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エヴァンゲリオン パラレルステージ

EPISODE:04 / Keep alive as a human being.

第4話


生きていく






Aパート



レイの想い


 ジーーワ ジーーーワ…

 一日の始まり。
 ここは、町外れのとある団地にある大規模なアパート。
 その一室に、レイは住んでいる。

 レイは、いつものようにセミの声で目を覚ました。
 いつもの見慣れた天井が目に入る。
 しかしレイは、そこにある顔を重ねて見ていた。

 碇君…



 「ふわ〜〜ぁ…。」

 同時刻、コンフォート17マンションにある葛城家。
 その中のある部屋で、碇シンジが目を覚ました。

 シンジは起きるとすぐ台所に向かう。
 毎朝、葛城家の朝食を作っているのは彼だった。

 「ふあ〜…。おはよ、シンジ…。」
 「あ。おはよう、アスカ。」
 ふいにかけられた声に、シンジは手を動かしながら振り返った。
 少し眠そうな顔をしたアスカが見える。

 「…ミサトは?」
 「まだ寝てるよ。」
 「そう…。今日は静かね。」
 「そうだね。」
 シンジは、再び作業に戻った。

 「さて、出来上がり…と。」

 「んんん…。なんかおいしそうな匂いが…。」
 ちょうど朝御飯の出来上がった頃に、ミサトが起きてくる。

 こうして、葛城家のいつも通りの朝は始まった。



 レイは、最近以前より少し早めに家を出るようになっていた。
 シンジを迎えに行くためだ。

 朝の涼しい空気を吸い込みながら、レイは歩いていく。

 (碇君…碇君は私と同じ、私も碇君と同じ…)

 朝焼けが消えかけ、そして青い空が一面に広がってくる頃の街中を進むレイ。
 その小さな足音が団地に整然と建っているビルとビルの間に小さく反響する。
 後ろには、まだ長い影がついてきていた。

 (それはうれしいことなのね…だから、私はこんなに碇君のことが気になるのね)

 今まで何度も出した答え。
 自然と出てくる答え。
 レイの脳裏に、しばらく前の、第15使徒との戦いがふと甦る。
 雨の街で使徒の攻撃を受けるアスカ・レイ。
 そしてそれを助けるシンジ…

 (あの時も、碇君は私を助けてくれた…苦しんでいた私を…)

 目の前に見える街に、人影は見えない。
 だが、時折聞こえるクラクション音などが、そこに人が住んでいるという事をうかがわせる。
 前回の使徒からもう2週間。
 人々の生活も、普通を取り戻していた。



 ピンポーン…

 チャイムを鳴らす。
 少しして、シンジの声が聞こえた。

 『はい、どなたですか?』
 「碇君、私よ…」
 『あ、綾波だね。ちょっと待ってて…』

 それから少しして、シンジが現れた。

 「綾波、おはよう。さ、ごはんできてるよ。入って入って。」
 「ありがとう…。」

 レイは、これまた最近ここで朝食をごちそうになっている。

 朝食なんて適当に食べている、と聞いたシンジが誘ったのだ。
 それに甘えて、レイは毎日通っている。
 また、シンジと少しでも長く一緒にいられるから、ということもある。
 当初は、当然ながらアスカは猛反対したのだが、結局シンジが何とか押し切ったのだった。

 そして、その日もここ十数日と同じく朝食を4人+1匹で済ませ、3人は着替えをして学校へと向かった。



 学校でも、相変わらずレイはシンジのことばかり考えていた。

 授業中、気が付くとシンジの方に視線が行ってしまっている。
 休み時間、シンジが他の人と話していると不安になったりする。
 昼食時、シンジの隣にいると、安心する。

 ただ、以前からぼーっとしているように見られていたのか、レイの様子が変わった、ということに気づく生徒はいない。

 (人を想うのって…辛い事ね…)
 レイは、慣れない初めての感情について、うすうすながらもそう感じていた。
 だが、それを打ち消すぐらいの強い力が「想い」にあることも、何となく分かってはいた。

 そして、そんなこんなの内に時間は過ぎていく…。



 もう、放課後だ。

 今日1日何をやっていたのか、と問われればレイは答えに詰まるに違いない。
 シンジのことを気にしてばかりいて、何をやっていたのかというようなことはほとんど覚えていない。

 その日は運良くアスカが週番だったため、レイは案外簡単にシンジに近づくことができた。

 「碇君…」
 「なに?」
 「実は…今日…」
 レイは、言いながら白い頬をほんのりと赤く染める。

 「一緒に、街に行きたいの…」
 「え、どうして?」
 「本を…買いたいの。」
 「…どんな?」
 「お料理の、本…。それで…あまりたくさんあって、わかりにくいから…どの本がいいか教えて欲しいの…」
 「・・・」

 「…だめ?」
 少し心配そうな顔で聞くレイ。

 「ううん、別にいいよ。今日は特に実験とかないし。」
 「よかった…」

 「…ところで、綾波。お料理したことある?」
 「いえ、ないわ…」
 「ふーん…じゃあ、初めてなんだね?」
 「うん…」
 「…それなら、本を見るより僕が教えてあげる。その方がわかりやすいと思うよ。」
 「碇君…」
 レイはシンジの申し出に、少し意外そうな顔をした。

 「…ありがとう…。」
 しかし、その顔はすぐ微笑みに変わる。

 「じゃあ、早速行こうか。」
 「うん…」
 レイは、小さく頷いた。

 「…まずは買い物してから、だね!」
 シンジは言いながら歩き始めた。
 レイは、すぐシンジの後を追う。

 そして、2人は教室を出ていった。



 シンジとレイは、買い物をしてからレイの家に向かった。

 「…さて、まず基本の卵焼きだけど…」
 幸い調理用具は一式あったため、着いてから10分程でシンジは説明を始めることができた。

 ジュウゥゥ…

 その背中の向こうから、おいしそうな音が聞こえてくる。
 レイは、シンジのその手つきを真剣に見ていた。

 包丁の使い方や油の量などなど、わかりやすいように教えるシンジ。

 さすが、伊達に毎日の家事をやっている訳ではない。
 調理実習の時も、シンジは一般男子などは言うに及ばず、女子顔負けレベルの物を毎回作るので、生徒たちの間でも、先生達の間でも相当評判がいい。
 当然味の方も定評がある。

 しかしそんな中で、不幸というのは起こるべくして起こるものだ。
 「猿も木から落ちる」「かっぱの川流れ」「弘法も筆の誤り」というように、いくら プロでも失敗することはたまにある。

 「…あ痛っ!」
 「碇君!?」

 シンジの指には赤い筋が一本走り、そこからは血がぽたぽたとたれていた。
 数滴の赤い滴が、流しを流れる水に溶けていく。
 レイにとって、それはショッキングすぎる光景だった。

 生への執着が薄かったとはいえ、怪我をするということにレイが少なからず恐怖を感じていたのも事実。
 しかも自分ならともかく、大切な存在であるシンジが怪我をしてしまったため、出血量が多く見えてしまったらしい。
 みるみるうちにレイの顔が青ざめる。
 明らかに動揺しているその顔。

 「あ、綾波…大丈夫だよ。指、切っちゃっただけだし…」
 シンジは、なだめようとなんとか努力するが、ほとんど耳に入っていない様子。

 碇君!
 そして突然、レイはシンジにすがりついた。

 「え、な、何?」
 予期しない行動に、シンジはうろたえる。

 「碇君…死んじゃいや…私を1人にしないで…」
 「え?…大丈夫だよ、これくらい。そんな、死ぬなんて大げさだよ、綾波。」

 落ちついて考えれば確かにどうってことないのだが、本気で心配するとそういう判断はまるっきり効かなくなってしまうものだ。ことに、好きな人のこととなっては。

 「本当…? 碇君は、私とずっと一緒にいてくれる…?」
 「え…う、うん。」
 「よかった…。」
 「綾波、心配しないで。…僕は、いつも綾波と一緒にいるから。」
 「ありがとう…」

 レイは、少し安心して立ち上がると寝室から包帯を持ってきた。
 レイがそれを差しだす。

 「碇君、これ…」

 だがそんなこんなの内に、もうシンジの怪我は傷跡など少しも残さず治っている。
 「あ、ありがとう…でも、もういいよ。治ったから。」
 「ううん、いいの。これは碇君に持ってて欲しいの。そして、いつか使って…」
 「そう?…じゃ、もらっておくよ。」
 「うん。」
 2人は、お互いに向かってにっこりと微笑んだ。

 しかし、そんな平和でほのぼのとした時間は終わりを告げる。

 ピピッ!

 シンジの腕時計がアラームを鳴らした。
 ふと外を見ると、もう夕焼けもそろそろ消える頃で、空は薄暗くなっている。

 「あ、もうこんな時間だ。そろそろ帰らないと。」
 残念そうな表情をして、シンジは片付けにかかった。
 レイも、少し落胆の表情を浮かべながらそれを手伝い始める。



 「ごめん、少ししか教えてあげられなかったね…」
 「いいの…。私、初めてだからこれだけでも十分。」
 「・・・」
 「それに、また今度教えてもらえれば…」
 「…そうだね。」
 片付けを終えた2人は、玄関に向かう。

 「…じゃあ、綾波。…またね。」
 「また明日…」
 帰っていくシンジ、そしてそれを外に出て見送るレイ。

 シンジの姿が見えなくなると、レイは少しうつむいて家の中へ入った。
 そこには、電気のついた自分以外誰もいない部屋がある。

 (碇君…。やっぱり、私は1人なのね…)

 ふと寂しくなったレイだが、さっきのシンジの言葉を思い出す。

 『僕は、いつも綾波と一緒にいるから…』

 (碇君、ありがとう…。私も、いつも碇君と一緒にいるから…)

 レイの心は、ほんの少しだけ、暖かくなった。



 そのしばらく後、シンジは。

 「遅かったじゃない! 何してたのよ!?」
 「いや…綾波が料理を教えて欲しいって…」
 「んもう、どうでもいいからアタシはおなか空いたの! 早くご飯にしてよ!」
 「はいはい…」
 「…でもどうしてこないだみたいにして帰ってこないのよ。あっちの方が、早いんでしょ?」
 「しかたないよ。だって、夜だと目立つし…」
 「ふーん…」

 とにかくシンジは支度を始めた。
 シンジがキッチンに立ってすぐ、トントンと小気味のいい音が聞こえてくる。

 だが、途中でアスカがまた余計なことを…。

 「シンジ?」
 「何?」
 「…ファーストと変なコトしなかったでしょうね?」

 ザクッ

 一瞬、場が凍り付く。
 そして。

 「…ぎゃあぁぁぁっ!」
 再び手にキズを作ることになってしまったシンジ。ただし、ほんの10数秒ほどの間だけだったが。

 「い、い、いきなり何を言うんだよ!?」
 「それであわてるって事は…ますます怪しいわね。」
 「変なことって何だよ!…それに、包丁使ってるときに邪魔するようなこと言わないでくれよ! 危ないじゃないか!」
 「何言ってるのよ、傷なんかないじゃないの。騙されないわよ!」
 「もう治ったんだよ!」
 「早すぎるわよ!」
 「しかたないだろ!? 僕はこれで普通なんだから! それに、それは僕のせいじゃないし…」
 「あんたのせいよ!」
 「ひ、ひどいよ!」



 「ただいま〜…ん?」
 そこにミサトがちょうど帰ってきた。

 台所の方が何か騒がしい。

 『だいたいいつもそうやって…』
 『そんなんじゃないわよ!』
 等々、威勢のいいケンカが聞こえてくる。

 (あーら、またやってるわね。まったく、しょうがないんだから…)

 一応そう思ったが、あの性格がそれを止めるわけもなく、ただひたすら傍観者に徹していた。
 結局、シンジとアスカは延々と口論を続け、シンジが支度に戻ったのはアスカの爆弾発言から優に30分が経過した後である。

 かくして、その日の夕食は予定より大幅に遅れたのだった。



Bパートに続く

ver.-1.00 1997-06/24公開
ご意見・感想・誤字情報などは VFE02615@niftyserve.or.jp まで。


 次回予告

 再来する使徒。
 出撃する3体のエヴァ。
 だが、零号機は使徒に浸食されていく。
 そんなとき、シンジは? アスカは?


 あとがき

 3話を終えた直後、風邪を引いてしまいました。
 今年の風邪は結構長引きます。皆さんも注意しましょう。

 さて、内容についてですが、今回はもうまんまですね。
 特に補足事項は無いです。
 4話が終わったら設定資料集を出そうと思っています。どうぞお楽しみに。

 感想など、お待ちしています。



 Tossy-2さんの『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第4話Aパート、公開です。
 

 前回までで復活したシンジはアスカの心を救いました。
 そして今度はレイの心を・・・・

 同じ台所に立ち、
 同じ時間を過ごす。

 そして、「一緒にいるから」
 レイだけでなく、私も心も温かくなりました。
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 Tossy-2さんに貴方の感想を!!
 短い一言でもいいんですよ!


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