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 ミサトの顔は青かった。
 その手の中には外れ馬券。
 額面3億あまりなり。

 たった10分前までは、
 彼女は大金持ちだった。

 今はスッカラカンのカン。
 ミサトの顔は青かった。

 

 最終レース、ミサトの馬はやはり来なかった。当たる前といえば当たり前である。
 何しろ賭けた馬は「どうしてお前はここにいるんだ」評価の駄馬中の駄馬。単勝で万馬券が出るような馬だったのだから。

 それでも駄馬は駄馬なりに頑張った。
 最終コーナーを回って一気の追いあげ。見事賞金圏内の3着に入ったのだ。

 ・・・・ミサトが賭けていなかったら、連勝に絡んでいたかもしれない。
 いや、断言しよう。絡んでいた。
 すべてはミサトの所為だ!!
 神はこのずぼら女に大金を持たせたくなかったに違いない。

「うぎー!! あーに、ヤってんのよーー!! 後一寸じゃなかったのよ!!」

 レース後、真っ赤な顔でじたんだを踏んでいた彼女は馬券を破ろうとしてその事に気付いた。
 自分がとんでもない掛け金をつんでいた事に・・・・・。

「・・・一、十、百、千、万、十万、、、百万、、、、」

 情けない声が位を読み上げ、更に情けない声になって行く・・・・
 先程まで真っ赤だって顔が白く、青くなって行く・・・・
 ブルブル震えていた体が別の意味で震えだす・・・・
 熱い汗が冷たい物に変わる・・・・
 

 さ、3億円・・・・・・そんだけあれば、
 エビチュが酒屋ごと買える(;;)
 車のローンも、溜まった家賃も、止められてる電話も、質屋のテレビも、MacでLLセットが食べられるし・・・・
 生まれて初めて貯金が出来たかも・・・・
 

 一人沈んで行くミサト。
 情けないほど小さくなっている。  

 

 

 そこに、救いが現われた。  

 


『めぞんEVA』
第4話 【Mの喜劇】 後編

 

「第三新東京市第一中学校1年A組担任、葛城ミサトさん、だね?」

 ガックリ肩を落とし、乾いた笑いで周囲から切り離された世界にいる彼女に1人の男が声を掛けた。

「ウケケケケ・・・・・♪・・ルルーララーー♪♪」

 ミサトの耳にはその声は届いていない。
 美しい声で不気味なフレーズを口ずさんでいる。

 グラマー美女の麗しき歌声。
 かなりいけてるはずの彼女だが、マイナーコードと時折り混ざる乾いた笑いがすべてをぶち壊している。

 その容姿だけを見るためにWINSに残っていた野郎達も三々五々去って行く。
 結局彼女に誘いを掛ける気概を持った男は現れなかったようだ。

 売店のおばちゃんも帰り支度を始めたが、店内にこんなものを残したまま家路に着くわけにはいかず、うっとしそうにミサトを見ている。

「葛城ミサト。だね」

 彼女の名を知る男がウケケ笑いに気後れすることなく再度声をかける。

「ウケッケッケ、ウケッケッケ、ウケウケケーーー」

 笑い声で『青い鳥』を歌うミサト。

「・・・・どうだろう? 一杯やりながら話しをしないかね」
「する!!・・・・あーた、だれ?」

 男の台詞の中の”一杯”という単語がミサトをこちらの世界に呼び戻した。
 すばやく”一杯”に同意してからミサトは目の前に立つ男をねめ上げる。

 背は高く痩せ型。
 短く刈り揃えられた短髪、
 もみ上げから顎までの髭、
 薄く茶の入った眼鏡を通しても弱まらない凍てつく眼光、
 鋭い鼻梁の下の口は酷薄な薄笑いを浮かべている。

 ミサトがまじめな顔に戻る。

 判るわ。この男は切れる。それもかなり−−−。
 危険な香りがする・・・・近寄るのは危ない、でも。
 でも、「一杯やりたい」。
 間違いなく奢ってくれる・・・・・ジュル。
 

 深い艶消し黒のダブルスーツ、
 ダークグリーンのネクタイ、

 渋い男の装い。・・・・なのだが・・・・

「何で半袖なのよ」
「省エネスーツを知らんのか? 32人前の日本国首相が愛用したダンディルックだ」
「ダンディ?」
「うむ、妻の見立てだ」

 ニットの腹巻き、
 ピンクのカチューシャ、
 Love&Peaceバッチ、

「なに・・・その腕にあるのは・・・」
「腕時計も知らんのか? 妻の見立てた物だ」

 ・・・・・そして、キティの腕時計。

 ミサトのまじめな顔が曇る。

 判るわ。この男は切れてる。それもかなり−−−。
 ・・・・知り合いだと思われるのは危ない、でも。
 でも、「一杯やりたい」。
 間違いなく奢ってくれる・・・・・ジュル。

 シリアス思考が出来ないミサト。しかし、今回は必死に理性を絞り出す。
 しかし、”一杯”を”奢ってくれる”男・・・・
 でも、危ない・・・
 しかし、一杯・・・・
 いや、切れている・・・・
 いやでもしかし、
 ああ、で、が、も、や、きーー!!

 係ってはいけない。

「あ、アタシ、ちょっと用を思い出して−−−」
「ポン酒とビール、どっちが良い?」
「ビール!! ・・・・・あ・・・」

 葛城ミサト、いい女。酒に逆らえない女。

 

 

 


 

 

 

 お出かけ。
 男の準備はアッと言う間。
 女の準備は長い長い。

 それは2014年の今でも変わらない。
 それは13才の女の子でも変わらない。
 

 惣流アスカは自室のタンスの前で悩んでいた。
 何しろ今年初めての水着である。

「アスカ、新館にプールがあるんだって。泳ぎに行こうよ」

 シンジの誘いに気色満面で答えて準備に掛かったところでハタと気がついた。

 ・・・・・水着が無い・・・・・・

 去年の物は一応ある。
 しかし、この1年でアスカの体は見違える程に女を主張しだしていた。

 しかも今年初めての水着。
 シンジには少しでも綺麗な自分を見てもらいたい。
 何しろ去年までは「ただの幼馴染み」だったが、今は・・・・・・

「うーん・・・・これは・・・小さいから胸こぼれちゃう」

 それはそれでシンジ君は喜ぶかも知れない・・・

「これは・・・去年の色ね。何でこんな暗い色が流行ったのかしら?」

 それが”流行”というモノです。

「うーん・・・うーん・・・・あっ! そうだ!!」

 悩みに悩んだアスカはぽんと手をたたいて−−−−。

 

 

 


 

 

 

「で、アンタ誰?」

 プハーッッ 3本目の大瓶を開けたところでミサトが口を開いた。
 発した質問がこれである・・・・名も聞かないまま酒につられて入った居酒屋チェーンで。

「かまわん」

 男はスプーンでチョコパフェをかき回しながら素っ気なく答える。

「なにが『かまわん』のよ!」
「フッ、問題ない」

 気色ばむミサトを軽く受け流し、スプーン山盛りの生クリームを口に放り込む。
 更に一口二口。
 空になったカップを脇にどけ、スーパーバナナサンデーに取りかかる。

「・・・・・で、アタシに何の用なの?」

 名前を聞くことをさっさと諦め、次の疑問に取りかかる。

 何時までも分からないことがあったら酒が美味しくないじゃない。

「女の子を一人預かって欲しい」

 唐突な答えにしばらく間が空く。

「・・・はぁ? アタシは教師よ。なにと勘違いし−−−」
「ほほ子は今日第ひゃん新東ひょう市に到着ひゅきゅしゅる」

 どうにか気を取り直したミサトの言葉を無視して男が続ける。
 有無を言わさない威厳に満ちた声。

「バナナをくわえたまま喋らないでくれる?」
「むむ、問題ひゃい」
「・・・・とにかく。私はベビーシッターじゃないから」
「住み込みでやらしてやろう。場所は−−−−」

 ニヤリと笑いながら決定的な条件を提示する。
 その条件の効力は、

「する!!!!」

 ミサトを一も二もなく応諾させた。

 

 


 

 

 

 めぞんEVA、307号室の門扉の前でシンジはぼんやりとアスカを待っていた。

 アスカ・・・・・嬉しそうだったなぁ・・・
 プールに行こうって言ったら凄く嬉しそうだった・・・・
 怒ってたんじゃないのかな?

 今朝のキス・・・あれ、アスカがしたんだよな・・・・
 だって「おはようのキス」って自分で言ってたもん。

 じゃあなんで黙り込んでいたんだろう?
 

 取り止め無しのシンジの思考。
 アスカ、キスはしてもいいってこの前言ってたよな・・・・・
 でも、ぼく、なんとなく恥ずかしくって・・・・

 それがダメなのかなぁ・・・・  

 鈍勘朴念仁、碇シンジ。
 慣れない事、女ごころを考える事をしている・・・・

 よし! アスカに聞いて見よう!!

 ・・・・・やっぱりまともな答えは出て来ない・・・・・本人に聞いてどうする。
 

 

 

「お待たせ、シンジ」

 シンジのずれた決意を待っていたかのように門扉が開きアスカが現われた。
 ちょっとはにかんだような、微妙な距離を感じさせるアスカの態度に、シンジは言葉をうまく出せない。

 アスカの方もいつもと違う調子に妙な違和感が湧く。

「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

 二人とも話しだすきっかけを失ってしまい、結局出来た事は、

「お二人サン、仲良いねーー。見つめ合っちゃったりして」
 だけであった。

「「・・・・・え?!」」

 突然掛けられた声に、固まっていたシンジとアスカが振り返る。

 そこには、アディダスのロングコートが右手にノートパソコン、左手にはサッカーボールを持って立っていた。
 さっぱりとした顔にかかったダテ眼鏡が光る。

「やあ、こんにちは。シンジ君にアスカちゃん」
「・・・・・・」
「こんにちは、シンジ君」

 突然登場した冷やかし声にうまく反応できないシンジに再度呼び掛けるアディダス。

「え、あ、おはようございます、タツさん」

 その再度の呼び掛けにシンジは慌てて答える。
 相手は・・・・平賀撫タツ。めぞんEVA101号室に一人住む男。

 特徴は・・・

「今日はいい天気だね。昨日もいい天気だったけど相対的に良い。まあ、絶対的に言っても良い天気だけどね。私的に言えばもう少し湿度があった方が好きだけど−−−−」

「はあ」

 シンジの曖昧な返事を無視して、

「具体的に言えば、洗濯指数85・ビール指数79・不快指数27・洗車指数は68.4・散歩指数97.3・外食指数82.36・執筆指数は87.257・編物指数では72.5689・ハンドボール指数75.9857・水球指数は42.85477・・・・・」

 ・・・・・喋りだしたら止まらない事。

「ストーップ!! 一人でしゃべらないでよね!!」

 蕩々と流れるどうでもいい情報を止めにかかるアスカ。
 シンジとの気まずい雰囲気を脱した安堵感から少しほっとした口調がある。
 タツはそれに対して、

「それは違うよ、アスカちゃん。ぼくが一人で喋っているように聞えるのは君達の声が小さくて存在を顕せないからであって、この責任はどちらかといえば君たちにある。ここで主体的に争論を・・・・」

 ・・・・・また止まらない話しを始める。

「タツさんは口が達者ですよね・・・・ハハ・・・」

 ジト汗が額をつたうシンジ。

「口が達者? 違うよ。俺は客観的な事象を総て冷静に分析した上で主観を一切排除した・・・・」
「ね、ねえ、タツさん。なんか用があったんじゃないんですか?」

 またまた止まらなくなりそうな展開にシンジが割って入る。
 自分は大丈夫だけど、この調子だとアスカが切れるのは時間の問題だから・・

「いや、別に用はないよ。ただ、二人がいい雰囲気で見つめあっているから茶々を入れたくなったんだ」
「え、そ、そんなんじゃないですよ」
「テれないテれない。過去の事例に基づき、またここ大局的見地においての二人を包む空気と、さらに近所の評判を含んだ永続的な思考の上で、更に更に継続しての深遠なる分析を持って結論を出したんだ。二人はイヤーンな関係さ!」」
「・・・・そうなんですか?」

 タツの”立て板に水”論法から生まれた余り意味の無い結論。
 いつものように律義に相づちを入れるシンジ。
 アスカは”できてる”指摘に赤くなっている。いつもなら反撃反論が出ようものなのだが、今朝の出来事が頭に残っているのか調子が狂う。

「で、その総合的判断で出した結論にしたがったぼくの行動は・・・・」
「行動は?」

「うりうりーーー、ラブラブしちゃって羨ましいぞーーー」

 からかうようにシンジの胸を肘でこづいた。
 本人、無意識の内に力がこもる。彼もまた、アスカに魅入られた男・・・。シンジにちょっちジェラシー・・・・・。

「や、止めて下さいよぉ・・・あ?!」
「え?!」
「あれ?!」

 照れながらその攻撃から逃れようと1歩足を引いたシンジだが、・・・・・・、そこには踏みしめる場がなかった・・・・。

 

 グラッとバランスを崩したシンジは、

「どわーっっ」

 ドタガラブショドウガトドン
 派手な音を残して階段を勢いよく下る。

「あ、あれ?」

 自分の犯した結果に茫然としてシンジを見送るタツ。

 シンジは、 3階から2階踊り場へ、そこも転がりさらに2階から1階に落ちて行く。

 ♪ 回って、回って、回って落ちぃるぅぅぅぅ

 まさに無想花。
 シンジの視界の中でクルクル回りながら、あっけにとられたアスカの顔が遠ざかって行く。

 ♪ ラタタタタタタ、トンで飛んでトンで飛んでトンで・・・・

 二回目のサビに入ったところで一階、中庭が迫る。
 

「うわぁぁぁ・・・・って、あれ・・・」

 遠ざかっていったアスカの金色の髪に代わって青い髪がシンジの目に入って来た。

 へえ、変わった色だなぁ・・・・
 でも、ドンドン近付いて来るぞ・・・・
 え、あ、あれれれれ・・・・
 

 ガツッッ!!

 あぶない!
 避けきれずに正面からぶつかる。

 そのままでは青い髪を下敷にしてしまう。
 シンジは必死に体をひねって自分をクッションにするべく小さな体を抱きかかえた。

 ドサッッッ  

 

 


 

 

 

「えーーー!!! アンタ、いや、貴方がシンジ君のお父様?!」
「うむ」

 ようやく聞かされた男の正体にミサトが素っ頓狂な声をあげる。

 碇ゲンドウ、惑いまくりの40代終盤の男。
 ミサトの大声に動じることなくビッグプリンアラモードをかたずけている男。
 チョコケーキスーパーボンバーを注文した所で一息つき、ドラえもんハンカチで口を拭う。

 この悪趣味髭親父が、あの可愛いシンジ君の種・・・・
 ってことは、シンジ君もこうなっちゃうのぉぉ・・・
 いや! シンジ君は母親似なんだわ!!
 事によっては・・・・お母様の不倫相手の子って事も・・・・
 きっとこの男とは金目当てで結婚して、そのうち殺っちゃうつもりなんだわ・・
 

「葛城君」
 

 私だったらそうする。
 こんな変態親父、生かしていたら何をしでかすか・・・・
 いっそこの私が・・・・

「葛城君」
「え、あ、はい。なんでしょう?!」

 妄想の世界にダイブしていたミサトを呼び戻すゲンドウ。

「キミにはやってもらいたい事がもう一つある」
「えーー」

 露骨にいやな顔をするミサト。彼女にしてみれば1つ目の仕事で選られる特典、それで十分なのだ。
 余計な手間は背負込みたくない。

「これは君の私生活での目的に合致する物だ」
「・・・?!?」  

 

 


 

 

 

  【めぞんEVA】階段早降、新記録達成!
   おめでとう!
   おめでとう!
   おめでとう!
 巻きおこる拍手。あふれる笑顔。・・・・・・・
 

 

 妙な幻に呑み込まれていたシンジを呼び戻したのは・・・

「きゃーーー!!! シンジぃぃ!!!」

 階段を真っ青になって駆け下りてくる悲鳴だった。

「・・・アスカ?・・・」
「シンジィ・・・大丈夫ぅ・・・」

 植え込みの中で仰向けになっているシンジの元に駆け寄るアスカの愛らしい顔が涙に歪む。
 アスカにポロポロと瞳から滴を落としながら見つめられるシンジの方は、
 アスカの涙って綺麗だなぁ・・・・
 

 ボーと自分の顔を見つめて声を発しないシンジの様子にアスカの顔から血の気がひいて行った。胸が嫌な考えに騒ぐ。

「シンジ、シンジ!!」
「へ・・、どわわわ!!?」

 がくがくとゆすられ一気に覚醒したシンジだが、あまりの激しいシェイクに再びトびそうになってしまう。

「シンジ、シンジ!」
「アスカったら! だ、大丈夫だから・・・」

 ようやくの事で絞り出されたシンジの言葉。
 アスカの顔に一気に安堵の色が広がる。

「よかった・・・・・ちょっと待っててね」

 ひとしきりシンジの無事を確認したアスカはキッと上を睨み付け、勢い良く立ち上がると、一気に階段を駆け登る。

 二階の踊り場まで下りて来ていたタツの元に迫る!
 

「あ、ご、ごめんね・・・アスカちゃん。悪気はないんだ、偶発的に起きた不幸なアクシデントと呼ぶべきの・・・・」

 怒りのオーラを身にまとったアスカの接近。

 真っ赤なアスカ。
 真っ青になるタツ。

「問答無用!!」

 一閃!
 ボディーへ強烈なアッパーカット。
「うげぇ」
 呻き、前屈みになったところで髪を鷲掴み。
「いででっ」
 引き寄せ、鼻っ柱にニースマッシュ!
「ヒデブ・・・・・」

 アスカが握りしめていた髪を離すと、タツはその場にくずおれる・・・・
 ピクピクと肩が震えている。

「こ、これは・・・・突発的な事故で・・・相対的な・・・うげ」

 失神したままで更に弁解を試みるタツの頭を踏みつける足。

「うるさい! よくもシンジに痛い目させたわね! これぐらいで済んでありがたく思んなさい!!」
 

 その足をぐりぐり動かし、敵討ちを終了させたアスカは階下のシンジに目をやり、 ・・・・・・さらに真っ赤になった。

 シンジが・・・・・・・・  

 

 階段を下りきった所で、
  植え込みの中で仰向けになったままのシンジ。
  そのシンジの上にまたがっている少女・・・・  女の子と見つめあっている。

 

 この子、誰だろ・・・・ここには居なかったなぁ・・・

 不思議な、青い色の髪。短く切りそろえられている。

 いきなりの展開、
  3階に行こうと階段に近づいた。
   階上からなにやら叫び声。
    なんだろうと見上げる。
     男の子が派手に転げ回りながら落ちてくる。
      あー・・・・・どうしようかなぁ・・・
       ぼんやり考えているうちに真っ直ぐ衝突。
        そのまま地面に叩き付けられそうになって・・・・・
 ぼんやりと自分を見つめるシンジの姿を認めた女の子は、口を開いた。

「ね、おじちゃん。だいじょうぶ?」

 まっすぐシンジに向けられた瞳。
 まっすぐシンジを見つめる瞳。

 その色は・・・・・赤。

「おじちゃんってば!」
「・・へ? それ、ボクのこと??」

 クルクルと動く愛らしい丸い瞳。
 さらさらのストレートショートの髪。

「そっ。おじちゃん」
「・・・・・お嬢ちゃん、ぼくは『お兄ちゃん』だと思うけどなぁ・・・」

 ニコッ、ちょっと照れたようなシンジの笑顔。

「・・・・うん。お兄ちゃん・・・・」

 微笑みに少女の顔に朱がさした。

「ね、お嬢ちゃん」
「レイ・・・」
「え?」
「あやなみレイ・・・・」
「・・・あっ。 ・・・ね、レイちゃん」
「なに?」

 ”レイ”。名前を呼ばれたことで少女の頬がさらに染まった・・・
 シンジのお腹にのっかった小さな体をモジモジと動かす。

「その・・・どいてくれない?」
「・・・あっ。 うん」

 自分が今いる場所に気付き、軽やかに立ち上がるレイ。
 シンジもそれに続いて体を起こし、立ち上がる。

「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」
「うん、ボクは平気だよ。レイちゃんこそ怪我はなかった?」
「あたしもへいきだよ」

 シンジは腰をかがめてレイと目線を会わせる。

「そう、よかった・・・・ゴメンね、ぶつかっちゃって」
「へえき。お兄ちゃん、まもってくれたから」

 小さな手を口元に寄せてちょっと上目づかいにシンジを見つめる赤い瞳。
 シンジ、少しドキドキ。

「・・・よかった・・・・・・・」
「・・・・・・・うん・・・・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・」

 ドタドタドタドタ
  階段を駆け下りてくる激しい靴音。

「シンジ! その子だれ?!」

 靴音の源、アスカがレイとの間に体を割り込ませてシンジに詰問する。

「ア、アスカ。どうしたの?」
「その子、だれ?」

 シンジの戸惑いをアスカは完全に無視している。
 アスカの口調にハッキリと怒気が含まれているのを感じ取ったシンジは素直に答えようとして、

「えっと、この子は・・・・・君、だれ?」

 自分も答えを知らないことに気付いた。

「あやなみレイ。8さい。きょうここにきたの。おばちゃんだれ?」
「お、お、お、お、おばちゃんだぁ?!」

 レイの邪気のない言葉はしかしアスカの神経を逆撫でした。
 かろうじて押さえ込まれていたアスカの不機嫌さが顕現する。

 ゾワ 音を立てて金色の髪が逆立って行く・・・・。
 

  なななななな、なにこの子!

  シンジに触れて!
  シンジの笑顔を受けて!!
  シンジと見つめ合って!!!
  シンジと仲良くしゃべって!!!                      

  全部わたしんだから!!

  おまけにこのわたしを『おばちゃん』だぁ!!!!!!
 

「うわわわ、レイちゃん、こっちはアスカお姉ちゃん。ぼくはシンジって言うんだ」

 一はやく危険を察知したシンジの必死の方向転換。

「うん、わかった。はじめまして、アスカお姉ちゃん」

 ニコッ
 可愛い笑顔で答えるレイ。

 アスカは素直な瞳に毒気を抜かれかかるが・・・・

「良くできました。レイちゃん(^^)」
「ハーイ!」

 微笑みながらレイの頭を撫でるシンジを見て、怒りをぶり返した。
 

 アスカの中での認識は定まった。

 この子は敵。
 8さいの子供? んなもん関係ない! シンジに近づく奴は敵なのよ!!  

 

 

 


 

 

 

 

 大家の部屋に行くという青い髪の少女と別れたシンジとアスカは、冷やかし客ばかりのバザーが開かれている中央広場を抜け、

「結局、閑古鳥が巣を作ったわね」
「出店はそれなりに伸びてるって自治会長さんが言ってたよ」

 片側2車線の道を横切って、

「歩道橋ぐらい付けなさいよね!」
「ほとんど車は通らないし、別にいいんじゃない?」

 新館に辿り着き、

「外観は同じなんだね」
「統一されてて良いんじゃない? そんなことより早くプールに行こ!」

 中央部の通路に入っていき、

「ここにプールがあるのかな?」
「屋根が閉まっているけどそうじゃないの? ホントに贅沢な造りねー」

 階段を下って一階にある更衣室の前で、

「じゃ、プールで!」
「きちんと脱いだ服はたたむのよ」

 別れた。

 部屋を出てからの一連のドタバタ。
 いつの間にやら気まずい雰囲気は消え去っていた。  

 

 


 

 

 

「アスカ、遅いなー」

 更衣室から出たシンジはプールサイドにたたずんでいる。
 昼過ぎのこの時間、室内という形容詞が付くこのプールにも日がサンサンと差し込んで・・いなかった。

 山の南斜面を望む方向の壁は全面にガラスが張られているが、そのガラス自体が今は遮光モードになっている。
 可動式とパンフレットに書かれていた屋根も晴れの日中にも関わらず、ピタリと閉じられていた。
 明るさを得るための照明灯も、ムードを出すための間接照明も、頼りない明るさでかろうじて役目を果たしているにすぎない。

「暗いなー」

 つぶやき、シンジは回りをぐるっと見回して配電盤らしき物に目を留めた。
 とりあえず照明だけでもONにしようとしたシンジの背後から愛らしい声が掛かる。

「お待たせ」

 いつもの物とは少し違う、少し恥じらう様なアスカの声にシンジが振り返る。

 ビーチタオルを体に掛けたアスカがそこに立っている。
 

 ちょっと感じる違和感。そう、水着の上にまとっている物だ。
 アスカは活発で、なおかつ自分のスタイルに自信を持っている。
 こういう風に水着姿を隠すような格好はほとんどしない・・・・。

「あれ? アスカ、−−」

 どうしてタオルを掛けてるの? の言葉が出る前にアスカが口を開いた。

「ね、シンジ。私達以外に人、いる?」
「え? えっとぉ・・・」

 アスカのいきなりの質問に一瞬戸惑ったシンジだが、直ぐに気を取り直してぐるり見回す。
 十分な明るさのない空間だが、人の気配は感じられない。

「ぼく達だけみたいだけど?」

 そのシンジのセリフを聞いて、さらに自分でも他に人のいないのを確認したアスカはビーチタオルを下ろした。

「あっ」
「・・・・・」

 アスカの水着姿が薄明かりの元にあらわれる。
 シンジに言葉無く見つめられてアスカの頬が朱に染まった・・・・・。

 真っ赤なビキニ。
 布地が極端に少ない。
 上
 カップの下半分をかろうじて覆っている程度の三角を今にも切れそうな紐が繋いでいる。
 下
 Tフロント。シンジの位置からは見えないが、たぶん、いや確実に後ろは紐だ・・・

 きわどく大胆なデザインにシンジの顔もビキニに負けないぐらい赤く染まる。

 ゴクリ

 シンジの喉が大きな音と共に上下に動く。

「・・・・・・」
「ね、シンジ・・・どう?」
「う、うん。凄く・・・・・凄いや。アスカ」
「・・・・・・」

 シンジの熱い視線がアスカの全身を、正確には特定の部分を、這う。
 アスカも恥じらいながらも、その視線を避けようとはせずに、逆に胸を突き出すようにして見せつけている・・・。  

「ね、ねえ、アスカ」
「・・・なに」
「どうしたの? その水着 すごく・・・」
「ママのなの・・・・今年初めてのだから・・・・・・チョット冒険しちゃった・・・・」
「そ、そうなんだ・・・・」

 再びシンジの視線がアスカに刺さる。
 またも訪れる沈黙・・・

「シンジ、ここ、暗いね」
「うん・・・・」

 ドキドキと高鳴る自分の鼓動をごまかすように、アスカが口を開いた。

「残念だな」
「何が?」
「明るいところでの方がもっと輝くと思うの、このビキニ。シンジに見てもらいたい」
「え・・・」
「・・・・・」

 恥じらいとかすかな落胆の声での大胆なセリフ。

 ゴクリ
 またもシンジの喉が大きく動く。
 そして、シンジも熱にうなされるように口を開いた。

「・・・ボクも見たい・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「さっき、スイッチパネル見つけたんだ。・・・明るくして・・・いいかな?・・・」
「・・・・うん」
 

 シンジらしからぬ大胆な提案と、素早い行動。
 アスカのビキニの威力。その偉大さを思い知るがいい!  

 

「これかな?」

 シンジは必死に目的のボタンを探し出すと、

 [ガラス透過] ポチッとな。
 [ドーム開] プチッとな。

 昔から伝わるボタン押し下げ言葉を口にしながら指をパネルに走らせた。
 そのわずかな動きさえ、今のシンジにはもどかしい。

 間を置かずに壁面ガラスから午後の光が射し込み、天井部分からも徐々に明かりが照らされる。
 シンジの気のはやりに押されるかのように、先ほどまで薄暗かった室内が一気に日の光に満たされていった。
 

 しだいに薄明かりの中にいたアスカの水着姿がクッキリと見えるようになる。

 午後に日差しに照らされて、光る金色の髪。
 こぼれそうなバスト。
 瑞々しい肢体。

「アスカ・・・・綺麗だ・・・・・・」
「ホント?」

 シンジの理性は・・・・・崩壊寸前。
 さっき確認した。今、ここに、二人きり・・・・。

 1歩、2歩。
 アスカに歩を進めるシンジの歩みを、

「ウワー!! まぶしい!!! 溶けるーー!!」

 突如響きわたった絶叫がさえぎった。  

 

 


 

 

 

 緑の中を走り抜けてく真っ青なルノー。

「葛城君・・・・・」
「なんですか?」
「もうチョットスピードを落としてはどうかね?」

 助手席に座る男の顔はもっと青かった。

 

 

 


 

 

 

「ななななな、なに? シンジ、今の・・・」
「わ、分かんないよ。あっちの方から・・・・」

 素早くシンジの背に飛びついたアスカの声が震える。
 お化け騒動の後遺症か、さらにこの手の現象に弱くなってしまっているアスカ。

 少々ビビリながらも[男の見せ所]とシンジは声の聞こえてきた方に目を向ける。
 と、あっさり発生源が見つかった。

「会長さん!」

 そちらに向かって声をかけるシンジに、部屋の隅で頭から胡散臭いデザインのコートを頭からかぶっている胡散臭い男が応えた。

「やあ、シンジ君。それとアスカちゃんも」

 軽く手を挙げて、影になっているところを選び選びシンジ達の元にやってくる眼鏡の男。
 めぞんEVA自治会長、姉尾イデ。

「会長さん・・・なにしてたんですか?」
「そうよ! いきなり大声だしたりして!」

 シンジは会長と呼ばれた男の姿を見て当然の疑問を口にする。
 プールだというのに水着姿どころか、厚手のコートを着込んでいるのだから。

 アスカもシンジの背に隠れたまま抗議の声を上げる。
 いい雰囲気のなっていたのをぶち壊し、あまつさえ自分を驚かせたのだ。いつものパターンななら平手の一発も飛ぶのだろうが、いかんせん今の姿をシンジ以外に見せたくない。

「ここは薄暗くって、湿気があって、消毒液の香りがして・・・・落ち着くのですよ」
「・・・・はぁ・・・・」

 ウットリとした声で呟く会長。

「そこのビーチベッドので、寝てたのですが、いきなり明るくなって・・・・・。明るいのは苦手なんです」
「・・・・・・へ、へぇ・・・・・・」

「じゃ、もう帰ります。これ以上此処にいたらアスカちゃんに恨まれてしまいますからね(^^) デートを邪魔して御免なさい」
「は、はい。さよなら」

 爽やかな微笑みを浮かべて去っていく怪しげな後ろ姿を見送るシンジとアスカ。

 ここはめぞんEVA。
 ちょっとキてる人の巣窟・・・・・・・

 

 

 


 

 

 

「レイちゃん、はじめまして」
「はじめまして、おばちゃん」

 ぺこりと頭を下げるレイ。
 その頭を撫でる笑顔の女の目は笑っていなかった。

「レイちゃーん。お姉ちゃんと呼んでねー。仲良くしたいでしょー」
「うん、おねえちゃん」

 無邪気な顔で応えるレイに女は今度は本当の笑顔で話し掛けた。

「どこか遊びに行こっか? 行きたい所ある?」
「うーんとねぇ・・・・ある!!」
「どこ!!」
「えっとねぇ−−−−」

 

 

 


 

 

 

「ねぇ、シンジ」
「なに?」
「明日、買物に付き合ってくれない?」
「いいよ。なに買うの?」
「うん・・・水着買いたいなぁって」

 プールの縁に腰掛け、水中にある膝から下をチャポチャポさせながらの会話。
 先ほどの騒動は既に忘却の彼方・・・・

 腕が軽く当たる微妙な距離がもどかしい。

「ぼくは・・・それ、アスカに似合っていると思うんだけど・・・」

 アスカの方を横目で見ながら口を動かすシンジ。
 斜め上から見るアスカの胸元、膨張を押さえるのは限界に近い。

「これ・・・きわどいでしょ? シンジ以外に見せたくないな」
「・・・え・・・・・・」

 ほんの少し、二人の間を詰めるアスカ。
 この数センチ縮まった距離が二人の鼓動をさらに高鳴らせる。

「シンジに見られるのも恥ずかしいけど・・・・イヤじゃない」
「アスカ・・・・」

 体を捻り、肩を引き寄せるシンジに、アスカはそっと目を閉じた・・・・・

 軽く触れる唇と唇・・・・・・・・

 甘い時間は・・・・・当然訪れない。

 

 

 

 ボム!!

 突然くもぐった爆発音が轟き、

 ドドドドド

 プールの水面から立ち上る水柱。  

 

 ドバァァァァァ

 突然の出来事に固まるシンジとアスカに滝の様に水が降りかかり、

 ズオォォォォォ

 プールの水が渦を巻いて底に開いた大穴から抜けていく。

「なんだ」
「なに・・・・」

 さっきまで水中にあった足もいつの間にやら空中にある。
 事態に着いていけずに呆然とするシンジ達の前に、水中から浮き上がる一つの黒い影。

 水が引いて行くにつれ、その影の全身が露わになっていった。

 黒い影、それは黒いウェットスーツ。
 頭のてっぺんからつま先まで全身を包み込んだ姿。ぴちっと覆われて、ボディーラインがハッキリ分かる。
 顔は大きな水中眼鏡とごついレギュレータで隠されているが、そのラインは間違いなく女だ。
 それもかなりイけてるスタイルの。
 

 何がなんだか状態の二人に近づき、プールサイドに上がってくる。
 と、背中のチャックを下ろした。

「あ・・・リツコさん。こんにちは・・・・・」」

 露わになったナイスバディーの持ち主は、赤木リツコ。
 シンジの挨拶を無視してなにやら呟いている・・・・・・・。
 

「フフフ・・・水槽は嫌いなの・・・・・」
 

 そう、ここはめぞんEVA。
 かなりキてる人の巣窟。
 ・・・・・・・・彼女はその親玉・・・・・全ての元凶・・・
 眼鏡を気味悪く光らせながら満足げな笑みを浮かべて去っていく親玉。

 シンジとアスカ、触らぬ神に祟り無し。
 賢明な選択です。

 

 

 


 

 

 

「ほらほらレイちゃん、急いで」
「あーん。まってください」
「ほらほら、万歳して」
「じぶんで、できますぅ」

 

 

 


 

 

 

「アスカ・・・今朝、アスカからキスしてきたんだよね」
「・・・・・うん」

 いつの間にやらラブラブモードに戻っていた二人。
 いい加減に免疫も付いてきたようだ。

 ・・・・・そんな免疫付きたくない。

 オープン1日目にして使い物にならなくなった室内プール
 一面水浸しなのは些細なこと。
 兎にも角にも問題は、底に開いた大穴。

 リツコの計算し尽くされた爆破は見事としか言いようがない。
プールにこれだけの被害を与えておきながら、その他天井・壁・プールサイドは言うに及ばず、ヤワな照明装置にも傷一つ被害を与えていないのだから。

 ・・・・・リツコはもう一つ穴を開けることになるだろう。
 ・・・・・・・大家の胃に、4つ目の。
 

「アスカ。今朝はごめんね・・・・・・」
「・・・なにが?」
「その、アスカのおはようのキスに対して、ボク、Hなコトしちゃったから・・・・」
「・・・・・・」

 二人は元の場所に座っている。
 正確には爆発時の強烈な刺激に動くことが出来なかったからなのだが。

 シンジは横にいるアスカから目線を外してうつむく。
 ”約束を破った”それも、”アスカとの約束”を・・・・・

 絶え間なく続いた騒動の中で謝るきっかけを失っていたシンジだったが、今日2度目のキスをしたことにより、その事が心の中で明確になっていた。

「ごめんね、アスカ」

 アスカの返事がないことで不安感に襲われたシンジはアスカに向き直り、シンジに替わってうつむいている横顔に謝罪を繰り返す。

「今朝ね、わたしね、怖くなかったよ」

 アスカはポツリ、呟いて顔を上げた。
 青い瞳がシンジの瞳に向けられる。

「え?」
「怖くなかったの・・・・・」

 アスカの輝く瞳の中に、強い決意。

「ホント?」
「うん、だから怒ってない、シンジも謝らなくていいの」

 アスカの言葉にシンジにのし掛かっていた重りが溶かされる。

「よかった・・・・・」

 ホッと安堵のため息をもらして、シンジは自分がとても緊張していたのを悟った。

「シンジ」
「ん」
「わたしね、シンジに胸触られて怖くなかったの。
この先に進むかもしれなかったけど、怖くなかったの。
しちゃうのかなって思ったけど、怖くなかったの」

 一気に胸の内にあった言葉をぶちまけたアスカは、そのままシンジを見つめる。

「ア、アスカ・・・・」
「もう、怖くないの」

 もう一度繰り返す。

 短い言葉、重い言葉。

「え・・・・・じゃ、じゃあさ・・・・・・」

 ゴクン

 今日何度目だろう、シンジの喉が鳴った。
 

「うん。今夜、いいよ・・・・シンジにあげる」

 アスカがシンジの胸に顔を埋めてハッキリと言う。
 シンジの鼓動が耳にいたい。
 自分の鼓動もきっと爆発しそうになってる・・・・・・。
 

 いつの間にやら赤くなっていた日の光が二人を照らしていた。

 シンジの手がアスカを優しく包む。
 『あげる』衝撃的な言葉。
 しかし、シンジは不思議に冷静にその言葉を受け止めていた。

 鼓動は高鳴っている。
 だが、頭の中は静かだ。
 

 わかんないや。
 ボク、またカッコつけてるのかな・・・・
 

 アスカの手がシンジの脇の下からその背に回される。
 やわらかなアスカの胸がシンジの胸に重なる。

 薄い水着の布1枚を隔てて二人の温度が通う。

 シンジの手に力がこもっていく。

「アスカ・・・・・」
「・・・シンジ」

 今日3度目のキス。
 甘いキス。
 甘い時間。
 

 そして・・・・・・・

  ・
  ・
  ・
  ・
  ・

「ハーイッ!! シンジくーん!」

 脳天気な声。

 

 

「「・・・?!」」

 更衣室方向から届いた声に、慌てて二人は離れる。

「ミサト先生!?」

 手を振りながら真っ直ぐこちらに向かってくるのは、葛城ミサト。
 シンジの担任。
 アスカの・・・・・敵。

「こんにちは 休みの日なんだから、先生はやめてね(はあと)」

 ニコニコの文字が見えてきそうな笑顔。
 一歩ごとにバインバイン揺れる炸裂Eカップ。 
 ブルーのハイレグワンピース。

 シンジの視線は釘付け。

「もーっ 真っ赤になっちゃってかっわいいんだからぁ!」
「わー!! むぐぐぅ」

 ミサトはアスカの元からシンジを引き寄せ、いきなりボリューム満点の胸の谷間にその顔を押し込める。
 この女の辞書に”我慢”という言葉はない。
 

 辞書なんて持ってないわよ。
 河童横町で売っぱっらっちゃった。
 

 ・・・・・辞書自体待っていないそうです・・・・・
 

「?!?! なにすんのよミサト! こら離せってば!!」
「うげげげ」

 あまりの事に反応が出来なかったアスカのギアが一気にトップに入る。
 ミサトの首を両手で締め上げシンジからひっぺがし、手加減無しでプールサイドにほおり投げた。

「ちょっとミサト! ここは住人専用なのよ! 帰えんなさいよね!!!」

 派手に尻餅をついたミサトを見下ろしてのアスカの啖呵。
 左手を腰に、
 右手で指さし、
 ビッと決まったアスカのミエ。
 

 いきなり登場してシンジの視線を奪ったことが語気を荒くする。

 ミサトはそんな刺々しい言葉に動じることなくニマーと口の端を歪めた。

「ヒヒヒ」
「な、なに笑ってんのよ!? 頭でも打ったの!」

 不気味な笑顔に気勢をそがれそうになりながらもアスカはテンションを保とうと虚勢を張る。
 しかし、ミサトは一向に怯む様子がない。
 彼女は、今、とっても、ムチャクチャ、上機嫌なのだ。
 彼女のエネルギーの源とは・・・・、ミサトはそれを口にした。
 

「ヒヒヒ・・・アタシは今日から住人なのだ!!」

 一瞬の間。
 そして、

「「えええええ!!!!」」

 驚愕の声。

 そのまま固まる二人。

 なんだか今日は固まる事が多いや・・・・・

「おにいちゃん、どうしたの?」
「え?」

 どこか呑気なシンジの背をつつく可愛い声。
 振り返ったシンジの目が赤い瞳と合う。

「レイちゃん。レイちゃんも泳ぎに来たの?」
「うん。お兄ちゃんたちここにいくっていってたから・・・・遊んでほしいな」

 モジモジとしながらも、しっかりシンジの手をつかむレイにアスカの逆鱗スイッチオン。

「こらレイ! 勝手に−−−−」

 ずかずかとレイに歩み寄るアスカの後ろで・・・・・・

「わ、ミミミ、ミサトさん! 止めて下さウオップ・・・・ムグ」

 ミサトがシンジを再び確保していた。

「今夜はシンジ君ちでアタシの歓迎パーティーね!」
「ミサト!! 離しなさいったらーーー!!」
「で、明日は、シンジ君ちでレイちゃんの歓迎パーティ!」
「勝手なこと言ってんじゃないわよ!!!」
「明後日はシンジ君ちで第2次ミサト歓迎パーティーよ!」
 

 

 葛城ミサト。
 第1中学1年A組担任。
 28歳 独身。
 容姿端麗、スタイルグンバツ
 明朗快活、人気抜群

 街を歩けば誰もが振り返る彼女は現在恋人募集中。
 なぜか? ・・・・・・・思いっきりのショタだから・・・・・・・・・

 

 

 

 

 更衣室出口に立つゲンドウの目がメガネの中で光る。

 シンジ。スケベなど10年早いわ。邪魔してやる邪魔してやるケケケケケケ

 その手の中には・・・Eカップブラ。  

 

 

 


つづく
ver.-1.01 1997-06/17公開
ご意見・感想・誤字情報などは shintaro@big.or.jpまで。
「貴方のメールが私を奮わす」 お待ちしています!!

 前編発表から1ヶ月と10日・・・・・・・
 待っていてくれていた方になんて言ったらいいか、
 とにかくごめんなさい。m(__)m

 これ以上UPが遅れるのもなんですし、
 後書きは明日書きます。

 で、”明日”になった後書きです。正確には同じ日付ですが(^^;

 うーん、レイが某HPのメルちゃんみたいな感じがする・・・・・
 印象が残っていたのかな?
 ・・・・・・次から変えていかないと・・・・・・・・

 分量も多くなりました。
 前編と同じぐらいで書き上がる予定だったのですが、
 何だかんだでずるずると。悪い癖です。
 削る勇気を持つことが重要課題になってきました。
 中編・後編に分けるのも良いかな?

 今回登場したEVA館の住人は
 101号室の[たつ]さんと、
 302号室の[ディオネア]さんです。
 ネーミングは
 「平仮名でたつ」を無理に漢字にした「平賀撫タツ」
 「ディオネア」の逆さまに読んで「あねおいで」当て字で「姉尾イデ」
 ・・・・・センス0で申し訳ないです。
 

 後書きと言いながら、箇条書きのレポートみたいになってしまいました(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 死んでしまったのか? と思われるくらいの長い間を空けてどうにか更新した神田さんに感想メールを!
 返信は確実に帰ってきますよ。
 本人が言ってるのだから間違いない!

 では。


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