びもしない。

 …邪魔だ…っ!
 おもむろに、初号機が使徒を掴んだ。
 すると、見る見るうちに使徒は細くなり、ちぎれた。
 二つに分かれた使徒は、地面をのたうち回る。

 それを後目に、初号機は再び走り出した。
 零号機まで、もうすぐだ。

 その遥か後ろで、使徒の、零号機と融合していない方の切れ端が沈黙した。
 すっと、それは光を失う。
 後には、何も残らなかった。

 「綾波っ!」
 零号機のところにたどり着いた初号機は、零号機の腹の、使徒が融合している部分に左手を差し込んだ。
 そのまま、手に力を集中させる。

 すると、ほとんど一瞬のうちに零号機の表面から葉脈模様が消えた。
 それを確認して、初号機は使徒を一気に抜き去った。



 「碇君…!」
 嬉しそうな顔になるレイ。

 (助けに、来てくれたのね…)

 初号機が、その腹の、使徒が融合している部分に手の先をゆっくりと差し込む。
 レイは、モードDを、そしてイマージェンシーシステムを解除した。
 再び、通常システムに制御が移行する。

 そんな内に、レイは流れ込んでくるシンジの力を感じていた。

 (碇君の力が、入ってくる。使徒を、消してくれている…。とても、あたたかい…)

 レイの全身からも、零号機と同じように葉脈模様がすっと消えていく。
 とたんに精神的ストレスが出て、レイは眠りに落ちた。

 そしてその後すぐ、初号機の手によって、零号機から使徒は排除される。

 こうして、零号機は、レイは、使徒の呪縛からやっと解き放たれたのであった。



 抜かれた後しばらくビタンビタンとのたうち回っていた使徒だが、少し経つと空へと一目散に逃げていった。
 目標は…第三新東京市。
 その方向に、月は出ていた。

 すぐに初号機はそれに気づく。
 使徒の意図にも。

 (まずい…! アダムと接触させちゃなんにもならない!)

 何も持たないまま、すぐ投擲体制に入る初号機。
 だが、数歩の助走の内に、その手にはあのロンギヌスの槍が握られていた。

 たあぁっ!
 かけ声と共に、力一杯それを投げる初号機。
 槍は、使徒めがけて一直線に飛んでいく。
 月の光に照らされながら。



 ドシュッ!

 そして、使徒は槍に裂かれた。
 細い一本の身体の中心を。
 音もなく、光もない。ただ、使徒は…第16使徒・アルミサエルは、あっけなくも消えた。

 槍は、そのまま慣性に従って進み続ける。
 だが、その進路の前にディラックの海が出現した。
 その中に、槍は自分から入っていく。
 槍の姿が消えると、その黒い空間は再び姿を消した。

 そのディラックの海をコントロールしていた張本人…エヴァ初号機は、既にシンジの姿に戻っていた。
 空を、月を見上げているシンジ。

 「終わった…」
 その視線を動かさず、シンジはつぶやく。

 戦いの後の静けさの中、月は辺りをほのかに照らしていた。




本当の心、そして生きていくために


 ガコ…ン…

 レイの耳が、音を捉えた。
 その目を、少しの光が刺激する。

 レイの夢は終わり、現実へとその意識は戻った。ゆっくりと。

 「綾波。」
 その視界に映るのは、シンジの顔。
 信じられないぐらい優しい、シンジの。

 「碇君…」
 シンジを見つめるレイ。

…だが、ふとうつむいてしまう。

 「…どうしたの?」

 「…なさい。」
 レイは小さい声で言う。

 「え?」
 「ごめんなさい…」
 「ど、どうして謝るの?」
 「約束…。私は…私は碇君との約束を…」
 「そんなこと、もう…」
 「碇君とした約束だったのに、私は…」

 ポタッ…

 再び、プラグスーツの膝に水滴が落ちる。

 「あ、綾波。泣いてるの?」
 シンジが問いかける。
 レイは答えない。
 ただ、しゃくりあげる声が聞こえてくる。
 声がする度、肩が大きく揺れた。

 「ごめんなさい、碇君…。本当に、ごめんなさい…」
 ひたすら謝るレイ。

 (綾波…)
 そんなレイを、しばし驚きの表情で見ていたシンジは、優しくその肩に手を置いた。
 その行動に、レイが一瞬ビクッとなる。
 唐突に泣くことをやめたレイに、シンジが優しい顔で言う。

 「いいんだよ、もう。」
 「碇君…?」
 レイが、再びシンジの顔を見上げた。

 「もう、いいんだ…」
 「でも…」
 「…だって、綾波は、この通りちゃんと生きてるんだもの。」
 「・・・」
 「綾波は、ちゃんと約束を守ってくれたじゃないか。一緒に生きていこう、って。」
 「・・・」

 「だから、これからも、一緒に生きていこうよ。」
 「碇君…」
 「自分で生きることをやめるなんて、いけないよ。」
 「・・・」
 「…それに、いくら代わりはいても、この綾波は1人しかいない。僕にとっての綾波はね、今の綾波1人だけなんだ。だから…綾波には、ずっと生きていて欲しい。」
 「・・・」
 「今の綾波に、代わりなんかいない。本当の代わりなんか、誰もいないんだよ。」
 「・・・」
 「だから…精いっぱい生きていこうよ。みんなと、一緒に。」
 「うん…」
 レイは、小さい声でつぶやくと、再びシンジの胸に顔を埋めた。

 「碇君…私、怖かった。怖かったの…!」
 「もう大丈夫。大丈夫だよ。」
 シンジは、レイをなだめた。

 あとは、そのまま時間が経つ。



 しばらく経って、やっとシンジが動いた。
 エントリープラグから2人とも出て来たところで、シンジが言う。

 「…さあ、そろそろ本部に帰ろうか…。」
 「ええ。…だけど…」
 「ん?」
 「もう少しだけ、このままで…碇君のいない、私の家に帰る前に…」
 「・・・」

 (碇君…暖かい…)
 シンジの温もりを感じるレイ。それは、心の暖かさなのか。
 レイの心も、だんだんと暖かくなっていく。

 (碇君…私、精いっぱい生きる。だから、一緒に生きていきましょう…。みんなと一緒に…)
 レイは、心の中でそう思った。



第5話に続く

ver.-1.00 1997-06/27公開
ご意見・感想・誤字情報などは VFE02615@niftyserve.or.jp まで。


 次回予告

 シンジ達3人に与えられた、突然の休暇。
 喜んでそれを満喫するシンジ・レイ・アスカ。
 だが、そんな幸せに、黒い影が忍び寄る。

 次回、「休日」 この次も、みんなで見てね!


 あとがき

 第4話も終わりました。
 今回は、ちょっと長かったので疲れました。

 さて、次は5話と、そして待ってる人は待ってる番外編、設定資料集(T)です。

 設定資料では、僕や皆さんのちょっとした疑問に答えたりしようと思います。
 Tでは、1話から4話までと、キャラクタ設定などが盛りだくさん(かな?)。

 第5話は、とりあえず戦いはちょっとお休みにして、日常生活を描いてみようと思います。
 今まで重く書いてきた分をちょっとだけ発散しますので、どんな話になるか、乞うご期待!

 では、設定資料・第5話共に、お楽しみに!
 感想や素朴な疑問など、いつでも受け付けてます。
  ここまでどうぞ。


 Tossy-2さんの『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第4話Dパート公開です。
 

 別れる辛さに涙を流し、
 一緒に生きられることに瞳をぬらす。

 第16使徒・アルミサエルとの死闘の中で
 レイに生まれた物。
 それは今まで持っていながら表すことが出来なかった物なんでしょうか・・・・

 アスカとレイ。
 シンジを二人のチルドレンを無事、救いました。
 二人だけでなく、本編EVAで辛い思いをした私も。
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 Tossy-2さんに感想を送って下さいね。


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