(ここは・・・・いったい・・??)
(僕は何をしてたんだっけ・・・・。)
ふと気がつくとシンジは魔法陣の中にいた。目の前にはレイが魔法衣を着て、いつも通り無表情に立っている。
(そうだ、僕は試合をしてたんだ、レイと・・・・・。)
レイはすっと腕を上げ、呪文をこちらに放つ。レイの掌から呪文に呼応して、輝く光がこちらに放たれる。
(よけきれない・・・・)
そう悟ったシンジは、気を集中させ「白く輝く翼」を出す。シンジの背中から生え、前を覆った翼はレイの放った呪文をはじく。シンジが翼を広げると、レイがさらに攻撃しようとする。シンジはとっさに叫ぶ。
「白色破壊光線!!」
翼から白い光がサァーーと放たれ、レイを照らす。光がさらに強まり、そして、レイの姿を覆い尽くす。レイの体が次第に光に溶けるように崩れていく。光が消えた後には焦げ跡だけが残る。
「ああ・・・・。」
シンジは自分のやったことに気づき頭を抱える。周りから飛ぶ様々な言葉がシンジの心に追い打ちをかける。
「人殺し!!」
「ネルフの悪魔が!」
「ネルフから出ていけ。」
「酷い・・・。あの子が何したっていうんだ。」
「私たちの目の前から消えてよ。」
「この・・・・・・・。」
「「残酷な天使」が!!」
シンジは周りの言葉に怯え、必死で自分のすがりつく者を探し、見つける。
「アスカ・・・。助けてよアスカ。」
シンジは魔法陣の傍らに立つ少女にすがりつく。
「みんな怖いんだ。でも・・、アスカは助けてくれるよね。僕のことを見捨てないよね。」
そう言って、アスカの肩に手をかけようとする。が、ばしっとかわいた音をたてて、その手がふりはらわれる。
「あたしに触らないで、人殺しが。気持ち悪いのよ!!」
がばっとシンジが起きあがる。心臓の鼓動が速い。体は汗でビショビショになっている。シンジは周りをみわたす。魔法陣ではなく、いつも見慣れた部屋の景色。そして、一瞬前まで自分が横たわっていたベット。
「夢・・・・?そうさ、夢に決まってるじゃないか。悪い夢なんだ。」
いつの間にかうつぶせで寝ていたらしい。うつぶせで寝ると、悪い夢を見てしまうんだよな、僕は。自分にそう言って納得させた後、シンジは汗で濡れた服を脱ごうとタンスを開ける。
「いっそのこと、全てが夢であってくれないかなぁ。アスカと会ったばかりの頃の自分が日向のあたる木陰で、アスカと一緒に昼寝してるときに見た夢。目が覚めたら、横にアスカの寝顔が有るんだ。そうだったら・・・・。」
そう言って、シンジはタンスに入っている、一着の魔法衣を見る。胸にネルフの紋章。そして腕には、太陽を模した将軍の腕章。シンジがネルフの光の将軍で有ることの証。
「こんな道は選ばなかったのに・・・・・。」
そう呟くと、シンジはタンスに入っていた普段着をとり、身につけると部屋をあわただしく出ていった。まるで部屋にこもっている残夢から逃げようとするかのように・・・・。
シンジはぼうっと、それを眺めていた。彼の視線の先にあるものは無惨に崩れた建物。そしてその残骸を撤去しようと、懸命に働いている人達。先だって、アスカとマナが破壊した試技場とその周辺の建物のものである。
それを見ながらシンジは痛烈な後悔に苛まれていた。といっても、シンジは建物が壊れたこと、つまり、アスカ達を止められなかったことを悔やんでいるのではない。シンジが悔やんでいるのは別のこと。
(どうして・・・、僕は・・・・・。)
シンジは自分の右手を握りギュッと握りしめる。
(もう、二度と使わないと決めたのに・・・・。あの魔法は・・。)
「シンジ君じゃないか。どうしたんだい、こんなとこで。」
「!?」
聞き慣れた声がして振り返ると、そこには長髪の男が立っていた。年齢は30になったばかりか。無精ひげや曲がったネクタイがだらしない、というより、余裕のある男という風に見せていた。シンジはその男をよく知っていた。
「加持さん!」
シンジのその声は驚きより、信頼と安堵の気持ちを含んでいた。
加持と呼ばれた男は、その言葉に少し微笑むとシンジの隣に立ち、先のシンジと同じように壊れた建物を見やった。
「僕は・・ちょっと考え事を・・。加持さんは、どうしてここに?」
「職業と人生の先輩として後輩の悩みを聞いてあげようと思ってね。」
加持は冗談めかしてそう言う。
加持リョウジ・・・シンジと同じく、ネルフの魔法軍の将軍の一人である。シンジにとっては優しい兄の様な人だったし、加持にとってもシンジはかわいい弟みたいなものであった。
「なんてな、本当は爆発の被害を直接見ておこうと思ってね。赤城がノイローゼみたいになってて、寝込んでるからかわりにね。」
確かに自分の研究施設に続いて、自分が院長を務める学院まで大破すれば、リツコでなくとも、寝込むのは当然だろう。
「シンジ君・・。事故の詳細は聞いたよ。白色破壊光線を使ったんだって?」
「ええ、アスカは結界が張って有ると思って使ったんですけど、魔法陣が壊れてて・・。」
「違うよ。アスカじゃない、君がだ。」
ピクッとシンジの肩が震える。加持が言った言葉は先ほどシンジが悩んでいたことそのものだった。
「僕は・・・・・使ってません・・・・・。あれは身を守っただけで、攻撃には使ってません。」
「使ったことを責めてるわけじゃない。むしろ逆だ、シンジ君。自分の力から逃げてばかりじゃ、またあのときの様なことになるぞ。」
「僕には・・・無理です。恐ろしいんです。レイとの試合の時も、まかり間違えば彼女を・・・殺していたかも知れない。」
「怖いのかい?シンジ君。自分の力が・・・。「残酷な天使」と称された力が・・・。」
ピクッとシンジの肩が震える。何か触れてはいけない物に触れてしまった、見たくない物を見せられた、そんな風な反応だ。
「シンジ君、君は「あのこと」以後も逃げずに戦うことを、将軍として戦うことを選んだ。しかし、ここで自分の力から逃げたら同じ事じゃないか?」
「わかっています。でも・・・・、今はまだ・・・。」
「そうか・・・。」
加持はそれ以上何も言わず、ただ目線を廃墟をの方に向けていた。
撤去の工事の音だけが定期的に辺りに響いていた。
「残酷な天使」。ネルフで彼のことをそう呼んでいる者はいない。
しかし、他国では、シンジはそう呼ばれていた。恐怖と侮蔑をこめて。
この言葉が出てくる原因になった「あのこと」は半年前にさかのぼる。
その日、ネルフは荒れていた。西方にある魔物の国より魔物の軍勢が迫っており、ネルフの魔法軍のうち、冬月コウゾウ率いる雷の軍と、加持リョウジ率いる炎の軍はそれを撃退すべくネルフの西方へ遠征していた。
が、それを好機とみた盗賊団が大挙して、東方の都市ゼーレで略奪を始めていた。それを鎮圧しようと向かったのは、葛城ミサト率いる氷の軍、そして、一ヶ月前将軍に就任したばかりの碇シンジ率いる光の軍であった。
「どうしたの、シンジ君。怖い?」
紺色の魔法衣に身を包んで、シンジに並んで歩いている葛城ミサトは、隣で浮かない顔をしている同僚に声をかけた。
「いえ・・・・、ただ・・・加持さんも冬月さんもネルフを守るために魔物と戦ってるのに、同じ人間が、ネルフの街を襲うなんて・・。」
これが、魔物相手ならシンジもここまで沈んでいないだろうが、相手が人間ではさすがにためらいが出る。
「シンジ君、初めて同じ人間相手に戦うことになっちゃったけど大丈夫よ。なるべく殺さずに捕まえるなり追い払うなりするのが任務なんだから。」
とはいったものの、ミサトとて嫌な気分になるのは隠せない。だが、シンジを見てると、自分がしっかりしてないと、という思いにとらわれるのだ。なんとかシンジを励まそうとしていたミサトは、さっきからシンジの胸の辺りで揺れてる、小さな袋に気がついた。
「シンちゃん、それ何?お守り?」
ミサトはその袋を指さし、シンジに尋ねる。
「ええ。アスカが出陣する前にくれたんです。手作りのお守りだって。」
「ふーーん。愛しのお姫様のプレゼントってわけね。」
からかうようにいうミサトに真っ赤になってうつむくシンジ。そんなシンジをみて、周りの兵士達もドッと笑たり、冷やかしたりする声が聞こえてくる。
しかしそんな和んだ空気も瞬時に緊張する羽目となった。傷ついた市民が数人、街が今、盗賊に襲われていると助けを求めてきたのだ。
「ゼーレの街の入り口は北側と南側の二つしかないわ。だから、はさみ撃ちにするのが常とう手段ね。それじゃ私は北から、シンジ君は南から攻めてね。なるべく逃さず、殺さず、捕まえるのよ。」
そう言って、ミサトは氷の軍を率いて北の方へと向かった行った。シンジも軍を率いるべく、副将に声をかける。
「じゃあ、僕らも進軍するよ。」
そう言うシンジにみな快く応えてくれる。普通、当時十三歳の少年が将軍を務めるなど異例の事だが、皆、この若すぎる将軍を慕い、特に彼の倍はある年齢の副将はよくシンジを補佐してくれた。
「しかし、将軍はうらやましいですねえ。あんなかわいいお姫様が恋人なんですから。」
少し緊張しているシンジをリラックスさせようと、副将が冗談めかして言う。
「そ、そんなんじゃないよ。アスカ・・・じゃない、姫様は幼なじみだから・・・。」
そうは口では言っても、真っ赤になった顔は否定して無かった。そんなシンジをほほえましく思いながら、副将はさらに言葉を続ける。
「実は自分の嫁さんも幼なじみだったんですよ。最も、こっちの幼なじみは手作りのお守りを持たせるなんて純情さは無くなっちまいましたが・・・。」
シンジは自分の不安が少しずつ消えていくのを感じた。彼は、年齢のかなり下のシンジの部下に配属されても、まったく不満が無いように見えるし、シンジとも等身大でつきあってくれた。
思えば、緊張がほぐれた分、油断していたのかも知れない。
突如、誰かの悲鳴が聞こえてきた。
「敵だ!盗賊が出たぞ!!」
シンジ達は盗賊の奇襲にあった。街にいるはずの盗賊が何故ここに・・。そのシンジの疑問は一瞬に解明された。あの町人はおそらく盗賊に脅されて自分たちに情報をもたらしたんだろう。そうすれば、必ず盗賊たちを一網打尽にすべく挟み撃ちにしてくる。その一方を奇襲で破り、突破する。それにシンジ達はまんまとかかった。
「盗賊にそんな知恵があるなんて・・・・。」
たちまち、辺りは悲鳴と怒号に包まれる。魔法部隊の戦い方は通常、離れて相手を魔法で撃つものだ。接近されてはひとたまりもない。シンジは混乱しながらも、何とか指示を出す。
「距離をとって、出来るだけ時間を稼ぐんだ。ミサトさんの軍が間もなく助けに来る。」
そう叫びつつ、シンジは魔法で敵を気絶させていく。雷撃系の呪文なら加減さえ間違わなければ気絶させるのには都合がいい。
「魔法で弾幕を張って、敵を近づけさせないで。」
シンジの指示に従って、魔法が飛び交い、敵が倒れていく。体勢は立て直しつつあったが、数が多く苦戦を強いられていた。その時、
「将軍、後ろ!!」
その声に振り返ったシンジの目に映ったものは、さっき気絶させたはずの盗賊が刀を振り上げている姿だった。とっさに後ろに飛んでかわすシンジ。一瞬の差でシンジの命をとらえ損ない、空を切る盗賊の刀。そして、シンジの首の代わりとでもいうように、首に掛けてあったお守りが切り離され宙を舞った。
シンジは後ろに飛んだ後、バランスを崩し地面にへたりこむ。落ち着いて行動すれば簡単に切り抜けることが出来たであろうが、死の恐怖に縛られ冷静に動くことが出来ない。シンジは救いを求めるように、自分の首から落ちたお守りに目をやる。シンジの頭の中にお守りを渡されたときのアスカの言葉が浮かび上がる。
シンジ、ほら、お守りよ。いい?こんなつまんないことで死ぬんじゃないわよ。
死ぬんじゃないわよ・・・・。
ぐしゃっ
今度こそシンジをしとめようと歩み寄った盗賊が、少女の込めた思いごとお守りを踏みにじった。盗賊は故意に踏みつけたわけでは無かっただろうが、シンジにはそう感じられた。
「うわあああああああぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっ!!」
絶叫がほとばしる。それは何故か、悲鳴など珍しくない戦場でもよく響き、全ての音を打ち消した。戦っていた盗賊達も、応戦していた魔法使いも、皆、シンジの方を見る。 シンジに刀を振り下ろそうとした盗賊も動きが止まる。
シンジは頭を抱えて叫んでいる。シンジの体がそのまま徐々に輝いていく。最初は小さな光だった。それが徐々に強くなる。徐々に・・・徐々に・・・。そしてそれはやがて、シンジの背中に集まり、一対の翼を形作る。
「白色破壊光線・・・・?」
魔法使いにはそれがわかった。だから、慌てて退避しようとした。が、盗賊にはそれがわからなかった。シンジの目の前にいた盗賊も、ここで、逃げれば良かったのだ。だが、彼の、「魔法使いなど呪文を唱える前にやっちまえばたいしたことねえ」、という単純な思考は彼に握った刀を振り下ろさせた。
パキンと乾いた音がして刀が砕け散る。刀は翼にはじかれた。だが、盗賊の殺意は翼をとおりにぬけシンジに届く。
その殺意に反応するかのように、光はシンジの背中に収束し、それは光り輝く大きな翼になる。羽がバッと宙にはためいた時、シンジは顔を上げて叫ぶ。
「白色破壊光線!!。」
瞬間、シンジの羽から目の前の盗賊に向けて白く輝く光が放射される。羽から放たれた光はまさに神の威光の如く、全てを焼き尽くし、消し去る。それは目の前の盗賊を包み、そして・・・・・。
ミサトの軍が駆けつけて、ミサトが最初に見つけたもの、それは顔を地に伏せ泣き崩れるシンジだった。そして、次に戦いの後を見渡したとき、ミサトを心臓がえぐられるような感覚が襲った。
「シンジ君・・・ごめんね・・。私のミスだわ・・・。」
「ミサトさん、僕は人を・・・。怖くて、目の前の人を殺さなきゃ、僕が殺されると思って・・・。」
「シンジ君、ごめんね。ごめんね。」
ミサトはそう言いつつも、シンジがこの事態をわかってないことに気づいた。シンジは目の前にいた盗賊だけを殺した。そう思ってる。が、ミサトが目の当たりにした光景は違った。
「シンジ君、落ち着いてよく聞いてね。あなたの攻撃は・・・。」
ミサトがそう言いかけたとき、シンジはミサトのその言葉に続く文字が「はずれた」であること、そう望みをかけ、顔を上げた。しかしそこには・・・・。
何もなかった。地面には影だけが残っていた・・・・・・無数に。
それが何を意味するか、最初、シンジにはわからなかった。だが、兵士達の恐怖の顔、哀れみの顔、そして、周りにとらえられた盗賊が一人もいないこと。それは少年に残酷な事実を知らせた。
ドクンドクンドクンドクン・・・・・・・・
殺した・・・・
ドクンドクンドクンドクン・・・・・・・・
たくさん・・・・
ドクンドクンドクンドクン・・・・・・・・
一人残らず・・・・
ドクンドクンドクンドクン・・・・・・・・
僕が・・・・
ドクンドクンドクンドクン・・・・・・・・
みんな殺した・・・・
ドクンドクンドクンドクン・・・・・・・・ドッ!!
ミナゴロシ!!
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっーーーーーーー!!!」
第四話 終わり
あとがき・・・というか断罪?
ミサト「というわけで今回はいきなり作者の断罪から始めるわよ。」
YOU「だ、断罪?僕がいったい何をしたというんですか。」
ミサト「とぼけるんじゃないわよ。あなたは三つの大罪を犯したわ。」
YOU「み、三つですか・・?」
ミサト「まず一つ目は・・・、あんたがメゾン200k達成記念に書いたSSよ!」
YOU「あれですか?しかし激励や感想はあれど、抗議のメールはきませんでしたよ。」
ミサト「大家さんが弁護してくれたからでしょうが!しかも、抗議が来てないことをいいことにまた書こうとしてるわね。」
YOU「ええ、お部屋が10kヒットにでもなったら、「新世紀のための残酷童話」とでも名付けてシリーズ化を・・・。」
ミサト「マニアックなものを引用してきたわね。反省の色無し。まあいいわ。二つ目はもう一つの連載の方よ。」
YOU「うっ・・・・。それは・・・。」
ミサト「そろそろ続きはどうなったっていう意見も出てきてるわよ。」
YOU「い、いつか書きますんで・・。」
ミサト「あなたの「いつか」なんて日は永遠に来ないって周りから散々言われてるでしょう。まさか続きを考えてないんじゃ・・・。」
YOU「め、滅相もない!」
ミサト「怪しいわね・・・。では、最後、これが一番罪が重いわ、三つ目の罪は・・・・。」
YOU「それこそ本当に心当たりがないんですが・・・・。」
ミサト「なんで私がこんなにへっぽこなのよーーーー!!私はネルフの作戦部長なのよ。その私が盗賊ごときにしてやられるなんて・・・。」
YOU「いや、それにはちゃんとした理由が・・・次回はそれを・・・。」
ミサト「やかましい!スノーレーザー!!」
シュォォォォォォ・・・・・
YOU「ぐはぁ!さ、最後に次回の予告を・・・・、本当は今回と併せて第四話だったはずの次回、第五話「やっぱりシンジ君にはフォントサイズ”7”の絶叫がよく似合う。」(大嘘)、み、みんな読んで・・・・がくっ・・・。」
YOUさんの『魔導王シンジ』第四話、公開です。
戦いの前に
[帰ったら結婚する]
[国で女房が待っている]
と言った物は戦死する。
この黄金パターンから、副将は死ぬんだと思っていました(^^;
生き残りやがったか、チッ(^^;;;
シンジの心の傷。
癒せるのは・・?
さあ、訪問者の皆さん。
スノーレーザーに耐えるYOUさんに感想メールを送りましょう!