六畳一間の五号室の古びた台所で一人の少年が鼻歌混じりに鍋をかき混ぜている。
辺りには芳醇な香りを充満させ誰かその場にいればお腹の虫がフルオーケストラで大合唱したであろう。
小さく、かなり老朽化したガスコンロが、その持ち主のために青白い炎を一生懸命灯している。
ぐつぐつとマグマの様に沸騰した鍋には赤いビーフシチューが今まさに誕生しようとしていた。
色白の気の弱そうな少年はお皿にほんの人匙それをすくうとその口に運んだ。
「・・・・・・ん、よし!」
既に鍋に火をつけてから5時間が経過していたがその苦労が今ようやく彼の胃袋の中で実を結ぼうとしている。
シンジの持っている数少ない食器の中の尤も高級そうな深皿を取り出すと彼の苦労の賜物がそそぎ込まれた。
月にたった一度の贅沢。
時にパン屋で『パンの耳』を貰い、賞味期限ギリギリで値下げされた物だけを買い、ジュースも飲まず仕送りのお金を節約した。そしてその分今日のディナーに奮発したのだ。
焼きたてのフランスパンを買うとき迷った。
赤ワインを買うとき手が震えた。
そして牛肉を買うに至っては失神しそうだった。
そんな思いの詰まったビーフシチューが白い布で覆われた小さなちゃぶ台に恭しく置かれる。
「さて・・・・パンもOK・・・・あ、スプーン忘れちゃった」
シンジがスプーンを取りに行ったその間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「シンちゃん美味しいじゃない!!うん、結構いけるわ、これ」
「バカシンジにしちゃ上出来ね・・・ん、このパンもいけるじゃない」
「・・・あたし肉、好きだから・・・ こういう時どんな顔すればいいか分からないの」
「料理は人の力だよ・・・・・シンジ、酒が無いぞ」
シンジの目の前には背中に禍々しい黒い羽が生え、黒い尻尾を踊らせている四人の姿が視界に映し出された。
テーブルの上に置かれたはずのビーフシチューと焼きたてのフランスパンは映し出されない。
それらは既に姿を消していたのだった。
「なななななななああああああたたたたたたここここここいいいいいいかかかかかか!!!」
(訳:何であんた達が此処にいるんですか!!!)
「あ、あたし達?中止よ中止!温泉旅行は中止!!電車が不通なんだって」
ミサトの説明を補足すると・・・・・・
彼ら四人は三泊四日の温泉旅行に今日出かけるはずだったのだが、前日から降った雨のせいで崖崩れがあり電車が不通となってしまった。
当然、温泉旅行も中止になりこうして居ないはずの四人がこの部屋に現れたのだ。
因みにシンジは貧乏なので最初っから誘われなかった。
「と言うわけ。・・・・あれ、もう無いのシンちゃん」
「あんたバカア?そんだけ牛みたいにバクバク食べりゃ無くなるわよ!!」
「・・・お茶も出ないの?・・・・本当に役立たずね・・・」
「すべての料理は食べ尽くした・・・お前に用はない」
ゲンドウ、ミサトの二人は酒が出ないのでさっさと切り上げた。
そして二人の少女が自失呆然となったシンジの前に立ち、彼を赤と青の悲しげな瞳が見つめている。
「・・・・・・・・・」
シンジの瞳には心配げな二人の顔が映った。
秀麗で、どことなく儚げな顔が・・・・・・。
「・・・少し塩が薄かったわ・・・・今度は気をつけてね・・・・」
「シンジ・・・・・・・・・もっとお肉入れなさいよ!!全くみみっちいんだから!!」
そして五号室にはシンジ一人だけが取り残された。
食い散らかされたテーブルを黙々と片づけ、お釜の中から昨日の残りご飯を取り出す。
そのご飯をついさっきまで湯気を立てていたビーフシチューの鍋に放り込んだ。
鍋の縁にほんの僅かにこびり付いたシチューが冷や飯を薄赤く色づけした。
「・・・・・美味しい・・・よ・・・・・かあ・・・さん・・・・・・・・・」
*
リツコさんの朝は早い、そう、年寄りは朝が早くて・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ無いです。はい。
当然管理人としての業務を全うするためだった。
先ず玄関先の掃除から始めて、建物内部の雑巾掛け、共同洗面場の掃除等々数々の業務をテキパキとこなす。
「ふう、こんなもんかしら。・・・コーヒーでも入れて朝食にしましょ」
リツコさんは朝食をトーストとコーヒーに決めてある。
管理人室にコーヒーとトーストの香ばしい香りが漂ってきた。
ミサトの朝はもはや腐海と化した部屋から始まる。
恐らく万年床をどかすと、どの生物図鑑にも載っていないような生き物が無数に這いずり回っているであろう。
飲んでそのままになっている無数のビールの空き缶がこの部屋を彩っている。
「ん、・・・もう朝あ?・・・・・・ふぁあああああ」
アスカとレイの朝は意外とまともだった。
赤い寝間着のアスカがレイを起こしている。
「ちょっと・・・起きなさいよ、朝よ朝」
「・・・もう朝なのね・・・」
意外と片づいている部屋で二人の少女は気怠そうに目を覚ます。確かにそこには年相応の愛らしさが溢れている。周りの男達が騒ぐのも無理はない。
確かにそこだけであったが・・・・・・・・。
ゲンドウの朝は・・・・・・
「ん、もう朝か・・・」
「もう、早く起きて下さいよ。何時まで寝てるんですか」
「ははは、そう怒るな。君の夢を見ていたからな、つい起きそびれてしまったよ」
「もう・・・・あなたったら」
「ユイ、怒った顔も可愛いよ」
「何言ってるんですか・・・・もう・・・ほら向こうで朝食の用意が出来てますから」
・・・・一人二役のゲンドウの姿がそこにあった・・・・・・
そして彼らは五号室の前に顔を揃えた。
「シンちゃんおっはよー。今日の朝御飯なーに?」
言っておくが彼ら4人ともシンジに一文びたりと渡してはいない。それでも毎朝毎晩たかりに来るのだ。なかなか出来ることではない。
「何これ、また鮭の切り身!!あんたバカア、この前もこれじゃない!!」
「・・・あたし他のがいい・・・・」
「まあまあ、二人とも、今日の所は時間もないしこんなのでもいいわよ、ね、シンちゃん」
「納豆はどうした、シンジ。まさか無いのではあるまいな」
念を押しておくが、彼らはシンジに食費を渡したことは一度もない。
「どうでもいいですよ・・・・・さっさとして下さい。時間無いんですから」
シンジの表情には何か悟りを開いた趣がある。まるでお坊さんのような感じにも見えた。
「ところでシンジ・・・もぐもぐ・・・あたしのお弁当、まさか鮭じゃあないでしょうね」
「・・・お肉がいい・・・もぐもぐ・・・あたし“さあろいん”がいい・・・・」
シンジと同じクラスのアスカとレイは昼飯までシンジにたかっているのだ。
シンジがこのねるふ館に来てから結構経っている。母親が仕事でこの第三新東京市を離れる事になったが、シンジは受験もありここを離れられなかった。
その為近くのアパートを借りることになりこの『ねるふ館』に来たのだ。
因みに父親は勤め先の若い金髪の研究員とどこかに駆け落ちしたらしい。
・・・一人だけど寂しくないわね、シンジは男の子だもの・・・・
・・・大丈夫だよ母さん。心配要らないよ・・・
・・・じゃあ、元気で。体に気をつけなさいよ・・・
・・・うん、母さんも。時々手紙書くから・・・
「ちょっと、何ぼけっとしてんのよ。ほら、さっさと鞄持ちなさいよ!!」
ゲンドウは既に自分の部屋に戻り、ミサトも出勤していた。
「・・・遅刻するわ・・・でも大丈夫。シンジのせいにすればいいもの・・・」
そうされてはたまらないのでシンジは慌てて駆け出していった。
実際シンジの生活は彼らに振り回され、たかられ、無法の限りを尽くされているが・・・
それが楽しくないかと言うと・・・・・・・その通り、楽しくない。
*
「やれやれ、あの子達は今日も元気か。いいわね、若いって」
元気良く学校へ向かっていくシンジ達の後ろ姿を見送り、リツコさんはそう呟いた。
彼女の足下では使徒達がシンジを見送っている。
どういう訳かシンジとは気が合うらしく時折彼と遊んだりしているのだ。
「さて、今日は買い物でもしようかしら。ケーキ食べたいわね・・・うん、そうしましょ」
老朽化し、何時潰れても何ら不思議ではない『ねるふ館』を眺めた。はっきり言ってリツコさんがまめに手入れをしているから持っている様なモノだ。以前いた冬月など何一つ役に立たなかった。
まあ、あんな老人に大工仕事も酷な話だが。
リツコさんが郵便受けの中のダイレクトメールを取り出し、眺めていると門の先に一台のトラックが停車した。
「スミマセン。えーとねるふ館の赤木さんですか?」
「ええ、そうだけど?」
「小包です。はんこお願いしまーす」
リツコさんの手にした小包の伝票には『送り主:芹沢』と書かれている。
「???・・・・もしかして・・・」
はんこを渡しながら「芹沢」なる人物の顔を思い出そうとしていた。
「ありがとございましたー」
トラックの排気音と共に運送屋が立ち去っていく。
更に伝票を見ると『中身:生もの。要冷蔵』となっていて今ひとつぴんとこない。だが・・・・
「あの芹沢!?・・・懐かしいわね・・・・何年ぶりかしら・・・・」
この時点でリツコさんには小包の中身が何であるのか見当が付いた。だから空けずに冷蔵庫の中に放り込んだのだった。
*
「バッカシンジ!!何よこのみすぼらしい弁当は!!」
「なんだよ!しょうがないだろ、お金無いんだもん」
アスカがシンジの前で仁王立ちし、彼に作らせた弁当の文句を思いっきりぶつけていた。
「・・・しょうがないじゃないわ・・・どうするつもり・・・」
レイの赤い瞳に怒りの光が宿る。
「“さあろいんすてえき”がいいっていたのに・・・・」
「いいって言われたって・・・お金ないし・・・」
「なきゃバイトでも何でもしなさいよ!!大体仕送りで暮らそうってえのが甘いのよ!!」
アスカ・・・人にたかって飯食うって言うのは甘くないのか?
相変わらずの非道ぶりを思う存分振りまいている二人、そして相変わらずの情けなさを見せているシンジ。
どっちもどっちだ。
シンジが校舎の屋上で一人の昼食をしている。誰も一緒に食べてくれないから仕方がない。
弁当箱には朝のおかずだった鮭の切り身一枚だけが入っている。
因みにアスカとレイの弁当にはこの他にウインナーと卵焼き、味付け海苔が付いていた。
・・・はあ、何で僕ばっかりこんな目に・・・
すっかり黄昏て鮭だけ弁当を口に運ぶ。
世の中、年上のお姉さんと一緒に暮らし、尚かつ同い年の可愛い女の子も同居し、更に色白のこれまた可愛い女の子にも思いを寄せられている『シンジ』が大勢いるのに、なぜか此処の『シンジ』だけはいつも悲しい目にあっているのだ。
何で、と思うのも無理はない。
夕べ、ビーフシチューを食べられたのがそんなにショックだったのか元々暗い性格が更に暗澹としている。
・・・強く・・・なりたいな・・・
春の日差しの中、シンジの感じた風はまだ冷たかった・・・。
*
「あーーーーお腹空いた。シンちゃんなんか食べる物なあい?」
帰るなり第一声がこれだ、全くもうすぐ30になろうというのに自覚が著しく足りないミサト。
「バカシンジ、何か無いの。いつも言ってるでしょ!!あたしが帰ってきたら何か出せって・・・」
「・・・何で気が利かないの・・・お茶ぐらいさっさと・・・?」
五号室にシンジの姿はなかった。
「あのバカ!居ないじゃない。ったく、余計に腹減ったわね。アスカ何か無いの」
「無いわよ」
「有るわ・・・・」
レイの思いがけない言葉にさっきまで毒づいていたミサトとアスカが顔を向ける。
「・・・ケーキ有る場所・・・知ってるわ。管理人の所よ」
そう、彼女はリツコさんの買ってきたケーキをねらっているのだ。命知らずだ。
心配する二人にレイはニヤリと笑うとこう続けた。
「大丈夫・・・シンジのせいにすればいいもの・・・」
「そうだな、反対する理由はない。やりたまえ」
いつものように壁の穴からいきなり這いずりだしてきたゲンドウが何か言っているがそんなことに構う様子もなく一階へと降りていった。
*
ケーキ屋さんからリツコさんが、回覧板をお向かいのマンションに届け帰ってきた。
「やっぱりああいうマンションはいいわね・・・向こうに部屋借りようかしら・・・」
戻ってきて改めて自分の住む『ねるふ館』を眺めるととても悲しい気分になってしまう。
不良住人共の巣と化した老朽化著しいこのアパートを眺めつい溜息の一つもつきたくなると言うものだ。
リツコさんの目の前に買い物袋をぶら下げ坂を上ってくるシンジが映った。
「おかえりなさい。それ夕飯のおかず?」
「あ、そうです。明日のお弁当のおかずとか・・・もうみんな帰ってると思ってお菓子も・・・」
「あんな連中の分も?・・・シンジ君、ちゃんとお金貰ってるの?」
そう問われるとシンジは伏せ目がちに暗い笑いを浮かべる。
「ふっ・・・いいんです。僕なんか・・・でも料理を作るとみんな喜んでくれるんだ!」
その余りにも暗く、悲しく、そして鬱陶しい言い様にリツコさんは頭痛がするようだ。
「まあ、いいわ。それよりケーキでも一緒に食べましょ。コーヒーでもいれて」
優しい微笑みを浮かべシンジをお茶に誘う。唯一の味方であるリツコさんのお誘いである。
勿論シンジに断る理由など無かった。
「はい、有り難うございます。久しぶりだなあ、ケーキなんて・・・・」
本当に懐かしそうな顔をするシンジは思わず涙を誘った。
*
「さて・・ケーキを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!」
そこにあったのは空になった『ケーキのサンポール』と書かれた箱だけが虚しく置かれていた。
「どうしたんですか?」
「・・・・・・違うわね。シンジ君じゃないとすると・・・・・・彼奴らね・・・・」
そう、レイの目論見は見事に外れた。シンジはリツコさんと共に帰ってきたのだ。
ちょうどそこに一号室から出てきた四人と顔が合った。
「あ、おかえんなさい。何処へ行ってたの?」
白々しくミサトが問いかける。
「回覧板を届けに・・・・それより此処に置いてあったケーキ知らない?」
一応聞いてみただけだったが・・・
「しらないわーどっか歩いていったんじゃなーい?」
「あんたバカア。知るわけ無いじゃない」
「・・・バーサンは疑り深いのね・・・」
「予定外のことも起こる・・・婆さんにはいい薬だ・・・」
シンジのせいにする・・・その事が不可能になった今、適当な理由で言い訳するしかなかったのだが、これは言い訳ではなく喧嘩を売っているようなものだ。
「そう・・・・・・そうね、ご免なさいね。変なこと聞いて・・・・」
口の周りにケーキの生クリームをべったりと付けた四人は、その言葉をきっかけに二階へと上がっていった。
「食べてないの・・・そう・・・・フフフフフフフフフフフフフッ・・・・シンジ君、いらっしゃい。ケーキよりいい物あげるわ」
この時点でシンジが逃げ出せばこれから起きる悲劇はなかったであろう。
だがシンジは逃げなかった・・・・いや、逃げられなかった。
蛇に睨まれた蛙のように。
*
気象庁の予想も虚しく日の暮れかかった空に黒々と雲が広がっていく。
腹の底に響くような音と共に稲妻が激しく光る。
「芹沢博士の送ってきたこの『G・E細胞』で・・・・さあ、シンジ君!!目覚めなさい!!!!」
ゴロゴロ!!ビカッ!!
お約束通りに雷光がリツコさんの顔を浮かび上がらせる。
そこには凄まじいまでに極悪な微笑みが浮かんでいた・・・・。
*
PM6:37 五号室シンジの部屋
「何か下が騒がしいわね・・・・」
「かまわん、それよりシンジはどうした。夕飯がまだだぞ」
「・・・煩いわね・・・ゲンドウが呼びに行けば・・・」
そろそろ夕飯の時刻なのでこの部屋に集まった四人だったが一向にシンジが部屋に来る気配がない。ただ何やら一階の方で『ガサゴソ』と何かが這いずり回る音が聞こえた。
「何よ一体!!うるさいわねー」
アスカが階段の所まで音の原因を探るべく向かった。
「何やってるのよ一体・・・・・・・・・いやあああああああああああああああああ!!」
彼女の悲鳴を聞き残りの三人も部屋から出てきた。そして階段に向かうとあすかの見た光景を彼らも見たのだった。
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
そこにはシンジが居た。
いや、シンジの顔を持った蜘蛛もしくはカブトガニ・・・胴体を殻に覆われシンジの顔を浮かび上がらせ、そして長い尻尾を持ち八本の細い足が『シャワシャワ』と蠢いている。
それが一匹や二匹ではない。無数にザワザワ蠢いているのだ。
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
ミサトの全身が鳥肌で覆われる。髪の毛も幾分逆立っていた。
「たたたたたたたたたたたたた退却よおおおおおおおおおおおお」
どたばたと四人は五号室に逃げ込んでいった。
「リツコ、出てきなさいよ!!あんたの仕業でしょ!!リツコ!!!」
「ハーイ、呼んだ?」
リツコさんが窓の外から答えた。
「・・・あんたねえ・・どっから顔出してんのよ・・・全く何よあれ!!」
ラミエルにまたがり二階の窓の外で浮かんでいる白衣を着込んだリツコさんにミサトは思いっきり脱力してしまう。
「何ってシンジ君よあれ。ちょっと手を加えたけど」
「どういうつもりよ!!」
「あんた達を懲らしめるため。シンジ君にたかるわ、あたしのケーキまで食べるわ・・・やりたい放題の神をも恐れぬ悪行の数々、月に代わっておっしおきよ!!」
ビシッとミサト達を指さした。
さすがリツコさん、言うことが古い!!
「と言うわけでしばらくシンジ君と遊んでなさーい。じゃあね、バハハーイ」
ラミエルがウオオオオンと独特の音をさせながらリツコさんを乗せ夜空へ飛び去っていった。
「待ちなさいよ!!・・・ちっ、あたしたちだけでやるしかないようね・・・とにかくあたしの部屋で武装しましょ」
アスカ、レイ、ゲンドウはとにかくミサトの言う事に従った。
戦うしかないのだ。
リツコさんとラミエルは夜空の散歩を楽しんでいた。
「え、やりすぎだって?・・・大丈夫よ、そう簡単にくたばるもんですか。あの連中が」
ラミエルの問いかけにリツコさんはケタケタ笑った。
「それに折を見てあたしも顔出すし。問題ないって奴ね」
ラミエルはそれ以上何も問うまいと思ったのか黙ったまま空を飛んだ。
月明かりにリツコさんが白衣をはためかせラミエルに乗り夜空を飛ぶ。
「まあ、しっかりやんなさいねー。ふぉーほほほほほ!!」
*
「一つ!!二つ!!三つ!!ちっ、キリがない!!」
「こっちも!!」
「・・・まだ居るわ」
ねるふ館内部ではシンジ・ハガーとミサトを先頭とした四人との激しい戦いが行われていた。
ミサトの用意したポジトロンライフルを始めパレットガン、ハンドガン、グレネードランチャーが猛然と火を噴きシンジ・ハガー達に襲いかかった。
だが、一匹一匹は弱くとも数が半端ではない。徐々に追いつめられ最前線は徐々に後退し、
ついに六号室の前まで来てしまった。
「くっ、数が多すぎる。アスカそっちは!!」
「駄目よ!!もうすぐ弾切れよ!!」
「もう駄目ね・・・何も残ってないもの」
「ちょっちまずいわね、仕方ない、六号室で籠城よ!!」
そう決定すると手持ちの弾をすべて撃ち尽くし六号室のミサトの部屋へと逃げ込んだ。
「レイ、ドグマに降りて槍を使え」
そこには顔の前で手を組み、何やら呟いているゲンドウが居た。
「・・・あんたなあ、何そんなとこでやってんのよ!!ぼけ親父!!」
ミサトに思いっきり頭をはたかれるゲンドウ。
「仕方有るまい。ワシは肉体労働には向かんのだよ」
「・・・・本当の役立たずね・・・・くず」
言いたい放題だ。
ガシッガシッ・・・空けてよ・・・僕だよ・・・・シンジだよ・・・・空けてよ・・・・
ドアの向こうから暗い響きの声が無数に聞こえてくる。
「ひいいい、なななんとかしてよ!!いやあああああ!!」
アスカは頭を抱えうずくまってしまった。
「もう・・・・これまでか!!」
ミサトも観念した瞬間・・・
「ハーイ、お元気ー?・・・あらまだ生きてたの。やっぱりしぶといわねー」
リツコさんがラミエルにまたがり再び顔を出した。
セ○ン・イレ○ンのおむすびとおでんを手にしている。四月も夜はまだ寒い。
「リツコ・・・お願い、何とかして・・・・」
手を合わせるミサト・・・情けない。
「ねえ、もう許して・・・お願い・・・」
ひたすら泣き続けるアスカ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・ご免なさい」
赤い瞳で訴えるレイ。
「リツコ・・・もう一度やり直そう・・・ああ、初号機とは手を切る・・・」
外道なゲンドウ。
無論彼らの頭の中にはこの場さえしのげれば後で復讐の機会は幾らでもある・・・そんな思いが渦巻いておりその言葉通りに取る訳にはいきそうもない。
だがリツコさんは彼らのそんな様子におおよその満足を得たのか彼らを許すことにしたようだった。
「まあ、いいでしょう。サキエル、ドアしばらく押さえてなさい」
そう言うとリツコさんの背中にしがみついていたサキエルがドアを押さえた。これでシンジ・ハガーは入ってこれないだろう。
四人はほっと一息つくと先ずミサトが質問を始めた。
「ねえ、あれ何なの・・・シンちゃんどうしちゃったのよ」
「今日ね、昔の知り合いの芹沢博士から『G・E細胞』送ってきたの。それをシンジ君に移植したのよ。そしたらああなった訳」
「何よ、その『G・E細胞』ってのは」
アスカの問いかけにリツコさんは遠い目をした。
「あれは昭和29年、芹沢博士のおじいさんが東京湾に上陸した『ゴ○ラ』の細胞を取って置いて息子さんに渡したの。で、その息子さんがNASAにあった『エイリ○ン』の細胞と融合させて・・・・あたしが南極で拾った奴と掛け合わせたのよ」
「何それ・・・・なんていい加減なの!!」
ミサトは相当に呆れたらしい。三種類の得体の知れない細胞を混ぜた上、シンジもそれに加えたのだ。
「で、何か解決策は有るんでしょうね・・・・」
アスカが睨む。
「ええ、『エ○リアン』の細胞も混ざってるからたぶんシンジ君本体は、屋上に巣を作っているわね。だからその本体を叩かないと後から後からあれがわき出すわよ。ついでに言えば南極で拾ったのも混ざってるからATフィールドも張るし『G細胞』も混ざってるから放射能も吐くわね」
最強じゃないかリツコさん・・・・・。
「何か手はあるのか・・・赤木博士」
「ええ、これを使うの。チャララッチャチャーーーン『ロン毛ヌスの槍』!!」
リツコさんは白衣の下から長い槍を取り出した。そしてレイにそれを手渡す。
「いい、それはとても強力。刺さった瞬間に『オ○シジェン・デ○トロイヤー』を吹き出すから良く効くわよ」
レイは手渡された槍をじっと見つめた。二股に分かれたところから長い毛が生えている。
「・・・・青葉製作所?・・・」
「ええ、ケダモノの槍の姉妹品」
「何でもいいわ、とにかくシンちゃんの殲滅が先よ!!いいわね、全員武装チェックして!!」
ミサトの号令のもと、僅かに弾の残った武器類をチェックした。
「ミサト、OKよ!」
「問題ないわ・・・」
「止める理由はない、行きたまえ」
「バカ!あんたもくんのよ!!」
そんなこんなでシンジ殲滅部隊は時計室のある屋上へと上っていったのだった。
*
「暗いわね」
「待って今ライトつけるから・・・」
意外と広い天井裏が照らし出された。そしてリツコさんが手にした動体レーダーでシンジの居場所を探る。
「・・・この先ね、そう・・・真っ直ぐ行った突き当たりよ」
一行はゆっくりと進んだ。
「・・・・ちょっと待って、まずいわよ。この大きさ・・・兵隊シンジね、待ち伏せしてるわ」
リツコさんの手にしたレーダーには数匹分の影を映しだした。
「弾も残り少ないし・・・誰か囮にしましょう」
囮の基準は・・・有る程度目立ち、普段役に立たず、居なくなっても何ら損害にならない者・・・
ゲンドウは気がつくとすっかり縛り上げられていた。
「・・・・何のつもりだ?・・・・」
「と言うわけで囮決定ね。レイ、それを放り出しちゃって・・・・そっちの方でいいわよー」
ミサトの指示通りゲンドウを兵隊シンジの前に放り投げた。
「レイ、お前はこの為にいたわけではないぞ!!・・・レイ・・・ギャアアアアアアアア!」
放り出されたゲンドウに5〜6匹の兵隊シンジがたかってくる。
・・・なにか言ってよ父さん!!・・・僕を裏切ったな、僕を裏切ったな、僕を裏切ったな・・・
「なんて恐ろしい・・・」
「ああ、鬱陶しそう・・・」
「前世であの二人何かあったんじゃない?根が深そうよ・・・」
口々に言いながら尊い犠牲を無駄にしないように、前へと進んでいった。
・・・・・
「まって、また何か居るわ。・・・・違うわさっきのとは・・・そっちよ・・・」
リツコの指さした方向にライトを向けるとちょっとした仕切があった。
「シンジ君はその向こうね・・・・行きましょ」
仕切をくぐりライトで照らすとそこには床と壁一面に無数の卵がびっしりと産み付けられていた。
「!!」
「やあねえ」
「何よこれ!!バッカみたい!!」
「・・・卵焼き・・・」
鶏の卵とあまり見た目は変わらない様子だった。
そう、見た目だけ・・・・
その内の一個が割れ、中からシンジ・ハガーが孵ったのだ。
「あらやだ、もう孵化し始めてるわね。なんて物作っちゃったのかしら。・・・まあいいわ、あんた達お願いね。ほほほっ」
そう言うとリツコさんはミサトとアスカを仕切の中に閉じこめてしまった。
幾ら何でもあれだけの数が孵ったらひとたまりもない。此処は一つミサトとアスカに『貴い犠牲』になって貰うしかない。
「ちょっと!!冗談じゃないわよ!!リツコ!ちょっとリツコ!!!」
「開けろって言ってんでしょ、ババア!!聞こえてんでしょ!!開けなさいよ!!この年増!!」
リツコさんは黙って鍵を二重に掛けた。
二人とも虫とかこういう訳の分からないものは苦手であった。全身が硬直し声も出ない。
だがお構いなしに卵は次々と孵っていく・・・・・・。
「ひ、どんどん孵ってる・・・・」
「いや、いやよ・・・・・・・」
一斉に孵化したシンジ・ハガーはザワザワと足音をさせ這いずりながら近づいてきた。
泣き叫ぶ二人に次々とシンジ・ハガーがよじ登っていく。
彼女達の手や足に八本の細い足が『シャワシャワシャワ』と不快な感触を与えながら上っていく・・・・・。
やがてそれらは袖口やズボンの裾から入り込んでくるのだ!!
それも無数に・・・・
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
気を失いかける二人にそれは話しかけた。
・・・優しくしてよ・・・僕を大事にしてよ・・・がんばってるんだよ・・・大事にしてよ・・・大事にしてよ・・・大事にしてよ・・・大事にしてよ・・大事にしてよ・・・・大事にしてよ・・・
これは鬱陶しい・・・・。
二人とも目つきが怪しくなっていた・・・・・。
*
リツコとレイが見たのは手足を長く伸ばし壁に張り付いているシンジ本体だった。
「彼・・・参号機?」
「そうね。南極で拾ったのに変なの混ざってたかしらね」
シンジは首を360度回しながら進入してきた二人を眺める。
「ケーーーーケケケケケケケケケケッケ」
シンジの笑い声が響く。まさしく顔だけはシンジだ。
「さてと大人しく槍に刺さりそうにないわね・・・・にやり」
リツコさんはレイを見て僅かに微笑んだ。
「行ってらっしゃーい」
思いっきり突き飛ばされたレイはシンジの前に飛び出してしまった。
シンジの両腕がニュウイイイイイイインと伸びレイを拘束すると自分の方に引き寄せてしまう。
「それ、シンジ君にあげるわ。好きにしていいわよ、一つでも二つでも三つでも好きにしなさい」
レイの顔が蒼白なのは元から・・・・ではなかった。
「・・・・・・・・・・・強気なのね」
はっきり言ってそれどころではないのだが・・・・
「ケケケケケケーーーーーケケケケッ」
シンジが嬉しそう?に笑い声をあげレイをなめ回すように見つめている。
「さすが男の子ね。がっついてること・・・っと、何時までも見てる訳には行かないか」
そう言うとリツコさんはケダモノの槍の姉妹品、『ロン毛ヌスの槍』を構え狙いを定めた。
「さて・・・此処で決め台詞っと。何の迷いでこの世に現れたかは知らないがゴーストスイーパー赤木リツコが極楽へ行かせてあげるわ!!」
違う・・・何か違う、第一、リツコさんがシンジをこうした筈なんだが・・・・。
「あーらよっと!」
とにかくリツコさんは槍をシンジに突き刺した。
何の躊躇いもなくひと思いにプスッと刺したのだった。
「ケーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
シンジの悲しげな絶叫と共にオキシ○ェン・○ストロイヤーが吹き出す。そしてシンジは泡に包まれていった・・・・・。
「・・・・あんた人間じゃないわ・・・・」
「あたしは科学者よ・・・・」
*
電線に止まった雀達の囁きにシンジは淡い夢の国から極彩色の現実へと呼び戻された。
「・・・・・ふぁあああああ、よっく寝たなあ」
何故か体のあちこちが痛かった。おまけにとても怠い。
だが何時までも朝の気怠さを楽しむ時間的な余裕は彼にはない。いずれこの部屋に来る食費も払わない厚かましい四人組のために朝食を作らなければならないのだ。
「さて・・・・?」
「・・・おはよう・・・」
ドアの所にレイが何か籠を持って立っていた。
「あ、おはよう、少し待ってて今ご飯作るから」
「・・・これ、使って・・・買ってきたの」
レイの手渡した籠には大量の卵が入っている。
「あ、ありがと・・・・・・・」
いつもと違う様子のレイにシンジは戸惑いを隠せない。普段ならグズだの役立たずだの言いたい放題なのだが今日は妙にしおらしい。
やがてシンジの部屋で卵の焼ける音が聞こえ始めた。
「シンちゃんおっはよー。今日のおかずなーに!!」
「バカシンジ!!さっさとご飯にしなさいよ!遅刻したらあんたのせいだからね!!」
ミサトとアスカがテーブルに目を向けるとそこには湯気を立てた目玉焼きとゆで卵が人数分置かれてある。
「卵・・・・・・・・・・ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「卵・・・嫌・・・・・・嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!」
ミサトは全身を鳥肌で覆われるのを自覚した。
アスカは心が壊れるのを感じた。
「シンちゃん・・・ご免なさい!!ご免なさい!!食費渡すから!!ご免なさい!!!」
「バカバカ・・・・食費払うわよ!!ヒックヒック・・・・ウワアアアアアアン!!」
二人とも泣き叫びながら五号室を飛び出していく。
「?・・・・どうしたんだろ・・・卵嫌いだったかな?」
その頃のゲンドウ
「くううユイ、シンジが苛めるよおお、シンジがワシのこと苛めるよ・・・エーンエーン!!非道いよ・・・ユイ・・・みんな非道いんだ・・・ワシのこと優しくしてくれないんだよ・・・・」
彼の心は厚い厚い殻の中に閉じこもってしまっていた。
五号室のレイはそんな前割りの様子に構うことなく、ただ黙々と目玉焼きを口に運んでいった。
「シンジ君の卵・・・・・フフフッ・・・・・・・・・・・・・・・・・美味しい」
ミサト「ハードね・・・・・ひたすらハードだわ・・・・」
アスカ「・・・・・・・・あんた何見てんのよ・・・・」
レイ 「美味しいわ・・・・あの卵」
ミサト「ダアアアア!!その話はやめい!!」
アスカ「それにしても何これ!!ゴッタ煮じゃない!!」
レイ 「そうね・・・・今時セー○ーム○ンでもないわ」
リツコ「古いのよ、作者は。何たってゴ○ラだもの」
ミサト「フェイス・ハガーなんて一体何人覚えているやら・・・・」
リツコ「エ○リアン1に出てた奴ね。顔に張り付いた・・・・」
アスカ「それに何よ!あのケダモノの槍ってのは!!ロン毛ヌスの槍ですって?」
リツコ「要するに『うしお○とら』から持ってきたのねきっと。安易だわ!!」
シンジ「あの・・・・そろそろ挨拶・・・しませんか?」
アスカ「何よ!!随分えらそうじゃない!!あんた」
シンジ「そんなあ・・・僕のせいじゃないよ・・・あれはリツコさんが・・・」
リツコ「何シンジ君?言いたい事何かあるの?」
シンジ「いえ・・・あの・・・その・・・もごもご・・・・」
ミサト「さあ、どうでもいいけどご挨拶ご挨拶!!」
シンジ、アスカ、レイ、ミサト、リツコ
「エー、今回も出品しました『めぞんねるふ!!!!愛と悲しみの目玉焼きの巻き』如何だったでしょうか?ほんの僅かでも皆様のお目に止まり、一文字でも読んで頂けたら幸いで御座います。これからも恐らく下らない物を書くとは思いますがどうか作者をお見捨て無きようよろしくお願い申しあげます」
リツコ「じゃあ、行くわよ」
シンジ、アスカ、レイ、ミサト、リツコ
「お読み下さった皆様、有り難うございました!!」
ミサト「次!!せーの・・・」
作者「お読み下さり感謝の言葉も御座いません。これからも多数の方々のご訪問をお待ちいたします。では読者の方々、大家さん、住人の皆様の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます」
ディオネア m(__)m
ディオネアさんから30000HIT記念小説が届きました!
『めぞんねるふ!!!!』愛と悲しみの目玉焼きの巻き、公開です!!!
相変わらずネルフ館のシンジは悲惨ですね、不幸てんこ盛り(^^;
今回はたかられるだけじゃのく、化け物にされてしまうとは・・・・
マッドリツコの本領発揮ですね。G細胞・・・うぷぷ(^^)/
もうここまで不幸だと笑えない・・・・そんなことはないですね!
大笑いしましたよ。
さあ、訪問者の皆さん!
いつもHIT記念小説を送ってくれるディオネアさんに感想メールを!!
空飛ぶリツコさんがラブリー・・・じゃない。(^^)