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エヴァンゲリオン パラレルステージ

EPISODE:03 / Am I really needed?

第3話




価値は?



Bパート



アラエル、襲来


 「状況報告して。」
 「はい。パターン青、衛星軌道上に突如出現しました。」
 「衛星からの映像、出します。」

 すぐ、画面が切り替わる。
 「Search Satellite #25」と書かれたウィンドウには、光る鳥のような形をした使徒が映し出されていた。

 「使徒は、現在地球の自転にあわせて移動中です。」
 「相対的にみると、移動速度はあまり速くないわね。」

 そこに、着替えを済ませたパイロット3人がやって来る。

 「アスカ、レイ。すぐ出撃よ。搭乗して。」
 「はい。」
 「わかったわ。」

 アスカとレイは、ケイジに走っていく。

 「あの…、僕は…?」
 「シンジ君は、一応ここで待機してて。」
 「はい…。」

 そんなことをやっている間に、オペレータから報告が入る。

 「零号機・弐号機、発進準備できました!」
 「了解。…アスカ、準備いい?」

 その声に反応して、メインモニターにアスカの顔が表示された。

 『いつでもいいわよ。』

 「レイは?」

 今度はレイの顔が表示される。
 二人とも、表情は真剣そのものだ。

 『準備、いいです。』

 その答えを確認するように、そして自分自身覚悟を決めるように少し待った後、ミサトは言った。

 「零号機・弐号機、発進!」

 バチッ!

 カタパルトにスパークが走り…弐号機と零号機が地上に向かって送り出されていく。

 モニターに映る光点が上昇して行くのを見ながら、シンジは呟いた。
 「綾波、アスカ。がんばって…」

 それは、ミサトにしても同じだったが。



 『目標が射程内に入ると同時にポジトロンライフルで狙撃。いいわね?』
 ミサトが作戦を伝える。

 無言で、それを承服するアスカ。

 ポジトロンライフルを持つ手に、心なしか力がこもる。
 長距離射撃用のモニターを見ながら、アスカは待っていた。

 しかし、なかなか使徒が射程内に入る気配はない。

 アスカは、トリガーから手を外し、2・3回握ったり開いたりする。
 数十秒が、数時間に感じられる。
 自分の呼吸が、やたら大きく聞こえる。

 そんな中で、
 「…もう! じれったいわね!」
 小声でそうつぶやいた、そのとき。

 モニター内の一点に過ぎなかった使徒が、虹色の光を放った。
 雨の町に、その光はまっすぐ差し込んでくる。
 雨雲など、ないがごとく。

 「きゃああぁぁぁあぁあぁあぁあぁ!」
 それと同時に、アスカは頭を押え、プラグ内にうずくまった。

 何かに、心の中を覗かれる感じ。
 何かが、心の鍵をこじ開けて入って来る感じ。

 心の奥底に閉まっておいた、忌まわしい記憶が蘇って来る。

 「やめて! 心を覗かないで! 私の心を犯さないでえぇぇっ!」
 ありったけの声で叫ぶアスカ。

 弐号機も、その苦しみが伝わっているのか、奇妙な動きをしている。

 ギギ…ギ…

 あちこちの関節が、異常な音を立てた。



 一方、こちらは発令所。

 蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。

 「一体何が起きてるの!?」
 「わかりません! MAGIは解答不能を示しています。」
 「危険です! 弐号機パイロットの心理グラフが乱れています!」
 「精神汚染、Yに突入しました!!」

 次々となされる状況報告。
 その中に、一つとして喜ぶべきものはない。
 絶対的な絶望…。

 レイ!
 ミサトが言う。

 無言でそれに答え、使徒に向けてライフルのトリガーを引くレイ。

 最大出力のポジトロンライフルから、一筋の光が使徒に向けて延びていく。
 だが、使徒のしばらく手前で、その光は四散した。

 だめです! この長距離でATフィールドをも貫くには、まるでエネルギーが足りません!

 さらには、使徒が零号機に気づいたようで、零号機にも光を浴びせる。
 するととたんに、零号機もその動きを硬直したように止めた。
 レイの顔に苦痛が浮かぶ。

 「…う…うっ…」
 苦しみの声が、レイからも漏れた。

 「レイまで…」
 発令所の人間全てが息をのむ。

 もう、後がない。



 そんな絶望的な状況下の発令所に、小走りの足音が響く。
 その主は…シンジ。
 シンジは、今まさに駆け出したところだった。
 アスカを、レイを助けに行くため。

 だが、ミサトはとっさにシンジを止める。

 「ミサトさん!? 放してください!」
 「だめ、シンジ君! 何をする気!?」
 「決まってるじゃないですか! 2人を助けに行くんです!」
 「だめよ! そんなコトしたら、あなたまでああなるかも知れないのよ!」
 「でも、早くしないと2人が…アスカと綾波が、壊れちゃいます! そうしたら、2人は死んじゃいますよ!」
 「それは分かってるわ! でも、その前に状況を判断することが…」
 「今は何とか僕が押さえてるんです。それでも、2人にあれだけの影響を与えてるんですよ!」
 「えっ!?」
 「ここは、遠すぎます。ATフィールドを離れたところから操作するには、かなりなエネルギーが必要です。いくら僕でも、今はあれが限界なんです。」
 「・・・」
 「だから…行かせて下さい。きっと、戻ってきますから…」

 シンジの訴えかける赤い瞳。
 ミサトは、ゲンドウの方を見た。
 それを待っていたかのように、ゲンドウは口を開く。

 「行かせてやれ、葛城三佐。」
 「…はい。」
 ミサトは、シンジから手を離した。

 そのまま、ゲンドウは続ける。
 「…シンジ。」
 「はい」
 「行って来い。」
 はい!

 しっかりした口調でそう答えると、シンジは駆け出していった。出口に向かって。
 しばらく、ミサトは反響するその足音を聞いていた。

 (シンジ君…)



 「いや…いや…もうやめてぇ…私の心を…犯さないでぇ…」
 アスカは、さっきまでの叫び声とは全く対照的に、泣きじゃくっていた。
 幼い頃に心の奥底に封印した記憶。
 それが呼び起こされていく恐怖に、アスカは耐えられなかったのだ。

 だが、それもつかの間のこと。

 時間が経つにつれて、次第にその嫌な感じが無くなっていく。
 侵入者が、消えていく。

 そして、完全に消えた時。

 ヴンッ!

…と、通信ウィンドウが開いた。
 「SOUND ONLY」、と表示されたそのウィンドウのIDは、「EVA−01」…。

 そこからは、聞きあきるほどよく聞いている声が聞こえてくる。

 『アスカ!』
 「シンジ…?」
 『大丈夫? アスカ。…
 「え…ええ。もう、大丈夫よ。」
 『そう、よかった…。ところで、アスカ。』
 「なに?」
 『とりあえず、アスカは発令所に戻ってて。僕は、これから使徒を倒しにいかなきゃならないから。』
 「え? …ア、アタシも行くわ!」
 『…いや、近づけば、また精神汚染の危険がある。…アスカを、またそんな目に遭わせたくないよ。』
 「シンジ…」
 『だから、早く。』
 「うん。」

 アスカは、そう答えるとすばやくシンクロを手動でカットする。
 そして、エントリープラグを排出した。

 ブシュー…

 LCLが勢いよく噴き出し、続いてハッチが開いた。
 アスカがそこから身をのり出すと、そこにはシンジが待っている。

 「さあ、アスカ。」
 シンジが手をさしのべる。

 「・・・」
 アスカは、少し微笑んでそれを掴む。
 お互いの手の温もりが伝わった。

 「…さ、しっかりつかまって…」
 「うん…」
 珍しくも、大人しく従うアスカ。

 (変わったね、アスカ…)
 シンジは、そんなアスカを見ながらそう感じていた。

 「…いい?」
 「うん…」
 アスカは、しっかりとシンジにつかまってそう答える。
 シンジもアスカの肩をしっかりと抱く。
 そして、2人は移動を開始した。
 地下通路の入り口へと。

 「さて…次は綾波だな。」
 地上に降り立ったシンジは、アスカを送り出すと、1人つぶやいた。
 雨は、もうあらかた止んでいる。



 「あ…う…」
 レイも、思わず声を立てていた。
 なぜ声が出たのかは分からない。

 (私の中に…入ってくる…)

 (誰…? 誰…? あなた、誰?)

 そう考えている間にも、使徒の光は零号機を、そしてレイを蝕み続けている。

 (いたい…心が。…怖いの、私は?)

 (どうして? 私には、何も無かったはずなのに…)

 (そう…碇君のおかげね…。碇君が私に…心をくれた…)

 (…碇君…)
 その心の声は、レイの心の中で反響し、次第に大きくなっていく。

 「碇君…」
 ついに口に出して言うレイ。

 ちょうどその時。

 零号機の視界に、1人の少年が入った。
 彼は、使徒の光線から零号機を守るように立ちはだかる。
 彼の前に一瞬だけ光の壁が見えた。壁は、すぐ不可視になる。
 それが、レイの心をがんじがらめにしかけていた鎖を一気に破壊した。
 そこにいる「彼」は…、彼の名前は…

 「碇君…」
 レイが再びつぶやく。

 その声に、シンジが振り返った。
 シンジは、いつものにこやかな顔をしていた。



 「綾波が無事で、本当によかった…」
 「碇君、ありがとう…」

 シンジとレイは、今通路の入り口に向かっている。
 見ると、入り口には既に医療スタッフが待ちかまえていた。

 「…じゃあ、お願いします。」
 レイを彼らに任せたシンジは、再び街の方を向く。
 その後ろで、レイが運ばれていく。
 使徒の光も、目標がいなくなったのを知ると、どうやらやんだようだ。
 街は、元通り薄暗い。

 シンジは、雨上がりの地面を一歩ずつ歩き始めた。

 (ありがとう、感謝の言葉。私は助けられた。碇君に。だから、碇君に感謝するの)
 レイは、担架の上で手を胸のところで組み、目を閉じた。
 そして、小さな声で祈りを捧げる。
 「碇君…がんばって…。」

 (碇君、私はこれくらいしかできないわ。でも、私は知ってる。碇君は絶対に帰ってくる)
 再び、レイは目を開いた。



 しばらく来ると、シンジがふと立ち止まった。
 そして、使徒がいるであろう空をにらむ。
 その視線の先の空には、雨は止んだものの、まだ黒い雲がかかっていた。
 そのため、使徒の姿は確認できなかった。
 だが、その方向にいる、というのは分かる。

 「…よし」
 決心して、シンジは静かに目を閉じた。

 ドクン…

 胸の奥から、心臓とは違うもう一つの鼓動が聞こえ出す。

 ドクン…

 もう一回。

 ドクン…ドクン…

 その音は、だんだんと高まっていった。
 それに伴い、シンジの身体の周りをぼうっとした白い光が覆う。

 十数秒の時間が流れる。

 シンジが目をかっと見開いた。
 同時に、光が更に輝きを増し、まるで爆発でもあったかのように広がっていく。
 そのすさまじさは、発令所のモニターがホワイトアウトしたことでもわかるだろう。

 「な、何が起きたの!?」
 発令所で状況を見ていたミサト達は、一瞬何が起こったのか理解できずにいた。

 だんだんと映像が戻ってくる。
 モニターが完全に元に戻ったときその中にいたのは…。



Cパートに続く

ver.-1.00 1997-06/14公開
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 次回予告

 使徒に向かっていくシンジ。
 だがしばらく経った後、彼に残ったのはエネルギー切れのポジトロンライフルだけだった。
 使徒の攻撃が、再び始まる。


 あとがき

 Bパート、終了です。

 いやー、心理描写というのは難しいですね。
 僕は結構文体にこだわる方なので(例えば、「…した。」「…だった。」など、同じ文末の繰り返しを嫌ったりします。…気づいてました?)、更に難しくなってしまいます。
 Cパートでは、アスカを補完しようと思っています。
 「このままアスカは壊れるのではないか」という不安を持った人もいるかも知れないので、宣言しましょう。
 この小説は、暗黒にはしない…つもりですから。
 元々、僕自身「暗黒」はあまり好きでないので。

 Cパート、乞うご期待!


 Tossy-2さんの『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第3話Bパート公開です。
 

 アラエル。
 本編ではアスカの心を犯し尽くしたクソ使徒(^^;

 ここではシンジがその力を持って彼女を救いました。
 アスカの方も素直に彼の言葉に従い・・・・心に余裕が生まれていますね。
 

 次回はいよいよクソアラエルとシンジの決戦!
 シンジ、ケッチョンケッチョンのグズグズにやっつけちゃえ!!(^^;

 さあ、訪問者の皆さん。
 心理描写に戦闘と難しいシーンを書いているTossy-2さんに貴方の感想を!


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