【 TOP 】 / 【 めぞん 】 / [Tossy-2]の部屋/ NEXT
EPISODE:03 / Am I really needed?
Aパート
「ありがとな…、シンジ…」
シンジの姿は、もう見えない。
だが、トウジはそのまま窓辺にたたずんでいた。
そんなとき、ドアがノックされる。
「はい、何でっしゃろ」
トウジは、振り向いて答えた。
『回診です。』
外からは、そう声が聞こえた。
いつもの看護婦さんらしい。
「はい、どうぞ入って下さい」
再び視線を窓の外に戻して答える。
プシュッ!
エア音につづいて、ドアが開く。
いつも通り入ってきたいつもの看護婦は、そこで信じられないものを見たのだった。
トウジが、昨日まで左足の無かったトウジが窓辺に立っている。両足で。
「! 鈴原…君!」
驚きの表情のまま、何とか名前だけを呼ぶ。
「はい?」
「足…」
「足?…ああ、これでっか? もう、治りましてん。」
笑顔で言うトウジに、看護婦は外へ飛び出していった。
「先生! 先生〜!」
彼女は、主治医を呼びにいったのだった。
「信じられん…ちゃんと治っている…」
さっきの看護婦に、朝食のところを引っ張ってこられたトウジの主治医が言う。
昨日までは、確かに無かったのに…
トウジの左足は、ちゃんと主であるトウジの意識通りに動くし、検査をしても組織自体にも問題はない。
…それはそうだ。シンジ…いや初号機が作ったのは、トウジの遺伝子から再構築した「完全な」コピーなのだから。拒絶反応などは起こるはずもない。
「しかし…誰がこれを?」
「すんません、言えんのです…約束で。」
「そうか…」
「ホンマ、すんません…」
(現代最先端の医学でも治らなかったのに…一体誰なんだ?)
「…しかし、よかったじゃないか。この状態なら、今日にでも退院できるよ。」
医師は、表情を明るくして言った。
…と、そこへ、もう1人看護婦が駆け込んできた。
ナツミを連れて。
「ナツミ!」
「お兄ちゃん!」
「…や、山田君。どういうことだね!?」
「あ、先生…実は…」
山田と呼ばれた看護婦は、状況を説明した。
今日の朝回診に行ったら、ナツミの怪我がなぜか良くなっていたこと。
元気なので、今日にも退院できるだろうとの先生の判断があったこと。
「兄妹そろって、か…」
再会を喜び合う2人を見ながら、医師はつぶやいた。
…結局、トウジとナツミは、その日の内に退院することになる。
一方、帰ってきたシンジは。
「もう! こんな時間まで何やってたのよ!」
「ご…ごめん…」
「全く…。ほら、早く朝御飯作りなさい!遅刻しちゃうわよ!」
「わ…わかったよ…。」
アスカの剣幕に、シンジは大人しく台所へ向かった。
こういうときは逆らわないのがベターだ。
忙しく手を動かしているシンジに、アスカが言う。
「…シンジ。」
「なに?」
「アンタ、一体さっきまでどこ行ってたの?」
「…いや、ちょっと…」
シンジは一瞬手を止めて、答えにくそうに言った。
「ふーん。…やっぱり、鈴原のところ?」
「ど、どうして…」
「やっぱりね。昨日あんなに思いつめたような顔してたら、誰だって分かるわよ。」
「そう…。」
「…でも、何しに行ったの?」
「・・・」
「ねえ。」
「…トウジの足と、ナツミちゃんを治しに。」
「治しに、って…アンタまさか!」
「うん…。」
「どうすんの? 部外者にバレるとまずいわよ。」
アスカの指摘は確かに正しかった。
シンジの能力は、普通の人間のものではない。
そんなことがばれたらどうなるか…。
恐らく、シンジは完全に孤立させられるか、あるいは命の危険もありうる。
そこまでして、なぜ…
そう、アスカは言いたかったのだ。
「・・・」
「ねえ、どうしてそこまでするのよ?」
「…僕が、トウジを傷つけたから。」
「でも、あれは鈴原だって何とも思ってないって…」
「確かに、トウジはそう言ったけど…、けど…僕はあのままじゃずっと後悔することになったと思うんだ。」
「・・・」
「だから…」
「なるほどね。…ま、いいわ。けど、何で空から帰ってくるのよ。歩いて帰ってきた方がいいのに。」
「だって…その方が早いし。それに、まだ面会時間でもないのに患者じゃない僕が病院をうろついてるのもおかしいでしょ?」
「まあね…それより、早くしてよ! …ああ、遅刻しちゃう! シンジ、遅刻なんかしたらアンタのせいだからね!」
「そ…そんなぁ…」
「何よ、文句あるってぇの?」
「わ…わかったよ…」
再び、シンジの手は忙しさを取り戻した。
闇。
それ以外何もない空間。
まさしく、「闇」。
そこに、これまた漆黒のモノリスが現れた。
「ゼーレ」である。
「01」と書かれたモノリスが声を発する。
「まずいことになった」
暗闇に、その声は響きわたった。
それに答える声が、あちらこちらから上がった。
「そうだな」
「死海文書のシナリオにはない事件だ」
「まさに、ゆゆしき事態だよ」
「初号機の覚醒・解放…。それだけでなく、サードチルドレン・碇の息子との融合」
「その上、碇からは連絡の一つもない」
「碇、ゼーレを裏切る気か」
「何より、エヴァ初号機を取り戻さなくてはならん。約束の日までにな」
「よりにもよって、碇の息子が『神』になるとは」
「とかくこの世は謎だらけだな」
「だが、それを認めることはできん」
「そうだ」
「シナリオの修正、容易ではないぞ」
「碇…何を考えている?」
しばしの沈黙。
そして。
「…しかし、約束の日は近い」
「そうだな」
「それまでにエヴァシリーズを元の姿に戻しておかなければなるまい。特に、初号機をな。」
「賛成」
「賛成」
あちこちから賛同の声があがり、その声を発したモノリスは消える。
最後に残ったのは、「01」のモノリスだった。
「神、か…」
そうつぶやくと、そのモノリスも姿を消した。
後に残るのは、元通りの「闇」だけ。
誰の気配も、なかった。
「…で、どうなの? パイロットの様子は。」
「いつも通りよ。1人を除いてね。」
リツコが、ディスプレイの前をミサトにゆずる。
NERV第6実験室。
今は、シンクロテストの最中だ。
いつもと同じシンクロテスト。
だが、今日はいつもと違う。
「3番、あと1.5ぐらい下げて。」
「はい。」
その内の一本から、モーターの駆動音が響く。
「それでもこの数値とはね…。ふむ…まだ余裕有り、か。」
「・・・」
つぶやくリツコに対し、ミサトはディスプレイを凝視したままだ。
「3番、まだ下げられる?」
「はい。」
「では、1下げて。」
「はい…」
そんなことが、これまでで5回ぐらい繰り返された。
「赤木博士、もう限界です。プラグ深度、これ以上は下がりません。」
「あら、そうなの。じゃあ、それでいいわ。データ記録、開始して。」
「はい。」
オペレータの指がキーボードを走り、膨大な量のデータがMAGIに送り込まれる。
本部の頭脳とも言えるMAGIは、それを適切に、かつ迅速に処理していった。
しばらくして。
ピーッ
電子音が、作業の終了を知らせる。
一息ついて、リツコはマイクに話しかけた。
「御苦労様。4人とも、上がっていいわ。」
その視線の先には、4本のシミュレーションプラグが調整液に浸かっていた。
『御苦労様。4人とも、上がっていいわ。』
リツコの声が、スピーカーから響く。
今まで閉じていた目を開け、顔を上げる。
その目の前には、エントリープラグの金属的な内壁があるだけだった。
プシュー…
ハッチが開く。
4人の子供達は、久しぶり(と言っても1時間ほどだが)に外気を吸い込んだ。
「・・・」
「んー…はぁ、終わり終わり。」
「ふいー、やっぱ疲れるわ。」
4人のうち3人は、プラグの脇にあるはしごを昇っていった。
そんなところに、やっと残りの1人が顔を出す。
「あれ?…あ、みんな先に行っちゃったみたい。待っててくれてもいいのに…」
ただ1人取り残されていたシンジは、そうぶつぶつとつぶやきながら、はしごを昇っていく。
「ごめーん、遅れて」
シンジが走ってきた。
「・・・」
「んもう、遅いんだから!」
「ホンマや。奥さん、ずっと待っとったんやで」
「! このバカ、何を言うのよ!」
「いてていてて。全くシンジは大変やなぁ…いてていてて。」
「…そう、碇君大変なの…。でも、大丈夫。私が守るから…」
「何訳のわかんないこと言ってんのよ!」
「はぁ、はぁ…」
そんな周りとは関係なく、呼吸を整えるシンジ。
ミサトが、報告を始める。
「んじゃ、結果報告するわね。まず、レイ。」
「はい。」
「75.29%…いつもの調子どおり。これを維持するようにね。」
「はい。」
「次、アスカ。」
「はいはい。また下がってるの?」
「いえ、81.60%。だいたい元通りまで戻ったわ。よかったわねー」
「はん、実力よ実力。そうよねー、このアタシがいつまでも不調なわけないもの。」
「…シンジのおかげやな」
鋭くつっこむトウジ。
「あら、いいこと言うじゃない。」
ミサトまでこの調子だ。
「な、な、な、何を言うのよ! どうしてアタシがこんなバカと!」
真っ赤になりながら何とか否定するアスカだが、
「惣流、女は素直になった方がええ。」
「そうよ、アスカ。」
うむうむ、となぜかユニゾンで頷くトウジ&ミサト。
ぷっちーん
「きー! だから、そんなんじゃないって言ってるでしょー!」
アスカがついに切れた。
「ア、アスカ…落ちついて…」
シンジが止めようとするが…
「あんたバカぁ!? こんなこと言わせておくなんてアタシのプライドが!」
…ダメだった。
仕方ない…。
ため息をついて、シンジはアスカの額に人差し指を当てた。
「…アスカ、ごめん!」
「ん?」
それに気づいたときには、アスカの意識は既に無くなっていた。
一瞬の間をおいて、アスカが地面に崩れ落ちる。
「さ、続けましょう。」
何事もなかったように、シンジはミサトの方を向いた。
急に静かになったアスカに、一同もしーんとする。
「シンジ君、アスカに何を!?」
「大丈夫です。催眠状態にしただけですから。ほら。」
シンジがちらりとアスカの方を見やる。
それに反応するように、アスカはすっくと立ち上がった。目は、閉じたまま。
「…じゃあ、平気ね。」
「はい。」
アスカの代わりにシンジが答えた。
ミサトは、報告を再開した。
「…んじゃ、次は…鈴原君。」
「はいっ!」
心なしか緊張しているようだ。
「初めてのテストなのに、30%を超えてるわ。えらいわね。」
「はぁ…」
「えー、じゃあこれで…」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 僕はどうなるんです!」
「シンジ君は、言わなくても自分で分かってるんでしょう?」
「え?…それはまぁ…」
「なら、言う必要なんか無いじゃない。」
「…それもそうですね。」
「じゃ、これでおしまい。4人とも、帰っていいわ。…ああ、それからシンジ君。」
「はい。」
「今日、私は夕食いらないから。」
「…はい。」
そして、プラグスーツのシンジ達3人+ジャージの1人は更衣室の方へと向かって歩いていった。
「…お。」
更衣室から出てきたシンジ達3人を、ただ1人いつものジャージで実験を行っていたトウジが迎える。
「うう…」
そう呻くシンジの左頬には、出来たてのもみじがついていた。
「ど、どないしたんや。」
「どうもこうもないよ。アスカってば、催眠解いたとたん、食ってかかってくるんだもん。」
「…ホンマ、同情するわ。あんな危険な女と同居しとる、なんて。」
「何か言ったぁ?」
それを聞き漏らさず、アスカが迫ってくる。
「い、いえ…」
思わずそう答えてしまうトウジ&シンジ。
「ふん!」
アスカは、再びツンとすまして歩いていく。
「ああ、びっくりした…」
「ワイもや…。ところで、シンジ。お前の、一体いくつだったんや?」
「え?」
「シンクロ率や。ミサトさん言わなんかったし…」
「ああ…。402.6855±0.0001%。」
「い゛っ! …ホンマか? 適当やないやろな!?」
「うん、ホントだよ。今度聞いてみれば?」
「お前…人間とちゃうで…」
「だから、そう言ったじゃないか、この間。」
「う…そやった…」
そんな会話をしながら、4人は歩いていた。
次の日。
学校では、トウジの席が久しぶりに埋まっていた。
久しぶりの、欠席0。
嬉しく思いながらもいきなりの事に驚いたヒカリだったが、それよりもトウジの足がいきなり治っていた事には驚かされた。
ましてや、義足でもない。トウジに聞いても、「秘密なんや」と言うだけ。
他のクラスメート達も、ただ噂のみで聞いていただけにしろ、おそらく「足を失った」という噂は本当であろうと信じていたところに、トウジがひょっこり帰ってきた。
そういう訳で、エヴァのパイロット以外は全員驚きでトウジを迎える。
そして、その日はあいにくの雨だったが、ささやかながらトウジの復帰お祝いが開かれたのだった。
「鈴原、ホントにもういいの?」
「ああ。イインチョ、心配かけて済まんかったな。」
そんななごやかな雰囲気の中、会は何事もなしに進んでいくかに思われた。
しかし。
その空気を破るサイレンの音がスピーカーから流れ出すと、場の雰囲気は一瞬にして緊迫したものに変わった。
すぐ、放送が入る。
『一般生徒は、いつものシェルターに避難して下さい。』
同時に、パイロット3人(トウジは機体がないため除く)は、NERVからの呼び出しを受けていた。
使徒の襲来である。
ver.-1.00 1997-06/13公開
ご意見・感想・誤字情報などは
VFE02615@niftyserve.or.jp
まで。
次回予告
襲来する使徒、出撃する弐号機・零号機。
だが、使徒はそれに対して精神攻撃を仕掛けてくる。
追いつめられるアスカ、そしてレイの心は?
あとがき
読んでくれてありがとうございます。 m(_ _)m
3話、ついに(?)開始です。
ところで、3話ではアスカの心にちょっと焦点を当ててみます。
アスカ派の方は要チェック…かも。
Bパートは、あの緊迫したシーンです。お楽しみに!
Tossy-2さんの『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第3話Aパート、公開です。
トウジ・・・・シンクロテストをジャージでやるとは・・・(^^;
それでシンクロ率30%。
プラグスーツを着たらどのぐらいの数値が出るんでしょうね。
恐るべし、トウジ(笑)
それにしても、ジャージにヘッドセット・・・情けない姿だ・・・
シンジの力によって日常が戻った第三新東京市、
和やかな暮らしの中にまたもややってきた使徒。
次回は戦闘ですね。
さあ、訪問者の皆さん。
快調に更新を重ねるTossy-2さんに貴方の感想を送って下さい。
【 TOP 】 / 【 めぞん 】 / [Tossy-2]の部屋