第三新東京市中央駅前、パチンコ店2階の【WINS:場外馬券場】
休日には若者や女性も多いこの場所だが、
流石に平日の昼間となればむさ苦しいオヤジばかりだ。
汗くさいこの場は完全に浮いている美貌の女性が一人、 実況中継のモニターを凝視している。
男達の視線を体中にまとわらせている女、
学校中の男子生徒あこがれの的である女
創立記念日の休みを持て余している独りの女、
名を葛城ミサト。
タイトミニから伸びるに肉感あふれる魅力的な足、
白のトレーナーを押し上げるボリューム満点の二つの膨らみ・・・・
「すげぇ・・・・」
[・・Cいや、Dはあるな・・・・」
「はさまれたい・・・・」
「・・・・どこをだよ・・・・・」
「俺は、あの足に踏まれたい・・・・」
「変態め・・・・でも、賛成・・・・」
回りの男達がその魅力に圧倒されながらつぶやき合っている。
ミサトは男達の会話が耳に入らないのか、関心が無いのか、慣れているのか、
ただモニターを注視していた。
『マヤノトップテッポウ逃げる。
シンボリヒトラ一気に詰めてくる。とどくか?とどくか?』
「よし・・・・4−5は確定ね・・・・ヒヒ・・・」
その上に乗る、
間違いなく[美人]の部類に入る顔が軽快な実況の声にニヤリと歪む。
ザザ! 音を立てて引く男達。
『!! あーっと!! 大外からミトリボクジョウオーが来たぁぁぁ!!』
「・・げげっっえ!!」
『そのままゴール! ・・・・・4−8。 万馬券が飛び出しました!!』
波乱の展開にミサトの顔が凍り付き・・・・・・
・・・・・・きっかり1分後憤怒の炎が燃え上がった。
「だー!! なーにやってのよ、竹め!!! 仕掛けるのが早いのよ!」
手にした紙切れを千々に破り、手を振る。
モノクロの吹雪の中でミサトの口元から歯ぎしりがハッキリ聞こえて来る・・・
「だいたい何よ、あの豚みたいな馬!! どっから湧いてきたのよ!!!
リツコもリツコよ、何が本命バリバリの銀行レースなの!!! こんな物!」
PDAを懐から取り出し、床に叩き付けて ゲシッゲシッ 踏みしめる。
呆然と女を見つめる男達・・・・・
ただモニターから流れる結果論の解説と、プラスチックの割れる音・・・
ミサトはしばらく 粉々になった残骸を見つめていたが不意に顔を上げ一声。
「そこのアンタ! アタシの胸はEよ!!」
聞いてたんかいっ
言い放ち、発売窓口に駆け寄った。
「おばちゃん。第2レース、5−9に10000よ!!」
「・・え、ええ。当たるといいねぇ・・・」
「もうデータには頼んないわ! 勘よ、勘。女の勘で勝負よ!!」
葛城ミサト。
第1中学1年A組担任。
28歳 独身。
容姿端麗、スタイルグンバツ
明朗快活、人気抜群
街を歩けば誰もが振り返る彼女は現在恋人募集中。
なぜか? ・・・・・・・中身が King Of オヤジ だから・・・・・・・
朝日の射し込む碇家のリビング。
午前10時過ぎ。休日。
ごく普通の中学生ならばまだまだ惰眠を貪っている者も多い時間。
リビングの隅に置かれた観葉植物がその葉に付いた露の輝きで自らを飾り、美しく輝いている。
輝いているのはその鉢植えだけではない。
リビングにあるすべての物。机、椅子、棚、テレビ、スピーカー、クッション・・・
すべてが美しく磨き上げられており、キラキラ光を反射している。
しかし、それらすべてを脇役にしてしまう輝きがキッチンから現れた。
リビングにあるすべての物を磨き上げている張本人が・・・・・・
日の光をその豊かな金の髪と艶やかな白い肌ではじけさせながら、
軽やかな足取りで部屋の隅で存在を叫んでいるコードレスホンに向かう。
「もしもし、碇です」
鈴の音もかくや。美しく澄みきった声が受話器の先に向けられる。
『おはようアスカ。』
「あっヒカリーおはよう!」
電話から聞こえる先日まで泊まりに来ていた親友の声に、
アスカと呼ばれたリビングで輝いている少女が朗らかに応じる。
『やっぱり碇君の家にいたのね。[もしもし、碇です!]もうすっかり慣れたものね、ふふ』
電話の向こう側にいる女の子の声の主、ヒカリがアスカの口調を真似る。
その言葉がアスカの顔に朱をさす。
「も、もう! なに言ってんのよ!」
『いいなぁ・・・・アスカは。いつも一緒で』
「一緒って・・・お隣さんだからよ!」
『ふうん、じゃあ、どうして碇君の家にいるの?』
「そ、それは・・・・そう! 怠惰な休日を送るであろう幼なじみに活を入れようとしてたのよ」
『それで一生懸命朝御飯を作っていたのね? もうお昼かしら・・メニューはなに?』
「アサリのお味噌汁と、焼きジャケよ」
『やっぱり作ってたんだ!』
「あ?!」
『やっぱりいいなぁ・・・・毎日好きな人のために料理できるなんて・・・・』
アスカが自己分析に入っている一方でヒカリはウットリと夢見るように続ける。
もう、どうしてヒカリの誘導には簡単にノっちゃうのかしら?!
ヒカリったら巧いわ!
・・・ん? ちゃーーんす!!
「ヒカリも鈴原にお弁当作って上げたら?」
『え?!? ダメよ、恥ずかしい・・・』
「ほうほう。ヒカリは鈴原が好き。と」
『・・・え、あ、その・・・そ、あ、え』
アスカの反撃がクリティカル。
おばさんモードのアスカに電話の向こうから焦りまくる空気が伝わってくる。
「落ち着きなさいよ」
『・・・・・なんで分かったの?・・・・・』
「バレバレよぉ! こないだのお化けの時にいい雰囲気になってたじゃないの!」
『・・そお?・・・』
「そう。それから、わたしがシンジのクラスに行くときには必ず付いて来てたし」
『うん・・・・』
「人のこと冷やかしてる場合じゃないと思うんだけどなぁ」
いつの間にかすっかり主導権をアスカに握られているヒカリ。
ちょっと焦る。
『そ、そんな事より、アスカ。約束守っているの?!』
約束。
1週間の間毎晩泊りに来ていたヒカリが
親に「いいかげんにしなさい」と叱られ、
妹に「お姉ちゃんがいなくて寂しい」と泣かれて
お泊まりが出来なくなった日にした約束。
シンジとアスカの見張りが出来なくなった日にした約束。
夜は自分の家に帰る。
朝は自分の家でご飯を作ってからシンジを起こしに行って、そのまま学校に。
中学生なのよ! ヒカリが委員長の生真面目さでアスカにさせた。
強引に変えた話題だが、アスカは耳に痛たいこの話に反論の力が薄れる。
「え、・・・・うん。あ、当ったり前じゃん」
『呆けてもだめよ。お鍋がふいてるわ』
「大変!・・・・あ・・・・」
また・・・・どうしてヒカリにはひっかかっちゃうの?
『やっぱり碇君の家で作っていたのね。
ダメよアスカ。中学生らしく、ちゃんと節度を持って−−−−』
30分。
ヒカリのお小言は止まらなかった。
第3レース終了。
「ぐげひーー!! 白い閃光シルフィールぅ?
アンタが輝いていたのはパドックまでじゃないのー!!
レースではしけってたじゃん! もおう!!」
壁をゲシゲシ蹴るミサト・・・・
こんないい女が一人でいるのにだれも声さえかけない・・・・
『じゃあ、またね。アスカ』
ちんっっっ
やれやれ、と置いた電話が、
ジリリリリリンンンンッッッ
間を置かずに鳴りだした。
「もしもし、碇です」
『アスカちゃん、こんにちは。ユイです』
「おばさま! こんにちは」
おっくうそうに上げた受話器をから暖かい声が聞こえて来てアスカの心がほぐれる。
アスカのもう一人の母とも言える女性、幼馴染みの母、碇ユイの声が届く。
「シンジはまだ寝てるの。起こしてきます」
『いいのよ。アスカちゃんの声が聞きたかったの』
「え? それならどうして−−」
『碇の家にかけたか? でしょ』
「うん」
『アスカちゃんはシンジの所に居るって思ったのよ。当たりね。ふふよかったぁ』
30半ば過ぎ、40に近いとはとても思えない若々しい声が優しい。
『シンジはまだ寝てるのね』
「? ええ」
『それでアスカちゃんは碇の方の家でご飯の用意』
「?? ええそうですが?」
嬉しそうになにかの確認を進めるユイ。
わけが分からないアスカ。
『甲斐性なしの我が息子もやっとアスカちゃんをモノに出来たのね・・・・』
「へ」
『シンジは優しくしてくれた? アスカちゃん、痛くされなかった?』
「なななななな」
『あの子けっこう突っ走る所があるから・・・・』
真っ赤になって口をパカパカしているアスカを置いて、ユイが妄想を広げる。
『ああ、早く赤ちゃんが見たいわぁ・・・』
「あ、赤ちゃん・・・・・・」
『シンジとアスカちゃんの赤ちゃん・・・・どちらに似てもきっと可愛いわ。
そうそう、ゲンドウ君に似て渋くて素敵な子かも・・・・』
赤ちゃん・・・・シンジとわたしの・・・・
赤ん坊をだっこする自分。
きゃっきゃっ 腕の中の笑顔が応える
それを見守るシンジ・・・・・
陶然とした表情のアスカ。
赤ちゃん・・・・シンジとわたしの・・・・
赤ちゃん・・・・シンジとわたしの・・・・
『でも、それはまだ早いわね』
「?え、ええ」
突然かけられたユイの冷静な声にアスカも夢想から抜け出した。
『お薬はわたしのベッドの引き出しに入っているから使ってね』
「薬? なんですか?」
『女の子が飲む避妊薬よ。男は欲情したら止まらなくなることがあるから、
私達女もそういう用意をしなくちゃ』
「あ、あの、おばさま・・・・」
『まだ赤ちゃんは早いわ。そういうのは生活できるようになってから! ね』
「おばさま!」
一人で突っ走るユイをとめに入るアスカ。
『なに? あすかちゃん』
「わたし達、そんなことしてない・・・・」
アスカの言葉にユイの言葉が止まる。
しばし沈黙。
それからユイが口を開いて、ゆっくり確認の言葉をつむぐ。
『そう・・・まだなの・・・もう2週間も二人っきりで・・・ホントに?』
「うん」
ユイの声に隠しきれない落胆の色が浮かぶ。
真っ赤になりながらも、アスカもどこか寂しげにうなずく。
『甲斐性なしねぇ、我が子は・・』
「シンジ、優しいから・・・・」
『・・・・そういう雰囲気にはなったの?』
「うん・・・・でも、わたし泣いちゃったから・・・・」
『シンジは止めた、と』
ユイの口調からは浮かれた調子はすっかり消え、 アスカを優しく包み込むように彼女の心を引き出す。
『イヤだったの?』
「ううん。怖かっただけ・・・・・シンジと、その、
するの、イヤじゃない」
自分の気持ちをかみしめるように、小さな、しかしハッキリとした言葉で語るアスカ。
その言葉に安心したようにユイの口調が再び軽くなる。
『そうなの・・・・まあ、いいわ。あの薬は副作用がないから毎日飲んでおきなさい。
シンジが切れちゃったときの用心よ』
「あの・・・そういうのダメって言わないんですか?」
『どうして? アスカちゃん、シンジのこと好きなんでしょ? あげてもいいってぐらい』
「・・・うん」
『シンジもアスカちゃんのこと好きなんだから、問題ないじゃない。
私、女の子が欲しかったの。アスカちゃんみたいないい子が・・
シンジをよろしくね、アスカちゃん』
「・・・うん」
『シンジがフラフラしないように今のうちから、手綱付けちゃってね(^^) じゃ!』
「え?」
チンッ
どこまでも軽いユイは言いたいことを言ってしまってそのまま受話器を置いてしまった・・
「ちっきしょー!! 何がハマのマムシよ! アンタなんかミミズよ、ミミズ!
どうせあそこもミミズなんでしょ。ふんがぁ!」
第5レースでも散財したミサトは引き続きスパークしていた・・・・
アスカはリビングから廊下に入る。
右手にキッチン、左手には和室。
右からは味噌の香り、一段高くなった左からは草の匂い。
更に行くと右手にはトイレ。
左には風呂場。
アスカはヒカリが帰ってからはほとんど自分の家の風呂を使っていない。
いつもここで済ましている。
「二カ所を準備するのは面倒だし、不経済」
これはいいわけ・・・・
そしてその先左手に目指すシンジの部屋。
向かいはユイ達が使う予定の空き部屋。家具は一応揃っている。
シンジの部屋への扉の前で、アスカは立ち止まる。
もう、ヒカリは「ダメ」。おばさまは「がんばれ、早く」・・・。
みんな勝手なこと言って!
わたしとシンジの事は二人が決めるんだから。
わたしは・・・・キスは好き・・・・すごく暖かくて、ドキドキして・・・
シンジは・・・・したい・・・・のかな?・・・・そうだろうなぁ・・・
この前途中で止めたのは、わたしが泣いちゃったから・・・・だろうし・・・
アスカの頭にこの前、第三新東京市に引っ越して来た2日目の夜の事が浮かぶ。
あの時シンジに求められて・・・・イヤじゃなかった。
でも、怖かった・・・・
シンジはわたしを待ってくれるって言ったけど・・・・
ドアを開け中に進む。
シンジは、やはり、まだ寝ている。
「シンジ! もう昼過ぎよ、起きなさい!!」
「うーん・・・後五分・・・・」
毎朝繰り返されるやり取り。
しかし今日はこの次のアスカの行動が毎朝の物とは違った。
「シンジ、起きなさいよね・・・・」
声を潜めて一応のセリフをはきながらベッドの脇に進む。
そっとのぞき込み、シンジが目覚めていないのを確認すると、
アスカはゆっくりとそこに膝立ちになる。
特別なんだからね。
・・・・・わたしはキスはいいよって言ってるのにしてくれないんだモン・・・・・
アスカはベッドの縁に手をついて、顔を近づけていく。
そのままそっと唇を合わせた・・・・・
あたたかな、やわらかな、気持ちのいい感触。
それらがシンジを夢の国から引きずり戻す。
・・・なんだ・・・・・これ?・・・・・この感じは?
ゆっくりと覚醒するシンジにかすかな甘い香りが届く。
・・・この匂い・・・・いい匂い・・・アスカの匂いだ・・・・
・・・?!・・・そうだこの感触は!
パチッ いきなり目を見開くシンジ。
その目の前を何かがいっぱいに広がっている。
アレ?・・・・なんだこれ・・・・あ! アスカだ・・・アスカ、何を?
・・・・・キスしてる?・・・何で?
寝ぼけてよく回らないシンジの頭が混乱する。
霧のかかった頭脳の出した回答は・・・
・・・・そうか! 夢だ!!
いい夢だなぁ・・・・それにすごくリアルだ。
・・・匂いも、感触もあの時と同じだよ・・・・・・
夢なんだし、いいよな。
「むうっ」
いきなり唇を割ってきた舌にアスカがむせる。
慌てて体を引こうとするが、下から伸びた手に制される。
「ちょ、ちょっと! シンジダメ・・・むぐぅ」
顔を捻って離した唇は後頭部に回された手に押さえつけられ、再び吸われる。
もう一方の手はブラウスの上から胸を包む。
シンジ! もう、キスだけよぉ・・・・
・・・どうしよう、シンジが・・・
わたしが悪いのかなぁ・・・・止まらなくなるって、おばさまも言ってたのに・・
・・・・どうしよう・・・どうしよう・・・・
混乱する頭、体は動かない。
次第に力が抜けて、シンジの手に翻弄されるのが分かる。
いつの間にか自分の口に入っている舌を吸っているアスカ。
ア・・ヤだ・・・わたし何してるんだろう・・・・
アスカは無意識のうちに口の中のシンジの舌に歯を立てる、強めに・・・
軽い痛みがシンジに伝わる。
痛てっ!
アスカ、痛たいなぁ・・・・
・・・・痛たい?・・・・・夢なのに?
・
・
・
・
「わわわ!! アスカ!」
一気に覚醒したシンジは自分のしている事に慌てて、アスカを押し離す。
「おはよう、シンジ」
「う、うん・・・・おはよう」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・
・
・
・
アスカはドアに背を付けて上気した顔で静かにシンジに視線を送って、
シンジはベッドの上で座ったまま呆然とアスカを見つめて、
しばらく無言の時が過ぎる。
「お、おはようのキスよ!」
「え?」
「目、覚めたでしょ! ご飯出来てるから早くきなさいよね!!」
真っ赤な顔で叫ぶように言い放ち、アスカはドアの向こうに消える。
残されたシンジは必死に夢と現実の境目を探っていた。
「けけけっけけけ−−−−あたっらない−−♪♪」
第8レースでも全滅。ミサトよどこに行く・・・・
・・・どうしてキスしたのかなぁ・・・・
・・・・それに、どうして?・・・・・・怖くなかった・・・・・
・・・・どうして?
・・・・・・恐くなかった・・・・
・・・・どうして?・・・・・・
・・・・・・・・赤ちゃん・・・・かな・・・
午後に入った朝食兼昼食のテーブル。
シンジは自分がしていたこと、
アスカはシンジへの自分の反応に戸惑って言葉のない食卓となっていた。
「この焼きジャケおいしいね」
「・・・うん」
沈黙に耐えきれなくなったシンジがアスカに話しかける。
「今日の味噌汁の具はアサリか。シジミもいいけどやっぱり味噌汁にはこっちだよね」
「・・・・うん」
アスカ、怒ってるのかなぁ・・・・
そうだよな、「もうしない」って約束を破っちゃたんだし・・・・
でも何でキスしてたんだろ?
・・・・!!? もしかして、僕、無意識の内に体が動いてアスカを無理矢理・・・
ああ・・・・どうしよう・・・
アレ? でも上にいたのはアスカだったような?・・・・
半分寝ているのか、シンジの考えはどこかずれている。
結局二人して一言もないテーブルをキープすることになった。
重苦しい食卓。特にシンジにとっては。
アスカは考えに沈んでいるが、シンジはそのアスカの様子に益々落ち込んでいく。
・・・ああ、・・・・アスカが怒っているよ・・・・・
・・・・平手が飛んでこないってのは、きっとそのレベルを超えてるって事だよぉ・・・
・・許して・・・・くれないだろうなぁ・・・・
いい加減シンジがサイコ入り始めた頃、彼を救う呼び鈴の音が、
ピンポーン
門扉から届いた。
「こんにちは、シュウヘイさん」
重苦しい場から逃げ出せた安堵感もあり、シンジは明るく玄関口に立つ男、隣の隣の部屋305号室の住人に明るく挨拶をする。
「どうも。回覧板をあげよう」
「あれ? 回覧順では樽さんが持って来るんじゃないんですか?」
「ああ、彼は家賃を滞納して雲隠れしちゃって・・・・ハハ」
そう言えば、このところ姿を見てないな。
「さて、アスカちゃんとこも留守ということで、とばして持ってきたんだ」
「それなら丁度よかった! アスカ、ここに居るんですよ」
「え・・・・・やっぱりそういう関係だったの・・・・・・」
伊豆場シュウヘイ−18才。
ぎりぎりアスカに名前で呼ぶ事を許される年齢。
がっくりと肩を落として去って行く・・・・
ああ、ここにもアスカに惑わされた男が一人。
罰当たるぞ、シンジ。
とぼとぼと力無く門扉を後ろ手で閉めたシュウヘイを見送ってから、
シンジは回覧板に目をやる。
「あ!!」
そこにある文がシンジの興味を引く。
【 [めぞんEVA新館] の温水プール・大浴場温泉・集会場が完成いたしました。】
【つきましては本日より使用を開始いたします。お誘い合わせの上ご利用下さい。】
【利用者は当EVA館住人および、住人同伴の方に限っております。 大家 】
日付は・・・・3日前だ。
回覧順が最後の碇家に届いた日付としては上等な方だ。
何しろ変人の巣窟めぞんEVA、ここまで回って来ない事もある・・・・ (;;)
温水プール! これいいな・・・・
シンジの元にかすかな希望がやってきた・・・・
「来い来い来い来い・・・・・」
呪文のようにつぶやきながらモニターに食い入るミサト。
鬼気迫る目つき、泡を吹く口の端、洩れる呪いの言葉。
まわりには誰も寄りつかない。
凄いぞミサト、ATフィールドを展開した初の人類だ!
しかしそのパワーはブラウン管の向こうには通じない。
ミサトは結果を報じるアナウンサーの声にへたりこむ。
「ああ・・・・はずれたぁ・・・・・今月これでオケラだわ・・・・」
るーるるーーー
マイナーコードが口をつく。
ふらふらと立ち上がったミサト。
両手をポケットに突っ込む。
手の中にあるナンバーズ10のくじカードを見つめてしばし黙考。
これ、当たっていたわよね・・・・いくらだっけ?
あ、そうだ。
当たっているのに興奮して確かめなかったわ・・・・
アタシったらお間抜けさん。テヘッ
はにかんで自分の頭をコツン。
ちょっと、いや、かなり可愛い。
しかし回りの男達は冷やかだ。
先程までの狂態を見ていたのだから当然。
「まあ、いいわ! おばちゃん、これで最終レース馬単9−2ね!」
お気楽思考で答えを出したミサトは窓口に走った。
カードを受け取り、端末を操作したおばちゃんは一瞬固まる。
が、そこは売り子のプロ。すぐに気を取り直して努めて事務的にミサトに確認を取る。
「この通りで間違いありませんね?」
[OKOK! 早く頂戴! レース始まっちゃう!!」
ソコツ者ミサトは窓口に顔を向けたが目は中継モニターに釘付けだった。
確認画面には・・・・
:最終11R−天候賞
:馬番連勝単式
:9−2
:352、001、000円
かけた馬は・・・・・誰も見向きしない、運で重賞にきた駄馬。
葛城ミサト28才。
男だけでなく、金にも縁の無い女。
やっと書けた・・・・・第3話からまるまる3週間。
遅くなってしまい申し訳ありませんでした。m(__)m
3話のあとがきにあった「レイちゃん登場」は後編になりました。
レイちゃんの設定について色々な要望やアドバイスを送ってくれた皆さんありがとうございました。
どうにか自分の中でイメージを作りました。
さあ、上手く出せるか?(^^;
今回の話、最初は
ミサト、宝くじに大当たり!
手に入れた金で「めぞんEVA」の1室を手に入れる!!!
というシナリオを考えていたんですよ。
その為に
第2話Aパートで
「ま、アタシのサラリーじゃ宝くじに でも当たらない限り無理でしょうけどね」
と言わせて、
第2話Bパートで
「ああそうそう、日向君。いつもの奴21から5飛ばしでね!!」
と言ってくじを購入して、
着々(?)とネタ振りをしていたのです・・・・
ところが、ついうっかり「思いがけなく手に入るお金」というパターンを
SS『大家のある半日』で使ってしまったんです・・・・(^^;;
バカですね(;;) 「ホントにバカね」と言われそう。
取り敢えず前編UPです!
貴方の感想待ってます。返信率100%!!
今までもすべてのメールにお答えしています。
「帰ってきて無いぞ!」という方は連絡して下さいね。