’最近のネルフは暑い。’
何の変哲もないセリフに聞こえる。実際、昨今のネルフでは会話の中に一度は出てくる言葉だ。
しかし・・・、たとえばネルフの人間と異国の旅人が出会って会話しているとしよう。その様なシチュエーションでネルフの人がそのようなセリフを吐くと、たいがい旅人は不思議そうな、次いで馬鹿にしたような顔をして言うのだ。
「なに言ってんだ?常夏のネルフが暑いのは当たり前だろ?」
と。間違ってはいない。間違ってはいないがネルフの人間としては、憤然としてこう言い返さざるをえない。
「馬鹿野郎!常夏って言ってもちゃんと気温の変化はあるんだよ。言葉で言えば’暑い’と’くそ暑い’くらいのな。」
今がその時期というわけである。暑い、なおかつ蒸す。この二つの条件がそろえば当然でてくる現象。じめじめする、食べ物が腐りやすい、洗濯物が乾かない、不快指数がぐんぐん上がる。よって人も動物も皆いらつく。
「こんな時期に働いてられっかーー!!」
と、ぶちきれる人も多々いらっしゃる。という訳でネルフはこの時期、学院も会社もその他諸々、定期的に長期休暇に入る。渡りに船とばかりに休暇を利用して、田舎に帰る者、家でごろごろする者、バカンスを楽しみに旅行する者等、様々な人達が現れる。
言って見ればお盆休みみたいなものである。神の慈悲による休日でなく、人の定めた慈悲の休日。当然、慈悲の休みをもらうことにケチをつける人間などいないはずであるが・・・。
「だからって、軍隊にまで休みをだすことはないと思わない?敵が攻めてきたらどうすんのよ、まったく。」
アスカが腹立たしげな声でそう言っても意見を返す者も反応する者はこの場にいなかった。理由は多々ある。
ここが会議室とかそういう意見が述べられるべき場ではなく、街道を爆走中の’うし車’の中であったこと。さらに場にはアスカの他に二人、マナとレイの二人しか居なかったこと。極めつけがアスカは俗に言う’むかついている’状態にあり、放っておけば太陽が輝いていることや郵便ポストが赤いことにまで文句を言いかねなかったこと。
よって他の二人は相手にしないこと、すなわち無視という行動をとっている。
彼女らが出発してから10時間程になる・・・。10時間も蒸し暑い車内の中に押し込められれば、アスカの元々許容量の少ないフラストレーションが限界に近づくのも無理はなかろう。
だが、ようやく目的地も近い。窓から見える景色は無秩序に鬱蒼とした熱帯の木々は姿を失せ、よく整備された並木道が見えている。街が近いのだ。
三人が目指しているのは、ネルフ最大の城ともいえる’琥珀の城’である。もっとも公的理由ではなく十二分に私的理由で訪問する。シンジ、加持、ミサトと、彼らの親しい人達がそこに駐屯している(アスカは自分たちを差し置いて遊んでいると評したが)のでバカンスもかねて遊びに行こうと言うわけである。
「確かにネルフの軍隊はほとんど職業軍人だから休みをもらう権利はあるけれど、周りは敵だらけなのよ。あまつさえそのリーダーである四大将軍まで任地を離れてるなんて・・。」
「現在、東の大国・リーザスは白の将エクスによる内乱につき混乱状態。北の大国・ヘルマンは王子パットンの名を語る偽者が現れ反乱を起こしてる。西の魔物の国は魔王の後継者’リトル・プリンセス’が失踪して後継者争いが起きてる。ネルフの周りの国はいずれも他国に攻め入る暇はないわ。」
ようやく、レイが読んでいた魔法書から目を離して素っ気なく答える。相手をしようが、無視しようがアスカの機関銃の様に飛び出る文句が止まるわけでもないと悟ったのだろうか・・・。
レイの言っていることは事実で現在ネルフは周りの強大な敵国が全て内乱状態という珍しい状態に陥っている。つまりさしあたってはネルフは平和なのだ。他国が平和でないからこそ、ネルフが平和でいられるというのは皮肉ではあるが・・・。
「むぅーーー、だからって万が一って事も・・・・・。」
「その万が一に備えて兵隊の半分は常時残して、交代で休み取るようにしてるじゃない。平和っていうのはいつまでも続くものじゃないんだから、今のうち謳歌しとかないと損よ。」
彼女らとて有事の際には、球殿・ジオフロントを死守せねばならないという使命がある。その事をマナはほのめかしているのだった。そんなこといちいち言われなくともアスカは百も承知しているのだが、無益さに気づいたかそれ以上愚痴を言うこともやめ、地表のありとあらゆる生物に喧嘩を売っているかの様に照りつける陽光に黙って身を浸し始めた。
琥珀の城はネルフではジオフロントに次ぎ伝統のある建造物だが、十年前に落城の憂き目にあっている。決して城塞がやわだとかいうのでないが、ヘルマン・リーザス連合軍4万に押し寄せられては籠城すらも無駄なあがきでしかなかった。
とはいえ破壊されたわけでは無いので、再びネルフの手に取り戻した後も変わらず国の守りの要として存在し続けている。城壁に残る数々の戦乱の傷は敗北の証ではなく、長きに渡りネルフを守ってきた、その証である。
現在の琥珀の城の管轄は四大将軍の長、冬月コウゾウである。数十年前からずっと将軍を続けており、数々の武勲をあげた歴戦の勇者・・・と呼んでも過言でない。すでに初老の域に達してはいるが、彼の力が落ちてきているとは誰も疑わない。他の将軍をまとめ上げるのに、上司としてもアドバイザーとしても彼以上の適任も存在しないのだ。
故に、他の将軍達が時間が空けばここに寄る習慣が出来るのは至極自然だった。穏和な性格の冬月は部下からも慕われていたし、何か現場でやっかいごとがあっても彼の元に持ち込めば、たいがいは解決した。
と言うわけで、琥珀の城の客間では冬月将軍を囲んで紅茶とお菓子を囲んで楽しげな会話をしていることが多かったのだが、今は珍しく深刻な話題が持ち上がっていた。席に着いているのは、冬月、ミサト、加持、シンジの四人。冷めかかった紅茶が事態の深刻さを物語っている。
「ここ何百年と続いた三大国のバランスが最近、崩れつつある。」
「三大国・・。僕らの国とリーザスとヘルマンですね。」
「そうだ。古くからこの三つの国はお互いを牽制しあってきた。例えば一方に攻められそうになれば、もう一方と手を結ぶ素振りを見せる。たとえ二国間が戦争を始めても、互いに自分らが疲弊した後、残る一国に付け入られるのを恐れて、思い切って踏み込めない。三国は軍事的に微妙なバランスを保ち、それが数百年の見せかけの平和を生んだのだ。」
「それが最近、急激に崩れつつあるってわけか。十年前の解放戦争、一年前のヘルマン第三軍によるリーザスへの奇襲。そして今回のリーザス、ヘルマンの相次ぐ内乱。大きな戦争が頻繁に起こりすぎよねぇ。」
「いままでせき止められてきたものが今、一気に吹き出しているという感じだな。そう感じざるを得ない。今のところネルフは平和だが、リーザス、ヘルマンで起こっていることがネルフにも起こりえないと誰も言えないからな。」
加持がそう言って手元の書類を、隣のミサトに渡す。内容は加持が諜報し、集めた現在のヘルマン・リーザスの情報である。 ミサトはさっと書類の何枚かに目を通す。
「現在では、どちらも現政権が優勢だ。特にヘルマンの方は反乱軍が勝利をおさめるのは難しいだろう。」
「そう・・・。でもちょっち情報が少なすぎるわね。ヘルマンはともかく、リーザスはねぇ・・・不気味・・・いや怖いと言っていいわね。以前と違いすぎるわ。あの国。」
「以前・・・って・・・。前はどんな国だったんですか?」
シンジの言葉にミサトは書類から目を離して、思い起こすように視線を上向きにする。リーザス・・・ネルフの東北に位置する巨大な王国。
「んーー。なんか成金国家って感じだったわ。気候が温和なのと、経済が豊かなのが相俟って、国全体がぬるま湯に浸かってる感じだったわね。野心もあったでしょうけど、そろばん弾いて確実に’+’が出ないかぎり、行動を起こす心配は無かったわ。」
「だが、今のランス王は違う。そもそもこの不安定な国勢の中で、正面切って身内と喧嘩をやらかすなどまともな発想じゃないからな。一介の冒険者ごときにが王座につくからには周りの反発・不満があるのは当然だし、それらには適当に愛想を振っておくのが普通だ。それをランスと言う男は自分の我を押し通して反乱を起こしてくださいと言わんばかりの行動をとっている。」
「ふむ・・・、だが、一見無益に思えるこの行動もりっぱな長所を持っている。この反乱で国内の不満分子はほぼ一掃されるということだ。計算尽くでやっているとすれば恐ろしいことだ。」
冬月がうーむと呻りながら考え出すのを見て、ミサトと加持は目を見合わす。心配性な面は長所ともなり得るが、この人にとっては明らかに短所であるだろう。
「まさか・・・、それはないっしょ。買いかぶりすぎよ。私が心配してるのは無差別な侵略戦争よ。あの王様が大儀なんて必要とするとはおもえないしね。」
「そう言えばシンジ君はリーザスに行ったとき一度、ランス王に会ってるな。どうだった、新王の印象は?」
加持の質問にシンジ自信が内心首を傾げてしまった。リーザスでの一連の出来事を思い起こそうと努力するが、思い出せば思い出すほど掴みがたいように思える。
「・・・確かにそんなに深く考えて行動する人には見えませんでしたけど・・・。でも普通の人間とは明らかに違った’何か’がありました。」
その’何か’はシンジが初めてランス王に会ったときから感じていたことだった。邪悪さとか覇気とかそういうものとはもっと別の何か、無理に言うなら魂の力とも言うべきもの。それがネルフに仇を成し得るものなのか・・・、このときのシンジにはまだ、いくら考えてもわからないことだった。
「加持さーーーん、久しぶりーーー!」
愛しい人の声には違いないのに、自分の名を呼ぶ声と他の男を呼ぶ声では、何故180度自分に与える感情が違うのだろうか?
琥珀の城に着くやいなや、アスカが嬌声をあげながら一直線に加持の方に走り抱きつくのを見て、シンジはそんな事を考えていた。もしシンジの手元のカップに入っていたものが紅茶ではなく酒であればシンジは一気にそれをあおっていただろう。
「はぁ・・・、不憫ねぇーーシンジ君。’最も美しく純粋な恋は、報いの無い恋だ’なんて無責任なこと誰が言ったのかしら。」
「リーザスの小説家、リン・クルミラーの短編「バスの中の彼女」の一節よ。・・・で、どうして碇君が不憫なの?」
アスカの後から、ずれた会話をしながらレイとマナが客間に入ってきた。・・・この二人が並んで歩くと違和感がある。
マナの服装は涼しげな白いワンピースに同じく白い、花飾りのついた帽子をかぶっている。かたやレイはネルフ公用の厳かな白い魔法衣に身を包んでおり、とてもバカンスに来たとは思えない。猛暑に装着できた造りではないのだが、不思議なことにレイは汗一つかかずそれを身につけている。
この二人が並ぶと、とても同じ空間に存在してるとは思えない。下手な合成写真の様な光景だ。
「冬月将軍は不在ですか?」
歩く怪奇現象が一つだけポツンと空席になっている椅子を見て、そう尋ねた。
「ええ。冬月将軍は片づけなきゃならない書類があるって言って、階下に降りていったわよ。何か用だったの?」
「六分儀指令から伝言を預かってます。」
「伝言とはまた古風ねぇ。・・・それよりレイ、その・・・、それしか服無かったの?」
流石に気になったのか、ミサトがそう尋ねる。ちなみにミサトもタンクトップにカットしたGパンという格好で「もっとマシな格好はないのか?」と人から突っ込まれてしかるべきなのだが・・。
「いえ、他にもあります。学校の制服が何着か・・・。修行用の魔法衣。儀式用の聖衣。後は・・・。」
「・・・そうぢゃなくて、もっと普通の服は・・・。」
「普通・・・・。これ、普通じゃないの・・・・・?」
「・・・・・わかった。私が悪かったわ・・・。」
「ふーん、冬月さん、いないんだ。やっぱ大変そうよねぇ、将軍って職業。どっかの将軍はさぼってばーっかで仕事してんの見たことないのに。」
「ほーら加持。ナンパばっかしてるから王女様にこんなこと言われるのよ。まったくしょうがないわねぇ・・。」
「あんたの事よ!あんたの!まったく他の将軍はみんな真面目なのどうしてこんな職業意識ナッシングの乳たれ牛女が・・・ってあれ?」
アスカはそこまでまくし立てると、突然考えこむように、指を額にあて目を瞑る。
「ちょっとアスカ!職業意識ナッシングてのは事実だからどうでもいいけど、乳たれ牛女ってどういう意味よ。私の自慢のFカップのバストが目に入らないとでも言うの!」
「・・・葛城将軍。あなたの職務に対する態度は、たびたび問題にもなってますし、長老連からの攻撃の材料になったことも一度や二度じゃありません。軍法会議ものの発言ですからただちに撤回してください。後、あなたの胸部は優に80を越えているので、眼孔に挿入するのは物理的に不可能だと思われ・・・」
「,だぁーーーーーー!!うるさいのよ、あんた達!!・・・えーっっと・・・・・なんだっけ。・・・あー!そうそう、シンジっていつ将軍の仕事してんのよ!あんた現役の学院の学生なんだからそんな暇ないはずよ!」
「えっ・・・、僕?」
一連の騒ぎに我、関せずと距離を置いていたシンジは、いきなりスポットライトを浴び、あやうく口の中の紅茶を吐き出しかけた。
「え・・・、あ・・・、それは心配ないんだよ。軍隊の方はちゃんとなってるから・・。」
「なんですってぇーーー!?どこにそんな仕事やる暇があったのよ!そんな暇があるくらいなら、もっとあたしの手となり足となり耳となり口となり、レポートやってくれたり、代返してくれたり、ノート取ってくれたり、テスト直前の一夜づけを五日間ぶっとうしでつき合ってくれてもいいじゃないのよ!」
「・・・そのうち過労死するわよ・・・、シンジ君」
「いや、だから管轄の’光の魔法軍’の管理は僕がやってるんじゃなくて・・・。」
「自分がやってるんですよ、アスカ王女。」
不意に後ろから声がかけられ、アスカが驚いて振り向く。そこには男が一人立っていた。年齢は30前後。ひょろっとしたのっぽの男で、真っ黒なローブを身に纏っている。かるく左右に分かれた黒髪が、切れ長な瞳の端にかかっている。美形と呼んで差し障り無い風貌だ。
明らかに魔法使い、しかもシンジの軍隊に配属する者らしい。アスカが「あんた、誰?」と口を開く前にシンジが声をあげる。
「御影(みかげ)さん。やっぱりいらしてたんですか?」
「自分の部隊の副将に’さん’づけはないでしょう、将軍。いつまで経っても、内気な方ですね。」
「そうだぞ、シンジ君。こんな奴はキョウスケと呼び捨てておいて十分だ。」
「やめろ、リョウジ。俺は妻以外に名の方を呼ばれると虫酸が走るんだ。」
加持と御影と呼ばれた男は笑いあいもせず、そう言いあう。それでも二人が旧友同士であることは容易に想像がついた。アスカがそれを見ながら、「誰よ、あいつ」と言いたげにシンジの服のすそをちょいちょいと引っ張る。シンジもそれに気づき、あらためて紹介する。
「ええと・・・、僕の部隊の副将を務めてくれている御影キョウスケさん。学院通いで忙しい僕の代わりに魔法部隊の軍務を引き受けてくれてるんだ。」
「そして’光の魔法軍’の副将であると同時に、俺とは解放戦争時代からの腐れ縁でもある。」
「ひでえな、リョウジ。戦友とは呼んでくれないのか?」
「戦争が終わったらとっとと身を固めちまって、第一線から退いたような奴を俺は戦友とは呼ばん。」
「三十過ぎた独身男の嫉妬はみっともないぞ。」
「たった一人の女に自分を縛り付けて喜んでるお前の身を嘆いてるのさ。」
「あなた達、本当に仲がいいのか悪いのかわからないわね。」
ミサトがため息混じりにそう言うのを景気に、御影は思いだしたようにシンジの方を振りかえる。
「そうそう、碇将軍。せっかく琥珀の城まで来たんでしたら、軍隊の訓練やっていってくれませんか?たまには将軍自らいらっしゃらないと、実戦の時が不安ですからね。」
「あ、すいません。すぐ行きます。」
「・・・ミサトといいシンジといい、そんな怠慢ぶりでよく将軍なんて職についてるわね?」
「ははは・・・。魔法部隊ってのは特殊ですからね。将軍は’脳’ではなく’心臓’の役割だと思ってもらえれば結構です。それに本来、十五歳未満の人間は軍役につくべからずというのが、この世界の不文律のルールですから。碇将軍はいわば、異能故の特例ですよ。」
「だからって甘えてばかりもいられませんよ。鍛錬場は地下でしたよね?」
シンジは立ち上がって急ぎ足に階下へ走っていった。その前に自分の前にあった空になったティーカップをしっかりキッチンまで運んでいくことを忘れないところが所帯じみている。
残ったアスカ、マナ、レイはどうしようかという風に顔を見合わせる。
「お嬢さん方も将軍について行くといい。階下には琥珀の城名物の’面白いもの’もありますよ。それにここから先は二十歳未満はちょっとね・・・・。」
そう言って御影は懐からボトルをとりだす。中身は言わずと知れたお酒である。御影の言った’面白いもの’が気にかかったのか、酒の場には流石に居づらいと見たか、三人の意見は一致したらしく、三人はシンジの後を追って階下に消えていった。それを見送ると御影はどこから取り出したのか氷の入った容器とグラスを取り出し、カチンと鳴らして言った。
「さてと、飲むなら別室に行こうぜ、加持、葛城。ここでは話しにくい話もあるからな・・・。」
集団の魔法戦における’純粋な強さ’は将軍の力量に左右される。作戦能力がどうこうではなく、魔法力の強さにのみだ。御影が言ったようにいわば心臓。血液の代わりに魔力を部隊全体に送り込み、個々の魔法力を高め、同時に制御するのだ。脳の役目は副将が補佐すればどうとでもなる。
そして、脳より心臓の方が地位が高いのは魔法至高主義のネルフでは仕方のないことだろう。
「・・・!・・・詠唱を合わせて・・・!ファイアーレーザー!!」
シンジの声に合わせて部隊からいく条もの赤い光の束が目標物に向かって放出される。目標は敵のダミーとして使われている疑似魔法生物のウォールだ。錬金術士・赤城ナオコの発明したゴーレムでサッドバックくらいの円柱状の物体だ。それに魔法部隊から発射された魔法の閃光がたたき込まれ音もなく蒸発した。
鍛錬場のこの光景を遠くで見ていたマナが感嘆というより嬌声に近い声をあげる。
「すっごーい。さすがシンジ君ね。部隊の個々の魔法力が数倍にまで引き上げられてるわ。」
「碇君が十四歳という年少で将軍を務められている所以よ。他の将軍候補なら2倍にも届かないわ。」
「ふん、大したこと無いわよ、あれぐらい。」
「素直に認めてあげなさいってば、アスカ。うーん、それにしてもこういうときのシンジ君は普段ぼけぼけっとしてる反動かなんか凛々しい顔してるね。」
「・・・浮気性な女ねぇ。あんたムサシって恋人はどうしたのよ。」
「知らない、あんな奴。一年前いなくなってから音沙汰ないもん。」
「確かに・・・。暁ムサシは一年前、ちょうど四人目の将軍の選考会の直後から失踪してるわ。ちなみに彼も碇君と同じく将軍候補。いえ、彼こそ四人目の将軍だと評価が高かったのだけど・・・選ばれたのは碇君だった。」
「シンジに将軍の座を奪われたショックで失踪したとか・・・?」
「そんなことならいいんだけど・・・。」
アスカの言葉にてっきりムキになって反論するかと思われたマナが、ため息混じりに予想外の言葉を呟く。怪訝に思ってアスカが聞き返そうとしたとたん、
「クェー。」
予想外どころか奇想天外な声が聞こえてきた。驚いて後ろを振り返った一同の目の前には見たこともない生物が映った。鳥のようだが、羽に当たる場所がヒレのようになっている。柔らかそうな外見にキョトンとした目、頭にある赤いとさか、どこかぬいぐるみを連想させる。
「み、見たこともない生き物だけど・・・魔物じゃないよね・・・?」
「きゃー!何これ?かわいいー!!」
思わず動けないアスカに対し、先ほどから沈んでそうに見えたマナが真っ先に声をあげて抱きつく。生き物は驚いた様子もなく、一声「クェッ」とまた啼いただけだ。柔らかな羽毛に包まれた羽を頬によせすり寄せながらマナが言う。
「うわー、ふわふわ。これ、誰のかな?ここのペット?」
「それ、冬月将軍の造ったホムンクルスよ。琥珀の城に一匹居るって聞いたわ。確か名前はペンペン。御影って人が言ってた’おもしろいもの’ってそれだと思う。」
「ホムンクルス?」
「ああー、もうなんでもいい、可愛ければ。」
「マナ・・・あんたねぇ・・・。」
「ホムンクルスってのは魔法使いが造った生命体のこと。ゴーレムと違うのは、そこに’命’が備わっていることなの。」
「’命’・・・って?具体的に言うと?」
「回帰的な魂が・・・・・・。ごめんなさい。私もよくわからないの。」
「ふーん、でもこんなのまで生み出すなんてまさに魔法万能の時代ね。」
「そんなことないと思う。かつての全盛期には都市をそのまま空に浮かべたり、魔法使いの意のままに動く鋼鉄の人形が魔物を打ち倒していた・・・と言われてるから。」
「俗に言う’聖魔の時代’の技術ね。ふーんすごいものね。普通の生き物と見分けがつかないわ。」
「なに、小難しいこと言ってるの。そんなことよりレイもこの子抱いてみなさいよ。すっごく可愛いんだから!」
酒の席・・・というのは二種類に大別できるだろう。一つはひたすら楽しくて馬鹿騒ぎしたいような席。もう一つは酒を飲まないとやってられないような話をする席。加持達が座っているのは明らかに後者だった。
グラスの液体は理性に酒気を送って嘘を誘い出し、グラスを傾ける仕草は沈黙を紛らわす。
「報告その一。」
そう言って御影はグラスを片手に指一本、加持とミサトの前に立てて見せた。報告とは少し前に加持が御影に依頼した、リーザス・ヘルマンについての情報収集のことだ。昔からこの男はこの手のことに向いていた。そして報告するときはいつも酒を飲む。そうすればできるだけ感情を交えずに、子細を報告できるから。
「リーザスの方は反乱鎮圧にはもう少しかかりそうだ。ランス王が・・・と言うより、エクスがよよく頑張っていると見るべきだろう。逃亡兵も続出し、出資する貴族もいまや皆無の中、よくもまぁもっている・・・。で、問題はヘルマンの方。これが報告二になるわけだが・・・。」
「ヘルマンか・・・。一年前、パットン王子がリーザスで戦死してから王位はシーラ・ヘルマンって王女に移ってるのよね。・・・なんか陰謀の匂いがするわね。」
「おそらくな。実権は宰相のステッセルて男が握ってるって話だが・・・。今ヘルマンに現れた偽者の王子ってのも本当に偽者なのかどうか・・・。で何が問題なんだ?」
「そのヘルマンがネルフ内部の者と連絡を取り合っている気配がある。」
「・・・スパイか?」
「わからん。が、なにかネルフに仕掛けている。これは確かだ。」
「今注意すべきは、リーザスよりヘルマンか・・・。」
そう言いながら加持は御影に酒をついでやる。
「お前には色々苦労かけるな。一年前、退役同然だったお前にシンジ君を補佐してもらうため軍隊に引き戻した事も、今回の様なことも含めてな・・・。」
「うちに息子が生まれた。その成長した息子に戦場を見せたくない。それだけのことだ。」
憮然とした顔になってそう言った。人に気を使おうと思って無理をするとこんな顔になる。昔からの癖を旧友の中に発見して、加持は少し笑いを漏らした。
「で、自分の子もいいが、どうだ、シンジ君は?」
「いい子・・・なんでしょうね、有り体に言えば。あれほどの魔法の才能を持っているのに驕ったところもない。部下も、皆、彼を慕っている。ただ・・・、」
グラスに残った酒を一気に飲み干してから、御影は酒気と共に苦々しげに言葉を吐く。
「自分の息子をあんな風にしたいとは絶対に思わないな・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・」
かすれるような、御影の言葉に二人は答える術がなかった。
わからなかったからではなく、わかりたくないことだったから・・・・。
太陽が昼と夜の境目を曖昧に溶かして赤い色を作り始める。それに照らされて’琥珀の城’はその名の通り城壁を琥珀色に染められる。城内ではこの日格別多いお客のために、広間に長テーブルを配置して夕食の支度をしている。晩餐というほど堅苦しくなく、パーティーというほど羽目を外すこともなく・・・。
「むぐむぐむぐ・・・・・・。ちょっとシンジ!肉が足りないわよ、肉が!もっとじゃんじゃん焼いて持ってきてよ、まったくトロイんだから。」
「ああ!今日は休暇だし、冬月さんの所だから炊事の義務から解放されると思ったのに・・・!!」
「甘いわ、シンジ君。この時期は職種を選ばずみんな休みに入ってるのよ!つまり、この城の料理人も暇をだしてるって事。そしてこのメンツでまともな料理を作れるのは冬月将軍とあなたぐらいだから、必然的に厨房に立つ人間は決まってくる!それぐらい読み切らないようではネルフの将軍は務まらないわよ!・・・というわけでビールもういっちょ追加!あ、ビールのおつまみは適当に作っといてねん。」
「すまんな、シンジ君。お客さんなのにこんなことを頼んだりして・・・。ああ、そこのスパイスをとってくれんかね。」
「僕っていったい・・・・。」
「ねぇ・・・、レイ。あなたいつまでペンペン抱いてるの?さっきからじーっと見つめちゃってるし。」
「・・・・・・」
「ひょっとして情が移って離したくなくなったとか?」
「・・・・・・。」
「レイにもそんな感情があったなんて意外ねぇ。やっぱり普通の女の子なんだ。」
「・・・・これが完成されたホムンクルス・・・。この羽毛・・・。かなりの凍土でも活動は可能ね。でも、羽は退化して飛行能力はないみたい。戦闘には不向き。やはり聖魔戦争時代の技術を完全に再現するのは・・・・・。」
「・・・と思った私が間違いだったか・・・。」
「おい、加持。お前また女を変えたらしいな。」
「ああ、まあ聞いてくれ。これがまたえらい美人なんだ。スタイルも顔をまさに俺好み。つき合ってみるとまた面白い女でな、なかなか底が深い。まったく女ってやつはいくら研究してもその度違った面を見せてくれる。キリがないね」
「ならいっそのこと研究するのをやめな。」
「そりゃ違うね。ある錬金術士も言っていたじゃないか。’研究の楽しみは真理の追究じゃなく探求そのものにある’、とね。」
「ふっ、その錬金術士は結局、真理とやらにたどり着いたのか?十年を費やしても、俺はまだ妻という一人の女も理解しきれていないというのに。」
宴は続く。楽しそうな笑い声。少年達が元気に駆け回る音。グラスを交わす音。
しかし、どんなに楽しい時間もやがては終わるもの。
時が経てば・・・。
宴が終わり・・・、
夜が終わり・・・、
休暇が終わり・・・、
やがて、この平穏も終わる・・・。
閑人達の会話もその時限り。
あとがき(・・・長すぎ(^^;)
YOU「お久しぶりでございます、皆々様。もはやほとんど忘れられた存在であろう、わけわかんない怪作文。久々に発表できました。なんでこんなに間隔が開いたかと申しますと、1、ハードディスクがクラッシュした。2、スパロボ完結編を遊び耽っていた。3、学校の専門の単位が6つも保留だった・・・・等があげられ、これを聞けば「ふむふむ、なるほどこれではしかたあるまいなぁ」と皆様も納得・・・。」
アスカ「するわけないでしょう!全部あんたのずぼらでいいかげんな性格とノータリンなおつむが原因なんじゃない!」
YOU「ずぼらでいいかげんなのは性格でなく僕の性分(たち)ですし、ノータリンなのは生まれつきなんであっていわばこれらは運命なので、僕の罪ではないですね(?)。いや、真面目な話、長い更新停止の間に催促のメールをくださった方々ありがとうございます。待っていただいた方々、申し訳ありません。これからは最低、月一は更新していきたいと思っています。遅い!っと思ったらメールをくだされば、作者はねじ巻かれたロボットみたいに動きますんで。」
YOU「それでは、だらだらと今回のお話を垂れ流します。今回はこれからのお話のプロローグ的な役割になってます。題名通り会話中心を意識して文章を書いてみました。・・・誰がしゃべってんのかメリハリつけるところと、普段はナレーション?で任すところを会話の場面にしたりとかが苦労しました。後、この話は話として独立していない・・・要するに’何がいいたいのかわかんない話’になってます。次の十四話につながる話故に・・。ですから次はなるたけ速く書きたいです。」
YOU「また新キャラを・・・、そのうち収拾がつかなくなる。御影キョウスケ。この人の初登場は何を隠そう、隠してませんが、第四話の副将役です。本来はあそこで死ぬ予定でしたが、あまりにもお約束(案の定、コメントで大家さんに’死ぬんだと思った’と言われた(; ;))故に、生かしておくことにし、ここで再登場しました。作中全体での役割も決まったので、これからもちょくちょく出てきます。」
YOU「今回、レイがおかしい・・・。なんでだろ?このままではヘ○レイになっ
てしまふ。」
YOU「後ですねぇ、’琥珀の城’という名の城は’鬼畜王ランス’からそのまま拝借したんですが、’琥珀’>英語のelectricityの語源>雷の将軍の居城ってことで解釈していいんでしょうか?まさかそのまんま城が琥珀でできてるとか・・・。うーーん・・・?」
アスカ「ちょっと待ちなさいよ。気になったんだけど、あんたそもそもこの題名ってパクリ・・・むぐむぐ・・・。」
YOU「人聞きの悪いこと言わないでください。ネーミングだけお借りしただけです。証拠に内容は殆ど違うじゃないですか。」
アスカ「まぁ、この作品自体がパクリみたいなもんだからねぇ。いまさら些細なことかしらね。」
YOU「身も蓋も無いことを・・・。おお!そういえばメゾンを戯れに(おい)覗いてみたら、なんと鬼畜王と同じアリスソフトの「アンビバレンツ」を元ネタにしたエヴァ小説がありましたよ。うーん、僕もこれをやったことはありますがエヴァ小説にするとは思いつきもしませんでした。そういえばあれの主人公はアルビノですものねぇ。アスカ様はご存じで?」
アスカ「知るわけないでしょう!!」
YOU(聞いてない)「思えば昔、「アトラク=ナクア」という同社のサウンドノベル・ゲームを以下のキャストのエヴァキャラでやったらどうなるか・・・。というのを考えたことがあります。わかる人だけわらってください。
初音・・・・レイ
かなこ・・・委員長
さちほ・・・アスカ
たかひろ・・・シンジ
つぐみ・・・マナ
猪口・・・ゲンドウ(笑)
和久・・・トウジ
りん・・・・マユミ
銀・・・・カヲル
・・・原作通りにやると、とんでもないことになるので3秒で却下しました(余談:それでもプロットたてれるくらいまで練り上げたのでバザーに売ろうかと思いましたが、もはや閑古鳥が鳴くほど寂れているのでこれも却下しました)。ちなみに「アトラク=ナクア」は非常にハイクオリティですばらしい作品なんですが、アングラでピカレスク物ですからね。」
アスカ「とんでもない・・・・?」
YOU「ええもうアスカ様がPーーーーーーでPーーーーになって酷すぎるし、シンジ君がPーーーーーで可哀想すぎますから、おそらくまともなエヴァファンではたえられんでしょう、っていうかそもそもメゾンで公開できませんし、公開できないとなったら書いてみたいくなるのも人情でそれを18禁サイトに投稿してみるのもまた・・・、ふ、ふふ・・・うふふふふふふ・・・・、ふは、ふははははははははははああああぁ!やっぱ書いてみよっかなあぁ!!」
アスカ「愛と怒りと悲しみのぉ・・・スーパーロイヤルファイヤーレーザー!!!」
ずどおおおおおおおぉぉぉぉん・・・・・・・・・・。
YOU「ああ、もう、終始何がなんだか・・・ぐふっ・・・。」