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魔導王シンジ


第三話 塔の聖女達 




ネルフ王国の中央にそびえる、球殿・ジオフロント。ジオフロントはネルフ建国以前から存在している。その8割が地中に埋まっている巨大な球状の空洞で、ネルフは地上に出ている部分を王宮として使用しているに過ぎない。
この王宮は10年前、ヘルマンとリーザスの軍が攻め込んだときも小揺るぎもしなかった。理由は王宮の四方に立つ巨大な塔にある。四つの塔では、それぞれの塔の守護者達が王宮の周りに結界を張っており敵はその結界を越えることが出来なかったのだ。
しかし、その塔の守護者になるには条件が二つある。一つには魔力が強いこと。これはそうやっかいではない。ネルフは魔法国家を名乗るだけ有って、人材が豊富である。問題は二つ目の条件。それは守護者が「聖女」であること。「聖女」とはつまり・・・・

「冗談じゃ無いわ!!」

ドンっとアスカが握り拳をつくってテーブルを思いっきり叩く。テーブルが衝撃でがたがたと震えたが、それ以上にアスカは怒りで震えている。テーブルについているのは四人の女性、といっても3人は少女だった。
一人は、この国の王女アスカ。赤みがかった美しい髪、青い透き通った瞳、整った顔立ち、これで気品が備われば、誰しもが名乗る前からどこぞの王族だろうと悟るだろう。
そして、アスカの両脇にはアスカと同じ王立魔法学院の制服を身につけ、年齢も同じ二人の少女が、一方は冷ややかに、もう一方は楽しげにアスカの方を見つめていた。
冷ややかな方は青いショートカットの少女、綾波レイ。楽しげなのは赤いショートカットの少女、霧島マナ。レイはどうか知らないが、マナの方は明らかにアスカの怒る理由を知っていて、楽しんでいる風体だ。
そして残る一人、当のアスカの怒りの矛先が向いている白衣の女性、赤城リツコは平然と、テーブルの地震から逃れたコーヒーをすすっていた。

「何が不満なの、あなたを「塔の聖女」に任命しただけじゃないの。」

コーヒーをテーブルには置かず、手に持ったままリツコが言った。

「アスカ王女・・・。あなたの魔力はネルフでも有数の強さよ。ネルフの守りの要足る「塔の聖女」になるのに不足が有るとは思えないわ。」

感情の全くこもって無い声でレイが言葉を紡ぐ。それがなおさら感に触るのかアスカが反論する。

「別にそんなことで文句を言ってるんじゃないわ。私が気にくわないのは・・・。」
「私たちと同じ「塔の聖女」って仲間になることかな?」

それに応えたのは別の方向。マナのその問いはアスカが拒否する理由がわかってて聞いているのだ。

「それもあるけど、違うわ。私が気にくわないのはそのもう一つの条件って奴よ。」
「そっちもあなたは満たしてるはずよ。あなたは聖女じゃない。」
「それよ!聖女っていうのはつまり・・・その・・・。」

言いにくそうなアスカ。それを忘れて言い出せないと思ったのかレイが代弁する。

「男と交わってない・・・・・。つまり処女ってこと・・・・。」
「それよ!なんなのよ、その訳わかんない契約内容は!」
「アスカの場合、処女は「塔の聖女」になるためじゃなく、愛しのシンジ君に捧げるためにとってあるんだもんねーーー。」

マナの言葉にアスカの顔が怒りではなく、今度は羞恥で真っ赤に染まっていく。

「あ、あの馬鹿は関係ないわよ。わ、私は何で私があんな目にあうのかという・・。」
「あんな目?」

リツコの、頭は金髪なのに黒い眉毛がピクリと動く。

「あなた!前任者の「塔の聖女」を務めること80年間、外敵からネルフの平和を守るため結界をはりつづけ、先週見事、処女のまま大往生した梅沢トメさんの生き様を望まないわけ?」
「誰が望むかあぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」

バキャアァァァァ!!

アスカが絶叫と共に、こぶしを再度たたきつけられたテーブルは哀れ、その短い生涯を終える羽目となった。

「他にもいるでしょうが!あんたの弟子の伊吹マヤなんかはどうなのよ!」

そう言ってビシッと指をリツコに突きつける。しかし当のリツコは右手を両目にかぶせ、うつむいて、疲れたように呟く。

「アスカ・・・。百の敵を葬るのに、千の味方を巻き添えにすると言われるあのN2爆雷級の暴発娘、マヤをネルフの守りの要にしろと・・・?」
「・・・・・リツコ・・。失言だったわ。余裕無いのね、あたし。」

アスカが気まずそうに目をそらす。先月もリツコの所属する塔から轟音と共に、青白い炎が天にとどかんとばかりに燃えさかっていたのがこの場にいる4人の脳裏に浮かんだ。 リツコの塔内の研究施設の50%を吹き飛ばした、この事故の原因がマヤの「最近、先輩の部屋にゴキブリが出るようですから退治しときますね。」であることは周知の事実である。

リツコがその時の悲劇を思い出したのか、うつむき沈黙してしまったので、代わりにマナとレイがアスカの説得に向かう。

「アスカ、別に一生「塔の聖女」をやれっていうのじゃないのよ。代わりが見つかればそれで・・。」
「そう・・、特にあなたは王女として、将来、女王となり後継者を生む義務があるわ・・。」
「他人事だと思って、軽く言ってくれるわねぇ・・・・。・・・・そういえばあんたらはなんで「塔の聖女」なんてやってるの?」
「仕事だから・・・・。」
「わ・私は・・・。」

レイはさも当然のように応えたが、マナは言葉に詰まってしまう。さっきからやられてばかりのアスカは反撃のチャンスとばかりにさらにマナに言葉を浴びせる。

「そりゃそうよねぇーー。なにせ、男に逃げられてやけになって「塔の聖女」になったなんて恥ずかしくて言えないわよねえ・・・。」

ドグサッ!

アスカの放った言葉の矢は、もろにマナの胸に突き刺さる。続けて、とどめとばかりにアスカは毒舌という名の弓を引く。

「あげくの果てについた二つ名が「鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)」じゃねぇー。笑い話にもなんないわね。」

アスカはそう言った後、わざとらしく右手の甲を左の頬に当て、高笑いする。が、それとは別にマナも笑っている。しかしそれは敗者の笑みでも、まして、開き直りの笑みでもない。

「ふ・ふ・ふ・・・・・・・。」

それは怨念の笑みだった。あまりの不気味さにアスカも笑い顔のまま凍り付く。

「言ってはいけないことを言ったわねぇ・・・。ムサシの事だけは言うべきじゃ無かったわ。」

ムサシとは逃げられた男の名だっただろうか・・。そんな言葉も出ないほどアスカはマナから立ち上る殺気に対応できないでいた。
その時、がたっと音を立てて、沈黙を守っていたレイが立ち上がり、部屋を出ようとすたすたと歩いていく。

「ど、どこに行くのよ。」

アスカがレイに声をかける。が、その目は「私を一人にしないで。お願い助けて。」と語っていた。それが通じたのかどうか、レイがそれに答える。

「学院の講義の始まる時間・・・。遅れるから・・・。」
「講義の時間・・・。そうだわ、私も出なきゃならなかったのよ。いけなーい、早く行かないと。」

天からの恵みとばかりの、アスカがその話に乗る。本当は何の講義かも知らないのだが。

「講義・・・?、今日の講義って確か・・・・。・・・おもしろそう、私も行くわ。」

マナがいきなりにこにこと笑いだして、その提案にのる。アスカはその変わりように不気味だと思いながらも、素直に講義に向かうしかなかった。それがとんでもない間違いだとも気づかずに・・・・・。

そして、三人の少女が去った後には、「生きてれば、生きてさえいれば、どこだって・・・。」とぶつぶつ呟いている白衣の女性だけが残った。




「冗談じゃないわよおぉぉぉーーーーー!!」

アスカがお話の冒頭と同じセリフを、今度は怒声と言うより悲鳴に近かったが、轟かせる。

「なーに、アスカ?あれだけ出たがってた講義じゃない。」

マナがにこにことアスカに話しかける。

「こ、講義の内容が生徒同士の魔法戦試合なんて聞いてないわよ!」
「あれ、それが楽しみじゃなかったの。私なんてこの講義でアスカと試合するの、すっごく楽しみにしてたんだけどなー。」

マナが足で床に「の」の字を書きながら、周りを見渡す。広さは普通の学校の体育館の倍ぐらい。違うのは中央に巨大な魔法陣があること。普通、剣術の試合では刃引きの刀を使うが、魔法となると殺傷力を押さえるために、このような簡易結界内で戦う。この結界内では魔法は本来の威力の三分の一ほどになってしまう。さらに、魔法陣内の魔法は外には漏れないよう障壁の役目も果たす。
それでも油断すれば、怪我、もしくは死亡してしまうこともある。学院内で1、2を争うほど危険な講義である。アスカは自分のうかつさを呪った。

「アスカー、頑張ってーー。」

事情を知らないのんきな声が背後から聞こえた。アスカが振り返るとそこにいるのは見なれた幼なじみの男の子。

「シ、シンジ?どうしてここに?」

アスカの質問にシンジはやはりのんきに答える。

「え?学院中の注目の的だよ。「始祖の再来」惣流・アスカ・ラングレーと、「鋼鉄の処女」霧島マナの好カードだって・・・。」

そう言えば、ギャラリーの数が異常に増えている。会場にあふれんばかりだ。そのギャラリーに愛想良く手を振っている、マナをアスカがきっと睨む。

「マナ・・、どういうこと・・。」
「え・・・・?だって、なるべく大勢の人に見てもらいたいじゃない?滅多にみれないもん、こんな試合・・・。あなただって愛しのシンジ君に見てもらいたいでしょ、自分の勇姿。」

アスカにはその言葉は、「なるべく大勢の観客に見せてあげたいわ。アスカ、あなたが無様に地べたに這いつくばる様をね。特にシンジ君の目の前で、赤っ恥かきなさい!」に聞こえた。
事実、マナの腹の中はその通りだったのだが、そんなことはおくびにも出さず、にこやかにシンジに話しかける。

「シンジ君、アスカの応援もいいけど、ついででいいから私の応援もしてね。」
「う・うん・・・。」

赤くなって応えるシンジに、アスカは爆発寸前になる。それにわざわざシンジが油を差す様なことをいう。

「そういえば、アスカ。「塔の聖女」に選ばれたんだってね。おめでとう。」
「・・・馬鹿ーーーーーーーーー!!!」

パシーーーーン

キジも鳴かずば・・・・・・・。

真っ赤に頬を張らしたシンジにレイが近寄ってきて声をかける。

「碇君・・・。」
「え?あ、綾波・・・。」

シンジが少しうろたえる。シンジとレイは特に交友が有るわけではないが、レイはよくシンジに話しかけてくるし、シンジも何故かレイのことが気になっていた。

「魔法戦の相手・・・してくれない?」
「え?綾波の相手いないの?」

言ってから、シンジは「まあ、それはそうか」と思った。「塔の聖女」なおかつ「殺人人形(キリング・ドール)」の異名までつけられる程、レイは魔力が強かったし、みんな恐れていた。噂では父親に徹底した英才教育を施されているらしい。そんなレイの相手を出来るのは、同じ「塔の聖女」、あるいはネルフの将軍達ぐらいろう。

「碇君なら・・私の相手しても大丈夫・・・。ネルフの最年少の将軍だから・・・。」
「うん、別にいいよ。」
「ありがとう・・・・。」

レイが少しだけ微笑む。レイの笑顔を見る事が出来る人間など、親を除いてシンジぐらいだろうが、シンジはその意味を悟るでもなく、早速エントリーしに行く。
一方、その意味を知るアスカは、シンジが帰ってきたら景気づけと称してもう一発叩いてやろうと心に決めていた。

そして・・・・・・、決戦の火蓋は切られた。




「氷の矢!」
「火爆破!」
「ライトニング・レーザー!!」

響きわたる呪文の声、そして、爆音。生徒達の試合が始まったが、観客一同にとってそんなものは前座に過ぎない。そして、いく試合かが消化した後、わっと観客から歓声が上がる。

「おお、あれは光の魔法軍の将軍、碇シンジじゃないか?」
「この国最強と誉れ高い「塔の聖女」の一人、綾波レイと、四大将軍の一人、碇シンジか。」
「メインイベントに並ぶ、好カードだ。」

そんな声が聞こえるのか聞こえてないのか、シンジとレイは黙って魔法陣に立つ。魔法陣は直径、10メートルの円の形をしている。その円の端に立ち、二人は合図を待っている。

「心配ねぇ、レイとやり合うなんてぞっとしないね。」

マナが傍らにいるアスカに話しかける。

「レイはシンジに好意を持ってるから、無茶はしないわ。」

アスカがそう言ったが、どこか不安を感じるのも事実だ。それを見透かしたかのようにマナが言う。

「アスカ、わかってないね。レイが「殺人人形」と呼ばれてるのは伊達じゃないわよ。」

アスカの不安はさらに膨らむ。それを打ち消すためアスカがシンジに声をかけようとした矢先。

「それでは双方、初めてください。」

試合開始の合図が出る。
シンジはさっと身構え、レイの出方を見る。が、レイは全く動く気配を見せない。その様はまさに人形を連想させる。

(じゃあ、こっちから・・・いく!)

「ファイアー・レーザー」

シンジの言葉に呼応して、炎が光となり一直線にレイに向かう。結界で押さえられてるとはいえ、十分な威力を発している。が、レイはかわす気配すら見せない。

バシュウゥゥゥ・・・

レーザーはレイに当たる直前で消滅する。会場の全ての人間が驚愕する。

「バリアで・・・打ち消した・・?」

シンジですら、今のは呆然とするに足る出来事だった。魔法使いのバリアは普通、低級の魔法をかわす、あるいは、威力を削ぐために使われる。それでシンジの全力ともいっていい呪文を完全に打ち消すなど、よっぽど魔力に差がないと出来ないことを、レイはやってのけた。

「バリアも魔法だから、結界で弱まっている。つまり、レイは実力でシンジの魔法を防ぎきったってこと?」
「そんなことは、私もアスカもできないわ。ううん、ネルフの他の誰もそんなことは出来ないはずよ。つまり・・・・。」

(魔力だけならあるいはネルフ一か?)

シンジのその疑問の答えとでもいうように、レイはすっとシンジに右手を向ける。

「スノー・レーザー・・・。」

ゴウウウウゥゥゥ・・・・・

レイから放たれた氷のレーザーは、シンジに凄まじい勢いで直進してくる。もし、シンジがレイと同じようにバリアで防ごうとしたら、魔法陣の外まで吹き飛ばされるだろう。

「ファイアー・レーザー!」

シンジはレイの呪文に自分の呪文をぶつける。真正面からではなくレイの呪文の軌道を変えるように、角度をつける。そして、魔法を放った勢いでそのまま左後方に跳ぶ。

ドオオォォォォン・・・・・・

シンジはぎりぎりでかわす。シンジのすぐ真横で、魔法が着弾し、轟音をたてる。
見ていたアスカはほっと息をなで下ろす。が、またすぐ息をのむ羽目になった。レイがすぐさま、呪文をかわしたシンジに今度は左手を向ける。

「ライトニング・レーザー・・・・。」

今度は電流のレーザー。地面に衝撃波を走らせながら、それが体勢を崩したシンジに向かっていく。

(二発目?そんな、あれほどの呪文を連続して放てるなんて・・。)

シンジは誰の目からみてもかわすことは不可能だった。

「シンジ!!」

アスカは思わず叫ぶ。が、その叫びは魔法の爆音に遮られた。会場中を戦慄が走る。今の呪文の威力では死ぬことは無かったとしても、まともに食らっていればたんかで運ばれることは間違いないだろう。
シンジのいたところはもうもうと煙が立っており、その姿を確認できない。

「レイ、あんたよくも・・・・。」

アスカがレイの方を憎しみをこめて、睨み付ける。が、レイは平然と、煙の方を見つめている。やがて・・・・・煙が晴れてくると同時に、煙の中から光が漏れだしてくるのがわかる。 その光は煙を押しのけるように、徐々にその輝きを増していく。

「この光・・・、白色破壊光線?」

やがて、煙が完全に晴れると、中から白い光に包まれたシンジが出てきた。その光は、シンジの背中から、一対の羽のように生えており、シンジの全身を包むように守っている。

「天使・・?」

その姿はまさに天使のようだった。翼はおそらく、白色破壊光線の変形した姿。その羽がレイの魔法を防ぎきったのだ。やがて、フワッとその羽が羽ばたき、そして、消える。
羽が完全に消えると、シンジはふっとため息をつく。

「僕の負けだね・・・。」

そう呟くシンジの足下はわずかに魔法陣の外に出ていた。呪文に押されたのだろう。魔法陣の外に出ることはすなわち負けを意味する。

「そ、それまで、勝者、綾波レイ。」

審判が思い出したように、勝ちを宣告する。シンジはちょっと疲れたように魔法陣を降りる。

「碇君・・・・。」

レイが追いかけるように、シンジに声をかける。

「ごめんなさい・・・・・。」

そういって、謝るレイをシンジは本当に不思議そうな顔で見る。

「どうして謝るの?綾波は勝ったんだよ。嬉しくないの?」
「嬉しい・・・?わからない・・・。でも、碇君に悔しい思いをさせてしまったことはわかる。だから・・・。」
「悔しいよ。悔しいけど、それは自分の力が足りなかったことが悔しいんだよ。綾波が謝る事じゃないよ。」
「・・・・・・」
「それに、綾波の魔法、凄かったじゃないか。もっと喜べばいいのに・・。」
「・・・勝ったことは嬉しいかどうかわからない・・・。でも、碇君にそう言われるのは嬉しい・・。」

そう言って、うつむくレイにシンジが手を差し出す。

「??」
「握手だよ、綾波。試合が終わったらこうするんだ。」

シンジが差し出した手をレイがおずおずと差し出す。そんなレイの手をシンジはぐっとつかむ。レイの顔が少し赤く染まる。

(何?この気持ち。戦いが終わった後はむなしさしか残らなかったのに・・。今は・・・・嬉しい?)

「シンジ・・・・、お取り込みのところ申し訳ないけど、あたし、今から試合しに行くんだから・・・どいてくれない。」

背後からの殺気を含んだアスカの声に、シンジがびくっとしてレイの手を離し後ろを振り向く。

「ア、アスカ・・・。」

アスカはシンジの方を、次いで、レイの方を見る。レイはアスカと視線を合わせるでもなく立ち去って行った。

「アスカ・・・、試合頑張って・・。」

アスカはその言葉に向き直る。顔は真っ赤になってるが、それは怒りのためではなかった。

「シンジ、さっきは残念だったわね。でも・・その・・かっこよかったわよ、シンジ。」
「え?今なんて?」
「・・・・・何でもないわよ、バカシンジ!!」

間抜けにも聞き返すシンジにアスカが思わず怒鳴り返してしまう。そして、そのまま魔法陣に駆け込む。
マナの方はもうすでに魔法陣内に入り、観客に愛想を振りまいている。やがて、アスカが魔法陣内に入ったのを確認すると、

「審判さーん、始めちゃってーーー。」

と、脳天気な声を上げる。

「そ、それでは、双方、始めてください。」

その声と同時に二人は即座に呪文を唱える。

「ファイアー・レーザー!」「スノー・レーザー!」

二人から放たれた、真紅の光と白銀の光は、二人の間の空間で絡み合い、消滅する。

「魔力は・・・」
「互角ね・・・。」

こうなると、勝敗を決するのは小技の使い方という風になる。それをわかって再度呪文を唱えるが、先に呪文を発したのはマナだった。

「炎の矢!」

マナの指から炎の矢が次々と発射される。

「ちっ!」

アスカはやむをえず、呪文を中断し、バリアを張る。その間にも、マナは呪文を唱え続ける。

「まだまだ・・・・、氷の矢!」

マナは低級の呪文を連発しながら、間合いをつめていく。呪文によって生み出された矢は次々とアスカのバリアに防がれ消滅していく。

(何を狙ってるの?)

やがて十分に間合いの詰まったところで、マナは突如呪文を変える。

「そろそろね・・・雷撃!!」

その瞬間、目もくらむような雷光が、アスカに落ちる。滝のような雷はアスカの頭上から降り注ぎ、バリアに当たって四散し、流れ落ちる。

「くう・・・。」

バリアで防ぎきれない呪文がアスカの身に降りかかる。そのうえ、激しい閃光で、アスカは周りが全く見えない。

(バリアの内側から攻撃すれば、呪文は易々と命中するわ。勝負あったわね。)

そう考えている、マナの右手には雷がまといつかせてある。雷の矢の応用。矢を発射せずそのまま、右手にとどめてある。これで、バリア内部へ進入してから一撃すれば魔法使いであろうと昏倒する。先週、シンジがスリ相手に使った技でもある。勝利を確信しつつ、マナはバリアの中に進入する・・・・。が、

「アスカがいない?」

マナはバリアの中を見渡したが、そこには誰もいない。代わりにそこには赤黒い砲丸のような玉が置いてある。マナがそれが何であるか察知し、逃げようとした瞬間、バリアの外側から声が聞こえる。

「火爆破!着火せよ!」

マナは足下の玉がその声に呼応して爆発する。マナはバリアを展開する暇もなく爆風に巻き込まれる。

ズドオォォォォォン・・・・・

もうもうと煙が上がるのを見上げながら、アスカが高らかに宣言する。

「勝負有ったわね。あたしがそのままじっとしてると思ったの?そんなことだろうと、バリアと魔法で作った爆弾をその場に残して、立ち去った訳よ。出るとき、雷でちょっと焦げちゃったけど。」

確かにせっかくの勝ちポーズもあちこち焦げ付いていては様にならない。勝者を宣言しなさい、とばかりにアスカが審判の方を見上げたとき。

「うふふふふふ・・・・・・・。」

不気味な笑い声が、煙の中からこだまする。恐ろしく嫌な予感と共に、アスカが振り返るとそこには・・・

「アスカ・・・・、やってくれたわね。」

全身を焦げ付かせ、仁王立ちするマナの姿があった。自慢の赤い髪のショートカットも無茶苦茶になっている。それでも、なお、にこにこな笑いを絶やさない彼女は、ハッキリ言って恐ろしく不気味だった。

「・・・・・おそろしくタフね、あんたって。いくら、魔法陣に呪文が押さえられてるといっても。」
「遊びは終わりよ、アスカ。「鋼鉄の処女」の二つ名の由来、教えてあげるわ。」
「だから、男に逃げられたからでしょ、知ってるわよ。」
「その減らず口も、これまでね。」

マナがさっと、右手を高らかに挙げる。そして叫ぶ。

「我が名は霧島マナ、契約に基づきいでよ、「力」のベゼルアイ!!」

こおぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・

マナの右手に立体的な魔法陣が浮かび上がり、光がそれに収束していく。

「精霊魔法!?これを使える人間が?」

アスカが驚きの声を上げる。精霊使いなど、今では殆どいない。精霊が人間の前から姿を消し始めたからである。よって、契約するなど容易では無いことだ。だが・・・・。
やがて魔法陣から、小さな女の子の様なものが姿を現す。マナはそれに向かって話しかける。

「我に力を・・・・。」

その言葉を聞いた精霊がこくりとうなずくと、すっとマナの体に入っていった。その瞬間、マナの体が青い炎の様なものに包まれる。そして・・、マナがゆっくりとアスカの方に向き直る。

「さ・て・と・・・・・・・いくわよ!!」

バンッとマナが土を蹴り、なんとこっちに直進してくる。

「精霊がなんだっていうのよ。食らいなさい、ファイアー・レーザー!」

アスカの放った呪文がマナに直進するが、かわす様子すら見せない。直撃する・ ・・そう誰もが思った瞬間、

バシーーン!!

マナが呪文をはじき飛ばした。・・・・素手で。先ほど、レイがバリアでシンジの呪文をはじき飛ばしたときは、まだ常識の範囲内だった。だが、マナのそれは常識を越えていた。
いかに、呪文が弱まっているとはいえ、素手で呪文をはじき飛ばすなど・・・。

「ほんとに人間なの?あんたは!」

マナはそのままアスカに素手で殴りかかってくる。アスカはかろうじてかわす。

ドゴオォォォォ・・・・・

鈍い音ともに、マナのこぶしが地面にめり込む。地面に亀裂が走り、陥没する。その場に穴がぽっかりと空き、それはまるで、巨大な隕石が落ちてきたようになっている。マナが青ざめた顔のアスカにゆっくりと向き直り、にこっと笑って言う。

「どう、アスカ?力の精霊ベゼルアイとの契約により、私は鋼鉄の体と、古今無双の怪力を手に入れたの。凄いでしょ。これが二つ名、「鋼鉄の処女」の由来よ。」

そう言いつつ、マナは辺りに散らばった地面のかけらをまるで、雪でも踏むかの如く踏み潰す。

「あ、あんた私を殺す気??」
「こ、殺すだなんて・・そんな・・。」

マナが手を口に当て、わざとらしくよろめく。

「ただ、両手両足ずたずたにして、その舌を引っこ抜くことで、アスカにはこれから病院で一生、退廃的な生活を送ってもらいたいなあって思ってただけなのに・・・・。」
「よけい悪いわぁぁぁぁーーーーー!!」
「そんなあ、本当は目玉も引っこ抜く予定だったけど、自分の無様な姿を確認してさらに絶望のどん底にたたき込めるよう、サービスで残しておいてあげるのにぃーー。」
「やかましい!!これならどう!?」

アスカは目を閉じ、精神を集中させる。アスカの体を白い光が渦巻いていく。

(白色破壊光線・・・本当はこれだけの至近距離で使うと巻き込まれるけど、魔法陣があるから、呪文は押さえられるはず。)
(白色破壊光線ね・・・。魔法陣で呪文の威力はかなり落ちるから、この体で防ぎきれるはず。呪文を放った後は無防備。そこを押さえ込めば・・・。)
「あのーーー、二人とも?」

やがて、アスカの呪文が完成し、頭上に光の玉ができあがる。

「勝負よ、マナ!」
「望むところよ、アスカ!」
「言っとくけどさぁー。」

マナは地を蹴り、アスカは呪文を発動させる。

「白色破壊光線!!」
「とりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「さっきのマナの攻撃で・・・・。」

シンジがさっきから、なにか呼びかけてるが、二人は気にする余裕がない。

(いつもと大きさ変わらないわね、でも魔法陣があるから・・・。)
(思ったより、光の玉が大きいわね。でも、魔法陣で押さえられてるはず。)
「地面に穴が開いたときに・・・。」

アスカの呪文はすでに放たれ、マナはアスカに飛びかからんと宙を舞っている。

(魔法陣があるから!)
(魔法陣があるなら!)
「魔法陣のシステムが壊れたんだけど・・・・。」















「「はあ?」」







ドオオオオオオオオォォォォォォン・・・・・・・・・







二人の声は爆音に、二人の間の抜けた表情は閃光に消えた。
そして、学院にいた生徒達は、学院創立始まって以来の大爆発を目の当たりにすることとなった・・・・。

爆音が途絶え、閃光と煙が途絶えた後には、跡形なく崩れた建物、そして巻き込まれた生徒が無数に倒れている。
そして魔法陣中央にぼろぼろになったアスカとマナの姿があった。まだ意識が有るらしいマナが這って、同じくかろうじて意識のあるアスカに近づき、手を差し出して言う。

「ア、アスカ・・・握手しない?し、試合が終わったらこうするものよね。」
「・・・・あんたとだけは、絶対に、死んでもイヤ。」

それだけ言い終わると、二人は同時にパタリと倒れて意識を失った。




「で?もう一度最初から言ってもらえるかしら・・・・?」

リツコはこめかみに青筋をたて、学院で起きた「原因不明」の大爆発の被害を綴った、厚さが大学ノートより厚い書類の束を震える手で持っていた。
リツコの目の前には二人、アスカとマナが体に包帯を巻いて、互いに背を向け座っている。

「試技場全壊、並びに第三実験棟、総合教育棟半壊。学院生38名が負傷。奇跡的に死者、重傷者はゼロ。被害総額・・・・・言うのも馬鹿馬鹿しいわ。これは私が学院の院長だって知っての所業かしら?」

そう言って、すっかり冷めたコーヒーを含みアスカをぎろりと睨む。

「責任はとるわよねぇ、アスカ。」
「うっ・・・・。」
「決定ね、「塔の聖女」になることは・・・・。」
「そ・そんなーーーーー!」

アスカが半ば鳴き声で、わめき散らす。が、拒否できる立場ではないので、泣き寝入りするしかなかった。

(うう・・・・。ごめんねぇ・・・・、シンジィ・・・・。)

「じゃあ、もともと「塔の聖女」の私はお咎めなしかな?」

ぱっと顔を明るくさせて言うマナに、リツコが冷たく言い放つ。

「あんたの場合は、「塔の聖女」の任期を延長するだけの話よ。」
「い、いやあーーーー。梅沢トメさんのような生き方だけはーーーーー!!」

こうして、三人の美しい乙女達はそろって頭を抱えていた。

数日後、アスカの「塔の聖女」の任命式があり、めでたく4人そろったが、当事者でそれを喜んだ者は一人もいなかったという・・・・・。


第三話 終わり


第4話に続く

ver.-1.001997-08/26公開

ご意見・感想・誤字情報などは persona@po2.nsknet.or.jpまでお送り下さい!


あとがき・・・だってば

YOU「というわけで、今回は霧島マナさんをお招きいたしました。」

マナ「ちょっと・・・・。」

YOU「何ですか?」

マナ「どうして、「鋼鉄のガールフレンド」で愛と使命の狭間で揺れ動く悲劇の女スパイ役の私がこんな馬鹿な役何ですか!」

YOU「もともと、こんな性格じゃありませんでした?」

マナ「違うわよ!!」

YOU「そうですか?CVが林原めぐみでしたし、登場からしてハイテンションでしたから、僕の目には26話のリナレイとしか写らなかったんですよ。」

マナ「そんな・・・・、私は悲劇のヒロインなのにーーー。」

YOU「ヒロインシンドローム・・・・・・。」

マナ「何か言いました?」

YOU「いえ、何にも・・・・。」

マナ「まあ、いっか。今回のことで、あの乱暴女がシンジ君にちょっかい出す心配も無くなった訳ね。」

YOU「それはどうだか・・・。最後までやらなきゃいいんですから・・・。」

マナ「私、シンジ君とのラブロマンスがいいなぁ・・・。そして、戻ってきたムサシとの間で揺れ動く私・・・・。」

YOU「人の話を聞いてませんね。「鋼鉄のガールフレンド」でもそうだった気がしますが・・。」

マナ「・・・あなた、さっきからうるさいわよ。この話でアスカに出来なかったことをあなたにしてあげるね。いでよ、力のベゼルアイ。」

バキバキグシャ、ゴキュ!

YOU「ぐあぁぁぁぁ、両腕が、両足がーーーーー。」


 YOUさんの『魔導王シンジ』第三話、公開です。
 

 アスカちゃん、「塔の聖者」就任おめでとう (;;)

 国を守り、
 街を守り、
 国民を守り、

 そして、もう一つも(^^;

 「ごめんねシンジ」のセリフが泣かせます。
 あぁ・・・やっぱりアスカちゃんは”その”つもりだったんですね (;;)

 リツコさん、
 アスカちゃんの任期をドンドン伸ばしちゃって下さいね(爆)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 アスカの貞操を守った(?)YOUさんに御礼のメールを(^^;


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