錬金術士・・・・・なる存在がこの世界には存在する。呼んで字のごとし、鉄や鉛を鍛え金に変える術を探し求めた魔法使いである。
遥か昔にはエメラルドタブレットというものに書かれた秘法を用いれば「賢者の石」あるいは「哲学者の石」と呼ばれる物を生み出すことが出来ると信じられていた。それはあらゆる物質を金に変え、触れればいかなる病をも治したという・・・・・。
「黄金狂時代」と言われた時代には、世界はそれを探し求める錬金術士達であふれかえった。彼らは研究し、探求し、実験し・・・・・競い、欺き、争った。それのために国すら滅びた。古文書一つ奪うために、村を焼き払った軍隊もある。胡散臭い魔法使いに騙され、国の財宝の十分の一と引き替えに偽物の「賢者の石」を掴まされた王もいる。生涯を錬金術にその身をささげ、なにも生み出すことなく死んでいった魔法使いは無数にいる。それでも、公式的記録には「賢者の石」なるものを発見できた人間は存在しない。
愚かな時代だったが、ひとつだけ賞賛すべき事があった。魔法文化の発達である。金を生み出す研究の過程で発見された、妙薬、物質、秘法は現在の魔法技術の基本となった。現在では、錬金術士とは魔法によって薬、道具などを作り出す魔法使いの異称である。
魔法王国ネルフにも当然、錬金術士は数多く存在する。今回はそんな錬金術士の内、最も有能で最もやばい、そんな人物のお話である。
「ふふふ・・・・・。」
不気味な笑い声が木霊した。ここは塔の一室。塔とは本来、聖遺物を収めるために、またはそれ自体が聖遺物であるものである。要するに、人が住んでたらおかしいのだが、おかしい人が住んでいるのだからどうしようもないのだろうか?
「ついに、ついに完成したわ。」
「やりましたね、先輩!」
訂正、おかしい人ではなく、おかしい人達である。暗闇の中には二人の女性。一人は清潔感ある白い魔法衣にみを包んだ女性。年齢は30歳になったかならずか・・・。この塔の主、ネルフの王都に結界を張るため選ばれた魔法使い集団「塔の聖女」のリーダーである。暗闇の中で彼女の金髪と白衣が浮かび上がり怪しい光を放っている。
彼女の後ろにいるのは彼女より一回り年少に見える女性。彼女の弟子、伊吹マヤである。黒髪のショートカットで童顔、性格も純真なので誰も信じないが二十歳を超している。魔力は桁外れにでかいが、少々お馬鹿であることで有名だ。
「魔導書「マギ」・・・・・・・。」
言葉に反応して、彼女の前に独りでに本がふわり浮かび上がる。やがて本は空中で、闇に固定されるようにピタリと静止する。本は淡い光を発している。否、表紙に書かれた文字が金色の強い光を放っており、それが本全体を包んでいるのだ。字は古代の物だが、リツコにはそれがはっきりと読めた。
「マギ」・・・・・・。かつて存在したという「魔導士」と同名のその本は魔法を追求する者なら誰もが手にすることを夢見る「魔導書」である。
カッと稲妻が空で光った。閃光が一瞬、部屋を照らし出される。その一瞬で、リツコの前にある「なにか」が照らされた。その何かの目が光った。それは稲光に怪しさを色づけして跳ね返している。
「ふふふ・・・・母さん、私は今、あなたを越えたわ・・・・・・・。」
陽の光・・・・。指すような、ましてや覆い被さるようなものではなく、やさしい穏やかな午後の光。空は限りなく透き通っており、それはこの世のあらゆる不条理な物を吸い込んでくれそうだ。優しい風が自分の寄りかかっている大樹の葉を撫でている。そのため、自分の顔にかかる木漏れ日がちらちらと揺れてくすぐったい。
「平和ねぇ・・・・・・・。」
アスカはぼんやりとそれらの光景を眺めながら、傍らにいるシンジに声をかける。返答はない。アスカも返事が欲しかった訳じゃない。ただ、こうしていることに限りない安らぎを感じていることをシンジに伝えたかっただけである。
学院は今日から長期休みに入っている。その休暇の初日にアスカは遊びに行こうとシンジを誘ったが、休みに入ったばかり何だからゆっくりさせてよとシンジがごねだした。仕方なくアスカは「じゃあ、今日はあんたが行き先を決めて良いから。」と提案したところ、こうして公園で昼寝する羽目になったわけである。
最初は年寄りじゃあるまいしとバカにしていたアスカも、ここに来て納得した。ただ、全身に陽の光を浴びているだけで、嘘みたいに体も心もとても安らぐ。時折吹くそよ風が前髪を揺らして気持ちいい。遠くの鳥の声が、オルゴールのように耳に優しく響く。こうしていると、休み前の追試とレポートの地獄の日々が嘘の様だ。
「ふぁ・・・・・・・。」
当然の様に欠伸が出る。大きく口をあけてめいいっぱい緑の味と匂いのする大気を吸い込む。彼女のファンが見たらちょっとがっくりきそうな光景だ。
「まぁ、たまにはこういうのもいいわね。あたしも疲れが溜まってたみたいだし・・・。」
またしても返事が無い。流石に怪訝に思ってアスカはシンジの方を振り返る。シンジは木により掛かったまますうすうと寝息をたてていた。何の邪気も無い赤ん坊のような寝顔。女性の様な黒髪が陽の光に照らされ、てっぺんに白い天使の輪を映し出している。ほんの少しの間、アスカは見とれていたがはっと我に返る。
(むぅ・・・・。いくら疲れているとはいえ、あたしとデートしているっていうのにうたた寝するなんて非常識じゃないの!?そりゃ、学期末にシンジも忙しいのにあたしのレポートの手伝いをさせたのは悪かったけどさ・・・。)
全てを知る第三者がいたなら迷わずシンジの味方をしただろうが・・・。当然、そんな神のような人間はいなかったので、アスカはシンジを起こす決心をした。流石にわずかに良心に咎めたか、なるべく優しく起こそうと肩を揺さぶる。
「シンジ・・・・・。シンジ!」
一際大きく揺らした拍子に、シンジの上半身がぐらりと傾く。夢の世界の人間が重力に対抗し得るわけがなく、シンジはそのまま慣性に身を任せ体を倒す。体は草木の上に横たわり、頭の落下地点は・・・・・。
ぽて・・・・・・。
「え・・・・・?」
アスカのふとももの上だった。アスカが真っ赤になり物言えぬ間に、シンジは眠りつついい枕を見つけたとばかり、体勢を変え完全にアスカの膝枕の上に頭を乗せる。
「ちょ・・・・バカ・・・・なにやって・・・・・・・!」
アスカは言いかけて、不意に周りを見渡す。いい天気なので外に出てきている人々は大勢いるが、とりあえず自分たちに注目している人はいない。周りを飛ぶ鳥すらも二人にあてられるのを恐れて、近寄るのを避けてるようだ。アスカはもう一度シンジに視線を移す。
相変わらずあどけない寝顔をしている。心なしかさっきより気持ちよさそうだ・・・・。
「ま・・・・・、いっか・・・・・・。」
シンジの頭に軽く手を乗せて、そのまま髪を撫でる。何度も、何度も・・・・。何故だろう、ただ、シンジの寝顔を見ながら、こうして頭を撫でている。単純な行為、単純な時間。でも、いつまで経っても飽きることがない。それどころかずっとこのままであればいいとすら思える。そんなことはシンジの前では口が裂けても言えないことだが・・・。
陽はまだ高い・・・。日が暮れるまでの数時間。こうして、暖かい太陽の毛布に包まれ、遠くに悲鳴と騒音を聞きながら・・・・・・・。
「・・・・・・・・・悲鳴と騒音???」
怪訝に思って、アスカが耳を澄ます。・・・・鳥の声が止んでいる。かわりに確かに叫び声が聞こえてくる。恐怖、混乱、・・・・いや、もっと複雑な何かの悲鳴だ。それは徐々に、徐々に大きくなる。この安らぎと平穏を打ち壊す破滅の使者。
「いったい・・・・・!?」
アスカは勢い良く立ち上がり、声の方を見る。下で「ごんっ」という、派手な音がしたがそれはどうでもいいことだった。
土煙が向こうからまっすぐこっちに近づいてくる。暴走した「うし車」ですらあんな派手な煙は立てない。そしてこの人々の悲鳴。
「魔物の襲来?・・・・・・・それとも、まさか魔人が直接!?」
アスカは臨戦態勢をとり、魔力を貯め始める。指の先、髪の毛にまで魔力が巡り始める。この平和を壊す者は何者であろうと許さない。
アスカの心が珍しく正義に燃える。
そして土煙の中の相手を確認した瞬間・・・・・・・。
その火は爆発することなく消滅した。
「・・・・・・ね・・・・・こ・・・・・?」
その言い方は正確ではなかった。正確に言うなら、猫の形をした物体。猫と言っても、異様な形、白い猫が片足をたてて、手が人を呼ぶような形で曲げられている。そしてもう片方の手で無意味にもたれた小判。どっからどう見ても東洋に伝わりし、福を呼ぶと言われる置物、招き猫である。しかも巨大。全長が5メートルくらいある。
それが、(キャタピラでも付いているのか)足も動かさずそのままの体勢で、無表情で無言、地面を削り、草木を散らしながら猛スピードで突進してくるのだ。
あまりの光景にアスカも、地面に頭を打ちつけて目を覚ましたシンジも、しばし脳がそれを受け入れることを拒否する。が、それが目前まで迫ると・・・・せき止められていた恐怖が一斉に脳に流れ出す!
「・・・・・・ぅぅぅぅううげやあぐわぎゃあうあうがあああああ!!」
たとえ魔王が攻めてきても叫ばない、訳の分からない悲鳴を上げて二人はその軌道から飛びすさる。その物体は逃げる二人に一瞥もくれず(もともとそれが出来ないのかもしれないが)、来たときと同じ様な土煙を上げ、彼方に去っていった。
「何、これ夢・・・・・・・・?」
シンジがそうやく呟いたのは、それが見えなくなって大分経ってからのことだった。
「・・・・・いや、現実よ!」
アスカが正気を取り戻したのか、声高らかに叫ぶ。拳はアスカの怒りを示すようにギュッと握られている。
「そして、あんなものを造る人間は、ネルフ、いや世界で一人しかいないわ・・・・。」
「リツコオオオオオオォォォォォォォ!!あんたってひとはぁあああああ!!」
ちょうど、ジオフロントの大広間に居たリツコをアスカが大股に駆け寄り、胸ぐらを掴み叫ぶ。が、当のリツコは表情一つ変えない。
「アスカ、あんまり怒ると血圧が上がって早死にするわよ。」
「どわぁれのせいだと思ってんのよ!」
「何があったか知らないけど、それが私のせいという証拠でも?」
「あんたが、マッドアルケミストである一事だけで十分よ!」
「ふふ・・・愚かね。そんな独断と偏見に基づく過程が真実にたどり着くことが・・・・・。」
「あの招き猫型の物体のことについてよ!」
「・・・・・・・あるわけもないわけじゃないわね・・・・・。」
数十分後・・・・・。非常召集がかけられ、集められるだけの幹部がジオフロントの会議室に集まっている。品はいいが、簡素な部屋に長机が四角に配置されている。この場にいるのはシンジ、アスカ、レイ、マナ、ミサト、リツコの六人。このメンツであれば、普段ならリツコは最年長者として、上座に位置し、会議を取り仕切る。が、今回はリツコはその場におらずさらし者の様に、机に囲まれた中央に正座している。
「さぁて、一切合切、説明してもらいましょうか・・・・。」
死後、使者の魂を裁くと言われる鬼の王すらかくやと思える声でアスカがリツコに声をかける。リツコは待ってましたと言わんばかりに、声高らかに宣言する(いまいち、自分の立場がわかってないらしい・・)。
「ふっ・・あれこそが「ウォール」に変わる、私が無より生み出し究極の疑似生命体(ゴーレム)よ。名称はまだ未定だけど・・・・。ウォールが生きる盾なら、こっちは生きる兵器として使用できるわ。最高時速は70キロ、各種パーツを取り付けることにより、山地、湿地はおろか水中にまで活動可能!また騎乗も可能のすぐれもの。さらにその愛らしい容姿で見る者の攻撃をためらわせるという・・・・・・。」
「誰が使うか!誰が乗るか!誰がためらうかああああぁぁぁ!!」
げしっと音がしてアスカの投げたスリッパがリツコの脳天を直撃する。リツコは心底心外と言わんばかりに振り向き尋ねる。
「現にアスカは攻撃できなかったじゃない?」
「やかましい!で、なんでそれがあんな暴走する羽目になったのよ!」
「まぁマッドの作ったものは暴走するがお約束とはいえねぇ・・・・。」
この言葉はミサト。のんきにお茶などすすりながら平然としている。やはり、長年のつきあいだけあって慣れているのだろうか・・・・・。
「・・・・多分、猫の習性をプログラムしたからだと思うわ。暴れていると言うよりはしゃいでいるだけよ。・・・・・ああ、あの子は生みの母より猫としての本能を選んだのね!」
げしげしげしげしげし!
ひたるリツコにスリッパが今度はアスカだけじゃなく、五方向から一斉に投げつけられる(レイまでも・・・・・)。
「あのー、お取り込み中、失礼しますが、例のゴーレムの被害についての報告が・・・。」
マヤが恐る恐る、五人に声をかける。が、一斉に睨まれ、指すような視線から隠れるように、報告書を顔の前にもってくる。
「ええ・・・・と。家屋の破損や国民の負傷者は特にいない模様です。しかし、目標は依然ただ意味もなくそこら辺の道を走り回っています。このままだと被害のおそれも・・・・・っていうかもうすでに被害が・・・。」
マヤは言い難そうに、言葉を紡ぐ。その場にいた者は嫌な予感がして、無言で続きを促す。
「シャングリラから来た行商人が、疾走する目標の下敷きになっています。怪我自体は大したことないんですが、慰謝料よこせとかどうとか押し掛けてきてますが・・・・。」
「シャングリラ・・・・・・?あの砂漠の商業都市の?遠方よりわざわざここに行商に来るなんてよっぽどの暇人ね。まあ、慰謝料なら街の被害の請求と同様、リツコの給料と研究費からさっ引くけどさ・・・。」
「さりげないセリフにえげつない決定を含んでるわね。・・・・マヤの壊した塔の修繕費がまだ滞ってるのに。」
リツコの恨めしそうな視線を無視して、ミサトがその人を連れてくるよう指示しようと思ったとたん、独特のイントネーションを付けた罵声が遠くから響いてくる。
「慰謝料や、慰謝料よこせ。あと治療費と迷惑料もや!さらにそれとは別にこの件に関して他国にあること無いこと脚色付けて言いふらされとうないんなら、口止め料ってやつを差し出されても俺に断る義務もないからありがたく受け取ってやらんこともないぞ!」
声を聴いて、アスカとマナとシンジが顔を見合わせる。
「どこかで聞いた声だね・・・。」
「まさか・・・・ね。」
しばらくして、奥の扉から声の主が姿を現す。明らかに異国の衣装、絹のローブに身を纏い頭に布を巻いている。単身痩躯。目は限りなく線に近い形状、肩には白い鳥をのっけている。砂でカーキ色に汚れた衣装の中でその鳥の白さだけがアンバランスだ。その人物は入ってくるなり、げっという顔をした三人を指して嬉しそうに破顔してポンと手を打つ。
「おお!君たちは!リーザスで出会った魔法使いの少年に、プリンセス・オブ・デストロイにマッスルアマゾネスやないかぁ。いやぁ久しぶりやなぁ。」
「「勝手に妙な異名を付けるなぁーーー!!」」
立ち上がって叫ぶアスカとマナ。が、リーザスでの二人の破壊活動を振り返れば無理もない呼称だろう。
「何、知り合いなの?」
ミサトが怪訝そうにアスカに問う。アスカは深く深くため息を吐いていう。
「ええと・・、まぁ人が知り合うってのは当人が厭おうが後悔しようが仕方ないことなのよね。義務として紹介するわ。リーザスで遭遇したシャングリラの金持ちのボンボン、にも関わらず守銭奴のアル・ウェポン。お調子者のような顔してるけど、人の神経逆撫ですることにおいて右にでる者はいないわ。」
「なんかえらい棘だらけの紹介やな・・・。で、こちらのめっちゃ美人で色っぽいおねいさん方は?」
そう言ってアルはミサトとリツコを交互に眺める。肩に止まっている鳥まで彼と同じように視線を向けているのが妙に滑稽だ。
「まぁ、美人のお姉さんだなんて・・・。案外、正直でいい人じゃない。」
「・・・こっちの妙齢のバカ女は葛城ミサト。シンジと同じ、ネルフ四大将軍の一人。そしてそこに正座してるのが、あんたを踏みつけた化け物を作った錬金術士・赤城リツコよ。」
そう言ってアスカは正座しているリツコをビシッと指さす。アルはしばしリツコを眺め、ふむ、と頷いてリツコの方に歩いていくと芝居がかった神妙さで尋ねる。
「ええ・・・まぁ・・・、なんちゅうか、あないな物を作ればどないな悲劇が生まれるかってことを考えはしなかったんかいな。」
「ふっ・・・・・それが凡人の浅はかさ。真の天才は発明や発見に全精力を注ぎ、それがもたらす結果と責任は全て他人任せにしていいのよ。」
「・・・・・なんでこないな危険人物を野放しにしておくんや、ネルフは。」
その問いの答えはこの場にいた全員が知りたかったが、答えられる者は存在しなかった。
「話を元に戻しましょうか。とにかくアレを破壊する方法。それを模索しましょう。」
「破壊することにおいて重要な事項は三つ。一つ、街の被害を最小限にするため、目標を郊外におびき出すこと。二つ、市民の動揺を防ぐために破壊する際は最小限の人数で実行すること。そして三つ、確実に、短時間で殲滅すること。」
レイが淡々と話し出す。彼女が話し出すと、何故かしら、その場の全員が注目し耳を傾けてしまう。ミサトがそれに対し、有効な手段を提案する。アスカがそれに反論する。レイが冷静にそれらの意見をまとめる。この三人さえいれば会議は進行するようだ。やがて意見がまとまったらしい、レイがとんとんと書類をまとめながら言う。
「以上よ。六分儀指令が不在なので、現場の指揮は葛城将軍に一任するわ。なにか質問は・・・。」
すっと手が、テーブルの中央からあがる。リツコだ。なにやら深刻そうな顔をしている。
「質問があるのだけど。」
「何?まさかアレを壊すなとか言い出すんじゃないでしょうね。」
「そう言いたいのはやまやまだけど、そうじゃなくて・・・。」
「何よ。」
「・・・・やはり東洋の招き猫型じゃなく、版権を無視してでも「お○い猫型」にすべきだったかしら。」
「ファイアーレーザー!!」
ドゴオオオオオォォォォ・・・・・・・
リツコに向けて問答無用で炸裂した呪文の爆音が作戦開始の狼煙となった・・・・・。
時刻は午後5:30。空はまだ赤くは染まっていないが、それを仰ぎ見る人間の瞳はすでに赤く輝いていた。第一陣はレイとマナ。目標である猫型ゴーレムは本能が猫そのもの故、ちょこまか動き回るネズミの様に立ち回れば、何も考えず追ってくるだろうとのことだった。
そして、それを待ち受けるシンジとアスカ。町中で無ければ、破壊呪文でもなんでも使いまくれると言うことで、攻撃力の高い二人がこの役を負う。アスカの場合は攻撃本能と言うべきか・・・。
「で、なんで無関係なあんたがここにいるのよ!」
「この国ではあないな殺人兵器で怪我させた善良な市民を無関係な人と呼ぶんか?まぁ、ええやん。面白そうなんやから見物させてな。」
睨むアスカにアルはさも心外だといった風に肩をすくめる。怪我と言っても骨に異常があるほどじゃなく、軽傷などだが・・。
「しっかり治療費とか請求なさったじゃないですか、アル様。」
声は意外な所から聞こえた。信じがたいことにアルの、肩に止まっていた鳥から・・・・。シンジとアスカがはっとする。この世界で、人間以外の姿をして言葉を発するのは・・・。
「魔物・・・・!?」
身構える二人を制するようにアルが片手をあげる。
「待ちいや。確かにこいつは鳥類のくせにいらん口叩きよるが魔物やない。」
「・・・・じゃ何なのよ。」
「ちょっと訳ありでな。・・・・・それより、待ち人来るってやつやないか、後ろ見てみい。」
後ろを指すアルにつられて、アスカとシンジは振り返る。土煙、轟音、呪文の炸裂する音。なるべくなら二度とお目にかかりたくなかった物体、招き猫型のゴーレムがその異様な姿を現す。
「・・マナとレイだ。それにあのゴーレムも・・・」
シンジが呟く間にも、その物体は迫り来る。やがてマナとレイの姿も見えてきた。思いの外苦戦しているらしい。二人とも肩で息をしている。マナが大声でアスカに向かって叫ぶ。
「連れて来たわよ、アスカ。気をつけてそいつは・・・・。」
「わかってるわよ。先手必勝、ファイアーレーザー!!」
アスカとゴーレムの距離はおよそ60メートル。その距離をつなぐ橋のように、赤い閃光が伸びていく。そして、爆発。熱風がここまで届くほどの炎がゴーレムをくるむ。たとえあのゴーレムの材質が石だろうが何だろうが粉砕できるはずだった。
が、ゴーレムにはひび一つはいっていなかった。それどころかまるで意に介した様子もなく、ゴーレムは直進してくる。
「どういうこと!?」
「アスカのバカァ!人の話を聞きなさいよ!そいつは全身をミスリル銀でコーディングしてあるから魔法の効果は薄いって言おうと思ったのに・・・・・。」
よくよく見れば、ゴーレムは白い塗装が矧がれてその下にある、白銀の光沢のある肌が露出している。対魔法用の最高金属、ミスリル銀。聖魔戦争時代の錬金術士のみが作成でき、現在では生成法はわからず、遺跡で発掘できるわずかな物が現存するのみ・・・・。
「そんな貴重品をこんな物につかうなあぁぁぁぁーーー!」
アスカはこの場にいない人物に向かって絶叫するなか、シンジとレイはちょうどゴーレムをはさんで両側に位置し、攻撃をかける。
「二点同時攻撃なら・・・・・・。綾波、詠唱併せて・・・・・!」
「・・・了解。」
二人はユニゾンして呪文を唱える。シンジに光、レイに闇の魔力が、鮮やかな白と黒のコントラストを醸し出しながら集中する。やがて、並の魔法使いなら唱えることすら不可能な上級呪文が完成する。
「・・黒の波動!」
「白の粒子線!」
シンジの右手から白銀のビームが、レイの左手から黒いウェーブがちょうどゴーレムの眉間の辺りに同時に命中した。そう思えた次の瞬間、二人の魔法は炸裂することなくそのままミスリルの表面に弾かれて軌道を変える。
「反射・・・・・・?鏡の性質まで備えてるのか・・・??」
「あれ・・・・・・?きゃあああああああ!?」
反射された魔法は間が悪く、突進しようとしたマナに命中する。もろにくらって悲鳴を残しながら彼方へ吹き飛ばされるマナ。精霊ベゼルアイによる「硬化」を使っていたから、誰も死にはしないとは考えていたが・・・・・。しかし、これにより唯一、ミスリルを打ち破り得る物理的攻撃の可能な人物が戦いの場から退場してしまったのだ。
決定的な攻撃方法が無いのは、突進するしか芸のない向こうも同じだが、問題なのは向こうにスタミナというものがない点。生き物ではないのだから、疲れなど感じるわけもない。一方こっちは、攻撃をかわすだけでも疲労する。このままではじり貧だった。
認めたくなかった・・・・・。
が、頭は事態を整理し理解していく。
信じたくなかった・・・・。
が、現実は事実が真実であることを告げる。
「奇蹟の世代」と褒め称えられた、今年十四歳になる、アスカ、シンジ、マナ、レイの天才魔法使い達。その四人が、兵一軍に値するとまで冠絶された自分達が・・・。
今、敗北の縁に追いつめられている・・・・。招き猫を象ったふざけた物体に。変な奴の作った変な物に!
「認められるかーー!!なんで私がこんな物に!?この私が!この私がーーーー!!」
「でも事実よ。まず事実を受け止めて、勝機を見つけましょう。」
「そんなのイヤあぁーーーー!!」
「お取り込み中すんませんけど・・・・。」
頭を抱えて絶叫していたアスカが場違いにのんきな声に振り返ると、何故か無傷なアルがそこにいた。
「何よ、この非常時に。」
「いやぁ、俺がこの国に来たのは元々商売のためなんや。」
「それが何!?」
「で、遺跡で発掘したマジックアイテムとかがここでは売れるんやないかと思うて持ってきたんやけど。」
「・・・・本筋に入らないとあんたをあのゴーレムに投げつけるわよ。」
「遺跡と言えば、この前、俺が入った聖魔戦争時代の遺跡は・・・・。」
「今度は払うのは治療費じゃなくて香典ということになりそうね。」
「ああ!襟首掴んでそないな物騒なセリフ吐かんでもええがな。・・・つまり一撃必殺の強力なマジックアイテムがここに。」
「へえ・・・。それをあたしにくれると・・・・?」
「一個、100万ゴールド。二個セットなら199万9990ゴールドとさらにお得(はぁと)。」
「さよなら、アル。欲に目が眩んで命を落としたあんたを、人々はきっと後ろ指さして笑うでしょうね・・・・・。」
アスカはアルの襟首を握りしめ本格的にゴーレムに向かって投てきの体勢にはいる。
「いやぁ、本気やこのお人ぉーーーー!わ、わかりました。どうぞ、これをお納めください。伝説の魔闘家が使っていたという魔法の指輪。あなた様の様な偉大な魔法使いに使っていただければ故人もお喜びにぃぃぃーーーーー!!」
アスカとアルが馬鹿なやりとりを繰り広げている間、他の三人は・・・・。
「くっ、しまった!?」
「シンジ君!?」
いままで翼を展開して、空から呪文を放っていたシンジの体勢が揺らぐ。見れば翼の光量が薄くなってきている。白色破壊光線を長時間使用していることに限界がきたのだ。シンジは緩やかに、地面に落下する。そこを狙い澄ましたようにゴーレムが迫り来る。
「・・・・碇君!スノーレーザー!!」
レイがとっさに紡ぐ呪文。彼女の肌と同じ色の真っ白な光線は、今までで最大の威力をもってゴーレムにぶち当たる。さすがに大きくぐらつくゴーレム。が、致命傷とはならずすれた軌道修正して再びシンジに向かおうと・・・・。
「むわぁてぇぇぇぇい!!」
突然響く声、皆が一斉にそちらに向く。何故かゴーレムすらもくるりと向きを変えて声の主を見る。
いわずもがな、アスカが満を持し、そこに立っている。
「悪の造りし、悪の創造物。たとえ、天が許そうとも、正義の使者、この惣流・アスカ・ラングレーが許さない。正義の鉄槌を今こそ受けなさい!」
一方、草場の影ではアルが例の白い鳥に向かってぶつくさ囁いていた。
「なぁ・・・・・正義ってなんなんやろうなぁ・・・・・・。」
「いつでもどこでも使える便利な免罪符。」
「身も蓋もないやんか・・・・。」
ゴーレムが怒り狂ってかどうかはわからないが、猛スピードでアスカに向かって突進する。が、アスカは微動だにせず右手をゴーレムの方に向ける。その指にはアルから奪った指輪がある。それが今、赤く、赤く輝いている。
「あたしのこの手が光ってうなる!」
指輪の光は輝きを増し、アスカの右手を包み込む。
「あんたを倒せと輝き叫ぶ!!」
輝きはアスカの右手に収束する。その手自体が発光しているように・・・!
「ひぃぃぃぃぃさつっ!!!」
ゴーレムがもはや目前まで迫り来る。
「スーパーロイヤルファイヤーレーザーァァァァ!!!」
アスカが正拳を打つように拳を突き出す。それに伴い、紅の光が、輝く夕日の輝きも打ち消すほどの光量であふれ出す。その全エネルギーがゴーレムに向かって放出される。
光の奔流に押され、ゴーレムは吹き飛び向こうの岩盤に激突する。派手な音ともに岩盤そして、ゴーレムの銀色のボディも崩れ落ちる。しばし、からからと無意味に宙で回転していたキャタピラが止まる。
空耳か一瞬、悲痛そうな猫の声が聞こえた気がした・・・・・。
「終わったわ・・・・・・・。」
アスカが呟く。そう、今、悪が倒れネルフに平和が訪れたのだ。
「あのーーーー・・・・例の指輪返してもらえんか・・・・・?」
夕日をバックに勝利の余韻に浸るアスカに、アルが遠慮がちに声をかける。アスカは思い出したように右の掌を差し出した。手の上には赤い砂状の物がのっかっている。夜の空気を運びに来た風が時折、それを散らしていく・・・・。
「・・・・・・これは・・・・・?」
「いやぁ、一回使っただけで壊れちゃったわよ、これ。やっぱ不良品はだめよねぇ。ああ、お金払わなくてよかったぁ。」
「こ・・・・こわれ・・・・・?」
「ア・・・・アル様。お気を確かに・・・・・・。」
この戦いにおいて唯一致命的ダメージを受けたと言えるアルは、その場に崩れ落ち当分起きあがることは無かったという・・・・・。
「そう、あの子が死んだの・・・・・。」
塔の一室で、コーヒーをすすりながらリツコは静かに呟いた。マヤはそれを心配そうに見つめている。マヤはずっとゴーレム作成を手伝い、見守ってきた。あのゴーレムにかけるリツコの情熱や愛情も。それ故、リツコの気持ちが痛いほどわかるような気もするのだ。
なんとか立ち直ってほしい。そう思いながら、マヤは先ほど見つけてきた資料をリツコの前に差し出す。
「先輩!これを。」
「なに、これ?・・・・・・・数十年前の東洋の国ではやったキャラクター・・・・。こ、これはなんて画期的な!猫が制服を・・・・!」
「ね、可愛いでしょ。先輩!」
「・・・・・・・そうね。ふふふ・・・・・落ち込んだ私が愚かだったわ。そうよ、失敗はさらなる成功の糧となるもの。今度こそ造ってみせるわ。あいつらにも負けない無敵のゴーレムを!」
「がんばりましょうね、先輩!」
・・・・こうして、人知れずネルフに新たなる恐怖が訪れようとしていた・・・・。
あとがき
YOU「なんて言ったらいいのかなぁ、今回は。って言うか何から言い訳しようか・・・・。」
YOU「ま、とりあえずラストのアスカのは古いネタですが、僕がスーパーロボット大戦Fにはまっているとき思いついた話ゆえ・・・。すいません、わからない人には何のことだか・・・・。」
YOU「錬金術士について。実際の錬金術は古代エジプトに起こり、化学の基礎となったものです。金を造ろうとしたところは一緒ですが・・・。「黄金狂時代」は造語です。元ネタは色々ですね。「エメラルドタブレット」はどっかの本(オイ!)。高校時代、図書館で借りた本に書いてあったんですが・・・、良く覚えてない(タイトルはわからないのにこんなことは覚えてる(^^; )。わりかし有名な本だった
と思います。知ってる人居たら教えてください。賢者の石は有名ですからねぇ・・説明不要?。後何か言うことはないかな・・・・?」
リツコ「私の扱いに対する言い訳にすべきね。」
YOU「うぎゃわああああああああ!!なんであなたがここにぃ?今日はおとなしいシンジ君を呼んどいたのにぃーーーー!!」
リツコ「シンジ君?彼は向こうで眠ってるわよ・・・、ぐっすりとね。」
YOU「ああああ・・・・・・・。」
リツコ「さてと、エヴァにおいてインテリなおかつデルモ顔負けのルックスとスタイル。なおかつ冷徹怜悧。つまり、クールな知的美女の私が何故こんなマッドな性格なの?」
YOU「・・・・いや、それはその・・・・・。まぁ今回はギャグですから大目に・・・・。」
リツコ「そうね、大目に見て、ただ無意味に殺すところをモルモットとして有効に使ってあげることにしましょう。例の新薬、まだラットで実験段階だったけど・・・・・・・・ふふふ。」
YOU「いやああぁぁ!殺さないで!モルモットにしないでぇぇぇーーー!」