少し前までこの坂道を一際鮮やかに飾り立てた桜の花はその役目を終え、心の明るくなるような生き生きとした新緑が埋め尽くしていた。
通りかかる人々は花が散ったのを惜しんだが、新たな葉が覆っていくに連れ季節が夏に向かいゆっくりと歩み始めているのを感じ取っている。
坂道の両脇には建て売り住宅がならんでいた。
二十世紀後半に売り出されただけあって、いずれの家も些かくたびれた印象を受ける。
だが中にはリフォームした家もあるので寂れた感じは受けない。
その景色の中でつい最近建てられた高級マンションがそびえ立っていた。
つい最近造築したらしい。この不景気に剛気なことである。
そんな中、二十一世紀も十五年経ったが、まるでそこだけはいまだ大正時代であるかの様に、あるいは時間の流れがそこだけ避けて流れたような建物が建っている。
だがそれは『時代を超えた落ち着いた佇まい』と言う代物ではなく、ただ単に老朽化したもはや崩壊寸前の建造物である。
そこの入り口には腐りかかった板にこう書かれていた。
で、その崩壊寸前の建物には六人の住人がいる。いずれも近隣では名を知られた強者達だが、今は此処にいない。では何処にいるかというと・・・・
「ちょっとシンちゃあーん!お弁当持ったの?」
「バカシンジ!!あたしの荷物、乱暴に扱わないでよ!!」
「シンジ・・・・ジュース買ってきて・・・急いでね・・・」
『第三新東京駅発、沼田行きまもなく発車いたしまーす』
「我々には時間がない・・・電車にも時間がないのだ、シンジ」
ジリリリリリリリリン
発車を知らせるベルがけたたましく鳴り響く中、今まさに旅立とうとしている『快速列車シメジ八号』に向かって息を切らしながら一人の少年が山のような荷物を抱え駆け込んでくる。
「ほらシンちゃあーーーん、早くうーーー!」
「やっぱり愚図ね・・・・・」
ジリリリリリリリン
まさにドアが閉まる瞬間に彼は乗り込むことが出来た。
「ぜーーーぜーーーーはーーーひ・・・酷いよみんな・・・荷物・・・持たせて・・・」
プッシュウーー
ガッタンゴットンと『シメジ八号』がゆっくりと走り始め群馬県沼田市へと向かった。
ねるふ館の住人はその途中にある『伊香保温泉』に行く予定なのだ。
前回崖崩れでおじゃんになったので今回に変更になったわけである。
シンジは荷物持ちで連れてこられた。
費用はミサトの勤め先からくすねてきた社員旅行用の旅行券が当てられている。
六人掛けの特別シートに座り早速缶ビールが空けられた。
「んーーーーーー美味い!!やっぱ電車はビールよねえ」
もう三十まで時間がない独身のミサトはこの世の幸せのような顔でビールを取りあえず一本を一気に開ける。
「はいシンジ君。缶コーヒーでいいでしょ」
この旅行にリツコさんも同行している。ミサトのくすねた旅行券が一人分あまったのだ。
シンジ一人では心配だった。
「あ・・・・スミマセン、・・・ゴクッ・・・ふー、でも温泉なんて久しぶりだな」
以前に母親の勤め先の慰安旅行に一緒に連れていって貰ったことがあった。
シンジはその時初めての広いお風呂、しかも外のお風呂にすっかり舞い上がりしばらく風呂場で遊んだ後すっかりのぼせてしまった事がある。
・・・あの時母さんがうちわで扇いでくれたっけ・・・
・・・楽しかったの・・・そう、良かったわね・・・
膝枕をしたシンジの額に心配そうに当てた掌の優しい感触が不意に思い出された。
温泉など後にも先にもそれ一回だけである。
裕福ではないシンジの家では温泉旅行などそうそう行ける物ではない。まして父親が不倫でどこかに消えてしまったので、女手一つで一生懸命働いている母親にねだる事などシンジには出来なかった。
・・・母さん・・おみやげ買うからね・・・
「温泉なんてしけてるわねえ、もっと良い所無かったのかしら。ねえシンジ君」
リツコさんは温泉旅行に些か不満があったのだ。出来れば海外旅行せめて北海道ぐらい行きたいと思っている。
もっとも宿を取ったミサトの話ではかなりいい温泉旅館らしい。そこの食事も定評があり豪華露天風呂完備、とパンフレットには書かれているので一応期待はしている。
さて同じ席にいるミサトをはじめとした四人は既に宴会を始めていた。
ウワバミの四人の事、どんなときでも飲む事だけは忘れない。
「ほらバカシンジ、あんたも飲みなさいよ・・・何よつまんない男ねえ。ケッ、屑ね屑!!」
「そう、シンジはつまらない男・・・・・フフフッ・・・ゴミね・・・」
アスカもレイも高校生でありながら酒豪である。足下に四本のビールの空き缶が転がっているがそれでもいつも通りだ。
そう、これでいつも通りなのだ。
一方ゲンドウは相変わらず一升瓶を抱えチビチビとやっている。何か拘りがあるらしい。
いつもの制服を着込み壊れている目つき。怪しいことこの上ない。
「シンジ、今夜も宴会だ。何か芸の一つでも見せて見ろ」
シンジに芸など無い。特技もない。勿論チェロも弾けない。
それ故シンジは小さいときから『地区のお楽しみ会』と言った催し物が嫌いだった。
勿論宴会など出たくもない。とは言うものの何か考えておかないと何をされるか分からない。
まあリツコさんもいるからそんなに酷いことはされないと思うが。
「ほら、シンジ君苛めたら・・・・・酷いわよ・・・」
リツコさんの目が細くなり氷点下の視線がゲンドウに突き刺さる。
「ふ・・・・ふん!こ、怖くないもんね!!」
辛うじてゲンドウはそう強がるが体は正直だ。ガタガタと小刻みに震え窓側にへばりついてしまった。
「何あれ、バッカみたいあのオヤジ!なっさけないったらありゃしない!」
「・・・所詮見かけ倒しね・・・・」
「まあまあ、あんなの苛めたって面白くないわよ、やっぱシンちゃんじゃないと・・・」
にやりと笑う三人の顔がシンジに向けられた。
それは獰猛な肉食獣が舌なめずりしているようにも見えた。
*
六人を乗せた『快速特急シメジ八号』から見える景色は都市部のそれから緑豊かな田舎の景色へと徐々に移り変わり、群馬県内に着いたときはもう恐竜はいるわ、始祖鳥は飛び回るわ、三葉虫は走り回るわ・・・・嘘です・・・・冗談ですってば。
何はともあれ一行は伊香保温泉駅を自分の足で踏みしめた。
「リツコー、その辺に迎えが来てない?」
「それらしいのは見あたらないけど・・・・?・・・あれそうじゃない?」
リツコさんの指さした先には着物を着たうら若き女性が彼らを見つめている。
「ちょっとあんた!何じろじろ見てんのよ!!何か文句あんの!!」
「生意気ね・・・・シメるわよ・・・・フフフフフフフフッ・・・」
幾分アルコールの回ったアスカとレイが絡み始めた。この二人は飲むとがらが悪くなるらしい。
「ほらあんた達・・・ったく・・・ええと『ベニテング茸旅館』の方ですか?」
「ヒッ!・・・・あ、あの・・ご免なさい・・・ミサトさんご一行の方を迎えに来たんですう・・・・あ、あたしマヤって言うんですけど・・・」
あの二人でなくゲンドウもその危険きわまりない目つきで睨んでいるものだからすっかり怯えている。
「あら、じゃああたし達ですわ。ミサトは彼処で・・・・中学生ナンパしてるバカです」
リツコの指さした方に三十歳までほんの少しの独身女性が
「ちょっとそこの君!適性あるか見てあげるわあ」
などと手当たり次第に男子中学生を追い回していた。
「ニャハハハ、ちょっち舞い上がっちゃったわ。あたし達よー予約入れたの。案内してくれる?」
リツコさんは迎えに来たマヤという従業員らしい女性にそっと話しかけた。
「・・・ちょっと、何であんたが此処にいるの?出番まだでしょ」
「でも先輩・・・こうでもしないと出番が回ってこないと思って・・・」
「バカね・・・こんなのに出るなんて・・・後で読んだときに気が付くわ・・・」
そんなこんなで彼らは『ベニテング茸旅館』へと案内された。
*
木造二階建て。
そこまではねるふ館と一緒だが規模も建物の質自体も全く別次元だ。
これこそまさに『由緒ある歴史的建造物』といえるだろう。
庭の造りも建物自体もすべてが高次元で素晴らしいバランスで調和されている。
「・・・・・すごい・・・・・」
シンジは素直な感想を口にした。
シンジが以前母親に連れて行ってもらった『健康温泉ランド』とは桁が違う。
これほどの建物に足を踏み入れたことなどない。
庭には特別天然記念物の尻尾の長い綺麗な鳥が放し飼いになっているし、庭の木は綺麗に刈り込まれ、池には一匹が高級外車と同じ値段の鯉が泳いでいる。
おまけに迎えに来た車はベンツのリムジンだ。
それぞれの価値をマヤは丁寧に説明していた。
庭に使徒が放し飼いになり、もはや枯れかかった庭木が生え、水溜まりのような池にこれまた夜店で買った使徒が泳いでいるねるふ館・・・・
比べてはいけないのは分かっている。ただシンジには余りにも刺激が強かった。
「ちょっちしょぼい旅館ねえ・・・・」
「古くさい旅館だわ・・・」
リツコさんとミサトは不満タラタラである。
「あ、あのお金・・・大丈夫なんですか?・・・僕だけ置いてきぼりなんて事・・・・無いですよね」
一方
「シンジー、これで鯉コク作ってよ」
「あたし・・・鯉の洗いが良い・・・酢味噌で・・・」
アスカとレイが色艶やかな鯉を差し出した。それはシンジの前でピチピチとはねている。
「!!何してるんだよ!!直ぐ戻してよ!!それ高いって言ってたろ!!」
「ケチ!!ドケチ!!いいじゃない二匹ぐらい!!」
「尻の穴・・・・小さいのね・・・」
シンジは必死にマヤに頭を下げていた。あの二人はとっとと何処かに行ってしまっている。
「だ、大丈夫ですよ・・・まだ生きてるし・・・・・・・」
池に鯉を戻しながらマヤはそう答えた。
さて玄関近く。
「おいシンジ、焼き鳥の支度をしろ」
シンジが振り返ると放し飼いにされている鳥をぶら下げたゲンドウが立っていた。
「!!」
「少し待て、今さばく」
きらっと包丁が光る。
「だああああああ、何やってんですか!!それ天然記念物の・・・」
「ああ、問題ない。上手いぞ、何たって天然きね・・・何をする?」
「何をするじゃないです!この鳥いくらすると思ってるんですか!!」
もう泣きそうな顔でマヤが訴える。鯉も鳥もちょっとやそっとじゃ買える代物ではない。
「ふん、放し飼いなのだから構うまい。心配するな、ちゃんと分け前は・・・グウッ!」
「世話焼かすんじゃないわよ、シンジ君部屋行きましょ」
手にした巨大な庭石を放り出すと、ゲンドウの頭を片手で引きずりながらリツコさんはマヤに部屋を案内するよう促した。
「グスッグスッ・・・・はい・・・こちらです・・・・」
「・・・・・やっぱりリツコは怖いわね・・・・」
「あのヒゲオヤジ・・・・生きてるの?・・・手加減してなかったわよ・・・」
「バーサンの癖に・・・・・・強いのね・・・」
*
ミサト一行が案内されたのはやたらに広い、だが格調高い部屋だった。
いずれの調度品を取ってみてもとても高価なものばかり・・・・と、もう涙をぽろぽろ流しているマヤが言っていた。
「凄い高そうな部屋ですね・・・・」
「そう?・・・そんな風には見えないけど」
「あっそう、シンジーほら見てー、上手いでしょ!」
ポーンと放り投げた空き缶が壺に音をたて入った。
「・・・・あたしも・・・上手・・・」
割り箸の先でくるくると大皿を回している。
床の間に飾ってある皿を回して遊んでるレイや、大きな壺の中に空き缶をポイポイ捨てているのを見ると確かのそうは見えない。
「それ・・・・・古伊万里の・・・・大皿・・・・壺は・・・柿右衛門の・・・・」
リツコさんは力無く泣きながらうずくまるマヤを引き取らせると本来の目的である、温泉に入る為の準備を始めた。何も此処の従業員を精神崩壊するまでいじめに来たわけではない。
ミサト達も夜の宴会までに風呂に入るつもりらしく支度をしていた。
*
此処の風呂は屋内浴場と、露天風呂がある。
屋内浴場は総檜の大きな風呂場でとても立派なものだ。その浴場から少し先に行くと岩で囲まれた露天風呂がある。それ程広くはない、が落ち着いた感じの品のいい露天風呂だ。
シンジはいずれにするか少し悩んだが取りあえず檜風呂から先に入る事にした。
シンジの部屋より遙かに広い風呂桶には、誰の姿もない。大半の宿泊客達はまだ観光に出かけてる最中だろう。
ザブン!!
「ふーーーーーー、大きいお風呂はやっぱりいいなあ・・・・・」
今まで続いた生き地獄のような日々がまるで嘘の様に、ささくれ立ったシンジの心を穏やかにする。天井に開いた窓から日の光が漏れ風呂場に何とも言えない雰囲気を醸し出す。
ねるふ館には風呂はなく近くの銭湯に通っているが無論こんなに立派なものではない。
一人きりの大浴場は彼にゆとりを与えた。
全身の血の巡りが良くなり心と体が弛緩し始めた頃、更衣室の方で人の声がする。
・・・誰か来たかな?・・・・
何気なく聞いているとそれは女性の声だ。
・・・!!此処は確か男風呂・・・だったよな・・・・・
慌てて注意を更衣室に向けると一人の人影が映っている。髪が長いのが分かる。
「シンちゃん・・・・・」
そして聞き覚えのある声・・・・・。
「あ、あの此処男風呂ですよ!!お・・・女風呂は向こう側・・・」
「シンちゃん・・・・・」
・・・何でミサトさんが!!・・・どうしよう・・・・
その時シンジの心に浮かび上がる名文句
逃げちゃ駄目だ!!逃げちゃ駄目だ!!逃げちゃ駄目だ!!逃げちゃ駄目だ!!逃げちゃ駄目だ!!
性格はどうあれ、たとえ片足を三十路に突っ込んでいても美人は美人だ。見た目に問題はない。
シンジの鼓動が急激に激しくなる。心臓の動きだけで風呂のお湯を波立たせんばかりだ。
呼吸も苦しくなる。
「ミ、ミミミミミミミミミミミミミミミミミミミサト・・・・さん・・・・」
季節はずれの蝉のようなシンジ。彼だって端っこに位置するとは言え一応、男だ。
ゆっくりと人影が入り口に手をかける。
「あ、あの・・・まずいですよ・・・・あ、あ、でも・・・あ、その・・・大丈夫です・・・」
何が大丈夫なのかはよく分からないが、急に辺りをキョロキョロし始めた。
彼の心の中に・・・どうせなら若い方が良かったな・・・と、二人の同級生の顔が浮かぶ。
さっきも言ったように根性がどんなに酷く曲がっていても、見た目は美人なのだ。
以外と欲張りなシンジ。
ガラッ
入り口の引き戸が開き、誰かがそっと入ってきた。
湯気で肉眼による確認は出来ない。つい目を細めてしまう。
「シンちゃん・・・・」
ゆっくりとその陰が近づいてくる。シンジは髪の毛を手櫛でなでつけ始める。
「・・・・・・・あ・・・あの・・・・・」
そして目の前に現れた。
「見ろ!!シンジ!!」
そこには腰に手を当てカツラをかぶりラジカセをぶら下げたゲンドウが立っていた!!
「な・・・・何してるんですか!!」
「風呂に入りに来ただけだ。それより何が“大丈夫”なんだ?」
ニヤリと笑いながら怪しげな目でシンジを見つめている。
「何でも・・・無いです・・・・」
ぶくぶくとお湯に沈みながらものすごく落胆してしまった。とても悲しかった・・・・。
シンジの鼓動も呼吸も平常値に戻っていった。
「いい風呂だな、シンジ。・・・・ん?どうした?」
「どうしたって・・・わざわざカツラまでつけて・・・・もういいですよ・・・」
思春期の少年の心を深く深く傷つけてしまったゲンドウだが全く悪びれることなく大切な髭の手入れに没頭していた。
それはともかく隣の女風呂で本物の女性の声が聞こえ始めてくる。ミサト達が入ってきたらしい。
「ちょっとリツコ・・・随分若作りじゃない・・・」
「大きなお世話よ・・・・あんた少し太ったんじゃない?飲み過ぎね」
アスカとレイの声も聞こえてくる
「あの二人、歳食ってる癖に堂々と見せびらかして・・・・乳が出かけりゃいいってもんじゃ無いわよ!!フン!!どうせすぐ垂れるんだから」
「・・・バーサン共の癖に・・・生意気ね・・・」
「シンジどうした?」
「別に・・・・」
すっかり彼女達の会話に聞き入っていたシンジの顔が赤いのはお風呂のせいだけではない。
「・・・・・見たいか?・・・」
「・・・・え!?・・・・」
「見たいかと聞いたんだ・・・」
「そんな事無いです!だってそんな・・・見れる訳無いですよ!!無理だよ!!」
「説明を受けろ・・・じゃない説明してやる、此処は一枚の板で仕切られている。そして此処にドリルがある・・・・どうだ?」
ゲンドウの片手に何処から取り出したのか木工用ドリルが握られている。
「ゴクッ・・・・・・い、いえ、見ません!!」
「そうか・・・“大丈夫です”と言った割には情けないな。お前には失望した。わし一人で楽しむとしよう」
そう言い放つと壁に向かい作業を始めた。
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
作業が終わったのかドリルを置くと直径5cm程の穴にグッと腰をかがめ覗き始めている。
思いっきり開けたもんだ。
「駄目ですよ!そんなのぞきなんか駄目ですよ!!」
「うるさい、臆病者に用はない。此処を去れ」
冷たい目で見つめ、冷たい言葉でつき放つ・・・・
「おお!!これは凄い!!問題大有りだ!!・・・・おお!!何と言うことを!!こりゃタマラン!!」
「・・・・・・・・あの・・・」
「うるさい、邪魔をするな。お前には見せてやらん」
「駄目です・・・・」
「何だと?」
「駄目です!駄目です!駄目です!駄目です!」
「うるさい奴だ・・・・もういい、わしは出る」
すっかり興ざめしたようにゲンドウは風呂場を後にした。
これ以上シンジに騒がれるのも面倒だし、飽きた。
「・・・・本当に非常識だなあ・・・・」
だがゲンドウの開けた穴がさも覗けと言わんばかりだ。
気にならない・・・訳がない。
「アスカのもおっきいじゃない。張りもあるし」
・・・・・・
「レイの肌すべすべ!!気持ちいい!!」
・・・・・!!・・・・
そう、穴を塞がなくっちゃ!!その為には穴の大きさを調べなきゃ!!
シンジはそう理由を付けるといったん辺りを見回した・・・・・・・誰も居ない・・・・
時として神は気まぐれにもっとも哀れな者に祝福を与えることがある。
シンジはススッと穴に近づくと修理の為そこを調べる事にした。
ドッキン・・・・・ドッキン・・・・ドッキン・・・・
「レイの胸、形綺麗じゃない」
シンジに何の迷いも無くなった。グッと顔を穴に近づけた・・・・・・・・
「・・・ドスケベ・・・」
穴にはそう書かれた紙が貼り付けてありその紙の向こうには無情にもコンクリートの壁が立ちはだかっていた。
「・・・騙したな!!僕の気持ちを裏切ったんだ!!!くそーーー」
そして・・・・・・
「シンジ・・・見たぞ・・・・覗いていたな」
・・・・・・・・・ニヤリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
*
風呂の後の宴会・・・・それはもはや獣達の宴となっていた。
電車の中でしこたま飲んでいたがそんなのは準備運動のようなものだ。
「このために我々は居るのだ・・・・・」
とゲンドウがのたまうようにこの宴会こそが今回の旅行の目的だ。
普段も宴会はしているが、いつもの汚く狭い六畳一間の五号室ではなく、こういった旅館でやるのに意味がある。
目の前のお膳にはシンジが見た事はおろか聞いた事もない様なご馳走が並んでいた。
取れたての山菜の天ぷら、釣ったばかりのヤマメの塩焼き、メインは鴨のコースでステーキ、鴨鍋等々・・・。
「・・・・食べて・・・いいんですか?・・・」
余りの豪華さにたじろいでしまう。
月に一度の贅沢しかしない(それでもビーフシチュー程度)彼にとって、今日のような料理を口に出来るとは信じられない思いでいっぱいだ。
「バカね、いいに決まってるじゃない。シンちゃんに楽しんで欲しくって旅行券持ってきたんだから」
ミサトの微笑みが神々しい。今の彼女はまさにビーナスでさえ見劣りさせるような美しさをたたえていた。
「はい・・・・いただきます!!」
一斉にみんなの箸がお膳に向かった。いつものような小さなちゃぶ台ではない、一人一人に漆塗りのいかにも高価そうなお膳。そこに乗っているやはり漆塗りの高そうな器の各種。器の中に入っているのは最高の材料で作られた最高の料理。
いつものように他人の箸の動きを気にする事もない。
自分の分を取られるのではと怯える事もない。
目を血走らせ必死に食事を掻き込む事もない
今シンジは幸せの最高潮だ。
「あら、美味しいじゃないこのお酒」
「でっしょー!いっちばんいい奴なんだから」
「こっちのワインもいけるじゃない。ほらシンジあんたも飲んでみなさいよ」
「・・・あたし・・・三本目・・・」
美味しい食事に楽しい会話
「ブヒャヒャヒャヒャッふおおおるあすいいいんちゅああああんぬおおおんでゅえええるううう?」
(訳:ほらシンちゃん飲んでる?)
「ゲヘヘヘヘへシンジなんか芸しなさいよウケケケケ脱げえええ!!」
「そう・・・芸がなければ脱ぎなさい・・・・貴方にはそれしかないもの・・・」
暴走開始。
三人の目つきが既に怪しくなっているのに気づかなかったのは、余りにも幸せすぎたからだ。
「な、何言ってるんですか・・・ちょ、ちょっと・・・」
ジリジリッと三人が近づいてくる。
慌ててリツコさんに助けを求めたがもうお休みしている。お酒が入ると眠くなる人らしい。
「ふおふぉふぉふぉりいつうくおおふあついんむくおくうしいてええるううわああゆおお」
(訳:ホホホホホリツコは沈黙したわよ)
「ゲヘヘヘヘヘッ覚悟しなさい・・・おれおれおれいっくわよー」
「貴方に逃げ道はないもの・・・すべて脱がすわ・・・・」
完全に逝ってしまった目でシンジを見つめる。
「やりたまえ・・・・お前達の為のシンジだ・・・」
グワッと一斉にシンジに躍りかかる。
浴衣がはぎ取られ、Tシャツもむしり取られていく。
「やだよ!!やめてよ!!やめろーーーー!!」
襲いかかる三人!!逃げ回るシンジ!!
果たしてシンジの運命は!?
などとほざいている間にシンジの白いブリーフにミサトの手が掛かる!!
「くうああああああくううううううぐおおおおおおお!!!」
(訳:覚悟!!!)
「行けミサト!!」
「・・・・・ゴクッ」
・・・・だがいい加減酔っぱらっている上さっきから暴れまくっているミサトの動きに切れはない。
シンジはそんな好機を見逃さず彼女を振り払うと部屋の外へと逃げ出してしまった。
「このいかず後家!!」
*
「あーあ、やっぱりこうなるのか・・・・」
風呂場に逃げ込んだシンジは露天風呂にはいるとようやくホッと一息ついた。
貞操の危機を何とか逃れた。
夜の露天風呂は誰も居ない。他に宿泊客が居ないように思えるが作者がめんどくさがって書かないだけである。
静かな、本当に静かな夜。
かすかに虫の声が聞こえてくるだけだ。
・・・・・・・・・・・・
淡い光を投げかける月を見ると遠くの街で働いてる母親を思いだした。
優しかった母・・・顔を見なくなってどれくらい経つだろうか。
会いたいと思う。でも会えば別れるとき辛い。
だから会いに行かないのだ・・・・自分は弱虫なのかなと言う思いが頭をかすめる。
不意に辺りの景色がゆがんだ。涙で景色がにじむ・・・・いや、それだけではない。
アスカに勧められ飲んだワインが効いてきたのだ。
口当たりが軽かったからつい飲み過ぎたようだ。それに加えさっきのバカ騒ぎ。
景色が回り始め、平衡感覚が狂ってしまった。
そしてホワイト・アウト・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
・・・・・!?・・・・
シンジが目を覚ますと彼の頭は何か柔らかいものの上に置かれていた。
「あ・・・・気が付いたのね・・・・」
「僕・・・・どうして・・・・」
「貴方・・・お風呂でのぼせていたの・・・」
赤い瞳の少女が優しい笑みを浮かべシンジを団扇で扇いでいる。
レイの膝の感触が気持ちいい。
「ありがと・・・もう大丈夫だから・・・・」
体を起こそうとするシンジの額に彼女の白い手がそっと触れた。
「・・・・あ・・・」
「・・・大丈夫なの・・・そう、良かったわね・・・」
子供の頃は母に膝の上で看病して貰った。
子供の頃は母に団扇で扇いで貰った
そして
・・・・そう、良かったわね・・・
今の彼女がその時とオーバーラップする。
「うん・・・・・もう、大丈夫だよ・・・一人で起きられるから・・・」
レイの膝から体を起こし彼女を見つめる。
赤いルビーのような瞳・・・彼の母もこんな優しい瞳でシンジを見つめていたのだろう。
そして何処か寂しげな・・・・
「シンジ・・・・小さいのね・・・とても・・・・くっくっくっく」
・・・違う・・・母さんはそんなこと言わなかった・・・・
とても楽しそうにレイは、呆然とした素っ裸のシンジをそのままに風呂場を後にしたのだった。
*
「ほら、マヤ。さっさと送ってちょうだい。要領悪いんだから!!」
とリツコさん。
「ほらぐずぐずしてないで荷物さっさと運びなさいよ。小娘が!!」
とミサト。
「オラオラ!!かまととぶってんじゃないわよ!!」
とアスカ。
「・・・役に立たない癖に出たがるのね・・・」
とレイ。
マヤは顔を涙でグチョグチョにしながら車に荷物を積み込んでいる。
「えっくえっく・・・・はい・・・やりますから苛めないで・・・えっくえっく」
この出番を待ちきれずにいきなり顔を出したマヤに女性陣四人は、己の立場を危うくしかねない存在に容赦はしなかった。
ゲンドウもシンジも助けてはやりたいが怖くて怖くて口一つ挟めない。
「恐ろしいですね・・・・」
「ああ・・・所詮、女の敵は女だよ・・・」
リツコ「お疲れさま」
ミサト「相変わらずバカな話ね」
リツコ「あの子達は?」
ミサト「向こうでいじけてるわよ。レイなんかつまんない物見ちゃったって言ってたわね」
リツコ「・・・・そう。あ、補足説明ね。はいはい。伊香保温泉は実在します」
ミサト「それ以外は全部でたらめですって当たり前か。にゃはははは」
ミサト「でもマヤちゃんが出てくるなんて思わなかったわね。まるで鬼姑ね、あたし達」
リツコ「そうね。作者がネタにつまって出したんでしょ。いつもの事よ」
ミサト「この展開から行くと次の苛められ役は彼女ね。良かったわねシンちゃん」
リツコ「だから言ったのよ。読んだとき辛いって・・・バカな子・・・」
ミサト「其れはそうとこれ五万人記念でしょ・・・四万人記念は?」
リツコ「間に合うわけ無いじゃない。26からの七話書いたときもう四万人越してるのよ」
ミサト「はいリツコ・・・お約束の台詞」
リツコ「では・・・んんっ・・・・・ブザマね・・・・・」
ミサト「そんじゃ挨拶しましょうか」
リツコ、ミサト
えー皆様、『めぞんねるふ!!!!!いい旅・悪夢気分』お読みいただき有り難うございます。
毎回の駄作にお付き合いいただきもはや申し上げる言葉も御座いません。
そんな皆様のお優しい心のお陰で作者も懸命に書いています。こんな物でも読んでやろうかと言う皆様方のご期待にいつかお答えできるような物をと作者に頑張らせているのですが・・・
ミサト「ま、作者が作者だからちょっちきついわねー」
リツコ「ほら!続けるわよ」
ともかくこれからもどうかそのお優しい心をお持ちいただけますよう切に願う物であります。
では次回はもはや何時になるか分かりませんがまたお目にかける時がありましたらどうかよろしくお願いいたします。
ミサト「行くわよ、リツコ・・・せーの・・・」
ミサト、リツコ
遅筆の私の替わり、区切り毎に記念小説を書いてくれるディオネアさん(^^)
そのディオネアさんが50000HIT記念の作品を送ってくれました!
『めぞんねるふ!!!!!』いい旅・悪夢気分の巻き、公開です!!
今回、シンジ君はあまり不幸ではありませんでしたね。
そこそこひどい目にあってはいるんですけど、今までを考えれば軽い軽い(笑)
その分辛かったのがマヤちゃん・・・・
マヤちゃん、早く出たいのは分かるけど
こんな所で出たら、この先登場のしようがなくなっちゃうよ(笑)
貧乏人のネルフ館の面々が温泉旅行なんてもう出来ないでしょうから・・・・(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
体調不良を押して記念小説を書き上げてくれたディオネアさんに激励のメールを!!
シンジ、穴ぐらい自分で開けろ!
板塀ぐらい乗りこえろ!
その先にある物を考えたらそのぐらい困難でも何でも無いぞ!(爆)